黒猫の額:ペットロス日記

狭い場所から見える景色をダラダラと。大河ドラマが好き。

【光る君へ】#32 まひろは「物語の泉」が脳内に湧き、道長は嫡妻倫子様に嘘をついた

書いて出さないと落ち着かない

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第32回「誰がために書く」が8/25に放送された。「誰がために」とくれば「鐘が鳴る」と反応する世代なので、一瞬、何かヘミングウェイと関連するものでもあったかと無駄に思ってしまった。大作家誕生ってことか?さて、公式サイトからあらすじを引用する。

(32)誰がために書く

初回放送日:2024年8月25日

道長(柄本佑)の思惑通り、一条天皇(塩野瑛久)はまひろ(吉高由里子)が書いた物語に興味を示す。そこで道長は、まひろに道長の娘・彰子(見上愛)が暮らす藤壺へあがり、女房として働きながら執筆することを提案。狙いは、一条天皇が物語の続きを読むため、藤壺へ来ることを増やし、彰子との仲を深めるきっかけにすることだ。まひろは道長の提案に戸惑うが、父・為時(岸谷五朗)に背中を押され…。((32)誰がために書く - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK)

 前回終わり、一条帝はまひろの書いた物語を読み始めたかと思いきや、本を閉じた。その後、読んでいなかったらしい。

 尋ねたら、あ、忘れてたわ~的に軽く帝に返された道長はガッカリ。まひろに「帝のお気に召さなかった」と正直に伝えに来た。まひろはそう聞いて「力及ばず申し訳ございませぬ」と答えたものの落胆はしないと言い、意に介さないところを見せた。

まひろ:帝にお読みいただくために書き始めたものにございますが、もはやそれはどうでもよくなりましたので、落胆はいたしませぬ。今は、書きたいものを書こうと思っております。その心を掻き立ててくださった道長様には、深く感謝いたしております。

 「それが、お前がお前であるための道か?」と道長は聞いて微笑んだ。その道を見つけたいと、まひろは若き日に、道長の妾になるのを断ったのだったよね。

 つまり、「誰がために書く➡まひろ自身のため」ということで。帝でも、道長のためでもない。ドラマとはいえ、まひろの道長への思い、「好き」を一方的に搾取する形にならなくて良かったな。大作家先生に、そんな心配要らないか。

 まひろはそして、道長がリラックスして物語を読むそばで、自分の脳内に湧き始めた物語をせっせと書くことに注力していた。ふたりの姿は、カップルとしてとても自然だった。とても倫子様や呪詛の明子には見せられない。道長は、2人の正式な妻の下ではリラックスできなくなっていたのにね・・・。

 大作家まひろ先生としては、湧き出てくる物語を止めるのは自分でももう難しいだろう。いとは「良いお仕事になると思ったのに」とブツブツ言っていたが、この類は金になる・ならないの問題じゃない。湧き出ちゃうのだものね。書いて出さないと、パンパンになって気持ち悪くなるだろう。

 私も、売れない本を頼まれて書いたことがある(既に絶版)。多少、ひと様のお為になったようで良い経験になったが、私のような者でさえ、最初のアイデアが頭にドンと落ちてきてからは、それを原稿の形で書いてしまうまでの数か月間は、持て余して落ち着かなかった。

 まひろの頭の中にポカーンと開いてしまった「物語の泉」の巨大さは、千年に一人の規模なんじゃないか。想像すると、一旦物語が湧いてしまったら、頭の中に持っていられなくて押しつぶされそうだ。せっせと書いて頭から出してしまわないといけない。

 彼女の人物像を造形した人気脚本家である大石静も、きっと物語が湧いてくる大きな泉を頭の中にお持ちなんだろうな。羨ましいことだ。

まひろが書く物語:源氏の君は、お上が常にお側にお召しなさるので、心安く里住まいもできません。心の中では、ただ藤壺のお姿を類なきものとお思い申し上げ、このような人こそ妻にしたい。この人に似ている人など・・・。

 「桐壺」の章を集中して書くまひろに、道長は「俺が惚れたのはこういう女だったのか」と驚きを隠せないようだったが、ホントにね。道長も、とんでもなく運が良かった。さすが持ってる人だ。

 (ところで、NHK+で見たところ字幕が「類なきものなし」となっていた。はて?と思ったがやはりそれじゃ変、「なし」は要らないよね。消し忘れたかな。)

 そうそう、道長だからこそ彼女の「やる気スイッチ」を押せたのだろうけれど、物書きとしてのまひろについて情報をもたらした才能あふれる公任、妻の敏子さん(夫婦ともども見る目がある)には、道長は格別のお礼をすべきなんじゃないか。 

まひろとの過去はなかったことに?

 一条帝が、思惑通りまひろが書く物語の続きを所望したので、道長はまひろを中宮彰子の女房へとスカウトした。だが、まひろは「続きをお読みくださいますなら、この家で書いてお渡しいたします」と断った。

 が、道長は「それではダメなのだ。帝は博学なおまえにも興味をお持ちだ。中宮様のお側にいてもらえれば、帝がお前を目当てに藤壺にお渡りになるやもしれぬ」と、おとり作戦の本音を漏らした。

 まひろは、「おとり」になれと言われて「まっ」と顔をそむけたが、余裕なく必死な道長はそれに構わず、娘の賢子も女童として召し抱えるから考えてみてくれと言い、慌ただしく去った。

 そして道長は、嫡妻倫子様にとうとう嘘をついたよね。なぜ、まひろを知っているのかと問われてのことだ。予告でその問いを聞いて、震えあがった人は多いだろう。私もだ。

倫子:まひろさん?殿がなぜ、まひろさんをご存知なのですか?

道長:公任に聞いたのだ。面白い物語を書くおなごがおると。

倫子:へえ~・・・。

道長:帝は、そのおなごが書いた物をお気に召し、続きをご所望だ。

倫子:まあ(道長の方を向く)。

道長:藤壺にそのおなごを置いて先を書かせれば、帝も藤壺にお渡りになるやもしれぬ。

倫子:(身を乗り出して)名案ですわ、殿!さすが!

道長:そうか。倫子が良いなら、そういたそう。(倫子は喜び、道長に酒を注ぐ)これが最後の賭けだ。

倫子:はい。まひろさんのことは昔から存じておりますし、私もうれしゅうございます。(笑顔)

道長:うむ。

 これで道長は引き返せなくなった。今まで、まひろについては倫子様に「言わなかっただけ」で嘘はついていなかった。しかし、もうアウト。まひろとの仲については、倫子様の前では無かった事にするつもりなのだね。倫子様の笑顔は見たかったけれど、半ば騙された形では悲しいなあ・・・。

 しかし、じゃあ道長はどう言えば良かったのか。「うん、幼い頃からの知り合いなのだ」とでも?しかし、ただの知り合いじゃない、初恋相手だもの。道長はまだ知らないようだが、娘賢子まで儲けた仲なんだもの。

 結局、おとり作戦を遂行するには今、倫子様に真実を打ち明けられるはずもない。言ってしまえば話は壊れる。嘘をつくしかないのは理解できる。

 例の文箱の中のまひろからの漢詩、まだ取ってあったりするのかな・・・もし処分していても(道長がそうすると思えないが)、名探偵倫子様はしっかりと筆跡を記憶していそうだ。

 (これについては、「代筆したと抗弁すれば良い」との案をSNSで見た。なるほど・・・悪知恵が働くなあ、皆さん。)

 それに、倫子様は「私でも高松殿でもない、誰かがいる」と殿の第三の女の存在にも感付いていたが、彰子が入内しても放置される胸を痛める展開になって以来、それどころじゃなさそうだった。でも、一旦火が点けば、第三の女探しを徹底して始めるかも・・・。

 倫子様は、今のところ知らぬが仏。中宮彰子にご挨拶に上がって道長と目が合い、戸惑うまひろに、例の慈愛の笑顔を向けていた。娘の窮地を救ってくれる存在だと感謝しているんだね、きっと。ん~倫子様ファンとしては、何とも気の毒でたまらない。

 赤染衛門も何も知らずに「あんなに素晴らしい婿君と巡り会えた土御門の御方様は類まれなるご運の持ち主。羨ましゅうございます」と言い、まひろも「まことに」と応じたが、赤染衛門の夫のようにあちこちで子を作って呆れられている方が、最初から妻のショックは少なかろう。倫子様が後に味わうことになるかもしれない裏切りのショックは、殊の外大きそうだ。

 ああ、倫子様がまひろと道長のふたりの仲の真相を知るのはいつなのか。引っ張れば引っ張るほどコワイ。道長の寿命を十年奪うと安倍晴明が言ったのはこういうこと?光のまひろを出仕させれば、まひろと倫子様の直接衝突を見ることになりそうだと、鈍い道長だって分かるよね?こちらの寿命も多少奪われそうなんだけど。

 

道長のメンター・安倍晴明の死

 その晴明が命を終えた。中の人ユースケ・サンタマリアがNHKの「土スタ」に前日ご出演だったし、雨乞いのあとの衰えぶりから見ても、死は避けられないだろうと視聴者全員、予感はあったと思う。

 思えば、初々しい頃の道長から、長きに渡って見守ってきたのだ。彼には、このドラマでのホワイト道長の白い部分が、昔から見えていたという事だ。今作では少しひねたキャラの晴明なのかと思いもしたが、実は志を道長に投影して導いてきたようだった。

 死に瀕して、晴明は、馬を駆ってやってくる道長を待っていた。

安倍晴明:(褥に横たわっている。御簾の外では従者の須麻流が祈祷を上げている)お顔を拝見してから死のうと思い、お待ちしておりました。

道長:何を申しておる。思いの外、健やかそうではないか。(枕元に座る)

晴明:私は今宵、死にまする。ようやく光を手に入れられましたな。これで中宮様も盤石でございます。いずれあなた様の家からは、帝も皇后も関白も出られましょう。

道長:それほどまでに話さずとも良い。

晴明:お父上が成し得なかったことを、あなた様は成し遂げられます。

道長:幾たびも言うたが、父の真似をする気はない。

晴明:ただ一つ、光が強ければ闇も濃くなります。そのことだけはお忘れなく。

道長:(うんうん頷いて)わかった。

晴明:呪詛も祈祷も、人の心の在りようなのでございますよ。私が何もせずとも、人の心が勝手に震えるのでございます。(道長を見る)何も恐れることはありませぬ。思いのままにおやりなさいませ。(目を閉じる。合唱した須麻流の肩が震える。)

道長:(晴明に向き直る)長い間、世話になった。(深々と頭を下げる)

 この後、道長も去って暗くなった部屋で横たわったままの晴明は、目を開けたが、それはこの世を去った瞬間だったようだ。三日月と満天の星が輝く中、彼の瞳には流れ星でも映ったか。星は、彼の五芒星を連想させるね。

 その時には須麻流の祈祷も聞こえないし、彼は合掌したまま項垂れて動かない。寝てしまった訳ではあるまい。須麻流もまた、晴明と共に旅だったのかも。晴明が命を吹き込んだ、式神だったからだろうか。

 この世のものとも思えぬ力を持った人物として描かれた晴明。その彼に「光」としてまひろを手に入れるよう言われたのだし、これで彰子も盤石だとか、何も恐れることはない、思いのままにやれと言われたのだ。伊周が多少何かを画策してもへっちゃら、道長も心から安心できたのでは・・・倫子様VS.まひろの件も、つまりは良い着地をするのだろうか。・・・どんな?

 晴明の予言「あなた様の家からは、帝も皇后も関白も出られましょう」を聞いた時、道長は喜んだりもしなかった。なんて平静、確かにパパ兼家と違うね。晴明には何度も告げられてきたのだろうか?

 子どもの将来については、源氏物語で光源氏が似たようなことを占いで言われていたのを思い出した。「3人の子をなし、ひとりは帝、ひとりは中宮、真ん中の劣った者も太政大臣となる」と。冷泉帝、明石中宮、夕霧のことだ。ドラマでまひろが源氏物語を書き始めたことだし、また読み返したい。

女に生まれて良かった

 今回のドラマで、一番心が揺さぶられたのが、中宮の女房として出仕するまひろに対する為時パパの「贈る言葉」だった。

まひろ:(雪の降る年の瀬、家族を前に)では、行って参ります。

為時:うむ。帝にお認めいただき中宮様にお仕えするお前は、我が家の誇りである。

惟規:大袈裟ですねえ。俺、内記にいるから遊びに来なよ。

まひろ:中務省まで行ったりしてもいいのかしら?

惟規:待ってるよ。

まひろ:父上、賢子をよろしくお願いいたします。(いとに)頼みましたよ。

いと:お任せくださいませ!(賢子を抱き寄せる。まひろ、賢子を見るが賢子は目を逸らす)

為時:身の才のありったけを尽くして素晴らしい物語を書き、帝と中宮様のお役に立てるよう祈っておる。

惟規:大袈裟だな・・・。

まひろ:精一杯務めてまいります。

為時:お前が・・・おなごであって良かった。(涙を堪え、ほほ笑む。家族も、まひろも目を潤ませる)

 散々、優秀なまひろに「男であれば」と言い続けてきた為時パパ。まひろ自身も悩みの種だった。それが下敷きにあるからこそ、「おなごであって良かった」が生きた。

 そうだよ、中宮様の女房になるんだもの、女じゃないと成れないものね。しかも物書きとしての優秀さ、博識ぶりが帝のお目に留まったからであり、女でも見た目じゃなく中身で勝負して花開いたのだ。感慨深いよね。

 しかし、娘の賢子とはギクシャクしたまま。目を逸らすなんて・・・賢子。為時パパは、まひろを誇りとする娘に育てると約束してくれたけれども、前途多難か。

 為時パパが感動の別れの言葉を言うたびに、惟規が「大袈裟」だと繰り返して言っていたのは、次回で内裏からすぐに帰ってきちゃう伏線かな?(ネタバレ失礼)

 しかし、宮の宣旨を始め、あれだけズラリと並ばれると女房達の迫力たるや・・・どう頑張って泳ごうが圧倒されて水底に引きずり込まれそうだけれど、まひろ、健闘を祈るよ。内裏での生活も楽しみだ。

どこに出仕するの

 そういえば内裏は火事で焼けちゃったから(彰子の恋物語、ベタだけどかわいかったねえ)、今、一条帝はどこにおわします?まひろが上がることになる場所は何処?気になったので『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著)をチェックした。

 史実では、紫式部が何年に出仕したのかは不明、日付だけ12/29だと判明しているとか。内裏が焼けて彰子がキュンとなっていたのが寛弘二年(1005年)11/15で、その年か、翌年には出仕したと考えられるらしい。ドラマでは1005年説を採用したんだね、時代考証担当の先生は翌年説だけど。

 となると、ドラマ的には火災後の慌ただしい頃の出仕とすれば、道長の焦りも浮き彫りになるというものだ。

 整理すると、紫式部出仕の場所は、焼けてしまった平安宮内裏でなく、11/27に帝と彰子が遷御した東三条第内裏ということになる。翌年の3/4には道長の一条院へと帝と彰子はまた遷御するというから、仕える彰子とセットでどんどん道長に近づいていくまひろを想像してしまう。

 倫子様の目の届くところでも、まひろ道長の恋は続くのだろうか?うーむ。

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#31 天からまひろへと降り注ぎ始めた「源氏物語」、モデルの皆様の反発は心配なれど、あとは書くだけ

丁寧に描かれた「源氏」誕生ストーリー

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第31回「月の下で」は8/18に放送された。道長がまひろを訪ねてきたところで再度の1週飛ばし・・・待ってました。さっそくあらすじを公式サイトから引用する。

(31)月の下で

初回放送日:2024年8月18日

ある日突然、道長(柄本佑)がまひろ(吉高由里子)を訪ねてくる。道長はまひろに、一条天皇(塩野瑛久)に入内するも、相手にされず寂しく暮らす娘・彰子(見上愛)を慰めるために物語を書いてほしいと頼み込む。しかし、真の目的は…。一方、宮中では年下の斉信(金田哲)に出世で先をこされた公任(町田啓太)が参内しなくなってしまった。事態を案じた斉信が公任の屋敷を訪ねてみると、思いがけない人物と遭遇する。((31)月の下で - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 ドラマは、なぜ「カササギ語り」を賢子の手で残らず燃やしてしまったか。読みたかったのに~!と道長同様こちらも勿体ない思いがしたが、紫式部が書いてない物を残せないもんね、仕方なかった。

 そして、道長の懇願によって、まひろが「中宮様の御為」に書いたのがいわゆる帚木三帖(帚木三帖 - Wikipedia)という設定なのだろうか。それとも、全く違う物語?

 いずれにしても、その後、源氏物語をまひろが書き始めるまでのプロセスが今回は丁寧に描かれた。それが、たぶん脚本家大石静ご自身の物語を書く手法にも通じていただろうかと想像すると、とても興味深かった。

①まひろ、道長から中宮様のために物語を頼まれる

 まず、道長がこっそりまひろを訪ね、長女・中宮彰子を慰める物語執筆を依頼した。道長は娘を思うパパの気持ち全開で、まひろが引くくらい、しつこいくらいに頼んでいる。

道長:四条宮で和歌を教えているそうだな。

まひろ:はい。なぜそれを・・・。

道長:公任に聞いた。学びの会の後、お前が語る「カササギ語り」という話が大層な評判で、公任の北の方も女房達も夢中になっておるというではないか。その物語を、俺にも読ませてくれぬか?

まひろ:そのために、わざわざここへいらしたのでございますか?

道長:そうだ。

まひろ:そのようなお姿で・・・。

道長:ん?ああ。(身をやつした地味な狩衣姿)枕草子よりずっと面白いと聞いたゆえ。

まひろ:どうでしょう。

道長:もし面白ければ、写させて中宮様に献上したいと思っておる。

まひろ:・・・申し訳なきことながら、「カササギ語り」は燃えてしまってもう無いのでございます。

道長:燃えた?

まひろ:燭を倒してしまい、残らず・・・。

道長:・・・その話は偽りであろう?

まひろ:偽りではありませぬ。床に炎の後もありますゆえ。(黒くなった床)

道長:ああ・・・すまぬ。疑ったことは許せ。

まひろ:無念でゆうべは眠れませんでした。

道長:それは気の毒であった。それをもう一度思い出して書くことはできぬのか?

まひろ:そういう気持ちにはなれませぬ。燃えたという事は、残すほどの物ではなかったと思いますので。

道長:ならば・・・(まひろの横に座って、目を見据えて)中宮様のために新しい物語を書いてくれぬか?(まひろ、無言で目を逸らす)帝のお渡りもお召しも無く・・・(まひろ、驚いて道長を見る)寂しく暮らしておられる中宮様をお慰めしたいのだ。政のために入内させた娘とはいえ、親として捨て置けぬ。

まひろ:・・・道長様のお役に立ちたいとは存じます。されど・・・。

道長:されど、何だ?

まひろ:そうやすやすと、新しいものは書けませぬ

道長:お前には才がある。やろうと思えばできるはずだ。

まひろ:買いかぶりにございます

道長:俺に力を貸してくれ。(まひろ、視線を逸らしたまま)また参る。どうか考えてみてくれ。(まひろ、無言)邪魔を致した。(振り返り、まひろを見て去っていく。まひろ、目を逸らす)

 こちらは後の世の人間だから、大作家紫式部先生となるまひろが書けることは知っている。だから、自分の娘のために必死で頼んでいる道長を見て「もったいぶらずに書いてあげちゃいなよ」と、まひろに対してつい思ってしまうが、今の、まだ大先生ではない彼女には、ハードルが高く見えるのも分かる。

 「カササギ語り」は、締め切りがあって絶対書かねば!という環境下で書いていた訳でも無さそうだ。たぶん、物語がまひろの頭に湧いた時に楽しんで書いて、四条宮で披露していた程度だったのでは?

 なら、いきなり「中宮様に献上するから書いて」と言われたらビビってしまうよね。失敗は許されない。愛する道長の、自分への信頼もかかってくる。

 ここが、趣味で書くのか、仕事として書くかの境目ということか?編集者道長に「お前には才がある」と言われて「買いかぶりにございます」と答えるのも、ただ謙遜ではないだろう。本当にまだ自信が持てないから、帰る道長の声かけにも無言だし、目も逸らしていたのだろうね。

 もちろん、まひろはここでは終わらない。

②まひろ、リサーチを開始

 ほぼ断ったような状態であっても、まひろには物語を書きたい気持ちはしっかりあったようだ。他ならぬ道長に頼まれたのだ。気の毒な彰子のためにも、力になりたいと思っただろう。

 そういう外圧に加えて、元々内部的にも書きたい欲もある人だし。

 まひろは四条宮の学びの会の後、早速あかね(後の和泉式部)に話しかけた。リサーチ開始だ。

まひろ:枕草子をどのようにお読みになったのか、いま一度お聞かせくださいませんか?

あかね:何か言ったかしら私。覚えてないわ。覚えてないけど、あまり惹かれなかった。

まひろ:それは何故でございますか?

あかね:なまめかしさが無いもの。(妖艶な物腰)枕草子は気が利いてはいるけれど、人肌の温もりが無いでしょ。(まひろ、感心する)だから胸に食い込んでこないのよ。巧みだな~と思うだけで。

「黒髪の 乱れも知らず うち伏せば まづ掻きやりし 人ぞ恋しき」

フフフ。

 まひろは、あかねに人気作・枕草子を拝借して読んだ。前回、親王様から頂いたとあかねが自慢していたものだ。

 以前、作者のききょう(清少納言)が持参してきて軽く目を通した時とは、今回の読み方の姿勢が全然違って前のめり。詳細に分析しながら、明け方まで時も忘れて一気に読み込んでいる様子だった。頭をフル回転させながら、集中して読んだのだろう。

 弟の惟規とも、干し魚をつまみに酒を飲みながら対話した。

まひろ:惟規。惟規の自分らしさって何だと思う?

惟規:はあ?

まひろ:答えてよ。

惟規:やなことがあっても、すぐに忘れて生きてるところかな。

まひろ:そうね。

惟規:どうしたの?

まひろ:じゃあ、私らしさって何?

惟規:え~、難しいな。

まひろ:うん、私って難しいと思う、私も。

惟規:いや、そういう意味じゃなくて・・・

まひろ:もっと言って。人と話していると分かることもあるから。色々言って。

惟規:そういうことを、グダグダ考えるところが姉上らしいよ。そういうややこしいところ。根が暗くて、鬱陶しいところ。

まひろ:根が暗くて鬱陶しい・・・(心ここに在らずで考え始めている)。

惟規:怒るなよ、自分で聞いたんだから。色々言ってって言ったんだから。(まひろ、急に立ち上がり、去る)怒るなって言ったでしょ!

 惟規、そうじゃないんだってば。あの目つき、まひろは明らかに何か思いついた。忘れてしまう前にさらに考えを深めたいか、メモしたくて立ち去ったっぽかった。

 早くメモらないと、幻のように消えてしまうこともあるから一刻も早く・・・💦そんな感じの目だった。

 人と話をしていると、頭の中は整理される。自分の発言についても「そう言ってしまうんだ」という驚きがある。断片的に頭の中をバラバラに泳いでいたものが、言わんばかりの良い形でまとまっていく。こうなったら、後は忘れないうちに頭の中にある物を紙の上に書きだすだけだ。

 それは、まひろも(そして脚本家殿も)同じみたいだね。

③まひろ、道長に紙をねだり物語を書く

 そして、まひろは道長に紙を無心した。他の「左大臣殿」と書かれたたくさんの文とは異なり、表書きの無い、小ぶりな文が道長の執務部屋には届いていた。それを道長は、始めにちゃーんとピックアップして読んだ。分かるんだね。

まひろの手紙:中宮様をお慰めするための物語、書いてみようと存じます。ついては相応しい紙を賜りたくお願い申し上げます。

 そして道長は、上等な越前紙をまひろ宅に自ら届けにきた。いとや乙丸が呆気にとられる中、百舌彦ら従者が、ブルーの布に包まれた紙の束を次々に縁に積み上げていく。その包みの1つを解いた道長が、まひろに言った。

道長:お前が好んだ越前の紙だ。(1枚、まひろに渡す)「越前には美しい紙がある。私もいつかあんな美しい紙に歌や物語を書いてみたい」と申したであろう、宋の言葉で。

まひろ:ああ・・・誠に良い紙を、ありがとうございます。中宮様をお慰めできるよう、精一杯面白いものを書きたいと存じます。

道長:俺の願いを初めて聞いてくれたな。

まひろ:まだ書き始めてもおりませぬ。(微笑みあう2人)

 まひろの言葉を1つも漏らさずに憶えているんだろうか、道長は。愛だなあ。それで越前紙を持ってきた。怖いくらい嬉しいことだよね。

④道長の嘘がバレる➡再度リサーチへ

 道長に上質な紙を貰ったまひろは、一心に頭の中の物語を形にし始めた。合間に紙を撫でて微笑み、嬉しそうだ。

 さっそく書き上げた作品を、道長が読みに来た。縁に座ったまひろが横眼で道長を眺める中、道長はハハハと笑って読み、「良いではないか」と言った。

 「どこが良いのでございますか?」と聞くまひろ。作品に対して貪欲だな。依頼人の生半可な反応では満足しないらしい。さすがだ。

 そして、会話の中で道長の嘘がバレていった。

道長:え?ああ、飽きずに楽しく読めた。

まひろ:楽しいだけでございますよね。まことにこれで中宮様をお慰めできますでしょうか。

道長:書き上がったから俺を呼んだのではないのか。

まひろ:そうなのでございますが、お笑いくださる道長様を拝見していて何か違う気がいたしました。

道長:何を言っておるのか分からぬ。これで十分面白い。明るくて良い。

まひろ:中宮様も、そうお思いになるでしょうか・・・中宮様がお読みになるのですよね?

道長:(目を泳がせて)うん。

まひろ:もしや道長様、偽りを仰せでございますか?中宮様と申し上げると、お目が虚ろになります。・・・正直な御方。

道長:お前には敵わぬな。

まひろ:やはり。

道長:実は、これは帝に献上したいと思うておった。枕草子にとらわれるあまり、亡き皇后様から解き放たれぬ帝に、枕草子を超える書物を献上し、こちらにお目を向けていただきたかったのだ。されど、それを申せばお前は「私を政の道具にするのか」と怒ったであろう?

まひろ:それは・・・怒ったやもしれませぬ。

道長:故に偽りを申したのだ。すまなかった。(作品をまひろに返す)

まひろ:・・・帝がお読みになる物を書いてみとうございます

道長:えっ・・・これを、帝にお渡しして良いのか?

まひろ:いえ、これとは違うものを書きまする。帝のことをお教えくださいませ。道長様が間近にご覧になった帝のお姿を、何でもよろしゅうございます。お話しくださいませ。帝のお人柄、若き日のこと、女院様とのこと、皇后様とのことなどお聞きしとうございます

道長:ああ、話しても良いが、ああ、どこから話せばよいか・・・。

まひろ:どこからでもよろしゅうございます。思いつくままに、帝の生身のお姿を。

道長:生身のお姿か・・・。

まひろ:家の者たちは私の邪魔をせぬようにと宇治に出かけております。時はいくらでもありますゆえ。

道長:わかった。

 この後、いつも心湧きたつあのBGMが流れて(”Primaveraー花降る日”というタイトルらしい)、道長が様々な帝のご様子をまひろに語っていった。

 まひろは食い入るような眼で、どんどん道長から「人間・帝」の話を聞きだしていく。それにつれて道長は、帝のことだけでなく「俺もどうしたらよいか分からなかったのだ」「帝の御事を語るつもりが、我が家の恥をさらしてしまった」等と、自分側にも話が及んだ。

 これが面白くない訳が無い。ベールに包まれた国のトップの帝と、その周りの人々について、現在政のトップに立つ道長から話が聞けるのだから。想像するだけでワクワクしてしまう。この話を一緒に聞きたい人たちは、五万といるだろう。聞く側も時を忘れる、相当面白いリサーチになったはずだ。私もその場にいたかった。

 まひろは「帝もまた人でおわすという事ですね」「帝の御乱心も、人でおわすから」「道長様がご存じないところで帝もお苦しみだったと思います」「帝も道長様も皆、お苦しいのですね」「人とは何なのでございましょうか」と言った。

 人であるからこその苦しみという、影を描かない枕草子には無い視点に立った物語が、まひろの頭の中で生成されていく。

⑤まひろ、ブレインストーミングを経て執筆開始

 深夜までまひろに帝について語り、道長は、ふたりで月を見上げた。まひろは「人は何故、月を見上げるのでしょう」と問い、道長は「なぜであろうな」等と返したところ、まひろがこう言い出した。

まひろ:かぐや姫は月に帰っていきましたけど、もしかしたら月にも人がいてこちらを見ているのやもしれませぬ。それゆえ、こちらも見上げたくなるのやも。

道長:相変わらず、お前はおかしなことを申す。

まひろ:「おかしき事こそ、めでたけれ」にございます。直秀が言っておりました。

道長:(直秀の名に虚を突かれたよう。月を見上げて)・・・直秀も、月におるやもしれぬな。誰かが・・・誰かが今、俺が見ている月を一緒に見ていると願いながら、俺は月を見上げてきた。皆、そういう思いで月を見上げているのやもしれぬな。

(まひろ、月明かりに照らされた道長の横顔を見つめ、2人で満月を見上げる。道長が、まひろを見つめ、ふいに2人の目が合う。しかしまひろの視線に押されたか、何か諦めたような道長)もう、帰らねば・・・。(無言でお辞儀をし、見送るまひろ)

 「誰か」は、当然まひろだね。目が合った時、これまでなら恋人同士として抱き合う場面だったのではないか。そんな視線を一瞬、道長はまひろに投げた。しかし、小さく笑って止めたようだった。

 書く気に溢れているまひろの作家オーラを見て取り、今夜はおとなしく帰ろうと思ったのかな。まひろの興奮した脳内では、既にカチャカチャと何か作動し始めており、壮大なブレインストーミングが始まっているはず。作家まひろのために、道長は帰って正解だ。

 翌日だろう。まひろは紙に帝、中宮、女御、親王、皇太后、女院死と書きだし、縁をウロウロ。いとが心配して為時パパに「お方様はどうにかなってしまわれたのでしょうか」と聞くほど集中して考えているようだ。

 もちろん、為時パパは「左大臣様の頼みに応えようとしておるのだろう。放っておいてやろう」と言った。娘のことが分かっている。

⑥物語が降ってくる、その時が来た

 まひろはとうとう文机に紙を置き、筆を執った。産みの苦しみを経て、頭の中には天から降って来た物語が溢れている。もう、それを文字にしていくだけの作業があるだけだ。どんどん溢れてくるから、もどかしいくらいだろう。

 映像では、まひろの上に文字の書かれた色とりどりの紙がとめどなく降ってくるのだ。これがまた感動的。枕草子の「春はあけぼの」の映像化にも舌を巻いたが、「源氏物語」が生まれる瞬間も美しくて、ああ、とうとうその時が来たかと涙が流れた。

 最初の一文字目が「い」とくれば、源氏物語の「いづれの御時にか」が続くはず。あの物語の誕生だ。

モデルの帝は

 一読した道長は「これは・・・かえって帝の御機嫌を損ねるのではなかろうか」と心配した。

 まひろは「これが私の精一杯にございます。これでダメなら、この仕事はここまででございます。どうか、帝に奉ってくださいませ」と頭を下げた。悩む道長は、結局、一条帝にまひろが書いた物語を奉り、帝は読み始めた。

 これまで私は源氏物語だけを読んで楽しみ、このドラマを見るまで、ここまでこの時代の宮廷の様子に肉薄して反映したものだとまで考えたことが無かったが、ドラマを見てみると、なるほど源氏物語には当時の人たちがモデルとしてあちこちに散りばめられている。

 「桐壺」など、一条帝と皇后定子の物語だと、当時の誰もが思うだろう。道長じゃなくても、私だって、うーむと悩みたくなる。三島由紀夫の「宴のあと」、柳美里の「石に泳ぐ魚」を思い浮かべた人も少なくないのでは。

 もしその能力が私にあったなら、という前提の下だけれど、私の知る人にも小説に書けたら絶対に面白いよね、という人生を送っている人たちが数人いる。事実は小説よりも奇なり、を地で行っている。

 でも、多少の設定変更をしたとしても絶対にその人だと分かってしまうから、その人をモデルに書くことなんかできないよな・・・と思う。その人が亡くなってから?いや、ご家族は生きている訳だし、反発は必至だ。

 紫式部は身分制の厳しい時代に生きていた訳で、不敬にもならずに一条帝をモデルに源氏物語を書けたということは、やはり、帝でさえ一歩譲るような権力者藤原道長の絶対的なバックアップがあったからなんだろう。

 『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著)によれば、当時では相当高価な紙に書かれている点を考えても、入手できるパトロンがいないと書けないみたいだ。「蜻蛉日記」の藤原道綱の母には兼家パパがいたし、和泉式部には親王様たちがいた。だから紙を入手できて、それで書けたのよね?そう考えると、貧乏貴族のまひろの家では道長抜きでは無理な話だったね。

 まひろが書き始める動機付けは、このドラマの設定は自然だと思った。タイトルも、「枕草子」に囚われている一条帝をターゲットに書くから「源氏物語」なのだね、ターゲットは道長じゃなかった。なぜ「藤原物語」じゃないのか、長年の疑問が解けた思いがする。納得だ。

 一条帝に「亡き皇后定子との間に生まれた親王には、光源氏のように臣籍降下させるべき」との考えを刷り込めれば、道長にとっては万々歳。実際はそうならなかったものの、当時の人々にはそう映ったのではないだろうか。

いじらしい彰子、切ない倫子様、怖いマウンティング明子

 目を転じると、今回も瓢箪に絵を描く中宮彰子がいじらしかった。以前、敦康親王が一条帝と楽し気に瓢箪に絵を描く姿をじっと見ていたもんね。それで、またの機会が来たら、その時こそ親王を楽しませたいと思っているのだろう。

 その、人を良く見ている彰子が「父上と母上は、どうかなさったのでございますか?」と、とうとう道長に聞いてきた。道長は「ご心配頂くようなことはございませぬ」と応じたが、嫡妻倫子様とは土御門殿ですれ違うばかり。孤軍奮闘の倫子様がひたすら気の毒な状況になっている。

 道長は、まひろとの娘・賢子を(自分の娘と知らず)膝に乗せてこの上ない笑顔を向けていたが、その笑顔を倫子様にも向けてあげてほしいものだ。

 ちなみに高松殿の明子は通常運転と言うか・・・相変わらずのランキングさん、マウンティングを止めない。一方的に炎を燃やし続け、一緒に居て疲れる人だ。その明子に、珍しく道長が本音を言った。

高松殿明子:殿。土御門殿の頼道様は、元服の折に正五位下におなり遊ばしたのでございますよね。

道長:うん。

明子:我が家の巌と苔もまもなく元服でございます。

道長:ああ、月日の経つのは早いものだな。

明子:我が子にも、頼道様に負けない地位をお与えくださいませ。私は醍醐天皇の孫。北の方様は宇多天皇の御ひ孫。北の方様と私は、ただの嫡妻と妾とは違う事、殿とてお分かりでございましょう。

道長:・・・倫子の家には世話になった。土御門殿には財もある。それがどれほど私を後押ししてくれたか分からぬ

明子:(背を向け、声音が低くなる)私には血筋以外に何も無いと仰せなのでございますか?

道長:そうではない。それが全てではないと言うたのだ。・・・内裏で子ども同士が競い合うようなことも無いようにせねばならぬ。明子が争う姿を見せれば、息子たちもそういう気持ちになってしまう。気を付けよ。

明子:(道長の手を退け、そっぽを向く。褥を出る道長。慌てて道長を捕まえる)お許しくださいませ。お帰りにならないで。

道長:(手を外す)放せ。また参るゆえ。

明子:殿・・・。

ナレーション:以来、道長は土御門殿にも高松殿にも帰らず、内裏に泊まる日が多くなった。

 疲れるよなあ、道長。明子については「争う姿」しか見てない気がする。呪詛する姿もか・・・息子や娘たちも「負けるな負けるな」と急き立てる、コワーイお母さんしかきっと見てないのでは。明子の作戦失敗だ。

 道長は、まひろにしか本音を晒せない様子だけれど、やっぱり個人的には倫子様が気の毒。倫子様のすれ違った後の切ない表情を見ているだけで「ああ・・・何も悪くないのに😢」と思うよね。

 できれば道長は、倫子様と早いところ互いに信頼関係を取り戻してほしいものだが・・・道長の心をガッチリつかんでしまった、まひろが存在する限りダメそうだ。主人公はまひろ、そしてまひろが書く「源氏物語」だしね。

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#30 作家まひろ、原稿を燃やした娘が許せない。道長は嫡妻倫子様と亀裂拡大・・・バレた?

藤原F4の集いで、まひろの名が上がる

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第30回「つながる言の葉」が8/4に放送された。ラストに道長がまひろの前に姿を現したところで、またまた2週間のお預け!次回放送は8/18に。

 次回予告の限りでは、せっかく「源氏物語」冒頭の「いづれの御時にか」に辿り着くようなのに、なんでーなんでー!と言いたいが(いや、オリンピックのせいだと分かってはいるけど)、NHKは視聴者を引っ張るのがお上手だということにしておく。

 今回も、まずは公式サイトからあらすじを引用する。

(30)つながる言の葉

初回放送日:2024年8月4日

夫の死から三年、まひろ(吉高由里子)は四条宮の女房達に和歌を教えながら自作の物語を披露し、都中で話題になっていた。ある日、そこに歌人のあかね(泉里香)がやってくる。自由奔放なあかねに、どこか心ひかれるのだった。その頃、宮中では「枕草子」が流行していた。「枕草子」を読んでは亡き定子(高畑充希)を思う一条天皇(塩野瑛久)。道長(柄本佑)は気をもみ、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)に相談すると…。((30)つながる言の葉 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 「都中で話題になっていた」と書いてあるが、「四条宮の女たちの間で大評判」じゃなかったか?久々の藤原F4の集まり「羹次(あつものついで)」では、四条宮の公任以外は知らなかった。

斉信:左大臣も苦労が絶えないようだな。ハハハ・・・ああすまん。

公任:帝の気を引くのは難しいな。亡き人の思い出は美しいままだ。

行成:「枕草子」の力は、ますます強まっております。

斉信:ききょうめ・・・あんな才があるとは思わなかったな。手放さねば良かった。

公任:(道長に酒を注ぎながら)皇后様がなされていたように、華やかな後宮を藤壺に作ったらどうだ?

行成:それは難しいと存じます。

道長:帝は諸事倹約をと、常々仰せだ。(斉信、ひとりよく食べている)

行成:帝は書物がお好きなので、「枕草子」を超える面白い読み物があれば、お気持ちも和らぐのではございませんでしょうか。

道長:そのような面白い書物を書く者がどこにおるというのだ。

公任:我が妻・敏子がやっておる学びの会に、面白い物語を書く女がおるようだぞ。

道長:帝のお心をとらえるほどの物語なのか?(懐疑的)

公任:それはどうかな。されど、四条宮の女たちの間では大評判だ。

斉信:どういう女なのだ。

公任:先の越前守藤原為時の娘だ。(道長、止まる)

斉信:ん?あっ、あの地味な女だ!

公任:所詮、女子供の読むものだが、妻も先が楽しみだと心奪われておる。

道長:ふ~ん。

 この時の道長の表情には、全視聴者が注目したことだろう。おー、(元)カノがブレイクか、いよいよ世に出てきたか、あいつならやると思った・・・と内心は嬉しかったかな。斉信がききょうを手放したのを惜しいと思ったのと同じく。

 しかし、羹次の食事が美味しそうだった。公式サイト(用語集 大河ドラマ「光る君へ」第30回より - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK)にはこう書いてあった。

【羹次(あつものついで)】

野菜や魚肉を熱く煮た吸い物(鍋料理)を囲んで行う饗宴。

 これは、食いしん坊としては目を奪われた。ビアガーデンというかバーベキューパーティーみたいな?平安のグランピング?諸事節約を申し付けられているから通常の宴会じゃなくて羹次だったらしいけれど、さすが上級貴族様方、しっかり贅沢だった。

 斉信の中の人・はんにゃ金田のYouTube(https://youtu.be/BgUzdNKXfzU?si=4II8P2YalW98Byz9)でも、信じられないくらい美味しかったと言っていた。他の皆が道長のために色々と考えを巡らしているのに、斉信は、ぱくぱく食べるのに忙しそうだった。

 NHKドラマの消え物は美味しくて知られている。彼は食事を抜いて撮影に臨み、ドライ・リハ・本番と、しっかり食べたらしい。いいな!「NHKドラマ食堂」をどこかでやってくださらないかなー。

まひろ、怒りの正体は

 夫宣孝が死んで3年。寛弘元年(1004年)の世では、道長との子・賢子も子役さんが大きくなっている一方、まひろは作家として着実に歩みを進めていたことになる。前述の通り、まひろ著「カササギ語り」が四条宮の女性たちの和歌の会で大人気になっていた。

 (なんでカササギ?と思ったら、公式サイト用語集に説明あり。「織姫と彦星の年に一度の逢瀬のために、織姫を羽に乗せて、天の川を越えてゆく鳥とされた」とのこと。なるほど。)

 そこらへんのまひろの試行錯誤も見たかったけどな・・・ドラマって、たいてい受験や資格試験の勉強の努力などの過程を見せてくれないか、軽いBGM付きの「やってます」映像で通り過ぎてしまう。で、いきなり主人公はワンランク上がって「できる」人になってしまっていることが多い。

 前回終わりではまだ、まひろは「できるか分からないけれど、物語を書いてみる」というスタンスだった。それも、賢子が物語に関心を持っているみたいだから、それで娘のために書き始める様子だったのに・・・今や、すっかり所期の目的である娘はそっちのけ(?)で、書くこと自体が自分の生きがいになっているようだった。

 物を書くことで悲しみやら様々な感情が整理や昇華できるようになって、道綱の母・寧子がまひろに言っていた意味が、身に染みたかな。まひろを演じる吉高由里子も、この場面になって筆運びがかなりスムーズ。書きたい気持ちに押されて、どんどん書いている様子に見えた。

 皮肉にも、母親が書き物に熱中しているそんな姿に反発し、賢子がまひろの原稿に火を点け燃やしてしまった。大事件だ。

 まひろ本人は気づいているかどうかわからないけれど、いとは、少なくともまひろの賢子に対する過剰な叱り方にハラハラしている様子だった。為時パパもかな。部屋でひとりになってもまだ、まひろは口元がワナワナ怒りで震えていた。

 まひろには2重の意味でショックだったのだろう。1つは、普通に親としてのショック。子がわざと火を点けてしまい、あわや火事にもなりそうだった。下手をすれば家だって燃え、死人だって出る。

 結果の重大さから見て、親として頭を抱えないはずがない。子の将来を考えたら、ここはしっかり教え諭さねばならない場面のはずだった。

 そしてもう1つには、物書きとしてのショック。自分が一心に書いた物が燃やされてしまったということだ。

 私も昔々、セーブする前に電源が落ちたせいで、せっかく書いた原稿が飛んだショックは何度か味わった。えー、一体どこに行ったの?と、泣きたい気持ちになった。

 それまでに書いた時間は無駄になり、また同じものを書かねばならないという、二度手間だし、労働時間が延びるショック。あとちょっとで帰れるはずだったのに!等々のガッカリ感は大きかった。

 でも、凹んでいても原稿が戻ってきてくれるはずもない。時間もないし、書き直すしかない。心を切り替え、全速力で書いたものだ。

 まひろの金切り声を聞き、ワナワナ震える口元を見ていて、後者のショックの方がはるかに前者を上回ったんじゃないかと思った。自分でも意外だったかもね。

 まひろは、賢子のフォローは為時パパ任せ。ママまひろの気を引きたいがために火まで点けた娘ちゃんは、私よりも原稿か!と傷つくよね。どんどんグレちゃいそうだ。

教育ママまひろ

 だいたい、まひろの教育方法も怖かった。最初から賢子にダメだしする気しか感じられない、文字の教え方。為時パパの出番だと思うなー、あのグニャグニャ惟規や、ハチャメチャ花山帝にも漢籍を教えることができた手練れなんだもの。孫には甘々でも、上手に教えてくれるに違いない。

 昔「チャングムの誓い」を見た時に、あんなに可愛かったチャングムが、親になった途端に鞭(?)を手に、目を吊り上げた超教育ママ風に出てきた場面を思い出す。

 優秀なヒロインは、自分と同じ優秀さを娘に期待しちゃうから怖いのかな。娘とはいえ、別人格なんだけどな。

まひろ:父上。賢子に読み書きを教えてやってくださいませ。

為時:(賢子と遊んでいる)遊びに飽きたらやらせるゆえ。

まひろ:読み書きができないとつらい思いをするのは賢子です。あまり甘やかさないでくださいませ。

為時:はい。(賢子と遊びながら)あ~残念。

まひろ:私はこれより四条宮に参りますので。

為時:はい。

まひろ:賢子、おじじ様にしっかり教えていただくのよ。(返事なし)行って参ります。

為時:母上を見送らぬか。ん?(知らん顔の賢子)

賢子:じじ、もう一回やろう。

まひろの心の声:「人の親の 心は闇にあらねども 子を思ふ道に まどひぬるかな」

 まひろが心に浮かべたこの歌は、曾祖父の藤原兼輔が詠んだ歌だとか。「源氏物語」でも頻出する歌だそうだ。そうだったかもね・・・💦

 兼輔のもっとも知られた作品といえば、『後撰和歌集』にあるこの一首だったようです。

「人の親の 心は闇にあらねども 子を思ふ道に まどひぬるかな」(後撰集 雑 兼輔朝臣)子を持つ親の心は闇というわけではないが 子どものことになると道に迷ったようにうろたえるものですな

 これは醍醐天皇の更衣となった娘の身を案じての親心の歌だといわれています。(心は闇にあらねども | 小倉山荘(ブランドサイト) | 京都せんべい おかき専門店 長岡京 小倉山荘 (ogurasansou.jp.net)

 大作家まひろ先生でも、子育ては難しそう。今後の母娘間で嵐の予感だ。

 そういえば、まひろの子育てに異議を唱えていた惟規は、内記の官職を得たと言っていた。(内記とは、律令制において、中務省に属する官職。詔勅・宣命の草案を作り、叙位の文書交付や記録などをつかさどった・・・と「用語集」用語集 大河ドラマ「光る君へ」第30回より - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHKに書いてあった。)

 しかも左大臣様直々に「位記」(位階を授与する際に発給する公文。同上)を仰せつけられているとか。ああ、まひろの弟なんだなと道長が頬を緩めている様子を想像して、ほっこりした。

 惟規は、まさか姉の七光りだとは思いもしないだろうけれど。

道長の寿命10年、安倍晴明は奪ったのか

 ドラマの冒頭、雨に恵まれず乾ききった京の様子が描かれ、まひろの家では井戸(湧き水?)まで枯れた、孫の賢子だけは何とか生き延びさせたいと為時パパが嘆いてみせた。「帝の雨乞いも効かなかったんだねえ・・・」「帝が御自ら雨乞いをなさるのは、200年ぶりのことであったのだが」と道綱と実資が言っていたが、実際はどうだったのだろう。

 番組公式サイトにも「ちなみに日記には・・・」というセクションがあり、日記の記述が紹介されているのが面白い(ちなみに日記には… 大河ドラマ「光る君へ」第30回より - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK)。ただ、古記録データベースというものを1度は試してみたいと思っていたので、大ファンの磯田道史先生で知った国際日本文化研究センター(日文研)のそれを試してみた。(摂関期古記録|国際日本文化研究センター(日文研) (nichibun.ac.jp)

 藤原道長の「御堂関白記」の1004年6月1日~8月1日を検索してみたところ、6月初旬は降雨もあったようだが、6/9から「天晴る」の記述がずらーっと並ぶ。6/19も「天晴る」だが「午後、暮立あり」とあるのは、多少降ったのかな。そして、6/28まで「天晴る」がまた並ぶ。6月なのに、こんなにも雨は降っていなかった。

 その後、7/1の「天晴る」以降、天気の様子の記述が見当たらないな・・・と思ったら、7/10に「日来、雨下らず(略)主上、庭中に於いて御祈り有り」と書いてあった。7月に入っても降らず、帝が自ら雨乞いの祈りを捧げたのは本当だった。(もちろん、主だったものは「ちなみに日記には」コーナーで紹介されている通りなのだが。)

 ドラマでは「帝が雨乞いしてもダメだった」という評価だったが、7/11と7/12には小雨や微雨は降って、雷鳴はあった。まあ、6月の「天晴る」だらけでは、全然降雨量としては足りないのだろう。

 そして注目なのが、7/13に「雷声有りて夕立す」とあり、7/14には「終日、陰る。時々、微雨、下る。夜に入りて、大雨有り」とあること。理由としては「晴明朝臣、五竜祭を奉仕するに、感有り」ということだそうだ。

 本当にやるもんだね、晴明!「被物」というご褒美を安倍晴明が貰ったことも書いてあり、「早く賜ふべきなり」とも道長が書いている。

 しかしまた、7/15から7/20までの御堂関白記には「天晴る」がずらっと並んでしまっていた。

日文研の古記録データベースから「御堂関白記」、「天晴る」が並んでいた

 こんな天候の良し悪しまで政の責任になるなんて、大変だ、昔の為政者は。大体不遜な話じゃないのか、天気をコントロールできるものと思ってるなんて。1000年後だって普通は超常能力の無い人間には無理な話なのに、どうしてそうなったのかと思う。

 当時、晴明のような超能力者が常に世にはいたのかな。それで為政者の求めに応じ、能力を使って雨を降らせていたとしたら「天気?普通に何とかできるでしょ」という認識にもなっちゃうのかもしれないけれど・・・超能力が普通だと思われちゃ困るよね。

 このブログはドラマについて書くものなのでドラマに戻る。前述のように実際は帝の雨乞いも多少は雨を降らせたらしいが、手柄は安倍晴明が独り占めした格好だ。

 雨乞いの儀式後、晴明は雨に打たれ倒れていた。黒髪だった晴明は、すっかり白髪に。式神(従者)も泣いていたので、エネルギーを使い果たした晴明は事切れたと思ったが・・・どっこい生きていた。

 でも、見るからにヨボヨボに変身。本来は80代も半ばだからそれが当然の姿だったが、それまでは神通力で若見えしていたのかもしれない。

 道長が雨乞いを依頼した時、晴明はこう言った。

晴明:雨乞いなど体が持ちませぬ。

道長:陰陽寮には力のある者がおらぬ。なんとかそなたにやってもらいたい。

晴明:こうしてお話するだけでも喉が渇きますのに、祈祷なぞ。

道長:頼む(深々と頭を下げる)。

晴明:何をくださいますか。私だけがこの身を捧げるのではなく、左大臣様も何かを差し出して下さらねば、嫌でございます。

道長:・・・私の寿命・・・10年やろう。

晴明:まことに奪いますぞ?

道長:よい。

晴明:(道長を見据えて)・・・お引き受けいたしましょう。

 だから、雨乞い成功の後、道長は10年分一気に老けるのかと思った。もしくは、見た目は変わらなくともガクッと精力が衰えるような表現があるはず。そう思って注意深く見ていたが、雨乞い前後で道長に特に変化は無かったようだった。

 ということは・・・言葉ではああいったものの、晴明は道長から奪わず、己だけでダメージを引き受けて、己の寿命だけ縮めたことになる。なるほど、そうだったか・・・よほど道長を見込んでいたと見える。

光のまひろが道長を煌々と照らす

 晴明は、その道長に相談されてこう言った。その頃の晴明は、脇息に寄りかかるのもやっとで、烏帽子は被っていたが装束も乱れていた。式神は晴明のための薬湯も用意して待っていたようだった。彼の寿命は近いのだろう。

晴明:確かに、あなた様は今、闇の中におられます。

道長:まさに闇の中だ。

晴明:お待ちなさいませ。いずれ必ずや光は射しまする。

道長:(目を閉じて上を向き)いつだ?いつだか分からねば、心が持たぬ。

晴明:持たねばそれまで。されど、そこを乗り切れば光はあなた様を煌々と照らしましょう。

道長:すべてがうまく回れば、私なぞ、どーでもよいのだが。

晴明:(真っ白の髪でじろりと道長を見る)

道長:ん?

晴明:今、あなた様のお心の中に浮かんでいる人に、会いにお行きなさいませ。それこそが、あなた様を照らす光にございます。

 まひろだ、どう考えても。まひろが光で、煌々と道長を照らす。「光る君」は道長でいいのだが、光はまひろなんだね・・・。

 しかし、すぐにまひろに会いに行くのかと思いきや、道長が会ったのはF4の面々。そこで前述のように行成と公任にヒントをもらい、まひろにようやく会う気になった。予告を見る限り、賢子にも初対面。自分の娘だと知るのだろう。

 え?もしかして賢子の方が道長の光なの?そんなことないか。

絶望の倫子様

 前回あたりから、嫡妻倫子様の道長への態度がおかしい。それまでは「相談されて嬉しい!」と言って笑顔を見せ、長女彰子の入内にしても共に戦う同士と言っても良い存在だったのに、前回は道長が息子の舞について話しかけても、ロクに目も見ない様子だった。

 今回、倫子様のたっての願いで、道長は帝の御前に妻を連れて行った。倫子様は、宮廷で孤立して見える中宮彰子のことが心配でたまらないのだ。

(倫子が、帝に差し上げる漢詩の書かれた巻物を持ち、清涼殿にやってくる。帝がそれを広げる)

一条帝:行成の字は相変わらず美しいのう。

倫子:お気に召してようございました。

一条帝:中宮への数々の心遣い、有難く思っておる。

倫子:勿体ないお言葉、痛み入ります。そのようなお言葉をどうか、中宮様におかけくださいませ。(道長が横目で倫子を見る)幼き娘を手放し、お上に捧げ参らせた母の、ただ1つの願いにございます。

一条帝:朕を受け入れないのは中宮の方であるが。内裏に来てすぐの頃、朕が笛を吹いても横を向いておった。今も、朕の顔をまともに見ようとはせぬ。

倫子:出過ぎたことと承知の上で、申し上げます。どうか、お上から中宮様のお目の向く先へお入りくださいませ。(固まる道長)母の命を懸けたお願いにございます。(横目で倫子を見て息を飲む道長、驚く帝)

一条帝:・・・そのようなことで命を懸けずともよい。(座を立ち、去る。倫子を見る道長。頭を下げたまま、一点を見つめる倫子)

(御前から下がって、倫子と向き合う道長)

道長:お前はどうかしている。もしこれで帝が彰子様にお情けをかけられなければ、生涯ないということになってしまうぞ。

倫子:ただ待っているだけより、ようございます。

道長:(目を逸らし、腕組みをする)・・・分からぬ。

倫子:(深い悲しみを湛えて)殿はいつも、私の気持ちはお分かりになりませぬゆえ。(道長を置いて去る)

 焦っているなあ、倫子様。一人ぼっちだと感じている様子だ。長男は童舞で明子の長男に負かされた形になり、長女は生贄の姫として泣く泣く入内させたのに、宮廷で捨て置かれたようになっている。母として寂しいし辛いだろう。

 その寂しさ悔しさを共有してくれるはずの夫道長が心から欲しているのは・・・自分じゃなくて「まひろ」だと、やはり聞いてしまったのではないだろうか。あの、道長が危篤から目覚める場面での話だ。

 もしかしたら、はっきり「まひろ」じゃなくても、誰か自分とは別の人の名前を呼んだと聞かされたのかもしれないけどね。

 いずれにせよ、だからあんな顔で道長を見て、「殿はいつも私の気持ちは分からない」と言うのではないか。危篤になった夫の生還を、一心に祈って家庭を守っていただろうに、夫が呼んだのは別の女の名。やりきれないね。

 ところで、長男の漢籍の師はまひろパパ為時。そこらへんは大丈夫なのかな?

 まひろという光が照らすことによって道長は煌々と輝き、それが倫子様にも一定の幸せを届けるだろうけれど・・・「私の気持ちは分からない」状態が続くと思うと、頑張っている倫子様が気の毒でたまらない。

 ガンバレ倫子様!

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#29 まひろ道長の保護者、宣孝と女院の死。母として、まひろは物語を書き始めた

大御所からの反応にびっくり😲

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第29回「母として」が7/28に放送された。そのドラマの話に入る前に、かなりビックリしたことがあるので記しておきたい。

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 ・・・前回ブログの件でのXに、まさかの人物から反応があり、一瞬息が止まる思いだった。なななななんと、今年の大河ドラマの時代考証の先生が、うれしいことに「いいね」してくださっていた。名誉だ✨ありがとうございます!

 私なんぞのブログまで読んでいただいたかどうかは分からないけれどね、ご覧になったのはXだけかもしれないし・・・やっぱり時代考証を担当するプロの歴史家の先生としては、「紫式部の娘・賢子の実父は藤原道長」だと信じちゃう人が出てはちょっと困ると思ったんだろうな。ドラマですから!作り話ですから!と言いたかっただろう。

 昨年の「どうする家康」担当の平山優先生も、ツイッター(現X)でのフォロー解説には苦労されておられたご様子だった。しかし、こちら素人は楽しく読ませていただいて、平山先生ご案内のバスツアーまで調子に乗って参加しちゃったもんね。

 その時に隣席になったのは京都の方だった。今年はさぞ楽しいだろうなあ。お元気かな。

 しかし、気を付けて書かなきゃ・・・前回ブログにはご著書について「巻末の年表がざっくりで残念」みたいなこと書いちゃったよ😅

 ということで、臆病なもので左右安全確認の上、ソロソロダラダラと今回も進みますよ。では、公式サイトからあらすじを引用させていただく。

(29)母として

初回放送日:2024年7月28日

まひろ(吉高由里子)の娘、賢子は数えの三歳に。子ぼんのうな宣孝(佐々木蔵之介)に賢子もなつき、家族で幸せなひとときを過ごしていた。任地に戻った宣孝だったが…。まひろを案ずる道長(柄本佑)は、越前国守の再任かなわず帰京した為時(岸谷五朗)に子の指南役を依頼するが、為時は断ってしまう。一方、土御門殿では、詮子(吉田羊)の四十歳を祝う儀式が盛大に執り行われていた。しかし、詮子の身体は弱っており…。((29)母として - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

まひろと宣孝の夫婦の形

 今回のサブタイトルは「母として」なのだが、ドラマでは母の姿も父の姿も気になった。母はまひろ、女院詮子、倫子様、明子、そして彰子。父は宣孝、為時、伊周、道長だ。主人公まひろは母なので、サブタイトル通りでもちろん良いよね。

 まひろの夫・宣孝は、年の初めの「御薬の儀」で帝の残した薬(お屠蘇に生薬がたくさん入ってて美味しい物ではないらしい)を一気飲みする役を仰せつかったせいではないだろうが、任地に赴いたまま帰らず亡くなった。その死を伝えるナレーションは、まひろと賢子(前述のようにドラマでの実父は道長)、宣孝の親子3人が楽し気に月を眺める姿に被さった。

 改めて考えると、まひろは宣孝のことをかなり好きだったようだ。道長に「俺の傍で生きることを考えぬか」と誘われたのに、なぜまた断ったのかと疑問だったが、縁あって夫になった宣孝のことを、たとえ夜枯れ状態であったにせよ、簡単には捨てられないと思っていたってことなのだろうね。

 そして道長との逢瀬を経て身籠った際、別れを切り出したまひろに「そなたが産む子は誰の子でもわしの子じゃ」と返した宣孝。まひろは素直にノックアウトされたんだろう。なんて懐が深い!と世の反応があったように、それがまひろの心情だったのだと思う。

 その後、生まれた子に名前を付けてほしいとか、子を抱いてほしいとか、遠慮も無く父としての役回りを宣孝にガンガンお願いしているまひろを見て、なんて素直な子、言っちゃえばなんて単純な子なんだろうと思った。

 私はそんなに素直じゃないので、これまで書いたように、宣孝のことは出世欲の強いちゃっかりさんのチャラ男だと思ってドラマを見ていて、佐々木蔵之介が演じていても騙されまいと思っている。権力者道長が、まだまひろに気があると見て、彼の恋人の庇護者として道長に気に入られようと、のこのこ姿を現したと思っている。

 とはいえ、そんなに悪人でもないとも思っている。計算高いだけであって、人は良い。チャラ男はノリがいいから、役割を理解してサービス精神旺盛にまひろを愛しんで大事にし、賢子のこともちゃんと可愛がっていた。

 まひろさえ良ければ、というか、彼女のように良い具合に丸め込まれていられるのならば、夫婦として、こういう在り方もアリなんだと思う。

 「私は不実な女」「わしも不実だ」と互いに白状し合って、むしろ清々しい。真実の大恋愛を経て結婚したとしても、そのうち愛情の中身は変容する。始まりはどうでも、まひろと宣孝のように互いを大事にする信頼関係が築けさえすれば、それで良いのかもしれない。

 そうそう、賢子をあやす宣孝に「もう1回」と変顔をせがむまひろは、明らかに自分が楽しんじゃっていた。それが「徹子の部屋」で芸人に容赦なく指示を出す黒柳徹子に見えて、笑えた。声音まで似てたよね。

www.nhk.jp

 この宣孝を演じた佐々木蔵之介のインタビューで語られる、道長に対する思いが印象的だった。なかなか面白い。引用させていただく。

◆ まひろの夫として道長に対して敵対心を抱いたことはなく、むしろ関係を続けていったほうが自分含め家族が良いのではないかと思っていました。だから、道長へ任官のお礼のごあいさつの際、「山城守ありがとうございます。ついでにお伝えしますと、まひろと結婚しました」と、いろいろな思いも込めて報告したのではないでしょうか。

道長のことは、味方だとも考えていたんだと思うんですよ。上司としても、また妻のためにも、道長はとても大切な人物であり、政(まつりごと)においても優秀な人間であると評価していたと思います。 

まひろと結婚できて、まひろと一緒に娘を育てることができていい人生でした。かわいい我が子を抱くことができて、お土産を買ってやりたいと思える存在が増えて、だいぶ楽しく過ごさせてもらいました。「結婚する前に感じていた以上に、新しい世界を見せてもらえて良かったですね、宣孝さん」と思います。あとは、娘に「賢子」と命名できたことも良かったですね。ずっとまひろに幸せをいただいてばかりだと思っていたので、娘の名前を残せたことはうれしかったです。

 演じるご本人的にはちゃっかりチャラ男的意識は無いのかな?そして、道長と妻まひろの関係を肯定していて、考え方が柔軟に過ぎると言うか、何か独特。現代で言うところの普通の夫婦関係の枠には収まらない。

 それは時代のせいなのか・・・面白い夫婦関係を提示してみせてくれたと思う。

まひろを「娘のまま」と見ていた為時パパ

 まひろは、宣孝の任地での死については「豪放磊落な姿だけを」と北の方の使者から詳細を知らされずじまい。現実感を持てないままだろうな。北の方の考え方は、皇后定子を太陽と仰ぎ見る清少納言が「皇后様に陰などはございません」と激高したのと共通する。故人の陽の姿だけ記憶にとどめてほしいと欲する人たちだ。

 賛否両論あって人それぞれだろうけれど、個人的には理解できる。警察に死亡した家族の本人確認を求められて、その姿を見てしまったばかりに強烈な画像が頭に残り、精神を病んでしまったご遺族方がいた。無理もないと思うのだ。愛する人なんだから。

 だから、私は気の弱い家族に「本人確認が必要な場合、私の遺体を確認してくれと言われても、断っていいからね」と言ってある。家族も「うん」と言った。DNA鑑定もできる時代だから、それでいい。

 そうかと思うと、しっかりご家族の被害状況やご遺体を確認し、見届けられたことで落ち着けたというご遺族方もいた。本当に人それぞれだ。人には陰影があると言うまひろは、こっちのタイプかもしれない。

 まひろは夫が死んだだけでなく、父・為時が、任期の4年で宋人を帰国させられなかったからと公卿の皆さんから「過」を食らって越前守の職を失った。「この家はどうなるの」と家人たちには動揺が走った。

 きっと為時は公卿の方々に賄賂など贈ってなかっただろうからね。賢子の乳母も早々に逃げ、まひろは夫の死をおちおち悲しんでもいられない。

 そこに道長のメッセージを携えて現れたのが百舌彦だった。道長は為時パパに「左大臣家のご指南役」の役割を用意し、手を差し伸べてくれたのに、あろうことか為時パパはその申し出を断った。ウソでしょー!と見ているこちらも真っ青だ。

 パパの表向きの断り文句はこうだった。

藤原為時:(チラっとまひろを見て)私のような者の暮らしのことまで左大臣様にご心配頂くとは、勿体なきことにございます。(頭を下げる。まひろも同じく)されど、そのお役目は辞退いたしたく存じます。(ぎょっとする百舌彦、横目で父を見るまひろ)

 私は左大臣様の御父君、亡き関白藤原兼家様にもお雇い頂いていたことがございます。されど、正式な官職を得るまで耐えきれなかった己を恥じております。(横で父の声を聞きながら呆然としているまひろ)左大臣様のお心を無にしてしまい、まことに申し訳ございませぬ。もし叶うならば、この次の除目においてお力添えを頂きとう存じます。

(賢子がいとに追いかけられてその場に飛び込んでくる。肩を怒らせ、プリプリ飛び出す百舌彦)

 正式な官職を得るまで耐えきれなかった己を恥じて・・・?己の恥も何も、一家が飢えるかどうかの瀬戸際で、為時パパは何を言っているんだ。さすがおめでたいトンチンカーン!

 ついパパの言動に愕然とするが、それだけ中の人・岸谷五朗がうまいって事だ。落ち着こう。

 まひろも黙っていない。百舌彦を見送ってすぐにパパに詰め寄った。

まひろ:父上、まことにこれでよろしかったのでございますか?

為時:お断りするしかなかろう。お前の心を思えば、左大臣様の北の方様のご嫡男に漢籍の指南をすることはできぬ

まひろ:私の気持ちなぞ、どうでもよろしいのに。(意外そうにまひろを見る為時)父上に官職なく、私に夫なく、どうやって乙丸やいとやきぬを養い、賢子を育ててゆくのでございますか?

為時:あっ・・・それは、そうであろうが・・・。

まひろ:明日、道長様をお訪ねになり、お申し出を受けると仰せくださいませ。次の除目とて、当てにはなりませぬ。賢子にひもじい思いをさせないためにも父上、お願いいたします。(頭を下げる)

為時:そうであるな・・・そうである。

 次の除目だって当てにならない、だって十年も散位だった実績があるもんね!ただ、パパは、幼少期のまひろに嫌われたことがトラウマなんだろうな。ドラマ始めの頃のブログでこう書いていた。

 「まひろ」(吉高由里子登場)は、母「ちやは」の殺害を「急な病で死んだことといたす」と言って揉み消した父・為時(岸谷五朗)と決裂。母が自分の目の前で殺されたというのに、「人殺しを捕まえて、ミチカネを捕まえて」と泣いて頼んでも「そのことはもう忘れろ!」と父は言った。「まひろ」は、父が正義よりも忖度を選んだから、母と同時に、信頼できる父をも失った気になったのだろうな。(【光る君へ】#1&2 滑り出し上々、京の町を走る(!)紫式部(まひろ)と道長のドラマを見守っていきたい - 黒猫の額:ペットロス日記 (hatenablog.com)

 きっとパパの中では、娘を悲しませたことが痛恨のミスとして残っていたのだろう。その記憶が鮮明にあったから、まひろの気持ちを今度こそは尊重したいと思ったのではないか。

 だとしても、パパは状況が見えていないよね。まひろはいつまでもあの頃の小娘じゃない。もう母なのだ。娘や家人が飢えることを考えれば「私の気持ちなぞ、どうでも良ろしいのに」と言ってのけ、「父上、お願いいたします」と易々と頭を下げられる大人なのだ。恥も外聞も構っていられないことが分かっている。

 為時の父として、まひろの母としての姿が見られた面白い場面だった。

吉田羊、女院詮子をやり切った

 ここのところ続けて注目させられてきた道長姉の国母・東三条院詮子と、ひとり息子である一条帝の確執。母の片思いのような親子関係は女院詮子の死で幕を下ろしたが、彼女は、帝としてあることの厳しさを息子に示して死んでいったと思う。

 女院の四十の賀。平安の御代は40歳で長寿を祝われる時代なのだと思うと切ない。源氏物語の藤壺の宮も亡くなったのは確か37歳だったか・・・まあ現代でも、ダイアナ妃も37歳だったし、私の先輩も37歳で亡くなった。

 他にも社内で死亡退職、私みたいに体を壊して退職、その前に心が壊れて退職する人が多数いた。四十の賀、現代でもやればいいじゃないの。

 脱線した。女院の四十の賀で、彼女は発作に襲われた。姉上命の道長も駆けつけるが、座の近かった一条帝の方が一足早かった。その時の詮子。

女院詮子:あっ・・・(差し込む痛みに苦しみ始める)

一条天皇、道長:母上!姉上!

詮子:お上!私に触れてはなりませぬ。(一条帝の手は空で止まり、道長が詮子を支える)病に倒れた者に触れ、穢れともなれば政は滞りましょう。

一条帝:されど!

詮子:あなた様は、帝でございますぞ!うう・・・(詮子が苦しむ姿を彰子も見守る)

道長:姉上!(体をさする。一条帝は苦悶するが、何もできない)

 「あなた様は帝でございますぞ!」に母の悲しみが集約されている。息子であって息子でない存在なのだもの。難しいよなあ、帝の母でいるって・・・間に入ってくる乳母もたくさんいるし。

 結局のところ、精神的に何かを残すことしかできない。そういう意味では、詮子は成功したのではないか。最近の、遅れてきた反抗期にある一条帝も、苦悶の末に何か考えそうだった。

 かつて円融帝は「母として生きよ」と詮子に言って彼女に背を向けた。が、父兼家の指金で次兄道兼が円融帝に毒薬を盛っていたと知った時、詮子は家族の前で泣いて抗議した。とぼけた兼家パパが憎らしかったよね。

 それで今回、薬師や道長に勧められても、彼女は「薬は要らぬ」「私は、薬は飲まないの」と言っているってことなんだよね・・・切ないなあ。それが円融帝への彼女のまごころ、今も愛しているからなんだね。なんて悲しい人生なんだろう。

 だが、それだけで終わらないのが女兼家・詮子だ。亡くなった皇后定子の忘れ形見・敦康親王を「人質に取れ」と、中宮彰子に養育させるようにアドバイスしただけでなく、今わの際の自分に付き添って涙する道長に、さらにこう指示を飛ばした。

女院詮子:(息も絶え絶え)頼みが・・・。

道長:何でございますか?

詮子:伊周の・・・位を・・・元に戻しておくれ・・・帝と・・・敦康のために・・・伊周の怨念を・・・おさめたい・・・(涙が流れる)お願い・・・道長。

道長:・・・分かりました。

詮子:う、う、う・・・(事切れる)

道長:姉上。(涙を流しながら、詮子の頬に触れる)

 この、吉田羊の詮子の死に際の演技が真に迫って凄かった。本当に死んじゃいそうだった。唇だけじゃなく、声までが乾いていた。カラカラになって死んでいったのだ、と思った。

 もう詮子の出演はこれきりか・・・吉田羊は演じ切ったと思うけれど、寂しい。道長や、もしかしたら彰子の中で追想されることはあるのかもしれないけど、基本的にさよならだ。

 今回、まひろが宣孝を失ったように、ホワイト道長は最大の庇護者を失った。もうこれまでのように、きれいな道だけを歩んではいられないだろう。

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呪詛もイマイチ、伊周パパ

 どこで読んだか忘れたが、当時の世の中的には、死んだ皇后定子が怨霊になるのを恐れる空気があり、道長もそう考えていたとか。それを妨げ鎮魂するには、敦康親王の養育もそうだが、伊周ら中関白家のそれなりの復権が必要だと、理解されていたらしい。

 枕草子の存在も、定子の鎮魂のためだったのだと考えると納得できる。だから華やかな在りし日の姿だけを書くのだ。

 昔、どうして藤原物語じゃなく「源氏物語」なのだろうと疑問に思い、インタビューの際に瀬戸内寂聴さんに「なぜでしょう」と聞いたことは以前も書いた気がする。返答は「さあ、どうしてかしら」だった。

 政敵として葬った源高明への鎮魂として「源氏」物語かとも思っていたけれど、今回のドラマで、ドラマなりの答えは示されつつあると思っている。定子の忘れ形見の敦康親王を源氏へと臣籍降下させる企みがあったから、ということでしょう?

 物語を使った、壮大な意識づけ、政治的仕掛けだと思う。「道長に一矢を報いる」意図のある枕草子に対抗する存在だ。ドラマでは、そういうことになっていきそうだよね?

 ところで、伊周の呪詛の文句は「八剱や、はなの刃のこの劔、向かう道長を薙ぎ払うなり」と聞こえた。この言葉を唱え、卒塔婆のような平たい板の「道長」と書かれた人形に、彼は刃を突き立てていた。

 しかし、道長本人は神仏に守られているからか、詮子が大好きな弟を守ろうと頑張ったからか、呪詛の効果は詮子に向かったようだった。何かいつもイマイチな伊周だ。

 そんな禍々しい雰囲気をまとった伊周は、息子に対してもネガティブな空気をまき散らして妻子を怖がらせていた。たぶん嫡子だろう松に、伊周はこう怒鳴った。

伊周:(舞っている松に)松!これは何のための稽古だ。

松:お家を再興するためです。

伊周:そうだ。我が家は、藤原の筆頭に立つべき家なのだ。そのつもりでもう一度やってみろ。(明らかに怖がり動けない松)やってみろ!

源幾子:殿、もうご勘弁くださいませ(松を連れて、下がる)

 こんな勝手なパパじゃ嫌だなあ。子どもが可哀そうだ。伊周は父としてもこんなもんか。高階貴子は子育てをかなり間違えたっぽい。

童舞、同席の母ふたりが怖い

 そもそも、舞でお家を再興できるのかと思ったが、すぐに源氏物語で光源氏が青海波を舞ったことを思い出した。確か、素晴らしく立派に舞った源氏は位を賜ったはず・・・調べたら正三位だった。そういうものなんだね。

 今回、女院詮子の四十の賀で童舞を舞った道長の息子(高松殿明子の長男)巌君の師は、従五位の下を賜った。それで優劣を付けられてしまった形の北の方倫子様の長男・田鶴が泣き出した。それを大っぴらに道長は窘めたが・・・。

 いいのかなー、道長くん。ただでさえ倫子様はずっとピリピリしているのに。帝のお渡りのない中宮彰子のご在所の設えを、何とか華やかにと心を砕いて毎日頑張っている倫子様に対して要らん一言を言って怒らせるし、田鶴の舞を一心に見守っている倫子様に、変なタイミングで話しかけるし。

 それにしても倫子様もピリピリし過ぎかもしれない。もしかして、危篤から甦る寸前の道長が「まひろ」と口にした話を、誰かからのご注進で耳にしたのか。

 倫子様はこんな状態だし、漢籍を子らに仕込み始めている教育ママ明子もライバル心丸出しのメラメラ状態だし。明子と倫子様が同席の上、それぞれの長男を競わせる形にしてしまったら、視聴者だって震えあがって泣き出したくなる。

 そこらへんを分かっていて、公任は「道長らしくないな」「妻を2人同席させるのはないな」と言った。ほんと、子どもも可哀そうだし、心臓に悪いから止めてほしいよね。舞の後、笑顔で礼を交わし合った明子と倫子様のお姿と言ったら・・・笑顔が張り付いていたね。

 実際の記録に残る道長は、巌君の勝利で不機嫌になって御簾奥に引っ込んでしまったそうだ。嫡妻の倫子様の田鶴が勝ってくれないと困るという事らしい。そんな態度を取られちゃ巌君が傷つく。まったくねえ、父としてどうなんだろ、道長。

 この童舞についての解説が公式サイトにあった。曲もオリジナル、演奏も衣装も何もかもがビックリするほど手がかかっている。サラーっと軽く見逃しちゃったが、もう1度しっかり見たい。

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彰子も「母」になった

 「仰せのままに」ぐらいしかセリフを発していない中宮彰子も、敦康親王を預けられ、養子扱いになったのかな?若くして「母」となった。

 膝に親王を抱きとめて、彰子は頬を緩ませていた。親王もにっこり彰子を見上げて(子役上手いな~✨)、互いのためにも良かったよね。

 義理の若い母としての彰子は、親王との関係性が源氏物語に描かれた藤壺中宮と光源氏そのもののようだ。作中の年齢も近いようだし、何より呼び名はズバリ同じ「藤壺中宮」だし。

 国母としてゆくゆくは立つ中宮彰子は、今回も先輩である女院詮子の姿をよく見ていた。帝の母たるもの、どう振る舞うべきなのか。その苦しむ姿も、彰子は目に焼き付けていたように思う。

 まだ何も発することのない、頭の中は混沌とした受け身状態にあるのかもしれないけれど、彼女が強力なメッセージを出す側になっていくのが楽しみだ。それは母として、なんじゃないか。

二大平安女流作家がいよいよ

 今回のドラマ終盤で、清少納言がつづった枕草子を一条帝への手土産に、伊周が復権した。復権できたのは女院詮子の遺言のお陰だと伊周は知っているのかな?知っていても彼の中では関係ないか。

 とにかく、在りし日の定子のキラキラとした姿を描く枕草子を手にした一条帝の得も言われぬ表情が、帝の感激を物語っていた。

 帝の純粋に亡き定子を恋慕う心と、伊周の政治的思惑のギャップが物凄い。こうやって一条帝の恋心を利用して這い上がっていこうとするんだなあ。妹は死んでも兄のためにとことん政治利用されるのだ。

 枕草子が政治的に利用されることは、作者の清少納言も、定子を追い詰めたのは左大臣道長だと吹き込まれ信じているから、織り込み済みだ。彼女は、まひろを道長の恋人だとは知らずに、怒りに燃えてそう言っていた。

清少納言(ききょう):皇后様のお命を奪った左大臣にも、一矢報いてやろうという思いでございます。左大臣は、競い合っておられた皇后様のご兄弟を遠くへ追いやり、皇后様が出家なさったのを口実に帝から引き離し、己の幼い娘を入内させ中宮の座に就けました。帝にさえ有無を言わせぬ強引なやり口と嫌がらせに皇后様はお心もお体も弱ってしまわれたのです。まひろ様も騙されてはなりませんよ。左大臣は恐ろしき人にございます。

 枕草子は、定子たった一人を慰め命をつなぐために書き始められたものだったはずなのに・・・このドラマを通しても出色の美しきシーンだったのに、きな臭い存在になってしまった。

 一方、まひろも文机に向かい、「できるかどうかわからないけど」と言いながらとうとう物語を書き始めた。きっと娘のためだ。だが、そうだとすると、まだ源氏物語ではなさそう。

 でも、書き始めたのだ。作家としてのまひろの開花を楽しみに、次回を待とう。

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#28 道長苦心の「一帝二后」も束の間、皇后定子は悲劇の産褥死。一条帝、清少納言でなくとも泣ける😢

我が子・帝の好みを知らぬ女院様

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第28回「一帝二后」が7/21に放送され、悲劇的にも新皇后・定子が死んでしまった。新中宮・彰子のお祓い力によってお清めされ駆逐された結果なのだろうか。だとしたら恐ろしいほど強力。まずはあらすじを公式サイトから引用する。

(28)一帝二后

初回放送日:2024年7月21日

年の暮れ、まひろ(吉高由里子)は道長(柄本佑)との子を出産。宣孝(佐々木蔵之介)は子を賢子と名付け、約束通り我が子として育て始める。一方、道長は入内させた娘の彰子(見上愛)を中宮にし、定子(高畑充希)と后を二人にする「一帝二后」を、国家安寧のためにもくろんでいた。詮子(吉田羊)や行成(渡辺大知)が一条天皇(塩野瑛久)の説得にあたるが、当の彰子が一条天皇の心を捉えられる気配はなく…。

 前回から続き、我が子一条帝に反発されてハートブレイク状態の東三条院詮子様が、体から支えの一本柱を引き抜かれたようなグラグラな心もとなさでご登場。帝は二十歳を超えたのに、今初めて思い知る母としての至らなさ・・・といったところか。

 そうと知らず、道長夫妻が女院詮子様の心の傷口に塩を塗りこんでいた。まずは彰子を中宮に立てるために手紙を書いてほしいと道長が頼む場面。

女院詮子:道長、凄いことを考えるようになったわね。ひとりの帝にふたりの后。いいんじゃないの?

道長:誠でございますか?

詮子:だって、やりたいんでしょ。私は亡き円融院に女御のまま捨て置かれた身。その事を思えば、一帝二后も悪い話ではないわ。

道長:今のお言葉、文にして帝にお届けくださいませぬか?

詮子:いいわよ。明日、蔵人頭の行成に取りに来させて。

道長:ありがとうございます。(深々と頭を下げる)

詮子:(眉間にしわを寄せ、元気なく)私の文くらいで帝が「うん」とおっしゃるかどうかは分からないけれど・・・。

道長:女院様のお言葉に、帝はお逆らいになりますまい。

詮子:・・・・・そうね・・・。

 そして、倫子様がアドバイスを求めてきた場面。

倫子:彰子が帝のお心をとらえ奉るには、どうしたらよいのでございましょう。

女院詮子:そうね・・・。

倫子:女院様。帝のお好きなものをお教えくださいませ。お好きなお読みもの、お遊びごとなどご存知であられましょう?

詮子:帝のお好きなもの・・・ん~・・・よく知らない。あなたは子らの好きなものを知っているの?

倫子:もちろんでございます。田鶴は、体を動かすのが大好きでございます。妍子はキラキラした華やかな装束や遊び道具を好みます。せ君は、まだ小そうございますが、駆け比べが大好きでございます。

詮子:(小さく笑う)

 大好きな弟・道長のことはよく見ていたのにね。だから観察眼の無い人ではない。しかし、自分の子の好みには関心が向かなかった。子が従順で逆らわないから、自分の好みを押し付けておけばそれでOKだと思っていたのだろう。

 道長夫妻との会話を通して、そう信じていた過去の自分を呪っているだろうね。ますます自信喪失し、パワーが弱まっていっている女院様だ。

 中級貴族になったまひろの子育てを見ていても「御方様、そのようなことは私がいたしますので」と、オシメ替えさえ、まともにやらせまいと乳母・あさが割って入る。替えたオシメも、さらに下請けのきぬが持ち去った。排泄物を捨て、汚れたオシメを洗うのは彼女の役割なのだろう。

 つまり、「私もやってみたいの」とまひろのように積極的に関わろうとしない限り、子は産みっぱなしで貴族女性は無縁でいられそうなのだ。上級貴族の生まれの、中でも女院様の場合、子は帝になる身だから、さらに厳格に乳母が抱え込んでオシメ替えなどもタッチさせてもらえなかったかも。そうすると、実質的な子育てに関わることなく済んでしまう。

 そういうものだ、それでいいと女院様は思って、普通の子育てには関心を抱かずここまできて、結果、子の好みさえ分からなくなったということかな。朝ドラ「虎に翼」の主人公寅子が、娘の心を取り返そうと努力している最中だが、努力しないとここまで行きつくということだな。

女院様としていつも何事も思いのまま。人をコントロールして支配するばかりで、恋も知らず、他者を尊重する塩梅が分からないのかな。

 前回ブログでこのように書いたが、実は具体的にある知人の親子が頭に浮かんでいた。親本人には悪気は無いみたい。でも「こうだ、ああだ」と、娘の意向にはお構いなく一から十までどんどん決めつけたのだそうだ(娘によると)。

 そして、自分の言いなりになって無言を貫く娘について「見事な女になった」と子育てに自信満々、周りに自慢して娘を驚かせたそうだ。

 女院様も同じく、言いなりの息子を素晴らしく育てあげた自慢の息子と思っていたんだもんね。ふたりとも、自分の娘と息子を「すん」とさせていただけなのに・・・「虎に翼」風に言えば。

 書いていて、女院様は兼家パパそのものなんだなあと改めて思う。詮子様はパパ似、「女兼家」なんて書いたこともあったね。

 このような、他者を尊重しないグイグイな人が近くにいて、万事が決められてしまうと心まで浸食されて鬱屈が溜まる。彰子や、一条帝みたいな反発できない性質の良い「素直な子」ほど被害が大きくなりそう。

 だから、遅い反抗期だったかもしれないけれど、一条帝は爆発して良かったよ。自分の人生を生きなきゃね。まともな親なら、子には自分なりの人生を歩んでほしいはず、それは嬉しいことのはずだ。

愛しきおなごは定子だけ・・・だが

 一条帝は、彰子も自分と同類の、親の操り人形で気の毒に見えた。だから「我が身を見るような心持になって」「彰子を形の上で后にしてやってもよいのかも」と言い出し、左大臣道長と帝の間に立つ行成をホッとさせた。

 一条帝は、母の女院から一帝二后を勧める文を貰った時には、激高してこう言ってたもんね。

一条帝:皆が定子を好んでおらぬことは知っておる。されど、后をふたり立てるなぞ受け入れられるものではない。朕の后は、定子一人である!

 この時に、「いかがであった!」と勢い込む道長に聞かれた行成の回答が、なんでそうなるの?というほど変成していておかしかった。「行成フィルター」を通すとこうなるのだ。

行成:(引きつった笑顔)お考えくださるご様子ではございました

 イヤイヤイヤイヤ、一条帝は明確に拒否していたよ。しかし、さすが政治的バランス感覚に優れた行成というか・・・あの回答が帝と道長の双方のためには正解になる。帝にはああ言わせておいて、道長の望みの方向で納めてしまうのだから大したものだ。

 行成は、昔から道長が大好きだもんね(ドラマの設定では)。「よくぞ帝のお気持ちを動かしてくれた。礼を言う」「四条宮で学んでいた頃より、そなたはいつも俺にさりげなく力を貸してくれた。今日までの恩、決して忘れぬ」と感謝され、手を握られた行成は「ああ・・・!」と思わず声が漏れて、キュンと感激しちゃっていた。推しにこれほど感謝されちゃったら、その反応は当然だね。

 続けて道長は「そなたの立身はもちろんこの俺が、そなたの子らの立身は俺の子らが請け合う」と言い、それも史実の本人には嬉しいことだったから日記「権記」にも書いたのだろうけど、ドラマの行成は道長に手を握られたことの方が絶対に嬉しいだろう。

 しかも、この直後に道長は行成の腕の中に倒れた。こんなに体調不良でも頑張っている推し!行成が「道長のために・・・ウルウル😢」と更に思う訳だ。

 結局、悩む帝を説得したのは「氏の祭祀」の問題だったらしい。それを指摘した行成の勝利だった。

蔵人頭行成:お呼びでございますか?

一条帝:彰子の立后のことだがまだ心が決まらぬ。くれぐれも公にすることのなきよう、よしなに取り計らってくれ。誰かの口から聞けば、定子が傷つく。それを思うと耐えられぬ。

行成:(体が震える)恐れながら、お上はお上にあらせられまする。一天万乗の君たる帝が、下々の者と同じ心持ちで妻を思うことなぞ、あってはなりませぬ。大原野社の祭祀は、代々藤原より出でたる皇后が神事を勤める習わしにございます。されど、中宮様がご出家されて以来、神事をお勤めになるお后がおられませぬ。なすべき神事が成されぬは、神への非礼。このところの大水、地震などの怪異は神の祟りではないかと私は考えまする。左大臣様も、そのことを憂えて、姫様を奉ったのだと存じます。ここは一刻も早く、女御彰子様を中宮様と成し奉り、神事を第一にすべきでございます!それがならなければ、世はますます荒れ果てましょう。・・・何もかも、分かっておいででございましょう。(帝、動揺して目が泳ぐ)お上、どうかお覚悟をお決めくださいませ。お上。

ナレーション:一条天皇は、一帝二后を承諾した。前代未聞のこの宣旨を聞いて反発する公卿はいなかった。あのご意見番の実資さえ、異を唱えなかったのである。

 いや~すごい長台詞。行成役の渡辺大知、頑張ったよねえ。失敗朝ドラと言われる「ちむどんどん」の中で、ホッとさせてくれたのは彼ぐらい。こうして大河ドラマで活躍してくれて嬉しい限りだ。

 (問題児ニーニー役の中の人・竜星涼も藤原隆家役でご出演中だが、ニーニーが出てくるだけでうんざりして、中の人は気の毒だった。その埋め合わせで今回の大河出演かな。それも良かった。)

 それにしても、だ。つまり彰子は生贄の扱いなんだと、当時の貴族社会では理解されていたんだな。だから、誰も異を唱えない。政権トップの左大臣の娘であり、実際の嫁としては役に立たぬ小学生の年齢の彰子が形の上の后に立つ。天変地異が生贄の娘で収まると信じられてきた時代には、あり得る考え方なんだろう。

 ここのところ毎回お世話になっている年表(「校注枕冊子」田中重太郎著)を見ると、長保二年(1000年)2月25日に中宮定子が皇后になって女御彰子が中宮になって以降、6月には大雨、疫病が流行し、8月には洪水。冬にも疫病が流行して翌年の春夏に及んだそうだ。

 なかなか思惑通りには天変地異は収まらなかったようだ。

 ただ、その年の12月15日に皇后定子が崩御した翌年の長保三年(1001年)は、前年からの疫病はあったが11月に内裏が炎上したくらいで、他の災害は記されていない。女院が暮れに亡くなることはあっても、前年の新中宮彰子の立后(そして皇后定子の崩御)は良い効き目があったと評価されたかも。そうだとしたら、後々の宮中での彰子の影響力を増すことにもなっただろう。

 この「校注枕冊子」の年表は、この1001年が最後。枕草子の内容と、まつわる政事向きの動きや色々な世の中の出来事の日付までがコンパクトに書いてあってドラマを見るには頼りになった。今後は何を頼りにしましょうね・・・。

 そうだった。「光る君へ」の時代考証担当の倉本一宏さんがどんぴしゃの解説をネット上で書いていた。きっと彼が世間に向けて特にハッキリ言っておきたかったのは、これだと思う。紫式部の娘・賢子についてだ。

もちろん、父親は宣孝である。道長が慌てて日記で抹消したこととは? 彰子立后を時代考証が解く(倉本 一宏) | 現代新書 | 講談社(2/6) (gendai.media)

 行成と一条帝のやり取り等、今回のドラマの進展も、割と史実に忠実に運んでいたんだなと分かる。道長が、ダーッと筆を入れて日記の記載を消した場面とかも。そしてもっと詳しく知りたい方は、彼の著作『紫式部と藤原道長』『平安貴族とは何か』等がとても勉強になっているのでお勧めしたい。巻末の略年表がざっくりなのが惜しいんだけど・・・。

 

定子は死んでも一条帝の心を離さない

 分かっていたことだが、皇后となった定子は、次女の姫皇子・媄子を出産した際に惜しくも亡くなった。昔から定子が好きだったので、やはり悲しかったなあ・・・。

 ドラマの宮中ではすっかり悪者扱い。お祓いの対象とまで思われているが、彼女が悪いことなんて本来的には無いのにね。発作的に出家してしまっただけだ。それも、家族が政争に敗れた結果、排除される側に立ってしまってそうなっただけだと思う。

 帝がもっと成長していたら、定子を守りきれたのかもしれない。まだ少年だったから、定子ラブが過ぎて・・・いやいや、源氏物語でも、十分大人の桐壺帝は桐壺更衣を守り切れなかった。

 やっぱり宮中って恐ろしい世界なんだ。しっかりと力ある後見が付いていないとダメ、自分の非を認められずにいつまでも道長を呪ってばかりの頭が足りない伊周じゃあダメなんだ。まだ状況を見て立ち回れる隆家が兄だったら良かったのに・・・!

 (しかし、定子出産の際に伊周と兄弟そろって魔よけの弦打ちの儀をするはずの隆家が、居眠りをしていた。それで姉が死んじゃったと、後で引きずるんだろうか。彼は無いか。)

 一条帝は、定子との間に子どもをたくさん儲けることで定子の立場を確かなものにしたかったのではないかと思うけれども、定子の体調が付いていかないようでは・・・年子だもんね・・・。

 前回の出産でも肩で息をしていたぐらいで、産後の肥立ちもはかばかしくない様子だったのに、すぐに懐妊。体の内側が治っていなかったんだろうなあ。ドラマではそこら辺の定子の体調が説得力のある描かれ方だった。

 彰子立后の儀直前の、帝と定子の対話場面が溜まらない。

一条帝:后を二人にすること、許せ。すまぬ。

藤原定子:お上。私こそ、お上にお詫びせねばなりませぬ。父が死に母が死に、兄と弟が身を落とす中、私は我が家のことばかり考えておりました。お上のお苦しみよりも、己の苦しみに心が囚われておりました。どうか、私のことは気になさらず彰子様を中宮になさいませ。さすれば、お上のお立場も盤石となりましょう。

一条帝:・・・そなたは、朕を愛おしく思うておらなかったのか。

定子:(目を見て)お慕いしております!(目を伏せて)ですがそもそも、私は家のために入内した身にございます。彰子様と変わりませぬ。

一条帝:・・・これまでのことは、全て偽りであったのか?(目を伏せている定子を抱きしめる)偽りでも構わぬ。朕はそなたを離さぬ。

定子:お上・・・人の思いと行いは、裏腹にございます。彰子様とて。見えておる物だけが全てではございませぬ。どうか・・・彰子様とご一緒の時は、私のことはお考えになられませぬよう。どうか・・・。(涙声)

一条帝:(定子を見つめ、抱きしめる)定子・・・。

 まあ、帝だから仕方ないが、一条帝は欲しがり坊やだ。定子は一条帝のため、彰子のためを思って己を押さえて苦しい発言をしているのに、「全て偽りだったのか」なんて言っちゃう。

 でも、定子に涙声で「人の思いと行いは裏腹」だと言われて、定子の思いが自分にあることは分かったと思う。なんて立派なの、定子・・・自分を駆逐する最終兵器として送り込まれたのが彰子だというのに。清少納言が一生懸命お仕えするのも分かる。

 三度身籠った定子は、つわりで食が進まないのだろう。清少納言は珍し気な青刺しという菓子を用意して、定子に勧めた。菓子を載せた懐紙を半分に切って、定子は歌をしたためた。

清少納言:(定子の歌を詠みあげて)「みな人の 花や蝶やといそぐ日も 我が心をば君ぞ知りける」

定子:そなただけだ。私の思いを知ってくれているのは。

清少納言:長いことお仕えしておりますゆえ。

定子:いつまでも私のそばにいておくれ。

清少納言:私こそ、末永くお側に置いていただきたいと、いつもいつも念じております。

定子:そなたの恩に報いたいと、私もいつもいつも思っておる。

ふたり:いつもいつも。(笑い合う)

定子:少納言と話をしていたら、力が出てきた。青刺し、いただいてみる。(小さくちぎって、口へ運ぶ)美味しい。(清少納言の顔がほころぶ。微笑み、夕暮れの庭を眺める定子)

 青刺し、もっとちゃんとたくさん食べなきゃダメだって、定子!全然栄養が足りてないじゃないの・・・。

 ドラマでは、次の場面の定子は、既に産褥で命を落とした後だった。こうなるともう涙が止まらない。定子が几帳に結び付けた紙に遺した辞世を、目にした一条帝の表情が映るのを見るたび、こちらとしては毎回ハンカチが必要になる。

定子:「夜もすがら 契しことを 忘れずは 恋ひむ涙の 色ぞゆかしき」

 「春はあけぼの」の時もそうだったが、定子の中の人の高畑充希の声が良くて、心にじんと沁み込んで来る。そして、とめどなく流れる涙の演技、帝もお疲れさまでした。本当に、何という悲恋。一条帝の人生はあと10年程と短いが、ずっと定子が心にあったことだろう。

 公式サイトにあった定子インタビューでは、高畑充希がこう言っていた。

私としては、“最期までちゃんと燃え尽きた”という印象です。すべてのことに全力で向き合った人生だったなと感じますね。定子として生きる中で、自分ではない誰かに引っ張られてギリギリの状態で立っている感覚がすごく強くて、もう少し楽に生きる方法もあったのではないかと思わなくもないんですけれども、私は、激動の人生を懸命に駆け抜けた定子の生き方は好き(藤原定子役 高畑充希さん ~真実の愛を貫き、燃え尽きた命 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 誰かに引っ張られてギリギリで立っている人生、確かに・・・分かる気がする。愛する父、優しかった兄に「皇子を産め~」と脅されるようになるなんて、地獄だっただろう。それを宮中を敵に回した逆境で3人も。よく頑張ったよね。

倒れた道長、綱引きの2人の妻が双子コーデ

 ところで、道長は彰子立后の後、倒れて危篤となった。まひろの声「逝かないで」に導かれて蘇った様子で、立派なお屋敷に並んだ家族や家人一同も、宮中の公卿の面々も実資を除いてヤレヤレだったろう(実資、チャンスだと思ったようで「私なら」を繰り返していたね、道綱にも聞いてもらえなかったけど)。

 道長は目覚める直前「まひろ」と言ったが、あれは声に出ていたのだろうか。やつれた源明子が「明子にございます」と道長に言ったという事は、道長の「まひろ」が聞こえていて、そうじゃないってばー、明子だってばと答えたようにも見える。

 怖いなー。まひろ、呪詛されるかもよ。そして、倫子様に「殿は、まひろと口走っておいででした。いったいまひろとはどなたでしょう?」などと明子から言われた日には、もう終わる。

 この道長危篤時に、道長妻の明子と嫡妻倫子様の静かなバトルが怖いと話題になったが、二人の袿(うちき)がそっくりの双子コーデになっていたのに改めて気づかされた。まさにここでも一帝二后、2人の妻が道長を挟み、ビジュアル的にも分かりやすかった。

 明子は、初登場の際は真っ白な袿で廊下を歩いていた。道長の妻となって以降は、今回と同じ、クリーム地にカラフルな花が丸く咲いているような模様の袿を着続けているように思う。倫子様の最近の袿は上品な深紅が目立ったが、若い時の、多分打毬大会を見に行った頃は、今回着ていた袿が活躍していた気がする。

 今回は、その2人ともが似通った白~クリーム地にカラフル文様の入った袿を着ていたので「なんであんなにそっくりな袿を着せるの?」と不思議に思ったのだったが・・・道長を挟んでの綱引きを強調したかったのかな。

 あれって道長の好みに合わせてる設定か?自分好みの袿を2人の妻に同時に着せるなんて、なんか気持ち悪い。もしかして、似たような生地の袿をまひろが着ていたことがあったのかな・・・貧乏だったから無理かな・・・色合い的には、為時パパが立身した直後の袿がそうだったかもしれない。

惟規は何を知っているのか

 今回の冒頭、まひろの弟・惟規がやってきて意味深な言動をしていた。

惟規:学問は得意だけど乳飲み子の扱いは下手だな。

まひろ:(赤ちゃんのおしめを替えながら)初めてのことだもの、致し方ないでしょ。

惟規:きぬやあさがいてくれて良かったよ。

まひろ:まことに。

惟規:(赤ちゃんをのぞき込んで)おでこの辺りが宣孝様に似てるね。ああ、この辺りも。耳とかも・・・。

まひろ:もうやめて。

惟規:だって、おなごは父親に似るっていうから。

まひろ:(惟規を見る)

惟規:無理・・・してないよ別に。

 これでオープニング曲に切り変わってしまったのだったが、惟規が何を言わんとしたのかがはっきりとは分からなかった。

 私は、惟規がかつて漢籍の習得で苦労したことからの「無理してないよ」だと思ったのだが。おなごは父親に似る、つまりまひろは父・為時に似て漢籍をスイスイ覚えたのに、自分はそうではなく、辛かった。

 そのコンプレックスがあるのに、無理して「おなごは父親に似る」なんて口にしたのではないかと、まひろが気にしそうだと慮って、惟規は姉に先回りして言ったのではないかと思った。

 ところがSNSでの反応はそうではなかった。「惟規は赤ちゃんの父が道長だと知っており、それでわざと宣孝に似ているーと声高に呼ばわっているのだ」と考えた人が多かったみたいだった。うーむ、そうなのかな。

 あの三郎が、道長という名前だとは惟規は知っている。庚申待の夜のこと、まひろ宛ての手紙を百舌彦から受け取り、いたずらに先に読んでしまって「道長って誰」「まだ三郎と付き合っていたんだ」と姉をからかっていたから。果たしてSNSの皆さんが言うように、その先を彼は知ったのだろうか。

 まあ、その可能性はあるけどね。いと辺りが言いそうだけれど・・・その意味での「無理してないよ」なのか?うーむ、そうかな・・・。

 謎は残った。

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#27 まひろと「道長ご落胤」を育てるつもりの宣孝、権力者に恩を売って立場は安泰、万々歳

やっぱりの「不義の子」を授かる展開😅

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第27回「宿縁の命」が7/14に放送された。時は999年(長保元年)というスリーナインイヤー。前回妄想をグダグダ書いたが、やっぱりのW不倫、そして不義の子誕生という、不倫現場の石山寺のX公式アカウントも取り乱す展開になった。

 まずはドラマの公式サイトからあらすじを引用する。

(27)宿縁の命

初回放送日:2024年7月14日

石山寺でばったり出会ったまひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)。思い出話に花を咲かせるうちにふたりは…。そして季節がかわり、道長の娘・彰子(見上愛)が入内し、その6日後に定子(高畑充希)は皇子を出産。一条天皇(塩野瑛久)の気持ちはますます定子と皇子へと傾く。道長は晴明(ユースケ・サンタマリア)に相談を持ち掛けると、とんでもない提案をされる。一方、まひろは懐妊が発覚し、宣孝(佐々木蔵之介)は喜ぶが…((27)宿縁の命 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 前回の終わり、まひろがひとり祈りを捧げる場所へと、道長が月光をバックに入ってきた。そこから2週間のお預けを経て、2人は再会。「殿がまた来てくれるようにお願いする」と彼女は石山寺参詣の目的をいとや乙丸に告げていたが、石山寺の御仏のご意思が向けられた「殿」は、宣孝ではなく道長だった。

 この人智が及ばない決定に対して、人間が逆らおうとするのは無理と言うもの。そうでしょう?不義だのなんだの、人間の尺度で文句なんか言えないよ、御仏のご意思なんだから・・・という設定だ。

 始めこそ落ち着いた会話を交わしていたかに見えた、まひろと道長だったが、道長側の思いはダダ漏れだった。彼の言葉を拾ってみる。

  • 大水と地震で、屋敷がやられたであろう。あの辺りは痛手が大きかったゆえ、案じておった。(まひろがいつも心配なんだね)
  • やらねばならぬことが山積みゆえ。手に余ることばかり次々と起こって、その度にまひろに試されているのやも・・・と思う。(まひろに話を寄せてきた)
  • ほう~すぐ怒るのは相変わらずだな。(懐かしいね)
  • 謝るな。それしきのことで腹は立てぬ。(相変わらず心が広い)
  • 1度だけお前に腹を立てたことがあったな。今、そのことを考えたであろう?(まひろの表情をよく見ているね)

 この後、まひろが「偉くおなりになって、人の心が読めるようになられたのですね」などと、とぼけたことを言い出した。それに対して、道長はビシッと返した。

  • 偉くなったからではない。(万感のまなざしを向ける。おお~)

 道長は、まひろへの思いが深いから、まひろの心が読めただけだ。まひろも己のトンチンカンに気づき、押し黙った。そして、越前行きの話が進み、道長はこう言って、まひろと見つめ合った。

  • 戻ってきて良かった。

 ここで踏みとどまろうと判断したか、まひろは「供の者たちと参りましたので、もう戻らねばなりませぬ」「お目にかかれてうれしゅうございました」「お健やかに」と道長に別れを告げた。彼も「引き留めて済まなかった」「お前もな」と、一旦は受け入れた。

 が・・・道長は、まひろに吸い寄せられるように駆け戻ってきちゃったもんね・・・泣きそうな顔をして。無言で互いに向かって走り出す2人。こうなったら誰も2人を止められない。映像はスローモーション、BGMも最高潮だ。

 この時の副音声が攻めている。NHKなんだよ?

副音声:見つめ合う2人。互いに駆け出す。抱きしめ合う。まひろを見つめ、頬に触れる。指先で唇をなぞり、唇で塞ぐ。身を委ねるまひろ。

 真実の思いは、口からの言葉が途絶えてからじゃないと出てこなかったんだね。几帳に囲まれた、ほの暗い道長の参籠所で2人は一夜を共にする。もう、いつもの廃邸という訳にもいかないから、設定としてはお寺の中だ。それだけ、御仏の縁結びのご意思に適っていた訳だ。

 しかし、まるで少女漫画の世界だ。権力の頂に立つ人物から、密かに愛され続けているヒロインなんて理想的じゃんね。

 石山寺公式Xの反応も面白かったので、貼り付けさせていただく。

 誤字が発生する程の慌てぶり。その後、気を取り直して

・・・と、つぶやいておられた。困惑しても致し方なしとも思うが、昔からお寺さんは男女の出会いの場ではなかったの?ドラマにおいて肝心な場面の現場になったという事で、どうぞご容赦を!と、いちファンからもお願いしておく。

 そういえば、道長との会話の中で、まひろは今後に向けて大切なことを言った。

まひろ:越前には美しい紙があります。私も、いつかあんな美しい紙に歌や物語を書いてみたいです。

 その時期は、そろそろ近付いているのかな。

宣孝は心が広い?ちゃっかりじゃないの?

 まひろは道長の腕の中で、こう聞かれた。

道長:今一度、俺の傍で生きることを考えぬか?

まひろ:お気持ち嬉しゅうございます。でも・・・。

道長:俺は、また振られたのか?(小さく微笑み、体を寄せ合う)

 この、まひろの煮え切らない回答が、ちょっとわからない。なぜ、この期に及んでまひろは道長の申し出を受け入れなかったのだろう。

 環境の変化を嫌ったのだろうか。以前のように、やっぱり嫡妻倫子様のことを考えたか。それとも、この時点ではほぼ見捨てられた状態だったにもかかわらず、夫の宣孝に望みを懸けていたのだろうか?

 それで道長は、まひろのためを考え、宣孝に大きな役目を回したんだろうなあ・・・2つも。そうとしか思えない。

 「まひろを疎かにするでない」という左大臣の気持ちを受け取った宣孝は、己の行動を考え直したのかもしれない。それで、またまひろの下へとノコノコやって来た。そう見える。

 何だかな・・・どうもちゃっかりしていて、宣孝に腹が立つ。

いと:(まひろ宅にやってきた宣孝を見て)まっ!殿様!

宣孝:ああ。いと、久しぶりじゃのう。まひろのご機嫌はどうじゃ?

いと:お寂しそうにされておりましたよ。

宣孝:(嬉しそうに)そうかそうか。(まひろの居所へ足早に移動、鴨居に烏帽子をぶつける)イタ!

まひろ:ああ!お帰りなさいませ。

宣孝:喜べ!11月に行われる賀茂の臨時祭にて神楽の人長を務めることとなった。

まひろ:おめでとうございます。

宣孝:その後、宇佐八幡宮への奉幣使として豊前にも参る。

まひろ:11月はお忙しくなりますね。重いお役目を2つも。

宣孝:それもこれも左大臣様のお計らいだ。まひろのお陰で俺も大事にされておるのだよ。ハハハハハ!人生、何が幸いするか分からぬところが面白いのう。オホホホホホホホ!

 宣孝がまひろに「左大臣道長に見限られた女」であるかのような憎まれ口を叩き、お返しに灰を投げつけられてから、しばらくぶりの会話だ。たぶん数か月~半年近く、間が開いただろうか。

 道長の計らいで重いお役目を2つも仰せつからなかったら、宣孝はまひろの下へ戻って来てはいなかったよね。

 宣孝は、道長がまだまひろに思いがあると知り、道長政権下でまひろを妻としていることの価値を再確認したはずだ。「まひろを放っておいたら左大臣様に睨まれる」と考え、また来ることにした。はー、ちゃっかりしてるよ。

 だからね・・・まひろが懐妊を告げ、別れを切り出した場面の宣孝の反応に、巷のようには感動できなかった。私の中では、全然宣孝の株も上がっていない。全力でご機嫌を取り始めたな・・・としか思ってない。

宣孝:(夕餉の席。箸を置いたまひろを見て)口に合わぬか。まひろのために求めてきた鮎であるぞ。いかがいたした?

まひろ:実は、子ができました。

宣孝:なんと・・・おお、この年でまた子ができるとは。いつ生まれるのじゃ?

まひろ:恐らく今年の暮れに。

宣孝:暮れか。今年は忙しい年になるな。ああ、暮れはまだ奉幣使として豊前におるゆえ、傍にいてやれぬが良い子を産めよ。ハハハハ。

(夜)

まひろの心の声:よく気の回るこの人が気づいていないはずはない。(宣孝の寝顔を眺め、縁に出る。雲に影る月)気づいていて、あえて黙っている夫に「この子はあなたの子ではない」と言うのは無礼過ぎる。さりとて、このまま黙っているのも更に罪深い。(部屋に戻る)

宣孝:(鼾をかいている。息が止まり、苦しそうに目覚める)はっ!いかがいたした?また気分でも悪いのか?

まひろ:いえ、大事ございませぬ。

宣孝:ああ、良かった良かった。眠ってる間は気分の悪さも忘れるゆえ、早く寝よ。

まひろ:はい・・・。

宣孝:わしが背中をさすってやるゆえ。

まひろ:勿体ないことにございます(声が震える)。

宣孝:勿体ないことはなかろう。俺たちは夫婦だぞ。

まひろ:(意を決したように)殿・・・お別れしとうございます。

宣孝:・・・このような夜更けに、そのような話はよせ。

まひろ:この子は私ひとりで育てます。

宣孝:何を申すか。そなたの産む子は誰の子でもわしの子だ。(驚くまひろ)一緒に育てよう。それで良いではないか。わしと育てるのは嫌なのか?

まひろ:いいえ、そのような・・・。

宣孝:わしのお前への思いは、そのようなことで揺るぎはせぬ。何が起きようとも、お前を失うよりは良い。その子を慈しんで育てれば、左大臣様は益々わしを大事にしてくださろう。この子は、わしに福を呼ぶ子やもしれぬ持ちつ持たれつじゃ。

(まひろの手を取り)一緒になる時、お前は言った。私は不実な女であると。お互い様ゆえ、それで良いとわしは答えた。それはこういうことでもあったのだ。

まひろ:殿・・・(泣きそう)

宣孝:別れるなぞと、二度と申すな。(優しく微笑む。まひろも、潤んだ瞳で微笑む)

 会話を見返してみても、まひろの未熟な若さ、純情な生真面目さが宣孝に大いに利用されているようにしか見えない。宣孝が救世主に見えているんだろうな。

 まひろは、宣孝の足が遠のいた時期に不義の子を懐妊したことを、悩みながらも宣孝に告げた。勘の良い宣孝ならわかるはずだと思いながら、いつ頃生まれるかを誤魔化さずに言ったのだった。不義の子だから自分1人で育てようと、宣孝に別れも切り出した。

 話題になっているのは、その後の宣孝の言葉だ。「そなたの産む子は、誰の子でもわしの子だ」と。

 それについて「何と心の広い」系の称賛する向きが多いのだが・・・宣孝の、揺るぎないまひろへの思いの中身って何だ?「何が起きようともお前を失うよりは良い」って、だったら何で半年近くも放っておいて平気だったのだ?矛盾してる。

 道長に促されたからこそ、宣孝はしれっとやってきた。まひろの懐妊についても、それこそ勘の良い宣孝は「はは~ん、薄々そんな事だろうと思った」と計算していただろう。

 まひろは政権トップにいる左大臣の恋人だと、宣孝は重々分かっている。それが目の付け所だと白状している。「まひろのお陰で俺も大事にされておるのだよ」と。そこに道長の子まで加わるのだ。つまり、道長に対して「人質」が増えたようなものだ。新たに恩を売れるお役目が増えたというか、ね。

 だから実のところ、まひろの懐妊については宣孝は万々歳。道長様が権力の座にいる限り、俺は安泰だー!だよね。

 まひろを賢いトロフィーワイフとして自慢して回る人間だということは、これまでの彼の言動にも見えていた。道長のご落胤がプラスされて更にまひろの価値は上がり、ますます手放せなくなった。宣孝は悪人とまでは言わないが、損得勘定に生きるタイプだと思う。

 まひろ、宣孝に対して遠慮したりすることはないよ。

道長=綱吉、まひろ=染子、宣孝=吉保みたい

 宣孝のケースは珍しくない。殿の大っぴらにできない恋人とご落胤を陰で匿い育てる家来の話なんて五万と聞く。例えば後の世だが、宣孝の立場は徳川5代将軍綱吉の側用人・柳沢吉保みたいだ。

 吉保の長男は飯塚染子が産んだ柳沢吉里だが、綱吉が、柳沢吉保邸の染子に通ってできた子が吉里だという説がある。つまりご落胤説だ。(柳沢吉里 - Wikipedia

 大河ドラマだと、「元禄繚乱」で高橋一生が演じていた柳沢吉里を憶えている。ご落胤そのものではなく、誤解に翻弄される話だったような・・・。そして、吉里とその母染子を世話する柳沢吉保は、綱吉に重用されて出世した。

 宣孝も、左大臣の恋人とご落胤を庇護する代わりに、旨味をたっぷり享受するつもりだろう。父に似て生真面目なまひろは、不実な自分を宣孝が受け入れてくれたとホッとして目も潤んだのだろうが・・・人が良過ぎる。

 それにしても、睡眠中の宣孝について、まひろが喜々として書き記していた言葉が気になった。

殿の癖。いつも顎を上げて話す。お酒を飲んで寝ると時々息が止まる。

 書きながらも宣孝の息が止まる様子が聞こえ、まひろは微笑んだ・・・微笑んでいる場合じゃないけどね。こちらの方が、このまま黙っていたら罪深い。

 今回、無呼吸症候群に見える中の人の秀逸なイビキ演技がたびたび見られたが、宣孝はそうやって病死するのか。悪乗りし過ぎて、道長周辺に消される訳じゃないらしい。

悲しき中宮、女院様

 ドラマでは今回、赤ちゃんが2人生まれた。定子が一条帝の皇子を産み、まひろが道長の娘を産んだ。(そういえば、倫子様も道長の何人目かの子を宿していた。)定子の子は目がクリクリ。いったいどこで、こんなに似ている新生児をNHKは調達してくるんだろうといつも思う。

 次回は、そろそろ主要キャラが死ぬ時期を迎えそうだ。

 皇子を産んだばかりの定子は、清少納言の肩を借りて弱々しく息をしていた。同じ産後のまひろの様子とは大きく異なる。それなのに、妹が横たわる床の前で、権力への執念全開の伊周。そのために妹がこんなにも苦しんできたのに。

 人を生かすも殺すも、その人を支えている人に真の気持ちが有るか無いかだと最近思う。その意味で、定子は清少納言に命の糸をつないでもらったが、今回危うくなったのが道長の姉・東三条院詮子なのかもしれない。

詮子:皇子様のご誕生、まことにおめでとうございます。

一条帝:ありがとうございます。

詮子:皇子様はいずれ東宮となられる身。お上のように優れた男子に育っていただかねばなりませぬ。

一条帝:朕は皇子が私(朕?)のようになることを望みませぬ。

詮子:え?

一条帝:朕は己を優れた帝だとも思ってはおりませぬ。

詮子:なんと・・・私が手塩にかけてお育て申し上げたお上です。優れた帝でないはずはございませぬ。

一条帝:朕は中宮ひとり、幸せにはできぬのですよ。

詮子:それは、そもそもあちらの家が・・・。

一条帝:朕は、母上の仰せのまま生きて参りました。そして今、公卿たちに後ろ指をさされる帝になっております。

詮子:ですからそれは、伊周らが悪いのです。中宮も、お上のご寵愛を笠に着て、いい気になり過ぎたのですよ。決してお上のせいではございませぬ。

一条帝:こたびも母上の仰せのまま、左大臣の娘を女御といたしました。されど、朕が女御を愛おしむことはありますまい。

詮子:いいかげんに、中宮に気をお遣いになるのはおよしなさいませ。

一条帝:(大声で)そういう母上から逃れたくて、朕は中宮に救いを求めのめり込んでいったのです。全てはあなたのせいなのですよ!(言い過ぎたかと目を泳がせ、立ち上がって去ろうとする)

詮子:(かすれた声で)お待ちください!・・・お上はそのようにこの母を見ておられたのですか。

一条帝:はい。

詮子:私がどれだけ・・・どれだけつらい思いで生きてきたか・・・私が・・・(涙声)

一条帝:もうお帰り下さいませ。

詮子:私は父の操り人形で、政の道具で、それゆえ私は・・・

一条帝:(詮子に振り返って)朕も・・・母上の操り人形でした。父上から愛でられなかった母上の、慰み者でございました。

詮子:(涙を流しながら、かぶりを振って)そのような・・・私は・・・

一条帝:女御の顔を見て参ります。母上のお顔を立てねばなりませぬゆえ。(奥に去っていく)

詮子:(ひとり残され、とめどなく涙を流す)

 演じる吉田羊が、両目に涙をいっぱい貯め、ぽろぽろと泣いていた。円融帝に振り返ってもらえなかった彼女が、歯を食いしばって育ててきたのが一条帝。遅い反抗期のような苛立った言葉にあまり翻弄されないでほしいが、詮子は大きなショックを受けていた。

 生きる縁(よすが)までが断ち切られてしまったと、彼女は感じていそうだ。一条帝の八つ当たりにも見えるが、ただ、境界線を越えて、踏み込まない方が良いことまで彼女は息子に言ってしまった。遠慮というか、尊重が無さ過ぎた。

 女院様としていつも何事も思いのまま。人をコントロールして支配するばかりで、恋も知らず、他者を尊重する塩梅が分からないのかな。

 新たな操り人形という事では、道長の娘・彰子がそうだろう(操り人形どころか、生贄だった)。11/1に入内したばかりで、この日11/7に新女御となった12歳に対して、一条帝がまた辛辣だ。女院との会話を引きずり、心が毛羽立っていそうだ。やめてほしいなー、八つ当たりは。

一条帝:そなたのように幼き姫に、このような年寄りで済まぬな。楽しく暮らしてくれれば朕も嬉しい。

 なんちゅうイヤミ。一条帝は20歳前後。年寄りだなんて言われて、どう返すのが正解か悩ましい。彰子は「はい」としか言えず、道長は顔をしかめたが、致し方ない。彰子のせいじゃない。

猫がいるじゃないか

 彰子の入内前、倫子様と赤染衛門が花嫁教育に知恵を絞っていた。書も和歌も、そして下から上へと帝を見上げるシナの作り方、閨房での心得まで。一通りのことは赤染衛門が教えたものの、倫子様はこう言った。

倫子:勉学は要らないわ。何かこう、華やかな艶が欲しいの。みんなが振り返るような明るさが。(略)入内して目立たなければ死んだも同然。みんなの注目を集める后でなければならないのよ。衛門、我が家の命運が懸かっているの。力を貸しておくれ。あの子が興味を持つようなことは、何かないかしら?

 まずは声を出して笑ってくれないと困ると倫子様は考えていたが・・・華やかで艶があって、皆を簡単に笑顔にする存在が、彰子の身近にいる。猫だよ、猫!愛らしくて黒猫なんてツヤツヤだよ!一条帝と言えば、猫じゃないの~命婦のおとどはどこに?

 前回ブログにも引用した年表によると、999年の9/19には内裏の猫が子を産んだ。産養もあり、乳母は馬命婦とも記録がある。

 昔、倫子様が可愛がっていた小麻呂に代わり、最近は黒白にゃんこが赤い紐につながれてご出演。彰子もなでなでしていた。清少納言が「猫は、うへのかぎり黒くて、腹いと白き」が良いと枕草子に書いた猫そのままのような姿だった。

 この猫が、猫好きの一条帝を惹きつけ彰子を救うはず・・・源氏物語の出番が無くなったら困るな。

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#26 娘を「生贄」とする道長、新婚まひろは早くも成金オヤジ宣孝と破綻する

せっかくの「七夕の再会」が都知事選で放送休止

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第26回「いけにえの姫」が6/30に放送された。そして次の27回は、7/7の七夕に合わせたかのように主人公まひろと道長の再会が描かれそうな展開だったのに、東京都知事選があるから放送休止になった。本当に残念だった。

7月7日(日)総合 夜8時 は「都知事選開票速報」を放送します。 これに伴いこの日の「光る君へ」は、BSP4K 午後0時15分、BS・BSP4K 午後6時、総合 夜8時 のすべてで放送を休止します。 7月13日(土)再放送の時間帯は、前週の7月6日(土)と同じ第26回を放送します(2週続けて同内容となります)。 どうぞご了承ください。(大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 大河ドラマはお預けで、代わりにNHK総合午後8時の大河ドラマの本放送の時間は、都知事選の開票速報番組が放送されたのだった。ああ悲しい。そして、一応選挙結果を書いておくと、現知事が再選。投票率は6割超、確かに投票所はいつもよりも混んでいたような気がする・・・都民バレしましたね。もうすぐ移住するからいいか。

 今回は特に、都知事になる気もない、選挙システムを利用するためだけに立った自分勝手な候補者が多いように見えた。世も末だ。そんな候補者があふれる選挙のためにNHKの看板番組が休止になるなんて。NHKはテレビのチャンネルを4つもお持ちなのだから住み分けてほしいけれど、無理なんだろうか。

 SNSでは46道府県の大河ファンが「私たちには関係ない!普通に『光る君へ』を放送して!」と怒りを表明していたようだが、それもそうだよね。

 ちなみに、8/11もパリオリンピックで放送休止になるそうだ。えーっ、そうなの?

キーワードは「不義の子」だったか

 話を大河ドラマに戻そう。改めて、公式サイトから第26回「いけにえの姫」あらすじを引用させていただく。

(26)いけにえの姫

初回放送日:2024年6月30日

災害が続く都をまたも大地震が襲った。まひろ(吉高由里子)は、夫となった宣孝(佐々木蔵之介)の財で家を修繕し、生計を立てていた。道長(柄本佑)は、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)から、この天変地異を治めるためには道長の娘・彰子(見上愛)を入内させるしかないと進言される。心労から体調を崩した一条天皇(塩野瑛久)は、譲位して定子(高畑充希)と暮らしたいと行成(渡辺大知)に相談。それを聞いた道長は…((26)いけにえの姫 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 先走ってしまい申し訳ないが、もしかしたら、前回諦めた「あの展開」が、次回に待っているようだ。

 石山寺に参詣に行ったまひろは、思いがけず道長に再会した。月夜に扉を開けて入ってくる道長に、経を上げていたまひろは釘付けになって・・・という、そんないいところで今回は終わった。

 道長の背景には、キラキラと砂のような何かが舞い輝き、それってどこかで見たよと思ったら・・・廃邸でまひろと道長が初めて結ばれた時に、ぽっかり空いた天井から夜空が見え、そこから煌めく何かが降ってきていたけれど、それだよね。

 あのキラキラ、2人の逢瀬を盛り上げる特別な小道具なのかな。「まひろの理想の王子様登場」の花吹雪みたいな感じ?

 石山寺の参詣客の間での逢瀬の可能性については、第15回で、まひろに夜這い未遂を働いた道綱が示してくれていた(道綱は「まひろ」狙いだったのに「さわ」だったと気づいて止めたもんだから、その後ひと悶着が起きた)。あれは伏線だったのか。

 となると、やはり、まひろの一人娘・賢子は道長の子として描かれるしかないだろう。想定の第2シナリオ、待ってましたの(?)ドロドロ展開。まひろの紫式部としての将来を考えると、あれやこれやが益々楽しみになってきた。

 妄想を巡らせがちなこのブログでは、「道長の子をまひろが儲けるとしたら」で可能性があるのは、まずは道長の長女・彰子ではないかと考えていた。それが第1シナリオだった。つまり、

  • まひろが道長の子を若くして産み、その子(後の彰子)を倫子様が「源氏物語」の紫の上がしたように引き取って育て、入内させる

・・・という路線だ。まひろと道長の嫡妻・倫子様が不思議な関係を構築するとか何とか、倫子の人物紹介に書いてあったから(たぶん)妄想が爆発してそう考えたのだった。

 けれど、その妄想が潰えて以降は、今度は第2シナリオ「まひろの一人娘の賢子が、実は道長との子として描かれるのではないか」に期待してきた。

 しかし、まひろはオヤジ宣孝に嵌められたようにあっさり結婚、あんなに嫌がっていた「妾」になってしまった。それで前回、「なんだ、結局賢子は宣孝の娘なのか」と理解して、第2シナリオにも別れを告げたのだった😅

勝手な妄想だけど、歪な結婚が通る理由は、まひろの方の「訳アリ」だと思ったんだけどな・・・まひろが道長の子を身籠ったことで早急に父親(庇護者)が必要になっての結婚か?と散々妄想を広げてきたが、残念ながらそれはハズレで終わったようだ。(【光る君へ】#25 手抜かりなきオヤジ宣孝、道長を使って内・外堀を埋める「まひろ捕獲作戦」を実行す - 黒猫の額:ペットロス日記 (hatenablog.com)

 でも!ここでまひろと道長が再会するなんて!思ってもみなかった。やるなー、さすがの大石静だ。

 ここで既に、次回の道長とまひろの逢瀬を確定事項として語っちゃっているが、それは次回予告でまひろが「この子は私1人で育てます」と口走っていたから。そう言うからには、夫と共には育てられない「不義の子」だって自覚が彼女にあるからだよね?

 しかし、予想される話は、私の第2シナリオとも微妙に違う。宣孝との結婚前に道長との子をまひろが儲け、結婚をそのカバーアップと考えるだなんて、やっぱり私は考えが浅かった。どこかに主人公を優等生にしておきたい気持ちがあったのだろう。

 だが、源氏物語を下敷きにして見れば、キーワードはどう考えても「不義の子」になる。

 桐壺帝の后・藤壺の宮が産んだ冷泉帝は、実は光源氏の子。そして、光源氏の継室・女三宮が産んだ薫は、実は柏木の子だ。その不義を巡る懊悩が、魅力的な物語を形作っていく。

 となれば、まひろが産むのは「不義の子」でなければならない。その経験を彼女は今後、物語に書くのだ。それで葛藤や悲しみを昇華させていくのだ、蜻蛉日記の作者・道綱の母に教わったように。そうだよね?

「いけにえの姫」は2人いた?

 さて、次回に大きく妄想を飛ばしてしまった。まだまだ書きたいことがあるが止めて、今回のことを書こう。

 「いけにえの姫」というタイトルの通り、道長夫婦はあれだけ嫌がっていたのに、最愛の長女・彰子を一条帝に入内させることになった。それも生贄として。

 それは、安倍晴明の説得によるものだった。「長徳四年(998年)10月、日食と地震が同日に都を襲った」とナレーションが告げて今回は始まったが、前回も大水によって堤が決壊したりして、都は散々な目に遭ってきている。

 その根本理由を晴明は、一条帝が傾国の中宮・定子に入れ込んでいるからだと説明していた。今回も、晴明らから「天文密奏」を受けた一条帝が「朕のせいなのか」と虚ろな目の下のクマを青黒くさせていた。

 天変地異が誰かのせいだなんて、現代人にはナンセンス。一条帝&定子がひたすらに気の毒だ。が、当時の人々の考え方では為政者が背負うものらしいから仕方ない。平安からもはるか昔、卑弥呼は日食が起きたせいで殺されたなんて説も聞くし。

 ところで、道長が「人夫を増やしてまずは堤を急ぎ築き直せ」と指示したのは山城守と検非違使だったから、前回山城守に就任した宣孝は大変だったはず。仕事もしている宣孝だ。

 左大臣道長は、雷雨の中、晴明の邸に出向いた。それだけ心を悩ませ追い込まれていたらしく、一条帝に負けず劣らず目の下のクマが真っ黒だ。嫡妻の倫子様に痩せたとも言われていた。

安倍晴明:お出まし恐縮にございます。

道長:この天変地異は、いつまで続くのだ。お前の見立てを聞かせてくれ。

晴明:帝のお心の乱れが治まれば、天変地異は収まります。

道長:中宮様の下に昼間からお渡りになり、政を疎かになさっていることは先日お諌め致した。

晴明:天地(あめつち)の気の流れを変え、帝のお心を正しき所にお戻しするしかございませぬな。

道長:いかがすればよい。

晴明:左大臣様が良きものをお持ちと申しました。良きものとは、左大臣様の一の姫、彰子様にございます。(雷鳴)出家とは、片足をあの世に踏み入れること。もはや后たりえぬ中宮様によって、帝は乱心あそばされたのです。今こそ、穢れなき姫君を!

道長:義子様も、元子様もおられるではないか。

晴明:お2人の女御様と、そのお父上には何のお力もございませぬ。左大臣様の姫君であらねば。

道長:(雷鳴)できぬ。

晴明:私には見えます。彰子様は朝廷のこの先を背負って立つ御方

道長:そのような娘ではない!(狼狽を隠せない)引っ込み思案で、口数も少なく・・・何よりまだ子どもだ。

晴明:恐れながら、入内は彰子様が背負われた宿命にございます。(雷鳴が轟くが、一点を見つめ続ける道長)

 ちょっと待て。道長の兄で先の関白・故道兼の娘尊子が、確か998年(長徳四年)に入内していたはず。なんで道長の中では後宮には義子と元子しかいないことになっているのか?

 尊子の母は兼家パパの妹で、一条帝乳母の繁子。枕草子でも清少納言が彼女を念頭に「帝や東宮の乳母は羨ましい」と書く存在だ。つまり繁子は、今上帝の乳母として権力があったのだよね?

 ドラマでも繁子は、自堕落な道兼を決然と捨て尊子を連れて出ていった。その後、兼家パパの家司から、いつの間にか参議として陣定や彰子の裳着の儀にも顔を出すまでに出世した平惟仲と再婚しているはずだ。

 生前の道兼も、ドラマの中で尊子を入内させたいと言っていたのだから、尊子の入内話はいつの日か出てくると期待していたのだが・・・。

 初版が昭和50年と古いながら便利に使わせていただいている「校注枕冊子」(著・田中重太郎)巻末の略年表を確認すると、尊子は998年2/11に入内。道長と晴明の会話は同年10月前後だから、後宮には尊子もいる😅

 同年表によると、「長徳の変」が起きた長徳二年(996年)には、5/1に中宮定子が落飾、6月に大地震。7月には「大風」(台風のことか?)と賀茂川の洪水が起きている。7/20に公季娘の義子が入内、10月下旬に定子ママの高階貴子が逝去し、12/16に定子が第一皇女脩子内親王を出産。この年は火災も多かったそうで、激動の1年だった。

 翌997年は、3/25に女院病気平癒を祈る大赦があったが、5月には日食と大地震が発生。ドラマでは、翌998年10月の日食と地震の発生が描かれたが、確かにここ数年に都を襲い続けた天変地異は凄まじい。昔の人たちは大変だったね。

 尊子の入内のタイミングを見ると、997年の日食大地震の後の998年2/11なので、もしかしたら一族の第1の「いけにえの姫」は彼女だったのか?

 長兄・道隆の娘定子による災いを払うには、「まずは尊子で」と一族から次兄・道兼の娘を入内させてみたものの、同年10月に日食地震がまた発生。それで、とうとう道長が自身の掌中の珠・彰子を第2の生贄と決めたのだろうか。・・・妄想だけど。

 尊子が入内してからほぼ1年後の2/9、彰子は裳着の儀を迎えた。(この2/9~2/11前後の日取りは裳着とか入内にとって特別なものなのか、気になっている。)

 ちなみに尊子が女御宣下を受けたのは、後から入内してきた彰子の女御宣下(長保元年、999年11/7)よりも遅れた長保二年(1000年8/20)。それは無いよね💦

道長と倫子を説得した姉と母の言葉

 彰子の入内を心底渋り、目の下のクマがますます目立つ道長へのとどめは、女院の姉・詮子が刺した。

女院詮子:お前も、そろそろ・・・そのくらいのことをしたら?

道長:女院様まで、何ということを!

女院:身を切れということよ。お前はいつもきれいな所にいるもの。今の地位とて、あくせくと策を弄して手に入れたものではない。運が良かったのでしょ。何もかも、うまくいき過ぎていたのよ。

道長:身を切る覚悟は常にございます。されど彰子はまだ子ども。

女院:子どもであろうとも、それが使命であればやり抜くでしょう。

道長:酷いことを仰せられますな。

女院:フッ・・・それそれ。そういう娘を庇う良き父親の顔をして、お前は苦手な宮中の力争いから逃げている。私は父に裏切られ、帝の寵愛を失い、息子を中宮に奪われ、兄上に内裏を追われ、失い尽くしながら生きてきた。それを思えば、道長もついに血を流す時が来たということよ。朝廷の混乱と天変地異が治まるなら、彰子をお出しなさい。

道長:(拗ねて)姉上がそのように私を見ておられたとは、知りませんでした。

女院:(微笑んで顔を近づけ)大好きな弟ゆえ、よく見ておっただけよ。(拗ねた顔の道長を残し、上座に戻る)

 そして、とうとう道長は心を決め「彰子を入内させようと思う。続く天変地異を鎮め、世の安寧を保つため」と妻倫子に話すが、一度は倫子に「嫌でございます」と、きっぱり断られた。

 彼女の反発も道理、これまで道長は「入内して幸せな姫なぞおらぬ」と言ってきて、それとは相容れない話なのだから。

 それでも道長は引かず「これは生贄だ。手塩にかけた尊い娘ならばこそ値打ちがある」と言った。倫子は「不承知でございます」「どうしても彰子を生贄になさるのなら、私を殺してからにして」と啖呵を切って寝所を出た。・・・そうなるよね。

 道長が姉の女院に相談したように、倫子も母・穆子に相談。そして、同じように説得されてしまった。

穆子:入内したら、不幸せになると決まったものでもないわよ。ひょっこり中宮様が亡くなったりしたら?何がどうなるかは、やってみなければ分からないわよ。

 おお、母上は未来がお読みになれるようで😅彰子が入内して1年後には、定子は死ぬ。それだけ彰子のお祓い力は、安倍晴明が見込んだだけに圧倒的なのか。

 ところで、ロバート秋山演じる実資が、彰子の入内について「ないない」と言っていたのはどういう意味か?勧めても、かなり嫌がっているし、道長は断るよなあ・・・ということ?

 それとも「もし左大臣家の姫君が入内されれば、後宮の内もまとまり、帝のご運も上向いて、御代も長く保たれるのではございませぬか」と、あれだけ褒めちぎっていたのに、口から出まかせだったのかなあ。どうなんだろ。

深く悩むあまり、黒道長出現?

 安倍晴明は道長に、定子が正月に身籠り皇子が11月頃生まれると告げた。息を飲む道長は「呪詛しますか」と聞かれ、「父上のようなことはしたくない」と断ったが、BGMにはとうとう兼家パパお得意だった策謀に満ちた曲が流れ出す。そして、何かを思いつき道長は言った。

 「分かった・・・中宮様が子をお産みになる月に、彰子の入内をぶつけよう。良い日取りを出してくれ」

 目つきで黒道長出現なのか、と一瞬見えたが、そうではないだろう。彰子の力を信じ、帝や朝廷を本気で祓い清めようと、本腰を入れて効果的な手法を考えただけだろう。

 本腰を入れたのは倫子様も同様だ。11月1日を彰子入内と決めたと道長から告げられた時の反応がこうだった。

倫子:中宮様のお加減がお悪いとの噂でございますが、まさかご懐妊ではありません・・・。

道長:(被せ気味に)ご懐妊であろうとも、入内は決行する。

倫子:ご懐妊ならば、そのお子を呪詛し奉ってくださいませ。呪詛は殿のご一家の得手でございましょう?

道長:そのようなことはせずとも、彰子が、内裏も帝もお清めいたす

倫子:生贄として。

道長:そうだ。

倫子:殿の栄華のためではなく、帝と内裏を清めるためなのでございますね。

道長:そうだ。

倫子:わかりました。(道長の下へ来る)私も肝を据えます。中宮様の邪気を払いのけ、内裏に彰子のあでやかな後宮を作りましょう。気弱なあの子が力強き后となれるよう、私も命を懸けまする。

 道長も倫子様も、できない決心をよくもした。最愛の子を生贄として差し出すのだ、あの倫子様だって、兼家パパ以来の「呪詛し奉って」と口にするぐらいには黒くなる。呪詛は、律令の「賊盗律」にも罰則規定が明文化されているれっきとした犯罪だというから、子を守るためには犯罪だって何だってやる気概の表れだろう。

 後は神仏に縋るしかない、追い込まれた気持ちになっていたはずで、この後、石山寺に赴いた道長の行動は無理もないものだった。そこでまひろと偶然出会うのだ。

四納言の本音

 入内に先立って行われたのが彰子の裳着の儀だった。長保元年(999年)2/9に行われたと前述の年表にはある。その後、11/1に入内し11/7に女御宣下を受けた時には、秋生まれの彰子は12歳になっていたとか。

 ところで、フィクションだが源氏物語の光源氏の娘・明石の姫君も11歳の2/11に裳着の儀を迎えていた。これは偶然ではないだろう。やっぱり2/9~2/11には裳着とか入内に特別縁起がいいとか何かあるのか?それとも、単に彰子の実際の裳着の儀にフィクションを合わせたのかな。

 彰子の裳着の儀で、何か不思議だと思ったのが道長の出で立ち。束帯じゃなくて直衣を着ていたようだったが、いつもの髷が透けて見える立て烏帽子じゃなく、内裏に出仕する時に被る冠を被っていた。オンなのかオフなのか、どっち?

 倫子様は完全フォーマルな正装に見えたが、出席する公卿も、直衣か束帯かで分かれていた。一条朝の四納言の間でも、公任は直衣姿、残り3人は黒い袍の束帯と分かれた。友人道長の長女の成人式にすぎないとしても、女院が出席し仕上げの腰ひもを結ぶ役をする場だから、敬意を示してフォーマルにした人もいるって事か?

 儀式後の四納言の会話が面白かった。

源俊賢:いや~、見事な裳着の儀でありました。

藤原斉信:しかし、一番ぼ~っとしていた道長が左大臣で、俺たちは未だ参議。分からぬものだな。

藤原公任:人の世とは、そういうものだ。

俊賢:そのうちに帝の父になられるやもしれませぬし。

公任:うん、それを口にするな。中宮側に邪魔立てされるやもしれぬ。

俊賢:(口を押さえて咳払いして見せ、笑い声が起きる)

公任:左大臣は己のために生きておらぬ。そこが俺たちとは違うところだ。道長には敵わぬ。

藤原行成:誠にそう思います。

俊賢:そう思います。

斉信:(顔を逸らしてあくび)

 道長に対するライバル心を隠さず、出世を諦めていない斉信。それに対し、公任がこれほど道長に心酔していたとは。確かに以前、ずっと参議で良いと道長に言っていた。

 公任こそは関白の息子として育ち、姉が皇子を儲けていたら今の道長の位置にいてもおかしくなかった人だ。しかし、前回も中宮側の伊周から招きを受けて誉めそやされていたように、当代一の文化人として名を馳せているからこそ、ああも言えるのだろう。

 道長ラブの行成が公任に賛同するのは当然わかる。しかし俊賢は計算高く、妹の明子が道長の第2夫人でもあるから出世を考えて賛同している。三者三様、興味深い。

新婚まひろ、人妻ルックへとチェンジ

 さて、お待たせしました。主人公まひろは、今回から身につける衣装や髪形が変わり、いかにも裕福な貴族の御方様っぽくなった。前回、成金オヤジ宣孝の妾になることを受け入れたからだ。

 冒頭に描かれたのも、大地震で壊れたまひろ(為時パパ)の屋敷を、金に物を言わせて宣孝が修繕する様子で、揺れの瞬間も宣孝は身を挺してまひろをかばったらしい。新妻だもんなー。

 新しい調度品も届き、「宣孝様がこんなに裕福だとは知らなかった」と、いとは言った。宣孝は、為時パパと違い、受領として金銭を溜め込むことに成功したらしいから、お金はある。

 まひろが「妾は絶対に嫌だったんじゃないの?」と聞きたくなるような吹っ切れぶり・イチャイチャぶりなのが気になったが、それも冒頭だけ。価値観が違う宣孝とまひろ、新婚の蜜月は続かなかった。

 まず、まひろが被災後の子どもたちにお握りなどを振る舞っていた時のこと。宣孝は「汚らわしい」と子どもたちに吐き捨て、飢えて死んでも「それも致し方ない。子どもの命とはそういうものだ」とまひろに言った。

 土産の丹波の栗も、皆が喜ぶと応じたまひろに「皆は良い。お前に持ってきたのだ」と、まひろだけ食べるよう促した。

 この庶民に対する宣孝の価値観は、直秀を忘れないまひろには引っかかったはず。道長も、まひろと同じ感覚をシェアする人間だが、当時の貴族は宣孝が普通でまひろや道長が珍しいタイプだろう。

夫婦ゲンカがヒートアップ

 そして、宣孝はまひろからの文をあちこちで見せびらかしていることを、臆面もなく告げた。怒るまひろ。

まひろ:あるところで、誰にお見せになったのですか?

宣孝:ある女だ。

まひろ:ある女・・・。

宣孝:良いではないか。男か女かと聞かれれば女だと言うだけの女だ。さあ食え、うまいぞ!

まひろ:2人だけの秘密を見知らぬ御方に見られてしまったのは、とんでもない恥辱でございます。見せられた御方とて、良い気分はしなかったに違いございません。そういうことを殿はお考えにならないのでしょうか?

宣孝:お考えにはならないよ。良いではないか、褒めておったのだから。

 こんなにデリカシーに欠ける見せびらかし行動を、史実の宣孝も本当にしたらしい。それで紫式部も文を返せと言い張り、大げんかになったとか。ドラマのまひろも、宣孝にとっては単なる学に優れた自慢の種、トロフィーワイフか。宣孝は若い女好きだし、そういう人なんだろうなあ。

 そして、弟・惟規からの浮気現場確認のご注進もあり、許す・許さない、別れる・別れないの文の応酬があった後の、大げんか第2弾。まひろに、言ってはいけないことを宣孝が言った。

宣孝:せっかく久しぶりに来たのだ、もっと甘えてこぬか。

まひろ:私は殿に甘えたことは・・・ございません。

宣孝:・・・お前のそういう可愛げのないところに、左大臣様も嫌気がさしたのではないか?分かるな~。

まひろ:顔を歪ませ火鉢の灰をつかむ。宣孝の顔面に思い切り灰を浴びせ、去っていく

ナレーション:これ以後、宣孝の足は遠のいた。

 源氏物語では、髭黒大将が若い妻の玉鬘の下へ出かける時に、北の方に灰を浴びせられていたよね。それですっかりおめかしした支度がダメになったのだった。紫式部と宣孝との年の差婚は、髭黒と玉鬘の物語に生かされるようだ。

 まひろは、痛いところを突かれた。道長を出されると、こんなにも動揺するんだと自覚しただろう。宣孝も、まひろの心の内が分かったのだろう。「大したこともできない、人数にも入らない私が、あなたに腹を立てたところで甲斐がありませんね」と文に書いて寄こすのだから。妻の心は、自分などではなく、まだ左大臣にあるのだ。

 まひろはその後、いとに「思いを頂くばかり、己を貫くばかりでは、誰とも寄り添えませぬ」と言われてしまう。己を曲げて誰かと寄り添うこと、「それが愛おしいということでございましょう」と。

 考えたまひろが、皆を誘ったのが石山寺参詣だった。以前のように、また何か光を与えてもらえると思ったのか・・・。

 笑顔で「行って、殿がまた来てくださるよう、お願いする」と言ったまひろに、石山寺の御仏が連れて来たのは、まさかの道長の方だった。そうなるか・・・😅あと1週間、心して待つ。

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#25 手抜かりなきオヤジ宣孝、道長を使って内・外堀を埋める「まひろ捕獲作戦」を実行す

現代政治への風刺も盛り込む

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第25回「決意」が6/23に放送された。今週は例の「我が家の一大事」のための遠出もあって疲労困憊、土曜日のこんな遅くになってから書き始めても、明日の次回までに書き終わるものかなあ・・・ガンバレ自分。

 まずは今回のあらすじを公式サイトから引用する。

(25)決意

初回放送日:2024年6月23日

越前の紙の美しさに心躍らせるまひろ(吉高由里子)。その頃、まひろのもとには宣孝(佐々木蔵之介)から恋文がマメに届いていた。為時(岸谷五朗)からの勧めもあり、まひろは都に戻り身の振り方を考えることに。道長(柄本佑)は、定子(高畑充希)を愛しむあまり政が疎かになっている一条天皇(塩野瑛久)に頭を悩ませていた。そんな中、晴明(ユースケ・サンタマリア)の予言通り、次々と災害が起こる。そこで道長は…((25)決意 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 さて、今回の冒頭、主人公まひろは越前和紙の製作工程を視察に行った為時パパに同行した。

 彼女にとって将来、紙は「源氏物語」を書く上で必要不可欠な物となる訳で、それでわざわざ越前紙にまつわるエピソードが入ったのだろうけれど・・・それがバッチリ現代の政治家への皮肉にもなっていたと感じた。

 昨今話題の話では、マネーロンダリングよろしく国民の税金があれへこれへと名を変えて、結局は一部与党議員様方の懐を潤すシステムになっていたことがはっきりしたと私は理解した。国民の負担ばかり増やしておいて、何が「政治には金がかかる」だ。

 今回のエピソードを見て、心の痛む国会議員の先生方はおいでだっただろうか。

 大量に越前国府に納められた艶のある美しい紙を手にした時に、その1枚をくすねようとして、まひろは為時パパに窘められた。ビシッと為時パパは言うのだ。

まひろ:これがあの紙なのですね。まことに艶やかな・・・。一枚頂いてもよろしいかしら。

為時:ならぬ。

まひろ:(口を尖らせて)一枚くらい、よろしいのでは・・・

為時:これらは民人らが収めた租税であるぞ。全て都に送るのだ。

まひろ:わかりました。

 まひろは全然分かっていなかった。口先で形ばかりの「分かりました」を言っても、しばらくたって彼女は懲りずにまたこう言うのだ。

為時:決められた租税よりも納められた紙が多い。越前では2000張を納めることになっておるが、ここには2300ある。

まひろ:父上。これまでの国守様は決められた租税を納めた後、残った紙を売って儲けていたのではないですか?

為時:さすが、まひろであるな。

まひろ:父上もお気づきだったのでございますか?

為時:わしは国守ぞ。

まひろ:ご無礼致しました。

為時:余分な紙は返してやることにする

まひろ:返すくらいでしたら、何枚か私に・・・!

為時:いやいや、だからそれはならぬと言っておるだろう。その考えは宣孝殿に吹き込まれたのか?

まひろ:そのようなことはございませぬ。(不機嫌そう)

 まひろ、先の国守の搾取方法に気づいて為時パパに褒められたのに、お前までが民から搾取しようとしてどうする!こうやって中抜きに中抜きを重ね、間が肥えていくシステムによって、民に過大な負担がかかっているのをパパは憂えているのに、まひろがその中抜きシステムに乗っかろうとして反省がまるで無いどころか不機嫌になった。

 すごい厚顔なヒロインだ。どこかの党から立候補してそうだ。

 今も昔も変わりなく、こういう悪事が為政者側によって行われてきたんだとドラマは指摘する。ただ、ヒロインその人が悪の方に片足を突っ込んで見せるなんてすごいね。

 結局、4年しかいない国守様に正論を吐かれて紙を返されても困ると村長から断られ、為時パパは「わしは世の中が見えておらぬ」と己を嘆く。そして、清濁併せ呑むことができる宣孝だから大宰府でもうまくやっていたのだろうと、宣孝を肯定した。末端の民の1人として、何だかやりきれない。

「仕事」が早い宣孝、外堀が埋められていく恐怖

 さて、前回は大人にしかできないプロポーズをカッコ良く見せつけていた宣孝だが・・・まひろが自分になびきそうだと見るや、返事を待たず、彼女の思いもお構いなしの捕獲作戦を発動した。彼は仕事が早いというか、サクサクとタスクを済ませていくものだから、外堀が埋められていく恐怖感があった。

 前述のエピソードの続き、多少自信喪失の為時パパは、清濁併せ吞み世渡りのうまい宣孝に娘は心を寄せたのかと言って、まひろに帰京を勧める。筆まめに文をよこす宣孝は、まひろに本気であろうと言った上で、

為時:都に帰って確かめてみよ。ただ、これだけは心しておけ。宣孝殿には妻もおるし妾も何人もおる。お前を慈しむであろうが、他のおなごも慈しむであろう。お前は潔癖ゆえ、そのことで傷つかぬよう心構えはしておけよ。

まひろ:そのことも都で考えてみます。

 こんな友人(親戚)に、為時パパはよくも娘を与える気になったと思う。よほど自信が無くなったのか、何か弱味でも握られているのか。困窮していたから、金銭的な援助でも受けていたのか?

 昔、前田利家がまつとの間に生まれた「まあ姫」を、古い友人である秀吉に差し出したと知った時の気持ち悪さを思い出した。権力者になってしまった秀吉に「人質」の意味があったのだが、娘を友人の側室とするのだ。豪姫を養女にやっているのに、それでも足りない。秀吉の下、生き残るには仕方なかった訳だ。

 前回、宣孝とまひろは釣り合わないと為時パパご本人がまひろに言っていたから、物語世界の中の世間一般で考えても異質なカップル。それだけ宣孝の押しが強かったのか、宣孝の意志を通さねばならない、宣孝に対して抗えずに「人質」を差し出さねばならない理由が、為時側にはあったのか。

 だから、勝手な妄想だけど、歪な結婚が通る理由は、まひろの方の「訳アリ」だと思ったんだけどな・・・まひろが道長の子を身籠ったことで早急に父親(庇護者)が必要になっての結婚か?と散々妄想を広げてきたが、残念ながらそれはハズレで終わったようだしねえ。

 まひろは「確かめろ」と父に言われ、自分でも「都で考える」と言っていたが、そんなゆっくりと考える暇は宣孝が与えなかった。まひろからの返事も待たずに、結婚相手が帰ってきたー!とばかりに、宣孝が待ち構えていたからだ。

 まひろ帰宅をどうやって嗅ぎつけたのだろう。間者がいるのかな。

 まひろの弟・惟規が目を白黒させているのを尻目に、宣孝は堂々といやらしい視線をまひろに送った。酒を飲み色っぽい「催馬楽」を歌い、もう俺の女だとばかりに、強引にヒタとターゲットを捉えた視線が・・・うわー耐えられない。気持ち悪い。

 まひろ、まひろ、まひろー💕結婚、結婚、ケッコーン💕という、宣孝の荒い鼻息が画面からも伝わってくるようだった。ゾッとして「まひろ、よく笑っていられるね」と思った。一応苦笑いだったが。

 佐々木蔵之介の前回のイケオジから一転しての今回のいやらしいスケベオヤジ演技に切り替えるうまさは分かったが、中の人もご自身の好感度を気にしたらどうだろうか、と思うくらいの強烈さだった。

 その場では、惟規が、宣孝とまひろを前に無言ながら違和感いっぱいの顔芸をおもしろく披露していた。「えーっ!」の3段活用みたいな。「えーっ!2人はそういう仲?」「えーっ!いつから?」「えーっ!なんでそうなったの?」と、後から「いと」を問い詰めてそうだよなあ。

 聞かれても、いともびっくりかも。道長との仲は勘付いていても、宣孝については灯台下暗しだったのでは。それとも、為時から何か聞いたかな。 

 とにかく、オヤジ臭漂う宣孝のいやらしさの演技に、この時点で既にお腹いっぱいだが、宣孝はまだ止まらない。

まひろの元カレ・道長相手に、満面の笑み

 宣孝は、まひろがまだ自分の人生を考え中だろうが何だろうが、結婚は決定事項とばかりに、対外的な挨拶も敢行。つまり、元カレ道長にわざわざ結婚の報告に行った。

 分かってやっているなら人が悪すぎるが(by「鎌倉殿の13人」北条政子)・・・いや、あれは確実に分かってやっていた。

宣孝:お忙しいところ申し訳ありませぬ。川岸の検分に御自らお出ましと聞いて恐れ入り奉っておりました。

道長:何か用か?

宣孝:先の除目で山城守を仰せつかりましたのでお礼を申し上げに参りました。

道長:うむ。お上のために励んでもらいたい。(言いながら目を落として仕事に取り掛かろうとする)

宣孝:親戚である藤原朝臣為時も越前守に任じていただき早一年、つつがなく勤めておるようにございます。(道長、聞きながら何か手紙を広げる)おかげさまで為時の娘も夫を持てることになりました

道長:文書から顔を上げて)それはめでたいことであった。(にやりにやりとしながら、道長の顔を見て黙っている宣孝)何だ?

宣孝:(笑顔がこぼれて)実は私なのでございます。

道長:(首をかしげ、努めて平静を装っている)何が私なのだ?

宣孝:ドヤ顔)為時の娘の夫にございます。

道長:微かに力み、文書を持つ左手に力が入る。宣孝の顔を見て笑い)フッ・・・それは何より。

宣孝:すぐに文書に目を落とした道長の顔を、しげしげと覗き込む

 やっぱりな、宣孝はまひろの元カレが道長だと分かっていたんだ・・・。それでまひろとの結婚を告げ、「俺がもらっちゃうもんね」とばかりに、道長の反応を見て楽しんでいる。本当に人が悪い💦

 「お前を妻としたい旨もお伝えしたら、つつがなくと仰せであった」と宣孝がまひろに報告したら、当然なのだが、返事を言っていないまひろは狼狽して「そのようなこと、何故左大臣様に!」と彼を責めた。

 でも、まひろは反発しても宣孝の「いや、挨拶はしておかねば。後から意地悪されても困るからな」との言い分は分かる。道長は時の為政者。やろうと思えば、宣孝など、何とでもされてしまうのだから。ただ、まひろの同意も得ずにタイミングが早すぎでしょ💦

 この場面、宣孝が帰ってからひとりで縁に座ったままで動かないまひろのシーンがかなり長かった。「やられたー」という怒りを心の内に納め、考えを巡らすのに大変だったという訳だ。「瞳だけが、小刻みに動く」と副音声の解説には入っていた。

 ちなみに、宣孝が訪れた時にまひろが読んでいた白楽天の新楽府は、こんな内容だったらしい。Xで見た。

 そして、定子サロンで清少納言と公任が披露していた連歌の下敷きになったのは、同じ白楽天の「南奏の雪」だそうだ。なんと雅なことよ。こちらのブログが勉強になった。

ameblo.jp

空寒み 花にまがえて ちる雪に(清少納言パート)

少し春ある 心地こそすれ(公任パート)

【三 時 雲 冷 多 飛 雪(三時 雲冷ややかにして多く雪を飛ばし)

二 月 山 寒 少 有 春(二月山寒うして少しく春あり)】

 古文漢文は高校時代以来の不勉強さなので、博学の方々の書きこみがドラマ理解の助けになっている。たびたび書いているけれど「かしまし歴史チャンネル」のきりゅうさんの解説も、歴史の観点から平安が得意だとおっしゃっているだけに分かりやすくて為になるし、同じこと考えてたなと同意できる点も多い(たまに勢い余って?となることもあるけれど)。

 こういう盛り上がりが、いち大河ファンとしては本当に楽しい。

youtu.be

まひろ、意を決する

 道長は、宣孝が訪れたその日の夕暮れに迎えの車を一旦断って「今日は帰らぬ」と言った。宣孝の前では何とかやり過ごした苦い心の動揺を納める時間が、こちらにも必要だったか。

 まあ、自分は結婚して何人も子どもをもうけているのだから、そんなことも言えないだろうとか、ため息をつき、アレコレ考えただろうな。最終的には乱れる心を整理して、まひろの幸せを願ったのだろう。

 ということで、道長は年月を経て立派になった百舌彦を遣わし、まひろに結婚祝いの品々を贈ってきた。これで、まだ迷っているとか考え中とかグダグダしたことを、まひろは言えなくなった。

 すっかり主導権を宣孝に握られ、皮肉にも、外堀は「まひろはまだ考え中」だとかの事情を知らない元カレ道長の手によって完全に埋められた。そうさせた宣孝の狡猾さよ。

百舌彦:(祝いの品々を届けに来て)こたびはおめでとうございます。

まひろ:(お辞儀を返し、百舌彦の装いを見つめる)偉くなったのね。

百舌彦:長い月日が流れましたので。

まひろ:まことに。

百舌彦:もろもろお話したきこともございまするが、本日はこれにて。(挨拶をし、文を渡して去る)

まひろの心の声:(ひとりになって、祝いの品に添えられた文を読む)あの人の字ではない・・・。(文から顔を上げる)

 これで、内堀埋めも完了。まひろは、形式通りの他人の手による祝い文が祝いの品々と共に道長から届いたことを以て、踏ん切りを無理やりにでも付けたようだった。私と道長様の関係は終わった、と。

いとと乙丸

 内堀埋めとの点では、「いと」が良い人を見つけて片付いているは、あの忠実な従者の乙丸でさえ彼女を越前から連れ帰るはで、まひろ家に長年仕えてきた2人がそれぞれに相手を見つけ、カップル続出だったことも、まひろの無意識に働いたのではないか。

 ただ、いとが良い人を作った驚きが、まひろの人生のトップ3に入るのっておかしくないか。その上の1、2には母・ちやはが殺された事、そして三郎が実は右大臣家の道長様&犯罪者ミチカネの弟だった事が来るのかな・・・いとの事よりも、もっと色々な驚きはあったと思うのだけれども。

 いとが「自分の言うことを聞いてくれるこの人が尊い」という恋人選考基準も、まひろを感心させたかな。

 それから、前回キュンとさせてくれたばかりの乙丸が、「あまちゃん」(言わずと知れた人気朝ドラ、主人公の天野アキが海女をやっていた)でGMT47のメンバーだった中の人演じる海女・きぬを射止めていた。ウニをまひろと宣孝がせっせと食べていたのは、そういうことだったのか💦

 乙丸は「まひろ様は宣孝様との結婚を決めて帰京するらしい」と考えて、姫様を守るという自分の任務も一段落したと思っていたんじゃないのかな。

 ただ、最終的にまひろが宣孝への誘い文を乙丸に託した時のやりとり。「本当にいいんですか?」という行間の言外の声が聞こえてくるような、そんな間のある乙丸の演技が良かった。

 従者としてずっと姫様まひろを見守り、道長との恋も陰から知り抜いている。それで、まひろの決意を込めた文を持って宣孝の下へ行った乙丸の胸中たるや。まひろの複雑な思いを一番分かっていたかもしれない。

上手い処理の仕方

 道長が奮闘する政治向きのこともあと少しだけ書いておくと・・・前回から一条帝が出家したはずの定子の下へと入り浸り、政が疎かになって公卿らの眉を顰めさせている。

 災害によって人民の命が失われる被害も出ており、帝抜きで政を実行するのは「もう無理でございます」と、匙を投げた道長は左大臣の辞職を申し出た。

 それに先だち、その年は災害が続くと安倍晴明に聞かされた道長は、「邪気払いをしてくれ」と晴明に依頼。しかし、晴明にはこう言われてしまった。

安倍晴明:災いの根本を取り除かねば、何をやっても無駄にございます。

道長:根本?

晴明:帝を諫め奉り、国が傾くことを防げる御方は左大臣様しかおられませぬ。

道長:私にどうせよと申すのだ。

晴明:よいものをお持ちではございませぬか。お宝をお使いなされませ。

道長:はっきりと言ってくれねば分からぬ。

晴明:よ~く、よ~くお考えなされませ。お邪魔いたしました。(礼をして去る。目で追う道長)

 視聴者のこちらもよ~く考えさせられた訳だが、史実に照らせば、なるほど、ドラマではあれだけ道長も倫子様も抵抗感を示してきていたからどうするのだろうと思っていた娘の入内は、こうやって道筋をつけるのだな。うまいなー。これなら道長を悪の権化「黒道長」にせずに、定子いじめを正当化できる。

 なんだかんだ、今回もダラダラ書き終えられた。

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#24 気弱なまひろ、楽になりたくて宣孝との結婚に自分を納得させようとし始める

まひろを論破した宣孝のプロポーズ

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第24回「忘れえぬ人」が6/16に放送された。前回は宣孝からのプロポーズ場面でドキリとして終わり、今回はその続きから。まずは今回のあらすじを公式サイトから引用しておく。

(24)忘れえぬ人

初回放送日:2024年6月16日

宣孝(佐々木蔵之介)から求婚され、さらには、周明(松下洸平)からも一緒に宋へ行こうと誘われるまひろ(吉高由里子)。しかし、心の内には道長(柄本佑)が…。一方内裏では、一条天皇(塩野瑛久)が定子(高畑充希)と生まれた姫皇子に会いたい気持ちを募らせていた。詮子(吉田羊)は一条の願いをどうにかかなえてあげてほしいと道長に懇願する。行成(渡辺大知)の案で、内裏の外で会えることとなったのだが…((24)忘れえぬ人 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 あらすじには「周明(松下洸平)からも一緒に宋へ行こうと誘われるまひろ(吉高由里子)」と書かれているけれど、あれは「誘い」なんて穏当なものだったのか?完全に「脅し」だったよね。誘いと書くなんて、お~怖い怖い。

 しかし、まひろはあれだけ頭が良いのに、いざとなったらすっかり宣孝に論破されてしまった。やっぱり宣孝に比べたら所詮は小娘か。彼は長く宮廷で出世競争を生き抜いてきたやり手で、女性関係も百戦錬磨。まひろみたいな経験値の浅い若い娘など一捻り、ってことなのかな。

宣孝:ウニをもっともっと食べたかったのう。

まひろ:食べ過ぎはいけません。過ぎたるは及ばざるがごとしと申しますでしょ。

宣孝:(振り返って)あの宋人が好きなのか?あいつと宋の国などに行くなよ。

まひろ:何のことでございますか?

宣孝:前に言うておったではないか。宋の国に行ってみたいと。

まひろ:ああ・・・。

宣孝:都に戻ってこい。わしの妻になれ。戯れではない。

まひろ:(とまどって)では、何でございますか?

宣孝:あの宋人と海を渡ってみたとて、忘れえぬ人からは逃げられまい

まひろ:何を仰せなのか分かりませぬ。

宣孝:とぼけても顔に出ておる。

まひろ:何が顔に出ておりますか?(両手を広げ、半ば怒って)

宣孝:「忘れえぬ人」と言われて、途端に心が揺らいだ。そうであろう。

まひろ:(落ち着きなく)いいかげんなことを。

宣孝:都人は心の内を顔には出さぬが、お前はいつも出ておる。

まひろ:それは私が愚かだということでございますね。(ムキになっている)

宣孝:愚かなところが笑えてよい。わしの心も和む。

まひろ:宣孝様は分かっておられませぬ。私は誰かを安心させたり和ませたりする者ではありませぬ。

宣孝:自分が思っている自分だけが、自分ではないぞ。ありのままのお前を丸ごと引き受ける。それができるのはわしだけだ。さすればお前も楽になろう。

まひろ:まあ・・・忘れえぬ人がいても、よろしいのですか?

宣孝:(即答して)よい。それもお前の一部だ。丸ごと引き受けるとは、そういうことだ。都で待っておる。道中、楽しみに食そう。(にこやかに去る。まひろは唖然)

 こりゃ完敗だ。心の中の道長の存在を見抜かれていただけでなく、理屈で宣孝に完全にやられてしまった。漢詩の教養にあふれ、理屈が勝る左脳タイプに見えるまひろには、この敗戦は痛い。

 宣孝は抜け目ないからな。まひろが「三郎」と一緒に居たのを初めて見た時に、「ありゃ何者じゃ?」と友人の娘に変な虫が付いたら大変と心配して、道長の身元の調べはつけていたのかもしれない。それ以降は安心して、泳がせていたのかも。

 もしその頃じゃないとしても、その後、一向に結婚しようとしないまひろの結婚相手を探す段階で、誰かいるんじゃないかと不審に思い、調べて道長の存在を知った可能性もあるかな?「兼家の息子が相手なのか~、へ~やるじゃんまひろ」と面白く思い、自分でも何やら魅力的に見えてきてしまったって事もあるのかもしれない。

 ちょうど中の人の佐々木蔵之介のインタビューが公式サイトにあったが、演技プランとしてはプロポーズは京から準備して越前に行ったものではないらしい。まひろの自由な気持ちや発想に触れ、越前である光景を見て、ふたりで過ごすうちに心が動き、会話の中でドラマが動いていった・・・とのこと。

 越前で周明と海辺にいる彼女を見て、頃合いだと思ったのかもね。このあたりの謎解きは、いつかドラマの中であるのだろうか。

 しかし・・・「忘れえぬ人」がいてもいい、それもお前の一部だ、丸ごと引き受ける、それができるのはわしだけ。相手を自分の意のままにしようと脅したり暴力を振るったり、幼い支配欲丸出しの振る舞いを愛だと勘違いしてるような若造には、とても言えないプロポーズだった。く~、大人だ。

 宣孝の言葉はまひろの心に刺さった。この段階では彼女は宣孝になびかないが、今回の物語が進むにつれまひろは徐々に気弱になり、追い詰められていった・・・って感じかなあ。結婚への決意として、あまり健全なものとも思えない。

周明からの脅し、遺族まひろを舐めんな

 周明は、宋の皆の信用を得るためにまひろを誑し込み、左大臣道長に手紙を書かせて宋と日本の通商の道を開こうとしていた。それで、今回から芝居っ気たっぷりに彼女にグイグイきていて、その性急な急接近ぶりに、宋に行きたいまひろも、さすがに警戒心を持ったらしい。

 SNSで「国際ロマンス詐欺」なんてうまい言葉を見た。ま、周明は宋の見習い医師でも、日本の対馬生まれだから「なんちゃって国際ロマンス詐欺」かもだけど。このロマンス詐欺を、まひろは見抜いた上に立派に応戦し、襲撃者周明を撃退した。

まひろ:フフフフ・・・(宋語の練習で「大人」を「打人」と発音してしまい、笑いながら傍に座る周明をポンポン軽く叩く)

周明:早く、まひろと宋に行きたい。(まひろの笑顔が消えるが、構わず抱き寄せる)このままではいつまでたっても宋には行けない。左大臣に手紙を書いてくれ。

まひろ:(訝しげな表情で周明の腕の中から離れる)

周明:2人で宋に行くためだ。(まひろに口づけしようとする)

まひろ:(周明の口を押さえ、さえぎる)あなたは嘘をついている。私を好いてなぞいない。

周明:(まひろの手を口から退け、抱きしめる)好いている。

まひろ:抱きしめられると分かる。(周明を突き放す)あなたは違うことを考えている。私を利用するために。そうでしょう?

周明:(立ち上がる。陶器の壺を床に叩きつけ、破片をまひろの喉に突きつける)来い。(まひろを引っ張り、まひろの部屋へ移動して文机の前に座らせる)書け。左大臣に文を書け。左大臣が決意すれば、公の交易が叶うのだ、書け。

まひろ:書きません。

周明:書かねば、切る。

まひろ:書きません。書いたとて、左大臣様は私の文ごときでお考えを変える方ではありません。

周明:(大きな声で)書け!

まひろ:書きません。

周明:書かねば・・・お前を殺して俺も死ぬ。

まひろ:(そらしていた目を周明に向け)死という言葉を、みだりに使わないで。私は、母が目の前で殺されるのを見た。友も虫けらのように殺された。周明だって、海に捨てられて命の瀬戸際を生き抜いたのでしょう?(強く)気安く死ぬなど言わないで!(周明を見据え、睨みあう)

周明:言っておくが、宋はお前が夢に描いているような国ではない。宋は日本を見下している。日本人など歯牙にもかけておらぬ。民に等しく機会を与える国など、この世のどこにも無いのだ。つまらぬ夢など持つな。(破片を置き、立ち去る)

 ひゃ~、自分の目的を遂げるためには暴力に訴えるのか・・・DV気質をお持ちだったのだね、周明。見損なった。他方、まひろは「忘れ得ぬ道長」が心に存在するから、怪しく急接近してくる周明には警戒心を持つ余裕があったかな。

 でも、「打人」でポンポンまひろから周明を叩くボディータッチをしたり、あまり抵抗なく抱きしめさせちゃったり、そもそも距離が近いよなあ。誤解を招く距離を許していると思う。まひろ、小悪魔か。

 まひろが「抱きしめられると分かる」のは、愛のあるハグを道長と交わしていた経験が物を言ったね。20秒抱きしめられるとなんちゃらホルモンが出て相手を信じる気にもなると聞くから、周明はもうちょい長く抱きしめていたらまひろを騙せたかも😅なんて。そんな訳には行かない。

 道長に手紙を書かせようと、周明は陶器を割って鋭くとがった破片でまひろを脅し「お前を殺して俺も死ぬ」とさらに迫ったが、「俺も死ぬ」の部分はまひろから同情を得ようと思って付け足したか。でも、まひろはそんじょそこらの貴族の姫ではなかった。殺人事件の被害者遺族なのであり、周明が脅しで使った「死」という言葉に猛反発、その勢いに気圧されて周明は退散した。

 周明の脅し文句なんて軽い軽い。彼女の幼少期からの苦悩の日々を考えたら、発想が軽すぎる。まひろが怯む訳がなかったね。

 母「ちやは」が殺されて以来の日々を想像するに、まひろには自責の念もあったから、悪夢にうなされたりフラッシュバックで身動きが取れない日もあったはず。どれだけ苦しかったか。その年月が、まひろを強くして一方ならぬ姫にしたのだと思う。遺族まひろを舐めちゃいけない。

 周明は、まひろにDV気質がバレるような「殺人未遂事件」を働いたのに、まひろのことを好いていたつもりらしい。彼も、現代でも頻発する「俺の言うことを聞かない女」を簡単に殺す殺人事件の被疑者によくあるように、何か誤解している。

 周明は、朱仁聡に「入り込めませんでした、あの女の心に」と作戦失敗を緊張気味に報告した。朱は「お前の心の中からは消え去ると良いな」と返した。ということは、まひろがまるで周明の「忘れえぬ人」だと朱は言っているみたいじゃないか。また、それを否定しない周明。

 周明は朱について「いい人」だとまひろに言っていた。「やってみろ」と周明にチャンスも与えた。朱なら暴力を使わずに人から信頼を得る方法を知っていそうだけど・・・朱も朱だからなあ。

 朱は「日本との公の交易が認められないならば、我々は帰らない」「我々が帰らなければ、二度と博多の津に船は着かない」と、為時パパを、というか日本を「公の交易が叶わなければ宋の品が入ってこないぞ」と脅している訳で、何の悪びれるところもない。

 この手法は、互いの都合を考えて落としどころを探るものではない。自分の目的を貫き通すためには相手を蔑ろにしても構わないと考え、暴力も辞さないDVタイプだという点で、周明と同じだ。

 周明も朱仁聡も、困った宋人チームだ。

 暴力と愛情や信頼は両立しない。今回は、まひろを挟み、周明と宣孝の2人の対比が鮮やかだった。

純情乙丸の忘れえぬ人

 撃退したとはいえ、殺されそうになったのだ。まひろが夕餉を食べられなくなってもまるで不思議ではない。むしろ、もっとガタガタ震え、昔の母の殺人事件がフラッシュバックして精神に恐慌を来たしたとしても、全くおかしくない目に彼女は遭ったと思う。利用されたことで、人間不信にもなる。自信も喪失する。

 まひろが精神的に荒れ狂わず済んでいるのは、曲がりなりにも殺されずに周明を自力で撃退できたからかもしれない。

 加害者は「ちょっと脅しただけ」のつもりでも、被害者は加害者の心の内まで知る由もないから、そんな「ちょっと脅されているだけ」とは思えない。多くは「殺されるかもしれない」と深刻に思い、恐怖に震えると聞く。まひろは強すぎるぐらいだろう。

 まひろが夕食を食べないのを心配して、乙丸が来た。今回、私が一番キュンと来た場面だった。

乙丸:(御簾の外、庭に控えて)姫様。姫様が夕餉を召しあがらないと下女が申しておりました。お加減でも悪いのですか?(まひろの返答がない)・・・すいません。お邪魔しました。(立ち去ろうとする)

まひろ:乙丸。(御簾内から縁に出る)お前は、なぜ妻を持たないの?

乙丸:えっ!

まひろ:そんなに大きな声を出さなくても。

乙丸:な、何故そのようなことを。

まひろ:ただ聞いてみたかったの。もういいわ。(半ば身を翻す)

乙丸:妻を持とうにもこの身、一つしかありませんし・・・あの時、私は何もできませんでしたので。

まひろ:あの時?

乙丸:北の方様が・・・お亡くなりになった時、私は何も・・・(まひろ、目を見開き聞く)せめて、姫様だけはお守りしようと誓いました。それだけで日々、精一杯でございます。

まひろ:そう・・・乙丸はそんなことを考えていたのね。

乙丸:はい。・・・あっ、余計なことを申しました。

まひろ:ううん。こんなにずっと近くにいるのに、分からない事ばかり。私は、まだ何も分かっていないのやも・・・。

乙丸:周明様と、何かおありになったのですか?

まひろ:ううん・・・あの人も、精一杯なのだわ

 乙丸は、ずっとちやはのことを・・・ちやはが乙丸の「忘れえぬ人」だった。だから、非力で簡単に弾かれようとも、「姫様に何をするー」と立ち向かっていたんだね、乙丸😢😢😢百舌彦との徒競走のような走りでも、息一つ乱さずに姫様を追ってきたもんねえ。従者としての心構えの違いを見せたよね。

 そして、そんな乙丸の心の内を全く理解していなかった、まひろ。

 まひろ役の吉高由里子は、公式サイトのインタビューで「利用されたショック」「愚かな自分」「とらえ方の成長」というキーワードを挙げていた。

 殺されかけたばかりだというのに、乙丸のアシストがあったとはいえ、時間をあまり置かずに「私は、まだ何も分かっていないのやも」「あの人も精一杯なのだわ」と頭の中を整理でき、加害者をも慮って気づけるまひろは素晴らし過ぎる。被害者がそこまでしなくても。

 さすが紫式部、常人には難しい目覚ましい成長ぶりとでも言いたいところだが、宋に対する夢も破れ、ある意味自信を喪失して、徐々に宣孝の術中のハマってきているとも言える。

 「道長様に私はどう見えていたんだろう」と、ひとり月を見上げるシーンがあった。宣孝に言われた「自分が思っている自分だけが、自分ではない」が心に残っていたからだね。

さわの訃報に涙のまひろ

 そんな自信喪失気味のまひろを、一気に気弱にさせる報せが来た。遠く離れていた友人さわの訃報だ。脚本が容赦ないなあ。どんどんまひろを気弱にさせる。

 まあ、そうでもしないと「若いまひろが、父親世代のイケオジ宣孝との結婚を受け入れるなんてキモイ、あり得ない」と考える私のような視聴者が納得しないからだよね、前回書いたみたいに。

為時:お前にだ(文を差し出す)

まひろ:(受け取り、開封。息を飲む)はっ・・・。

為時:いかがいたした?

まひろ:さわさんが・・・亡くなられたそうでございます。(文に添えられた紙を開く。か弱い文字で書かれた歌)

さわの声:「ゆきめぐり あふをまつらの かがみには たれをかけつつ いのるとかしる」

為時:お前にまた会いたいと思いながら亡くなったのだな・・・。

まひろ:この歌を大切にします。

 さわが死んでしまい、それがとどめ。大ショックなまひろが、ここから自分の考えを自分にも言い聞かせるように為時パパ相手に吐露し始めるのだが、「もっと自分を大事にして」とか「それは気の迷いなんじゃ」とも言い難い。

 人生はつらいもの、空しくなったらそんな風にも考えるだろう。後ろ向きな決断かもしれないけれど、結婚といえば、とりあえずは前向きなもの。相手はあれだけ豪放磊落な明るい宣孝だもの、その明るさに縋って自分の助けとしたいと思うのは、まあ、悪いことじゃないと思いたい。

まひろ:都に戻って、宣孝様の妻になろうかと思います。

為時:うん・・・ん?い、今、何と申した?

まひろ:さわさんのことを知って、ますます生きているのも空しい気分で・・・。

為時:うん。空しい心持はよう分かるが、それで何故、宣孝殿の妻になるのだ?

まひろ:先日、宣孝様が妻になれと仰せになりました。

為時:なんと!・・・うう。

まひろ:どうなさいました?

為時:ああ、腰が。

まひろ:父上!

為時:(別室で横になり、まひろに腰を揉ませている)宣孝殿はわしの大事な友だが、いくら何でもお前とは釣り合わぬ。何を錯乱したのであろうか。

まひろ:私も驚きました。

為時:都に帰って婿を取るならそれも良い。わしも国守となったゆえ、以前よりは良い婿も来るやもしれぬ。されど宣孝殿は・・・。

まひろ:父上が不承知なら、やめておきます。

為時:いやいや。不承知とまでは言うておらぬが、あいつは年寄りながらいまだに女にマメゆえ、お前がつらい思いをするやもしれぬぞ。

まひろ:されど、私ももうよい年ですし・・・。

為時:まあ、それはそうであるが・・・。

まひろ:宣孝様は仰せになったのです。ありのままのお前を丸ごと引き受ける。それができるのはわしだけだ。(腰を強く揉まれて為時の顔がゆがむ)さすればお前も楽になろうと。

為時:うまいことを言いおって。

まひろ:そのお言葉が、少しばかり胸に沁みました。思えば・・・道長様とは向かい合い過ぎて求めあい過ぎて、苦しゅうございました。愛おしすぎると嫉妬もしてしまいます。されど、宣孝様だと恐らくそれは無く、楽に暮らせるかと・・・。

為時:幼い頃から知っておるからな、あいつは。

まひろ:誰かの妻になることを、大真面目に考えない方が良いのではとこの頃思うのです。

為時:え?

まひろ:子どもも産んでみとうございますし・・・(また腰を揉み始める)

為時:イタタタタタタ!

 まひろが「誰かの妻になることを大真面目に考える」キャラだということは、視聴者はよくわかっている。嫡妻だ、妾だとこだわり石橋を叩き過ぎて、道長との仲を自分で壊してしまった過去があるからね。それが、とうとう「誰かの妻になることを、大真面目に考えない方が良い」と思うまでに至ったのだ。

 ん~、大人になったというか、年も年だし打算しなければならない立場だと客観的に自分を見て天秤にかけている彼女が可哀そうすぎるというか・・・。

 だったら宣孝じゃなくて道長の妾になっちゃえよ、と思うが、それは互いに求めあい過ぎてつらかったとか、嫉妬しちゃうとか・・・道長とのデメリットを考えすぎだろうが。自信喪失しているから、道長と向き合う自信も消え失せちゃったのかな。

 宣孝なら楽、愛だの恋だのじゃなく安寧に暮らせればいいってことなんだな・・・そんなことで主人公の結婚が決まるなんて。

 夢もへったくれもなく、現実を見ろと。こんな結婚じゃ、後々我に返った時に、まひろの気持ちにはおさまりがつかないだろうなあ。それが物語の今後の種になっていきそうだ。

(ほぼ敬称略)

 

【光る君へ】#23 背中にゾワッと来るまひろへのイケオジ宣孝プロポーズ、「オードリー」幸様に脳内変換

見ているこちらはワクワクしない

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第23回「雪の舞うころ」が6/9に放送され、主人公まひろの結婚が現実を帯びてきた・・・のだが、あまりワクワクもしない。まずはあらすじを公式サイトから引用する。

(23)雪の舞うころ

初回放送日:2024年6月9日

朱(浩歌)は三国(安井順平)を殺していないと日本語で主張する周明(松下洸平)に驚くまひろ(吉高由里子)と為時(岸谷五朗)。周明が連れてきた下人が、光雅(玉置孝匡)に朱が殺したと言えと脅されていたと証言する。ほどなくして解放された朱は、為時だけに越前に来た本当の狙いを語り出す。一方で周明も、まひろに自分の過去を語り出す。ある日、宣孝(佐々木蔵之介)がまひろと為時に会いに越前にやってきて…((23)雪の舞うころ - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 宣孝が越前にやってきて、タイミングよく為時パパが巡回視察かなんかで不在、仲良く生ウニに舌鼓を打って2日間を共に過ごし・・・そしてまひろにプロポーズしたところで今回は終わった。

 「京に戻ってこい。わしの妻になれ」と言って笑う佐々木蔵之介は、イケオジで鳴らしている。彼の同世代での結婚なら文句もない。

 しかし、まひろとは如何せん年齢差が。手を出すのが古い友人の娘って、犯罪だろ・・・とまでは言わないが、抵抗がある。2人のこれまでの関係性と年齢差は、拭い難いシミのように、ドラマを見ているこちらの心にこびりついている。

 親戚のおじさんだよ?父親の古い友人なんだよ?宣孝は、まひろの成人を祝う着裳の儀で腰ひもを結んでいなかったっけ?つまり一族の長老扱い、その人に娶せられるなんて、ちょっとね・・・女側の人権抜きの社会なら、世界中にこの形態の結婚がありふれているのは知っているけれど。

 しかし、視聴者は現代人。その感覚からしたら、こんな親世代との結婚が、まひろの「いやだーいやだー」の抵抗抜きで自主性に基づくものとして描かれるとしたら、どうなんだ?それこそ打算の匂いしかしない。本当に厄介な史実。

 この結婚について、主人公が喜びにあふれているとも思えず、ワクワクもなく、むしろゾワッと背中に来てしまう。宣孝はずーっと目を付けていたんだよね、自分の息子と娶せるのも断って視線を送っていたもんね、ゾゾゾ、恐ろしや。

 そういえば、三郎(道長)、もしくは直秀と一緒に居るまひろを見つけては、間に割って入ってきてたもんな。

 ちょうどBSで再放送されている「オードリー」に出演中の佐々木蔵之介の若き日の姿に宣孝を脳内変換して、辛うじてやり過ごしている。そのために再放送が役立っている。

 この厄介な史実をどう料理して、どういう経緯でまひろとの結婚に至るのか、現代の視聴者にも納得できる答えを次回は見せてほしいものだ。

  1. 周明のハニトラから彼女を守るため、京に戻す口実としての結婚
  2. 前から言っているが、まひろが道長との子どもを身籠り、そのカモフラージュとして宣孝が彼女のサポートを引き受けての結婚

 この2つなら理解できるよなあ・・・物語としても楽しめそう。他に何か、目新しい理由はあるだろうか。脚本家大石静はスゴ腕だと思っているから、楽しみに待っている。

 くれぐれも「まひろが、イケオジ宣孝のことを実は愛していた自分の本心に、今になって気づいて」なんて路線は止めてほしい。2人の結婚は史実、でも、見ていてウンザリする話は嫌だ。

 ウンザリで思い出してしまった・・・竹中直人主演の「秀吉」で、松たか子の茶々が秀吉の側室になる時に、秀吉からの問いかけに吹っ切れた笑顔で「ハイ!」と応じ、見ていてゲ~っと思ったのだった。

 そんなオジサンにばっかり都合の良い夢みたいな話があるか・・・とガッカリ。恋愛感情抜き、打算だとちゃんと描きましょう!と、大河ドラマに茶々役が出るたびに思うようになった。

まひろへのハニトラを提案した周明、発音が良い

 前回、「お主も悪よのう」的で、上司の為時パパに対してもいやがらせを繰り出すどうしようもない人物かと思われた越前の介。今回、あっさり大人しくなって肩透かしだった。地元思いのあまり朱を陥れるという誤りを犯したが、為時パパの仕置に素直に従っていた。

 越前国のナンバー3・大掾を演じているのが徳井優なのに、まだ活躍らしい活躍を見せていないのが気になる。絶対何かあるんだよね?そうじゃないと無駄遣いになるから。

 それと、前回は周明の生い立ちをテキトーに想像したが、当たり前のように全然外れた。周明は対馬で生まれ、12歳で父によって口減らしのために海に捨てられ(なんでー、ようやく働けて稼げるようになるのに?余程の大食い?)、宋の船に拾われ、彼の地で奴隷にされ、逃げ出して薬師に助けられて弟子になったというルートを、まひろに告白した。苦労したんだね😢

 まひろが周明と宋語を練習するシーンでは、ついこちらも一緒に発声練習してしまった。彼が話すのも現代中国語っぽい、懐かしいなあ。「我叫周明」ですぐに「我叫まひろ」と反応できるまひろは、やっぱり賢いね。

 しかし、リアルで松下洸平は耳が良いのだろう、発音がすごく良いと思った。特にshiとかzhiとか、たっぷり練習したんだろうな。ミュージシャンだから四声もお手の物かな。

 私は四声がぐちゃぐちゃで「そのナンチャッテ中国語を何とかして」と一番喋れた時期にでもクレームを頂戴したが、使う機会が無いと身に付かない(言い訳)。私は中国語も英語も、きれいに忘れていっている。

 さて、今回は宋から来た薬師なのに日本語ペラペラの通詞としても活躍を始めた周明が、黒いところを見せていた。どこかのアジトでショッカーの一味と・・・じゃなかった、なぜか暗すぎる松原客館の部屋にて、朱仁聡と部下の前で、お偉いさんの侍医として取り立ててもらうのを賭け、まひろ=「左大臣の女」を嵌めると宣言していた。

 となると色仕掛けか。まひろ親子は純粋だから、簡単に引っかかりそう。次回から周明はグイグイ来るかな。この時にグイグイが周明だけじゃなくて良かった、ちょうど宣孝もまひろに来ているから牽制になる。しかし、モテキかと思ったらハニートラップだなんて悲しいね。

周明:国守の娘は左大臣とつながりがあります。もしかしたら左大臣の女かもしれません。うまく取り込んで左大臣に文を書かせます。朱様のお力になれるよう。

部下その1:こいつは日本人だということを隠しておりました。信用できません。

その2:同感です。

朱仁聡:私は周明を信じる。やってみよ。皆の信用を勝ち取れ。

周明:はっ。事が成就したなら、私を宰相様の侍医にご推挙ください。

その1:調子に乗るな。

朱:(部下を制して)もし、そなたの働きで宋と日本との商いの道が開ければ、望みは叶えよう。

周明:全力を尽くします。(ひれ伏す)

 周明が賭けの対象として口にしたのが「宰相様の侍医」だったが、それはお世話になった薬師の悲願か何か?ヒロインを巻き込む悪だくみを主導すれば、この後、周明には悲しい運命しか待っていない気がするなあ。

 このドラマはオリジナルキャラに冷たいから、こちらがせっかく思い入れたっぷりになったところで容赦なく殺されそう、直秀のように。と言うか、道長以外のまひろの男は、冷たく殺される運命なのか?

 くだらない妄想だけど。藤原宣孝は、まひろ(紫式部)と結婚しても数年で死ぬが、それは何故なのか・・・道長周辺に消された?

 もし「まひろが道長との子どもを身籠り、そのカモフラージュとして宣孝が彼女のサポートを引き受けての結婚」だったとする。為時パパは口をつぐんでいても、この宣孝の性格だったらうるさいくらいに道長に引き換えのご褒美を請求しそうだ。

 下手したら、何か俺を脅したいの?と道長が感じるぐらい。それで煙たがられ消されても不思議じゃない。または、まひろを出仕させる目的で、宣孝が消されたり・・・妄想ね。

 その場合、キーマンはやっぱり道長を守るできた嫡妻・倫子様かな?

今回もよくできた嫡妻・倫子様

 中宮定子が恋しく、せっかく入内した女御たちに会いもしない一条帝。その状況を慮り、女院もいることだし、ここ土御門殿にお招きして会を催せばいいんだわ🎵✨と思いつき、万事お任せをと世話を焼いた様子の倫子様だった。

 それなのに「まことに、まことに左大臣殿と女院様のご親切、痛み入り奉り・・・」と大仰に藤原顕光から感謝されたのは女院と道長ばかり。モヤモヤした。

 実際はお膳立てに走り回った女どもが「スン」として後ろに控えているのは、平安時代から?女は当時、それなりに力があって会が催された土御門殿は倫子様の持ち物なんでしょう?なんだかなー。

 このように利口で気の回る倫子様を嫡妻に持つ道長としては、ちょっとうかつなことをした。女院詮子様とのキャッキャウフフの姉弟トークのことだ。

女院詮子:帝の中宮への思いは、熱病のようね。私は夫であった帝に愛でられたことが無い故、あんなに激しく求めあう2人の気持ちが全く分からないの。お前には分かる?分からないわよね。

道長:・・・私にも妻が2人おりますが(女院のそばに寄り、声を落として)心は違う女を求めております

詮子:(道長を見る)

道長:(腕組みをして)己では、どうすることもできませぬ

詮子:やっぱり!誰かいると思っていたのよね。

道長:まあ、されどもう終わった話にございます。

詮子:下々のおなごでしょ。捨てたの?

道長:捨てられました

詮子:えっ!(思わず両手で口を塞ぐ)道長を捨てるって、どんな女なの?

道長:良い女でございました

詮子:まあ・・・(うっとり)・・・どんなふうに良いの?夫を繋ぎ止められなかった私には無い輝きが、その人にはあるのね。中宮も、帝を引き付け散々振り回しているけれど、私には無い。何なの?それって一体何なの?

道長:(口ごもり)今宵は、帝が元子様をお召しになられるよう祈りましょう。

詮子:あっ・・・その女のことは、倫子と明子は知っているの?倫子も明子も利口だから、気づいているかもしれないわね

道長:では!(逃げる)

詮子:何よ!自分から言い出しておいて。もっと聞かせなさいよ!(道長、どんどん去っていく)

 前回の予告で見てから心配だったけれど、こんなにも姉上にまひろの存在を打ち明けてしまって、道長、大丈夫なのか?女院様は、秘密にしておけなくなって道長の妻たちにカマかけちゃいそうだ。そしたら2人に絶対バレるじゃないか。わ~、どっちもすごく恐ろしい。

 倫子様は「ウフフフフ」と笑いながら証拠を集め、じわじわと追い詰めて白状するよう迫ってきそうだし、明子はストレートに「言え!」と言いつつ首を絞めてきそう。呪詛も始まるな。

 しかし、まひろへの道長の思いがよく視聴者にも分かった。「もう終わった話にございます」と言いながら、己ではどうしようもないと言っているのだから、心の中では現在進行形だ。そうやってずっと忘れずにいるなんて、それこそ女院もうっとりするような理想の恋話だ。

 ただ、女院様も円融帝を慕う気持ちはあったのではないのか?「2人が激しく求めあう気持ちが全く分からない」にしても、片思いの気持ちはあったでしょう?そうじゃなかったのか。円融帝には詮子が求める輝きがあったはず。それが運よく両想いとなれば良かっただけで・・・。

 とはいえ、なんと詮子は心の内を正直に話すのだろう。「帝に愛でられたことが無い」「私には無い輝きがその人にはある」なんて、悲しくも恥ずかしくも悔しくもある話だろうに。それを恥もてらいも無く・・・。

 そして「あれって何なの?」と弟にストレートに聞いちゃうなんて、道長への信頼が見える。道長も「そりゃフェロモンでしょ」とか安易に茶化さない。これまでも道長は、姉の弱みを見せられても、決してからかったり攻撃することが無かったのだろう、優しい弟だ。

 そんな私のかわいくて優しい道長を捨てるなんて「どんな女なの?」と許せない気持ちにもなったかも。火が付くと女兼家、策謀力の高さを誇るのだから、まひろは女院にも注意が要る。

一条帝&中宮定子、ラブストーリーは続く

 今週はまたファーストサマーウイカの清少納言がサイコーで、定子との場面は涙を誘われた。2人が真っ白な衣装でいるだけで(お産を控えてあのような恰好をしているの?)、一体どんだけ泣かせるんだ。うるうる。

中宮定子:(清少納言の書き物を読む)「鶏のひなが脚が長い感じで、白く可愛らしくて、着物を短く着たような恰好をして、ぴよぴよと賑やかに鳴いて、人の後ろや先に立ってついて歩くのも愛らしい。また親が、共に連れ立って走るのも皆、かわいらしい」 ・・・姿が見えるようね。さすがである。

清少納言(ききょう):お恥ずかしゅうございます。

定子:そなたが御簾の下から差し入れてくれる、日々のこの楽しみが無ければ、私はこの子と共に死んでいたであろう。(お腹に手を当てる)少納言。

ききょう:はい。ああ(大きなお腹で居住まいを正そうとする定子の傍へ行く)

定子:ありがとう。この子がここまで育ったのは、そなたのおかげである。

ききょう:(息を飲むように)・・・勿体ないお言葉・・・(頭を下げる)

定子:そなたを見出した母上にも礼を言わねばならぬな。

ききょう:内裏の登華殿にお母上様に呼ばれて初めて参りました日、亡き関白様始め、皆様があまりにもキラキラと輝いておられて、目が眩むほどにございました。(2人、笑い合う)

定子:懐かしいのう・・・。

ききょう:はい。(万感こもった泣き笑い

定子:あの頃が、そなたの心の中で生き生きと残っているのであれば、私も嬉しい。

ききょう:しっかりと残っております。しっかりと。(泣きそうに、でも力強く。定子が遠い目で微笑む)

ナレーション:翌日、定子は姫皇子を産んだ。

 あのファーストサマーウイカの泣き笑いには、こちらが泣く。声音には変にドスが効いちゃっているんだけど、また書いていて泣いてしまった。

 実家の往時のキラキラを留めるききょうの書き物(後の枕草子)が細くとも強い命綱となって、定子と姫皇子を救ったのだなあ。つくづく、まひろが思いついたことにしないでほしかったなあ。

 中宮定子を思って、会えない帝もつらい。何とかお側近くに仕える蔵人頭・行成の同情を得て、彼女に会えないものかと思っている。「高階に、密かに行くことは叶わぬであろうか」と聞いてきた。

 行成は「中宮様は、出家なされましてございます」とピシャッと断ったものの、内心ではすっかり同情し、愛しの道長に釘を刺された。

行成:帝のお心の痛みが伝わってくるようで、苦しくなりました。

道長:頭を冷やせ。

行成:は?

道長:(立ち上がり、行成の傍へ行き)帝の術中にハマってはならぬ。聡明な帝は、行成の優しさを見抜いておられる(座る)。そして同情を買い、利用しようとしておられる。帝のお側近くに仕える蔵人頭は、もっと冷静であってもらいたい。

行成:はっ。なんとも未熟でございました。

道長:頼んだぞ、行成。

行成:承知いたしました。

 道長は有能だね。言うべきことは言い、でも言い方に温かみがある。

 しかし、それでも人の恋心は止められない、己ではどうもすることもできないと道長本人も言っているぐらいだからね。帝だって止められない。まひろ&宣孝の苦味を忘れさせるくらい、純度の高いラブストーリーが定子&帝で進行する。

 どう考えても、これは「源氏物語」冒頭の桐壺更衣&桐壺帝の話だね。主人公・光源氏の両親だ。そうすると、安倍晴明が言う男皇子は臣籍降下して光源氏になれば良いのだよと紫式部は示唆していたのか・・・なるほど。そうならないから悶着が起きる。

 次回予告を見ると、自制してきた帝も、とうとう堪忍袋の緒が切れるようだ。会えないからこそ燃え上がる悲恋・・・。「熱病のように求めあう2人の気持ちが全く分からない」と言っていたママ詮子も、とうとう息子のために動くらしい。そして、ロバート秋山の実資も「分からない」人らしい。

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#22 問題山積で歯噛みする道長、好奇心旺盛なまひろは越前生活をエンジョイ

積極的なまひろ、第一宋人(イケメン)発見

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第22回「越前の出会い」が6/2に放送された。依然として我が家の一大事が解決を見ない中・・・というか佳境を迎えテンテコ舞の中、それでも目が離せない今年の大河ドラマ。少しでも書いておこうと思う。

 まずは公式サイトからあらすじを引用する。

(22)越前の出会い

初回放送日:2024年6月2日

敦賀の松原客館に立ち寄ったまひろ(吉高由里子)と為時(岸谷五朗)は、宋人の朱(浩歌)、通事の三国(安井順平)らに迎えられる。浜辺に出かけたまひろは、そこで佇む周明(松下洸平)と出会う。その夜、国守を歓迎する宴が行われ、まひろは皆と楽しいひと時を過ごす。翌日、越前国府に到着し、大野(徳井優)、源光雅(玉置孝匡)に出迎えられるが、為時は早々に激務で体調を崩してしまう。医師として現れたのは…((22)越前の出会い - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 医師として現れたのは周明だった。中国鍼を操る鍼灸医というか。まひろは驚くが、その前に逆ナンに及んでいた相手だったから、まーそうだろうね。

 積極的なまひろは浜辺で周明に出会い、乙丸が例のごとく止めるのも全く意に介さず、ガンガン話しかけていた。その初対面の時、周明は首を横に振り「ワタシ日本語ワカリマセーン」の態度を取っていたんだけど・・・松下洸平だもの、そんな訳ないと視聴者は知っている。

 周明は砂浜に自分の名を書いてみせ、まひろも筆談で質問。何か、幼き三郎がまひろに足で名を書いて見せた場面を思い出す。まひろの運命の相手は、いつもその登場の仕方なのかな。

 それで、周明に対して、まひろは宋人だから言葉が分かるはずないと安心してか、羊肉はあんまり美味しくなかっただの一方的に吐露していた(こんがり焼かれて、本当は美味しそうだったけどね)。だから今回ラストの日本語ペラペラの周明登場には、彼女は度肝を抜かれたようだった。

 前述の通り、いつかは日本語をしゃべり始めるはずだと、こちらは今か今かと待っていた。故に大した驚きはない。ただ、どういう訳ありでそうなったのか。次回のお楽しみらしい。

 勝手に設定を考えてみる。中国の鍼灸を日本人の父が学びに中国へと渡ったら、鑑真和上のパターンで全然帰れず、父は現地で死去。周明は現地の母との間に生まれたハーフ、父に鍼灸を習い、言葉もバイリンガル。そんな設定でいかが?

 前朝ドラ「ブギウギ」でも登場していた森田順平が演じる通詞が殺され、にわかに火曜サスペンス劇場みたいな空気になっているが、それで周明とまひろの仲がグッと深まる仕掛けなんだろうか。

 まひろは前回、道長に「今度こそ、越前の地で生まれ変わりたいと願っておりまする」と宣言していた。きれいさっぱり、道長との恋からは旅立った?それで、早くも宋人のイケメンを発見して、越前での恋に飛び込んでいくつもりなのか。宣孝にも、もしかして宋の殿御と・・・ルンルン、みたいなこと言っていたから。

 初めて都を出て越前に赴き、開放感いっぱいに「生まれ変わるぞー」と思っているまひろが見慣れない異国のアレコレに触れてのワクワクは分かるんだけど、置いていかれて政に揉まれている道長が気の毒にも見えてくる。

 まひろは体調の悪いパパに代わり自分が手紙を書き、「左大臣様としたことが、ずいぶんと頼りないものでございますね」と道長に文句タラタラ。手紙の文字で私が書いたと分かったはずなのに、何もしてくれないじゃない!的なむくれ方だ。まひろ、道長は今、越前どころじゃないと思うよ。

まひろはなぜ越前を去ることになるのだろう

 しかし、作中ではこんなにも好奇心旺盛で外交的なまひろが、しかも私がいるから大丈夫!みたいに為時パパにも啖呵を切っていた彼女が、史実に沿うとすると1年やそこらで為時パパを置いて都に帰ることになる。

 史実のリアル紫式部は都が恋しくて、宣孝との結婚を口実に早々に逃げ帰ったというが、このドラマのまひろに限って言えば、余程のことが無ければ京に帰ると言い出すとは思えない。そんな行動は信じられない。辻褄が合わない。

 そのよほどのことは何か?と考えると・・・思わぬ妊娠だと思うんだよなあ。道長との機会はあった。それとも、周明と、のっぴきならない事態に早くも陥るのか?それはちょっと納得できないなあ・・・そうか、次回はイケオジ宣孝も越前に来るか。いよいよプロポーズか。

 まひろは20代後半、眩しい程の人生花盛り、モテモテだね。

 秘書まひろが帰京するなら、越前守として赴任したパパ為時はただでさえ四面楚歌なのに、大変なことになりそう。「守vs.介掾目」という、「守介掾目」のうち地元で任じられている方々が受け入れてくれねば誰の支えもない状況で、道長から命じられた務めを全うできるかどうか。宣孝が言う「懐を肥やす」どころじゃない。

 まひろの恋愛はどうでもいいが、今後、為時パパがどう事態を打開していくのかには興味がある。宋の商人だという朱仁聡らの一行の滞在は、隆家ご活躍の、後の刀伊の入寇にも関わりがある設定なんだろうか?

 今回は、新天地越前での新しいミステリーの登場人物などセッティングのご紹介や状況説明が主だったが、次から話が転がり出すだろう。松下洸平の周明が、為時パパの通訳となって大活躍かな。

道長に降りかかる懊悩

 新キャラも登場した越前パートには、徳井優のメイク盛りすぎ別人キャラもいながら(去年の「どうする家康」でも上杉景勝が超盛りすぎな髭面だったね、毎年1人いるのか?)、まだ面白味をそれほど感じられない。

 だが、今回の道長パートは気の毒だけど面白く見た。道長は前回、まひろと会った時には、自分による陰謀論をそうじゃないのに受け入れてしまうほど、自棄的で気落ちしていた。

道長:俺の無力のせいで誰もかれも全て不幸になった。お前と交わした約束は、いまだ何一つ果たせておらぬ。これからどこへ向かってゆけば良いのかそれも見えぬ。

 こんな風に言っていた。まひろと会えたことで、道長も自分の志を思い出しエネルギーは再注入されたようだと前回ブログで書いたものの、今回、まだ元気のない道長を見る限り、そうでもなさそう。元々、元気いっぱいキャラでもないが。

 義理の姉・高階貴子が瀕死と聞いた甥・伊周が、流刑地の大宰府から逃げ出して母に会うため上京。姪・定子は自ら断りなく出家した身で一条帝の子を身籠り、道長に助けを求めてきた。まだまだ「長徳の変」は収まりきっていない。道長は越前どころじゃない。

 道長が驚き困ろうが、マザコン伊周には当然の行動なんだろう。母に会いたいし、呪詛なんかしてないから無実の罪だとの気持ちも捨てきれないだろうし・・・それとも、もう落ちるところまで落ちてどうでもよくなった?

 ヘナチョコ烏帽子が伊周はもうお決まりになっちゃって💦中の人、相変わらず突き抜けた演技だ。

 伊周は、菅原道真や、明子の父・源高明みたいに大宰府に行かされたら終わりと思っているからこその抵抗なんだろうが、これはもう無実かどうかじゃない。脇の甘い自分たちが墓穴を掘って女院様との政争に敗れたって流れなんだと事態を理解し切り替えない限り、再浮上もままならない。

中宮の捨て身の訴え、取り乱す一条帝。つらい道長

 伊周が立ち直らないと、兄と弟に巻き込まれた定子、そして彼女を心から愛する一条帝のカップルが可哀そう。道長も、愛し合う彼らの間に隔てを置くような真似をしなければならない立場なのが可哀そう。

 このドラマの道長なら、中関白家の没落を喜んではいない。悩みが深まって胃に穴が何個か空いたでしょうよ。

道長:(鈍色の喪服にて参上。廊下で足を止め、御簾越しに頭を下げる)この度は何とお悔やみ申すべきか言の葉も浮かびませぬ。

中宮定子:喪に服しておるこの身をいとわず、左大臣殿御自らお越しとは痛み入ります。

道長:亡き義姉上には幼き頃からお世話になりましたゆえ。

定子:帝の御心に背き続けた兄の所業、許してください。

道長:はっ。

定子:道長殿、近くへ来ていただけませぬか。

清少納言(ききょう):中宮様・・・!

定子:お願いします。

(ききょうが御簾を上げる。道長、近くの廊下に控える。めくられた几帳の奥に定子が寄りかかって座り、腹を押さえている)

定子:帝のお子を身籠っております。(雷鳴)父も母も逝き、兄も弟も遠く、高階に力はなく・・・帝のお子をこの先どうやって生み育てていけばよいのか、途方に暮れております。左大臣殿、どうか・・・どうかこの子を(身を乗り出して)あなたの力で守ってください。私はどうなっても良いのです。(道長、目を泳がせ固唾を飲む)されど、この子だけは。

道長:(息を漏らし、歯噛みする)

 定子の捨て身の訴え。もう貴子は亡くなり、喪服を着て弔問に訪れた柄本佑の道長の姿が、「源氏物語」の光源氏を思わせるほど清々しく美しかった。喪服には製作費の関係で手が出せないのかと思っていたが、道長・定子・清少納言や家人がまとう薄き・濃き鈍色の喪服を拝めたのは眼福、この上なくありがたかった。

 さて・・・これまで健気にも表向きは厳しく出ていたものの、一条帝にとっては最愛の定子。前回書きそびれたが、一条帝の深い嘆きには、道長も涙を誘われていたように見えた。

 だから今回、彼女の妊娠を告げれば、ガマンも限界の帝の心が乱れるのは必至、実際、帝は取り乱した。

一条帝:なんと・・・!

道長:まもなくご誕生だそうにございます。

一条帝:今から高階の屋敷に行く!

道長:お上!なりませぬ!勅命に背き、自ら髪を下された中宮様をお上がお訪ねになれば、朝廷のけじめは付きませぬ。

一条帝:ならば中宮を内裏に呼び戻す!

道長:朝廷の安定を、第一にお考え下さいませ。

一条帝:我が子まで宿している中宮に、朕は生涯会えぬのか!・・・生涯、会えぬのか?

道長:(閉じていた目を開き)・・・遠くから、お見守り頂くことしかできませぬ。

一条帝:(落胆)

 本来は、中宮が帝の子を身籠るなんて、世の中的にも喜びの極みのはず。なんでこうなっちゃった?あれだけ「皇子を産め」と父と兄に苛まれていた定子には、ドヤ顔で彼らを見返せるくらい(定子はしないだろうけど)幸いでしかない話だったのに。何というタイミング。

 道長のあの苦悶の表情は、直秀らの一味が道長が住む東三条邸に盗みに入って捕まった時に見せた表情と似ている。あの直前、直秀を「最近見つかった弟」と称して邸に招き入れたのは道長だったね。

 今回は「定子と帝をこっそり会わせちゃったのは俺だったよなあ・・・」と自分の責任も自覚して唇を噛んだだろうか。今さら、更なる苦しみを呼んでしまった原因は俺だと。「俺って優しいから、苦手だなあ」と伊周捕縛を渋る検非違使別当の公任に負けないくらい、今作の道長も優しいからね。

 顔を見るに、道長も、為時パパのように周明に中国鍼を打ってもらって治療した方が良いね。

怖さの源泉=明子の執着、詮子の権力

 このドラマは、比較的たくましくて怖い女性が多く出てくる。たとえオホホホと扇で口を隠して上品に笑っていても、心の底に滓が溜まっている。今回は、道長パパの兼家を呪殺した実績を誇る源明子が「殿にはいつか、明子なしには生きられぬと言わせてみせます」と、道長に迫っていた。

 もし当初の彼女の目論見通りだったら、呪詛されて「俺は生きてはいなかった訳だな」と道長も理解した。好かれたら好かれたで迷惑なぐらい執着心が強そうだ。「源氏物語」の六条御息所の役回りだと言うから、さもありなんか。支配欲が強いDV系の人間だ。

 嫡妻の倫子様も、本来は優しいのにアンテナを張り巡らせてピリピリと怖くなっちゃってるし、道長が心休まる場はないのか・・・と言うか、そもそも当時の婚姻システムがいけないね。女が皆、愛に悩んで苦しみ、鬼になるようにできている。

 ということで、道長がリラックスできる数少ない場が、姉の詮子の下なのかな。姉は姉で好きに世の中を動かせる権力者であり、それが怖いけれど、道長と2人の時はノビノビしゃべっている。

 公式サイトの相関図に、彼女の感情が「仲良し」「不快」と、しっかり書きこまれているのが特異的でおもしろい。そんなの彼女だけじゃないか?

 それにしても、前回、中関白家の二条邸が炎上するのを眺め、「やってやった」と清々しい顔を見せていたのは凄まじかった。昔、伊周が身の程知らずにも中宮サロンはこうあるべきなんて詮子に説教なんか垂れたから、それに対する闘将の答え、女兼家の勝利宣言って感じだった。

 次回予告では、道長がまひろとのことをキャッキャと姉上におしゃべりしてしまっていたようだったけれど、まひろは大丈夫なのか。女院はすぐに手の者に命じてまひろを特定し、個人情報を握りそうだ。

 そして、明子と倫子様のどちらの耳に入るのも怖いのに、2人と接点のあるお姉さんは、まひろ情報をうかつにも(わざと)漏らしちゃいそうじゃない?

 わー、それって本当に怖いことになりそう。

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#21 感涙の「春はあけぼの」誕生、まひろ&道長は再逢瀬からの新たな道へ

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第21回「旅立ち」が5/26に放送された。まず公式サイトから、あらすじを引用する。

(21)旅立ち

初回放送日:2024年5月26日

定子(高畑充希)が髪をおろしたことは内裏に広まり、一条天皇(塩野瑛久)はショックを受ける。任地に赴くことを拒み逃亡する伊周(三浦翔平)を実資(秋山竜次)らが捜索し、やがて発見するが…。定子を守ることができず落胆するききょう(ファーストサマーウイカ)を励ましたいまひろ(吉高由里子)は、中宮のために何かを書いてはどうかとアドバイスする。越前へ旅立つ日が近づき、まひろは道長(柄本佑)に文を送り…((21)旅立ち - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 個人的に我が家の一大事+αが出来したので今回はブログは書けないと思ったのだが、書かないのはあまりに勿体ない話の展開があったので、今回は時間の許す限りダラダラでなく2点だけ書いておこうと思う。

①「枕草子」誕生の背景に号泣

 高校の古文で皆が習った(苦しんだ?)「枕草子」。それが、紫式部(=まひろ)が主人公の大河ドラマで、こんな形で感動的に映像化され描かれるだなんて誰が想像しただろうか?だって紫式部と清少納言は平安文学の二大巨頭だろうけれどバチバチの関係だろと、「紫式部日記」を読んでも清少納言への嫉妬丸出しだろと研究者でさえ仰る方もいるのだから。

 たとえば5/15放送の「歴史探偵」の「清少納言と枕草子」の回で「枕草子の素晴らしさを理解していたからこそ抱いた嫉妬だったかも」と言う方がいた。他方、そうではなく、紫式部が仕えていた道長の娘・彰子サロンを代表して、評判になってしまった枕草子=定子サロンに対し、彼女は反論していく必要が政治的にあったからだ、という指摘があった。私も後者に賛成で、政治的背景を十分に考慮せず「嫉妬」などと浅薄な文字面だけの判断に落ち着くのは、素人ながら危ういと思う。

 いやいや・・・でも、こんな理屈はどうでもいいぐらい、心を動かされた。前回、予告の「春はあけぼの」を見ただけで心をズギューンと撃ち抜かれたと書いたが、息を飲むほどの枕草子の春夏秋冬が映像美として表現されていったのが圧巻だった。すごいね。

 こちらも見ていて知らずに涙が流れ、生きながら死んでいる中宮定子が心動かされ、徐々に蘇生していく様に清少納言(=ききょう)が感動で打ち震えて涙するのも含めて、美しかった。

 古文の先生、ありがとうございます。この感動を味わえるのも、高校当時は軽いエッセイだし大した意味も無いと思いながらも(失礼)枕草子を諳んじたからなんでしょう。それがまさかの壮大な下地となって、映像が展開していくたびに知った文言が頭に浮かび、感動が感動を呼んで・・・となった。高校時代にこの時のための伏線を仕掛けられた心地がした。皆、そうだよね?その仕掛けを利用した制作側の深謀遠慮たるや・・・。

 また、枕草子を書くファーストサマーウイカが美文字だこと!驚いたが、彼女は書道10年の腕前で、さらに今回、練習を重ねたのだとSNSで知った。説得力のある熱演にも、すごいキャスティングとしか言いようがない。「清少納言といえばファーストサマーウイカ」だと、イメージがしっかりついた。私の中では、最近の例の中では「北条政子と言えば小池栄子」に匹敵するぐらいかも。

 この感動的な枕草子誕生についてだが。書くことには人(自他ともに)を動かす力があると感じ始めていた「まひろ」が、言葉遊びの末に(司馬遷の史記→敷物→枕の四季)アイデアを思いついてききょうに書くのを勧めた設定になっていた。つまり、清少納言は紫式部に手柄を奪われた格好だ。

 私も物書きの端くれも端くれとして、自分の代表作の発想の部分を奪われるなんて、ちょっとあんまり、気の毒に過ぎる気もする。主人公まひろ(紫式部)をききょう(清少納言)の親友に描いている時点でお察しではあったか・・・まあ、紫式部が主人公のドラマだから仕方ないのだろう。清少納言が主人公のドラマだったら、「源氏物語」は清少納言が発想したことになるんだろうか。

②まひろと道長の関係は次の段階へ?

 今回のサブタイトルは「旅立ち」であり、それは、中関白家の伊周や隆家が流刑先へとすったもんだで赴くことや、為時パパが越前守になって好奇心旺盛の(リアルでは違うみたいだが)まひろが琵琶湖を舟で渡って越前までパパに同道することを表向きは指しているのは明らかだ。

 定子と清少納言との関係にも変容が見られたし、まひろと道長の関係をも裏では指しているのだろう。

 まひろは宣孝と話した際に、中関白家が完膚なきまでに陥落していった今回の長徳の変で一番得をしたのは誰か、道長だろうと指摘されて真顔になった。巷では、道長が女院詮子様と企んでの謀略だと皆が噂していたのだろう。ドラマの中での実際は、女兼家である女院が謀って大勝利したのであり、道長はそれを阻止できなかった、ということだったのだが。

 まひろは、あの政変は道長の謀かと疑念を持ってしまったので、旅発つ前夜に手紙を書いて呼び出し、会いに行く。顔を見て「あなたはそういう人ではない」と分かり、一瞬でも疑ってゴメンねと謝った。その後、

道長:俺の無力のせいで誰もかれも全て不幸になった。お前と交わした約束は、いまだ何一つ果たせておらぬ。これからどこへ向かってゆけば良いのかそれも見えぬ。恐らく俺は、あの時、お前と遠くの国へ逃げていっていても、お前を守り切れなかったであろう。

・・・と気落ちする道長に、「彼の地であなたと共に滅びるのも良かったのやもしれませぬ」と、まひろから歩み寄って寄り添い、道長の腕の中でこれまでの後悔を打ち明けた。

まひろ:この10年、あなたを諦めたことを後悔しながら生きて参りました。妾でもいいからあなたのそばにいたいと願っていたのに、なぜあの時、己の心に従わなかったのか。いつもいつも、そのことを悔やんでおりました。いつの日も、いつの日も・・・。

道長:いつの日も、いつの日も、そなたのことを・・・。(ギュッと抱きしめる)

まひろ:今度こそ、越前の地で生まれ変わりたいと願っておりまする。

道長:そうか。体をいとえよ。

(微笑むまひろ、道長の顔を両手で引き寄せ、唇を重ねる。フェードアウト)

 これはもう、口吸いだけでは終わらなかったと思うんだけど・・・ここで前回も書いた、まひろが道長の子を身籠った説に含みを持たせて、まひろは道長から旅立った。

 10年間悔やんできたからあなたの妾になりますとはならないで、今度こそ生まれ変わりますと。それを「そうか」と見送る道長にも、俺の政をまひろが見つめているんだという意識を再確認させ、エネルギーを再注入したようだった。

 フェードアウトの後は、青い琵琶湖に少し離れて同方向を向くクラシックな舟が2艘、清々しく浮かぶ。まひろの越前への旅立ちも、舟がまひろと道長の在り方を示唆するようで、彼らの旅立ちにもふさわしいシーンになっているのが心憎かった。

 さらに絆を強めたまひろと道長。ドラマとしてはいいんだよ、いいんだけどね・・・道長嫡妻の倫子様がいるから、まひろと道長良かったねーバンザイともなれない気分だ。女院とも渡り合える傑物の倫子様は、今後どう動くのか。見逃せない。

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#20 強い!「女兼家」女院詮子が中関白家一掃。まひろは父に道長との真実を語る

とにかく落ち着け、伊周

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第20回「望みの先に」が5/19に放送された。ラストに定子が自ら髪を切って落飾してしまうなど、主人公のまひろの身の上もそうだが周りの話題が盛りだくさんで何から書けばいいのか迷う。

 定子の悲劇の原因を作っている兄の伊周は、烏帽子のひん曲がったヘナチョコ貴公子で右往左往する姿がスーパーで駄々をこねる男児のようで、まさに「栄花物語」の「心幼き人」を表現。つい可愛いなーと笑ってしまった。それが悲劇の素なんだけど。ききょう&まひろコンビのドリフコントと言い、重すぎる展開から和らげるスパイスになったか。

 まずは公式サイトからあらすじを引用する。

(20)望みの先に

初回放送日:2024年5月19日

為時(岸谷五朗)が淡路守に任命され、惟規(高杉真宙)、いと(信川清順)も大喜び。しかしまひろ(吉高由里子)は、宋の言葉を解する父は越前守の方が適任だと考え…。一方内裏では、花山院(本郷奏多)の牛車に矢を放った一件で、一条天皇(塩野瑛久)が伊周(三浦翔平)と隆家(竜星涼)に厳しい処分を命じた。さらに、定子(高畑充希)は兄弟の不祥事により、内裏を出ることを命じられる。絶望のふちに立った定子は…((20)望みの先に - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 中関白家の嫡男として、道隆の妻・高階貴子によって蝶よ花よ(?男だけど)と甘く大事に育てられたのがアダとなりか・・・伊周は、自分たちが引き起こした花山院襲撃事件に、完全に飲みこまれ対応できない。判断力は吹き飛び、ママ貴子と矢を射た隆家は自業自得かもしれないが、あわれ妹の中宮定子は道連れだ。

 史実的にも、ここで伊周が判断を誤らずに踏ん張れていたら、定子はここから3人も一条帝の皇子皇女を産むことになるのだから、道長の世は来なかったかもしれないのに・・・彼の胆力の無さが、中関白家の運命を決定づけた。いや、あの兼家パパの血を色濃く引く女院詮子が相手だから、誰も敵わないか。強いな~。

高階貴子:(震えている伊周の背に手を当てて)まだ誰が射たか分かっていないのでしょう?

隆家:院の従者もおりましたゆえ、顔は見られています。

貴子:だとしても、牛車に当たっただけならば大したお咎めにはならないわ。

伊周:行かねば良かった・・・。

隆家:今更言うな。

貴子:今度こそ中宮様を頼りましょう。

伊周:中宮様は頼りになりませぬ!私を関白にすることさえできなかった!(烏帽子が曲がり、手を振って激高。隆家がやれやれと横を向く)

貴子:あの時は女院様がいらしたからですよ。帝とて中宮様の身内を裁いたりはなさるまい。(伊周、泣いている様子)さあ、安心して今日は休みなさい。

 ああ、ママ貴子は判断を誤った。ここで事を待たずに速やかに息子たちを出頭させ、定子の口添えと共に帝と花山院に許しを乞わせていたら。言うべきは「今日は休みなさい」じゃなかったね。

 しかし、伊周の様子が面白すぎる。上級貴族にふさわしい立派な身なりながらガタガタ震えたり、手を振り回したりしている様子、烏帽子が曲がっているのは、なりふり構っていられないくらい彼の心が折れているようで、三浦翔平の芸が細かい。

 一方、隆家は落ち着いたものだ。やっちゃったことはやっちゃった、仕方ないねと腹を括っているようだ。自分が矢を射たんだけどねえ、歯を見せながらのキラッキラの笑顔で。

 史実的には、この事件の前にも道長の従者と隆家の従者が一戦構えるぐらいまでいっているのだ。花山院だろうが構うこっちゃないぐらいに考えてそう。彼は上級貴族育ちながら根っからヤンチャというか、武士の心があるってことなんだろう。後に日本を救っちゃうし。

 今回陰に日に活躍著しく、結果念願の参議へと出世することになる蔵人頭の斉信が、謹慎を伝えに勅使として二条第に来た時にも、伊周の方が目が泳いで狼狽え方が酷かった。結局、大宰権帥と出雲権守として兄弟の配流先がそれぞれ決まった時も「行くしかありませんよ、兄上」という隆家に対し、「死んでも行かない」と激高し見苦しく手を振り回していたのは伊周だった。

 伊周は子どもだから、手を振り回す元気は無尽蔵。兄と弟が逆だったら、中関白家には良かったかもしれない。これで道長と鍔迫り合いをする資格も自ら失い、権力からの転落は決定的。安倍晴明が言ったように道長の世が来る。

仕掛ける策士、女院詮子vs.勘働きの倫子様

 権力闘争を描くのに、このドラマでは道長が良い子ちゃんキャラなので、策士の女院詮子が動くしかない。兼家の血が濃い彼女は、権謀術策に長けている。その彼女が全く気に入らなかったんだな~何かやって来るな~と見えたやりとりが、これだった。

女院詮子:ねえ、伊周たちの処分はまだ決まらないの?

道長:除目の後で処分を決めると帝は仰せになりましたが、伊周は大した罪にはならないと思います。

詮子:なぜ?!

道長:帝は、中宮様のお身内に厳しいことはできないかと。

詮子:まあ、情けない!お前はそれで良いと思うの?

道長:ただただ厳しく罰すれば良いとは思いませぬ。

詮子:え?

道長:お情けをもって事に当たられる帝こそ、私は尊いと感じます。

詮子:(首をひねって)分からないわ。だって伊周や中宮は、お前の敵でしょう。

道長:敵であろうとも・・・です。失礼いたします。

詮子:(思案を巡らせる様子)

 この直前、自分が除目で帝にゴリ推しした源国盛の無能さがわかり、ポカンとした詮子。国司の無能さは国交に関わるとして「とても越前守は務まりませんな」と道長に言われ、「怒ってる?ああ怒ってる。許して!」「何とか致します」との2人のやりとりがあって、その続きだ。

 詮子は、仲の良い姉と弟らしく道長には割と正直に物を言う。表情もストレートだ。伊周らの処分を問うた詮子は、道長の答えに全く納得できなかった。「女兼家」が、そのままで許す訳がない。

 次に詮子が登場した時、彼女は土御門殿の自室で伏せっていた。道長に「もう良うなった」と起き上がって見せたが、その後も、倫子の薬湯も断わり、胸苦しそうに横になる。前よりも明らかに弱っている。

 勘の良い倫子が「悪しき気が漂っておる。調べよ」と女房どもに命じたことで探索が始まり、呪い札が見つかったのだが・・・「鎌倉殿の13人」で呪詛には慣れたこちらも、こんなに?と思う程の数が続々と出た。

 そして、見つかった場所も変。呪詛と言えば、ありがちな縁の下に呪い札入りの壺が設置してあったのは分かる。ただ、女院の部屋の棚にある壺の中や、文箱や碁石入れ等、内側にいる人間しか置けないような、というかすぐにバレそうな、そこかしこから呪い札が見つかったのには首をかしげる。あれれ・・・?

 倫子は、「これは呪詛にございます」と当初詮子に告げたものの、詮子が「中宮は私を嫌っておる。伊周は道長を恨んでおる。あやつらが私と道長を呪っておるのだ。恐ろしや恐ろしや。許すまじ!」と、伊周らの殺人罪を事実認定して宣言している時には、何か変だと顔を曇らせていた。

 その後の道長夫婦のやり取り。

道長:まさかこの屋敷に伊周の息のかかった者がおるということか?

倫子:殿、このことは私にお任せいただけませんでしょうか。

道長:ん?

倫子:屋敷内で起きたことは私が責めを負うべきにございます。こたびのことも、私が収めとうございます。殿はどうぞ、内裏でのお役目にご専念くださいませ。

道長:されど女院を呪詛するは、帝を呪詛するに等しいのだぞ。

倫子:それゆえに間違いがあってはなりませぬ。私にお預けくださいませ。

道長:ん?(腕を組み、倫子を見て思案する。ニコニコと微笑む倫子)あ・・・(穏やかに頷く倫子)はあ・・・そうか・・・ではそなたに任せよう。このことは帝にも申さぬ。それで良いな。

倫子:はい。ありがとうございます。

道長:うん。

 良い妻だなあ、倫子様。伊周らを厳しく処分する気のない道長の意に沿い、正義感に溢れて。曲がったことを受け付けない倫子様だ。

 1度見ただけでは、ここの夫婦のやりとりが「ん?どういうこと?」と飲みこめなかったが、2度見て、先の詮子の道長とのやり取りでの不満顔を確認してから、なるほど呪詛は詮子の自作自演だったか・・・兼家が仮病を使ったのと同じ手で政敵に仕掛けたかと合点した。どんだけパパ似なの。

 結果的に、策士・詮子は倫子よりも上手だった。倫子が収める前に、詮子が国母に対する殺人罪だと事実認定した内容は、検非違使別当の実資によって表立って帝に伝えられてしまった。

一条帝:伊周と隆家は、何ゆえ出頭せぬのだ。

実資:調べの途中で分かったことにございますが、伊周殿は祖父である高階成忠に命じて右大臣様と女院様を呪詛。さらに3月21日、法琳寺において、臣下の修してはならぬ大元帥法(たいげんのほう)を修して右大臣様を呪詛したことが明らかになっております。(報告を聞き、ただならぬ表情の帝、蔵人頭・藤原行成。道長、目を泳がせる)証言は得ておりますので、間違いはございません。

一条帝:女院と右大臣を呪詛するは、朕を呪詛すると同じ。身内とて罪は罪。厳罰に処せ。

道長:お待ちください!

一条帝:実資、速やかに執り行え!

実資:ははっ。(頭を下げる)

 こうなったら、もう「女院の自作自演です」とは、道長は口が裂けても言えない。道長夫妻の完敗、詮子の大勝利だ。でも、詮子は高階貴子の父にまで偽の罪を擦り付けたか、それとも高階成忠が本当に呪詛まで手を染めたのだろうか。

 どこまでが詮子の自作自演なのだろう。全部だったら彼女の力は怖いが・・・「彼ら(伊周、隆家)が、まこと女院様と私を呪詛したのであろうか」と安倍晴明にも道長は聞いたのを見ると、呪詛が詮子だけの振る舞いとは信じきれない部分もあるのだろうな。

密かに定子を手助けした道長

 伊周は斉信を招き、調べの進展状況を聞いて「呪詛などしておらぬ!」と驚き、密かに道長を訪問して涙ながらに訴えた。

道長:(廊下から)謹慎中のはずだが。

伊周:(これまでの道長への態度とは打って変わって神妙に)謹慎中の身に、お目通りをお許しくださりありがとうございます。(座につく道長)院を脅し奉るために矢を放ったのは弟にございます。その責めは私が負いまする。されど、(力を込めて)呪詛はしておりませぬ。どうか、そのことをどうか帝にお伝えくださいませ。(深々と礼をする)なんとか内裏に戻れますよう、右大臣様の格別のお力を賜りたく、切に・・・切にお願い申し上げるばかりにございます。(再度、深々と礼)

道長:私も、苛酷なことは望んでおらぬ。されど・・・(気の毒そうに)お決めになるのは帝ゆえ。

伊周:帝に、私をお信じくださりますよう何卒・・・何卒(涙声で頭を下げる)、何卒、何卒お願い申し上げまする。

道長:(無言で伊周を見つめる)

 事ここに及んでしまえば引っ込みはつかないが、道長は伊周の涙の訴えに心が痛かったはず。その後の道長の行動は、良心の呵責の形と考えると確かにわかりやすい。

 道長は、内裏を出されていた中宮定子を密かに助け、登華殿に手引きした。そこで帝に直接定子から嘆願させた訳だね。道長なりに、一番帝の心を動かせるとするなら定子だと考え、伊周ら中関白家の甥姪の窮地を助けたかったのだろう。

 この一条帝と定子のシーンが、悲しくも美しかった。一条帝の帝としての矜持と妻を愛する心の間で揺れ動く葛藤がよく表現されていた。定子も凛として、中の人たち、あっぱれ。

一条帝:(かつて定子がいた、灯りの無い登華殿の広間を一人踏みしめ、佇む)

定子:お上。(一条帝、声に振り向く)お上が恋しくて、来てしまいました。

一条帝:(定子に近づく。やや怒りを含んで)なぜ内裏に上がれたのだ。

定子:(帝の表情を見て取って)右大臣が手引きしてくれました。(帝の足元にひれ伏す)どうか、兄と弟の罰を軽くしてくださいませ。お情けを・・・。

(帝はまっすぐ立ち、無言でじっと前を見据える。表情は暗く見えない。顔を上げ、帝の意志を感じ取り、立ち上がる定子)

定子:下がります。お健やかに。(礼をし、月明かりの廊下を去っていく)

一条帝:(遠ざかる定子の背中を見つめる)・・・待て。(駆け寄り、抱きしめる。涙溢れる定子)

 悲しい。昼の帝は、帝たらんとして精一杯我を張っている。でも、夜は定子を恋しく思いながら、彼女がかつて居た登華殿に来ていたんだね😢

 そこに「来てしまいました」と現れた定子。前回まひろが登華殿に参上した時、アポなしで定子に会いに来た帝を思い出す。心の底では呼び合い愛し合っているのに。帝の立場、伊周の妹という中宮の立場が枷となる。

 願いが聞き届けられないと理解して、定子は「お健やかに」と帝に言った。隆家も、流される時に母と姉に同じ言葉を笑って言った。土壇場に出る良家の子女らしい言葉。

次々と定子を追い詰める指令を出す、悲しき帝

 田中重太郎著の「校注枕冊子」巻末の年表を見たら、一条帝は、ドラマの今回でカバーする長徳2年(996年)は17歳、中宮定子は21歳だという。たぶん数え年だろう、2人とも若い。1月16日夜に花山院は誤射された。そして定子が自ら落飾したのが5月1日だ。

 ドラマの一条帝は、事件発生直後、傍らに中宮定子がいてもお構いなしに怒りを露わにし、指示を率先して出していた。昔、幼かった帝は「きれいなお姉さん」の定子にまとわりつき、若き帝として登場したばかりの頃も、伊周に頭が上がらずやりたい放題を許していた様子だったのに、こうも成長した。

検非違使別当・藤原実資:死人も出ておりますので、まことならば疑わしき者は直ちに捕縛し取り調べるのが常道にございますが、何分にも中宮様のお身内ゆえ帝のご裁可を仰ぎ奉りたく、奏上いたした次第にございます。

一条帝:官人の綱紀粛正、高貴な者の従者たちの乱暴を禁ずる旨、厳命したばかりだというのに。こともあろうに院に矢を放ち死者まで出すとは、許し難し。(傍らの定子を置き前に出て)何ゆえそのようなことが起きたのだ?

実資:内大臣藤原伊周殿は一条第の光子姫の下に通っており、院もその姫に懸想されたと勘違いしたと思われます。

一条帝:勘違いとは?

実資:院は、光子姫ではなく儼子姫のもとにお通いでしたので。

一条帝:そのようなことで院のお命を危うくし、更に2人の命が失われたのか。・・・右大臣、伊周と隆家の参内まかりならず、当面謹慎させよ。

右大臣道長:はっ。(頭を下げる)

一条帝:これより除目ゆえ、後ほど沙汰する。検非違使別当は、詳しい調べが付けば、逐一朕に注進せよ。

実資:はっ。

一条帝:(歩き出すが止まり)中宮は(振り返って)身内の者に一切会うべからず。

(控える清少納言が見上げると、定子は息も荒く、瞳が震えている)

 この後も、帝は裁定に従わない伊周・隆家兄弟への仕置に容赦なく、結果的に愛する中宮定子を追い詰めていく。兄弟が駆け込んだ定子の二条宮は、検非違使に囲まれてしまう。

 その宮への突入を許可したのは帝だ。邸を囲んでいた実資は「伊周と隆家を捕える。帝のお許しは出た。門を突き破れ!」と配下に声を掛けた。

 どっと突入してくる検非違使の役人ら。隆家は出頭したが、伊周は逃げた。定子は中宮であるから、検非違使別当・実資としては定子を牛車に退避させてから邸を徹底的に調べる段取り。そんな中、とうとう定子は自失したか・・・役人の刀を奪い、発作的に髪を切った。

 自らの手で社会的に自死したような落飾。あれだけ兄に面罵されても、ポーカーフェイスをほぼ貫いたほどの定子が・・・ガラガラと中関白家の足元が崩れ、家族が転落していく取り返しのつかない状況を目の当たりにしたからか。

 まひろとのコント姿ながら、推しの落飾を目撃した清少納言の心は砕けたろう。予告の「春はあけぼの」で、こちらの心もズギューンと撃ち抜かれた。こんなに悲しい「春はあけぼの」であったのか・・・高校時代の私に言い聞かせてやりたい。

まひろに真実を問い質した為時

 ようやっと、主人公まひろについて書く。今回はドラマ的フィクションとはいえ見逃せない展開があったのに、表の史実絡みの話題がドラマチック過ぎてこんなに後回しになってしまった。

 前回の従五位下への昇進によって予想されていた通り、まひろパパ為時の国司任官が決まった。下国とはいえ特別な島・淡路の守だ。真面目なパパは素直に喜んでいる。

 しかし、まひろは淡路では父の能力がもったいないと納得できなかった。詮子のように、頭をひねってこっそり手を回し、なんと、為時が書いたとされる漢詩をまひろが代筆、父にも知らせず朝廷に申文を提出したのだ。(ヒントをくれたのは宣孝。わちゃわちゃと仲良さげに2人が話す様子を、為時は寝たふりして見てなかった?宣孝のまひろへの悩まし気な熱い視線も既にヤバかった。)

 苦手な漢文による申文が山ほど来て、うんざりしながらも行成に任せず自分で読み切ったことで、まひろの手蹟(「あさきゆめみし」ファン的には「て」と読みたい)だと気づいたのが右大臣道長。昔、まひろにもらった漢詩のラブレターがこんなところで役に立つとは・・・「為」の字がそのまま。照合した手紙を文箱に無造作にぶち込んだので、勘の良い探偵倫子様との間に一波乱生みそうだ。

 それにしても、年月を経ても筆跡の変わらないまひろであることよ。今作のために、高校時代の古文の資料を引っ張り出して読んでいると、自分の幼い筆跡での書きこみが度々見つかる。それが懐かしい気にもなっていたが、十代にして手蹟が完成されていたまひろ、流石だ。

 申文に示された漢籍の教養が、越前に多く来日した宋人への対処能力アリと右大臣も帝も判断して為時の淡路守から越前守への交代につながった訳だが、つまり、まひろー、あなたそれだけの傑出した能力があるってことなんだよ。当たり前か、紫式部なんだもの。

 まひろの能力の凄さを視聴者にさりげなく刷り込んだところで、その時がとうとう来た。淡路守任官の時は神仏のご加護のお陰と言いながらまひろの顔色を窺っていた為時パパとしても、自分のホップステップジャンプの理由を確認したくなるだろう。その気持ちはよく分かる。

まひろ:(朝廷の使者が帰り、父為時に)おめでとうございます。惟規にも使いを出します。

為時:まひろ、そこに座れ。(ふたりとも使者を迎える正装のまま、部屋で向かい合う)

まひろ:何でございましょう。

為時:淡路守でももったいないお沙汰であったのに、何もしないうちになぜか突然越前守に国替えされた。これは、どういうことじゃ。

まひろ:博学である父上のことが帝のお耳に入ったのだと思います。

為時:誰が帝に伝えてくださったのだ。(まひろ、答えられない)右大臣道長様であろう。(まひろ、押し黙ったまま)従五位下の叙爵も、淡路守の任官も、越前守への国替えも全て、道長様のお計らいだ。そしてそれは、道長様のお前への・・・思い、としか考えられぬ。(まひろ、目を伏せ黙りこくっている)

 父は、もうお前の生き方をとやかくは申さぬ。道長様とお前のことは、わしのような堅物には計り知れぬことなのであろう。そこに踏み込むこともせぬ。ただ・・・(まひろ、父を見る)何も知らずに越前に赴くことは出来ぬ。(穏やかにだが真剣に)まことのことを、聞かせてくれぬか。

まひろ:(檜扇を置き、居住まいを正す)道長様は、私がかつて恋い焦がれた殿御にございました。都にいては身分を超えられない、2人で遠くの国に逃げていこうと語り合ったこともございました。(目を伏せ、物思う為時)されど、全て遠い昔に終わったことにございます。越前は父上のお力を活かす最高の国。胸を張って赴かれませ。私もお供いたします。

為時:(涙をにじませ、うなずく。ほほ笑むまひろ)

 まひろの辛い恋を、為時パパも知った。娘が20代半ばを超え、婿も取れず片付かないのは自分の官職が無いせいだと諦めていた節もあるだろう。その娘の七光りのお陰でとんとん拍子の出世の様相を呈していたら、確認したくもなるだろう。

 おそらく、娘の恋は終わっていないだろうとも察したろう。恋人同士の内的要因で終わったならともかく、外的要因で終わらされた恋は、その実終わらないものだ。それを辿るつらい人生を娘が歩んでいることを理解しただろう。努めて明るく振る舞う娘に、涙も流したくなる。

 あんなに反目していた父娘だったのに、いつからかこんなにも・・・為時が娘を信頼して口出しせず、じっと我慢を重ねたおかげだ。世のお父さんたちの鑑だ。

 次回は、定子と清少納言の悲劇を思い、ハンカチを用意して臨もうと思う。予告で、まひろは道長と「いつの日も」と言い交わし、抱擁していた。終わらない恋を内包した2人、ということは?やっぱり彼女が産む娘は???それを受け止める宣孝か?

 その前に、朝ドラ「スカーレット」で多くの視聴者を「八郎沼」に引きずり込んだ松下洸平が登場だ。吉高由里子とのドラマ「最愛」さえ数話しか見なかったのに何だけど、何もない訳がない。

(敬称略)

【光る君へ】#19 まひろの活躍を引き出す清少納言(ききょう)、権力者デビューの颯爽道長もまひろに応える

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第19回「放たれた矢」が5/12に放送され、何かとスッキリする回だった。次回は定子には気の毒だが、さらに期待できそう。まずはあらすじを公式サイトから引用する。

(19)放たれた矢

初回放送日:2024年5月12日

道長(柄本佑)が右大臣に任命され公卿の頂点に。これを境に先を越された伊周(三浦翔平)との軋れきが高まっていく。一方まひろ(吉高由里子)は、ききょう(ファーストサマーウイカ)のはからいで内裏の登華殿を訪ねることに。定子(高畑充希)との初対面に緊張する中、一条天皇(塩野瑛久)も現れ…。ある夜、隆家(竜星涼)は、女に裏切られたと落ち込む伊周を強引に女の家へ連れていく。これが大事件へと発展することに…((19)放たれた矢 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

やる気に満ちた道長、歓迎する一条帝

 まず、オープニングテーマ前の道長と帝との会話からして、おおっと思わせてくれた。BGMのエレキギターの高まりとともに、道長のやる気が感じられて良い世の中が来そうな雰囲気が漂う。

 帝もこれまではオラオラ伊周・隆家兄弟にうんざりしていたんでしょ?良かったね、前回の詮子ママの熱弁の通り、道長を選んで!

ナレーション:長徳元年(995年)6月、一条天皇は道長を右大臣に任じた。道長は内大臣の伊周を越えて、公卿のトップの座に就いたのである。

一条帝:(御簾内から)幼い頃、右大臣に東三条殿の庭で遊んでもらったことは憶えておるが、ゆっくり話したことはなかった。これからは太政官の長である。朕の力になってもらいたい。

道長:もったいなき御言葉にございます。

中宮定子:お上をよろしく頼みます。

道長:身命を賭してお仕えいたす所存にございます。

一条帝:一つ、聞きたいことがある。

道長:何なりと。

一条帝:そなたはこの先、関白になりたいのか?なりたくはないのか?

道長:なりたくはございません。(定子が道長に視線を向ける。道長は目を伏せたまま、ポーカーフェイス)

一条帝:何ゆえであるか?

道長:関白は陣定に出ることはできませぬ。私はお上の政のお考えについて陣定で公卿たちが意見を述べ、論じ合うことに加わりとうございます。

一条帝:関白も後で報告を聞くが。

道長:後で聞くのではなく意見を述べる者の顔を見、声を聞き、共に考えとうございます。彼らの思い、彼らの思惑を感じ取り見抜くことが出来ねば、お上の補佐役は務まりませぬ

一条帝:これまでの関白とは、ずいぶんと異なるのだな。

道長:はい。(いくぶん視線を上げて)異なる道を歩みとうございます

 俺はやるよ、やってやる!という道長の覚悟が沸々と見えた関白宣言。いやいや、関白じゃないから「非関白宣言」か。権勢を楽しみふんぞりかえるだけの輩とは俺は違うんだと言ってのけた。一条帝も、道長のやる気を歓迎しているようだった。

 このドラマが始まった時に、右大臣様といえば道長の父、兼家だった。その上には倫子パパの雅信が左大臣・太政官一上として公卿議定を主宰しており、小さなハゲを密かに作るぐらい頭を痛めて励んでいた。公任パパの関白太政大臣頼忠も、小声を張って頑張っていた。

 その3人分の政務を、右大臣・一上・内覧として一手に引き受ける訳でしょう?道長、これからの仕事量を考えるととんでもなく大変なんじゃないのか・・・十円玉ハゲがいくつも出現し、倫子を驚かすのだろうか。

 しかし、年齢的には遅咲きの兼家よりもかなり若い30歳前後、疫病を寄せ付けないくらい体力は充実している。体力は気力に通じるもんね。

一条帝の言葉から、道長が為時を引き上げる

 さて、このエレキギターの同じBGMは、今回もう1度聞くことができた。一条帝の言葉を受けて、道長が、山のようにある除目の申文の中に、まひろパパの為時の名を探し当てた時だった。こうなると、ワクワクしかない。

一条帝:世の中には、政のことを考えるおなごがおるのだな。

道長:中宮様も、女院様もさようにございますが。

一条帝:さような高貴な者ではない。前の式部丞蔵人の娘と言うておったかな・・・名はちひろ、まひろと申しておった。(息を飲む道長、口が半開き)朕に向かって、下々の中にいる優秀な者を登用すべきと申した。いかがいたした?(瞬きが止まらない道長

道長:お上に対し奉り、恐れ多いことを申す者だと思いまして。

一条帝:(笑顔で頷き)あの者が男であったら登用してみたいと思った

道長:(一点を見つめ、廊下を下がる。何かを決意したかのような表情。執務室に戻り、申文を漁る)違う・・・違う。違う。(申文の中に、為時の名を見つける。淡路守希望とある)淡路か・・・。

 びっくりするよねえ。自分が心の底に沈めている想い人の名前が、まさかの帝の口から出たんだもの。道長の口は半開きにもなるし、瞬きが止まらなくなるのが面白かった。

 その次の場面、沓脱石に置かれた黒漆の靴を見て、良い知らせがもたらされたのが分かった。こちらも思わず両手を組んで、やったー!と思った。

乙丸:(黒漆の靴を手に取り、丁重に揃え直す。無言で控える「いと」と、視線を交わす)

為時とまひろ:(正装して朝廷の使者にひれ伏している)

使者:正六位上、藤原朝臣為時を従五位下に叙す。(為時、まひろ、いと、乙丸の息が止まる)

為時:鴻恩をかたじけのういたしたるこの身、叡慮を承り謹んでお受け仕ります。(一膝進み、両手で書状を受け取る)

使者:右大臣様からのご推挙でございます。(まひろの瞳がうろたえる

 良かったね、為時パパ。道長は、姉の女院に言われても恣意的に人事を運んだりはしない男。兄の道隆のような失敗をしまいと心に決めている。それなのに為時を昇進させようと考えたのは、まひろのためだけじゃないだろう。まひろのためだけだったら、自制したはずだ。

 では何故かと言えば、一条帝がまひろのことを「男だったら登用してみたい」と言ったからだ。その帝の心に応えるのは、政務を任されている自分の正義だと考えることができた。大っぴらにまひろパパ為時を昇進させることができて、道長も嬉しいはずだ。

 「わしの目の黒いうちは」などと兼家に目を付けられてしまってから10年、長かった。兼家の息子の道長に推挙してもらって昇進するなんて、為時としたら普通なら考えられないと思ったことだろうね。

いと:やはり右大臣様と姫様は、何かありますね。

為時:こたびの事はそうとしか思えぬな。

・・・という会話を交わすのも自然な成り行きだ。

 次回予告を見ると、まひろはとうとう道長との関係を父に打ち明けるのだろうか?何て言うつもりか。端的には「妾のお申し出をお断りした」ってことになるだろうから、まひろは叱られそうだ。

 しかし、いわゆる男女関係だけに止まらない、精神的な同士のようなつながりを、為時パパならば、多少は理解しようと努めてくれそうだが・・・?難しいだろうか。

清少納言(ききょう)のヒット、まひろのホームランを引き出す

 苦節十年。為時は辛い境遇に甘んじてきたのだが、それをひっくり返したのはまひろが一条帝に伝えた言葉だった。じゃあ、それが叶ったのは何でと言えば、一言では清少納言(ききょう)の思い付きのお陰だ。

 まず、まひろは一条帝への対面なんてとてもできないのに、①中宮定子の女房として後宮に勤めるききょうが、まひろを定子に会わせようと思いつき、②一条帝が定子を急に訪れた偶然によって、対面が叶ってしまったという設定がうまい。あり得そうだもの。

 江が歴史上のイベントにRPGよろしく毎回のようにぴょこぴょこ顔を出すなんてトンデモ設定よりも全然良い。それも、②は枕草子にも出てきたエピソードだったような?(愛されている幸せな定子の姿を今回視聴者に見せておいて、次回からの彼女の立場の変転を考えると心が重いが・・・賢い定子は、帝と会話を交わす冒頭の道長を見て、兄たちとは違う、兄たちではダメだと感じていただろう。)

 ききょうに話を戻すと、ドラマの彼女は、頻繁にまひろを訪ねているようだ。漢籍・和歌など話が合う2人だし、ききょうも愚痴を言うにも内裏の外なら気楽だ。お菓子を食べながら、楽しい時間だろう。

 その「心酔する友」を、尊敬する推しの定子に会わせようと考えるのは、楽しい企みだ。よくぞ思いついたよ、ききょう。タイムリーヒットだ。好きだなあ、こういうの。

 「一代の誉れ」とまひろが口にしたように、友人に心底喜んでもらえることができる自分は誇らしいよね。自慢の友人・まひろを紹介するききょうも鼻高々だったはずだ。

 渡殿に通行人が足を痛めるような撒き菱(?)を撒かれ、きょろきょろ歩んでいたまひろが踏むという、源氏物語に出てくるような宮廷内での女房同士の足の引っ張り合いも出てきた。そこで、ききょうが大声で呼ばわる「私は平気!」というセリフも痛快だった。

ききょう:こうした嫌がらせは、内裏では毎日のことですの。お気になさらないで。私も3日に1度くらい何か踏みますので、足の裏は傷だらけです。でも、そんなこと(強く誰かに聞かせるように)私は平気です。中宮様が楽しそうにお笑いになるのを見ると、嫌なことはみ~んな吹き飛んでしまいますゆえ!

 ききょうの言葉を聞いて、部屋の影で顔を寄せあった女房達がいたが、あれはどちらの女房なのだろうか?中宮定子以外に、入内している女御は当時、もういたのか?とにかく、さっさとあの撒き菱を片付けないと、アポなしで突然やってくる帝が踏んじゃうよー。そしたら一大事だ。

 

 さて、ききょうのヒットを踏まえ、柵越えの大ホームランを放ったのがまひろだ。堂々と、よく言ったものだ。大事なお勤め(天皇には大事な「せいじ」が3つあり、①政事②性事③・・・うーん、思い出せない。星事?何かで読んだ)を終えた帝と中宮を前に、「私には夢がある」とマーティン・ルーサー・キング牧師のようなことを言い出した。

中宮定子:お上、この者は少納言の友にございます。

まひろ:(隣に並んで座るききょうに促され)正六位上、前の式部丞蔵人藤原為時の娘にございます。

定子:おなごながら、政に考えがあるそうにございますよ。

一条帝:朕の政に申したきことがあれば申してみよ。

まひろ:私ごとき、お上のお考えに対し奉り、何の申し上げることがありましょうや。

一条帝:フフ・・・ここは表ではない。思うたままを申してみよ。

まひろ:・・・恐れながら、私には夢がございます。

一条帝:夢?

まひろ:宋の国には科挙という制度があり、低い身分の者でもその試験に受かれば官職を得ることができ、政に加われると聞きました。全ての人が身分の壁を越せる機会がある国は素晴らしいと存じます。我が国もそのような仕組みが整えばと、いつも夢見ておりました。

一条帝:その方は、新楽府を読んだのか?

まひろ:「高者、未だ必ずしも賢ならず。下者、未だ必ずしも愚ならず」

一条帝:(微笑んで)身分の高い低いでは、賢者か愚者かは計れぬな。

まひろ:はい。下々が望みを高く持って学べば、世の中は活気づき国も又活気づきましょう。高貴な方々も、政をあだ疎かにはなされなくなりましょう。

定子:(一条帝が笑うのを見て)言葉が過ぎる。

まひろ:ハッ、お許しを。

一条帝:そなたの夢、覚えておこう。

まひろ:恐れ多いことにございます。

 こうして会話の文字起こしを見てみると、まひろのホームランも定子にサポートされればこそだった。その優しさ、ききょうが心酔するのも分かる。

 新楽府については、前回からまひろが読みたいと騒いで惟規に頼んでみたり、丁寧に伏線が仕込まれていたのはこういうことだったかと理解した。

 今回のオープニング直後にも、いとに嫌味を言われながら、まひろは熱心に新楽府を書写していて「政のあるべき形が書かれているから、ためになる」と説明していた。いとには「そういうことは若様にお任せになって、姫様はお家のために良き婿様に出会えますよう、清水寺にでもお参りに行ってらっしゃいませ」と言われてしまったが。

 悲しいよねえ。朝ドラ「虎に翼」の寅子も、千年前のまひろも。

 とにかく、このまひろと帝との対話が、前述したように道長を動かすことになり、まひろの為時パパの官位は久しぶりに上昇、一家挙げて喜ぶことになった。嬉しいねえ。

まひろにとっては、宋人>道長?

 まひろには更なる望みがある。多くの宋人が来日して越前に滞在中なので、宋の言葉が話せる為時パパなら「誰より越前だとお役に立てるのに」という訳だ。

 史実を踏まえるなら、次回、その点でも動きがあるはず。まひろがいったいどう仕掛け、動くというのだろうか?

 多数の宋人の来日については、道長が陣定で「帝より、若狭に宋人70名余りが来着した件について定めよとの命があった」と話をしていたし、ききょうもまひろに「右大臣様はよくやってる」という話の中身で触れていた。

 まひろは右大臣様(道長)の噂には食いつかず、食いついたのが宋人の方だったのが笑えた。え?もう人気のない道長には興味なし?なんて。

ききょう:新しい右大臣様には望みは持てぬと思っておりましたが、それが案外頑張っておられますの。疫病に苦しむ民のために租税を免除されたりして。

まひろ:そうですか・・・。(洗濯物を干しながら)

ききょう:それと若狭に70人もの宋人が来たらしいんですけれど、若狭は小国ゆえ何かと不都合だったらしいのです。そうしましたら右大臣様が、受け入れる館のある越前に送るよう帝に申し上げ、そうなったのです。素早いご決断に皆、感嘆しておりました。

まひろ:(洗濯物を干すのを止め、ききょうの方を向いて真剣に)宋人とは、どんな人たちなのでしょう?

ききょう:さあ?

 せっかくききょうが道長の噂話をしているのだから、まひろも少しは乗ってもいいのにねえ・・・道長はもうどうでもいいのか、意識しているからこそ避けたいのか。新楽府を書写して、宋の話に頭がいっぱいだったのか。

 まひろはききょうに対し、この後、科挙の制度について「私は身分の壁を越えることのできる宋の国のような制度を、ぜひ帝と右大臣様に作っていただきとうございます!」と熱弁を振るった。

 平安の2大スター、清少納言と紫式部。実際に会ったことがあったのかも不明な2人が、ドラマの中のような仲だったら夢みたいだ。紫式部日記との整合性が心配だが。

道長は国宝の日記を書き始めた

 道長が権力者としてトップに立ち、F4での立ち位置も当初からすると随分変わったものだ。当時は関白を父に持つ公任が、サラブレッドとしてF4をリードしているかのようで、出世コースを頭一つ抜けて走っていたように見えた。道長は、何を考えているのか良く分からないボーっとした不思議ちゃんだった。

 今や道長が右大臣となり、公任は参議として道長が主宰する陣定のメンバーだ。F4が揃った酒の席で、公任は「父が関白であった時は、俺も関白にならねばならぬと思っておったが、今はもうどうでも良い」と言い出した。漢詩や和歌や管弦の世界に生きてゆきたいからだという。「陣定で見ていても、道長は見事なものだ」と褒め、競い合う気になれないのだそうだ。

 そして友人らしく、道長にアドバイス。適切な除目のためには各々が抱える事情を知るべきだとして、情報収集には美筆で名高い行成が役立つと言った。行成は、乙女の目を道長にずっと向けてきた人物だったからすぐ了承、さっそく情報を集めて書いた物を道長に持ってきた。

行成:お読みになったらすぐ焼き捨ててください。

道長:いや、1度読んだだけでは覚えられぬ。そなたのような優れた才はないゆえ。

行成:されど、これが残るのは危のうございます。お心に留まったことだけご自身で記録をお作り下さい。

道長:それは日記のことか?

行成:はい。私は毎朝、前日に起きたことを書き記します。そのことで覚える力も鍛えられまする。

 この行成の言葉を容れて、道長が現代の国宝「御堂関白記」を素直に書き始めた。イエーイ!道長は生涯関白になったことはないのに関白記。関白と同様に力があったんだから、世の人がそう呼んでも仕方ない。土御門殿で文机の上に広げてある日記を、道長の畳座に丸くなってしまった小麻呂(😻💕💕)を抱き上げた倫子が、不思議そうに眺めていた。

 そして、行成の日記も(後の「権記」)、既に書き始められているようだ。2つとも、実資の「小右記」もそうだが、後世の私たちにとって大事な古記録だ。歴史家の先生たちが研究し、脚本がその成果を取り入れ、そのおかげでこうやって大河ドラマが楽しめている。

 日記が続いた試しの無い私が言うのもなんだが、読んでみたいなあ。現代語訳、買っちゃおうかな。

使える男、俊賢。転がされるオラオラ暴走族伊周&隆家兄弟

 今回、フューチャーされていたのは使える男・源俊賢だった。道長は友人の斉信と共に蔵人頭だった俊賢を、斉信に悔しい思いをさせてまで先に除目で参議に上げ、対伊周&隆家工作に動いてもらった。

 これに先立ち、伊周は、道長に陣定の後にいちゃもんをつけ、ひらりと交わされて四つん這いになり、かえって無様な姿を晒した。これは実資の「小右記」に書き記された史実だそうな。

 それ以来、伊周らオラオラ兄弟は内裏に来なくなっていたが、道長の意を受けた俊賢の工作の結果、陣定に再び参加。もし来なかったら俊賢の次の一手は何だったのだろう?妹の明子に「褒めるところが無い」と言われた俊賢だったが、有能な人物だと道長は見ていた・・・ということだった。

 俊賢の掌で転がされた伊周らは、さらに転がり落ちていく。こんな兄弟を持った定子が、足を引っ張られ、巻き添えを食らうのは気の毒だ。まひろが一条帝に対面した直後のオラオラ兄弟登場で、帝の表情が明らかに曇ったもんなあ。

 伊周が帝に言うことも、身分低そうなまひろ=女=女御になれるような女に会え、そうでなければ中宮に皇子をお授けくださいと、最低。まさに「産む機械」としてしか見てないもんな、妹を含む女を。嫌にもなる。

 定子も同様に、自分の兄弟ながらオラオラ兄弟は既に恥ずかしい気の重い存在だっただろう。前回の「皇子を産め」の面罵は今思い出しても酷かった。

 5/18の土曜スタジオパークに公任役の町田啓太が出ていたので想像したが、例えば公任は、円融帝の皇子をもうけられなかった姉の皇后詢子に対して(兼家らの呪詛のせい。怖い怖い)、そんなことまで言わなかっただろう。

 ドラマの公任親子は、娘/姉が皇子をもうけられなかった結果、権力から遠ざかった立場だが、優しい彼らは運命を嘆いたとしても皇后を非難したとは思えない。本人の辛さに思い至るからだ。

 そんなことに思いも至らず妹を罵倒する伊周だもの、行く末は知れている。有名な「長徳の変」の始まりとなる矢は、女を取られたと勘違いした泣きべその伊周がビビって「よせ」と言うのに、ニーニー隆家の手によって花山院に向けて放たれた。オラオラ兄弟2人が馬に乗って現場にやってきた時、暴走族特有のクラクションが聞こえたような気がしちゃったよ。

 人に対して矢を射るなんて、どうせ自分たちの方が身分が上だから何しても大丈夫、の上ずった意識が無いとできない芸当だ。

 中の人(竜星涼)に対して、NHKは罪作りだよなあ。朝ドラ「ひよっこ」での彼は誠実そうな警察官をカッコよく演じていたのに、評判を落とした方の「ちむどんどん」ニーニーを思い起こさせ、さらに印象が強まる藤原隆家を大河ドラマで演じさせる。後の例の件での活躍をしっかり描き、挽回させてあげてほしいものだ(スルーしたり、ナレで終わったりしたら気の毒)。

 矢は放たれ、取り返しがつかない。これまで貧乏に描かれてきた主人公まひろ一家の、久しぶりに一息つけるどころか大いに豊かさを享受できそうな幸福はもうそこまで来ている。それに比べ、「私はただ、中宮様のお側にいられればそれで幸せですので」と言っていた、ききょうも悲しむ中宮定子が落ちていく悲劇は目の前だ。

(敬称略)

【光る君へ】#18 まひろ成長、道長は姉女院の強力アシストで権力の頂点へ。ゲス兄伊周に絡まれる定子憐れ

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第18回「岐路」が5/5に放送された。まずはあらすじを公式サイトから引用する。

(18)岐路

初回放送日:2024年5月5日

道隆(井浦新)の死後、一条天皇(塩野瑛久)が次の関白にと命じたのは道兼(玉置玲央)だった。道兼は民の為によい政をと奮起していたが、関白就任の日に倒れ、七日後にこの世を去る。その頃、為時(岸谷五朗)の屋敷にききょう(ファーストサマーウイカ)がまひろ(吉高由里子)を訪ねてくる。次の関白は伊周(三浦翔平)か道長(柄本佑)かで内裏では話が持ち切りだと聞かされ…。夜、まひろが道長との思い出の場所へ行くと…(18)岐路 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 この公式サイトの「あらすじ」を読んで、ようやく理解できた。そうか、まひろも道長も、思い出の場所へ自分からフラリと赴いたのか。まひろが道長に呼び出されたのか?と思ったが、文のやり取りで乙丸百舌彦のオトモズが活躍する場面も無かったから、どうして2人があそこで会えたのかが不思議だった。互いに幻でも見ているのか?とも思った。

 そもそもあんな物騒な場所に、従者の乙丸は付いていくにしても女1人でよく行くよね・・・なんて言えば、ドラマが始めからぶち壊しだが、それにしても、2人は偶然にもそれぞれ思い立ち、あそこへと同時に出向いたとは。

 だったら、道長と会話もせずそっと立ち去るまひろの行動も分かる。もう権力の頂点に立った、別世界の人だ。下級貴族の自分からしたら、話しかけたら消えそうな、それこそ幻みたいなものかも。偶然、近所の公園に訳ありそうに佇む推しのスターを見つけても、声かけられないもん。

 現実的に考えても、身分違いのまひろからの声かけは失礼だろうし。空気を読んで、そっと消えるだろう。「先日は看病どうもありがとうございました~」とか、自分勝手に明るく言ってる場合じゃない。

 道長との身分差を、理不尽かもしれないけれど理解できるようになったのだ、まひろも。以前は「北の方にしてくれるの?」なんて無理難題を上級貴族に対して言っちゃってたし、父為時に仕事をくれと兼家パパ(当時、摂政様)に直談判にも及んだが。

 ききょう(清少納言)から、道長が中宮定子の希望を贅沢だと却下したと聞いて笑ったまひろ。「あの人らしい」と思ったのだろうな。また「あの人、人気無いんだ」と思いを馳せた時も、後ろ向きだったけれど、きっと頬が緩んでいたろう。有名人の道長を個人的に知るだけに、出てくる笑みだ。

 まひろはもう、平常心で道長のことを考えられる。さわが惟規に「いい思い出」と言ったように、既に20代半ばのまひろは、少女期の恋愛を心の中で昇華できたかな。疫病を経験したことも大きかったかも。死にかけて、考えることもあっただろうから。

 ドラマチックなBGMにのせての、あのスローモーションの歩み。まひろが道長の横をすり抜けていった時、激しく求めあうような青春時代は終わり、2人の「岐路」を感じさせた。

 いや、まだわからない。次回の冒頭で、道長に呼び止められ、また戻って抱き合っているかもしれないもんね。まだわからない。

イケオジ宣孝、堂々とまひろにロックオン

 そろそろ夫となる宣孝との恋バナが本格的に始まりそうなのか?筑前守と大宰少弐の勤めから4年ぶりに戻った宣孝が、よりケバケバしくなって・・・いや、金持ち感をプンプンとさせ、土産を携えてやってきた。

 そして、まひろへの言動を見て、これまで宣孝の意図に気づいていなかった為時パパも、さすがに何か気づいたようだ。

藤原為時:ああ、変わった味だな、唐の酒は。

藤原宣孝:戦人の飲む酒だ。我らは戦を致さぬゆえ口には合わぬが、おかしなものも一興であろう。まひろも味わってみるか?

まひろ:はい!(興味で目がキラキラ)

為時:やめとけ。

宣孝:何事も経験だ。(酒を注いでまひろに渡す。まひろ、酒を飲む)どうじゃ?

まひろ:カッといたしますね。まさに、戦の前に己を鼓舞する酒でございますね。

宣孝:その通りだ。まひろは、打てば響く良い女になったのう。年を重ねて色香を増した。

まひろ:お戯れを。そんなことより、宋の国のことをお聞かせくださいませ。博多の津には宋の国の人が商いに来ているのですか?

宣孝:ああ。商人も役人も来ておるぞ。薬師もおる。宋には科挙という制度があり、これに受かれば身分が低くとも政に加われるそうだ。

まひろ:まことでございますか!身分を越えて機会が与えられる国があるなんて。行ってみとうございます!

宣孝:行くのは難儀じゃが、ああ、宋の物なら手に入るぞ。これは、宋の国の薬で切り傷に驚くほど効く。太宰府では、この薬でぼろ儲けした。国司の旨味を味わい尽くしたわ。これは、唐物の紅だ。

まひろ:美しゅうございますね。

宣孝:まひろのために買って参った。(驚き宣孝を見る為時。宣孝、指で紅を練り、まひろに差し出す)注してみよ。(薬指で紅を注すまひろ)よいではないか!ハハハ!思い描いた通りじゃ!ハハハハハ。

為時:大宰府は、魚もうまいのであろう?

宣孝:(まひろ、指についた紅を拭った布を宣孝に渡す。それを受け取った宣孝も手を拭きながら)玄界の海のイカ、エビ、タイがそれはそれはうまい。されど、生物は持って帰れぬゆえなあ。(布をまひろに返す)

為時:ああいや、そのようなことを申したのではない。

まひろ:大宰府から宋まではどのくらい時間がかかるのですか?

宣孝:海を渡って10日、それから宋の都まで陸路でふたつきはかかるそうじゃ。

まひろ:遠いのですね・・・。

為時:行こうなどと考えるでないぞ。

まひろ:伺っただけにございます。

宣孝:行くならわしが一緒に行ってやろう。ついでに商いもできるゆえ。

為時:やめてくれ。その気になったら困る。

まひろ:心配性な父上。(宣孝と顔を見合わせて笑い合う

 為時パパが、まひろと宣孝2人の会話になかなか入り込めず、背後で「え?どういうこと?」と戸惑っているような小芝居が面白かった。まひろは紅で汚れた手を拭くための布を宣孝に渡すが、宣孝に特に説明もしない。宣孝も、為時と話をしながら自然に受け取り、手を拭き、まひろに戻した。

 なんだ、この2人の間にある自然な夫婦感!次回でどう転ぶか分からないけれど(まだ道長に一縷の望みを託している私)、そのまま道長と別れて帰ったとして、幼い頃から知っている宣孝おじさんとの手近な恋に、まひろも気づくってことなんだろうか・・・。

 宣孝は、紅を注したまひろのことを思い描いていたらしい。ふーん・・・宣孝の方は、すっかり恋焦がれちゃってるじゃん。時代も個人差もあるけれど、まひろの方は、父親と同世代には抵抗感ないのかなあ。

 まひろが道長との恋愛にもう少し踏みとどまってほしいこちらとしては、次回の冒頭で道長に呼び止められ一夜を共にし、その子を産んだまひろを宣孝おじさんが庇護する形の婚姻、という路線をまだ期待している。どうなるんだろう!?

悪人道兼を悼み、道長の覚悟を思う

 ところで、今回は俗に言う七日関白の道兼が落命した。一条帝の前から下がる時に頭から昏倒した様子には、よく中の人がケガをしなかったものだと思ったが、役者さんの世界にはそういう技が昔からあるそうだ。「仏落ち」というらしい(たぶん)。

 ご存知のように、道兼はヒロインまひろの母を初回で刺殺した。少年三郎(道長)や従者をも平気で己の気持ちを収めるためだけに虐待した。花山帝も道兼にはめられて、退位を余儀なくされた。父兼家に憧れて、だけれど残酷にもいいように駒として使われて、道兼にも可哀そうなところはあったけれど、ヒールだった。

 その彼が、自分の立ち位置に気づき、自暴自棄になったところからどうやって道長が立ち直らせたのかが不明だったが、とりあえずここ数回の道兼&道長の兄弟仲は本物ということらしい。

道兼:(関白となる詔を得て)公任の邸で荒れていた俺を救い上げてくれたお前のお陰だ。

道長:そのようなこともございましたね。

道兼:お前を右大臣にするゆえ、これからも俺の力になってくれ。

道長:(頭を下げ)救い小屋のこと、公の仕事としてください。

道兼:もちろんだ。

道長:兄上なら、良き政が出来ましょう。

道兼:(小さく笑う)父上に、もはや恨みはない。(澄んだ瞳で道長を見る)されど、あの世の父上を驚かせるような政をしたいものだ。まずは諸国の租税を減免し、新規の荘園を停止しよう。

道長:兄上なら必ずや。ではこれで。

道兼:ああ。(立ち上がり、道長を見送る。足元がふらつく)

 最後の「足元がふらつく」場面で疫病の影を感じてゾッとしたが、この兄弟のこんなに穏やかな会話を見ることができるなんて初回には思いもしなかった。2人の主導する政を見てみたかったな・・・こんな感情になるだなんて。

 そして、関白就任の慶賀奏上の後、道兼は公卿たちを従えて帝と対面、直後に倒れた。病臥してからは、疫病を道長にうつすことを心配したが、道長は御簾の中に飛び込んで行き、道兼の最期に寄り添った。亡くなった道兼はまだ35歳だったとのこと。

道長:兄上、薬師を連れて参りました。

道兼:(御簾の中で横たわっている。弱々しい声で)近づくな、俺は疫病だ。悲田院で見た者たちと同じである。

道長:ご無礼。(御簾の中に入る)

道兼:やめろ!お前が倒れれば、我が家は終わる。二度と来るな。

道長:疫病でも治る者もおります。

道兼:(起き上がり)出ていけ、早く。俺を苦しめるな。・・・行け!

(涙の滲む目で道長を見据える道兼。立ち上がり、出ていく道長。背後から聞こえる道兼の読経、廊下で立ち止まる道長)

道兼:俺は・・・浄土に行こうとしておるのか?ハハ・・・ハハハ。無様な、こんな悪人が。ハハ・・・ハハ。ハハハハハ。(咳込む)

道長:(引き返し、泣きながら咳込む道兼を抱きしめ、背をさする)

 兄没後、夕暮れの土御門殿で、虚ろな目をした道長はバッタリ倒れていた。それを倫子が静かに見守る。ここまで道兼の死に揺さぶられている。

 道長は、姉の詮子に「関白にならなくてもいい」と言って「うつけ者!」と怒鳴られた。そして、無口にどんよりしている。

 父母と兄2人が逝き、残るは姉1人。その詮子には関白になれと迫られる。道長のショックは、道兼の死を悼む余りと言うより、権力の椅子が自分に迫りつつあることに慄然としているのだろう。身内の死をそれとして悼んでいられない権力者の家の辛さがあるね。

 道長の場合、権力を前にした受け止め方が長兄道隆や、甥の伊周とは全然違う。自分の家のために政を行おうとすれば、道隆や伊周のように気楽にギラギラしていられるのだろう。しかし道長の政は違う。直秀への誓いがあるから、民を思う政だ。

 内覧兼右大臣となってから、ひとり月夜の縁に座る道長の心中にこだまするのは、昔のまひろの言葉だった。

回想のまひろ:道長様は偉い人になって、直秀のような理不尽な殺され方をする人が出ないような、より良き政をする使命があるのよ。誰よりも愛おしい道長様が、政によってこの国を変えていく様を、死ぬまで見つめ続けます。

 月夜の思い出の場所で偶然再会したまひろは、「昔の自分に会いに来たのね」と道長の姿を見て思った。道長は、原点に立ち戻り、意志を固めに思い出の場所に足を運んだのだ。権力者になるための心構えとして、必要なことだったんだね。

 さて、道兼の死については、まひろと為時も話をしていた。

為時:仇とはいえ、これで良かったとは思えぬのう。さぞや、無念であったろう。

まひろ:(為時と並んで縁に座り、月明かりの庭に目を向けている。ため息をつき、立ち上がって部屋へいく。琵琶を手に戻り、縁に座り直す)あの御方の罪も無念も、全て天に昇って消えますように。(まひろを見る為時。まひろが琵琶を弾く)

 母ちやはの死から、20年ぐらいは経過したか。道兼に対して、仇として怒りで震え気絶する程の思いを抱えていたまひろが、彼の罪も無念も天に昇って消えろと願う。為時も、さぞや無念だったろうと道兼を慮っている。

 遺族2人がそう言うのだから、視聴者が道兼を悼んでも許されそうだ。

ゲス兄・伊周、ひどすぎる妹への八つ当たり

 道兼が死んだ後に、母の高階貴子と息子2人・伊周&隆家が朝餉を摂っていたシーンでは、それじゃ中関白家のご兄弟、あまりにも罰当たりじゃない?と思わされた。「七日関白とは情けない」とか「よくぞ死んでくれた」とまで、叔父の死について言っちゃうのだもの。

 その兄弟の言葉を母・貴子も諫めず「父上がお守りくださったのですよ」と言ってしまう。「本音だろうが、人間としていけない」と賢い貴子なら言いそうなものだ。この家族は、奢り切ってしまったってことなのかな。

 見ていてこちらも怒りがこみ上げてしまったのが、伊周と定子の対話だった。自信満々に育った伊周は、何かあればすぐに八つ当たり、そのターゲットは定子だ。自分は悪くない、悪い状況は定子のせいと考える。まさに「せいだ病」に憑りつかれている人物だ。

 それを演じる三浦翔平、振り切っているなあ。こんな悪人顔ができる人だったんだと感心した。すごい。今後の役者人生は大丈夫か。

一条帝:こたびは右大臣道兼を関白といたす。(帝の言葉に目を剥く伊周)右大臣を差し置いて内大臣を関白と成せば、公卿らの不満が一気に高まるは必定。公卿らが2つに割れることを朕は望まぬ。すまぬ、伊周。

伊周:(怒りで絞り出すように)お上がお決めあそばされたことに、誰が異を唱えましょうか。

一条帝:では・・・(座を立ち、去る)

伊周:(ひれ伏したまま、床を睨んで)これでは、亡き父上も納得されぬ!(定子に対して)そなたは何のために入内したのだ!

定子:このところ、お上は夜もお休みになっておられませぬ。

伊周:迷うからだ。私を選んでおればよいものを。

定子:兄上が関白になるのがお上は不安なのです。

伊周:私に何の不安があると申される。

定子:もっと人望を得られませ。

伊周:人望?

定子:次の関白にふさわしい人物だと思われるために、精進していただきたく思います。

 そして第2ラウンド。道長が姉詮子の強力なプッシュで、伊周に代わって内覧となってからの話。一条帝は「これで堂々とそなたの兄を関白にできる」と定子に語りかけていたが、母の涙の訴えを受け、結局はそうしなかった。

伊周:(定子の登華殿に現れ)どけ。どけ!!(出ていく女房達)

定子:お静かになさいませ。

伊周:(ドスドスと足を踏み鳴らすように威圧的に近づく)帝のご寵愛は偽りであったのだな。

定子:そうやもしれませぬ。

伊周:(溜息)年下の帝のお心なぞどのようにでもできるという顔をしておきながら、何もできてないではないか。

定子:関白ではなく内覧宣旨のみをお与えになったのが、帝の私へのお心遣いかと思いました。

伊周:ハハハハハハ・・・私は内覧を取り上げられた上に、内大臣のままだ!(拳を振って)そんなお心遣い、何の意味も無い。(目を剝いて、定子の目前に座り込む)こうなったら、もう・・・中宮様のお役目は皇子を産むだけだ。皇子を産め。(拳で膝を叩きながら恫喝の表情)皇子を・・・皇子を産め。早く皇子を産め~!(怒鳴る。表情を変えない定子)素腹の中宮などと言われておるのを知っておいでか。ん?悔しかったら、皇子を産んでみろ。皇子を産め。早く皇子を・・・。早く皇子を産め!(瞳が微かに揺れ、唇を噛む定子)

 伊周の荒れっぷりが・・・何とも見ていて耐え難かった。定子演じる高畑充希がトラウマになっていないことを祈る。

今回のクライマックス、母の大演説

 この愛妻を苦しめる政治決断を一条帝はした訳だが、その決断を導いた吉田羊の熱演を記録しておきたい。こちらも手に汗握ってしまった。

東三条院詮子(女院):(清涼殿に勢いよく乗り込んでくる)

蔵人頭源俊賢:お上は既にお休みでございます。

女院:どけ。どけ!

一条帝:何事だ?

女院:(部屋に踏み込み)お上、お人払いを。(帝に促され、下がる俊賢。座る女院。御張台に上がる帝)次の関白について、お上のお考えをお聞きしたく参りました。

一条帝:伊周に致します。明日には公に致します。

女院:恐れながら、お上は何もお見えになっておりませぬ。母は心配にございます。さきのさきの関白であった道隆は、お上が幼いことを良いことにやりたい放題。公卿たちの信用を失いました。伊周はその道隆の子。同じやり口で、己の家のためだけに政を仕切りましょう。お上をお支えするつもりなぞ、さらさらありますまい

一条帝:朕は伊周を信じております。伊周は、母上の仰せのような者ではございませぬ。

女院:お上は、中宮に騙されておられるのです。

一条帝:騙されているとは、どういう意味にございますか?

女院:先だっては道兼を関白に落胆させたゆえ、今度は定子の兄にとお思いなのではないかと思いまして。

一条帝:朕は定子を愛でております。されど、そのことで政が変わることはございませぬ。

女院:悪いことは申しませぬ。道長になさいませ。

一条帝:道長を関白にと考えたことはございませぬ。

女院:私は姉として道長と共に育ち、母としてお上をお育て申し上げて参りました。そのどちらも分かる私から見た考えにございます。道長は野心がなく人に優しく、俺が俺がと前に出る人柄ではございませぬ。若く荒っぽく我の強い伊周に比べて、ずっと・・・(強調)ずっとお上の支えとなりましょう。お上に寄り添う関白となりましょう

一条帝:朕は伊周に決めております。

女院:母を捨てて后を取るのですか。(涙声)お上はどんな帝になろうとお望みなのですか?何でも関白にお任せの帝でよろしいのですか?お上のお父上は、いつも己の思いを汲もうとせぬ関白の横暴を嘆いておいででした。父上の無念をお上が果たさずして誰が果たしましょう。母は自分のことなぞどうでも良いのです!ただ一つ願うは、お上が関白に操られることなく己の信じた政ができるようにと、ただひたすらそれを願っておるのでございます。どうか・・・どうかお上ご自身のために、道長にお決めくださいませ。どうか、どうか・・・。

一条帝:(涙を堪える)朕は・・・伊周に決めております。(座から立ち、去っていく)

女院:お上!(泣きながらうずくまる)

 大鏡とは話の運びが違うそうだが、いやいや十分説得力があって、面白かった。正確な人物評価の上にあの迫力で母に迫られたら、帝も泣くよ。女院詮子が「定子に騙されている」と言い出した時には、ダメ、それ絶対踏み込んだらダメ!とヒヤッとしたが、うまく切り替えた。地雷だよね、愛する定子は。

 しかし、道長には「伊周になったら私たちは終わり」と言っていたのに、我が子には「自分のことはどうでもいい」と言っちゃうところがご愛敬。でも、伊周の定子への絡み方を見ていると、外側はキレイキレイながら本質はオラオラした薄っぺらな若者が関白なんかにならなくて本当に正解。

 それに、やっぱり嫌われても円融帝を愛し続けていたんだな・・・泣ける。その愛が滲む大演説だった。吉田羊よくやった、肺活量凄いんだな。

 道長vs.中関白家の権力闘争が激しさを増している中、主人公まひろの存在感がどうも薄いと思ってしまうのは私だけか?道長に負けるな、まひろー。

(敬称略)