黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

意地っ張り

もう9月に入って1週間が過ぎ去った。今年の夏は、週に2~3回のペースで父の病院に通い、自分の病院にも行き、クロスケの体調も見つつ、終わった感がある。
 
さて、今年1月に交通事故に遭った父は、頭部外傷の後遺症の高次脳機能障害に加え認知症を合併、そして寛解していたガンまでが末期状態で再発、緩和ケア病棟に入って1か月経った。
 
1か月経過を機に、医師から家族に話があった。
 
私が食いしん坊なのは、つくづく父のせいなんだな~と思い知らされたが、面談で医師が言うには、血液状態などを見ると父は未知の領域に突入したと言っていいらしく、確実に悪化しているのに、こんな状態でここまで食欲がある人は珍しいとの見解だった。
 
幼子に戻ったような父は、今回も、医師との面談前、姉が持参したモンブランを無心に食べていた。前回は、私が頼まれ持参したマカロンを「思ったよりおいしくなかった」と文句を言いながらも完食。タルトやカヌレや芋金つばなど、途切れずリクエストがある。次はまたカヌレだそうだ。
 
最近も目の前に下がるカーテンを、大量に干してある素麺か饂飩かと勘違いして「あれはうまそうだな~」と父は言い出した。
 
こうやって父の残り少ない日々が、食べ物談義でせめて穏やかに過ぎれば良いのだけれど・・・しかし、ガンの譫妄も入る夕方になると目は三角になる。被害妄想がひどくなり、何に対してもイライラして怒り出すのだ。こうなると、父の話し相手になっているのは大変だ。
 
今回の面談も、譫妄の時間帯に差し掛かっていた。以前の告知はもう憶えていないが、漠然と不安がのしかかっているのだろう。「そうやって俺の運命を決めるのか!」と父は大声を上げていた。前日には「さっさと白い着物(死に装束)を用意しろ!」と母に怒鳴ったそうだ。
 
そうやって毎日父に相対している母は・・・当然ながら、ストレスでいっぱいだ。母を見て「顔も見たくない!」と叫ぶ父を、強がりな母は、ふふん、と鼻で笑ってスルーするしかない。父にはもう、母は面と向かって文句も言えない。以前からすると立場逆転だ。
 
そもそも、天邪鬼で意地っ張りを売りにしてきた母。自分の真意などをストレートには言わない人だ。何か言いたげな事を「説明して」と頼んでも、「見ればわかる」「経験すればわかる」と言うばかりで何事もほのめかし、周囲に忖度させようとする。
 
「沈黙は金=女らしさ」とでも思っているのか知らないが、分かりにくく、周りには迷惑なコミュニケーション手法だ。単に自分の考えをきちんと穏やかに伝える能力がないだけに思える。
 
その母から発せられるサインを、我が道を行くタイプの父が読み違えると「何で分からないの」「分からないなんておかしい」「分かっているくせに意地悪している」と母は爆発。母は何も言わないか、キレるか、両極端で真ん中がない。
 
これはストレスが溜まりますよ、父は(もちろん、甘えてる母も自らのせいながらもストレスは溜めていたはず)。事故前、母にびくびくする父には「なるべく別荘に避難して母と距離を置くように」と伝えざるを得ないほど、母はキレるのが常態化していた。
 
それが、今は・・・因果は巡り、母は正気を失った父の暴言を浴びている。父の死を目前に、いつまでも意地を張っていられなかったのか、以前の罵詈雑言はどこへやら今になって「お願いだから死なないで」と父に懇願し、泣いて夜も眠れない母。
 
一番身近で大切な人を、そう扱ってこなかった母には、取り返そうにも、もう遅いのかもしれないが・・・せめて、母の今の献身が父にも伝わりますように。