黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

扁平上皮癌になった愛猫を、天にお返しした⑦

センダイウイルスでの癌治療

 つい先日、朝日新聞の朝刊一面の記事にくぎ付けになった。「がん細胞をウイルス攻撃 治療薬承認へ 1年後生存率6倍」という見出しの記事だ。

 ウイルスを使ってがん細胞を破壊する治療薬が、承認される見通しになった。厚生労働省の専門部会が24日、製造販売の承認を了承した。臨床試験(治験)では標準治療と比べて1年後の生存率が6倍になるなどの延命効果が示された。がんに対するウイルス治療薬が承認されるのは国内で初めて。▼3面=遺伝子改変で「味方」…(がん細胞をウイルス攻撃、治療薬承認へ 1年後生存率、6倍:朝日新聞デジタル (asahi.com))2021年5月25日 5時00分

 無断転載・複製はダメとのことで引用しないが、記事には「がんウイルス療法のしくみのイメージ」という図もついていて、わかりやすい。がん細胞と正常細胞が対比され、そこにそれぞれ「数カ所の遺伝子を改変したウイルス」が注入される。

 その結果、正常細胞では「ウイルスは増殖できない」が、がん細胞では「ウイルスが増殖し、がん細胞を破壊」「周囲のがん細胞にウイルスが広がる」「がん細胞を次々に破壊」と図には書き込まれていた。

 この記事を読んで、ひどくうなだれている。後悔で胸がつかえる。息子が生きる可能性を私が摘んだのかもしれない、きっとそうだったと思うからだ。

 2019年10月29日、息子クロスケの右側口角のあたりにできた白く丸い病変は、S先生が扁平上皮癌の再発であると確認した。息子には、検査による下顎の骨折やそれに伴う内出血と貧血、患部の下顎半分を切り取る大手術、その後も残った下顎の牙を切り取る手術と、当初のこちらの思惑(できるだけ自然に、苦しくないように猫生を全うさせたい)とはまさに180度違い、本当に苦しい道程をフルコースで歩ませてしまった。

 それなのに、再発。すべての息子の苦労は水の泡、振出しに戻ってしまったと思った。

 この時点で、10月頭から与えていた紅豆杉の錠剤に含まれるキシリトールの弊害が出たらしかった(今思えば)。

 紅豆杉はお茶のまま与えられたら良かったのだが、錠剤に切り替えたことで息子の肝機能が落ち、癌に体力的に押し負けての再発だったのではなかろうか…このあたりは前述した。

 治療が振出しに戻り(といっても既に大きなダメージを心身ともに負った状態で戻るのはつらい)、もう手詰まりと見えた時、S先生に提案されたのが放射線治療、そしてセンダイウイルスでの治療だった。

 調べると、放射線治療は近くの大学病院施設で受けられるらしかった。しかし、猫の扁平上皮癌に放射線治療をしても、予後が良くない。何回も通わないといけないし、心身ともに疲弊している息子に放射線治療を受けさせても結果が望めないのだったら空しい。

 苦しく怖い思いを、今度こそ息子にさせたくなかった。

 それに、麻酔がネックだった。放射線を当てるたびに麻酔はかけなければならないだろうし、そうすると、息子の腎臓が持たないかもしれなかった。

 もう1つの選択肢のセンダイウイルスでの治療は、初めて聞くものだった。仙台市東北大学に関係するのでセンダイウイルスなのだそうだ。そのウイルスが癌細胞を破壊するとの説明を聞いたように思う。

 ウイルスを取り寄せて、S先生がクロスケに注射をするのだったら、まだ息子も我慢してくれるかな…と思い、その治療法を試すことにしたのだった。

 センダイウイルスについては、こちらの2007年の論文(virus57-1_029-036.pdf (umin.jp))によると、実験段階では脳腫瘍やメラノーマの難治性の癌でも「癌細胞の退縮と生存期間の延長が認められた」「治療用遺伝子を搭載していないセンダイウイルスベクターで活性化した樹状細胞を用いても抗腫瘍効果が示され」たとか。

 現在の大阪大学呼吸器外科の臨床研究のサイト(大阪大学呼吸器外科|一般外来の方|悪性胸膜中皮腫に対するGEN0101療法 (osaka-u.ac.jp))にも、このように書かれている。今も治験の参加患者を募集しているようだ。

大阪大学では、新たな癌治療の方法の開発を行っており、細胞融合をおこすウイルスのひとつであるセンダイウイルスを不活性化して作られたGEN0101による癌治療もその一つです。GEN0101は人体内でウイルスの再活性化や増殖をせず、免疫活性作用によりインターフェロンという物質の産生を通じて抗腫瘍効果を有する事が基礎的研究で明らかにされています。現在、悪性黒色腫前立腺癌において研究が進められています。私たちはGEN0101を、その他の治療の難しい悪性腫瘍へ応用することを目指しております。

 ググればすぐに出てくるこういった事柄も、実は当時、よくは調べていなかった。

 息子の癌再発の事実に、圧倒されていたのかもなぁ…ちゃんと調べる気持ちの余裕が無かった。もっとよくよく検討しておけばよかったと、冒頭の朝日新聞の記事を見て、後悔する気持ちがまた大きく湧き上がった。

 記事のケースは、センダイウイルスではなくてヘルペスウイルスを使っているらしいが。

 センダイウイルス治療では、1クール6回、患部にウイルスを注入する。結局耐えられず、息子の場合は半分の3回でストップした。

 11/2、11/5、11/7は接種し、その後の予約はキャンセル。残りのウイルスは無駄になったと思うが、接種希望のケースがあればお譲りするのでそうしてほしいとS先生には伝えた。

 その頃の話は、当時のブログ(猫の絶望 - 黒猫の額:ペットロス日記 (nekonohitai.tokyo))で書いた。結局、情けないことにへこたれたのは私。息子の様子を見てられなかったんだと思う。心を鬼に、センダイウイルスで踏ん張るべきだった。

 もしもセンダイウイルス治療を、初めて扁平上皮癌らしいできものが見つかった2019年7月に、手術を経ずに選べていたら、1クールどころか3クールぐらいは実施できたかもしれない。まだ、息子のダメージはほとんどなかったのだから。

 タラレバの話だ。空しい。

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2019/11/15 キッチン前の作業台下にある息子専用「待合室」。ごはんを待つ場所だった

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口を拭かれるのが嫌で、お尻を向けて入るようになった

 

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