黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

扁平上皮癌になった愛猫を、天にお返しした⑫

焼酎に化けた息子

 先日、育ちすぎてしまったベランダのユーカリを使い、お風呂に入れるチンキを作ろうと、焼酎に漬け込むことにした。ウォッカが良かったらしいのだが、焼酎でもいいらしいとYouTubeで知り、大き目の焼酎ボトルを買ってきた。その量4リットル。

 ペットボトルなので、まあ4kgの重さ。刻んだユーカリ入りの焼酎ボトルを、朝晩振る。緩んだ腹筋のためにもいいよね、と思いながら振っていたとき、癌を発症する前の息子とちょうど同じくらいの重みなんだなと気づいた。

 両手で持つと、ペットボトルの形状からも、まるで息子の両脇の下に手を入れて「高い高い」をしているような格好になった。抱っこもしてみる。

 この重さ、身に覚えがある。

 毎日のように膝にずっと乗っていたんだもの、実際とても重かった。焼酎ボトルだと載せれば煩わしい重みで、すぐにもギブアップだけれど、愛する息子だと思えば不思議なもの。連続4時間ぐらいは日常的に耐えたまま、パソコンを打っていた。

 もちろん、立たねばならない時は当然ながら降りてもらったけれど、暖かくうれしい重みだった。

 無機質な焼酎ボトルが、まさか息子の重みと体温(逆説的に)を思い出させてくれるとは。高い高ーいと、今日もボトルを振っている。

頼りになる猫友さん

 さて、前回⑪の続きだ。

 2020年1月。体力が思いのほか回復してくれた息子ではあったものの、その息子を残してどうしても外出しなければならない用事ができてしまった。ボランティア関係の研修で、関連の推薦もいただいての機会なので、私が放り出すことはできない。朝から晩まで、参加しなければならなかった。

 さあ、どうしよう。

 家族は仕事を調整して、半日で戻れるようにできるそうだ。とはいえ、残る半日も、今にも急変するかもしれない病身の息子に留守番させ、出かけることはできなかった。

 どうしようどうしようと悩んで、猫友さんにお願いして、来てもらうことにした。

 その方は、ご自身で保護猫2匹を引き取るにあたり、猫の飼育関係の勉強をして、資格も取ったという勉強家。そのうちの1匹を、1年ほど前に看取った経験のある方だった。

 当初は、その方が懇意にしているペットシッターをご紹介していただこうと思い、お伺いを立てたのだった。でも、その優秀なペットシッターの担当地域にうちは入らない。残念、どうしようと思った時に、猫友さんご本人が申し出てくれたのだった。

 病気で痩せ細った息子を見ても、気味悪いなどとは思わず看病してくれそう。快く引き受けてくださったのには、心底ホッとした。

 研修2日前の1/20、下見に来てもらった。

 その日は息子の食欲もバッチリ、本当にこのまま元気になっていってくれるんじゃないかと夢のようなことまで思ったぐらい、元気だった。もしかしたら、猫友さんに格好いいところを見せようとしていたのかな? おしゃべりに花が咲き、息子はのんびりしていたように思う。

いよいよ、息子のお留守番

 そして当日の昨年1/22。10時から14時までの4時間は大丈夫とのことで、9時半ぐらいには来てくれたと家族から聞いた。

 ありがたく、家族は予定よりも早く出勤。そのあとの息子の様子については、猫友さんが詳細にメモを残してくれた。

 9:55にトイレ(小)。10:00に廊下をパトロール、リビングへと移動、テレビ前にしつらえてあった息子用ベッドもどきにてお休み。しばらく寝たらしい。

 10:40に全豪オープン大坂なおみが勝つと、さすがにその放送の音に起きたらしく、立ち上がって窓から外をしばし眺める。キッチンに移動して、また座る。

 11:15、ごはんを食べる。窓際の息子スペースに移動して食べたのか、キッチンでそのまま食べたのかは不明。11:20には人間用トイレの横にあるトイレに行き、大。猫友さんが片付け中に戻り、小。

 息子はこのパターンが多い。大を片付けないと、小を我慢してしまうことが多くなり、それがシッターさんを頼まねばと思った大きな理由の1つだった。猫友さんは、きちんとすぐに片づけてくださり、ありがたい。

 11:30、玄関の方を気にしながらキッチンで座る。たぶん、家族の帰りを待っているポーズだ。

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猫友さん撮影の、キッチンから廊下に身を乗り出して座っている息子(2019/1/22)

 11:50、宅配便が来た。「何度も鳴らすので、サインして受け取りました」とメモがある。宅配便屋さんが帰って後ろを見たら、息子が玄関近くまできていて「うぉーんうぉーん」と鳴くので、息子がパパが帰ったのかと思ったのかなと「ごめんね、パパじゃないよ」と猫友さんが言うと、「うぉん!」と一声、リビング方向に戻ったと。

 息子はそのままリビングを突っ切り、窓際で外を見ていたそう。「パパとママの帰りを待っているのかな」とメモがあるが、待っているのはきっとパパの方なんですよね。いつもそうなので・・・。

 自虐でもひねくれているわけでもない。事実として、息子は極めてはっきりしたところがあり、私の帰宅時、玄関へと途中までは勢いよく来るのだが、私と分かったところで踵を返すのだ。いやー、鮮やかなくらい。

 一方、家族が帰ると甘えん坊全開で大変だ。玄関から外に飛び出してしまうのではないかという勢いで、たたきにまで下りる。危ないよ、と何度も声をかけるほどのストーカーっぷりで、家族はとても歩けないと嘆く。それくらいギャップがあるのだ。

 ただ、宅配便のおじさんも大好きで、荷物を点検するのが自分の係だと思っている節があったので、点検をしたかったのかもしれないなと思う。

 さて、正午。猫友さんがコタツに座っていたら、横に来て入りたそうなしぐさをするので、布団を持ち上げたら息子はするっと入り、中で横になったそうだ。

 1月22日の話だから、当然寒い。コタツで暖かくしてもらった方がこちらは大安心だ。猫友さんが時々中を見ると、息子は横になりつつ猫友さんと目が合う感じ。やはりリラックスしきれないところもあるだろうが、それでも一緒のコタツに入るなんて、打ち解けている。

 12:50、自分からコタツを出た息子は、少しだけごはんを舐め、またトイレに移動して大。13:05、またキッチンに移動して待ちポーズ。13:20、家族が帰宅。息子は歓喜のお出迎えだったろう。

 本当に不思議なことだが、家族が帰宅する少し前には、いつもちゃんと位置について待ち始める息子。猫族のみなさんは、耳が良くて何かが聞こえるのでしょうかね。

 猫友さんは、息子に語りかけ続けてくれたそうで、そのおしゃべりに心がほどけたらしい。少なくとも害はない、私と同種だと思ったかもしれない。猫友さんも、息子がキリっと誇り高くしていた、みたいなことを言ってくれた。有難い有難い。

 この日は水曜日だった。こんな穏やかな日が、ずっと続いてほしいと思っていたが…その2週間後の水曜日に息子のお弔いをすることになるなんて、その時は思いもしなかった。