黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

社会を恨み、孤立する人は自らの加害性が見えない

孤立を深める拡大自殺犯

 大阪北新地のクリニックで、25人もの犠牲を出した火災を引き起こした61歳の人物は、自身も死んでしまった。もう、彼の動機は推測するしかないが、拡大自殺ではないかと言われている。そうだとしたら、まんまと彼は目的を全うしたことになる。

 彼が参考にしたらしい徳島県の事件は、被告人を裁く裁判員裁判が最近あったらしいし、受験生を巻き込む東大前での事件もあった。加害者は高2だという。京王線小田急線など乗客が逃げられない鉄道での事件も珍しいことでは無くなっている。加害者は、それぞれ20代、30代。

 1月18日付で朝日新聞に大阪の事件のまとめ記事「25人犠牲 孤立深めた末に」が載っていた。その中で、彼が2011年4月に(東日本大震災のすぐ後だ)元妻宅で長男を殺そうとした事件の大阪地裁判決が紹介されていた。

 確定した大阪地裁判決は、「寂しさを募らせて孤独感などから自殺を考えるように」なり、「死ぬのが怖くてなかなか自殺に踏み切れなかったため、誰かを殺せば死ねるのではないか」と考えたと認定。懲役4年の実刑判決を受けた。

 判決は社会復帰後について「家族以外との関わりを持つことができれば、更生することは十分可能」とした。だが、出所後の社会とのつながりは浮かばない。

 この判決を下した裁判官は、今頃何を思っているだろう。無力感か、罪悪感かな。「家族以外との関わりを持つ」とは、何を期待していたのか・・・元加害者を支えるNPOとか、ボランティアの保護司からの支えか?

 自分を消したい欲求があるのはそうなのだろう。思い通りにはならなかった人生を消したい。けれど、判決が認定した「誰かを殺せば死ねる」は本当にそうなのか疑問だ。 

 つまり、目的は自殺だと認定しているが、自分を受け入れなかった社会に復讐する欲求、怒りの方が強いのでは。「俺を不幸にした社会への見せしめ、誰でもいいから道連れにしてやる」という意識だ。拡大自殺と言われる事件が起きる度、そんな風に思う。

 朝日では1月17日付社説でも無差別殺傷事件の連鎖について取り上げていた((社説)無差別殺傷 孤立社会の病が見える:朝日新聞デジタル (asahi.co)。その中で、法務省による2013年の報告書「無差別殺傷事犯に関する研究」を紹介している。

 同種事件を起こした52人の主な動機は「自身の境遇や現状への不満」が半数近くを占めて最も多く、犯行の前後に自殺を図った例もほぼ半数あった。特徴的な傾向として、交友関係の乏しさ、無職・無収入など生活の困窮を挙げ、事件防止の観点からも自殺者をなくす対策の充実・強化が望まれると提言した。

 コロナ下で自殺者が11年ぶりに増加したことなどを受け、政府は「孤独・孤立対策」に取り組む。昨年末には、官民連携による24時間相談体制の構築などを柱とする重点計画を定めた。相次ぐ事件の原因や背景についても考察を深め、「望まない孤立」の解消に向けた手立てを、着実に進める必要がある。

 望まない孤立の解消・・・コロナが終息して外形的に誰かとつながったとしても、見た目でどんなに幸せな境遇に彼らを置いたとしても、こういった加害者の「周りを恨む」ものの考え方が改まらない限り、「心理的孤立」が深まり、同種事件は起きていくのではないか。

 拡大自殺を企てる人達は、どこに居ても孤立して孤独なのでは?むしろ人の間に居る方が、思い通りにならない、心許せる人がいないことを思い知らされて、寂しさからの怒りを溜め込みそうだ。そんな気がする。

 孤独に陥ったのはナゼか。本人は誰かのせいだとしか考えられず、自分こそは被害者だと思いこんでいるのではないか。その自らの加害性が見えていないことこそが、孤独の種ではないかと思うのだが。

 周りに感謝できない。良いことは自分にとって当たり前、悪いことは何事も周りのせい。事件を起こしているのは、比較的体力的に恵まれて動ける男性だけれど、ずーっと不平不満しか口から出てこない人たちは、意識の点では男女関係ない。

 互いに尊重することができなければ、孤立する。

横の関係を学べる場は

 もう、後期高齢者あたりになってしまうと考え方を変えるのは難しいだろうが、そうなる前に、可塑性のある段階で、互いを尊重できる横の関係を結べるような心理教育に社会が広くアクセスできるようであればなと思う。

 縦社会、縦のつながりは、マウンティング・ランキングの連続で疲弊するばかり。人間がそれぞれの存在を尊重されて居心地がいいのは、横のつながりだ。

 ボランティアの場など、横のつながりが心地良いと聞くこともあるが、ひとたびマウンティング志向の人が入り込むと、その人がリーダーとなって人を率いる場として搾取されてしまう。その人の支配欲が満たされる場になる。

 それはどうなの?縦の関係は要らないよね?という意識が広まることが、そういった事態を避けることになるのだろう。

 そういった意味で、アドラー心理学を紹介する『嫌われる勇気』がベストセラーになったのはとても心強い思いがしていたが、見ていて「この人には読んでほしいな」という縦関係に縛られている人は、なぜか狙ったように読もうとしない。「こんな本がありますね、気楽になれるかもしれません」と、おずおずとお勧めしても。

 「人間関係の肝心要は相互の尊重関係」なのに、学ばない、本も読まないと言うのは他人の考えを最初から受け入れる気が無いのでは? または、疲弊しきって、その気力がもう失われているのかもしれない。

 しかし、孤立した人生に苦しんでいる人は、読めばきっと目から鱗が落ち、解放された気持ちになるのではないだろうか。楽に人生が送れるようになるのに・・・タイトルの「嫌われる」が気になって、もう嫌われたくない思いが強くて読めないのか・・・。

 でも、すぐには読まなくても、いつか「こんなの勧められたことがあったな」と思い出してくれたらいいな。

 ホテルなど宿泊施設には聖書がよく置いてある。個人的にはこちらの本を置いてほしいものだ。

元加害者側の考えにあった人

 最近、あるサイトの存在に気づいた。GADHAという。Gathering Against Doing Harm Again の略だそうだ。

大切な人を、もう傷つけたくない

DV・モラハラ加害者が変わるために

と書いてあった。ツイッターや雑誌連載でファウンダーが発信している内容は、「無自覚に加害を行っている方々の参考になれば幸い」とあり、「まわりのせいだ」という考えに陥りがちな加害者側の考えに過去、寄っていた人の声だ。妻との関係を再構築したくて、努力した結果を公開していた。

 その内容が質量ともにすごかった。読んできた文献も、参考になるものが多い。もうちょっと被害者発の本が入るといいかなと思わないでもないが、私など及ばないほど勉強されたんだなあ・・・真剣に向き合ったのだろうと思った。

 周囲を恨むタイプのDV気質のある人対象の更生プログラムを提供している団体としては、NPO法人ステップ(DV加害者更生プログラムにより被害者を守ります。NPO法人ステップ, 神奈川 (npo-step.org))が有名だ。

 サイトには

NPO法人 ステップ は、虐待・ストーカー・DVの加害者更生プログラム・被害者支援をはじめとした、あらゆる家族やパートナーシップの不健全な関係修復のサポートをしております。是非一度ご相談ください」​

とある。ステップの場合は、支援者が助けとなって自分で自分をどうにかしなければと気づいた人や、周りに勧められたり状況に追い込まれて仕方なくの人も含めて、学びの場になっていると聞いている。

 ちなみに、被害者側に立つ団体としては、NPO法人レジリエンスNPO法人レジリエンス (google.com))がある。余力がないとのことで女性支援に専念しているが、私もこちらで学ばせていただいた。こちらの人との関係性を学べる講座が中・高・大の学校や自治体の講座など大人も学べるように徐々に広まってきたのは、一市民としてうれしいことだ。

真剣な取り組みに見えるGADHA

 さて、迂回してしまったがGADHAに話は戻る。私が最初に読んだのは、ファウンダーのえいなかさん@EiNaka_GADHAhttps://twitter.com/EiNaka_GADHA?s=20)ツイッターだった。

  えいなかさんのプロフィールには「人は変われると信じている」と書いてあった。ご自身も、現在でも努力の最中のようだ。

 こういう人の声なら、自らの加害性に無自覚で、心理的孤立に陥っているような人たちの耳にも届きそうだ。陰ながら、応援したい。

 とりあえず、ツイッターの中にリンクがあったSPA!での連載記事は必読だ。