黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

【鎌倉殿の13人】源氏将軍頼家、意地を見せてサヨナラ

主人公・義時は「悪い顔」へ変貌

 NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、先日8/28の第33回「修善寺」で源頼家が死んだ。修善寺は、当時から温泉場として療養利用もされていたそうで、病み上がりの頼家が療養に行かされる場所としてはふさわしいのだろう。けれど、24回「変わらぬ人」で源範頼が刺殺された所なのだから、不吉だ。

 さらに、もしかしたら慈円が書き残したように残酷な方法で頼家は斬殺されるか・・・と考えてしまって、スタート前に既に気持ち的に少しどんより。そう言いながらも、三谷幸喜脚本の面白さが勝り、毎回絶対見るとは思っているのだけれど。

 「鎌倉殿の13人」は、歴史に則っているとはいえ、ここのところの惨劇続きで視聴者のメンタルは毎回鍛えられている。初期の頃の北条家の明るさが懐かしい。

 とうとう、主人公・北条義時は、運慶が言うところの「悪い顔」になった。それはそうだ、「頼家殿を討ち取る」との指令を出した直後で、和田義盛の純粋さに救いを求めて飲みに来たぐらいだったのだから。「その迷いが救い」とも言われたけれど、どんどん迷いもなくなって、顔は表情を失い、瞳からは光が消えていくのだろうか。

 さて、「草燃える」で郷ひろみが演じた頼家は、あの修善寺の温泉「筥湯」(修善寺温泉「筥湯」(はこゆ)の解説~ヒノキ内湯の復元外湯(共同浴場) | 神奈川県の日帰り温泉(温泉ソムリエ実録)~西日本拡大版 (spa.kanagawa.jp))で殺されたとの伝承の通り、入浴中に殺されていたような気がしたが・・・しかし、今作ではそうではなかった。かっこいいアクションたっぷりの、頼家のお別れになった。

 頼家に「殺される、お逃げください」と鎌倉から告げに駆け付けた泰時。頼家は「北条の者」には会いたくないと政子には会わなかったが、泰時には会うのか。やはり幼馴染の太郎は特別か。その泰時が、猿楽の指の動かない笛吹きを見咎め、化けていた刺客の善児を発見。そこから中国武術の金メダル経験者の山本千尋が演じる弟子のトウが、目にも止まらぬキレキレの立ち回りを見せ、泰時も鶴丸もあっさり気絶した。この主従、こんなに弱くて大丈夫か。

 頼家は、覚悟を決めて奥に刀を取りに行き、善児との一騎打ちへ。簡単に殺されるのではなく、頼家も一矢報いて「痛え」と善児は一言。そして、息子一幡の思わぬアシスト(「一幡」と書かれた紙に気を取られた善児)によって、頼家は善児の脇腹を傷つけ返り討ちにしたかと思われたところで、背後からトウが頼家を躊躇なく斬り殺した。

 何と言うか・・・滅多にお目にかからないすごいアクションだった。山本千尋は段違い。そして、金子大地演じる頼家も、北条に源氏の鎌倉幕府を乗っ取られてたまるかと言わんばかりの、気骨ある戦いぶりで意地を見せた。源氏将軍の最後の抵抗か。

 こうして、実質的権力は頼朝の源氏から義時の北条の手に渡っていったのだな。

 三谷幸喜は、源氏を惜しんで華々しいアクションシーンに仕立てたか。頼朝はもっと長生きすべきだった。未熟な頼家だけで源氏の鎌倉を守り切るのは無理で、3代目からは将軍の意味合いは変質した。

 「麒麟がくる」で、室町幕府13代将軍の足利義輝(演じたのは向井理)が斬り殺された場面は記憶にまだ新しいが、それを思い出した。形の上では弟の15代義昭まで室町幕府は続くけれど、ドラマでの義輝斬殺は室町幕府の終焉を印象付けた。同じく鎌倉幕府も、2代頼家が無残に殺された時点で、源氏が決定的に実権を失ったのだ。

頼家のタラレバ

 今作の頼家は、決して暗愚には描かれなかった。富士の巻狩りの頼朝暗殺未遂事件では、まだ子どもの頼家が的確に兵を差配してみせた。

 ただ、苦労して御家人との関係を築いて従え、神輿に乗った慎重な頼朝と違い、頼家は、御家人との関係性を誤解した風にドラマで描かれた。御家人の「一所懸命」の意識を軽く扱い、13人とも対抗しようとするなど、完全に間違えて。

 頼家はあまりに若く、彼を支えたはずの範頼や義経、義高の源氏は頼朝がご丁寧にも片付けてしまった。残った唯一の叔父・全成は頼家が処分。後見人の梶原景時、比企一族も排斥されてもういない。味方を失い孤軍奮闘だ。梶原景時が言うようには、頼家は賢くなかった。

 父の頼朝は、伊豆に流されてから蜂起するまで20年待った。もし、頼家が泰時の言葉通りに逃亡して20年なんとか持ちこたえて己と人脈を磨くことができたら・・・源氏びいきの後鳥羽上皇と結びつき、「承久の乱」は成功して「承久の変」となっていたか。それとも、後の「中先代の乱」程度で終わったか。

 頼家は、鎌倉殿の嫡男として甘やかされた。臥薪嘗胆はそもそも無理だっただろう。北条も甘くない。

去勢失敗説、ありうるかも

 ついでに、ドラマでは関係のない話だが、愚管抄に書かれている頼家の最期は悲惨だ。首をひもで締めて「ふぐりを取りて」殺されたのだそうだ。真実は不明だが、もしそうなら、殺してしまうものを、なぜ手間のかかることをわざわざ・・・と不思議だった。不名誉な殺し方をしたかったのか?と。

 頼家がドラマの通り女癖が悪く、修善寺周辺で襲われた被害者の親族などが腹に据えかねてむごたらしく復讐したのか?頼家からの鎌倉への手紙で言っていた「足立景盛の身柄をよこせ」は、実は「足立景盛の妾の身柄をよこせ」だったのだろうか?

 周辺女性への迷惑も目をつぶる限界を超え、とりあえず去勢しよう、ということになったのかもしれない。殺すつもりはなかったけれど頼家が派手に抵抗し、結果的に殺してしまったという説は、そうかもしれない。

 いずれにせよ、これ以上、頼家が子をもうけては困る状況であることは間違いなさそう。だから源氏を差し置いて御家人のてっぺんに立つ気の北条が、頼家の未来の子まで排斥に動き、子作りを物理的に不可能にしようとしたのかも。

 当時、去勢は危険な手術だったろう。麻酔もない。中国の宦官候補も、その手術で死ぬ場合も多数あったらしいし、暴れれば出血はひどくなる。それなら納得できる。

義時は、源氏の擁護者から変節した。そしてトキューサ

 頼家死亡で鎌倉政権の実質的権力は北条へと移ったが、「もう比企だ北条だという時ではない」と政子と義時が父・時政と継母りくに言っていたのはいつだったか。時政が、御家人の中で源氏以外では初めての国守、遠江守に任じられた時だったか。その時はまだ、義時は政子と共に源氏将軍を擁護する気でいた。

 でも、今や義時は「北条がてっぺんに立つ」と兄・宗時の言葉を念頭に迷いながらも寝返り、変節した。「父上はおかしい」と言い続ける泰時は、まだ源氏の擁護者として頼家&政子側に踏みとどまっているのに。

 泰時のことを、「太郎はかつての私なんだ。あれは私なんだ」とトキューサに言った義時。北条を選んだ今の自分が、源氏を裏切ったとの自覚があるのだろう。

 それにしてもトキューサ。義時だけが頼朝の本音を聞かされて全てを学ぶステップを踏んできたように、いつの間にか今度はトキューサが義時の本音を聞き、学んでいく立ち位置にいる。そして彼なりの決意を述べていた。

 「兄上にとって太郎は望みなのですね。ならば私は兄上にとって太郎とは真逆でありたい。太郎が異を唱えることは私が引き受けます。何でもお申し付けください」

 泰時が光の道を歩み、トキューサは陰の道を行くか。義時がこうありたいと願う希望を叶える泰時&汚れ仕事も厭わないトキューサ。後々、トキューサは大政治家になっていくそうだ。そうやって北条は光と影両面から政権を盤石にしていくのだな。

トウは恐怖の中、感情を殺して生きてきたのでは

 そして、ドラマは頼家暗殺だけでは終わらず、架空の人気者(?)アサシン善児が、弟子の二代目アサシン・トウに父母の敵だと討たれ、血みどろでフィナーレを迎えた。SNS上での善児への温かい視聴者目線には驚かされるばかりだ。

 トウは、範頼が殺される時に巻き添えになった農夫と妻の娘。蒲殿の背後で音もなくスローモーションで崩れていった夫婦の忘れ形見だ。物語的にはあれから6~7年は経過しているのか?

 あの時、トウも両親と共に殺されそうだったけれど、とっさに鎌を構えた姿を見て、きっと善児はトウの素質に気づき、育てることにしたのでは・・・と以前に書いた。

 そのトウが、頼家との戦いで刀傷を負った善児を背後から1刺し。そして正面から「ずっとこの時を待っていた。父の仇、母の仇」と大きな目を見開いてさらに2刺し。善児は、トウに殺されるのを受け入れて頷き、絶命した。トウも、初めて感情を露わにした場面で、泣いていた。

 このトウの涙というか葛藤を、善児には憎しみと同時に養育してもらった恩義も感じていて愛憎相半ばだったから、と解釈している方があちこちに見られて・・・私はどうもそう受け取れなかった。

 殺人の道具として長年使われてきた善児の境遇には同情する。だけれど、感情に蓋をした刺客の男にそんな優しさを期待できるのか?トウは、単に彼の奴隷だったのでは。

 あの範頼と父母の殺戮現場に直面したまま連れてこられたトウは、それ以来恐怖に支配されていただろう。父母の死や自分の身の上を思いのまま嘆くことなど、とてもできなかったのではないか。

 来る日も来る日も殺し屋としての訓練に明け暮れ、善児に仕えて。師匠が手負いなら安全に殺せるチャンス。恐怖を乗り越えて復讐を実行に移すにあたり、ようやく凍りついていた自然な感情を解放し、自由に泣けたのでは?そんな気がする。

アサシン善児を「解放」したのは、やはり弟子のトウ

 善児は、前回「災いの種」で、一幡殺しを「できねえ」と拒否し、人間らしさを見せたところでフラグが立った。オープニングに名前があると「誰か死ぬ」とSNSをざわつかせ恐れられた善児にも、感情がない訳ではなかった。

 感情がマヒしていたのか蓋をしていたのか、とにかく人らしさを消して生きていた善児に、感情をもたらしたのは一幡。となると、もう殺し屋としては役に立たない。自分の終わりが薄々見えただろう。

 メンタルの限界もおそらく見えて、いつか自分も殺してもらいたいと思っていたのでは。善児がトウに惜しみなく殺人術を伝授したのは、敵討ちを期待してかもしれない。「いつかトウが自分を解放してくれないか」と、自分が善児だったら願う。

 NHKのインタビューによれば、演じている中の人(梶原善)も、演技とはいえ次々に人を殺すのは精神的に堪えたようだ。八重を逃がそうとした江間次郎殺しが、特につらかったと・・・わかる気がする。

 善児については、生い立ちについてまでマルっと妄想している安定のお馴染み「かしまし歴史チャンネル」が面白いので、ぜひご覧あれ。スピーカーのきりゅうさんがノンストップで善児の物語を妄想して喋り倒している。今回も期待を裏切らない。

youtu.be

トウの今後を妄想すると・・・泰時ラブはいかが

 トウは、今後どうするのかな。自分の故郷の地・修善寺にいるのだし、善児がいなくなった今、殺し屋から足を洗って逃げることもできる。非常に優秀な殺し屋だから主人から見れば勿体ないが、このまま逃げて、平凡な幸せを求めてほしいところだ。

 しかし、そうはならないのだろうなあ。次週以降にもトウは物語に登場して、中の人よりも上の年齢を生きていくらしい。なぜ、トウは逃げないことになるのだろう。三谷幸喜はトウをどうするのか。

 ここからは私の妄想だけれど、トウは・・・泰時と恋に落ちるなんてことにはならないだろうか?

 頼家襲撃の際、トウはあっさり泰時と従者の鶴丸を叩きのめした(殺さないように除けといたか)。一連の回し蹴りなど彼女のアクションが速すぎて、こちらも「うわ、なんかすごい」と呆気に取られているうちに、気を失っていた主従ふたり。泰時は、トウの仕事を目の当たりにしたからこそ彼女の将来を心配して、あの真っすぐな調子でトウに「もう殺し屋なんて辞めてしまえ」等と絡んできそうだ。違うかな?

 そんなことを思うのは、今後どこかで泰時が初(後の矢部禅尼)と謎の離縁となるはずだから。それで、トウの存在を知った初が身を引いて(怒り心頭で)実家に帰る、という筋ではどうかしらと思ったのだ。全然違うかもしれないが。

 愚管抄に、一幡は「藤馬」が殺したと書いてあるそうな。男名だ。ドラマでは、一幡を水遊びに連れ出して殺したのはトウ。なぜ女子に性別転換させたかと考えると・・・。

 トウを演じるのは、あれだけの美貌の女優さんだ。日陰の身ながら、泰時を支えるためにトウは一生を捧げることにしたからアサシンは辞めないよ、みたいな筋書きにならないか?泰時とは結ばれなくとも、鶴丸が片思いで彼女を見守るとか?

 影の道でも厭わないと覚悟を決めたトキューサも、トウのお相手としては面白いかもしれない。ふたりともカタカナだし。ちがうか。

 そういえば、千鶴丸の敵を討たないと千鶴丸は成仏できず、源氏の子が短命に終わるーーだったか?千鶴丸を殺した善児が討たれて、千鶴丸の呪いはどうなったのだろう。頼家は千鶴丸の異母弟、泰時も千鶴丸の異父弟なのだった。弟の奮闘によって解けたのか。

 それとも、今度は一幡を殺したトウが生きている限りーーと次に因果が巡るのだろうか。見事に頼朝の源氏は消えていくことになるが。

 トウは、頼家・一幡・せつ(若狭の局)の親子3人を葬ったのだな。凄まじい。

悪女を演じるWミヤザワ

 さて、次に控えるは武士の鑑の悲劇だろう。中川大志ファンの悲鳴が聞こえそうだ。

 政子が修善寺をたずねた折に、畠山重忠とその妻で政子の妹ちえ(重保の母)、そして足立遠元がいたのが前振りかな。重忠終焉の地の「籠塚」に葬られているのは、重忠のもうひとりの妻で、足立遠元の娘だと聞いたけれど・・・。

 今作では、とにかく宮沢りえの「りく」が、がめつい悪女過ぎて時政パパの悪どさを薄める役割をしている。愛息政範を失ってタガが外れ、さらに暴走するのだろうか。

 もうひとり、息子・頼全を殺されて怖いものが無くなった実衣も、もうひとりの宮澤が演じる。宮澤エマの実衣も、権力に向かって感情の牙を隠すこともない。政子は実朝の和歌が向いている特質に目を向けているが、実衣はちがう。自分がのし上がる道具としての実朝を、独占しようとしているかのようだ。

 彼女は、まだ知らないのか。頼全を殺したのは信頼して実朝を任せた源仲章だと気づいた時、どうなるのだろう。怖い。

(敬称略)