黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

【鎌倉殿の13人】重忠、命懸けで義時の尻を叩く(※お膳立ては義村)

サヨナラ!武士の鑑・畠山重忠😢😢😢

 9/18放送のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、畠山重忠の乱を描いた第36回「武士の鑑」だった。もうね・・・役者さんたちの演技がものすごい熱量で、まだそれがただ見ただけのこちらにも残っているような気がする。

 中川大志(まだ24歳!)演じるアラフォー畠山重忠は「戦など、誰がしたいと思うかー!」と顔を震わせ万感込めて吠えた。そして、自ら畠山討伐の大将に志願することで、義理の弟でもある友人との戦を回避する道を探ろうとした小栗旬の北条義時。しかし、ふたりの思いは虚しくも叶わない。結局、筋を通したい重忠に向けて、義時は「これより、謀反人畠山次郎重忠を討ち取る!」と鎌倉からの大軍勢に号令するに至った。

 重忠は義時に騙されたと考えているのが、義時にはつらいところだ。直接言われていないにせよ、わかっているだろう。

 前35回「苦い盃」で鎌倉殿に会って起請文を出すように重忠に伝えた義時。その時に「私を呼び寄せて討ち取るつもりではないでしょうね」と重忠は返し、それを義時は否定した。それなのに、重忠の言葉通りになってしまった。

 それで、重忠は「私も小四郎殿の言葉を信じてこの様だ」と説得に来た和田義盛に言った。その直前に「今の鎌倉は北条のやりたい放題。武蔵をわがものとし、息子には身に覚えのない罪を着せ騙し討ちにした」と言っているから、自分も義時におびき出されて騙し討ちにされようとしていると考えている。

 義時はいつもそうだ。自分で望まない道を選ばされて、反発され、批判される(例えば愛する息子太郎泰時にも)。それも仕方ない。常に時の権力者の傍にいて、それだけの利益も享受している側だから。

 だからこそ、この鎌倉を変えられるのは義時しかいないと期待もされる。「苦い盃」のラストで、重忠は静かに義時に問うた。

 もし執権殿と戦うことになったとしたら、あなたはどちらに付くおつもりか。執権殿であろう、それで良いのだ。私があなたでもそうする。鎌倉を守る為に。

 しかし宜しいか。北条の邪魔になる者は必ず退けられる。鎌倉の為とは便利な言葉だが、本当にそうなのだろうか。

 本当に鎌倉の為を思うなら、あなたが戦う相手は・・・あなたは分かっている。

 義時は「それ以上は」と繰り返し、重忠の言葉を押しとどめて「戦う相手」を明言させなかった。もちろん、示唆されていた相手は、父である執権の北条時政だ。

 自分でも、まだ直視したくなかったのだろう。自分は重忠と戦わざるを得なくなる、「だからこそ戦にしたくはないのだ」などと北条時政の息子であることから1歩も踏み出さない前提で言っていたし。

 真の「鎌倉の為」に、その1歩を踏み出して欲しかったのが重忠だ。実際、重忠との死闘を経て、義時は明らかに父親と対峙する方向に舵を切った。

重忠vs.義時、青春映画張りのタイマン

 「死闘」と書いたが、すごい描写だった。確かに、こんなの大河ドラマで見たことない。衣装さんは泣いただろう。

 まず、義時の妹の子でもある嫡男重保を既に騙し討ちにされた重忠は、義時を横目に泰時に直行。「まずい」と、たまらず息子救出に出てきた義時は「次郎!」と呼び止める。振り返った重忠は「待っておったぞ」と作戦勝ちの趣だ。

 始まったのがふたりの一騎打ち。馬上での戦いから泥臭い取っ組み合いの殴り合いへ。山本耕史演じる三浦義村がきっちり「誰も手を出してはならぬ」と周囲を止め、大鎧を身に着けた大将同士が、青春映画のような熱い戦いを見せた。 

 私がお気に入りの「かしまし歴史チャンネル」のくぅさんも、「学ランが見えた」とうまいことを言っていた。小栗旬の初期の代表作「クローズZERO」が思い浮かんだ人もいたのでは。

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 しかし・・・完全に重忠に手加減されていた義時。殴れば床に穴を開ける怪力の持ち主の重忠にあれだけボコボコ殴られたら、数発で頭が吹っ飛んで死んでいるはずだ。

 重忠はさらに、ワザと外して義時の顔横に小刀を突き立て、笑った。大将首を取ることになるから、そのまま義時の命を取っていれば、戦は完勝だったはずだがそうしなかった。義時に託したいことがあるからだ。やり切って、メッセージは完全に義時に伝わったはずだ。

 刺される時、観念して目を閉じた義時の唇は震えていたが(痛いのは頬だけでなく心も。友の思いに感謝して)、そのシーンにかぶさったのが長澤まさみのナレーション。戦いは終わり、時政とトキューサが畠山の乱の平定を鎌倉殿に報告する場面になった。

 源義経と同様、畠山重忠の死はドラマでは直接には描かれず、トキューサのセリフによって重忠が手負いのところを仕留められたと視聴者は知った。これが三谷幸喜の美学なのか。ヒーローの死は描かないのだ。

 鎌倉殿・実朝も苦い思いをした。時政パパ(じぃじ)に騙されて花押を書かされた上に「重忠には幼い頃可愛がってもらったから殺すな」と言ったのに、届いたのは首桶だった。鎌倉殿なのに、誰も言うことを聞いていない。納得できなくとも「ご苦労であった」と言わざるを得ない立場。今回、度々目立った長沼宗政が、将来的に実朝と交わすやり取りを含んでいたのかな。

 宗政は、重忠の遺児を生け捕るよう命じられて、討ち取った首を持参して実朝に嘆かれる。今回と重なるような話だが、前振りか。それとも、そこまでは描かないか。

時政パパを最後に試し、ようやく義時決断

 この友人の尊い犠牲によって、義時はようやく父時政に向き合った。重忠は、自分だけでなく一族の命を懸けて、鎌倉の現状を正せと義時の尻を叩いたようなものだ。さすが武士の鑑。

 重忠の首を持参した義時が、時政に言う。

 次郎(重忠)は決して逃げようとしなかった。逃げるいわれが無かったからです。所領に戻って兵を集めることもしなかった。戦ういわれが無かったからです。(ここで「もういい!」と怒鳴る時政)

 次郎がしたのは、ただ己の誇りを守ることのみ。(首桶を差し出す)改めていただきたい、あなたの目で。執権を続けていくのであれば、あなたは見るべきだ、父上!

 息子の心からの叫び。しかし、それに応えず時政は去った。時政は息子に見限られたことに気づかなかったかもしれないが、義時は父親排除のスイッチがしっかり入った。

 大江広元は言う。「執権殿は強引すぎました。御家人たちのほとんどは畠山殿に非のなかったことを察しております」

 そして「畠山殿を惜しむ者たちの怒りを誰か他の者に向けるというのは?」との助言を得た義時は、義弟の稲毛重成に罪をかぶせることを時政に提案。気の毒な重成は誅殺された。まったく、北条の娘婿などなるものじゃない。

 弟のトキューサは、重成に罪をかぶせることを「いくら何でも理不尽ではないですか?」と義時に聞いた。「そこが狙いだ。稲毛殿を見殺しにしたとなれば御家人たちの心は執権殿から益々離れる。これぐらいしなければ事は動かぬ」と義時。これでトキューサも理解した。

 いつか、トキューサは兄に「何でもお申し付けください」と決意を述べていた。そう、善児の小屋で。トキューサは「りく」ボケの父より兄に従うだろう。

実は、義村の敷いたレールに乗っていた義時

 この時、義時は気になることを言った。重成の誅殺について「平六(三浦義村)を呼べ、あいつにやらせよう。私に隠れてコソコソ動き回った罰だ」と。

 「罰って何だよ、罰って!刎頸の交わりとまで言った義村がかわいそう!信じきれないとか言ってるから毒嫁をつかむんだよ」と最初は思ったが、よくよく見返してみたら義村、ずいぶんとコソコソやって義時を追い込んでいた。

 第34回「理想の結婚」で、義村は時政に呼ばれて酒を飲んだ。義時が「のえ」との再婚でうきうきしていた頃だ。

 「畠山はお前の爺様の仇」と時政に振られた義村。

 「恨みはないと言えば嘘になりますが」

 「もし北条と畠山が一戦交えたら?」

 「なるんですか?」

 「お前はどっちに加勢する?」

 「・・・決まってるでしょう」・・・で、ニヤリ。

 ハッキリ答えないのか、うまいな平六義村!これで時政は味方を得たとばかりに安心して畠山討伐を頭に描き始めただろう。時政は、平六の父親次郎(佐藤B作が演じていた)が無二の友だったから、息子も当然自分の側に立つと信じるおめでたさがある。

 ここで軽く時政を畠山討伐に向けてプッシュした平六は、流れを作った。チャンス到来と考え、温めてきたプランを始動したか。畠山は表から(滅ぶ危険性あり、よって三浦は選ばない)、そして三浦はあくまで陰から。義時を動かすために、誰か表に立つ役者を待っていたのではないか。

 表に見栄えのいい畠山はうってつけ、裏は目立ちすぎて似合わない。そんな感じの義村のセリフがあった。梶原景時討伐の署名集めの時だったか。

 前35回で、義村は「次郎を甘く見るな」と言い、壇ノ浦で義経が平家側の船の漕ぎ手を射殺すという禁じ手を命じた時に、「あいつは誰よりも進んで漕ぎ手を射殺していた」と義時に言った。次郎重忠は自分の思いだけでなく行動できる、切り替えてやるときはやる。「優男だけどな」と。

 続く「のえ」の飯粒発見の顛末(握り飯を食べながら裁縫をする奴がいるか?)に気を取られていたが、ここで義村は、重忠との戦いを覚悟するよう、はっきり義時に促していた。義時は、この頃まだまだ重忠との戦いを止めようとしていたけれど。

 そして今36回。のっけから時政が三浦一族を呼んで「鎌倉殿をお守りするため、これより畠山一族を滅ぼす!」と宣言。そこに義時はいない。「なんと」と驚く従兄の和田義盛を尻目に「かしこまりました」と待っていたように答える義村。

 「畠山はお主らの爺様の仇。ようやく敵討ちができるの」と嬉し気な時政に、さらに油を注ぐ形で「三浦一門挙げて討ち取ります」と義村は返答。義村はずるずると時政を蟻地獄に引きずり込んでいく。思い描くのは時政の失脚だ。

 和田義盛は「これだけ長くいると情が移る」「次郎という奴は見栄えもいいし頭も切れる。俺には自分と同じ匂いを感じるんです」と情を見せるが、義村は念願のプランA始動のタイミングに和田の感傷になどかかずらってはいられない。「先へ進みましょう」と切り捨てた。

 そして畠山重保をおびき出す話で、時政は「殺してはならん。息子を人質に取られれば重忠も観念しよう」と言い、和田義盛も重保に「手向かいしなければ命は取らぬ」と言ったが、それは最初から義村の念頭には無かっただろう。重保は捨て石、「悪いな」と声をかけたのがせめてもの情けであり、しっかり重保を討ち取った上で「やらなければやられていた」等ととぼけて時政に伝えた。

 こうして義村は、畠山と北条の争いを、そして義時と時政の争いのレールをきっちり敷いた。お膳立ては上々だ。

 重保を討ち取る前に、義村の弟・胤義が義時に伝えなくていいのかと確認したが「いい、板挟みになった奴が苦しい思いをするだけだ」「ここで執権殿に楯突けば、こっちが危ない」と義村が言ったのは、義時からの横槍を防ごうとしたのだろうし、汚れ仕事を引き受ける覚悟だったのだろう。

 既に賽は投げられ、大局的に見れば義村は正しい。重忠が義時に優しく言葉で迫ったようなまどろっこしいことはせず、状況を着々とコントロールして義時を追い込み、事態を進展させようとしている。

義時も、わかっている

 他方、ウジウジ悩む義時も「わかっている」。政子にも本心を伝えていた。

政子「畠山殿は、本当に謀反を企んでいたのですか」

義時「父上が言っているにすぎません」

M「だったら」

Y「しかし、執権殿がそう申される以上、従うしかない。姉上、いずれ腹を決めていただくことになるかもしれません」

M「どういうことですか」

Y「政を正しく導くことができぬものが上に立つ。あってはならないことです。その時は誰かが正さねばなりません」

M「何を考えているの、何をする気?」

Y「これまでと同じことをするだけです」

 義時も、大筋では義村と考えは同じ。ただ、義時は情において重忠が犠牲になるのは割り切れないし、父時政を切り捨てたくないから最後まで「望みは捨てぬ」と抗うのだろう。友も父も捨てたくないのだ。

 義村も、そんな義時を突き放すわけではないし、義時も内心では義村を頼りにしているように見える。

 戦場で「まずは次郎に会って矛を収めさせる」と義時が言った時に「俺に行かせてくれ」と立候補したのはピュアピュア和田義盛。義時はその時、義村の反応を見るのだ。そして義村は「あるな、この手の男の言葉は意外に心に響く」と、義時の感情に寄り添った。

「罰」でも義村は満足げ、そして和田への遺言

 ふたりは正に無二の友。だからこそ、義時は「罰」と言いながら義村に乱の真の狙いであるところの最後の仕上げ、時政を政から退かせるための「重成捨て石作戦」を任せたのだ。レールを敷いたのはお前だろ、と言わんばかりのこの絶大な信頼感。

 既に畠山重忠の潔白を信じ始めているところに、さらに稲毛重成の理不尽な処罰を聞いてざわめく御家人たち。義村は「あの人が殺せと命じたのだ」と明言、執権時政が信を失うように決定的に仕向けた。

 重成を討ち取ったと報告した義村に「ご苦労だった。下がって良い」とだけ返した義時に、義村はニヤリ。癇に障ってもおかしくない場面だが、義村は満足なのだろう。自分のプランAがうまく運び、義時が上に立つ覚悟を固めたと見て取ったのだ。

 そして三浦一門は無傷、守り切ったと義村は思ったかもしれないけれど・・・重忠は和田義盛に心理的置き土産をしていった。「命を惜しんで泥水をすすっては末代までの恥」という心意気。それにピュア義盛が身を投じる日が来るのはまもなくだ。

 見ている側は身が持たない・・・と思ったら、和田義盛を演じる側も本当に心身をすり減らしていたらしい。なんてドラマ。和田義盛の中の人(横田栄司さん)の回復をお祈りしたい。

 そうそう、こちら↓↓の記事のツーショット、ホッとするがまるで親子のよう。やっぱり畠山殿の化け方が凄い。次回からもう出ないのか・・・中川大志の、再来年大河ドラマ「光る君へ」でのメインキャスト出演を待っている。(敬称略)

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