黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

【鎌倉殿の13人】迫力と愛のある小池栄子版の政子、記憶に長く残るだろう

待ってた政子の大演説、痺れました

 NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のラスト前47回「ある朝敵、ある演説」が12/11に放送された。ようやく用事を終えての帰りのバス移動中、NHK+をスマホで立ち上げたらちょうど政子の演説が始まる場面に間に合い、「おおお」と思わず声が出た。イヤホンを頼りに終わりまでを車中で揺られながら見て、帰宅してシャワー直行、そして録画を頭から見直した。

 この大河ドラマを1年かけてここまで見てきて、最後に何が楽しみだったかと言えば、私の中では間違いなくこの北条政子の承久の変での演説だ。「草燃える」の岩下志麻版の政子のイメージも記憶に残っているが、小池栄子の政子の演説も肝の据わった声音で目力全開。迫力も愛もあって痺れた。

 今作の政子は、意外なほどに理知的な尼将軍に成長しているように見える。岩下志麻の政子は、複雑な心境がまだ見通せない子ども(私)の目からは多少考えが甘く、ヒステリックに見えた。彼女は後に「極道の妻たち」で姐さんを演じたが、小池栄子が将来的に岩下志麻の道を踏襲するかと考えると、私の頭の中ではそのイメージは薄い。

 度量があるのはもちろんのことなのだが、まさに生真面目さと頭の良さを内に感じるのだ。脚本家の考え、気質が出ているのだろうか。

 三谷幸喜は歴史上有名な演説をうまいこと練ったものだ。現代的にはこちらの三谷版の政子演説の方が納得感が増す。「本当は政子はこんな風に喋ったんじゃないの?文書に書いてあったから大江殿が書いたものが後世には残ったけれど」なんて思いたくなるほど自然だ。(そもそも政子喋ってない説もリアルではあるみたいだけど。)

 「御家人達よ、西に舐められてるよ?いいの?」と坂東武者魂というかヤンキー魂を揺さぶっていて、それをレディースの総長役(ぴったりだった)も演じたことがある小池栄子に演じさせるのはさすがだ。

 長いけれど、この名場面をこのブログにも記録しておきたい。

義時:既に耳に入っている者もあると思うが、このたび・・・姉上

政子:待ちなさい。鎌倉の一番上にいるのはこの私です。あなたは下がりなさい

トキューサ:鎮まれ!尼将軍からお言葉があるぞ(ナイスアシスト)

政子:(スピーチライター大江殿が用意した文を読む。目が見えなくても書けたのか)私がこうして皆に話をするのは、最初で最後です。源頼朝様が朝敵を討ち果たし関東を治めてこのかた、その恩は山よりも高く海よりも・・・(読むのを止めて文書を実衣に渡す)

 本当のことを申します。上皇様が狙っているのは鎌倉ではない。ここにいる執権義時の首です。首さえ差し出せば兵は収めると院宣には書かれています。そして義時は、己の首を差し出そうとしました

義時:姉上、もういい

政子:よくありません。私は今、尼将軍として喋っているのです。口を挟むな!

 鎌倉が守られるのならば命を捨てようとこの人は言った。あなたたちのために犠牲になろうと決めた。もちろん私は反対しました。しかしその思いは変えられなかった。

 ここで皆さんに聞きたいの。あなた方は本当にそれで良いのですか。確かに執権を憎む人が多いことは私も知っています。彼はそれだけのことをしてきた。でもね、この人は気真面目なんです。全てこの鎌倉を守るため、一度たりとも私欲に走ったことはありません

実衣:それは、私も知っています

政子:鎌倉始まって以来の危機を前にして、選ぶ道は2つ。ここで上皇様に従って未来永劫西の言いなりになるか、戦って坂東武者の世を作るか。ならば答えは決まっています。速やかに上皇様を迷わす奸賊を討ち果たし、三代に渡る源氏の遺跡を守り抜くのです。頼朝様の恩に今こそ応えるのです。

 向こうは、あなたたちが戦を避けるために執権の首を差し出すと思っている。バカにするな、そんな卑怯者はこの坂東に一人もいない。そのことを上皇様に教えてやりましょう

御家人達:おー!

政子:ただし、敵は官軍。厳しい戦いになります。上皇様に付きたいという者があれば止めることはしません(大江殿、見えないはずの目が開いている。クララが立った?)

泰時:そのような者がここにいるはずがございません(隣に三浦義村が座っているが)。今こそ一致団結し、尼将軍をお守りし、執権殿の下、敵を打ち払う。ここにいる者たちは皆、その思いでいるはずです。違うかー!(義時、背を向け涙を流し、頬を拭う)

御家人達:そうだー!

泰時:執権殿、これが上皇様への我らの答えです

義時:(頷き、涙をこらえてハッと息を吐く)

政子:(遠くから、義時を見て微笑む。光り輝く政子)

 「鎌倉の一番上にいるのはこの私です。あなたは下がりなさい」「私は今、尼将軍として喋っているのです。口を挟むな!」と厳しく義時を黙らせた政子だったが、最後に興奮冷めやらぬながらもニッコリ笑って義時を見た時にはしっかり姉の顔。弟を救うために大仕事をやり切った彼女を見て、感動しない人はいなかったと思う。

 隠れて涙を拭った義時。姉の頑張りにプラスして、それをさらに膨らませて御家人を鼓舞することに成功した愛息・太郎泰時の背中を見て、成長ぶりを頼もしく感じていただろう。

 自分とはいつも反対のことを言う息子。でも、息子が御家人達の心を見事につかんでいるのを見たら、そりゃ父としては泣く。もう息子に任せて良いんだ、もう無理に強権的な闇執権を気取る必要もない、息子のやり方で良いんだと深く悟ったはずだ。

 政子が尼将軍に立って以降、義時の張りつめた闇っぷりはやや緩んでいた。冒頭の実衣との「首を刎ねるって言ったでしょ」「言ってない」のやり取りなど、昔の「小四郎」の穏やかささえ感じさせたが、姉の渾身の演説を聞いて「小四郎」が隠れる闇張りぼては壊れただろうか。

 前回は尼将軍の地位に上ることで妹・実衣の命を救い、今回は御家人の心を打つ大演説をぶって弟・義時を救った政子。ほんの数話前には「決めてきたのはあなたでしょ」なんて逃げてた政子だったのに、根性の座り方に大江広元の目が開いちゃうのも分かる気がする(中の人ご本人のツイートに「クララが立った」とお書きになっていた)。彼女の演説が明治維新に至るまで600年に渡る武家の世の始まりを告げるターニングポイントとなるだなんて、政子本人も知ったら驚くだろう。

 しかし、こんなに素晴らしい女優さんになっていたとは。今後は長く、政子=小池栄子として記憶されるだろう。紫の勝負頭巾は彼女に似合って、とても素敵だった。

https://www.nhk.or.jp/kamakura13/story/47.html
義時の決断は、ちょっと腑に落ちない

 それにしても、ドラマの義時は、追討の宣旨を受けて自分の首を後鳥羽上皇に差し出そうとした。それがちょっと腑に落ちない。だって、それを許したら同じことが自分亡きあと、次の執権になるだろう太郎に降りかかるのは目に見えているじゃないか。悪しき前例になってしまう。

 西が気に入らなければ、鎌倉幕府の執権は今後もじゃんじゃん首を差し出すことになる。それはない。何のために、これまでダークな闇張りぼてを被り、私心を殺して友人を殺してまで闘争に闘争を重ねてきたのだ義時よ。坂東武者の世を作り、愛する八重さんとの息子(とその子孫)にエバーグリーンを残すためじゃなかったのか。

 カッコつけのその判断は、政子が尼将軍に立って肩の荷を一緒に背負ってくれるという安心感によって、らしくない緩みが出てしまったということなのか。気弱になった。・・・そうか、これこそが上皇の呪詛の効果なのかも。

 気になるのが、次の最終回のある写真。フォトギャラリーを見てしまった。

酒?それとも毒?(あらすじ 最終回「報いの時」 | NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」

  これは何?自殺用の毒薬ではないのか。「麒麟がくる」で信長が弟を殺すときに「飲め~!」と叫んでいた時のアレでは(あ、そうだった。この信長の中の人・染谷将太は「のえ」菊地凛子の夫だ)。酒ならば、いつもとは盃が違うような気がする。

 政子の演説前、義時は、傍に仕える次郎朝時に太郎泰時と五郎トキューサを呼ぶように命じ、「私一人のために鎌倉を灰にすることはできぬということだ」と自分の首を差し出す意思を伝えていた。扉の前に立っていた「のえ」は、その直前に「兄は見殺しにされたのですか」「許せませぬ」と義時に対して怒り爆発だったのに、部屋から出る義時に食って掛かることはしなかった。

 それを見ると、「のえ」は夫の言葉を立ち聞きして衝撃を受けたのだとは思う。ただ、あの涙を拭う時の鬼の形相は一体どういう意味?どちらにも取れるけど?と謎が残った。

 その①:義時は、泰時に「太郎、私はお前が後を継いでくれることに何よりの喜びを感じている。お前になら安心して北条を、鎌倉を任せることができる」と告げていた。つまり、「のえ」が望む政村が後継ぎになることは否定された。それに絶望した「のえ」が、義時さえ死んでしまえば後家として後継ぎは自分が決めればよいと、義時殺害を決意して毒を飲ませる方向に向かう。もしかしたら、義時もそれを知っていて甘んじて受け入れる。

 その②:義時の首を差し出す覚悟を耳にして、義時にいたく同情的になった「のえ」が、承久の乱での上皇処罰やこれまでの所業に罪の意識を感じて(弱気のなせる業)自らを罰しようとする義時に頼まれ、毒薬を用意(「りく」に送ってもらったりして?)。夫の自害を手伝う。

 どちらもありそう。もしあの写真の飲み物が毒薬ならば、これまで散々ブログで書いてきた毒キノコ膳による食中毒ではなくて、そのものずばりの毒が義時の死には介在することになりそうだ。

杞憂かもしれないが・・・自殺を美化しないで

 ただ・・・興ざめかもしれないが、ちょっと書いておきたいことがある。自殺者が増える年末も近い。ここで天下のNHKが、まさか大人気大河ドラマの主人公を自殺させて物語を閉じるなんてことは無いでしょうね?

 大河ドラマでも活躍した人気者が続けて自殺したり、コロナ禍で、一時は減少傾向だった自殺者数が増えたと聞く。自殺者を減らすために多くの人たちが努力をしている昨今、ドラマで自殺を美化しないでいただきたいのだ。

 WHOのいわゆる「自殺報道ガイドライン」(メディア関係者の方へ|自殺対策|厚生労働省 (mhlw.go.jp))の中には、「自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しないこと」という文言がある。「いや、これ報道じゃないし、物語だから」と言われればその通りだが、影響を受けやすい人は同じように影響されるだろう。

 仁田忠常の中の人・ティモンディ高岸宏行が「なんでもできる!」と常々言っているのに、役の方は自害で物語から退場したのがかなり残念だった(中の人もそうコメントしていた気がする)。いくらフィクションだし時代が時代だとは言え、影響力の大きさをぜひ考えてもらいたい。

 まだ分かったものではない。が、義時自害の締めくくりだけは止めてもらいたい。

www.mhlw.go.jp

三浦義村はまだ諦めていないが

 さて、ちょっとした驚きだったのが平知康の再登場。「おしまつ(お始末?)」と後鳥羽上皇に呼ばれ、義時追討の院宣を鎌倉にもたらした。頼家の蹴鞠の師匠をしていたぐらいだし、もう少し良い境遇に居ても良さそうだけれど、院御所の庭掃除などする雑色のようになっていた。蹴鞠好きなトキューサに雇ってもらえばよかったのに!

 鎌倉に派遣された知康は恭しく三浦義村に院宣を手渡したが、あんなに大っぴらにやっていいの?という雑さ。もっとお忍びで持ってきなさいよ。

 そもそも上皇が雑だ。院宣のコピーをただバラまけば、思い通りに御家人が義時の首を討つと信じていたんだなあ。まさに人=手駒の感覚をお持ちだ。京の御所で守られ生きてきて、簡単に人が自分のために動くと心底信じているおめでたさがある。

 そんな後鳥羽上皇に、確かに鎌倉は舐められている。後鳥羽は鎌倉の価値をちゃんとわかってなかった。わかっていたのは、後鳥羽と藤原兼子が排除した慈円だけか。源仲章がまだ生きていたら、義村が迷わず官軍に付いてくれるよう、もうちょっと丁寧に御家人工作をしてくれたのではないか。

 三浦義村は、機を見るに敏を絵に描いたような人物だから、名指しで院宣が来たと思った段階では喜んだが、長沼宗政にも届いていたと知るや、きっと多くばらまかれていると察して一早く幕府に申告した。

 その場面では、義村が「頼もしきは三浦殿じゃ」「御家人たちが全て三浦殿のような忠義のものとは限りません」と称賛された一方、慌てて追随した長沼宗政が、政子に「なぜ早く見せないのですか」と責められ、ちょっとしたコントになった。

 「ひどいではないか」と宗政は言いつつも「まあそう言うな」「俺に任せろ」と義村に言われると認めてしまう。義村の実力者っぷりが伝わるが、義村に任せてしまえば敵方に売られて滅ぶと誰か教えてあげてほしい。

 しかし、その義村のやり方については弟・胤義が過去にも批判的だった。そんな兄上のやり方は承服できない、みたいに言っていたと思う。胤義はもう京都御所襲撃に加わって御所側に付いているが、最終回では、土壇場で味方を裏切れと言う兄の申し出をこれ見よがしに断って死んでいくのではないだろうか。それが義村にとっての「報いの時」になりそうだ。

 最終回では、義時と義村の仲はどう描かれるのだろう。義時が死を迎えた時、義村、襟直しをせずにいいことを言ってくれないか。裏切りを重ねた男の、かっこいいところを最後に見せてほしい。(ほぼ敬称略)