黒猫の額:ペットロス日記

狭い場所から見える景色をダラダラと。大河ドラマが好き。

【光る君へ】#19 まひろの活躍を引き出す清少納言(ききょう)、権力者デビューの颯爽道長もまひろに応える

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第19回「放たれた矢」が5/12に放送され、何かとスッキリする回だった。次回は定子には気の毒だが、さらに期待できそう。まずはあらすじを公式サイトから引用する。

(19)放たれた矢

初回放送日:2024年5月12日

道長(柄本佑)が右大臣に任命され公卿の頂点に。これを境に先を越された伊周(三浦翔平)との軋れきが高まっていく。一方まひろ(吉高由里子)は、ききょう(ファーストサマーウイカ)のはからいで内裏の登華殿を訪ねることに。定子(高畑充希)との初対面に緊張する中、一条天皇(塩野瑛久)も現れ…。ある夜、隆家(竜星涼)は、女に裏切られたと落ち込む伊周を強引に女の家へ連れていく。これが大事件へと発展することに…((19)放たれた矢 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

やる気に満ちた道長、歓迎する一条帝

 まず、オープニングテーマ前の道長と帝との会話からして、おおっと思わせてくれた。BGMのエレキギターの高まりとともに、道長のやる気が感じられて良い世の中が来そうな雰囲気が漂う。

 帝もこれまではオラオラ伊周・隆家兄弟にうんざりしていたんでしょ?良かったね、前回の詮子ママの熱弁の通り、道長を選んで!

ナレーション:長徳元年(995年)6月、一条天皇は道長を右大臣に任じた。道長は内大臣の伊周を越えて、公卿のトップの座に就いたのである。

一条帝:(御簾内から)幼い頃、右大臣に東三条殿の庭で遊んでもらったことは憶えておるが、ゆっくり話したことはなかった。これからは太政官の長である。朕の力になってもらいたい。

道長:もったいなき御言葉にございます。

中宮定子:お上をよろしく頼みます。

道長:身命を賭してお仕えいたす所存にございます。

一条帝:一つ、聞きたいことがある。

道長:何なりと。

一条帝:そなたはこの先、関白になりたいのか?なりたくはないのか?

道長:なりたくはございません。(定子が道長に視線を向ける。道長は目を伏せたまま、ポーカーフェイス)

一条帝:何ゆえであるか?

道長:関白は陣定に出ることはできませぬ。私はお上の政のお考えについて陣定で公卿たちが意見を述べ、論じ合うことに加わりとうございます。

一条帝:関白も後で報告を聞くが。

道長:後で聞くのではなく意見を述べる者の顔を見、声を聞き、共に考えとうございます。彼らの思い、彼らの思惑を感じ取り見抜くことが出来ねば、お上の補佐役は務まりませぬ

一条帝:これまでの関白とは、ずいぶんと異なるのだな。

道長:はい。(いくぶん視線を上げて)異なる道を歩みとうございます

 俺はやるよ、やってやる!という道長の覚悟が沸々と見えた関白宣言。いやいや、関白じゃないから「非関白宣言」か。権勢を楽しみふんぞりかえるだけの輩とは俺は違うんだと言ってのけた。一条帝も、道長のやる気を歓迎しているようだった。

 このドラマが始まった時に、右大臣様といえば道長の父、兼家だった。その上には倫子パパの雅信が左大臣・太政官一上として公卿議定を主宰しており、小さなハゲを密かに作るぐらい頭を痛めて励んでいた。公任パパの関白太政大臣頼忠も、小声を張って頑張っていた。

 その3人分の政務を、右大臣・一上・内覧として一手に引き受ける訳でしょう?道長、これからの仕事量を考えるととんでもなく大変なんじゃないのか・・・十円玉ハゲがいくつも出現し、倫子を驚かすのだろうか。

 しかし、年齢的には遅咲きの兼家よりもかなり若い30歳前後、疫病を寄せ付けないくらい体力は充実している。体力は気力に通じるもんね。

一条帝の言葉から、道長が為時を引き上げる

 さて、このエレキギターの同じBGMは、今回もう1度聞くことができた。一条帝の言葉を受けて、道長が、山のようにある除目の申文の中に、まひろパパの為時の名を探し当てた時だった。こうなると、ワクワクしかない。

一条帝:世の中には、政のことを考えるおなごがおるのだな。

道長:中宮様も、女院様もさようにございますが。

一条帝:さような高貴な者ではない。前の式部丞蔵人の娘と言うておったかな・・・名はちひろ、まひろと申しておった。(息を飲む道長、口が半開き)朕に向かって、下々の中にいる優秀な者を登用すべきと申した。いかがいたした?(瞬きが止まらない道長

道長:お上に対し奉り、恐れ多いことを申す者だと思いまして。

一条帝:(笑顔で頷き)あの者が男であったら登用してみたいと思った

道長:(一点を見つめ、廊下を下がる。何かを決意したかのような表情。執務室に戻り、申文を漁る)違う・・・違う。違う。(申文の中に、為時の名を見つける。淡路守希望とある)淡路か・・・。

 びっくりするよねえ。自分が心の底に沈めている想い人の名前が、まさかの帝の口から出たんだもの。道長の口は半開きにもなるし、瞬きが止まらなくなるのが面白かった。

 その次の場面、沓脱石に置かれた黒漆の靴を見て、良い知らせがもたらされたのが分かった。こちらも思わず両手を組んで、やったー!と思った。

乙丸:(黒漆の靴を手に取り、丁重に揃え直す。無言で控える「いと」と、視線を交わす)

為時とまひろ:(正装して朝廷の使者にひれ伏している)

使者:正六位上、藤原朝臣為時を従五位下に叙す。(為時、まひろ、いと、乙丸の息が止まる)

為時:鴻恩をかたじけのういたしたるこの身、叡慮を承り謹んでお受け仕ります。(一膝進み、両手で書状を受け取る)

使者:右大臣様からのご推挙でございます。(まひろの瞳がうろたえる

 良かったね、為時パパ。道長は、姉の女院に言われても恣意的に人事を運んだりはしない男。兄の道隆のような失敗をしまいと心に決めている。それなのに為時を昇進させようと考えたのは、まひろのためだけじゃないだろう。まひろのためだけだったら、自制したはずだ。

 では何故かと言えば、一条帝がまひろのことを「男だったら登用してみたい」と言ったからだ。その帝の心に応えるのは、政務を任されている自分の正義だと考えることができた。大っぴらにまひろパパ為時を昇進させることができて、道長も嬉しいはずだ。

 「わしの目の黒いうちは」などと兼家に目を付けられてしまってから10年、長かった。兼家の息子の道長に推挙してもらって昇進するなんて、為時としたら普通なら考えられないと思ったことだろうね。

いと:やはり右大臣様と姫様は、何かありますね。

為時:こたびの事はそうとしか思えぬな。

・・・という会話を交わすのも自然な成り行きだ。

 次回予告を見ると、まひろはとうとう道長との関係を父に打ち明けるのだろうか?何て言うつもりか。端的には「妾のお申し出をお断りした」ってことになるだろうから、まひろは叱られそうだ。

 しかし、いわゆる男女関係だけに止まらない、精神的な同士のようなつながりを、為時パパならば、多少は理解しようと努めてくれそうだが・・・?難しいだろうか。

清少納言(ききょう)のヒット、まひろのホームランを引き出す

 苦節十年。為時は辛い境遇に甘んじてきたのだが、それをひっくり返したのはまひろが一条帝に伝えた言葉だった。じゃあ、それが叶ったのは何でと言えば、一言では清少納言(ききょう)の思い付きのお陰だ。

 まず、まひろは一条帝への対面なんてとてもできないのに、①中宮定子の女房として後宮に勤めるききょうが、まひろを定子に会わせようと思いつき、②一条帝が定子を急に訪れた偶然によって、対面が叶ってしまったという設定がうまい。あり得そうだもの。

 江が歴史上のイベントにRPGよろしく毎回のようにぴょこぴょこ顔を出すなんてトンデモ設定よりも全然良い。それも、②は枕草子にも出てきたエピソードだったような?(愛されている幸せな定子の姿を今回視聴者に見せておいて、次回からの彼女の立場の変転を考えると心が重いが・・・賢い定子は、帝と会話を交わす冒頭の道長を見て、兄たちとは違う、兄たちではダメだと感じていただろう。)

 ききょうに話を戻すと、ドラマの彼女は、頻繁にまひろを訪ねているようだ。漢籍・和歌など話が合う2人だし、ききょうも愚痴を言うにも内裏の外なら気楽だ。お菓子を食べながら、楽しい時間だろう。

 その「心酔する友」を、尊敬する推しの定子に会わせようと考えるのは、楽しい企みだ。よくぞ思いついたよ、ききょう。タイムリーヒットだ。好きだなあ、こういうの。

 「一代の誉れ」とまひろが口にしたように、友人に心底喜んでもらえることができる自分は誇らしいよね。自慢の友人・まひろを紹介するききょうも鼻高々だったはずだ。

 渡殿に通行人が足を痛めるような撒き菱(?)を撒かれ、きょろきょろ歩んでいたまひろが踏むという、源氏物語に出てくるような宮廷内での女房同士の足の引っ張り合いも出てきた。そこで、ききょうが大声で呼ばわる「私は平気!」というセリフも痛快だった。

ききょう:こうした嫌がらせは、内裏では毎日のことですの。お気になさらないで。私も3日に1度くらい何か踏みますので、足の裏は傷だらけです。でも、そんなこと(強く誰かに聞かせるように)私は平気です。中宮様が楽しそうにお笑いになるのを見ると、嫌なことはみ~んな吹き飛んでしまいますゆえ!

 ききょうの言葉を聞いて、部屋の影で顔を寄せあった女房達がいたが、あれはどちらの女房なのだろうか?中宮定子以外に、入内している女御は当時、もういたのか?とにかく、さっさとあの撒き菱を片付けないと、アポなしで突然やってくる帝が踏んじゃうよー。そしたら一大事だ。

 

 さて、ききょうのヒットを踏まえ、柵越えの大ホームランを放ったのがまひろだ。堂々と、よく言ったものだ。大事なお勤め(天皇には大事な「せいじ」が3つあり、①政事②性事③・・・うーん、思い出せない。星事?何かで読んだ)を終えた帝と中宮を前に、「私には夢がある」とマーティン・ルーサー・キング牧師のようなことを言い出した。

中宮定子:お上、この者は少納言の友にございます。

まひろ:(隣に並んで座るききょうに促され)正六位上、前の式部丞蔵人藤原為時の娘にございます。

定子:おなごながら、政に考えがあるそうにございますよ。

一条帝:朕の政に申したきことがあれば申してみよ。

まひろ:私ごとき、お上のお考えに対し奉り、何の申し上げることがありましょうや。

一条帝:フフ・・・ここは表ではない。思うたままを申してみよ。

まひろ:・・・恐れながら、私には夢がございます。

一条帝:夢?

まひろ:宋の国には科挙という制度があり、低い身分の者でもその試験に受かれば官職を得ることができ、政に加われると聞きました。全ての人が身分の壁を越せる機会がある国は素晴らしいと存じます。我が国もそのような仕組みが整えばと、いつも夢見ておりました。

一条帝:その方は、新楽府を読んだのか?

まひろ:「高者、未だ必ずしも賢ならず。下者、未だ必ずしも愚ならず」

一条帝:(微笑んで)身分の高い低いでは、賢者か愚者かは計れぬな。

まひろ:はい。下々が望みを高く持って学べば、世の中は活気づき国も又活気づきましょう。高貴な方々も、政をあだ疎かにはなされなくなりましょう。

定子:(一条帝が笑うのを見て)言葉が過ぎる。

まひろ:ハッ、お許しを。

一条帝:そなたの夢、覚えておこう。

まひろ:恐れ多いことにございます。

 こうして会話の文字起こしを見てみると、まひろのホームランも定子にサポートされればこそだった。その優しさ、ききょうが心酔するのも分かる。

 新楽府については、前回からまひろが読みたいと騒いで惟規に頼んでみたり、丁寧に伏線が仕込まれていたのはこういうことだったかと理解した。

 今回のオープニング直後にも、いとに嫌味を言われながら、まひろは熱心に新楽府を書写していて「政のあるべき形が書かれているから、ためになる」と説明していた。いとには「そういうことは若様にお任せになって、姫様はお家のために良き婿様に出会えますよう、清水寺にでもお参りに行ってらっしゃいませ」と言われてしまったが。

 悲しいよねえ。朝ドラ「虎に翼」の寅子も、千年前のまひろも。

 とにかく、このまひろと帝との対話が、前述したように道長を動かすことになり、まひろの為時パパの官位は久しぶりに上昇、一家挙げて喜ぶことになった。嬉しいねえ。

まひろにとっては、宋人>道長?

 まひろには更なる望みがある。多くの宋人が来日して越前に滞在中なので、宋の言葉が話せる為時パパなら「誰より越前だとお役に立てるのに」という訳だ。

 史実を踏まえるなら、次回、その点でも動きがあるはず。まひろがいったいどう仕掛け、動くというのだろうか?

 多数の宋人の来日については、道長が陣定で「帝より、若狭に宋人70名余りが来着した件について定めよとの命があった」と話をしていたし、ききょうもまひろに「右大臣様はよくやってる」という話の中身で触れていた。

 まひろは右大臣様(道長)の噂には食いつかず、食いついたのが宋人の方だったのが笑えた。え?もう人気のない道長には興味なし?なんて。

ききょう:新しい右大臣様には望みは持てぬと思っておりましたが、それが案外頑張っておられますの。疫病に苦しむ民のために租税を免除されたりして。

まひろ:そうですか・・・。(洗濯物を干しながら)

ききょう:それと若狭に70人もの宋人が来たらしいんですけれど、若狭は小国ゆえ何かと不都合だったらしいのです。そうしましたら右大臣様が、受け入れる館のある越前に送るよう帝に申し上げ、そうなったのです。素早いご決断に皆、感嘆しておりました。

まひろ:(洗濯物を干すのを止め、ききょうの方を向いて真剣に)宋人とは、どんな人たちなのでしょう?

ききょう:さあ?

 せっかくききょうが道長の噂話をしているのだから、まひろも少しは乗ってもいいのにねえ・・・道長はもうどうでもいいのか、意識しているからこそ避けたいのか。新楽府を書写して、宋の話に頭がいっぱいだったのか。

 まひろはききょうに対し、この後、科挙の制度について「私は身分の壁を越えることのできる宋の国のような制度を、ぜひ帝と右大臣様に作っていただきとうございます!」と熱弁を振るった。

 平安の2大スター、清少納言と紫式部。実際に会ったことがあったのかも不明な2人が、ドラマの中のような仲だったら夢みたいだ。紫式部日記との整合性が心配だが。

道長は国宝の日記を書き始めた

 道長が権力者としてトップに立ち、F4での立ち位置も当初からすると随分変わったものだ。当時は関白を父に持つ公任が、サラブレッドとしてF4をリードしているかのようで、出世コースを頭一つ抜けて走っていたように見えた。道長は、何を考えているのか良く分からないボーっとした不思議ちゃんだった。

 今や道長が右大臣となり、公任は参議として道長が主宰する陣定のメンバーだ。F4が揃った酒の席で、公任は「父が関白であった時は、俺も関白にならねばならぬと思っておったが、今はもうどうでも良い」と言い出した。漢詩や和歌や管弦の世界に生きてゆきたいからだという。「陣定で見ていても、道長は見事なものだ」と褒め、競い合う気になれないのだそうだ。

 そして友人らしく、道長にアドバイス。適切な除目のためには各々が抱える事情を知るべきだとして、情報収集には美筆で名高い行成が役立つと言った。行成は、乙女の目を道長にずっと向けてきた人物だったからすぐ了承、さっそく情報を集めて書いた物を道長に持ってきた。

行成:お読みになったらすぐ焼き捨ててください。

道長:いや、1度読んだだけでは覚えられぬ。そなたのような優れた才はないゆえ。

行成:されど、これが残るのは危のうございます。お心に留まったことだけご自身で記録をお作り下さい。

道長:それは日記のことか?

行成:はい。私は毎朝、前日に起きたことを書き記します。そのことで覚える力も鍛えられまする。

 この行成の言葉を容れて、道長が現代の国宝「御堂関白記」を素直に書き始めた。イエーイ!道長は生涯関白になったことはないのに関白記。関白と同様に力があったんだから、世の人がそう呼んでも仕方ない。土御門殿で文机の上に広げてある日記を、道長の畳座に丸くなってしまった小麻呂(😻💕💕)を抱き上げた倫子が、不思議そうに眺めていた。

 そして、行成の日記も(後の「権記」)、既に書き始められているようだ。2つとも、実資の「小右記」もそうだが、後世の私たちにとって大事な古記録だ。歴史家の先生たちが研究し、脚本がその成果を取り入れ、そのおかげでこうやって大河ドラマが楽しめている。

 日記が続いた試しの無い私が言うのもなんだが、読んでみたいなあ。現代語訳、買っちゃおうかな。

使える男、俊賢。転がされるオラオラ暴走族伊周&隆家兄弟

 今回、フューチャーされていたのは使える男・源俊賢だった。道長は友人の斉信と共に蔵人頭だった俊賢を、斉信に悔しい思いをさせてまで先に除目で参議に上げ、対伊周&隆家工作に動いてもらった。

 これに先立ち、伊周は、道長に陣定の後にいちゃもんをつけ、ひらりと交わされて四つん這いになり、かえって無様な姿を晒した。これは実資の「小右記」に書き記された史実だそうな。

 それ以来、伊周らオラオラ兄弟は内裏に来なくなっていたが、道長の意を受けた俊賢の工作の結果、陣定に再び参加。もし来なかったら俊賢の次の一手は何だったのだろう?妹の明子に「褒めるところが無い」と言われた俊賢だったが、有能な人物だと道長は見ていた・・・ということだった。

 俊賢の掌で転がされた伊周らは、さらに転がり落ちていく。こんな兄弟を持った定子が、足を引っ張られ、巻き添えを食らうのは気の毒だ。まひろが一条帝に対面した直後のオラオラ兄弟登場で、帝の表情が明らかに曇ったもんなあ。

 伊周が帝に言うことも、身分低そうなまひろ=女=女御になれるような女に会え、そうでなければ中宮に皇子をお授けくださいと、最低。まさに「産む機械」としてしか見てないもんな、妹を含む女を。嫌にもなる。

 定子も同様に、自分の兄弟ながらオラオラ兄弟は既に恥ずかしい気の重い存在だっただろう。前回の「皇子を産め」の面罵は今思い出しても酷かった。

 5/18の土曜スタジオパークに公任役の町田啓太が出ていたので想像したが、例えば公任は、円融帝の皇子をもうけられなかった姉の皇后詢子に対して(兼家らの呪詛のせい。怖い怖い)、そんなことまで言わなかっただろう。

 ドラマの公任親子は、娘/姉が皇子をもうけられなかった結果、権力から遠ざかった立場だが、優しい彼らは運命を嘆いたとしても皇后を非難したとは思えない。本人の辛さに思い至るからだ。

 そんなことに思いも至らず妹を罵倒する伊周だもの、行く末は知れている。有名な「長徳の変」の始まりとなる矢は、女を取られたと勘違いした泣きべその伊周がビビって「よせ」と言うのに、ニーニー隆家の手によって花山院に向けて放たれた。オラオラ兄弟2人が馬に乗って現場にやってきた時、暴走族特有のクラクションが聞こえたような気がしちゃったよ。

 人に対して矢を射るなんて、どうせ自分たちの方が身分が上だから何しても大丈夫、の上ずった意識が無いとできない芸当だ。

 中の人(竜星涼)に対して、NHKは罪作りだよなあ。朝ドラ「ひよっこ」での彼は誠実そうな警察官をカッコよく演じていたのに、評判を落とした方の「ちむどんどん」ニーニーを思い起こさせ、さらに印象が強まる藤原隆家を大河ドラマで演じさせる。後の例の件での活躍をしっかり描き、挽回させてあげてほしいものだ(スルーしたり、ナレで終わったりしたら気の毒)。

 矢は放たれ、取り返しがつかない。これまで貧乏に描かれてきた主人公まひろ一家の、久しぶりに一息つけるどころか大いに豊かさを享受できそうな幸福はもうそこまで来ている。それに比べ、「私はただ、中宮様のお側にいられればそれで幸せですので」と言っていた、ききょうも悲しむ中宮定子が落ちていく悲劇は目の前だ。

(敬称略)