「ホワイト道長」だから
NHK大河ドラマ「光る君へ」第43回「輝きののちに」が11/10に放送された。あと残り5回。ドキドキするなあ。
ここにきて、私には道長はボーっとした純粋な三郎のままで、まひろ(&直秀)との約束だけを胸に、精一杯真っ直ぐに頑張ってきた、人は良いけどちょっと抜けた人物のように見えてきている。もちろん前回で黒白については片が付き、彼はホワイト決定だ。
だって「お前との約束を忘れれば、俺の命は終わる」だよ・・・この言いぶりには驚いた。そこまで愚直だったのか、と。まひろ一筋、真っすぐじゃん。まひろも、辛かったね頑張ったねとヨシヨシするしかないよ。
柄本佑のシュッとした光るルックスに騙されるところだった、というか、騙された。まあ、最初から切れ味鋭いってタイプじゃなかった。あれ?と何か引っ掛かることがあっても「まあいっか」とスルーして済ませている様子も割とあったもんね。
道長をホワイトに描こうとすると、このように、一途でちょい鈍感で周りも少々見えない抜けた人物にしないと辻褄が合わせられないのだろうな。
さて、公式サイトからあらすじを引用する。
(43)輝きののちに
初回放送日:2024年11月10日
三条天皇(木村達成)の暮らす内裏で度々火事が起こり、道長(柄本佑)は三条の政に対する天の怒りが原因だとして、譲位を迫る。しかし三条は頑として聞き入れず対立が深まる。その後、道長は三条のある異変を感じ取る。その頃、まひろ(吉高由里子)は皇太后・彰子(見上愛)に仕えながら、源氏物語の執筆を続ける中、越後から帰京した父・為時(岸谷五朗)と再会。さらに娘・賢子(南沙良)から恋愛の相談をされて…。((43)輝きののちに - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK)
このサブタイトル「輝きののちに」の「輝き」って何だろう。一般的に、道長の輝きは次回の望月の歌の辺りで極まると思われているんじゃないか?なのに、1つ前の回でもう「輝きの後」なの?
まひろは、「帝にすら、ことさらあしざまに、お耳に入れる人がおりましょう。世の人の噂など、まことにくだらなく、けしからぬものでございます」という孤高に苦しむ道長の耳に入れたい「浮舟」第51帖のくだりを書いていた。となると、宇治での道長との対話から戻って宇治十帖の執筆に邁進中のようだし、まだまだ輝きの「後」じゃない感じ。う~ん、難しい。
あてはまるとすれば、賢子の双寿丸への初恋に別れが見えて、それがこれまでの「輝き」の後なのかな。それはしっくりくるかも。賢子、この失恋を乗り越えるために女房として出仕するかな?
あとは為時パパが、越前守の輝かしいお役目を終えて戻ってきたんだよね・・・惟規も亡くして、それで輝きの後って訳かも。
しかし、三条帝の輝きの陰り・・・これかな、やっぱり。文を上下逆にして見えるふりをしているようじゃ、せっかく25年の東宮生活を終えて位に就いたのに、輝きの絶頂とはとても言えない。
振り回された実資
三条帝は、いつのまにかお役目を果たして道長次女との間に子を儲けていたが、生まれたのは帝と道長の期待外れ(そう書きたくないが)の皇女。帝位には関係なく、道長との葛藤の解消には役立たずだった。これまたかわいい赤ちゃんだったけど。
皇子がもし生まれていたなら、一条帝&彰子の子で東宮の敦成親王が位に上る時に、道長の孫の皇子として次の東宮にすんなりなれるはずで、三条帝の望む冷泉系の存続にも資するはずだった。
三条帝は、目が見えない、耳も聞こえなくなって怪しげな丹薬に手を出していた。これが、例のヒ素だのなんだのを含む、コワイ材料で作られたという長寿薬なのだろう。「麒麟がくる」で駒ちゃんが製造していた薬に見た目は似てたが、チョコ味?
この帝の症状は脳腫瘍なのだろうか。それで聴神経も視神経も腫瘍に圧迫されているとか?それとも、戦い相手の道長も前回は瀕死の病で倒れたぐらいだから(今回はすこぶる元気だったね)、熾烈な争いの末でのストレスも考えられる。
政では、この当時の帝は結構細かい指図までしなければならないようだから、視覚と聴覚に問題がある帝の譲位論について「情に流されるな。政がおできにならねば致し方あるまい」と公任が気の毒がっていた行成に言ったのも仕方ないのだろう。現代なら聴覚と視覚に問題があろうが政ができるようにサポートするだろうから事情は違うだろうが、当時のことだ。
帝ご本人も、無理筋なのは分かっているんだろう。国家のためだと譲位を迫る道長に「そんなに朕を信用できぬなら、そなたが朕の目と耳になれ!」と叫んでいたのが哀れだった。
道長と三条帝との対立が深まる中、養子・資平を蔵人頭にするという極上のエサを目の前にぶら下げられて三条帝に助けを請われた実資が、道長と話に来た。公式サイトの「ちなみに小右記には・・・」(ちなみに日記には… 大河ドラマ「光る君へ」第43回より - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK)にはそんな記載が見つからないので、この道長との対話はフィクションなんだろう。でも、こういうやりとりが面白く書ける脚本家(大石静)のドラマは、見応えがあるのだよね。
リアルな実資は知らないが、ドラマの実資はまじめでも、息子が蔵人頭に!となると心が動かされたらしい。真面目と言ってもその程度。そして、その実資との対話時の道長は、良くも悪くもやっぱり三郎を感じさせた。
実資:(道長の執務部屋に来て、道長の前に立つ。人払いで2人になる)帝にご譲位を迫っておられるそうですな。
道長:ああ(そんなことか、といった感じで)、そうだ。目も耳も病んでおられる帝が、まともな政をおなしになれるとは思えぬ。ご譲位あそばすのが帝としての正しき道と考える。
実資:(座り込んで)その考えも、良く分かります。されど、帝のお心は譲位に向かってはおられませぬ。責め立て申し上げたれば、帝のお心もお体も弱ってしまわれるでありましょう。弱らせることが正しきやり方とは思えませぬ。このまま左大臣殿が己を通せば、皆の心は離れます。
道長:フッ。離れるとは思わぬ。私は間違ってはおらぬゆえ。
実資:幼い東宮を即位させ、政を思うがままになされようとしておることは、誰の目にも明らか。
道長:(文書を机に軽く叩きつけて)左大臣になってかれこれ20年、思いのままの政などしたことは無い。したくともできぬ。全くできぬ。
実資:左大臣殿の思う政とは何でありますか?思うがままの政とは。
道長:(少し考え、実資を真っ直ぐ見て)民が幸せに暮らせる世を作ることだ。
実資:民の幸せとは。(道長、無言)そもそも、左大臣殿に民の顔なぞ見えておられるのか?幸せなどという曖昧なものを追い求めることが我々の仕事ではございませぬ。朝廷の仕事は、何か起きた時、真っ当な判断ができるように構えておくことでございます。
道長:志を持つことで、私は私を支えてきたのだ。
実資:志を追いかける者が力を持つと、志そのものが変わっていく。それが世の習いにございます。
道長:ん?(首をひねって)おい、意味が分からぬ。
実資:(目を泳がせて)帝の御譲位、今少しお待ちくださいませ。(一礼し、去っていく。道長がボンヤリ目で追う)
実資の言う「志を追いかける者が力を持つと、志そのものが変わっていく。それが世の習い」も分かる。現代の政治家にも通用する正論で、いつの世もそうやって人々は青雲の志を抱いて政治家になったはずの人が裏金なんかを受け取ってたと分かり、ガッカリさせられてきたと思うけどね。
しかし、それは道長には響かない。だって、彼はかれこれ20年も(そんなにやってたのか)左大臣をやってきても、少年の頃のまひろとの約束一筋の気分いっぱいなんだもの。
まひろが言うから「民の幸せ」をお題目のように心に留めてきたのであって、その中身を具体的に自分で考えることは無かったのか?そうだとしたら、いかにも三郎っぽいのだけど・・・そんなこと無いと思いたい。
「分からぬ」と道長に言われた実資は、「とにかく待て」と分かりそうな事だけを伝えて去った。実資側は三条帝との約束を守った形だ。カッコいいよな、ここまでは。この後、三条帝に息子を蔵人頭にするとの約束を反故にされ、憤懣やるかたない様子で日記を書いていたのがおかしかった。
今更だけれど、実資にロバート秋山ってなかなか人選が良い。よく思いついたものだ。道長との対話では、うまく演れるのかと多少ドキドキしちゃったけどね。
日記を公式サイトから引用しておこうかな。
ちなみに 『小右記』には… 長和3年(1014)5月16日条
◆◇◆◇◆
還御の後、急に民部大輔(みんぶのたいふ/藤原)兼綱を蔵人頭(くろうどのとう)に補された<(藤原)能信を三位に叙した替わり>。式部卿親王(敦明親王)が、今日、馬場に於いて懇奏したものである。
この蔵人頭(くろうどのとう)については、度々、(三条)天皇がおっしゃって云(い)ったことには、「欠員が有る時は、必ず(藤原)資平を補される」と。人を介しておっしゃられ、また、資平にもおっしゃられた。
ところが汗と同じである綸旨(りんじ)は、掌(てのひら)を返すに異ならないばかりである。後々、(三条)天皇の仰せは頼むことはできない。また、数度、おっしゃられた事が有った。今となっては、思い出すことができない。
綸言汗の如しではなかったねー。三条帝も敦明親王の顔が立たないとまで言われたら、東宮にしたい息子の方を優先するしかないか・・・ある意味、実資ならこれぐらい理解してくれると、自分への実資の忠誠心を過大に見積もった結果なのかな。
行成と道長のじゃれ合い
忠誠心という点では、ドラマの行成の道長へのそれは強固だ。行成のそれは恋愛感情なのかもしれないが。道長もそれを分かってるよね。
行成:お願いがあって参りました。
道長:何事だ。昨夜会ったばかりではないか。
行成:大宰府に参りたく存じます。大宰大弐の席が、2月から空いております。そこに私をお任じ下さい。
道長:私の傍を離れたいという事か。
行成:(道長の方を見てから、視線を落とし)今の帝がご即位になって3年。(道長を見て)私はかつてのように道長様のお役に立てておりませぬ。敦康親王様もお幸せにお暮らしのご様子。ここからはいささか己の財を増やしたく存じます。
道長:・・・そうか。そなたの気持ちは分かった。考えておこう。
行成:よろしくお願い申し上げます。お邪魔いたしました。
道長:うむ。(一礼し、去っていく行成)
いや、己の財を増やしたいだなんて、行成は嘘ついてるよ。そう道長も思っただろうね。ズバリ言った「私の傍を離れたいという事」が正解、行成の葛藤は言動に出ていたから、鈍感道長も分かっていた。
その後の2人のやりとりが・・・じゃれ合いが、もう少女マンガっぽくてね。見てられないよ。きゃーって感じだ。
ナレーション:11月、臨時の除目が行われた。
道長:中納言藤原朝臣隆家を太宰権帥に任ずる。(一同礼)
行成:(ひとり席に残り、去ろうとする道長に)道長様は、私を何だとお思いでございますか?(足を止める道長)私の望みを捨ておいて、隆家殿を太宰権帥になさるとは。
道長:行成は・・・(振り返って)俺のそばにいろ。そういうことだ。
行成:(返す言葉なく、拗ねたような顔で去っていく道長を目で追う)
いやいや、普通に「これは隆家の目の治療に必要な措置なんだ」って説明すればいいだけじゃんね。それを道長はさ、意地悪って言うかさ・・・政の場で何やってる!💦
この捨て置き方ができるのは、行成の自分への感情を十分理解しているからこそ。そこは三条帝と実資の間のぐらぐらな信頼関係とは全然違う。
しかし、子犬のような行成だね。かわいそう。隆家の後に大宰府には行くようだけれど、隆家の双肩には日本の未来が懸かっている。許してね。
倫子様はそういう人
今回、パンドラの箱がとうとう開き、怖い倫子様の一面を見た気がしたが、鬱屈が昇華して何らかの境地に至っている。何かと言われても困るんだけど、やんごとない姫君の中で怒りが醸成されるとこうなる、という1つの形を見せて頂いた。よくぞ気も触れずに、この境地に至ったものだ。素晴らしい、倫子様。
頼通:父上。隆姫にあのようなことを仰せにならないでください。
道長:「あのようなこと」とは何だ。
頼通:子のことです。隆姫も、子が無いことは気にしておりますゆえ。
道長:隆姫を気遣うお前の気持ちは分かる。されど・・・。
倫子様:覚悟をお決めなさい。父上のように、もう一人の妻を持てば隆姫とて楽になるかもしれませんわよ。何もかも一人で背負わなくて良くなるのですもの。できれば、隆姫と対等な尊い姫君が良いのでは?ねっ、殿。
道長:(まじまじと倫子の顔を見ている)うん・・・そう、だな。
頼通:幾度も言わせないでください。私の妻は隆姫だけです。他の者は要りませぬ。(去る)
道長:ますます頑なになってしまったではないか。
倫子様:私は・・・本気で申しております。
道長:そうやもしれぬが・・・。
倫子様:私は、殿に愛されてはいない・・・私ではない、明子様でもない殿が心から愛でておられる女がどこぞにいるのだと疑って苦しいこともありましたけれど、今は、そのようなことはどうでもいいと思っております。(固まっている道長)彰子が皇子を産み、その子が東宮となり帝になるやもしれぬのでございますよ。私の悩みなど吹き飛ぶくらいのことを殿がしてくださった。何もかも、殿のお陰でございます。
道長:そうか・・・(かすれ声)。
倫子様:私とて、色々考えておりますのよ。
道長:・・・うん。
倫子様:ですから、たまには私の方もご覧くださいませ。フフフフフ、フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ・・・。(居心地の悪そうな笑顔の道長)
こんなに空恐ろしい笑いったらない。さすがの黒木華だ。道長は全然太刀打ちできないで固まっているようだった。この柄本佑もさすが。道長は、全部バレてる!と内心では冷や汗タラタラだったかなー。嫡妻倫子様に経済を握られている婿入りの立場だもんね。
しかし、名探偵倫子様といえど、まひろの名前まではまだ掴んでいない模様。そのXデーが怖いよね。倫子様はまひろに、どう迫っていくのだろう。
でも、もういいのか。倫子様は思いの外「ランキングさん」で、自分の地位が高められていくことに喜びを感じる人だった。孫が東宮となり、帝となりそう・・・つまり、自分が帝の外祖母になるその時が近づいている今、「全部吹き飛ぶ」って言ってるんだから。それで人生の満足を噛みしめられる。
また、「全部背負わなくていい」と同様、全部自分じゃなきゃ嫌だと独り占めの我を張らずに、他人と喜びを分かち合える人ってことなんだろう。
倫子様がそういう意識の人じゃないと、主人公のまひろが道長の正妻相手に泥沼の争いに巻き込まれることになっちゃうもんね。ドラマがきれいに着地するためには、倫子様の性格設定がこうじゃないと・・・ということなのかもしれないけれど、無理し過ぎてない?倫子様。今からXデーが心配だ。
まひろの偏つぎ遊び、まさかの匂わせ?
今回は、失恋した賢子にいたずらっぽく両腕を広げていたのが印象に残ったくらいで、主人公まひろの影が薄いな・・・と思ったら。彰子サロンに女房として勤めるまひろ(藤式部)が、東宮の敦成親王に偏つぎ遊びのお題を出していたのだけれど、誰がこれ考えたの?いたずらが過ぎません?
まず、まひろが「交」とお題を出し+親王が「木へん」を選び→「校」との答え。その次からは道長もいる目の前で「會(会)」とのお題+「糸へん」→「絵」の答え、そして「寺」のお題+「日へん」→「時」の答えと進んだ。
親王様のお答えを校、絵、時と並べても何のつながりも浮かばないが、その前のまひろのお題だけを並べてみると・・・交、会、寺だ。あらま、まひろってば道長にだけ分かるメッセージ!道長が座に就いてからのお題は後ろの2つだもんねえ、「會」「寺」だなんて、石山寺での逢瀬を匂わせているとしか思えない。高度だな・・・ぼんやり道長に通じるか?
ドラマでは、長和三年(1014年)と言っていたから、まひろの970年生まれ説を採用だとすると、彼女は40代も半ばに差し掛かろうという頃だ。真面目そうな顔をして、そういうお遊びもしたくなるのかな。
まひろは、こう彰子に打ち明けた。
まひろ(藤式部):私はかつて・・・男だったら政に携わりたいと思っておりました。されど、今はそう思いませぬ。人の上に立つ者は、限りなく辛く寂しいと思いますので。
これは、前回の道長の姿を目の当たりにして感じたことなんだろうね。心境の変化。一途に取り組めば取り組むほど、つらく寂しくなる。人の世の常に反するから理解されないからね、実資のように公平に物事を見ようとしている人にさえ。
このドラマではそういう方向性で描いてきた道長の心境が、次回の「望月の夜」ではどう表現されるのだろうか。楽しみだ。道長が見ていたのとちょうど同じような月が、昨日の11/16の夜は現代の私たちでも見られるとニュースで見た。満月ではなく、実は少し欠けていたんだね。そんな夜の翌日にわざわざぶつけてきたか・・・NHKも力が入っている回になりそうだ。
(ほぼ敬称略)