黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

危険運転致死傷罪適用--検察はあきらめないで

 実は飲酒も嫌いではなく、自分に甘いことでは人後に落ちないと家族に指摘されそうな私だが、飲酒運転だけはするまい、そしてまわりの人間にもさせまいと心に決めている。
 
 飲酒運転については、お酒を飲まない側の幼い子供たちが何人も犠牲になるなど、悲しい事件がぱっと思い出せるだけでもいくつも発生した。書き始めるときりがないほどだ。そのご遺族たちの悲痛な努力に共鳴した多くの人たちの力によって法改正が実現し、過失ではなく故意犯としての危険運転致死傷罪の新設(2001年)、そして過失犯の場合でも、従来の業務上過失致死傷から切り離しての自動車運転過失致死傷罪の新設(2007年)と、刑法上厳罰化の道をたどっている(厳罰化と言うのも、従来が諸外国の例を見ても軽すぎたようなのだから適正化と言うべきだが)。
 
 2007年の道交法改正では、運転手本人に限らず、運転すると知りながら酒を提供した側、飲酒していると知りながら車を提供した側、そして飲酒運転の同乗者にも罰則が設けられた。だから、ぜひ本人だけでなく周囲も誰かが飲酒運転をしようとしたら止めてもらいたいものだが、残念ながら年末年始になると飲酒運転がらみの悲劇を毎年のように耳にする。
 
今年の元旦、埼玉県東松山市で初詣に出かけた親子3人が歩道にいたところ、飲酒運転の車が突っ込み、父と息子が亡くなり、母が軽傷を負ったという報道が新年早々にあった。新しい年に臨み、家族仲良く心新たに神仏の加護を祈りに行ったはず・・・と思うと、心が痛む。
 
東松山といえば、20082月に熊谷市で起きた9人死傷事故の被害者のご家族が現在お住まいの場所であり、このご家族は飲酒運転撲滅のために様々な活動をしてきていただけに、地元でのこの悲劇には悔しさを感じたそうだ。現場に足を運んで祈りを捧げ、現場写真もご自身のブログに掲載していた。
 
この件に関して情報を集めていたこのご家族によると、あくまで「過失犯」としての自動車運転過失致死傷容疑と道交法違反(酒酔い運転)での立件に止まりそうだとの見方が強かったそうだが、その後の捜査によって「運転する前から酒に酔っており正常に運転できない状態だった」との判断がなされ、さいたま地検20日、「故意犯」としての危険運転致死傷容疑に罪名を切りかえて廃品回収業者を起訴した。
 
埼玉県警とさいたま地検は、このご家族の巻き込まれた熊谷9人死傷事故でも運転手を危険運転致死傷罪で立件し、16年の実刑を勝ち取って確定させているだけでなく、同乗者についても危険運転致死傷罪の幇助犯として立件し、全国初の裁判員裁判の結果、実刑2年を勝ち取った実績があるのだから(高裁でも判決は維持され、現在被告人は上告中)、ここで危険運転の適用をあきらめるはずがない・・・と密かに期待していた。ひとまず危険運転として裁判の入口には立てたということなので、今後は法廷での審理の行方を見守りたい。
 
 もう1件、年末には痛ましい事故があった。兵庫県加西市で、皆既月食の観測に出かけ帰宅しようとしていた小学生の兄弟が、ちょっと母親が車のキーを取りに戻ったすきに飲酒運転の軽トラックにはねられてしまい、死亡したというものだ。兵庫県警は自動車運転過失致死傷容疑で運転手を現行犯逮捕したが、危険運転致死容疑で追送検するところまで持っていった。
 
 それなのに、神戸地検危険運転ではなく、自動車運転過失致死と道交法違反(酒気帯び)にとどめて起訴したとの報道があり、私は大いにがっかりした。
 
 兵庫県警は10日ほど前には、運転手の建築業者に酒類を提供した飲食店経営者とスナック経営者を道交法違反(酒類提供)の疑いで書類送検もしている。危険運転致死傷罪については、構成要件にある「正常の運転が困難な状態」の立証が簡単なことではないのだとは聞くが、このように警察はやる気があって立件してきているものを、裁判所の判断を仰ぐ前に検察がひとりあきらめてしまっては、何のための法改正だったのだろうと思う。
 
 現在は裁判員制度も導入されている。危険運転致死罪は裁判員裁判の対象になる。元々は遺族という市民の要望でできた法律だからこそ、検察が自己規制などせず、裁判で市民の考えを反映させた判例を積み上げて、法律として成熟させていくべきなのではないかと思う。
 
 この運転手の呼気からは、基準値を大幅に超えるアルコールが検出されたという。当然のことかと思うが、この兄弟のご両親は「過失で息子たちが殺されたとは思えない」と考え、神戸地検に対し危険運転致死罪に訴因変更するよう求めるため、署名活動を21日から始めたそうだ。多くの方が署名に賛同くださることを祈るばかりだ。
 
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 署名活動と言えば、昨年4月に栃木県鹿沼市の登校中の児童6人がクレーン車にはねられ死亡した件のご遺族も、署名活動を始めている(http://kirinsan.blog.ocn.ne.jp カテゴリー【全国署名のお願い】【署名用紙】内)。12月の宇都宮地裁判決では、被告人のクレーン運転手に自動車運転過失致死罪の最高刑である懲役7年が言い渡されている。
 
 だが、本来、持病のてんかんを隠して免許を取得し、医師の指示にも従わずに運転を続けた挙句、前夜に薬も飲まずに事件直前に発作の予兆を感じていたという被告人は、「過失」である自動車運転過失致死罪ではなく、「故意犯」である危険運転致死罪で裁かれるべきなのではなかったのか・・・との疑問は、私も感じたし、法曹関係者を含めて多くの人たちが歯噛みしたところだったと聞いた。
 
 しかし、残念ながら危険運転致死傷罪の4つの構成要件の中には、飲酒や薬物の影響下にある場合は含まれているが、飲むべき薬物を飲まずに・・・とは書かれていない。だから、その点を法改正してほしいと幼いわが子を失ったご遺族が考えるのも当然のことだろう。
 
 ここで、思い出したのだが、この構成要件の中に無免許運転が含まれていたら、どうだったろう。
 
 このクレーン車の運転手は、持病を隠して免許を取得し、それ以降、12件の事故を起こし、このうち少なくとも3件はてんかんの発作が原因だと認識していたそうで、「本来許されない運転行為」だと判決で認定されている。つまり、ありのままの病状を申告していたとしたら、運転の適性がないとして免許は与えられなかった・・・つまり無免許と同等だったのではないか。
 
 そうすると、もし、構成要件の中に無免許運転が含まれていたとしたら、危険運転致死罪を適用する道も開けたかもしれない。
 
確か、この危険運転致死傷罪が新設される2001年の刑法改正時に、署名活動を展開した遺族たちの要望の中には、無免許運転が含まれていた。確認したところ、参議院法務委員会の参考人として、東名事故で2児を失った遺族が「無免許自体が危険運転に直結しないとはそうかもしれないが、心の問題。車のハンドルをその時点で握ってはいけない」と指摘し、「今後もぜひ、無免許運転、無免許で危険運転を犯し、人を死傷させてしまった人にもこの罪が適用できるようにご検討いただけたら」と述べていた。
 
 悲しいことに・・・先見の明があったのは立法府ではなく、遺族の方だったということか。