今のところNHKのBSプレミアムで放送している「テンペスト」は、大河ドラマの「江」へのがっかり分を埋めるぐらい、とても気に入って見ている。私の日曜夜のお楽しみは「テンペスト」でもっているというぐらい。でも・・・「被害者の周辺」という書庫を持つ人間として、やっぱり書いておかないとなあ、という点がある。
仲間由紀恵演じるところの孫寧温は国相になったガクトに凌辱されていたが(されたんですよね?)、直後に「身体なんかに負けない」と力強く言い放ち、気丈にも湖畔で待つ浅倉殿に会いに行って自分を保って話をしていた。以前、取り乱して海に身を投げた人間と同一人物であるのがウソのように、自らを立派に律して・・・。
また、今回は朝薫からの訴追を受けて八重山に流された訳だが、そこで経験した生死にかかわるような辛い日々があったにもかかわらず、レイプ被害、そして殺人を犯したという、通常ならば耐えがたい過去に精神を苛まれることなく、精神的には平穏な毎日を送れていたような雰囲気があった。「真鶴」に順調に育て直ししてもらったというか。
それとも、毎夜うなされているとか、半年吐き続けるとか、吐き続けて歯が胃酸でボロボロになるとか、自分で止めようとしても体が震えて仕方ないとか、コントロールできないままに被害状況をまるで体験している当時のように頭の中で再体験させられるフラッシュバックの嵐に振り回され続けるとか、被害状況の記憶をすっぽり失ってしまうとか、その記憶が戻った時にまた苦しみの渦に投げ込まれてしまうとか、そんな場面があっただろうか?私が気がついていなかっただけか?かたせ梨乃が母のような愛で、その苦しみまで乗り越えさせたというようなシーンがあったか?
レイプの後、全員が全員PTSDになるものではないとは私も思うが、被害者の方々の声を思い出すと、あんまりにも孫寧温・真鶴がスーパーマン・スーパーウーマンに思えてしまう。「身体なんかに負けない」という、その一言でそんなにもあっさりと忌まわしい経験を切り捨てられるものなら、レイプ被害者も苦労はないだろう。どんなに自分を奮い立たせて頑張っても、どうしようもない精神状態に持っていかれてしまう人達の立つ瀬がないではないか。今後、「生きていく意味」さえも見失ってしまうほどの精神的衝撃を受けるのだと聞いているのだが。
問題は、レイプがこれまで加害者目線のエロく描く路線ばかりで文学でもドラマでも扱われてきてしまったため、レイプ被害がどんなに悲惨なものかが伝わっておらず、一般に軽く考えられてしまっていることだと思う。悩み続けて被害者が自死を選んでも、レイプ被害から時間がたっていて被害との因果関係を示すような統計もないというし。
結局、原作での寧温の凌辱経験も、男性作家による文学の中でのエロい味付けのひとつでしかなかったんだろう。もちろん、悩ましい問題だ。しかし、一般の無理解をこれ以上広めないためにも、せめてNHKのドラマの中では、被害者がレイプ後に経験する悲惨さを補完して端折らず描いてもらいたかった。
・・・無理な話だろうが。