黒猫の額:ペットロス日記

狭い場所から見える景色をダラダラと。大河ドラマが好き。

【べらぼう】#38 薄幸の若夫婦😢愛妻きよを亡くし狂気の歌麿。定信の出版統制でピンチの蔦重、地本問屋仲間や鬼平を巻き込み「そうきたか」

もっと幸せを味わってもらいたかった

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第38回「地本問屋仲間事之始(じほんどんやなかまことのはじまり)」が10/5に放送され、やっと幸せを見つけたかと思った歌麿の妻きよが、梅毒に命を奪われた。前回ブログで先走って触れた通り、歌麿の妻きよの死は史実だから仕方ないか・・・でも、これまで幸薄かった二人だから、もっと長く、幸せに浸って見つめ合う時間を与えてほしかったな。

 公式サイトから、あらすじを引用する。

≪あらすじ≫
第38回「地本問屋仲間事之始(じほんどんやなかまことのはじまり)」

 蔦重(横浜流星)は、歌麿(染谷将太)のもとを訪ねると、体調を崩し、寝込むきよ(藤間爽子)の姿があった…。そんな中、蔦重は鶴屋(風間俊介)のはからいで、口論の末、けんか別れした政演(京伝/古川雄大)と再び会うが…。一方、定信(井上祐貴)は平蔵(中村隼人)を呼び、昇進をちらつかせ、人足寄場を作るよう命じる。さらに定信は、改革の手を緩めず、学問や思想に厳しい目を向け、出版統制を行う。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第38回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 蔦重が歌麿の弟子菊麿に呼ばれて歌麿の庵を訪ねた時、病臥するきよが、蔦重の姿を認めて錯乱した様子を見せたのが、ドラマを見ながらなぜ?と気になった。妄想で、何かと勘違いでも?と考えていたら、母つよがヒントを言ってくれたようだ。

蔦重:何で、絵描いてやりゃ落ち着くんだ?

つよ:自分のことだけを見ててくれれば嬉しいんじゃないのかい?惚れた男がさ。

 歌麿に、自分だけをずっと見ていてほしかった、きよ。だけど蔦重は歌麿の心にずっと居る(居た?)人だから、きよはそれを感じ取っていたか。だから蔦重を前に、心が騒いじゃったんだろうね。歌麿ときよ、身寄りを失っていた二人が人生で本当に初めて、深く思い合える相手を見つけていたんだ。その相手を・・・残酷なことだ。

 きれいな満月がアップになった時、またも「麒麟がくる」の信長様のワンシーンが始まるのか、或いは「光る君へ」かと一瞬思ってしまったが、そうじゃなくてね。初めて会話をする(できないはずなんだけど)きよが月の光に照らされて、縁側にいた。超常現象が満月の夜には似合うな。

歌麿:(布団に横たわるきよの体を拭きながら)俺のおっかさんはいっつも男の方ばっか見ててさ。けど、酔いつぶれて世話してる時だけは、こっち見てくれっから・・・世話すんのは嫌いじゃなくてさ。

きよの幻:こっち向いてもらえると嬉しいから?

歌麿:そうそう。ガキってのは、どんな親でも親が好・・・(我に返って声の方向を見る)

きよの幻:(縁側に腰かけ、団扇を手にしている)私もそんな子だった。歌さん。(月明かりの中で微笑む)

歌麿:(縁側をじっと見つめ、振り返ると、布団の中に実際のきよがいる。抱きしめる)行かねえで、おきよさん・・・お願えだから。(きよの頬に触れる)俺には、おきよさんしかいねえの・・・(どんよりした眼差しを彷徨わせるおきよに、頬を寄せる)置いてかねえで。ずっと見てっから・・・。(涙、きよを抱きしめる)

 きよは、この世に別れを告げた後で歌麿の前に姿を現したのかと思ったら、そうじゃなかった。歌麿が慌てて「いかねえで、ずっと見てっから」と寝ているきよに抱きついたら、きよは未だ今わの際にいたようだった。

 あれはどういう意味?普通なら、亡くなってからの幽霊登場と相場が決まっている。順番が違うと思うのだけれど。歌麿が「三つ目」だから、妖の世界に足を踏み入れようとするきよの姿を捉えることができたのか?

 弟子に呼ばれ、2度目に蔦重が庵を訪ねた時には、きよは哀れにも事切れてしばらく経過した様子で、ハエも周囲を飛んでいた。腐って崩れたか、ところどころ包帯も巻かれ、弟子たちの挙動から、かなり臭いもした様子。布団の下の畳も、人型に黒く染みがあった。亡くなって長いか、あるいは、生前から長くそこで闘病して布団を敷きっぱなしだったこともあるのかもしれない。

 歌麿・・・死んだきよに包帯を巻き、まだ「お世話」を続けていたのだろう。

 その死を信じず「まだ生きてっから」と言い張り、彼女の死に顔を描き続けて髭も月代もボーボーになった歌麿。「こうやったら一緒に逝けるって、おきよが」と梅毒死したおきよの手の甲に口づけしようとする狂気の彼から、強引にきよの亡骸を奪って(供養しないと成仏できないから💦)、蔦重は言った。

蔦重:お前は鬼の子なんだ!生き残って、命、描くんだ。それが俺たちの天命なんだよ。

 鬼の子・・・この鬼母から幼い歌麿が言われ続けたキーワードを言って、蔦重は泣いて暴れる歌麿から叩かれ続けた。自身の半身をもぎ取られたように深く傷ついた歌麿を、今後どうやって支えるのだろう。

 そうだった、栃木だよね。歌麿には栃木での肉筆画の仕事が控えていたんだった。東京から伊豆に移住してちょうど1年の私は、何よりも圧倒的な自然の美しさを日々感じている(昨日も近所の道を鹿がのそのそ横切っていった)。・・・歌麿ね、栃木の自然の中でいっぱい泣いて、きれいな物をたくさん見て、美味しいものを食べて、癒されてきてよ。環境を変えるのが一番。ただ、U字工事があんまりはしゃぎすぎて煩くしませんように。

まだまだ対立中だった政演と蔦重

 「蔦重さんとこでは、一切書かねえっす!」と政演に宣言されたものだから、蔦重が「いい度胸だな。日本橋を敵に回して書いていけると思うなよ」とドスを効かせてマジ顔で脅していた。

 あらあら・・・表では如才なく日本橋の良いところの本屋の旦那さんのような顔をしているが、余裕が無いと、やっぱり吉原の親父様・駿河屋市右衛門譲りのやり方に似た、素が出てきちゃうんだなあ。

 鶴屋喜右衛門には「何を勝手なことを言ってくれたんですか」と窘められていたが、それも「もう言っちゃった」とばかりにどこ吹く風、蔦重には反省が感じられない。

 前回からの続きで、政演と蔦重はまだ揉めている。「戯け者は、褌(松平定信)に抗ってかねえと一つも戯けられない世になっちまう」と焦っている蔦重をよそ目に、越中ふんどしの守の言う事を面白く担いでいる黄表紙「心学早染草」を、上方の本屋に頼まれて、こっそり書いてしまった政演(上方の本屋を演じるは元和牛の片割れ)。

 「面白くなきゃ、どのみち黄表紙は先細りになっちまうよ!それこそ、春町先生に嵐みてえな屁ひられるってもんじゃねえですかね!」と、政演が言う理屈はごもっともだけに、政演だって譲れない。それで、決裂。

 この二人を和解させようと間に入ったのは、鶴屋喜右衛門だった。

 政演が鶴屋に来たところに、蔦重も予め控えているという塩梅だ。「ちょいと、聞いてないですよ!」と、蔦重を見ていきなり逃げ腰の政演。年季の明けた菊園と所帯を持つことになった政演に、鶴屋さんと蔦重からの祝いの品が用意されていたが、顔は分かりやすく強張ったままだ。

 所帯を持つと色々と入り用だろうと、これからは、鶴屋と蔦重から作料とは別に年30両を決まって支払うことにしたと告げられて驚いた政演だったが、「私たちの仕事をいの一番にやっていただくことになる」と鶴屋に言われた時には、「それ、鶴屋さんだけでって話にはできねえですかね?」と抵抗した。あはは💦ヤダよねー。

蔦重:こないだのことなら悪かったよ。

鶴屋:怒らないで!

蔦重:謝ってるだけじゃねえですか!!

鶴屋:京伝先生も、そこまで嫌がること無いんじゃないですか?

政演(京伝):俺・・・モテてえから絵やら戯作やら始めたんですよ。ありがてえことに向いてて、向いてることすんのは楽しくて、面白え人たちに囲まれて、ヘヘッ、なによりモテて、へへへ!どこ行ってもモテて。あ~ほんと楽しかった。(蔦重の白い目に気づく)蔦重さんの言うこともわかんですよ。春町先生のことだって大好きだったし!けど、正直なとこ、世に抗うとか柄じゃねえってえか・・・。俺ゃ、ずっとフラフラ生きていてえんですよ。浮雲みてえに。へへへへ!

蔦重:あのよ。遊ぶな、働け、戯けるなって中で、どうやったら浮雲みてえに生きてくっつうんだよ?

政演:俺一人、雲一個くれえ何とかなんじゃねえですかねえ?

蔦重:てめえだけ良きゃ、それでいいのかよ!

鶴屋:蔦屋さん!

蔦重:(立ち上がる)てめえがその生き方できたのは、先にその道を生きてきた奴がいるから。周りが許してくれたからだろうが!な、今こそてめえが踏ん張る番じゃねえのかよ!

政演:しくじったのは、蔦重さんじゃねえですか!これ以上、俺にのっけねえでくだせえよ!(沈痛な顔の蔦重)

鶴屋:(パン!と畳を叩いて)はい、今日はここまで。

 この直後、店の手代らが「奉行所から呼び出しが!」と部屋に駆け込み、政演との話どころではなくなったが・・・いくら蔦重に「踏ん張れ」と言われても、蔦重の路線で踏ん張って書いてしまったら、誰だって飛んで火にいる夏の虫になるだけ。大田南畝が筆を折り、朋誠堂喜三二が国に戻され、そして恋川春町が腹を切った意味を、蔦重は頭を冷やしてよーく考えた方が良いよね。

 己の考えに囚われ、まだ田沼時代から頭の切り替えができていない。もう、話せばわかるお上じゃないよー。作家や絵師が気の毒だ。

さらなる出版統制がやってきた

 さすがに、蔦重も思い知らされる事態になった。奉行所からの呼び出しは、新たな出版統制に関するものだった。「黄表紙、浮世絵なぞ、そもそも贅沢品。良からぬ考えを刷り込み、風紀を乱す元凶である」と断言する定信は、自分の中の黄表紙好きを完全に葬ったか?推しの春町を死なせて布団部屋で泣いて以来、覚悟は定まっているか。

 ここで九郎助稲荷の解説。

九郎助稲荷:越中守様の出したお触れは、後の世で「出版統制」とも呼ばれ、戯作や浮世絵に初めて規制がかかるという、江戸の地本にとって大きな危機となりました。

北尾政演(山東京伝):(お触れを読みながら)今後、一切新しい本を仕立ててはならぬ?

九郎助稲荷:そして、その文面から、蔦重が出した黄表紙が取り締まりのきっかけとなったのは明らかでした。

 え、江戸の地本にとって?江戸だけなの?・・・とりあえず、寛政二年(1790年)5月に発令された松平定信の出版統制令について、ドラマぴったりの解説があったので、リンクのURLを。この他にもあったが、本当に便利な世の中になったよね、こうやってどんどんプロや同好の士が必要な知識をアップして披露してくださる。

serai.jp

 お触れのきっかけになったのは耕書堂の黄表紙。絶版を食らった「文武二道万石通」「鸚鵡返文武二道」「天下一面鏡梅鉢」の3作がそうなんだろう。蔦重と鶴屋が出版関係者(本屋、板木屋、摺師、戯作者、絵師、狂歌師)を集めて打開策を練りたい様子だけど、まずは蔦重が謝らない事には話は始まらない。

 自分が政演に押し付けようとした路線が危ういことに、ようやく蔦重も気づいたか?ところで、会合には懐かしい鱗形屋に西村屋も。今までどこにいたの?中の人たち、よその仕事が忙しかったのか?

蔦重:(手をついて、深々と一同に)申し訳ございません!こたびの触れは、間違いなく私のしくじりがきっかけ。まことに、申し訳ございませんでした!

本屋松村屋弥兵衛:どうすんだよ、これ!新しい本や絵は作っちゃならねえって!

彫師四五六:これから、摺り直しだけしか作らねえって事かい?これからどうやって食ってけって言うんだい!

蔦重:申し訳ございません!

本屋西村屋与八:謝られたって困んだよ。一体、どう落とし前つけてくれるってんだい?べらぼうが、ったく。(他からも口々に苦情の声)

蔦重:申し訳ございません。

本屋鶴屋喜右衛門:(パンと手を叩いて)お静かに。何か、手は考えてるんですか?蔦屋さん。

蔦重:へえ。ここはひとつ、お上に触れを変えさせようと考えております。

一同:はあ?

本屋村田屋治郎兵衛:触れを変えさえる?

蔦重:へえ。

本屋鱗形屋孫兵衛:お上に、やっぱり新しく作っても良いぜって言わせるって事か?

蔦重:そうです。

西村屋:できるわけねえだろ!べらぼうが!

松村屋:そりゃ、いくらなんでも無理だろ!

本屋奥村屋源六:あ~無理無理!

戯作者芝全交:そんなことができるんですかねえ。

絵師北尾政美:それはさすがに・・・(腕組み)

鶴屋:(パンパンと手を叩いて)お静かに。

蔦重:皆様、いま一度触れを見ていただけますか?

一同:ええ?はあ・・・。

蔦重:新規の仕立ては無用、けどどうしても作りたい場合は指図を受けろってのがあんでしょ?だったら、江戸中の地本問屋が指図を受けに行きゃどうかと。山のように草稿を抱えて。んなのたまんねえでしょう。音え上げて、指図は受けずともいいってなんねえかって。

鱗形屋:でもそれじゃ、指図もくそもなく一切出すなって事にはなんねえのかい?

一同:そうだよ、そうなるよ!

蔦重:まあ、上手く話を持っていかなきゃなんねえですが・・・。

西村屋ら:その前に、持ってくもんってなあどうすんだよ?山のような草稿なんて、どこにあるってんだ!そうだ!

蔦重:そこは、皆様で急ぎ作っていただく・・・とか。

一同:はあ?

西村屋:ふざけてんじゃないよ、べらぼうが!(政演が話を聞いている)

蔦重:もちろん、私も作ります。

狂歌師&戯作者・宿屋飯盛:山のような草稿って一体いつまでに必要なんで?

蔦重:できれば一月で。

松村屋:一月?一月でできるわけねえだろ、べらぼうが!

奥村屋ら:そんな早く書ける奴いる訳ねえだろ!そうだ!(筆の早い政演が考えている様子)

蔦重:そこを何とか、皆様の力をお貸しくだせえ!お願いします!(頭を下げる)

多くの面々:帰るぞ!帰ろう、帰ろう!

絵師勝川春章:(同じ絵師北尾重政に)んじゃ、助太刀に行きますか。潰れちまうからねえ、勝川一門も、北尾一派も。

宿屋飯盛:お弟子さん、山ほどいらっしゃいますもんね。

北尾政美:お世話になってます!(頭を下げる)

北尾重政:そうそう、弟子が世に出られなくなっちまうからね。(立ち上がる。数人後に続く)

蔦重:お力をお貸しくだせえ!お願いします!

勝川春章:おう、ちょいと失礼するよ。

北尾重政:よっ。俺たち、役に立てっかな?

蔦重:もちろん。ありがた山にございます!(頭を下げる。政演、鱗形屋も思案中)

重政:それにしても、べらぼうな案だねえ。

宿屋飯盛:でも、草稿持ってって奉行所を困らせるなんて面白そうですよね。

春章:あいつらを困らせるにはやっぱり数か?

重政:それとも、絶妙な具合で同心たちをうがってみるとか?

芝全交:分からないようにっていうのは、腕が鳴りますねえ。縛りがある方が面白いもの書けますし。

政美:絵を付ける甲斐もあるってもんですね!(政演、西村屋なども思案中)

 後半の口々のセリフは、一体誰が言ったものやら、テキトーになってしまった。なぜかと言えば、セリフの間、思案中の政演などの顔が映っているバックにセリフだけが聞こえてくる趣向だったから。間違いはいつものことながら、ご容赦を。

 思案中の政演の脳裏に甦ったのは、蔦重の例の言葉。「てめえがその生き方できたのは、先にその道で生きてきた奴がいるから。今こそてめえが踏ん張る番じゃねえのかよ!」そして、自分の言葉「しくじったのは蔦重さんじゃないですか!」だったのだが・・・政演から、蔦重に声をかけた。

政演:蔦重さん!(周りをキョロキョロ見て立ち上がって、笑顔で)俺、戻って草稿書いてきますね。

蔦重:(向き直って)いっそ、そのまま出せるもん頼むぜ。京伝先生。

政演:(ウンウン肯いてから)はい!

鶴屋:(一同を見て)まあ、京伝先生もやるって仰ってくれている訳ですし。

鱗形屋:(顔を上げて)よし、蔦重。また面白え案思、考えようぜ。

蔦重:へえ!

 蔦重の提案に乗って皆が何とか草稿を搔き集め、指図を求めて奉行所に出すことになるという、胸アツ展開。草稿が集まり山となった奉行所からは「やってられるか!」という期待通りの反応が返ってきたが、それを定信はまたスカして「浅知恵」なんて呼んでいた。

頼りはカモ平(鬼平)!

 その定信を攻略すべく蔦重が担ぎ出したのが、カモ平(鬼平)長谷川平蔵。単純で良い奴だよね、それは皆が認めるところだ。でも、吉原の救世主になれるのか?事は遊里に相当厳しいらしい、理由を付けてポーンと計150両もの金を平蔵に出すのだから。

 「断っておくが、賂代わりのもてなしなら、受け取ることはできぬぞ」と言いながらも吉原で蔦重に接待される平蔵の前に、これまた懐かしい面々が。えー、初回に姐さんのお弁当を食べちゃった人だよね?それが河岸見世二文字屋の女将はまになってたか。先代きくが、ご存知のかたせ梨乃。

 きくは、平蔵に50両を差し出して「どうぞお納めくださいまし」と、はまと共に頭を下げた。

長谷川平蔵:何の金だ?賂なら、受け取れぬぞ!

蔦重:賂ではなく、ご返金にございます。

平蔵:返金?

蔦重:へえ。

きく:長谷川様が騙されてくださったおかげで、河岸は食いつなぐことができました。

はま:私も、今日この日を迎えられております。

平蔵:俺が、いつ騙されたのだ?

蔦重:花の井のために入銀した50両。ありゃそのまま河岸に流して、米買いました。

平蔵:え?え?だから花の井の花の絵は無かったのか!

蔦重:ええ。まあ、情に厚い花魁でしたから、河岸を捨てておけなかったんでしょう。どうか、お許しを。

平蔵:そうだったのか(鬢のシケをいじって喜んでいる)。花の井、さすが俺の金蔵を空にした女だぜ。

蔦重:で、こちら。(袂から金50両を出す)利息にございます。人足寄場は、年たったの500両。足りない掛かりは長谷川様の工面。金繰りが大変だとお聞きしました。

平蔵:利息はこれしきか。

駿河屋市右衛門:(咳払いし、立ち上がる)

平蔵:冗談だ、冗談。

駿河屋:(さらに50両を出し、頭を下げる)長谷川様。どうか、もう一度吉原を救ってくださいませんでしょうか?(平蔵の手を取り、金を握らせる)今、倹約と悪所潰しで河岸は大変なことになってます。加えて、黄表紙、錦絵、細見もだめになるって話もあります。そうなりゃ吉原はもう・・・!

平蔵:いや、賂は受け取れんのだ!

蔦重:人足寄場は悪党とならざるを得なかった者たちを救う役目もあると聞いております。どうか、身を売るより他ならぬ女郎たちも、お救い下さいまし。(深々と頭を下げる)

平蔵:・・・分かった!分かった!何をすればよいのだ?

蔦重:へえ。越中守様から、ある言葉を引き出していただきたいのでございます。

 倹約と悪所潰し、細見もダメ、錦絵も黄表紙もダメと・・・本当に娯楽が撲滅されちゃう清い世。定信政権の下、娯楽産業で生きる人たちはお先真っ暗だ。男はなるほど人足寄場で対応すれば良いかもしれないが、定信は女側のことはどうやって手当てしようとか考えてる?全然考えてなかった?

乗せられる直情定信

 人足寄場については、ドラマではこういうことだった。倹約による不景気から町の治安が乱れ、政演が黄表紙に書いた「悪玉」を提灯に書き、街で暴れ回る若者が多くいた。それを「かようなことは、端から見越していた」「これは、不景気により田沼病に冒された者たちがあぶり出されてきたということ」と、さも予想していたように言う定信。相変わらず負けず嫌いだねー。

 定信は、「そ奴らを放り込み、療治する寄場を作ることとしたい」「寄場で真人間に鍛え直し、元百姓なら田畑に帰し、町人なら、鉱山など人の足りぬところで働かせる」つもり。今の東京都中央区にあった江戸石川島に設けられ、日本の刑務所の走りとも言われた「人足寄場」だが、それを、火付盗賊改方の長谷川平蔵が担当するよう命じられたのだった。(加役方人足寄場 - Wikipedia

 お役目には公金からは500両しか出ず、あとは命じられた平蔵の持ち出しらしい。こんな仕事はみんな断るよね、大変だ。でも、平蔵は「市中の事情に通じ、ならず者たちの扱いにも長けている」と定信に持ち上げられた上に、父の悲願だったという町奉行というニンジンを「考えぬでもない」と、ちらつかせられて引き受けたのだ。

 平蔵は、手元不如意まではいかずとも、懐は相当厳しいはず。そこに吉原が目を付けた・・・というか、何とか理由を付けて、若きカモ平だった頃の平蔵から吉原が巻き上げた分を全額お返しする勢いで、縋りついている。

 確かに、この上ない頼みの綱になりそうだもんね。田沼時代だったら意次に直接町方の声を届けることもできただろうが、松平定信にはそうはいかない。そこでワンクッション、平蔵を使うのだね。

 それで、吉原の決死の頼み・150両の重みを背負って、平蔵がどう定信に働きかけたか。蔦重相手に、相当練習したんだろうなー😅

定信:寄場はうまく進んでおるようだな。

平蔵:はっ。ところで、お耳には入っておりまするか?奉行所の件の方は。

定信:市中の本屋どもが、やたらと奉行所の指図を仰ぎに来ておる件か。

平蔵:さすが、お耳が早い。

定信:大方こちらに音を上げさせ触れを緩めさせようという、本屋どもの浅知恵であろう。

平蔵:なるほど、ご慧眼にございますな。いかがなさるおつもりにございますか?

定信:指図を受けられる数を限ろうと思うておる。ひと店につき、年1点までと。

平蔵:さすがのお考えにございます。本など、上方に任せればよいと某も考えます。

定信:上方、どういうことだ?

平蔵:実は今、上方の本屋が江戸に店を出してきておるようで。江戸で新しき本が出せぬとなれば、上方が待ってましたとばかり、黄表紙も錦絵も作るようになる。黄表紙と錦絵は江戸の誇り、渡してなるものか!・・・と躍起になっておるようです。まあ、くだらぬ町方の、意地の張り合いにございますよ。

定信:くだらなくなどなかろう!江戸が、上方に劣るなど、将軍家の威信に関わる!

平蔵:然様なこととなりまするか?

定信:然様なことも分からぬのか!

平蔵:ご容赦を!(手をついて頭を下げる)どうにも私は浅知恵で。しかしながら、ではどうすればご威信を守ることが出来ましょうか?

定信:そうだな、例えば・・・書物と同じように・・・。

 ・・・ということで、蔦重等が狙った通りのお達しが出ることになった。定信の、実は黄表紙好きだったってことが、ここで効果を発揮したのでは?蔦重の説明によると、こうだった。

蔦重:へえ。「地本も書物のごとき株仲間を作り、その内に行事を立て改めを行い、行事の差配で触れに触らぬ本を出すこととせよ」と、内々に命じられました!

地本問屋の一同:おお~!

 今回、序盤の蔦重のセリフの中に「上方の本屋が江戸の地本で名を上げようってこと」「西の出の本屋が幅を利かせてくる」というものがあった。この危機感を、長谷川平蔵を使って上手に定信に植え付け、上方に対する競争心をくすぐったようだ。でも、上方には、定信の力は及ばないのか。江戸だけか・・・お触れは江戸の本屋に対してだけだったのか。

 こんなことで平蔵に乗せられちゃうなんて、このドラマの定信はホント直情で負けず嫌い😅 しかし、今回のドラマも、うまい話し運びだけど吉原救済の方はどうなった?株仲間を作って行事を立てようが、お触れの内で本を作るのだから、細見なんて出せなくなるのではないのか・・・この時代、例えば吉原が潰れて、吉原から離れた女たちが、新たな生きる道を見出せるの?

黄表紙の灯を守るとは

 そうそう、大事なことがあった。蔦重が考えを改め、政演との争いに終止符が打たれたのだ。上方の本屋・大和田安兵衛を誘い「黄表紙を盛り立てていくためにも(地本問屋の株)仲間に加わって」と言う場面で、大和田から黄表紙を書いた政演が同席。「いいんですか?」と遠慮がちに問う政演に、蔦重が考えを述べた。

蔦重:そもそも、黄表紙ってなあ節操もねえ。昔話や幽霊譚、廓話、言い伝え。面白えもんを、何でもかんでも心のままに放り込む。だから皆、夢中になった。読む方も、作る方も。こんなご趣向を出される方をはじくなんて、春町先生に草葉の陰から嵐みたいな屁、ひられるとこだった。(政演に)言ってくれて、ありがた山だ。(頭を下げる)

政演:蔦重さん・・・。(おだやかに微笑む)

 そして、耕書堂に戻って皆の前でこうも言っていた。

蔦重:つまるところ、面白えもんを作るのを諦めねえってことが、黄表紙の灯を守ることだ。

 次回、NHK版「火付盗賊改方、長谷川平蔵である!」が聞けるようだ。ついでにスピンオフもナイトドラマで作っちゃえ!それに、くっきーが演じる若き北斎(勝川春朗)、名前だけじゃなく実物はいつ出てくるかな?ワクワク。

(ほぼ敬称略)