とんでもない人だから、とんでもない事ができる
NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」第30回「清須会議」が8/9に放送され、秀吉が主家である織田家からの権力簒奪の兆しを見せた。
主人公小一郎の「お待たせいたしました。上様の御成りにござりまする!」というアナウンスの直後に現れた、織田家新当主の三法師は、秀吉に抱っこされ「こちらが織田家当主、三法師様にござりまする」と紹介された。上段の席に着いた三法師の横には、そのまま秀吉が着座し一同は啞然。ことに「4人で力を合わせて後見する」と思わされていた柴田勝家らは歯噛みして、頭を下げるしかない。
しかし、権力簒奪がすんなりとはいく訳がない。兄信長からの手紙に囲まれ閉じこもった部屋で、幽鬼のようになっていたお市の方が、過去、「サル」と呼んでいた羽柴兄弟の前に自ら立ちはだかるつもりのようだ。ひえー。
大河ドラマで描かれるお市は、「どうする家康」でも少しそんな風味だったが、戦国一の美女と言うよりも、今後は雄々しい武将のような描かれ方になっていくのだろうか。時代だよね・・・今作のお市は、夫・浅井長政の首を介錯した人なんだもんな。秀吉 vs. お市か、すごいことになってる。
さっそく公式サイトからあらすじを引用する。
(30)清須会議
天下人を目指す覚悟を固めた秀吉(池松壮亮)は、織田家の名代を決める評定に参加するため、小一郎(仲野太賀)を伴い清須城へ向かう。小一郎は重臣たちを訪ね、名代に誰を推すつもりか探りを入れる。一方、秀吉は憔悴する市(宮﨑あおい)に会い、内々にあることを頼む。それぞれの思惑が入り乱れる中、秀吉は評定の前夜に勝家(山口馬木也)ら重臣だけを呼び集め、織田家の人間抜きで話し合いをしたいと言い出す。((30)清須会議 | 大河ドラマ「豊臣兄弟!」 | NHK)
史実がこのドラマの通りとは思わないが、秀吉は、この清須会議でドラマで描かれたのに近いことをやらないと、織田家からの権力奪取は難しかったのではないか。つまり、これに近いことをやったはずだ。
とんでもない人だよね、秀吉・・・他の人達は、織田家の中の誰を信長の後継者または名代にしたらよいかと頭をひねっているのに、秀吉だけが自分こそがどうやったら信長の後継者になれるかを考えていた。織田一族の人物を差し置いて、百姓から成り上がった秀吉が・・・とんでもない事じゃないか。
頼りない一門衆筆頭・信雄
まず、ドラマの秀吉は、柴田勝家・丹羽長秀・池田恒興を前に、勝家の言葉をうまいこと最大限に利用した。そうできたのは、本能寺の変の後、一門を率いるべき立場にあった信雄が頼りなかったからだ。
信長が、自分の後は嫡流が継ぐと決めていたから、わずか3歳の三法師(亡き信忠の嫡男で信長の嫡孫)が当主になるのは重臣の間では決定事項だった。ドラマのように、これが定説になったらしい。「後継ぎは三法師で決まりだった、揉めていたのは名代が誰か」というのは、ちょっとこれまで広く知られていた「後継ぎは誰かで揉めた」という話とは違う。
そして、三法師の名代に信長三男・信孝を推す勝家は、こう言ったのだ。
柴田勝家:家督を継ぐのは三法師様じゃ、その名代が誰であろうが身の程は関わりあるまい。
この言葉を勝家が言ったのは、池田恒興が、信長次男・信雄を名代に推すのを牽制するためだった。勝家の頭の中では、信雄か信孝かを考えた時にどうしても信孝。その信孝を名代にするための戦略としての言葉だったに違いない。
恒興は「一門衆筆頭の信雄様を差し置いて、信孝様を推すのは筋違い」と言った。が、ドラマでは、陰で摂津を領地としてやると恒興に信雄が確約したから、私利私欲によって・・・という事になっていた。恒興、そんなキャラにされて可哀そうに。
信長の嫡男信忠が死んでしまった以上(これって返す返すも本当に大きな失策だったよね、信忠は何としても生き残るべきだった)、一門筆頭の信雄を名代に推さないのは本来は不自然。結果的に、この名代争いがあったために秀吉に付け込まれ、織田家は権力を失ったのだ。
信長の乳兄弟の恒興だから、幼い頃から信長の子どもたちの成長具合は織田家の奥に近い母情報で薄々知っていたのでは。その彼が信孝ではなく信雄を推したのだから、信雄でも支えれば何とかなる程度との判断があったのだろうか。
いやでも、三男信孝を推す案が勝家から出たり、重臣らが名代として支える案に話が傾くぐらいだ。やっぱり定石通りの一門衆筆頭なのに、信雄が相当頼りにならなかったに相違ない。
三谷幸喜の映画「清須会議」の妻夫木聡の突き抜けたような信雄、「どうする家康」の浜野謙太の信雄もアホで良かったよね。秀吉の意図なんぞ何も読めていなくて、織田家を残そうと頑張る人たちを信雄も手を出して滅亡させた後も、秀吉が自分を担いでくれるものと信じて疑ってなかったような。お坊ちゃん育ちなんだよね。
勝家の言葉に乗っかり、動く秀吉
ということで、筆頭の信雄が頼りなかったばっかりに、「名代は信孝」という案が出た。その案を導いた「名代が誰であろうが身の程には関わりあるまい」という、勝家の手法に乗っかった秀吉が、今度は「重臣で支える」と言い出した。
その時の甘言がうまかったよね。丹羽長秀が、信雄にも信孝にも良いところも悪いところもあって、決められぬと言った後だ。
柴田勝家:もうよいわ。サル!うぬはどうなのじゃ。
秀吉:儂か・・・。
勝家:上様ならば信孝様にお任せになるはず。それ以外の答えなどは認めんぞ。
秀吉:儂は、柴田殿が良いと思う。
勝家:何!?
池田恒興:何を訳の分からんことを!
秀吉:池田殿でもいい。丹羽殿もうってつけじゃ。
勝家:気でも触れたか!
秀吉:柴田殿の力強さ、池田殿の虚を捨て実を取る性分、丹羽殿の慎重に見極める目利き、そして儂の調子の良さ。これらが合わされば、何者にも勝る後見役として三法師様をお支えすることができましょう。我ら皆でやりませぬか!
(略)
勝家:口車に乗せようとしているのはお主であろう。名代には信孝様が成り、我らが信孝様をお支えするのが筋じゃ!織田家のお血筋でもない我らが出しゃばることではないわ。
秀吉:これは異な事を。名代が誰であろうと身の程は関わり無いと仰ったのは柴田殿ではござりませぬか。
当然、その言葉には裏がある。自分も重臣の内だから、「皆で後見役をやる」と言っておいて➡その実、他の重臣を蹴落として自分が権力を握る・・・という道筋が見え見えだ。その裏の考えを急転直下、三法師のお披露目の席で秀吉は示してみせた。
当時の人達は、でも、まさかまさかだったろうな。
三法師を抱えて出てきた秀吉に、皆が頭を下げる格好になった時、とんでもなさ過ぎて、冗談にしか思えなかったのでは。「そんなつもりはなかったけど、ちょっと調子に乗りすぎちゃった、ごめんねごめんねー」という謝罪の言葉が秀吉から出てくるものと、あるいは勝家ら重臣らもその時は思ったのではないか。
秀吉は「大事なのは織田家の安泰じゃ。そのような私利私欲は捨てねばなりませぬ」と大真面目に摂津一国で釣られた池田恒興に言っていたぐらいだもんね。
これで秀吉が闇に転んだという意見もネットで見るが、果たしてそうだろうか。秀吉はそもそもが信長様に心酔しているし、秀吉本人は今のところ、そんな心理状況にはないのではないだろうか?騙されてるかな?
お市が今、立ち上がる
秀吉が私利私欲を捨てて信長の遺志を継ごうと立ち上がったのか、それとも私利私欲にまみれて己が世にするためにブラック秀吉と化して動き出したのか、まだよく分からない。が、このドラマの場合、秀吉はまだ天使なのでは?まだ邪悪な考えは無いのかもしれない。
邪悪なものがあるとすれば、それは、秀吉を悪と見做すお市との戦いを経て、「そういう見方もあるか」と気づき、遅まきながら形成されていくのかもしれない。
でも、秀吉が悪に転じるのは、やっぱり小一郎を失う頃なんじゃないか。小田原攻めで天下一統(いつから「天下統一」がメジャーじゃなくなったのかな?)が成り、信長が掲げた目標も達せられて後の見通しを失う時期でもある。そこまでは、秀吉は上様・信長に忠実な「天使」で、小一郎の良き兄者であり続けるのではないだろうか。
ドラマがどの時点までの歴史を追うのかはわからないが、もし秀長が最終回で死ぬとしたら、その後の秀吉の「悪魔化」が駆け足で描かれるのかも。
さて、お市は、ラストで勝家に「私を娶れ」と命じた。痺れたねー、この迫力は「篤姫」を彷彿とさせる。こんな風に憧れの人に命じられたら、勝家としたら否やも無く従うのみだ。
お市は再度嫁いでまで、自分の手で織田家を守ろうとしているのだろう。織田家の中ではまだまともに秀吉と戦えそうな三男信孝を立てるのも、信雄じゃダメだ、秀吉に飲みこまれるとの危機感があるのだろう。それだけ、サル兄弟を昔から買っていた。そんな意識は信長から受け継がれてもいるだろう。だからこそ手強いと思っている。
勝家とお市の再婚話は、ドラマの中では重臣たちの話し合いの中で、秀吉がそれぞれの織田家とのつながりのバランスを考えてむしろ言い出していた。そういう説が最近は有力だそうで、ドラマではその通り。
秀吉:しかし、柴田殿が案じられるお気持ちもよう分かりまする。儂には上様より授かった秀勝がおりまする。丹羽殿の奥方は上様のご親族。池田殿は上様と乳兄弟の仲じゃ。となれば、柴田殿にも織田家とより深いつながりを持っていただく方が良いやもしれぬ。
勝家:何が言いたい。
秀吉:柴田殿。お市様を娶られよ。(略)お喜びなされ。お市様は既にご承知ゆえ、後は柴田殿が・・・。
勝家:(秀吉の胸ぐらをつかむ)うぬという奴は!今のお市様がどのようなお気持ちなのかが分からんのか!
秀吉:だからこそ、夫婦になってくだされ!お市様にも織田家にも、柴田殿が無くてはならぬのじゃ。我ら4人で三法師様をお支えし、織田家を守りましょうぞ。
勝家:断る!どのようなことになろうとも、うぬの言いなりにだけはならぬ!儂は、うぬが大嫌いじゃ!この・・・サルめが!
(この後、三法師が居なくなる騒動を経て、丹羽長秀と池田恒興が秀吉の「重臣による後見役」策に同意。勝家も「好きにしろ」と決着)ただし、お市様とのことは無かったことにする。儂は、あの御方を娶れるような男ではない。
皆さんご存知の通り、ドラマでは最初から勝家はお市にぞっこんだ。お市を娶れなんて言われたら、勝家だって理性を失いそうだよね。秀吉ってば、なんて意地悪な策士なんだ。人の恋心を利用するなんて。「儂はあの御方を娶れるような男ではない」にも、恋心が滲んでいるよね。勝家ー。
もちろん、勝家に持ちかける前に秀吉はお市には承諾を得た。そこは、小一郎を清須に行かせる話をする前に、お慶に話しておくぐらいのことはする人だ。勝家を安心させ、重臣らが後見役となる話に乗ってもらうにはこれ以外に無いと考えてのことだろう。
が、「ふざけるでない。お前は母上を何だと思っておるのだ」と茶々が怒るのも無理はない。ああ、何かこのセリフ、自分の身の上を語る時に、将来の茶々がリフレインしそうだよな・・・「私を何だと思っておるのだ」って。その後のセリフ「許さぬ。お前ら男どもはどれだけ母上を泣かせたら気が済むのじゃ!」もセットで覚えておきたい。
お市がどうしてここで秀吉の話を承諾したのか。「まこと、織田家の為か?」の問いに「無論でござりまする!」と答える秀吉の目を見て、多くの重臣が後見役になるという話を信頼できると踏んだのか。
それが三法師のお披露目の席での秀吉の振る舞いを耳にして、裏切られたと思い、怒り百倍で立ち上がるか。
怒らせたらお市は怖いぞー、ズシンと重みをもって振り下ろされる刃のようだぞ。信長の手紙に囲まれていたお市、凄まじかったもんね。身体的には参っていたかもしれないけど、精神的にはかえってすごく覚醒していた感じ。自分では命とも思って慕っていた兄を亡くし、研ぎ澄まされた感じで。宮﨑あおいのお市、侮れないね。
今回の主人公小一郎、もっと活躍させてくれ
重臣らの思惑を清須会議の前に聞き出し地ならしするのが、今回の主人公小一郎のお仕事だったようだ。当時の名前「羽柴長秀」が丹羽長秀と同じだから、その話が出てきたのは待ってましたと思ったが・・・。ドラマでは、養子の話は出るのだろうか?今後、名前に絡めて丹羽からお許しが出るかな。
信雄による三法師のかどわかしについては、小一郎が出てきて清須城内を秀吉らと一緒に探し回ることになり、無事発見。秀吉による狂言を疑う黒田官兵衛にも「そこまではせぬ。ただ、信雄様の企てを敢えて見逃し、我らの助けとしたまでじゃ」と小一郎が説明した。
ええ、そうだったの?そこら辺の騒ぎを見せてくれたら、主人公の見せ場になったんじゃないのかな・・・そういうの待ってるんだけど。
お披露目の席で、三法師を抱えて現れた秀吉を、引き締まった顔で迎えた小一郎。秀吉は「これからは、織田家筆頭家老となったこの羽柴秀吉が、ここにいる者たちと共に力を合わせ三法師様をお支えいたしまする」と宣言。事前に稽古して「うむ。頼りにしておるぞ、秀吉」と三法師に言わせた秀吉に、丹羽長秀らは目を剥き、怒りに震えた。
一体、小一郎はどこまで秀吉の考えに同心しているのか?兄者を空恐ろしい、と思う気持ちも多少はあるのだろうか。兄者を信じるだけなのかな。
しかし、今回も影が少々薄かった小一郎。与一郎を失ったばかりで涙目だから、仕方ないかもだけれどね、清須会議の裏での暗躍の場はあると思うんだな。三法師の母や周辺を取り込むとか、小一郎が、ここで羽柴家女子を動員するとかね。そんな話も無くてどうも肩透かしだった。そうそう、昔の「秀吉」「おんな太閤記」がそんな風に描いていたかもしれない。
羽柴家女子が与えられた、やらなきゃいかんこと=三法師の瓢箪柄の小袖を頼まれて作る話も、もっと小一郎を絡ませてもね。そもそも、いきなり子ども用の小袖が手元に出現、疲れたーと言うあさひ、一体何をどうして疲れたの?彼女たちの前には裁縫道具も置かれていないし、案を出して別室の侍女にでも縫わせて待ってたのか?疑問だ。
秀吉がどんどん自分の道を行く。ただただそれを心配しつつ見守る小一郎か。せっかくの小一郎が主人公のドラマだ、あまりに表の秀吉の話ばっかりになるのもどうかと思うんだけどな。フィクション上等!小一郎を活躍させてくれ~。
(ほぼ敬称略)



