黒猫の額:ペットロス日記

狭い場所から見える景色をダラダラと。大河ドラマが好き。

【豊臣兄弟!】#2 秀吉の口から出まかせ「底知れない」のは母なか譲り。命が軽い戦国の世、織田も豊臣もきょうだい家族は第六感で生き延びる?

「あんたらは、お天道様みたいにおなり」

 NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」第2回「願いの鐘」が1/11に放送され、戦国のヒロインお市の方(宮﨑あおい)が登場して目を奪われた。さすが篤姫、オーラが違う。全然「どうする家康」の北川景子に負けてない。当然か。

 さっそく公式サイトから、今回のあらすじを引用する。

第2回「願いの鐘」◆◇あらすじ◇◆

 故郷の中村に戻った小一郎(仲野太賀)は、直(白石聖)の縁談が決まったことを知る。自分の気持ちを押し殺して喜ぶ小一郎に、寂しげな表情を浮かべる直。一方清須では、尾張統一を目指す信長(小栗旬)が岩倉城攻めを決行する。清須での居残りを命じられた藤吉郎(池松壮亮)は、信長の妹・市(宮﨑あおい)から呼び出しを受ける。そしていよいよ直の祝言の日。花嫁姿の直が突然、小一郎の前に姿をあらわす。(第2回「願いの鐘」まとめ|大河ドラマ「豊臣兄弟!」 - 「豊臣兄弟!」見どころ - 大河ドラマ「豊臣兄弟!」 - NHK

 前回のブログで、母なかと妹あさひは「幸せぼんやり」だと書いたのだったが、今作のふたりはそういうキャラじゃなかったね。「兄藤吉郎は、基本に俯瞰する底知れない目があっても、母親の幸せぼんやりキャラを外側に纏っている」と書いたが、母の方も底知れなさを秘めた人物だった。小一郎相手に滑らかに大ウソをつき、背中を押していたもんねえ。

 姉とものアシストもあり、母なかは小一郎を何とか藤吉郎と共に旅立たせようとしている。ぼんやりしているように見えて、きっとそれが息子たちのためになると俯瞰して考えていたんだ。

(家の中に響く、藤吉郎のイビキ。家の外で、月明かりの中一人座っている小一郎。家から母なかが出てくる)

なか:全く、うるさいのは起きてる時だけにしてもらいたいわ。さっさと清須に戻ってもらわにゃあ、おちおち寝てもおれん。(小一郎の隣に腰を下ろし、小一郎を見る)あんたの好きにしなさい。藤吉郎には藤吉郎にしか、あんたにはあんたにしかできんことがある。それをおやり。

小一郎:そんなこと言うても、わしがおらんくなったらこの家はどうなるんじゃ。(姉ともが来る)

とも:心配ないわ。うちの人がおるから。

小一郎:うちの人?

とも:この先の村で馬貸しやってる独り者なんじゃけどね。この家に来てくれるそうじゃ。なかなかの優男よ。あんたが居なくなれば家の中も狭くならずに済むから、ちょうど良かったわ。(ポンポン小一郎を叩く)

小一郎:勝手に決めんな。まだ、わしは行くとは・・・。

なか:8年前、藤吉郎が出てった時の事、覚えてるかい?

小一郎:何じゃいきなり。覚えとらんわ、そんな昔の事。

なか:そうじゃろうねえ。あんたはあん時、えらい熱を出してうんうん唸ってたから。

小一郎:ああ、そうじゃったな。

なか:あの時、藤吉郎はあんたに飲ませてやってくれって薬を置いてったんじゃ(ウソ)。あの頃も今と同じで・・・いや~今以上に貧しくてね。あんなバカ高え薬、なかなか買えるもんじゃなかったんだよ。

小一郎:もしかして・・・(立ち上がる)

回想の藤吉郎:仏画も盗んだのではないぞ。その嫁に持ってきてもらったのじゃ。どうしても銭が要り様じゃったからのう。

なか:これを言ったらあんたが負い目に感じると思って、黙ってたんだけどね。あの子が村を出たんは、あんたを助けるためでもあったんだよ。だから今度は、あんたが藤吉郎を守っておやり。あの子には、あんたがいてやんないといけないんだよ。・・・あんたにしか、できんことをおやり。

回想の藤吉郎:わしは、みんなを喜ばしたい。そんで「ありがとう、藤吉郎よくやった」と言ってもらいたい。

小一郎:(背中の暖かさに振り返る。日がのぼる。山の向こうの朝の光に向かって踏み出す)行くわ、兄者と一緒に。

藤吉郎:(あさひを前にして家から出てくる)聞いたぞ聞いたぞ、小一郎!よく決心してくれた!

小一郎:まだ侍になると決めたわけではない。だが、助けてもらったからには借りは返す。

藤吉郎:何でもいい!決まりじゃあ。(小一郎を抱き上げる)

小一郎:うわ~、わ~わ~!わわわわ!

なか:あんたら、どうせならうんと偉くなっといで。

小一郎:もちろんじゃ。わしが行くからには、兄者を侍大将くらいすぐにならしてやるわ。

藤吉郎:お前、小さいのう。どうせなら国持ちの大名くらいにならんとな。

小一郎:大名?

藤吉郎:おう!

なか:あんたも小さいわ。

あさひ:えっ、じゃあ侍で一番偉いと言えば・・・(藤吉郎と肩を組んで)将軍様!

小一郎:(笑って)なれるわけないだろうが。

あさひ、藤吉郎:えっ?えっ?

なか:もっと上じゃ。(空を指さす)あれみたいにおなりよ。あんたらは、あのお天道様みたいにおなり。(昇り始めた太陽に、手を伸ばす藤吉郎と小一郎)

 なかは、わざわざ「覚えてるかい?」と小一郎に確認して「覚えとらんわ」と返事が来てから嘘をつき始めた。戦略的、強かだよね~。

 それに今回ラストで小一郎と藤吉郎を見送ってからの話だが、なかの大ウソを、ともも知ってて黙っていたと判明する。

 ともは、ドラマ冒頭で家に戻った小一郎の様子を探り探り話を聞いていたように見えた。「あんたまでいなくなったら、うちらみんな飢え死にだからね」と言いながら、「侍になんぞなったら、命がいくつあっても足りんわ」と口先だけで言う弟の様子をじっくり観察。そろそろ出ていきそうだと理解して、婿にきてくれる「馬貸しの優男」を速攻で調達しておくとは・・・さすが長女、しっかりしてるー。

 当時の尾張中村の庶民は、婿取り婚なのか。なかの家に秀吉らの父も婿入りしたなんて話もどこかで読んだ。だったら分かる話だ。

 妹あさひについては、まだ天真爛漫だけで、その裏の人物像はよく分からない。けれど、実は母なかや兄秀吉に似た性格だとすれば、ドラマは面白く転がりそうだよね。後々徳川家康の妻になった時に、ただのぼんやりじゃ哀れさは増すかもしれないけれどつまらない。(いやでも、「真田丸」での無口すぎる清水ミチコの旭姫はかなり面白かったか・・・。)

 今のところ、土豪の箱入り娘だった直が、気が強い設定なのにイザとなるといつも棒立ちでウロウロ、戦の中でかなり目立つ白い花嫁衣裳の自分を客観的に見ることもできない点がイライラする。「小一郎に助けてもらうの待ち」専門キャラのようで、少年マンガにおける主人公の典型的な恋人の役回り=愛らしいアクセサリーみたいになってやしないか。

 小一郎に「わしと一緒に来てほしい。わしの側にいてくれ」とプロポーズされて「私すごいな。小一郎なら、きっとそう言うと思った!」と歓喜の涙で顔を濡らしていたのは可愛かったね。清須で揉まれて、彼女も成長してほしいところだが・・・。

 そういえば、竹中直人の「秀吉」では、母大政所役の市原悦子に「日吉~日吉~」と秀吉は呼ばれていたような。太閤秀吉と言えば「日輪の子」であり、幼名の日吉丸が知られてきたと思う。生まれる前の夢で母の体に太陽が飛び込んだとか、そんな太閤記の従来の秀吉伝説のイメージが「秀吉」では押し出されていた。

 でも、今作ではこれまで、そんな「日輪の子」なんて話は無かったね。ようやく、今回の「お天道様におなり」という母の言葉で太陽と結びつけられた。しかも、「あんたら」だから、秀吉だけじゃなくて秀長もお天道様になれってことだ。「秀吉の陰にいた弟」以上の活躍が、このドラマでの秀長には約束されているようだ。主役だもんね。

戦国の庶民の現実を描く

 遡るが今回、小一郎の住む尾張中村は、ひどい蹂躙を受けて村人の多くが殺戮された。第一陣は野盗で、まだ自分たちが利を得ようとする、目的が分かる襲い方だったが、次の第二陣は、どう見ても戦略的に尾張の国力に損害を与えようと、村全体を壊滅させるために襲来した様子だった。

 いずれにしても、泣かされるのは百姓の民ばかり。戦があると、百姓たちは早めに山中に逃げて戦況を眺め、決着がついてから鎧兜刀など金目のものを遺体から回収して金にする。でも、遺体の埋葬など戦後の片付けにも駆り出された(早く片付けないと農業にも困る)と聞いた。戦で田畑はボロボロ、お侍さんは勝手で困るよね。

 田畑の損害だけでなく、山に逃げる暇もないと悲惨だ。ドラマでは、女子供までも含め、逃げられなかった村人が手当たり次第の無残な殺され方。道端には死屍累々、そして道にはわざわざ切り落とされた腕が落ちていたりね・・・。

 これは美術さんも死体を演じるエキストラさんも大変だったろうけれど、逃げ遅れた庶民が直面する悲劇の再現にはかなり力が入っていたように見えた。ドラマはフィクション、でもそういう点は、史実をできるだけ描きたい意図があるのだろう。

 切り落とされたと言えば、首だ。直の嫁入り話を聞いて小一郎を慰めていた信吉は、植えたばかりの苗を守ろうとして田んぼで首を切り落とされ、殺されていた。最初は信吉の体を泥の中から助け起こそうとした小一郎だったが、首のない胴だと気づき、近くに転がる生首を抱えて慟哭した。

 死体はゴロゴロ、そして友達の生首だよ・・・想像すると相当きついよね・・・これが戦国の庶民の現実か。「戦で手柄を立てるっちゅうんは、大勢人を殺すっちゅうことだで」と、なかの今回のセリフにもあった。「光る君へ」「べらぼう」と戦がほぼない時代の大河ドラマが続いた後で、令和の視聴者にガーンとショック療法か。

 現在、世界でも戦争は続いている。こんな庶民の悲劇は現実から遠い話とも、もう言えない。侵略者を誰も止めてくれない。ロシアが占領した地域のウクライナ人が、「ロシア兵」として、前線で戦わされているなんて話を聞くと、何という不条理がまかり通るのかと暗澹たる気持ちになる。

 誰かが言葉では勇ましく美しく語ったとしても、現実の戦は庶民の殺され損の世界なんだよと、ドラマも教えようとしているのか。

きょうだい間の第六感

小一郎:何じゃこれは・・・次から次へと・・・わしらが何をした。(切断された信吉の頭を抱きしめて泣く)何なんじゃ、これは~!ああ、あ~!あ~!ああ・・・ああ~あ~!

藤吉郎:これが、この世じゃ!

小一郎:(振り返って)何で、ここにおるんじゃ!

藤吉郎:わしにも分からん。気づいたら来ておった。おみゃあに呼ばれた気がしてのう。

小一郎:いい加減なこと言うなよ!兄者など呼んどらんわ!要らんのじゃ!役に立たん!役に立たん、足軽なんか!(田んぼで泣きながら、雨に打たれている小一郎)信長も信長じゃ!偉そうなこと言うて・・・ちっともわしらのこと守ってはくれんじゃないか。わしらが米作らにゃ、生きていけんくせに!だから、わしらは必死に、今年こそ豊作にするんじゃて・・・必死に・・・信吉も、あんなに泥にまみれて・・・これじゃあまりにも惨めじゃ。惨めじゃ!わしらのこと、何じゃと思うとるんじゃあ!

藤吉郎:言いたいことはそんだけか?なら、今度はわしの番じゃ!行こう!わしと一緒に!侍になれ、小一郎!(雷鳴と雨の音が響く)

 弟に呼ばれた気がして「来ちゃった」という藤吉郎。なんで?とも思ったが、この前のシーンで、藤吉郎はお市からこんな話を聞いていた。

 皆が戦に出てしまって退屈だから何か面白い話をしろとお市に呼ばれ、藤吉郎は母から聞いた「願いを叶える不思議な鐘」の昔話をした。少し気が紛れたと言うお市は、「退屈というのは嘘じゃ」と言い出す。

お市:退屈というのは嘘じゃ。本当は苦しいのじゃ。きょうだいとは不思議なものよのう。お互いのことを分かりたくなくても分かってしまうことがある。なぜそうなるのか不思議じゃが。私が今苦しいのは、多分兄上が苦しいからじゃ。

(炎に包まれた岩倉城と、城下の町を眺める信長。戦渦に巻き込まれ傷つき、身内を失った多くの民の姿。)

 信長の家から見ると格上の、岩倉城の織田伊勢守は破れ敗走。これで信長による尾張の統一が成ったのだった。「勝ち鬨を上げろ」と配下に言いながらも背中に辛さが滲む信長の心情を、お市は分かち合っていたようだった。

 この戦については、お市は軍師のように、信長にこんなことを言っていたよね。

お市:その降伏の申し出は、ただ時を稼ぐためのものでございましょう。

信長:なぜそう思う。

お市:近頃、今川の息のかかった野武士の一党が、我が領内にまで足を踏み入れ、狼藉を繰り返していると耳にします。誰かが手引きしなければ、成し得ぬこと。伊勢守は、我らに降伏したと見せかけ裏で今川と通じ、いずれ尾張を手に入れようと目論んでいるのでは。

信長:考え過ぎだ。

お市:ええ、考え過ぎです。兄上と同じで。

信長:フッ。たとえ僅かでも不安の種を残すわけにはいかぬ。肝心なのは、ただ勝つことではなく、勝った後をどう治めるかじゃ。誰も抗えぬ、揺るがぬ力を示さねばならぬ。

 信長に語っていたお市の見立てが、中村で起きていた悲劇の真相だったのだろう。第二陣で雪崩れ込んできて殺戮の限りを尽くした野武士たちは、今川の息のかかった者たち。桶狭間前夜の駆け引きなのだろう。

 この時点で、織田伊勢守からは使者が来て、降伏したいと言ってきていたのに、その使者を切り殺せ、城下に火を放ち町を焼き払えと命じ、信長は非情なところを見せて出陣するところだった。

 それにしても、体を斜めにして恐ろしいことを命じる信長(小栗旬)が、真っ黒になった北条義時(鎌倉殿の13人)に見えてしまうよ・・・斜めになればなるほど、無理して危うく見える信長のメンタル。それを感じるお市。

 お市の話をまっすぐに聞いていた藤吉郎は、魔法にかかってしまったように小一郎に呼ばれているように思い、中村に来てしまった。それで出くわしたのが村人の悲劇。藤吉郎、なか、ともも小一郎の心情が分かる。

 こういう第六感の働く人たちじゃないと、戦国の世は生き残っていけないのか?そして、藤吉郎は、肉親以上に大切に思う信長の心情を察することができるようになって・・・それで中国大返しができたってことになったりして。何か別の「エスパー秀吉物語」にでもなりそうな。

はした金で嫁取り💦

 かくして、小一郎は清須に向かった。気の毒なのは直の父、坂井喜左衛門(演・大倉孝二)だよねえ。8年前に妻は藤吉郎に付いて出て行き、今回は娘の直が小一郎に付いて行く。小一郎は「兄者と違ってわしはちゃんと・・・」と言うものの、坂井家に届いたのは、小一郎が「藤吉郎の墓」に埋めておいた、小銭を溜め込んだ壺だ。

 そりゃ「おのれ~」って言われるよね。そんなはした金で、掌中の珠である娘を渡せるかっつーの。心情お察しする。

 そうそう、彼の盗まれた「妻」は直のお母さんだってことだけれど、その彼女は今どこに?生きているのか死んでしまったのか、今回も判然としないままだった。ほったらかしが気になるなあ。清須に向かった直は、母親に会えるのだろうか?

(ほぼ敬称略)

【豊臣兄弟!】#1 戦国の人たらし太閤秀吉の弟・秀長の物語、少年漫画風に始まり始まり~秀長は賢く、秀吉は明るく見せて底知れない、実は怖い系?

戦国大河常連のバイプレーヤー、秀長

 NHK大河ドラマの新作「豊臣兄弟!」がいよいよ始まり、初回「二匹の猿」が1/4に放送された。「どうする家康」以来の、久しぶりに感じる戦国大河。取り上げられるのは、みんな大好き下剋上の極みに至った豊臣秀吉の・・・陰にいた弟だ。

 滑り出しはわかりやすくテンポよく、現代語の会話の中に笑いも細かく挟まれて、どこか少年漫画チックな世界だったね。家族によると、ニュースーンだったかのインタビューでも小栗旬が「少年ジャンプ」と言っていたんだって。先日のお城EXPOで張り切っていた、ちびっこお城ファンがさぞや喜んでドラマを見ていたことだろう。想像して、ニンマリしてしまった。

 オープニングのアニメーション(ふたりともが猿!)でも本編でも、兄の秀吉のイメージカラーは黄金の色、弟はいぶし銀の・・・と言うか、銭の色のシルバーグレーのように見えた。金さん銀さん設定?

 秀吉は、黄金の茶室などキンピカ好きで知られている。秀長が守銭奴と呼ばれて銭を溜め込んでいたことも、まあ聞く話だ。それが、今作ではしっかりキャラ付けされて小一郎(秀長)はせっせと蓄財に励んでいるし、一見して分かるよう兄弟を金銀に色分けしているようだ。

 秀長は、数々の俳優さんたちが大河ドラマで演じてきている。秀吉の弟だから、秀吉が出るところ秀長も常連なんだけれど、まさに戦国のバイプレーヤーであり、主人公を張ったことはこれまでに無かったそうだ。

 ウィキペディアから(豊臣秀長 - Wikipedia)、大河ドラマだけを抜粋する。

豊臣秀長が主人公のテレビドラマ
豊臣秀長が登場するテレビドラマ

 戦国大河では、今年を含めて10作も!これ以上に兄貴秀吉は出ているから、もう兄貴は十分、だから秀長視点にするというのは、良い切り口だ。

 この中で、私の秀長像を形作ったのは、1981年の「おんな太閤記」で中村雅俊が演じた秀長だ。設定は異父弟ではなく今作「豊臣兄弟!」と同じ同父弟で、多忙な秀吉をよくカバーして、秀吉正妻ねねの話を聞き、悩みを受け止めていた。思慮深く慎重で、「兄者」と呼ばれた西田敏行も、補佐役に徹する秀長の意見には耳を傾けていた。

 「おんな太閤記」のウィキペディアを見たら、こう書いてあった。

中でも秀長(小一郎)が最重要キャラクターとして本格的に登場したのは大河ドラマ史上初めてであり、彼の活躍ぶりが描かれる作品はその後、1996年の『秀吉』まで現れない。秀長の妻・智雲院がレギュラー登場する大河ドラマは本作のみであり、2人の出会いや結婚にまつわるストーリーが詳しく描かれた映像作品は本作以外に存在しない。(おんな太閤記 - Wikipedia

 なるほどねー。その1996年「秀吉」は、作家堺屋太一が書いた「豊臣秀長 ある補佐役の生涯」が原作になっていると聞いたのだが、原作とは異なって「秀吉」秀長は秀吉とは異父弟の設定となっていて、秀長の実父として財津一郎演じる竹阿弥が出ていた。秀吉母なか役の市原悦子と並ぶとそれだけで可笑しかった。

 「秀吉」では、高嶋政伸がこれまた沢口靖子のおねをよく助ける秀長だった。おねが不妊になった元凶の流産の時に、おねを背中におぶって走る小一郎秀長の姿が思い出される。

 といったように、秀長が主要キャラとして取り上げられていた大河ドラマでも、秀吉不在時に秀吉の妻であるねね(おね)の悩みを聞く役のような、天才の兄を持った完全受け身の立ち位置で、秀吉の家庭内での懸案に振り回され続ける執事のような印象があった。

 しかし、「豊臣兄弟!」ではまだ秀吉も未婚で、秀長は主役なのだ。毛色が変わり、秀長はおねの聞き役だけでなく、ちゃんと主体的に外でも活躍している。村の諍いの仲裁をしたり、銭稼ぎのために清須に行って道普請の仕事に取り組んだり、そこで身をやつして働いていた信長にいきなり裏拳で殴られたり、有能さを見込まれたり。別人の様に能動的に動いていた。

 家来になれと言いに来た兄にも、自分なりの考えに基づき反論していた。

小一郎:侍になんぞなったら、どのみち直ぐに死ぬわ!親父もそうだったじゃろ。手柄を立てようと戦に行ってケガして、それがもとで死んだ。わしはそうはなりとうない。親父も兄者も居なくなって、それでも一家四人で田畑を耕して今日までやってきたんじゃ。それを捨てられる訳ないじゃろが!

 藤吉郎は信長が身分にも囚われない素晴らしい人物だ、うつけではない等と更に誘ったが、まだ小一郎の心を動かすには弱かったね。人たらしなんだけどまだまだか。

 で、今作の秀長は、兄だけでなくご本人も「人たらし」らしい。安藤サクラの語りがカッコ良かったよね、さすが役者。アナウンサーがただきれいに読むだけじゃない、インパクトがあってワクワク感を掻き立てる言い方だった。

語り:むか~しむかし、尾張国中村の地に、貧しくもたくましく生きる兄弟がおりました。兄の名は藤吉郎。弟の名は小一郎。これは、そんな名もなき2匹の猿が、どん底の暮らしから戦乱の世を天下人へと駆け上がる夢物語にございます。果たして噓か真か。お気をつけあれ、彼らは人たらし。決して心奪われませぬように。

小一郎なりの人間関係がある

 ここまで書いて今更だが、初回のあらすじを公式サイトから引用する。

第1回「二匹の猿」 ◆◇あらすじ◇◆

 尾張中村の貧しい農家に生まれた小一郎(仲野太賀)は、田畑を耕し土とともに生きる暮らしに満足しながら日々をすごしていた。ある日、野盗の集団が村を襲い、幼なじみの娘・直(白石聖)が連れ去られそうになる。そのピンチを救ったのは8年ぶりに村に帰ってきた兄の藤吉郎(池松壮亮)だった。若き戦国武将・織田信長(小栗旬)に仕官し、大出世を夢見る藤吉郎は、小一郎に自分の家来になるよう願い出る。(第1回「二匹の猿」まとめ|大河ドラマ「豊臣兄弟!」 - 「豊臣兄弟!」見どころ - 大河ドラマ「豊臣兄弟!」 - NHK

 秀吉の実家の貧乏は、よく知られている。弟が主人公になったとて、そこは変わらない。ただ、ちゃんと小一郎の周囲にも、彼なりの人間関係があったのがやはり目新しい。幼なじみの直ちゃんね。父は土豪の坂井喜左衛門というらしい。

 で、直の父の妻(w/高価な仏画)を連れて出た若き藤吉郎秀吉って・・・そんなにモテモテ設定でいいのか?とも疑問に思ったが、いいんだ、池松壮亮なんだから。で、その奪った妻は直ちゃんの母上なのか?だったら、直ちゃんにも恨まれていてもおかしくないのだが。それとも、連れて出たのは土豪の側女で、直ちゃん母子に嫌われていた人なら藤吉郎も(家族の小一郎も)感謝されちゃいそうだ。

 しかし、藤吉郎の行いで家族は村を追われる苦境に陥り、了雲和尚のとりなしに助けてもらったそうな。その苦境を作ったご本人が、ジャジャーンとばかりに帰還した場面。直にピンチが出来して藤吉郎と小一郎が合わせ技で助けるという・・・大体そうだよねえ、気の強い女子がいざとなったら主人公に助けてもらう立場に回る。ベタなニオイがする入りだが、ジャンプ好きな男子が好みそうな展開だ。

 等身大の男子っぽい主人公(蓄財には熱心)小一郎は、戦や武士には興味がない。当時の農民が戦に行ってする事と言えば、戦場で戦死した人たちから武具を盗みひと稼ぎする盗人稼業だということにも嫌悪感がある。それもこれも、戦に行ってケガして死んだ父の影響や、8年前の盗人同然の出奔で反面教師にしている兄藤吉郎の影響があるんだね。わかりやすい。

 あ、そうそう、小一郎はどうして字が書けるの?あんなにスラスラと。農民が字を書けるのは当たり前じゃないと思うのだけれど。剣だけじゃなく、こちらも了雲和尚の子飼いの荒くれ坊主に鍛えられていたのかな?

根っこは好かれたい!藤吉郎のマニュフェスト

 「みんなで幸せになるんが一番じゃろ」という、昔から喧嘩は苦手だったと幼なじみ直にも言われる小一郎のこのセリフ、兄藤吉郎と呼応するようにも聞こえる。だが、池松壮亮の藤吉郎はやっぱりただでは済まない、薄ら寒い感じが心の根っこにあった。

 それを感じ取った小一郎は、今回のラストで「兄者が怖い」と告げて村へ帰っていった。

 今作の藤吉郎は一見、底抜けに明るいし、損得の切り替えの目利きが素早すぎて、厚かましくて呆れて笑うしかない。帰還した際の言葉がこうだった。

藤吉郎:わしは一所懸命、殿様にお仕えしてもっともっと偉くなると決めたんじゃ。そしたらみんなにも、たらふく飯を食わしてやれるぞ。まあそういう訳だから小一郎、お前も一緒に清須へ来い。お前を迎えに来たんじゃ。喜べ!わしの家来にしてやるぞ。

 たらふく飯が食える。藤吉郎の欲求はとても単純に聞こえる。もちろん、小一郎は真っ平じゃと断った。

 藤吉郎は、盗人を捕まえようと厠に兄弟で潜んでいる時にも、自分の考えをマニュフェストよろしく口にしていた。前夜の寝ずの普請で疲れ切った小一郎は、目を開きながら、いびきをかいて寝ていたが。

小一郎:そんなに偉くなってどうしたいんじゃ。

藤吉郎:決まっておろう。母ちゃんや姉ちゃんやあさひに、腹いっぱい飯を食わしてやりたいんじゃ。もちろんおまえにも食わしてやるぞ。

小一郎:それくらいだったら侍になんぞならなくても。

藤吉郎:そのあとは、親類縁者たちじゃ。そしてもっと偉くなったら村の連中にも飯を食わしてやる。もっともっと偉くなったら・・・どうしたらええかのう。わしはみんなを喜ばしたい。そんで「ありがとう、藤吉郎よくやった」と言ってもらいたい。わしはみんなから好かれたいんじゃ。もう、見下されたり、嫌われたりしとうない。分かるか?

小一郎:(いびき)

 「たらふく飯が食える」が発展して、みんなに喜んでもらって・・・好かれたい。小一郎の場合は、みんなの幸せが良いとする。そこで止まっているように見える。が、藤吉郎の場合は、底にある承認欲求が膨らんで膨らんで、さて、それがどうなっていくのか。怖いなー。

 この後、美濃の斎藤龍興に内通する横川甚内のおかしい点に気づいた小一郎は、彼を問い詰め、斬られそうになる。ためらいなく刃を交えて横川甚内の命を奪い、小一郎を守ったのは藤吉郎だった。

 あんなに横川に良くしてもらってるとか言って親しげだったのにね。小一郎に切りかかる刃を止め、袈裟懸けに斬って、止めを刺す。マシーンのように狂いもない武士の動き。人を殺したことも無い百姓の小一郎にはすごい洗礼だ。

藤吉郎:(返り血を浴び、腰を抜かした小一郎を振り返る)大事ないか。この8年、わしも武術の腕は磨いておった。

小一郎:じゃあ、なんであの時・・・(墓地で勝ったのは小一郎)。

藤吉郎:お前も言うたじゃないか。争わずに済むなら、それに越したことは無いと。やっぱりお前はわしの弟じゃ。(血を浴びた顔で笑う)

 そういえば、将来の妻・寧々の藤吉郎評が興味深かった。「お寧々殿は、わしと違って見た目も中身もお美しいのじゃから」と藤吉郎に言われた寧々は「そうやって、お殿様にも取り入ったのでしょう。騙されませんよ」と切り返していたのがなかなかの切れ者ぶり。その彼女が言う。

寧々:藤吉郎さんには、いつも励まされています。だって、みんなにどんなにひどいことを言われても、平気で笑っているんですもの。私も見習わなきゃなと思います。

 なんと含蓄のある・・・これは、よく考えると怖い。何を言われようが、全部鋼鉄のバリヤーで弾き返しているのか。何を言われてもびくともしないメンタルをお持ちなのだ、秀吉は。誰に何を言われても、何も堪えない。ダイヤモンドは傷つかない、みたいなものかな。その内側で、俯瞰して物事を熟考しているのだな。

 手垢が付くほど大河で描かれてきた秀吉だから、キャラ設定に独自色が無いとつまらない。今作は「どうする家康」でムロツヨシが演じたサイコパス秀吉のように、あざとさを自覚して、それに追い立てられている狂気はあまり感じない。むしろ泰然自若。母なかや妹あさひのような「幸せぼんやり」を殻に被って、中身はしっかり現実を捉えて行動する姉とものような、二面性のある感じだろうか?

 弟小一郎はとも寄り。兄藤吉郎は、基本に俯瞰する底知れない目があっても、母親の幸せぼんやりキャラを外側に纏っている。そのカモフラージュ効果は自覚しているのか?

姉ともが、そそっかしいがたくましい

 「甘ったれたこと言ってないで、さっさと戦行ってこい!乱取りでも何でもして銭や食いもん取ってこい!」と小一郎の頭をぶっ叩き、何も考えずに「おなかすいた~」と言う妹あさひと、「じゃあ飯にしようかね」と応じる母なかを「ダメ!一日一食」と律して、挙句に「もういい、私が戦に行く」と言い出す、勇ましい姉とも。

 彼女は、帰還した弟藤吉郎の頭も、有無を言わさずぶっ叩いた(野党が戻ってきたと思って)。藤吉郎だと分かったら「こいつに比べたら、野党の方がマシ!」「猿はとっとと山へ帰れ!」と怒鳴る。その藤吉郎をあっさり受け入れる母なか。家族の関係性も見える、マンガみたいな場面だった。

 当時ではもう良いお年ではないかと思うのだけれど、ともは結婚はまだ?あさひだってそうだよね。口減らしのために、女子はとっとと嫁に行かされるものかと思っていたよ。秀吉が村で盗人扱いになった関係で、後ろ指を指される盗人の身内は嫁に行きたくても行けなかったか?

 そして、子どもたちを甘やかす母なか。なーんも考えていないような、なかとあさひが味わうウン十年後の運命を思うと泣けるよねえ。もっと泣けるのは、姉ともか。栄華の後に、泣いても泣き切れない運命が待っている。

 秀吉一家の歴史上のイベントは、大河で何度も描かれてきたから、ファンの皆さんは大体のところは頭に入っているもんね。それをどう小一郎が和らげてソフトランディングさせて「みんなが幸せ」にしてくれるのか・・・彼が生きてる間だけでも、先の地獄を感じさせずに幸せ満開の豊臣一家を見せてもらいたい。お手並み拝見だ。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#48 天罰下すも作者の自由!大河にはニッチな主人公のドラマをきれいにまとめて見せた、よく出来た最終回~1年間面白かった

しっかり蔦重の臨終でシメ

 昨日は日曜日。いつもは「べらぼう」が放送されていた。なるべくその日までに今回も書こうと思ったのだけれど、はるばる横浜の「お城EXPO」に参城してきた関係で、1日遅れと相成り申した💦

 私のような人生の折り返しを過ぎた世代も多数いれば、ちびっ子たちまでが大挙お城目当てに集っていたのは末頼もしい。特にちびっこの研究発表が高度で、ええ?これを小学生が書いたの?と度肝を抜かれた。また、会場では誰それを大河ドラマに!という署名活動も行われていて、私は「北条5代」に署名してきた。千姫も良かったかも、だけどね。

 さて、NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」最終回(第48回)「蔦重栄華乃夢噺」が12/14に放送され、主人公の蔦屋重三郎は九郎助稲荷(演・綾瀬はるか)のお告げの通り、初回から視聴者が毎回聞き慣れてきた例の拍子木の音と共にこの世に別れを告げたのだった。

 このために1年間、耳に仕込まれてきた音だったのか・・・さっそく公式サイトから、最後のあらすじを引用する。

≪あらすじ≫最終回「蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)」
 店を再開した蔦重(横浜流星)は、写楽絵を出し続け、更にその後、新たに和学の分野に手を広げたり、本屋として精力的に動いていた。しかし、ある日、蔦重は脚気の病に倒れてしまう。てい(橋本 愛)や歌麿(染谷将太)たちが心配する中、病をおして政演(古川雄大)や重政(橋本 淳)、南畝(桐谷健太)、喜三二(尾美としのり)ら仲間とともに作品を作り、書を以って世を耕し続ける。そして蔦重は、ある夜、不思議な夢をみて…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎最終回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 今年の大河は、正法寺に再現されている石川雅望(宿屋飯盛)筆「喜多川柯理墓碣銘」と大田南畝筆「実母顕彰碑文」を見た時から、最終回のアイデアは決まっていたんだろうな。このままドラマにすれば面白いと。

 そこにキャスト総出の例の「屁踊り」を嚙ませる。相当の年齢であるはずの吉原の懐かしい忘八たちも踊っていたんだけれど、そういう方たちに送られてしまうのだもの、蔦重は相当早死にだった。数えで48なのだよね。まだまだ若い、もったいない。

 墓碑銘は最後の紀行でも紹介されていた。私も正法寺にお墓参りに伺って写真を撮らせていただいて、以前のブログでご紹介した。

toyamona.hatenablog.com

 この回のブログの後半の方にお墓参りの顛末を書いているのだが、自分でもいつの回に書いたのだか分からなくなって😅ブログ内を「正法寺」で検索して見つけた。最近の記憶力の悪さに愕然とする。

 さ、私のショックはどうでもいい。ドラマの中で、宿屋飯盛が墓碑銘を書いて踊っていたね。

宿屋飯盛:「喜多川柯理(からまる)。通称、蔦屋重三郎。吉原に生まれ、大門外で小さな本屋を始め、その後、日本橋に大店を出した。志高く、細かいことにはこだわらず、信義を以て人と接した。巧みな発想と商機を読む目に支えられたその商いは、まるで陶朱公のごとく。それは、彼にしかなせぬ業(わざ)であった。寛政九年五月六日、彼は自分は今日の午の刻に死ぬだろうと言ったそうだ。午の刻と言ったそうだが・・・。

 その後、飯盛(江戸払いだったかで市中に本当は入れない)が、ひとり「屁踊り」を踊っていたので「え?テレパシー?皆が日本橋で踊っていて離れたところで飯盛も?有り得ないでしょ」と一瞬突っ込みたくもなったがご愛敬。偶然の産物ってことで。

 ドラマの中で映像化されたので、飯盛の墓碑銘は文章としては尻切れトンボ。そこをありがたくも最終回の「べらぼうナビ」では現代語訳にして補っている。 (【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎最終回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK)亡くなった日の当日の様子の記述を見てみよう。

 (略)寛政九年夏、彼は「自分は昼時には死ぬだろう」と言った。没後の蔦屋の諸事について整理し、妻と別れの言葉を交わして最期の時を待った。昼時になり、「まだ拍子木が鳴らないな。どうしてこんなに遅いのか」と笑った。そう言った後、再び口を開くことは無く、夕刻ついに亡くなる。享年四十八。正法寺に葬る。(略)

 この時代の人々の営み、それは全てこの男が出版した稗史小説の中に載っている。独自の美意識に彩られたこの江戸の都の中で、この男を知らない者は一人もいるまい。

 最後の部分が凄い。江戸のエンタメ王として、知らぬ者はいないと。本当にねー、よくぞ吉原から成りあがったものだ。この最終回の仕舞い方について、作者の弁が公式サイトにしっかり載っていたので、こちらも一部だけでもったいないが引用させていただこう。

 ・・・最終回をどう仕舞うかは当初から議論はありまして、写楽で終わり、その後、お稲荷さんが未来を夢で見せてくれるなんて案、全ては蔦重の見た邯鄲のごとき夢なんて案もございました。しかしながら、飯盛の残した、蔦重臨終の様子があまりにも蔦重らしく、蔦重さんにもその話をしたところ「俺、そんな風に死にたい」とおっしゃったのもあり、ここは一つ飯盛の残したソレを存分に味わっていただこうと本編のような仕立てとなりました。

 (略)そして迎えたラストシーン。蔦重の謎の臨終時間予告、そのきっかけとなるお稲荷さん、お貞さんの陶朱公話、皆で屁踊り、いろんな要素がピタッピタッとハマっていく感じが書いててとても楽しかったです。最後にタイトルバックに使われる拍子木の音が本編の流れとピタッとはまった瞬間、「この物語はこれでよかったんだよ」と言われている気がしました。最後にタイトルを入れてーー、蔦重の夢のような栄華の噺は終わり。お疲れ様私、そして、お疲れ様蔦重。

 (脚本・森下佳子の大河べらぼうこぼれ話【15】 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 蔦重さんにもその話をしたところ「俺、そんな風に死にたい」とおっしゃったのもあり・・・これは演じる横浜流星に話したってことか?作者の頭の中の蔦重さんに?どっちでもいいか。

おていから夫蔦重へ、終いの贈る言葉

 「では、今日の昼九つ午の刻に迎えに来ますので。蔦重さんをあの世にお連れするためのお迎えです。では、思い残しなきよう、皆様ときちんとお別れをなさってください。合図は拍子木です」と、九郎助稲荷は、人の死を告げるにはやけに明るくにこやかで嬉し気に話していたね。

 この空気を読まない、浮世離れした突き抜けた明るさのお稲荷さん。真面目そうなのにおかしくって、綾瀬はるかにピッタリだったね。他に誰ができたかなと想像すると・・・いないねえ💦若い黒柳徹子かな。橋本環奈も、あっけらかんとできたかな。

 夢の中で聞いた言葉を、蔦重はおていに告げた。おていはそのお告げをしっかり者の「みの吉」以下店の者たちに告げ、彼らが皆さんに知らせてくると請け負った。しかし、誰も来ない。向かい合った正面、至近距離に店を構える鶴屋はどうした?朝からどこかに行ってるの?旅先?

蔦重:誰も来ねえなあ・・・。

てい:もう、死ぬとは思われておらぬのかもしれませんね。 

蔦重:ああ・・・一応、二代目でも決めますか。

てい:そうですね。

蔦重:おていさんが、やるかい?

てい:私は旦那様とそう年も違いませんし、みの吉に継いでもらい、嫁を取らせるのが良いかと。

蔦重:あいつ、継いでくれっかな・・・。

てい:念のため聞いてみたところ、まんざらでも無いようでございました。

 みの吉が、まんざらでも・・・と想像すると少しおかしいが、ていは万事その調子で抜かりなく準備を整えていた。仕事の依頼先の戯作者、絵師、板木屋、摺師らのリストを作り情報や注意点をまとめ、店は問題ないようだと蔦重をうならせた。

 通夜も「寺に、今夜になるかもと、ただいま知らせに行っております」「こちらが戒名にございます」「墓碑銘なら、飯盛さんにお願いしようと考えております」と、蔦重が「あれは・・・」と問いかけるたびにピシッとした回答を、ていは間髪入れずに返した。さすが。

 ていが仕事ができる人物だとは知っているけれど、事は夫の葬式関係。心乱れるはずだよ・・・けれど立派だ。私なんかグダグダになりそうだよなあ。まず、準備はできないね。

 ていが夫に気持ちを告げた、最後の夫婦の場面が心に残った。

蔦重:万端だねえ。

てい:・・・万が一のことをずっと考えておりましたので。(葬式準備などの書付け)こんなもの、屑屋に出せるようになるのが一番と思いつつ。

蔦重:屑屋かあ・・・懐かしいなあ。昔、寺で言ってたじゃねえですか。屑屋に出せば本もただの屑だけど、読む人がいりゃあ本。本も本望、本屋も本懐って。

てい:然様な事、言いましたっけ?(ていは、マキタスポーツ演じる住職に言っていた。それを蔦重が盗み聞きしたのだったね。)

蔦重:覚えてねえんですか?

てい:よく覚えてますね。

蔦重:忘れるもんかあ。(てい、寄り添って蔦重の背中に手を当てる)陶朱公のように生きればいいって言ったのは覚えてるかい?

てい:はい。それはさすがに。

蔦重:ちっとはそんな風に生きられたかなあ・・・無理か。町を栄えさせ、築いた富を分け与えとはいかなかったもんな。

てい:江戸はもちろん、今は名も知らぬ町や村で見知らぬ人たちが黄表紙を手に取り、狂歌を楽しんでおられると聞きました。それは、旦那様が築き上げ、分け与えた富ではございませんでしょうか。その富は、腹を満たすことはできませぬ。けれど、心を満たすことはできます。心が満たされれば、人は優しくなれましょう。目の前が明るくなりましょう。次は己が、誰かの心を満たそうと思うかもしれませぬ。然様な「笑い」という名の富を、旦那様は、日の本中に振る舞ったのではございませんでしょうか。(涙ぽろぽろ、でも微笑んで)雨の日も風の日も、戯けきられたこと。日の本一のベラボウにございました。

蔦重:そっか・・・うん。(おだやかに遠くを見る目で微笑む)ああ・・・うん。(痛み、胸を押さえて顔が歪む)

てい:旦那様?旦那様!旦那様!

 もうね、ていさんの言葉に不足は何も無いよね。全部大きめな字にしたかったくらい。これが、蔦重が妻で同士である彼女に言われたい全てで最高の言葉なんじゃないの?蔦重が日本でマンガの国の住人を育て始めたんだなってドラマの黄表紙を見てずっと思ってたからね。日本人のマンガ好きはここからね、きっと。

 この後、ようやく人々が駆けつけてきたのだが、まず最初に顔が見えたのは義兄さんの次郎兵衛と歌麿。そして真向かいに住む、一番に駆けつけてもよさそうだった鶴屋。日本橋の地本問屋仲間が続き、戯作者・朋誠堂喜三二や絵師・北尾重政&政美が来て、声の大きな馬琴、貞一(一九)、春朗(北斎)も来た。

 大田南畝と狂歌師連中が続き、ぐったりしている蔦重に「まだ午の刻ではないぞ!」と南畝が叫んだところで、ぴったりゴーンと午の刻の鐘が鳴り始めたのには、ご臨終のところで申し訳ないが笑うしかない。あはは・・・💦

蔦重:皆様・・・まこと・・・ありがた山の寒がら・・・(ていの腕の中でぐにゃりと脱力、落命か)

 やってきた政演が「どうせ担いでんでしょ?」と鐘の鳴る中で言っているところに、吉原の駿河屋市右衛門とふじが「重三郎~!」と名を叫びながら、半泣きで部屋に入ってきた。忘八の面々も来た。吉原から日本橋へお疲れさまです。

ふじ:重三郎!(泣いている)

駿河屋市右衛門:起きろ・・・この、べらぼうが!(ていの腕の中で動かない蔦重)

大田南畝:親が別れも言えぬなど・・・呼び戻すぞ!蔦重!俺たちは・・・屁だ~!あそれ!へ!へ!

一同:へ!へ!へ!へ!(蔦重の周りを踊って回り始める。)

てい:義兄上様。(次郎兵衛に蔦重を預けて、ていも反魂の踊りの輪の中へ)

一同:重三~!蔦重~!へ!へ!へ!戻ってこい!戻ってこい!蔦重~!

次郎兵衛:(ぐったりする蔦重を抱えている。蔦重の髷を撫でる。)

 蔦重は次郎兵衛さんに抱えられて髷を撫でられていた。そういえば、前回、定信が治済に撫でられていた時は屈辱的だったね。しかし、同じ行為であるのに、義兄さんは義理の弟の命を惜しんでの慈愛の髷ナデナデ。こうも違う。

次郎兵衛:重三!

一同:へ!へ!

次郎兵衛:重三!

蔦重:(うっすら目を開ける)拍子木・・・聞こえねえんだけど。

一同:へ?(踊りが途切れて静寂の中、カンカーンと拍子木の音) 

 きれいな締めくくり方だな~。カンカーンで召されたか。蔦重は「へ!」の大合唱で聞こえなかったのだろうねえ。九郎助稲荷が、蔦重に聞かせようと屁踊りに負けじとカンカンカンカン鳴らしてたのかと思うと可笑しいね、まさに必死にね。

天罰が下った一橋治済

 前回の、驚きの将軍家斉も一枚噛んだ計略により、替え玉の蜂須賀家の能役者・斎藤十郎兵衛が一橋治済として江戸城に戻り、薬で眠らされた治済は、阿波の孤島に幽閉されるべく、長持に入れられて江戸を離れた。

 治済の命を取らなかったのは、プランを立てた蔦重がそう望まなかったから。すぐ命のやり取りにしたがる武士とは、メンタリティーが違う。そういう話だったはずなのだが・・・。

 作者の森下佳子は「それじゃ、皆がモヤモヤしちゃうよね?」と考えたってことだ。治済に、思いっきり天罰の雷をお見舞いした。落ちたのは額を直撃、ひとたまりもない。いいよね、何をお見舞いしようが作者の自由だもん。(あ、でもちゃんとリアルの治済はこうでしたよーの説明も、今回の「べらぼうナビ」の先頭で書いていたね。ここまで嫌われる悪役を演じ切った生田斗真もお疲れ様!)

 源内先生を想起させる「髷に特徴のある人物」が傍には佇んでいて、すぐ姿を消してしまった。こりゃエレキテルに間違いないでしょ。森下先生は源内好きだよねー、とニヤニヤする。天上組の家治やら意次に指令を受けて、源内が地上に降り立ったのだと思うと、さらにゾクゾクする。

 家治は、死して天の一部になってるんだもんね。天にいて、やり残していた将軍としての分をようやく果たしたのかもしれない。そうだよね。

 ちなみに、この放送された日が12/14なものだから、仇討ちと言えば・・・の本家を思い出した方がいた。なるほど、全然気づいてなかった。

斎藤十郎兵衛が写楽メンバーに

 写楽絵(全身の細長い絵)を描いている姿で登場した斎藤十郎兵衛が、「あの方=治済」の死を田沼意次の甥で一橋家老だった意致(前回は遠景で一瞬だったが、しっかり降臨した)に告げられた時に言っていたのだが、蜂須賀家は斎藤十郎兵衛が出奔したことにして、早々に新たな十郎兵衛を支度した、ということだった。

 だから、もう替え玉になった彼は、元には戻れない。それに、新たな十郎兵衛を仕立てられた際にも何の波風も立たず、「私など、居ても居なくてもさして変わらぬ者であったということだ」と少なからずショックを受けてもいた様子だった。今の生活に満足だと言いながら。

 だからだろう・・・蔦重が、「実は陰で骨を折って下さったかお方がいんですよ。斎藤十郎兵衛様って御方なんですが(略)後の世で写楽のひとりって名が挙がるような仕掛けが出来ねえかって」とチーム写楽の面々を前に言い出したのは。世の中に、確かに斎藤十郎兵衛という存在があった確たる証拠を残してあげたかったのではないか?

 チーム写楽の前でその話をした時に、なぜか最終回だけ岡崎体育が出てきたよ・・・と思ったのだったが、彼(絵師の栄松斎長喜)こそが、史実で「写楽は斎藤十郎兵衛」と言った人だったんだそうだ。

『浮世絵類考』の写本の一部[注 12]には「写楽は阿州の士にて斎藤十郎兵衛といふよし栄松斎長喜老人の話なり」とある。栄松斎長喜は写楽と同じ蔦屋重三郎版元の浮世絵師であり、写楽のことを実際に知っていたとしてもおかしくはない(長喜の作品「高島屋おひさ」には団扇に写楽の絵が描かれている)。(東洲斎写楽 - Wikipedia

 なるほどねー、だから岡崎体育にはその場にいてもらわないと困るのだね。印象的だから、視聴者の記憶には残るね。

 じゃあ、日記魔だった馬琴が写楽の正体を書き残していてもよさそうなものだ・・・と思ったところで、そうだそうだ、だから馬琴は写楽プロジェクトから外された設定だったのか!と膝を打った。よくできてる。

 大河ドラマのある所、日記魔あり・・・と言いたいところだが。昨年は黒光りの君の藤原実資がいてくれて感謝したけど、今回は、むしろそのために整合性が付かなくなる日記魔をプロジェクトから外すという配慮が必要だったのでは?

「皆が写楽」歌麿の穏やかな着地

 相変わらず北尾重政先生はとても良い人で、写楽の正体の話になった時、蔦重に対して「写楽は歌だってなあ言わねえのかい?いっち骨を折ったのは歌じゃねえか」と言った。「歌麿先生はどうだ?世に知らせてえか?」と蔦重が聞くと、歌麿はこう答えた。

歌麿:う~ん・・・俺の絵って言われてもしっくりこねえし・・・皆が「写楽」、それがいい。(良い笑顔)

 その胸の内を、歌麿はさらにおていに告げた。胸に打ち込まれていた楔が抜けたような良い笑顔を、おていに向けて。

てい:もうお帰りで?

歌麿:仕事、溜まっちまっててさ。

てい:歌さん。この度はまことにお助けいただきありがとうございました。(深々と礼)

歌麿:こちらこそ、ありがた山でした。(すっきり抜けた、弾んだ笑顔)何か、許されてるみてえな気がしたんだ。(写楽絵を眺めて)俺ゃ、望まれない子でね・・・けど、写楽の絵にゃあ、皆が溶け合ってんじゃねえですか。重政先生や政演さん、政美、一九、春朗。蔦重や南畝先生、三和さん、まあさんの考え、源内先生だって。俺も、その一部ってえか・・・鬼の子も、この世の仲間入りしていいんですよって言われてるみたいでさ。まあとにかく、声かけてくれてありがとう、義姉さん。(明るく笑いかける)義兄さんにも、そう言っといてよ。

 歌麿の「皆が写楽、それがいい」の意味はそういうこと。皆が溶け合っている写楽の一員であることで、「この世の仲間入り」が許されたと感じていたのだね。彼の深い「鬼の子」トラウマが、写楽プロジェクト参加によってようやく払拭されたのだ、あの笑顔を見ると。

 あー、このドラマの染谷歌麿ファンとしては、良い着地点を用意してくれて、本当にありがとうと言いたい。重政先生のように、歌麿が一番骨を折ったじゃないかと認めてくれる人もいて、写楽プロジェクトは何て優しいつながりなんだろう。皆が写楽、粋な話だ。

 歌麿が病床の蔦重に見せていた、山姥と鬼の子の浮世絵は、私も見たことがある。それを蔦重に見せた歌麿は、物語の筋に沿って描かれていくその絵が、今後どうなっていくか見たくないか?だったら死ぬなと蔦重に言った。

 歌麿にとって、蔦重はずっと慕っていた人。恋愛感情には自分で終止符を打ったけれど、その人が命を終えようとしているのだ。生きてほしいと願うだろう。やるせなく、胸が引き裂かれる思いだろうね。

盛りだくさん過ぎる人生を生き切った

 ああ、盛りだくさんなものだから、書き切れない・・・!蔦重が死を悟ってから書いた「身体開帳略演技」という黄表紙が、全然上達していなくて喜三二にくさされていたのも可笑しかったし、蔦重が己の死をネタに本を売りまくったのもとっても「らしい」行動だ。転んでもタダでは起きない。

 それに、後世の私たちが知っている大作家先生たちにも道筋をつけていたのが嬉しいポイントだった。

 まずは、私は「滝沢」馬琴で覚えた年代だが、今は「曲亭」馬琴で習うらしい。朝ドラ「らんまん」の寿恵ちゃんが尊敬してやまなかった「南総里見八犬伝」の瑣吉ね。蔦重は長いのを書けって言ってたね。十返舎一九となる貞一にも、葛飾北斎となる春朗にも、蔦重なりのアドバイスを残していた。後の彼らの出世ぶりについても、べらぼうナビに解説が載っている。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎最終回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 蔦重って、もう自分では生き切ったと思っていたのかもね。脚気について、江戸から田舎に帰って治った人がいると聞いていたのに、ああだこうだおていに抵抗して養生に行こうとしないのだもの。本当に治りたい人なら、お金もあるんだし、転げるように地方に下りそうなものだ。歌麿先生の栃木のツテ(U字工事ね)を出すまでもなく、売り広めのネットワークは広がっているようだし、出来ない事ではなかっただろう。

 うちも猫型の子どもを授かって既に天にお返しした夫婦なので、いつでも猫息子に呼んでほしいと思っている。呼ばれた者勝ち、なんて言い合っている。蔦重も、最期まで「書を以て世を耕す」気概でガシガシ仕事はしている盛りだくさんな人生なれど、もしかしたら、流れてしまった子に1日でも早く会いたいクチだったのかもなあ。

 あんまり蔦重の食生活は分からなかったが、脚気になるんだから偏っていたんだろう。山のように積まれた梅干しが店の食事時のシーンで映っていたことがあった。梅干しで白飯だけを山のように食べていたかな、当時の江戸だからな。

 食事係ナウシカのしじみ汁を毎日飲み、おかずも食べていたらまだ良かったよね。しじみ汁は朝ドラ「ばけばけ」の要請があったのだろうが、酔っぱらった時だけの登場か?屋台で蕎麦だって良かったんじゃないの?蕎麦の粒を丸ごと石臼でひいて粉にして蕎麦を打っていたのだよね?

 蔦重が、つまみもろくに食べずに塩だけで大酒を飲んで「これが旨えんですよ」と悦に入るタイプだったりしたら最悪だ。宴会でも、食べずに盃片手に話をするのに忙しそうだから、ビタミンB1の消費が激しかったんじゃないのか。

 忘八の親父たちみたいに、料亭百川のご馳走を年がら年中食べてたら・・・特にウナギやカボチャばかりを食べていたら良かったよねえ。道理でみんな長生きで、蔦重を送る側になってたよ。

ビタミンB1を多く含む食品

  • 豚肉特に豚ヒレ肉はビタミンB1が豊富です。
  • うなぎビタミンB1が多く含まれています。
  • ナッツ類ピーナッツやアーモンドなど。
  • 全粒穀物玄米や麦芽米など、精製されていない穀物が良いです。
  • 豆類大豆やあずきなどもビタミンB1を含んでいます。
  • 緑黄色野菜特に葉物野菜や根菜類も重要です。

 200年以上も前の江戸時代の人物に、これだけ長生きしてほしかったと思ってしまうのだもの。長生きしていたら、他にどれだけの面白いことを成し遂げてくれたのやら。本居宣長の源氏物語関係が、猫も杓子も親父どもも「もののあわれ」を歌にくっつける以上に世を席巻していたか?

 1年前にはほぼ蔦重の事なんか知りもしなかったっていうのに。家にある「コンサイス人名辞典」を試しに開くと、北斎、歌麿はもちろん、ちゃんと蔦重も喜三二も春町も掲載されていた。そうだったんだ・・・これまで武士ばっかり見てたなあ。勉強になった1年だった😅そして、江戸の町人文化を面白く楽しませてもらった。

来年は、また戦国時代

 森下佳子先生にはまた大河ドラマを書いてもらいたい。直虎、蔦重と来て、誰かお目当ては居るのだろうか?

 私は大河ドラマのために喜んでNHKに受信料を支払っている。身近な最高のエンターテインメント作品だと思っているので、そこで蔦重が取り上げられたのも良かったよね。

 さて、来年はお馴染みの戦国の三傑の時代に戻る訳だけど、新規のちびっこファンを大勢取り込むには、繰り返しやらなきゃね。やっぱり戦国時代の王道の人物が出てこないと、お城EXPOで見たような、幼い歴史ファンの裾野が広がらない。それだと大河ドラマ存続のために困る。

 豊臣秀長は、私の推し武田信繁と同じく兄を支えた名参謀として昔から立派だと思っていた(堺屋太一の書いたイメージで)。今年のような驚きは少ないだろうが、どう攻めるのか、楽しみ。寿恵ちゃん(浜辺美波)が寧々を演じるんだってね。それだけで面白そうだ。

 1年間グダグダダラダラにお付き合いいただいた方々、どうもありがとう。良いクリスマスと年末年始をお過ごしくださいませ。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#47 大崎の自白で家斉動く!傀儡好き父治済に鉄槌下す驚きの復讐劇!兄・家治の仇討ち完了の清水重好がここぞのドヤ顔、意次思う三浦の涙にもらい泣き✨

実は、みの吉&水野がファインプレー✨

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」ラスト前の第47回「饅頭(まんじゅう)こわい」が12/7に放送された。主人公が世を去るドラマしめくくりの次回を前に、これまで大暴れしてきた一橋治済に鉄槌を下すことに成功し、実質的な最終回となった感があった。ああスッキリ✨

 仇討ちは、プロデューサー蔦重の「そうきたか!」で、がぜんスケールが大きく面白くなったよね😊やっぱり定信主導、主人公そっちのけじゃ空回り、ドラマとして許せませんって。

 しかし、よく史実がスポスポとドラマの流れにうまい具合にハマったものだ。というか、よくハマる史実を拾ってきて面白いドラマに仕立てたものだ、と感嘆すべきなのか?パズルが仕上がっていくような脚本のうまさには舌を巻くばかりだったね。

 さて、公式サイトからあらすじを引用しておこう。

≪あらすじ≫ 第47回「饅頭(まんじゅう)こわい」
 定信(井上祐貴)や平蔵(中村隼人)たちの仇討ち計画は、治済(生田斗真)に気づかれる。治済は毒まんじゅうで大崎(映美くらら)を死に追いやり、定信や蔦重(横浜流星)たちも追いつめられる。一時的に店を閉めた蔦重だったが、定信のもとを訪ね、将軍・家斉(城 桧吏)を巻き込んだ驚きの策を提言する。仇討ち計画は再び動き出し、定信は、体調を崩していた、清水重好(落合モトキ)の元を訪ねる…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第47回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 蔦重の策とは、みの吉の言葉に触発されてのものだった。治済の毒まんじゅうを食わされたみの吉は、毒を吐き切れておらず、倒れる。そして「浮世の嵐が通り過ぎるのを待つしかない」と諦めを口にしていた蔦重&てい夫婦に、苦しみながらもこう言うのだ。

みの吉:ウッカリ毒まんじゅう食わねえですかね、そいつ・・・仕込んだ奴が、ウッカリ食ってぽっくりってなあ、面白くねえですか・・・。

 みの吉の言葉で、蔦重は頭を働かせて策を練ったのだろう。ここで、おていも以前のように協力してアイデア出ししていたらいいな。クラリス&ナウシカ(島本須美演じる「たか」のことです💦)にも「冗談じゃありませんよ!」と発破をかけられていたしね。

 策を胸に蔦重が定信の邸へ赴いた時、定信は、城で治済に散々いたぶられて涙目で「差し違える!」と頭から湯気を立てていた。そんなところに蔦重が来たのだけれど、主の判断も仰がずに会わせたのが定信腹心の水野為永だった。

 蔦重に押し切られたのかもしれないけどね、水野偉い!あちゃー(冷や汗)って顔していたけどね。

水野為永:殿、ご無礼仕ります。(蔦重に)入れ。

蔦屋重三郎:(紋付羽織袴姿。ひれ伏す)

松平定信:本屋の相手をしておる暇はないのだが。

蔦重:そうおっしゃらず。なんせ、暇なもんで。どなた様かの不手際で店を休むことになりまして。

定信:一生、店を開けられぬようにされたいか?

蔦重:ちと思いついたのでございますが、傀儡好きに毒まんじゅうを食わせるってなあ、いかがにございましょう?毒まんじゅうの仇は、毒まんじゅうで取るってなあ、こりゃなかなか頓知が利いておりますかと。こう、うっかりパクっと食わせちまって。

定信:ふざけるのもいい加減に・・・!

蔦重:と、仰られても、ふざけんのが私の分にございますんで。ああ確か、きっちり分つとめてりゃ、良い世が来るのではございませんでしたっけ?(控えの水野が冷や汗をかいている)

柴野栗山:毒まんじゅうをウッカリ食わせるとは、これ如何にして。一橋の奥女中でも抱き込み、仕込ませるのか?

蔦重:いや、それじゃあ奥女中の首が危ない。これ以上、死人が出んのはいただけません。

栗山:では如何に?

蔦重:お一人だけおられましょう。誰にいくつ毒まんじゅう食わせても、許されるお方が。

長谷川平蔵:まさか・・・!

定信:然様なことができるわけがなかろう!

蔦重:けど、こりゃ上様の分にございます。上様ってなあ、この世に泰平をもたらすためにいらっしゃる。泰平を乱す輩がいんなら、毒まんじゅう食らわすのが上様の務め、分だ。私らには分を分をって仰いながら、天下を治める公方様が己の分には知らん顔ってなあ、こりゃ、道理が通らないってもんじゃございませんか?

 蔦重は「これ以上死人が出るのはいただけない」と言っている。つまり、治済を殺すつもりはない。お武家には信じられない話だろうが、だからこそ清水重好や上様までも乗せることもできたのではないか。

定信:清水重好を説得➡重好:自然な流れで実行役に

 治済は人非人だよね。もう野放しにしておけない輩だ。だから、定信は歯ぎしりばかりしてもいられず、プロデューサー蔦重の案に乗っかるしかなかったと思うんだよな。

 定信が話をしに行ったのが、御三卿の清水重好。亡き10代将軍家治の唯一の弟だ。そしたら、上手い具合に自分の不甲斐なさをずっと悔いておられた。そうだろうよ。そうあってほしかったよ、あの時にあの場にいたんだもん。

定信:我らは今、上様とお話しできるお方を探しております。清水様・・・どうか、どうか!我らの仇討ちに力をお貸し願えませぬでしょうか!

清水重好:(病でやつれている。「死を呼ぶ手袋」を手にして定信の話を聞いていたが、手袋を置く)ちょうど、兄上と甥に冥土の土産をと思っておった所でな。あの日よりずっと、仇を討てぬ己が不甲斐なく・・・。

定信:あの日・・・とは?

重好:兄上、先の公方様がお亡くなりになられた日にの。

回想の徳川家治:(治済に)天は、天の名を騙るおごりを許さぬ!

定信:なんと・・・先の公方様自ら、然様なお言葉を。

重好:上様を傷つけぬためにか錯乱を装われておった故、意味は取りにくかったが。

定信:お待ちください。その場には、上様もおられたのでございますか?

重好:うむ。ご幼少におわした故、覚えておらぬかもしれぬが。

定信:その時のことを、上様に思い出していただければ・・・。

 重好は、定信の話に乗った。目の前であのような兄の死に様を目の当たりにしたんだもんね。「我らの仇討ちに力をお貸し願えませぬか」と定信は言うけれど、本来これこそは「我の仇討ち」のはず。あの日からずっと悔しく不甲斐なく思ってたんだから・・・チャンスがきた!お膳立てしてもらえるんだからやらねば!と考えたと思うんだよ。

 家治と家基の仇討ちに重好が立ち上がったのかと思うと感慨深い。ジンと来る。9代将軍家重の血筋は皆優しかったからなのか、全て道が敷かれて与えられる環境が当たり前でひ弱だったからなのか、考え抜いて攻撃してくる治済には弱く、あれよあれよとやられるばかり。重好は、家重の血筋のたった一人の生き残りになってしまった。

 子がない重好は失うものが無い(ドラマでは、子は授かっても、悉く大崎に葬られてきた裏設定なのかもね)。病も篤く、もう先も見えている。ずっと不甲斐なく思って家治と家基への冥土の土産をと思っていた。・・・族滅を前に、家重一族を代表して重好が仇討ちの実行役となったのは自然な流れだったよね。

重好:上様、実はここのところ亡き公方様が私の夢枕に立つようになりまして。亡き公方様、そして西の丸様の無念を晴らすと、物騒なことを仰せで

家斉:・・・それは、まことか!(前のめり)

治済:上様、ご無礼致す。(やってきて、重好の隣に着座)おお、これはこれは中納言様。お身体もおつらいと聞きます所、わざわざ側室などのお悔やみに。

重好:私もそう先は長くなさそうにありまして、ご挨拶差し上げておかねばと。

治済:それはご丁寧なことで。まこと・・・。(優し気に見つめる)

重好:(やや怯えて)今後の当家の家督についてご相談し申してはどうだと、越中に勧められたのもございまして・・・。

治済:ほーう、越中が?

重好:はい。では・・・では、上様。(下がる)

 まずは家斉にジャブを繰り出したばかりだったのに、出た~・・・治済が将軍の座に自由に現れカットイン、動揺した重好は定信の関与を口にしてしまった。これだもん、三浦が心配するのも当然だね。

 しかし、重好はこれで終わらず、(表には出てこないけどたぶん蔦重のプランに従い)茶席をもうけて眠り薬を盛るという、計画において最も重要な役をやり遂げた。

 薬を盛られたと悟って「まさか、諸共に・・・」と抗いつつも、意識を失っていく治済。くいっと少し顎を上げた重好の表情が、冷たくもこの上ないドヤ顔だったよね・・・お役目完了、めでたしめでたし✨✨

家斉の関与が無ければ治済を騙せなかった

 口実をもうけて清水重好の邸に招き、茶席で眠り薬入りの茶を飲ませ眠らせ、その間に替え玉の斎藤十郎兵衛と取り替えてしまい、本物の治済は阿波の孤島に送って監禁する・・・殺さない、というのが蔦重プランの全貌だった。

 お茶に毒というと、「麒麟がくる」で本木雅弘演じる斎藤道三が娘帰蝶の夫に飲ませて殺すシーンが鮮烈で忘れられない。その殺される婿を演じていたのが、「丈右衛門だった男」の中の人だったというね・・・。

 ま、今回は殺さない眠り薬だけれど、飲まされる方の治済は飲まされるなら殺傷力のある毒だと信じて、普段からめちゃくちゃ用心していたのだろう。清水邸でも息子の将軍に自分のために毒見をさせているような格好で、人非人の面目躍如だった。

 (そういえば、お茶の作法は知らないけれど、お茶席で将軍である息子とベッタリ並んで上座に座ってる治済は、あれで作法に適ってるの?将軍と同等の扱いを望んでいるように見えるね。清水重好と向かいに座るものかと思った。)

 こんなに用心深い人をだますには、家斉の協力は不可欠。よくぞ計画に引き込んだものだが、家斉の心が動く決め手になったのは例の過去の記憶が蘇った事と、大崎の家斉への手紙だったよね。治済に指示されて犯した罪をすべて自白していた。

蘇った記憶

 記憶の方は、治済が言った言葉がきっかけで蘇った。それについては蔦重は知る由もない。

将軍家斉:父上・・・近頃、亡き公方様が夢枕に立つそうにございます!亡き西の丸と共に無念を晴らすと!父上、やはりここは改めての御法要を!

治済:くどい。

家斉:しかし・・・しかし夢枕にと清水も!

治済:おいたわしや・・・もはや中納言様は、夢か現もお分かりにならぬように・・・(去る)

家斉:ああ!(頭痛に襲われこめかみを押さえる。家治死亡時の記憶が蘇る。奥医師と小姓ふたりの他、並んで座る治済と重好。家治は、治済につかみかかって絶命した。重好に治済が何かを言う。その様子を上段から見ていた幼い家斉)何だ、これは・・・。

 家治が亡くなった時の様子を、第31回のブログから再録する。家治役の真島秀和がまさに圧巻の演技だった。

家治:(朦朧として横たわる。枕元に幼い家斉。下段の間に治済と、家治弟の清水重好が並んでいる)西の丸・・・もう、時もなさそうじゃ。故に、大事なことを一つだけ・・・。田沼主殿頭は・・・まとうどの者である。

家斉:まとうど?

家治:臣下には、正直な者を重用せよ・・・正直な者は、世のありのままを口にする。それが、たとえ我らにとり、不都合なことでも・・・。政において、それはひどく大事なことだ。

家斉:はい、父上様。

家治:(苦しそうな息で、視線を家斉に向ける)長生き一つできぬ不甲斐ない父で、すまぬな・・・家基!

家斉:え?

家治:うう・・・家基・・・(身を起こす)家基・・・(体をよじり、褥を出て這い始める)家基!(下段の間に降りる)・・・悪いのは、父だ・・・全て・・・そなたの父だ・・・(治済の胸ぐらを片手でつかむ)よいか・・・天は見ておるぞ!天は、天の名を騙る、おごりを許さぬ!(両手で治済をつかむ)これからは、余も天の一部となる・・・余が見ておることを、ゆめゆめ忘るるな!(表情を変えない治済、崩れる家治)

側近ら:上様!(駆け寄る)

清水重好:今の・・・?(治済の顔を疑いの目で見つめる)

一橋治済:西の丸様と、家基様を間違えておられた。はあ・・・おいたわしや・・・もはや、夢と現もお分かりにならぬように・・・。

奥医師:お亡くなりになりました。(一同、家治に礼をする)

治済:西の丸様。(向き直る)上様には及びませぬが、これからはこの父が西の丸様をお支え申し上げます。どうぞ、ご案じなく。

toyamona.hatenablog.com

 家斉は頭痛に襲われ、当時の光景を思い出したのだった。史実でも、家斉は相当の頭痛持ちだったらしいね。「悪いのはそなたの父だ」と言っていた家治。今になって、それが分かったね。また、治済は、疑念の目を向けた清水重好を煙に巻こうとしていたが、それが今の自分へと同じ言葉だったのが引っ掛かりとなって思い出せたのだね。

 家治役の真島秀和は、家治が死してもまだクランクアップしていない様子に見えて(オフショットで花束を貰っていなかった?)、後で家斉の夢に出て悩ませる出番でもあるのかな?と期待していた。回想では出たが、最終回では晴れ晴れとした幽霊姿で家基と田沼意次意知親子ともども出てきてほしいな。

 相良の大凧に、蔦重と源内さん、春町先生もみんな乗って天へ・・・良くない?

乳母・大崎の自白

 手紙の方は、やっぱりあの「釣りはいいので」と大崎が蔦重に渡した代金の包み紙に書かれていたわけだが、すっとこどっこいの蔦重は、あんなに訳アリの様子で渡されたのに、包みを開きもしなかった。視聴者全員が「なんで開けてみないんだ」と突っ込んだことだろう。

 今になって「大崎が傀儡好きの他やり取りをしていたのは、お主が最後ということくらいだ」と平蔵に言われ、ようやく「釣りは要らぬ・・・あ!」と包みから手を離さなかった大崎の様子に意味があったことに気づいた蔦重。えー、もう信じられない。

 江戸時代はリサイクル社会、反故紙でも集めて売られるらしい。あの紙がまだ回収されていなくて本当に良かった。店が閉まっていたからかな。さて、お手紙の内容は。

大崎の手紙:上様、お久しゅうございます。とは申せ、お手元にこれが届いた時には私はこの世におらず、地獄への道中を歩んでいることと存じます。人を殺めてきたからにございます。先の公方様、家基様、田安治察様、右近将監様、名も知らぬ数多の民、女子供。関わり方は様々ですが、全てはお父上様のお指図にございました。(家斉のこめかみが痛む)

回想の家治:(死に際)悪いのは・・・父だ。全て、そなたの父だ。

大崎の手紙:お父上様は、生身の人をまるで傀儡のように操ることがおできになる比類なき才をお持ちにございます。あの御方は天。この世の者は皆傀儡。私も傀儡。ご無礼にはございますが、上様こそ、最たる傀儡にございます。上様。どうか、お父上様の悪行をお止めくださいませ。あの御方を止められるのは、この世にただお一人。上様しかいらっしゃいませぬ。大さき

柴野栗山:まことに大崎様がしたためたかどうかは、私に知る術もございませぬが。

家斉:これは大崎の字だ。幼き頃より何度も見た、乳母の字だ・・・。それにもし、大崎の書いた物でなくとも、余は知っておる。

回想の家治:天は、天の名を騙るおごりを許さぬ!

家斉:ここにあることは真だと。とうの昔から・・・。

回想の治済:おいたわしや・・・もはや夢と現もお分かりにならぬように・・・。

家斉:栗山・・・余は如何にすべきであろうか?(涙目の栗山)

 三代将軍家光の乳母・春日局が有名だけれど、乳母は重要な存在だ。家斉の記憶には無くとも、大崎が家斉の生まれる時には産婆のように世話をしたらしいし、その後は乳母として幼少期の自分を育ててくれた母のような存在だったこと、それは大きい。だから、決定的に彼の心を動かしたのは、大崎の自白の手紙だったと思う。

 自分でも薄々知っていたけど、信じたくないけど、事実だったのか・・・と家斉はショックだったろうね。大崎の字も見知った物だったし。養父であった先代将軍家治も家斉を可愛がっていた様子で、その先の公方様に疎ましくも恐ろしい実父治済が手を下していたと知り、余計に申し訳ない、許せないと感じたかもね。

 これまで、大崎の心はなかなか読めなかった。高岳に手袋を持って行き、親指の毒が染みた部分をぱっくんする振りをして見せた時には、ずいぶんと浮ついた浮かれ野郎(女だけど)と思ったしねえ。自分もただの傀儡で、役目が終わればその内治済に始末されるだけの存在だとは、その頃は分かってなかったのかな。

 それでも、家斉には幼い頃からの母のような存在。と同時に、実父(治済)の悪行が明るみに出て、いわば「内々の処分に自ら関わるか問題」に直面した家斉。母代わりを殺された事実が、より許せなかったのではないか。

蜂須賀家につながれる柴野栗山

 清水重好が点てた一服の茶に眠り薬が仕込まれ、家斉が毒見したも同然の茶だからと安心して飲んだ治済が昏倒した。直前に家斉も気を失っているが、父・治済を油断させるために薬入りの茶を知りつつ飲んだ。治済から「結構なお手前で」を聞くまで、倒れないように耐えたのだろうな。

 事前に毒おろしの薬を飲んでいれば軽く済むものなら、家斉にはそうしてほしいものだが・・・きんつばを2つも食べていたから少しは大丈夫か?眠り薬は頭痛にも良いといいね。

 治済と家斉が倒れたのを見て、重好はコンと襖を叩いた。ドッと定信、平蔵らが入ってきて、眠っている間に治済は阿波の孤島へと送られた。替え玉の斎藤十郎兵衛が治済として帰り、一橋家の家老だった田沼意致(久しぶり~!なのに一瞬の遠いショット)と、そして家斉がサポートしたのだという。

 斎藤十郎兵衛が元々は能役者だけあって、治済の能面コレクションには目を輝かせていたね。趣味として生きるにはピッタリ。治済の腕が急に上がったなと思われるかもね。替え玉としての人生は、これまでの実の家族や友人知人とも切り離され、何と寂しい事だろう。

 考えてみると、柴野栗山(柴野栗山 - Wikipedia)がいなかったらこの仇討ち計画は全く立ち行かなかったのではないか?結構なキーパーソンだ。

 幕府内では湯島聖堂の最高責任者になっており、儒学者として家斉に教える立場でもある。同様に、過去には徳島藩の蜂須賀家当主の侍読でもあった彼。身代わりの十郎兵衛も知っていたんだし、どんだけうってつけの重要人物なんだ。

 この人を見つけて、ドラマを作る側は小躍りしたのではないか。阿波の孤島で治済を閉じ込めるについては、誰かが藩主・蜂須賀治昭(蜂須賀治昭 - Wikipedia)にいきさつを伝えなければならないが・・・ドラマ外の成り行きを考えると妄想が止まらない。

 まあ、話を持ち込めるのは栗山しかいない。かなりの蔵書家で知られている治昭だそうで、きっと寛政の三博士と呼ばれた栗山先生の事を尊敬していたに違いない。たとえ松平定信とは組みたくなかったとしても、栗山の頼みならば、定信の話だって聞くよ。

 でもね・・・栗山が話をしたとする。それでも、現将軍の父を陥れる計画なのだから、家斉の意向を確かめられる手段、例えば一筆が無いと蜂須賀家は簡単にはウンとは言えなかっただろう。いくらなんでもね。

 うっかり引き受けた結果が謀反扱いでお取り潰しじゃ、シャレにもならない。もし、蜂須賀治昭が仇討ち話にすぐに心を動かされたとしても、治済の孤島への閉じ込めを自分の藩で請け負うとなったら、ちょっと待てとなるはずだ。後始末を全部引き受けるのが蜂須賀家、何の義理でそこまで?となるよ。

 となると、将軍家斉からの依頼文が必要だ。それを栗山が蜂須賀治昭に持って行くしかない。もしくは、家斉が話をするしかないが、ここでも仲介者は栗山だ。この計画に蜂須賀家を繋ぎ止める栗山の役割の重要さと言ったら、想像すると身が震えるね。

 前回ブログで、儒学者として躊躇もあったのではと書いたけど、栗山は自分から治済のそっくりさんの存在を言い出すことは無かったね。長谷川平蔵が斎藤十郎兵衛を連れてきて初めて、実は、と言い出した雰囲気だった。

 治済を殺さないことについても、始末してしまいたい武家の皆さんを抑えて蔦重のプランに賛同してくれたのは栗山だと。「どんなに極悪人の親でも親殺しは大罪」ということだった。

 生かされて、孤島に置き去りの方がつらいような気もするが。死刑になるよりもつらい終身刑みたいな。次回予告でちらりと見えたけど、治済は逃げようとするのか船を追いかけるのか・・・まさに孤島に置き去りになった俊寛のように、船に縋りつく勢いかな。

 治済は護送中にどこかで眠り薬が切れて目が覚めるよね。それとも、醒めるタイミングで飲ませ続けるとか?飲食トイレはどうするのだろう?

 送る役目の徳島藩士たちは「我が藩お抱えの能役者・斎藤十郎兵衛の気が触れて、自分は一橋治済だと言い始めたから仕方なく阿波の孤島に閉じ込める」と言い含められているのだろう、それしかない。

 でも、超一流の傀儡師治済が、誰かを操ることに成功しそうなんだよな・・・。想像するとまだ怖い。協力者がいれば簡単に逃げ出せちゃう。眠っている訳だし、送る間だけの関係では、さすがの治済でも無理だろうか。危ないのは島民か。

コミケに初のご訪問?のオタク定信と心からの和解

 仇討ちが叶い、松平定信は自分なりの責任を取ってお国の白河に引っ込むとか。今回で、定信の話もめでたくおしまいかな。

 賢丸での登場以来、ずーっと変わらずの上から目線の怒りん坊。人の話には全然聞く耳持たずかと思ったら、彼は今回だけでも様子が徐々に変わったよね。蔦重のプロデュース力に感心したからかもしれない。

 序盤では「本屋の相手をしている暇はない」とピリピリ全開だったが、中盤で清水重好が治済にビビッて定信の名を出してしまったと聞いた定信が、「台無しではないか!」とムキーっとなった時、蔦重にこう言われ、ムッとしながらも反論せず黙って聞いていた。

蔦重:国が治まると思って凧揚げちまった人を叩き斬ったって、何の意味もねえ。それならそれでどう立て直すのか。それこそが、事を収める腕ってもんじゃございませんか?

 国を治めるために凧揚げ、それは、恋川春町が例の最後の黄表紙に書いた、定信をからかったネタだ。嫌味だな!と定信なら間髪入れずにカチンと来そうなものだが、すぐ平蔵が来ちゃったからかもしれないが、怒りは顔だけで口には出さずじまい。やや成長しているねと思った。

 むしろ、ああ、蔦重がこんなに落ち着いちゃって・・・とも思ったんだけど。最終回前だもん。そりゃそうだよね。

 そして、事が収まり、最後に耕書堂にやってきた定信と蔦重との会話。良かったよねえ。なんときれいに締めくくられたのか。

定信:(本と錦絵の並ぶ店内に、顔がほころぶ)

蔦重:今日は、いかなる御用向きで?

定信:国元へ下るのでな。む・・・これは?

蔦重:昔の黄表紙を仕立て直しておりまして。

定信:ああ、今更売れるのか?

蔦重:江戸ではそこそこにございますが、いま、諸国では黄表紙が流行っておるのでございます。

定信:ふ~ん、なるほどな。(片っ端から手に取る)

蔦重:江戸を離れるのでございますね。ご公儀の政にお戻りになると考えておりましたが。

定信:今戻れば要らぬ噂を呼ぶことになろうし、それに、外道とはいえ上様の御父君をはめたのだ。誰知らずとも、謀反の罰は受けるべきである。

蔦重:そういうとこは筋を通されるのでございますね。

定信:そういうところも・・・だ。という訳でな、その方には時折、絵や本を十郎兵衛に届けて無聊を慰めてやってほしい。

蔦重:斎藤様、うまくおやりで?

定信:元家老であった田沼の甥などを内々に入れるよう計らっておるし、何と言っても上様がお味方だ。多少難が出ても、その身は確かな力で守られる。その点につき、上様を引き込んだそなたの考えは秀逸であった。褒めて遣わす。

蔦重:ああ・・・あの・・・それ、仰るためにお立ち寄りに?

定信:・・・イキチキドコキキテケミキタカカカッタカノコダカ。

蔦重:は?

定信:いキちキどコきキてケみキたカかカったカのコだカ!「金々先生」よりこちら、黄表紙は漏れなく読んでおる。春町は我が神・・・蔦屋耕書堂は神々の集う神殿であった。・・・あのことは我が政唯一の不覚である。揚がった凧を許し、笑うことができれば・・・全てが違った。

蔦重:(桶に入れて陳列された「金々先生」)写楽ってなあ、春町先生への供養のつもりで取り組んだのでございます。春町先生を唆し、でっけえ凧揚げさせちまったのは私にございますんで。(定信に向き直り)ご一緒できて、ようございました。(頭を下げる)

定信:では、今後は随時良き品を見繕い、こまめに白河に送るよう。

蔦重:え?

定信:抜け目ない商人に千両も取られた故、倹約せねばならぬ。(黄表紙をごっそり抱え、去っていく)

九郎助稲荷の解説:この後、越中守様は白河にて民の暮らしの向上に努め、その政は後の世にも大きな影響を与えました。(籠の中で嬉しそうに黄表紙を見る定信)同時に文化振興にも努め、自ら「楽翁」と名乗り、硬軟兼ね備えたオタクとしてもその名を歴史に残すこととなります。(出立していく一行を土下座で見送る蔦重とおてい)

 「金々先生」のハサミ言葉を披露しての照れ隠しなんだろうが、オタクとしては嬉しかっただろうね。まさにコミケに初参戦のオタクといった風情。

 しかしね、こうなったら最終回はやっぱり相良凧のなるべく大き目なのに、みんなで乗るしかないでしょ!天まで揚がっていきましょう~。あと1回!

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#46 お帰り歌麿!君の笑顔を待っていた~!で、写楽誕生✨ 定信の打倒治済策は大失敗、蔦重の「そうきたか」抜きじゃダメだよね

歌麿主役でも良かったかもね

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第46回「曽我祭の変」が11/30に放送された。残る2回に物語的驚きが詰まってる感じでいいね✨サイコパス治済は、アラびっくりの双子説?早速、今回のあらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫第46回「曽我祭の変」
 蔦重(横浜流星)は納得する役者絵が仕上がらず行き詰まっていた…。そんな中、蔦重と歌麿(染谷将太)、2人にしか生み出せない絵を見てみたいと訴えるてい(橋本 愛)。この思いに突き動かされ、歌麿が再び耕書堂に戻ってくる。その後、役者絵は完成し、歌舞伎の興行に合わせて、蔦重は絵師・東洲斎写楽の名で絵を売り出す! 写楽のうわさは、徐々に江戸市中、江戸城中にも広まっていく…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第46回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 前回の最後、じゃじゃーんと歌麿が登場!いや、めっちゃ待ってたってば✨と個人的には心を躍らせたのだけれど、歌麿について、彼こそを今年の大河ドラマの主役にした方が良かったんじゃないのとの記事を見た。

news.yahoo.co.jp

 わかるなあ・・・とにかく折り紙付きの唐変木だもんね、蔦重は!どれだけ繊細な歌麿の心を傷つけてきたことか・・・ドラマの始まりの頃、たとえ二枚目横浜流星が演じていようが、それこそ蔦重の言うことは悉く上っ面のキレイごとに聞こえて胡散臭かったし。吉原のためと言っても、結局お前は大勢の女郎の涙の上で稼ぐんでしょ!との考えが抜けずにイライラしちゃったしなあ。

 そういう胡散臭い奴に感情移入がしにくかったのは確か。自動的に瀬川ばかり応援しちゃってたもんね。今思い返しても、小芝風花の瀬川は素晴らしかったし。

 それに、蔦屋重三郎を知らなくても「喜多川歌麿なら知ってるよ」と言う人も、きっとこのドラマ前なら多かったんじゃないか。世界的にも有名な歌麿メインで、蔦重を相棒のように描くドラマでも良かったかもね、今後、海外にコンテンツを売ることを考えても。

 同性愛者の大河主人公は、NHK的にまだ難しいかもしれないが・・・描き方はあるんじゃないか?無自覚な悩みを抱えた所からのスタートで、色々と試練を潜り抜けて、最終的に蔦重への愛情をしっかり自覚する感じならどう?そもそも、歌麿の性的志向は史実だったっけ?同性愛者はフィクションだったかな?

 当然、主役交代ならば何もかもそのままという訳にはいかない。主役が変われば視点も変わるし、色々とドラマ上でのキャラの組み換えは必要だと思う。各絵師とのアーティストとしての切磋琢磨はもちろん、おていが恋のライバル・ラスボスとしてドーン!だよね、いいなあ。染谷将太主演・喜多川歌麿主役の大河、見てみたかったかも。

歌麿の恋心、決着を見たか

 前回からの続き、おていと伴に耕書堂に戻ってきた歌麿。もうね、歌麿を待ちすぎて後光が差しているような気さえする。

蔦重:(北尾重政先生と面会中、振り返って)歌・・・おていさんも。

喜多川歌麿:この人、また出家したいって言いに来たぜ。

蔦重:何で?

てい:菩提を弔わなければならぬ者が多くおりますので。

歌麿:(被せ気味に)好きだからさ。あんたを好きで、あんたのために仏のご加護が欲しいんだってさ。(ずかずかと部屋に入り蔦重に近寄っていく)そういう風に役に立ちたいんだってさ。

蔦重:けど、何で歌と・・・。

歌麿:何べんもおていさんに同じことさせんなよ!(怒声。蔦重の両肩につかみかかる)世の中、好かれたくて役、立ちたくて、てめえを投げ出す奴がいんだよ!そういう尽くし方をしちまう奴がいんだよ!いいかげん分かれよ!この、べらぼうが!

 実際のところ、これは歌麿自身の心の叫び・告白だよな・・・歌麿は、ライバルだからこそおていの気持ちがよく分かる、手に取るように。いや、唐変木蔦重が自分への好意を分からなすぎるよね、第三者が見てたって分かりそうなものを。

 おていが最初に出家しようとした回はいつだったっけ?と思ったら第26回「三人の女」の回だった。思い返すと、じわる。今になると、より分かる気がする部分もあるね。

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 この回で出家して身を引こうとしたおてい。歌麿の気持ちをよくよく理解した彼女だったから。でも、蔦重は寺の門を入る直前の彼女に気持ちを伝え連れ戻し、「第三の女」歌麿は「良かったね」と涙した。こちらもまた、おていの気持ちを蔦重よりもよくよく理解していた歌麿だったよね。

 今回の歌麿の叫びは、同じ相手を好きになった者同士だからこそ、おていとふたり分の長年の思いを、歌麿が唐変木の蔦重に突きつけたって事だったかな。

 でも、分からない人はずーっと分からないんだろうなあ。蔦重はきっと死ぬまでこのまま分からない人のまま。でもそんな蔦重を好きになっちゃったんだ、ていも歌麿も仕方中橋。

 歌麿は吹っ切れたようだよね。ていの気持ちを代弁するふりをして、自分の言葉で「好きだ」と言えて、分からず屋の蔦重に文句もひとくさり言えたから。この後、肩の力が目に見えて抜け、楽しそうだもの。

歌麿: (別室で)おていさんが持ってきてくれたんだよ。(5枚の揃い物の女絵を出す)もういっぺん、二人で組んだ絵が見たいって。

蔦重:どうだった?色とか・・・。

歌麿:彫も摺も、俺が指図したのかと思ったよ。(素直に微笑む)

蔦重:(やや安堵して)そうか。そうか・・・。

歌麿:よその本屋は俺に優しいんだよ。何でもかんでも「これでいい」って。それが、俺には楽しくねえんだよ。どうしようもねえサガみてえなもんだと思うけど・・・。ちょいと蔦重の無茶が恋しくなってたよ。(隅で微笑むおてい)

蔦重:じゃあまた、とびきりの無茶、言ってもいいか?

歌麿:(楽し気に)何だよ?

蔦重:「十躰」の時に、反故にした絵があったろ?お前が人相をあからさまに描きすぎて、俺が絵として綺麗なもんにしてくれって言ったヤツ。

歌麿:あったな。

蔦重:今度は逆に、あのくらい目立つところを際立たせた絵が欲しい。役者の。

歌麿:役者?

蔦重:ああ。で、その絵は、源内先生が描いたんだ、源内先生は生きてるって思わせてえ。

歌麿:源内先生云々はちょいと分かんねえけど、要するに、そのような具合の男を描けばいいってことだな?

蔦重:ああ、そうだ。

歌麿:(ニコニコ)んじゃ、ちょいと役者っぽい事やっとくれよ。

蔦重:ああ、おう。じゃあ・・・。(例の矢立を歌麿に返す)

(横向きに寝そべった上半身をひねり、紙に覆いかぶさるようにして絵を描く歌麿。歌舞伎役者のように、見得を切る蔦重)

 歌麿は、蔦重に案思をもらって精一杯描いて、あーだこーだ言いながらふたりでブラッシュアップしていくのがサイコーで、得難い時間なんだって身に染みたよね。その蔦重との時間は、歌麿だけのもの。それを胸に抱きしめて行けばいいんだって。取っておいてくれた、あの矢立てもあるし。

ワクワクのプロジェクト写楽、鶴屋も手助け

 戻った歌麿が、蔦重がなかなか思うように絵師たちに伝えきれなかったものを描いてみせた。前回、絵師たちの総意を代弁するようにブチ切れていた重政先生も「こういうもんを求めてたわけかぁ」と腑に落ちた。百聞は一見に如かずだろうけど、やっぱり重政先生は優しいなあ。

 これでプロジェクト写楽が無事に回り出した。

 蔦重は、松平定信に依頼されているから、源内先生が描いたとしか思えぬような役者絵を、写楽が描いたとして世に出したい。「源内先生のにおい」がする工夫は追々考えるとして、まずは元になる役者の似せ絵を先に作ることに。何しろ、50図も出すつもりでいるのだ。ちゃっちゃとやらないとね。

 この時、歌麿が「50人の顔、描き分けろってえのか?」と言い、「できねえことはねえだろ、皆、面が違うんだから。歌麿ならできる!」と蔦重に返された。「50・・・」と呟きながらも、歌麿は全然イヤイヤな感じがしない。

 以前、蔦重の借金を返すために吉原の女郎を同じくらいの数だけ描けって言われなかった?その時は、蔦重が「ガキも生まれんだ、頼む」と泣きを入れて、恋心を更にえぐってきて、悩んだ末に歌麿は仕方中橋って答えたんだよね。今回は己の心に決着も付き、反応が違う。

 さて、金主も見つけていつもの倍は支払うと蔦重から聞き、意気上がる先生方。歌麿の肩を揉んじゃったりして。でも、50図も描くとなると、役者の舞台だけじゃなく稽古を見なきゃ間に合わない➡写楽の正体がバレちゃう➡カモフラージュの策が要るとなって、発案された策がまた面白かったね。使われたのは鶴屋さん。彼も優しいな!

河原崎座座元:歌麿!あの歌麿が役者を描いてくれるんですかい? 

鶴屋喜右衛門:ええ。役者は描かないというのを先日、ようやく口説き落としまして。

都座座元:いやあ、そりゃあぜひ!

桐座座元:こりゃあ受けるね!

河原崎座:けど、歌麿ってなあ確か・・・。

蔦重:へえ。元はうちの抱えで。こうなりゃ、うちも負けるわけにはいきません。

都座:ちなみに、蔦屋さんはどなたが?

蔦重:決めかねてんですよ。なんで、描きてえって先生方に稽古見て描いてもらって、そん中で決めようと思ってます。

座元たち:ほぉ~、すごいねえ。

(鶴屋と蔦重の帰り道)

蔦重:ありがた山です。歌麿には、全ての稽古を見させてえんで。

鶴屋:まあ、言われた通りに言えば金一帯と言われましちゃね。

蔦重:恩に着ます。

鶴屋:けど、仲直りをしたのなら、蔦屋さんから歌麿さんの役者絵を出せばいいものを。売れるのは間違いないのに、それはしない。しかも、一度は描くと言って、歌麿さんと私は途中で降りると言ってくれって、一体、何企んでるんです?

蔦重:くだらねえバカ騒ぎをして、春町先生への供養にしてえんです。

鶴屋:(フーンといった顔)詳しい所、そのうち話してくださいよ。

 それで、役者の稽古を見に、写楽チームの多数の絵師と狂歌師、戯作者が雪崩れ込んだのだが、そこには源内を思わせるような年恰好の、総髪のお爺もいた・・・と言っても、源内風の髷と丸めた背中しか映らなかったのだが、蔦重は誰に頼んだ?「げんな・・・いや、うちの親父なんです。近頃、戻ってきまして」なんて座元に紹介しちゃって、芸が細かい。

 歌麿も、「あいつ、存外芝居っ気あんだねえ」と重政先生に言われていたが、ふてぶてしい大先生のような振る舞い。後から「へそを曲げて仕事を断るのも仕方ないね」と言われるのを狙っている様子だ。皆、面白がってる。

九郎助稲荷の解説:かくして、蔦重による「しゃらくせえ案思」が始まり、戯作者チームは描く役者や場面の選択。

唐来三和:大七と造酒之進が勝負するところが好きでよ~!

朋誠堂喜三二:俺は、源蔵と水右衛門だな。

山東京伝(北尾政演):私ゃ、江戸兵衛と奴一平が向き合うとこが好きですね。

大田南畝:(立ち上がる)チンツンチンリーン、チンツンチン、ハテ、小言(こまごと)ぬかさずと金出せやい。(顔も作ってポーズ。日本一!の掛け声)

宿屋飯盛:チンチンチン、イヤ滅多には出すまいわい!(立ち上がってポーズ。宿屋!飯盛!の掛け声)

蔦重:あ~そのまま、向き合って。こっちの顔とこっちの顔。対になってりゃ面白くねえですか?

南畝と飯盛:そうきたか~!

蔦重:へえ!(役者っぽく表情を作る。蔦屋!の声が掛かる)

九郎助稲荷の解説:その裏で、絵師チームは役者の印象が重ならないように、人相の描き分けを検討。

貞一:(それぞれが描いた「江戸兵衛」の顔を並べて)江戸兵衛も、様々でござんすねえ。

歌麿:目は、政美のが良かねえか。切れ長なのがよく出てらあ。

政美:じゃあ、どうぞ。

(歌麿、政美が描いた絵の上に白紙を載せ、目の部分を写し取る。)

貞一:重政のお兄いさんの顎、こりゃいかつうござんすね!

重政:鬼次は顎がいいんだよ。(歌麿、目を写した紙に顎の部分を写し取り、少しずつ顔を作っていく・・・略)

九郎助稲荷の解説:それは、パズルのような作業で・・・。

 全然歌舞伎や芝居の造詣が無いに等しいので、会話をただ書き取ってしまったが、門外漢にも楽しさは伝わってくる。今回のプロジェクトでは、江戸兵衛の浮世絵の下絵が、それぞれの取材メモを歌麿がまとめ役で1本の原稿に仕上げていくように、多数の手が加わって出来上がっていくのだなと興味深く思った。

 ここに現れたのが、役者絵で知られた勝川派の春朗(くっきー、後の葛飾北斎)。破れ傘を広げて見得を切ったがあちこちぶつかったりして、昔、傘で見得を切って颯爽と源内にアピールした瀬川とは大した違いだ。

 この春朗がドーン、キュッキュ!という謎の表現で持ち出したのが遠近法。「蘭画は、手前がドーンで奥がキュッキュ!」の説明で分かった。北斎の「神奈川沖浪裏」のブルーが美しい絵も、手前に大きく舟、奥に小さく富士山が見える。遠近法で知られているのだってね。

 さらに蔦重が「蘭画は縁取りの線が無い」と言ったので、歌麿が線の墨の色を薄く、影を濃くする工夫をした。遠近法とこれが、源内らしさのスパイスを加えることになったようだ。できた江戸兵衛の下絵は、顔がドーンと前に、手はキュッキュと小さい。可愛らしい手だと思っていたら、源内を示す遠近法のつもりだった・・・ということになったのだね。

 この下絵の出来には、まとめ役の歌麿が「写楽って、すげえなあ」としみじみ漏らすほど、プロジェクトに関わった一同が釘付け。蔦重も嬉しそうだった。その時に歌麿がね、本当にうれしそうに絵を見ている蔦重の肩を叩くんだよ。

 わざわざ腕を回して、隣の人の遠い方の肩を叩く。肩を組むような形になるが、これって蔦重が散々歌麿にやってきた仕草だけど、歌麿はいつも避け気味だったよね。それを今回は歌麿の方から。いやー、見ている方は歌麿の清々しい笑顔に、並んだふたりの良い笑顔に涙が出る。うんうん、歌麿が蔦重と目指すべきはこっちだよな。

能役者・斎藤十郎兵衛

 しかし・・・このドラマの写楽プロジェクトはかなり楽しめたのだけれど、文句も出るのだろう。写楽の正体は、実は史実的には決着がついているらしい。

bunshun.jp

 でも、ドラマはドラマなんだよねえ。史実にしっかり沿わなきゃいけないってことになると、奇想天外な歴史小説なんか軒並みアウト。いくらでも、という訳にはいかないだろうが、読者や視聴者が振り落とされない程度に、作者が遊んでいい部分もあるよね?というのが私の考えだ。

 ただし、能役者の斎藤十郎兵衛が写楽の正体だと決着がついているのであれば、その存在を、この大河ドラマはマルっと無かったことにしてしまうのか?そこは、ちょっと気になっている。最後の最後にアッと驚く登場の仕方をして、写楽に絡んできたりする?いいなあ、期待しているよ。

写楽=源内に乗った陰謀、知らぬは蔦重ばかりなり

 江戸兵衛の下絵を見せられた定信はホントに嬉しそうだったよね。こういうのが元から好きだもんな。実は自分も関わって生まれた絵だと思っちゃっているだろうから、余計嬉しいのだろうね。蔦重の「あ?(怒)」にも気づかないくらい。

定信:名に、東・洲・斎を加えよ。

蔦重:は?(何言ってんだと不満そうな顔)

定信:写楽は東洲、江戸っ子。これは江戸の誉れとしたい!画号は東洲斎写楽とせよ。

 時は寛政六年(1794年)五月。芝居小屋の三座の興行が幕を開け、それに合わせて蔦重は芝居町に耕書堂の支店を設け、謎の絵師・東洲斎写楽の役者絵28図を売り出した。役者のシワまでそっくりに描いた絵は大好評。グニャ富こと中山富三郎が怒ってたな。飛ぶように売れ、「この絵師はどこの誰?」と江戸の話題を呼んだ。

 歌麿だとか春朗だとか、重政、政美、政演、一九(貞一)・・・あらかたのプロジェクトメンバーの絵師の名が巷で写楽ではないかと挙がったところで、読売には「写楽は源内」と杉田玄白が言ったと書かれた。江戸城中にまで源内生存の噂は広がり、昔の幻の11代様・家基謀殺に始まる疑惑も蒸し返され、してやったりの定信。

 そして、平蔵が居場所を突き止め、定信が間者に引き込んでいた大崎が、例の七ツ星の龍の戯作を一橋治済に読ませる。「これを書けるのは源内だけ、源内が生きているのでは」と疑わせるためだ。そして、それらしき人物が潰れた浄瑠璃小屋に潜んでいると更に吹き込んで、治済が源内の顔を見知っているからと、芝居町の曽我祭をダシに、治済をそちらに連れ込もうとした。狙いは明白だ。

 だが・・・これまで数々の陰謀を成功させ、それに長けている治済に、定信の策はあっけなく見抜かれてしまったよね。理由は、七ツ星の龍の戯作の筆跡。定信、手抜かりもいいところだよ~何で誰か別人に清書させとかないんだろ。頼める人もいないのか。

 治済は、耕書堂の芝居町支店にも顔を出して、写楽の絵を買っていった。「あの戯作も面白かった」と蔦重にカマをかけたが、蔦重は写楽=源内の噂を立てただけだから、何も知らない。

 治済は立ち去り、大崎が代わって代金を支払ったのだが・・・蔦重、唐変木だから大崎が渡した代金の包みを開いても見ないようだった。何か書いてあるみたいだけど。(釣りは要らぬと言った大崎が、むしろお釣りを要求していたら蔦重は紙包みを開いたはず。だけど、そうするとその場で騒ぎになっちゃうか。)

 大崎は、定信らが待ち構える浄瑠璃小屋に、あくまで治済を連れて行こうとした。「あれは越中の字だ」「故に三浦が浄瑠璃小屋で匿っている男は源内ではあるまい」と治済が策は破れたと言っているのに、「三浦と越中守が手を組んでおるのやもしれませぬ!ここまでいらっしゃったのですし、一目」と言い張っていたのには、意味が分からなかった。

 ふたりが手を組んで、匿っている源内の話を越中守が書いたのだと?それはもう苦しいよ、バレているんだってば。そこまで押したら危ないと分からないなんて、確かに尼暮らしで勘が鈍ったね。

 彼女は、ここで逆に毒まんじゅうを食わされ殺された。同様に、小屋に巧妙に持ち込まれた毒まんじゅうを食べた定信配下が何人も犠牲になった。サイコパス恐ろしい。

 蔦重も危うく食べるところだったが、長谷川平蔵が駆けつけ、まんじゅうを咥えた蔦重を寸前で止めてくれた。庶民の味方、鬼平✨・・・それで、浄瑠璃小屋に蔦重を誘い、これまでのいきさつを語り出した。

 この時、定信は「やかましい」とイラつき、蔦重の存在などどうなろうが気にしてもいなかった風に見えた。やっぱりサイコパス治済とメンタリティーが大して変わらんね。

長谷川平蔵:傀儡好きをおびき出し、ここで始末するつもりが見抜かれたのだ。座元や役者が祝儀のまんじゅうを出しておったろう。あの者はその中に毒まんじゅう配りを紛れ込ませたのだ。

蔦重:名が入ってねえのが毒まんじゅうってことですか。

平蔵:ああ。肝要なのは、これは関りのある者にしか配られておらぬということだ。つまり、配られた先の者には「知っておるぞ」と言うておるのだ。

蔦重:けど、何でうちまで?

平蔵:写楽が源内であるということを餌に、ここにおびき寄せたからな。

蔦重:・・・そのための源内騒ぎで。

平蔵:かようなことになり、すまぬ。まこと申し訳(頭を下げようとする)

蔦重:(さえぎって)すまぬじゃねえですよ!俺たちゃお武家さんじゃねえんです。どうやって身、守れって言うんですか!

定信:やかましい!何故、連れてきておるのだ。

平蔵:狙われておりましたので、もはや全てを打ち明け自ら用心させねば!

 あれ?平蔵が変なことを言っていたな。陰謀に関りのある者にしか毒まんじゅうは配られておらぬと。「知っているぞ」と警告のため配られていたって・・・。

 そんな調べはいつついた?平蔵は、毒まんじゅうを食べた人たちが倒れ始めて、慌てて蔦重の耕書堂に駆けつけたのかと思ったが、ずいぶんと調べが早すぎない?なんでそんなことを知っているの?それとも、調べを付けてからゆっくり耕書堂に来たのか?

 平蔵、まさかお前・・・何もかも知っていて、最初に安全な鰕蔵の名入りまんじゅうを選んで食べて見せたか?それで、他の浄瑠璃小屋の人たちもまんじゅうを食べ始めた。そもそも、まんじゅうを集めて小屋に持ち込んだのは平蔵の手下・仙太じゃないか!あわわ・・・。

 仙太はそうとは知らず、ご祝儀のまんじゅうをたくさん貰って来いと平蔵に言われたか?異変が起きた時も、平蔵は真っ先に「まんじゅうだ」と断定、「食した者は吐き出せ!」と言っていた。

 平蔵は定信には人足寄場で苦労させられていたが・・・いやいや、鬼平がそんなことするわけない。でも、スパイがいたとしたら?平蔵が怪しく見えちゃったなあ。まさかね。

 スパイ説では、家族によると、三浦庄司が怪しいという話が出回っているらしい。言われてみれば、何で浄瑠璃小屋に彼だけ来なかったのかとか、何で原田泰造がオープニングでトリを数週間にわたって飾っているのかとか、気になるところはあるにはある。

 最終回も迫り、ここにきてミステリー的に盛り上がってるね。まあやっぱり、主役の蔦重が定信に利用されるだけの陰謀が、うまくいく訳がない。蔦重が自ら手を出して治済をギャフンと言わせてこそ、視聴者もスッキリできる。手抜かりを犯した定信は、惨憺たる結果を反省して蔦重にきちんと協力を要請し、彼が練る「そうきたか」プランを導入しようね。

 でも、どうしたら蔦重が率先して治済退治に関わろうとするだろうか。可哀そうだけれど、予告を見ると、みの吉は毒まんじゅうで死んじゃうのか?それで蔦重が積極的に仇討ちに乗り出すなら分かる。そうすると、耕書堂二代目候補で残るは歌麿か・・・。

ビックリのそっくりさん登場

 柴野栗山が「奥にもよろしいかな」と尋ねて、浄瑠璃小屋の奥にまんじゅうを持って行った。それは役者の名前が記された包みの、安全なまんじゅうだけだったのだろうか?奥に隠れていた人物が、もしも毒まんじゅうを食べて命を落としていたら、企てはまったくおじゃんになってたね。

 というのも、最後に奥からご登場になって蔦重の前にも姿を現したその御方が、まさに一橋治済のそっくりさん。大崎が見てビックリしていたのも、彼だろうね。

 目が泳いでいたから、治済本人ではない。ちゃんと別人感があって、さすが生田斗真だ(オープニングには二役とは書いてなかったが)。となると、ドッペルゲンガーの赤の他人か、それとも治済には実は双子の兄弟がいて、その片割れか。

 昔は双子を畜生腹と嫌ったと聞く。家康の次男の結城秀康が実は双子で生まれ、片方の兄弟(永見貞愛 - Wikipedia)は、母の実家で育てられたらしいからねえ。だから治済のように高い身分なら尚更、彼が知らない双子がいたとしても驚かない。

 赤の他人か双子の片割れか。どちらにしても、そっくりさんの存在は危険な発想を呼ぶ。治済の替え玉にして、本人を消してしまえという・・・そうなるよ。

 そういえば、まんじゅうを奥に運んだ柴野栗山が、治済に初めて会った時のこと。じーっと顔を見つめていたよね。治済に怪訝に思われて、ご尊顔が麗しく見惚れていたとか何とか言い訳をしていた。もしかしたら、自分の知り合いが治済にそっくりで驚いていたんじゃないの?えー?!って。

 もしそうだったとしたら。定信にそっくりさんの件を伝えたのはいつだったんだろう?そこから陰謀はスタートし、だから栗山先生がメンバーに入っていたんだろう。そのそっくりさんの存在を伝えた栗山先生、儒学者として倫理的にどうかと躊躇もあったかもなあ。

 ここまで書いて、ふと浮かんでしまった。栗山先生は、能役者の斎藤十郎兵衛とはどこかでお知り合いだったりするのか?・・・だったら面白いなあ。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#45 チーム「写楽」始動!定信、力技で蔦重を一味に加え、ていは腹をくくり蔦重を鼓舞&歌麿を説得、MVP獲得

蔦重、言い返せるご身分か?とヒヤヒヤ

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第45回「その名は写楽」が11/23に放送され、おていが捨て身の「出家する」宣言をするなど歌麿に必死の説得をしかけ、MVPの大活躍だった。さっそくあらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫第45回「その名は写楽」
 定信(井上祐貴)らに呼び出された蔦重(横浜流星)は、傀儡(くぐつ)好きの大名への仇(かたき)討ちに手を貸すよう言われる。芝居町に出向いた蔦重は、今年は役者が通りで総踊りをする「曽我祭」をやると聞き、役者の素の顔を写した役者絵を出すことを思いつく。蔦重は、南畝(桐谷健太)や喜三二(尾美としのり)らとともにその準備を進めていくが…。一方、歌麿(染谷将太)は、自分の絵に対して何も言わない本屋に、いらだちを感じていた…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第45回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 ・・・ということで、ドラマ冒頭は前回から続いての定信らが蔦重を呼び出して、仇討ちチームへの加入を誘った場面から。お誘いへの蔦重の回答がまだだった。

 蔦重、源内先生がホントに好きだったのねえ、会えなくてガッカリは分かるよ。だけど主人公とはいえ町人なんだから。ハハーッと素直に控えないものだから、松平定信の腹心の水野某なんてもうイライラMAX。お偉いお武家様相手に、そのふてぶてしい態度は危ないって💦

松平定信:どうだ、蔦屋重三郎。我らと共に仇を討たぬか?(定信、高岳、三浦庄司らが同席)

蔦重:(原稿を突き出す)これは、源内先生が書いたんじゃねえんですね。

定信:それは、三浦の話を基に私が書き起こしたものだ。

蔦重:然様にございますか。では、ここにてお暇いたします。(原稿を残し、座を立つ。首をかしげる定信)私は、源内先生に会いに参りましたもので。ああ、このことは聞かなかったことといたします。

定信:そなた、源内の遺志を継ぐ気はないのか?源内は生きておればそこにある源内軒のように、傀儡好きの大名を成敗し、仇を討ちたいと思ったはずじゃ。

蔦重:越中守様は源内先生に会ったことねえでしょう!(強めに言い返す)「どうしたいか」は、源内先生に会った時に直にお聞きしますんで。

定信:そなた、源内が本気で生きておると思うておるのか?

蔦重:へえ。では。

柴野栗山:そなたは世のために悪党を成敗したいとは思わぬのか?この先、同じことが繰り返されぬように。

長谷川平蔵宣以:そうだ!世のために悪党は捕らえねばならぬであろう!

三浦庄司:そなた前に、悪党を野放しにするのは間違いであったと殿(田沼意次)に申したではないか!

高岳:然様。我々は天誅を下すのだ。

蔦重:(扉に向かい、定信らに背を向け立ったまま)はあ・・・。けど、そいつが悪党だって証はねえわけですよね?(振り返る)もし間違いならとんでもなく間抜けな話ですし、こんな話に関わりゃ、私も身内の身も危うくなります。吹けば飛ぶような本屋にございますゆえ、何卒ご勘弁を。(帰ろうとするが、扉が開き、抜刀間際の水野ら定信家臣団がいる)

定信:確かに関われば身は危うい。残念ながら、お前はもう関わっておるのだ。

蔦重:(家臣に囲まれ)随分、野暮なお仕打ちで。

定信:生憎、こちらは野暮だ粋だで生きておらぬのでな。なに、吹けば飛ぶような本屋に頼むのは大したことではない。「源内が生きているのではないか」と、世の中を大騒ぎさせてほしいだけだ。お前ほど、この役目にふさわしい者もおらぬであろう?

 人にものを頼む態度じゃない。さすがDV気質・上から目線の定信だ。まあ仕方ない。あちらは高ーいご身分。武士でも将軍様の孫なんてそうそういない。新興商人の蔦重はせいぜい無礼打ちされないように、身を処していなければ。

 だけど、源内先生には会えないし、無理やり変な企てに巻き込まれて逃げ場無し。蔦重がへこむのは分かるよ。

 不思議なのは、これまで定信は、自分ヨイショの読売を撒くなど社会を騒がせる手はたぶん水野経由で自前で賄ってきていたと思うのに、何故ここにきて蔦重を頼るのか?「お前ほど、この役目にふさわしい者もおらぬ」と蔦重に言ってたけれど、餅は餅屋ってことでやらせる気になったのかなあ?蔦重なんか信頼できなくないのか?

 それとも、あの「七ツ星の龍」の物語を復活させて書いてみたはいいけれど、広め方で悩んで行き詰ったのかな。

 「七ツ星の龍」の源内作に見せた物語は、やっぱり裏で黄表紙好きの定信が書いていた訳だけど、死を呼ぶ手袋にまつわる真相の目星をつけた源内が生きているとなれば、治済は焦る。その噂の出所は、保身のため、定信としてはなるべく遠ざけたいのか?そのために庶民を使うか・・・冷たい奴!

 結局、下々に対するものの考え方は、一橋治済も松平定信も使い捨てOKで一緒だということかな。同じ吉宗の孫だ。

 今回、大崎が身の危険を感じて再雇用を治済に願い出ていた。いや~、ダメだよ大崎、会いに来たってあなた、治済にトカゲの尻尾切りで殺されるだけだと思うけどな。「恐ろしいことじゃ」と言っていた治済の眼がトカゲのように怖かったよ。

 この時、大崎が挙げた陰謀話の多さに笑ったよね。そりゃ身に覚えはあるんでしょうね、どこからかは狙われますって。

おていがビシッとMVP

 今回のMVPはおていさんだと思う。定信への反発心やら何やら納得できない気持ちでグズグズしている様子の蔦重に、ビシッと方向性を示したのがまずあっぱれ。そして、アーティスト歌麿を「描きたい欲」で突き動かすことに成功した点だ。

 蔦重はていを巻き込みたくないし、考えが定まらずに嘘をつくのだが、そんなことでおていを煙に巻けるわけがない。「それは、狐ではなく狸の化かし方にございますね。一体、何があったのでございますか?」と冷静に返されてしまうのだ。

 そして、事の次第を正直におていに伝えた蔦重。

てい:つまり、世を騒がせねば、旦那様も私たちもどうなるか分からぬということにございますか?

蔦重:ああ。ほんとすまねえ!こんなことになるたあ・・・すまねえ。(ひれ伏す)

てい:・・・仇討ち。「忠臣蔵」の大星由良助は、茶屋遊びで世を欺きましたかと。やらぬという道が塞がれておる上は、やるしかございませんでしょう!(副音声の解説「丸眼鏡の奥で瞳が輝く」)よろしいのではございませんか。悪党を討つのは世のためにもなる事でしょうし。この際、蔦屋重三郎らしい、うんとふざけた騒ぎになさってはいかがでしょう?しみったれのふんどしの守様から掛かりをふんだくり、かつてないほど贅沢でふざけた騒ぎを起こすのです。そして、それを以て春町先生への供養と成すのはいかがでしょう?

蔦重:・・・春町先生の。

てい:はい。きっとお喜びになられるかと。

回想の恋川春町:(褌一丁で踊っている)皆様にはせめてお笑いいただきたく!

蔦重:(思い出して頬が緩む)おていさん。

てい:はい。

蔦重:極上々吉。極々上々々々々々・・・。

てい:お褒めに預かり恐悦至極にございます。では、いかにふざけましょうか?

蔦重:まあ・・・手っ取り早いのは読売なんだけど、それじゃつまんねえな。

てい:持ち込まれたあの草稿を本にして出す・・・のは、難しうございますね。

蔦重:うん。そりゃ、俺も店もあっという間にお縄でさ。

てい:では、危ういことには触れぬ筋で、源内先生が書いたとしか思えぬ黄表紙。

蔦重:黄表紙、洒落本、浄瑠璃・・・。

てい:市九さん!確か、市九さんは・・・。

蔦重:あいつは、浄瑠璃が書ける!

てい:しかも、源内先生が生きておるかもしれぬとお告げを持ってこられたお方です!

蔦重:こりゃ、天の導きとしか思えねえな!

てい:では、源内先生が書いたとしか思えぬ新作の浄瑠璃を、市九さんに書いてもらい・・・

蔦重:小屋にかけてもらいましょう!

てい:はい!

 わざわざ副音声の解説では、おていさんの瞳のキラリンを伝えていた程、やる気満々。なんと頼りになる女将さんだろう。定信によって死に追いやられた恋川春町への供養として贅沢にふざけるのだ、かかる金銭も定信からふんだくってやれと。

 このおていのビシッとした言葉で蔦重も腹が定まり、前向きにエンジンがかかった。ではいかに?という点も、ふたりでブレインストーミングの結果、浄瑠璃と決まった。脚本を書くのは、源内生存説を持ち込んだ十返舎一九だ。

 何を書いたかな?とウィキペディア先生をチェック(十返舎一九 - Wikipedia)。しかし、1793年(寛政五年)10月あたりなのだよね・・・ウィキによると、彼は翌1794年に通油町の蔦重の下に寄食するようだ。そもそも「源内先生が書いたとしか思えぬ」浄瑠璃本を書かせる心づもりなのだから、十返舎一九の名前では残ってないのかもね。

源内作っぽい「役者絵」を出すプロジェクトへ

 蔦重はその後、新作浄瑠璃をかけてもらう芝居小屋を探しに芝居町に行ったらしい。長谷川平蔵の手下・磯八が営む二八そばの屋台で、懐かしの歌舞伎役者・市川門之助(濱尾ノリタカ)とバッタリ。おお、門之助の中の人は「あんぱん」でもご活躍だったね。眉毛が記憶に残る。

 ところで確認したくなったのが「江戸三座」。ウィキペディア先生をここでもチェック、以下一部引用した。

・・・正徳4年(1714年)には山村座が取り潰されて中村座・市村座・森田座の江戸三座となる[2]。その三座も座元(座の所有者)が後継者を欠いたり経営が困難になったりすると、興行権が譲渡されたり別の座元が代わって興行を行うことがしばしばあった。享保末年以降(1735)になると、三座にはそれぞれ事実上従属する控櫓がつき、本櫓が経営難で破綻し休座に追い込まれると年限を切ってその興行権を代行した。(江戸三座 - Wikipedia

 この頃の江戸三座は、風紀粛清、倹約奨励のご時世により大打撃を受けていたらしい。蔦重は、三座が立ち行かなくなっている芝居町で、控櫓が「三座に取って代われるまたとない折だ」として鼻息荒く催す「曽我祭」について門之介から聞かされた。

 曽我祭では「菊之丞や宗十郎、鬼次、鰕蔵」といった人気役者も通りに踊り出て、「総踊り」する。「役者の素の顔をお天道さんの下で拝める」ので「お祭り騒ぎ中のお祭り騒ぎ」になる話だと門之助が蔦重に説明した。

 これを聞いて蔦重が「役者の素の顔・・・」とつぶやき、久々に妄想が頭に広がった。蔦重の妄想が出てくる時は、頭が回転し始めた時だ。

妄想の客たち:何だこりゃ、こんなの初めて見たぞ!こんな店、初めてだ!

妄想の八五郎:(店に入ってきて絵を手に取る)おお~!熊さん、これ!

妄想の熊吉:な、何だい?こりゃ!

妄想の八五郎:今評判の役者の似せ絵でよ、これを片手に役者の顔を拝むってのが通よ!

妄想の熊吉:けど、誰なんだい?こんなふざけたもん描いた奴は?

妄想の八五郎:それがよ、平賀源内じゃねえかって噂なんだよ!

妄想の熊吉:平賀源内?

 蔦重は「これだ・・・」とニヤリとし、「源内先生が描いたと思われるような役者絵を出す」プロジェクトを始動させた。浄瑠璃は止めたってことかな。

 プロジェクトには耕書堂に関わる絵師、戯作者らが勢揃い。そして「何で役者絵で何で源内先生なんだい?」という喜三二の問いに、蔦重はこう言った。

蔦重:(芝居は落ち目、役者絵も春章先生の死でひどいものになってるが)けど、逆手にとりゃ何をやっても目立つわけでしょ?そこに、こんな役者絵をどーんとぶつけんでさ。(大田南畝の家にあった源内作の蘭画を見せる)こりゃ、源内先生が描いた絵にございます。役者絵と蘭画は相性が良いと思うんだ。しかも、今年は芝居町の通りで「曽我祭」をやるってんだ。役者の素の顔、お天道様の下で拝めるっていう寸法で。そこに役者の素の顔を写した役者絵がありゃあ、どうなります?芝居に客が戻り、絵も売れる。しかも、それを描いた絵師が、死んだとされてる平賀源内なんじゃねえかってなりゃあ・・・。

 「江戸中が祭りだ!もう、上から下まで大騒ぎ!」「乗った!」「俺もやってみてえ!蘭画風の役者絵!」等々と絵師たちは大盛り上がり。

 他方、戯作者たちも、乗り気じゃなかった様子の大田南畝までが「画号だな!源内先生じゃないかと思わせる画号がいるな!」と前のめりに言い出し、それを受けて蔦重は「絵師の画号や、騒ぎがどんどん派手になる仕掛けを考えてもらいてえんです」と発破をかけた。

画号は写楽!とうとう写楽!

 このように、蔦重の号令で、プロジェクトチームは思いきりふざけることになった。 しかし、ふざけると言っても、ヘラヘラしている訳じゃなく真剣そのものだ。メンバーは知恵を絞って、真剣にエンタメを追求している。

 源内らしい画号については、さっそく朋誠堂喜三二が「しゃらくさい」はどうか?いかにも源内先生が言いそうだと言い始め、蔦重も「源内先生にピッタリ」だと言い、南畝も賛同。「洒落斎」、次に閃いて「写楽」と蔦重が文字にした。

 「この世の楽を写す、またはありのままを写すことが楽しい・・・写楽!」と一同の意見はまとまったが、それはそれは・・・虫撰を描いた時の歌麿の心持ちそのものなんじゃないか?このドラマで描かれてきた、歌麿のためにあるような言葉だと思った。

ていが心に火を点け、歌麿が復帰

 蔦重はプロジェクトの資金を定信から出させることに成功した。「この仇討ち、奉行所にお届けはお出しに?」の一言は定信の痛いところを突いたよね。出せる訳ないから。眉を吊り上げ奥歯を噛んだ定信が目配せし、ワナワナの水野が蔦重の前に千両箱を置いた。蔦重は一転、明るく「ありがた山にございます!」と受け取った。やるね!

 「写楽」プロジェクトの肝心の絵の方は、絵師チームで試行錯誤が続けられていた。くどい蔦重が、頭の中にある役者絵を追求するあまり絵師らにダメ出しを続け、温厚な重政先生がキレて退場。

北尾重政:やってられっか!こっちはてめえの言った通り、知恵絞ってんだ!これじゃねえ、あれじゃねえならガキでも言えらあ、べらぼうめ!大体、源内風だ似顔だって言うけどよ、おい、てめえの胸の内にゃ、そりゃこんな絵だってもん、浮かんでんのかよ?当たりが出るまで闇雲に描き散らせってなあ、流石に付き合いきれねえぜ!

 ごもっとも!思えば「一目千本」以来、蔦重とは付き合いも長く、優しくサポートしてくれていた重政先生が😢・・・ここで大物の庇護者が離脱したことは大きなショックだ。

 そして、「画風を言葉で指図するのは至難の業」「歌さんは呼んでこれないの?歌さんなら何とかできんじゃないかい?」の言葉を耳にして、おていも黙っていられなくなっただろう。

てい:旦那様の胸の内には、絵は浮かびましたので?

蔦重:ああ・・・「十躰」の折に、歌が描いてきて、良かったんだけどそん時は「違う」ってよした絵があってさ。あんな風に役者描けりゃ、面白えんじゃねえかって。

 おていは、飾り気のない女たちの表情を描いた、歌麿筆の揃い物の女絵5枚を手に、歌麿の下へ赴いた。全部分かってればそうなるよね。歌麿も「たかが浮世絵1枚にどうかしている」と他の本屋に陰口を叩かれても、納得のいく絵を描こうともがいていた。

歌麿:こりゃ、蔦屋の女将さん。

てい:ご無沙汰しております。

歌麿:(描き散らした絵が部屋に一杯広がっている)こんな有様ですけど、いいですか?

てい:押しかけましたのは、こちらでございますので。(絵を避けて進み、歌麿の傍に座る。包みから絵を取り出す。5枚の女絵を並べる)「歌撰恋之部」5図すべて出来上がりましたので、お納めいただきたく。

歌麿:(背を向けたまま)差し上げたもんなので。

てい:これは、蔦屋重三郎からの、恋文にございます。正しくは、恋文への返事にございます。どうか、一目でも見てやってくださいませ。(両手をつき、頭を下げる。歌麿、振り向き、座って女絵に手を伸ばす。生え際の髪の毛一本まで表現した繊細な仕上がり)あの人は、その毛割を何度も何度も何度もやり直させました。歌さんは、こういうところを気にするからと。色味も、深く柔らかいものを好むのだ、着物の柄も、きっとこういうものを考えていたのではないかと、それはしつこく。摺師と大ゲンカしておりました。(次々と手に取る歌麿)

 板元印と名の位置には、終いまで悩んでおりました。歌さんを立たせるべきだが、自分と歌さんの仲に上下を付けたくはない。肩を並べ、共に作りたいと思っていることを伝えたいと。(歌麿、黙って聞いている)歌さんの名が上のものが3図、蔦屋の印が上のものが2図と、落ち着きました。

 歌さん。よそにも素晴らしい本屋はおりましょう。けれど、かように歌さんのことを考え抜く本屋は、二度とは現れぬのではございませんか?歌さん、どうか戻ってやってはいただけませんか?(ていを見ている歌麿)今、あの人は何よりも歌さんを望んでいます!

歌麿:(苦笑)・・・悪いけど、もうこういうの懲り懲りなんで。

てい:私は出家いたします!(え?という表情の歌麿)産んでやれなかった子、義母上様、父、新之助さん、おふくさん、とよ坊、石燕先生、春章先生、春町先生、田沼様、雲助様、土山様、東作さんも。あの人には、関わった方々の菩提を弔う暇もございません。代わりに、寄り添う者が入り用です。

 決して身を引くのではございません。もう男と女というのでもございませんし、私は今後、そのような形であの人と共に生きていきたいと存じます。

歌麿:・・・嘘だね。

てい:・・・(小さく笑う)見抜かれましたか。然様にございますね。私の本音を申せば・・・見たい。(歌麿がていを見る)二人の男の業と情、因果の果てに生みだされる絵というものを、見てみたく存じます。私も本屋の端くれ。サガというものでございましょうか。(ていを見つめる歌麿)

 最後、歌麿が、明らかにアーティストとしての「描きたい欲」に点火された顔をしているよ!ていの言葉の何が嘘だと思ったか、細かいことはどうでもいい。歌麿は、もう蔦重と描きたくなってるんだよ。これまで、他の本屋でイライラが募っていたから余計だね。

 そうだそうだ、前回ブログで蔦重を唐変木呼ばわりしてしまった板元印と絵師名の位置。ちゃんと訳がありましたねー。前回は、意地悪にも蔦屋の印が上のものしか映像では見せてくれてなかった、歌麿も気づいてなかったってことなんだね。

 このシーンではほとんどおていが喋っていて、歌麿のセリフはごくわずか。でも、その視線が彼の感情を物語っている。やっぱり大した役者だね、染谷将太は。

 もちろん、おていの橋本愛もスゴイ。渾身の説得を展開したものの、難物歌麿相手にあえなく撃沈。そこで素のまま本音を打ち明ける。本屋に生まれ育ち、「端くれ」なんて謙遜するけど、生まれながらの本屋はおていなんだよね。その彼女が「見たい」という本音が歌麿の心に刺さったどころか火を点けた訳だけど、ここまでの肝の座った女優さんになるなんて、「あまちゃん」の時には想像もできなかった。

 大河は「西郷どん」「青天を衝け」「いだてん」も出てたか、でもこの「べらぼう」のおていの橋本愛が確実に一番良いね。そして、今作の中でも私的にはベストのおていだった。

 ていが歌麿を連れて、耕書堂に現れた時のワクワク感。BGMもいい感じに盛り上げてくれている。歌麿、戦場に赴くみたいに表情がめっちゃ引き締まってる。待ってました✨✨優しい重政先生が当て馬みたいで悪いけど、どうぞ許して!

 さあ、チーム写楽の本格始動だ。

血脈重視のキモイ治済、キモ過ぎる💦

 蔦重は、芝居町で平蔵の手下の仙太と出くわした時に、平蔵が大崎の行方を追っていると知った。葵小僧の装束一式は芝居町の衣装屋に頼んだものだったと平蔵は蔦重に明かし、その指図をアレコレしていたのは姿を見せない「やたら武家に詳しい女」だったとのことだった。

 そりゃ大崎でしょ・・・!あの葵小僧の事件の時、なぜか治済が葵の御紋の、一部焼け焦げたような提灯を持っていた気がする。怪しかったけど、やっぱり関係していたね。

 騒ぎを起こし、為政者定信の評判を落とすつもりだったのかもしれないが、一党をお縄にした火付盗賊改方の鬼平の株は江戸で大いに上がった。葵小僧一党は、定信の改革で仕事を失った者どもだって後から本多忠壽が言っていた。治済に操られそうな者どもだ。

 蔦重に「それが大崎様ってことですか?」と聞かれ、平蔵は「まだわからぬが、世間を煽り立てて事を大きくするのは、あやつのやり口だ。葵小僧もただ食うに困っただけの小悪党だったものが、傀儡とされたのかもしれぬ。そして、その葵小僧という傀儡により大勢の者が襲われ、命を落とした」と言った。

 「あやつ」は大崎じゃなくて治済だよね。視聴者のこちらはピンと来たけど、蔦重は分かっているのか?

 今回、治済はキモーい信念を将軍家斉や老中との問答で明らかにしていたよね。生田斗真がセリフを優しく噛んで含めるように言うものだから、背筋が余計にゾオッとしたよ。冗談じゃなくて、心底信じている人の言い回し。

治済:上様。将軍の務めとは何か、仰せになってみられよ。

家斉:・・・将軍家の血筋を絶やさぬため健やかな男子を作り、かつ、血脈を日の本に広げていくことにございます。

治済:フッ(笑う)。清水の家が、そろそろ空きそうじゃ。(家斉、ビクッとする)上様には急ぎ、お励み頂きたく。(女たちに目を転じて)そなたらも、上様のお気に入りとならねばのう。(つらそうに目を閉じる家斉)

 ドラマの大奥では、亡くなった(殺された)幻の11代様・家基の祟りで家斉の子が育たないとの噂があるようだった。あの世でもこの世でも、ふたりの11代様は哀れだね。

 リアルで、家斉がずっと家基の供養を欠かさなかったというが、気持ちも分かるよね。次は順番からいったら増上寺なんじゃないの?と思うが、家斉は10代家治と家基が葬られている寛永寺に葬られている。家斉の望みだったのだろうか。

家基に代わって第11代将軍となった家斉は、晩年になっても命日には自ら墓参するか、若年寄を代参させていたが、遠縁である先代将軍の子にここまで敬意を払うのは異例であった。また、家斉は文政元年(1818年)に重病に倒れ、なかなか回復しなかったため、家基の祟りと噂された。後に回復したが、家斉はその噂を聞いて震え上がり、木像を刻ませて智泉院に下付し、文政11年(1828年)の家基50回忌には、新たに若宮八幡宮の社殿を建立させたほどであった[4][5]

なお、家基の生母である蓮光院は家斉の将軍在任中の文政11年(1828年)に、没後30年以上経って従三位を追贈されているが、将軍の正室(御台所)や生母以外の大奥の女性が叙位された例は珍しい。(徳川家基 - Wikipedia

 ドラマでも、家斉が家基の霊を恐れて供養を始めるのだろうか。そして、次は治済 vs. 老中のふたり。

松平信明:大奥に、もっと金を入れよと?

本多忠籌:恐れながら、異国に向けての備えを始めたばかりですし・・・。

治済:(分かってないな、といった顔)そなたらのう、上様のお子こそ日の本を強くする一番の薬ぞ。日の本の諸国を「一橋」の血脈で染め上げてこそ、謀反の恐れもない、心ひとつの真に安寧の世となるではないか。

忠籌:しかし、日の本中とは。然様な事、まことできますものでしょうか?

治済:天は、健やかなる体を持つ一橋の血を選ばれた。知に長けた田安でもなく、情に厚い先代の公方様の血筋でもない。これは、血脈を以て染め上げよという天のご意志。案ずるな。(信明と忠籌が目配せ)

 わー、キモ過ぎる・・・でも、そう思うのは現代だから?と思ったら、ドラマの老中ふたりも気味悪がっていた。当時のリアルではどうだったんだろう?それ、その通り!という受け止めもあったのでは?と思うと、やっぱり江戸時代には生まれたくない。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#44 源内ミステリー➡戦隊モノか必殺仕事人か!ワクワクの治済成敗物語(➡八犬伝?)の始まり始まり(・∀・)闇落ち歌麿にはただ涙😢

終盤の展開に息を呑む

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第44回、驚きの「空飛ぶ源内」が11/16に放送された。演じている役者さんたちもビックリだったそうだ。

 最終回に向けて、壮大なギアチェンジですな・・・まずは公式サイトから今回のあらすじを引用する。

≪あらすじ≫
第44回「空飛ぶ源内」

 蔦重(横浜流星)の前に、耕書堂で本を書かせてほしいと、駿府生まれの貞一(井上芳雄)と名乗る男が現れる。貞一は源内(安田 顕)が作ったという相良凧(さがらだこ)を持っていて、蔦重は源内が生きているのではと考え始める。その後、玄白(山中 聡)や南畝(桐谷健太)、重政(橋本 淳)らと会い、源内の謎を追い続ける…。一方、歌麿(染谷将太)は吉原で、本屋に対して派手に遊んだ順に仕事を受けると豪語し座敷で紙花をばらまいていた…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第44回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 ふむ、あらすじではネタバレになるからギアチェンジには触れていないね。ここまで主人公の蔦重の物語と、幕府側の松平定信の物語は、鬼平の長谷川平蔵がかろうじてつなぎ役になっている程度で、接点は、蔦重が罪に問われた時に無理くり出てきた感のあった、お白洲への筆頭老中定信のご登場ぐらい。

 ほんと、無理くりだよねー田中美央の奉行が可哀そう、と思っていたが、それが、ここでまさか物語の2つの流れが収斂されていくために必要だったなんてねえ、考えもしなかった。再会で、あんた誰?にならないために。

 主にドラマの時代背景を説明するために、定信がいるのかと思っていた。特に蔦重のようにあまり知られていない主人公の場合、メジャーな歴史を辿ってくれるビッグネームが居ると助かるんだよね、大体の立ち位置が分かるから。定信は、その役割を担うにピッタリだったから油断してたな。

 今回のラストで蔦重の前に現れた定信は、まるで戦隊ヒーローのレッドの立ち位置。あんなにフィクション全振りの戦隊レッド定信でいいんですか・・・いいんです!もう、やっちゃってください。

てい:旦那様、これを。戸口のところに置かれておりました。ともかく、お目通しを。

蔦重:ああ。(木箱から原稿を取り出し、目を通し始める)「一人遣傀儡石橋(ひとりづかいくぐつのしゃっきょう)」・・・七ツ星の龍?

回想の平賀源内:「その名も七ツ星の龍。しかし悪党も大したもの、なんとその龍こそを人殺しに仕立て上げる。危うしの七ツ星。そこに現れたるは古き友なる源内軒」

九郎助稲荷の解説:死を呼ぶ手袋のカラクリに気づいた七ツ星の龍と源内軒は、悪党の正体を突き止める。それは、傀儡好きの大名であった。しかし、ふたりはその成敗にしくじり七ツ星の龍は命を落とす。・・・そこに描かれていたのは、源内軒が仇討ちに立ち上がるその後の物語でありました。

蔦重:・・・本人だよ。これ書けるのは、源内先生しかいねえよ。

てい:え?(添えられていた書付けを差し出す。「八日申の刻安徳寺にお越しあるべく候」と見える)

蔦重:「安徳寺にお越しあるべく候」・・・安徳寺。

 そこで安徳寺に赴いた蔦重!鐘の鳴る中、奥へと案内される。絶対待ち人は源内だと思って心が躍っているよね。

蔦重:(襖が開かれ)・・・何で・・・(正面に松平定信が座っている)

定信:久しいな、蔦屋重三郎。

蔦重:(目を転じて)長谷川様。三浦様も。これは・・・。

三浦庄司:まあ座れ、蔦重。(立ち尽くす蔦重)

定信:何故かようなことになっておるのか、知りたくはないのか?(蔦重、右手に持った原稿に目をやる)

三浦:蔦重!(蔦重、部屋に入り座る。後ろで襖が閉まる)

高岳:(箱を持って蔦重のそばに来る)田沼様の頃、大奥に勤めておった高岳と申す。(箱から手袋を出し、蔦重に差し出す)

蔦重:(受け取り)これは?

定信:かつて源内がそなたと作っておった戯作のネタとした手袋じゃ。事の起こりは、それが私の下に届いたことだ。

回想の定信:これは?

回想の高岳:家基様が命を落とされた鷹狩りの際、身に着けておられた手袋。私が田沼に頼み、種姫様より差し上げた物にございます。(定信が手袋を吟味する)毒が仕込まれており、親指を噛む癖のあった家基様は・・・(噛む仕草をする)。

回想の定信:・・・田沼が仕込んだということか?

回想の高岳:いえ。私の手元に参りました折には、かような異変はございませなんだ。毒が仕込まれたのは、家基様に献上されるまでの間。そして、それを私の手元に持って参りました大崎は、元は上様の乳母。その当時、西の丸に勤めておりました。

回想の定信:・・・大崎が?

回想の高岳:大崎にそれを命じましたのは、越中守様を追い落としたのと同じお方かと。

高岳:この話を誰かにしようとも、怪しいのは私か田沼様とならざるを得ぬ。故に私は、今日まで黙り込むより他なかった。恐らくは、田沼様も。(蔦重、渡された手袋を見ている。高岳、座に戻る)

定信:しかし、大崎がやったという確かな証はない。証を得るために私は、長谷川に大崎を探すことを頼んだ。

長谷川平蔵:それを見て驚いてなあ。それは、私がかつて田沼様に探せと命じられた手袋なのだ。その折、それは右近将監様なる御方のお手元にあった。しかし、その御方がこれまたなぜか亡くなられ、その後、手袋は行方知れずとなった。・・・田沼様に、今こそ仇を討ってくれと頼まれておるように感じてな。

定信:その辺りのことを詳しく聞くべく・・・。

回想の三浦:(障子を締め切り、手袋を受け取って)死を呼ぶ手袋!

回想の定信:死を呼ぶ手袋?

回想の三浦:かつて平賀源内が、その一連の真相を推測し描いた戯作があったのでございます。亡き殿をうがった七ツ星の龍を救うため、友人の源内軒が、死を呼ぶ手袋の謎を追うという・・・。

回想の定信:・・・源内は、それ故に捕らえられたのか?(涙ぐみ、うなずく三浦)

三浦:私は、当時起こったことを申し上げた。その後、亡き殿、若殿、先の公方様の身の上に起こったことも。

定信:否。引いた眼で見れば、我らも皆、その者の傀儡とされ、弄ばれておったとも言える。故に此度、宿怨を越え、共に仇を討つべく手を組むに至った。どうだ、蔦屋重三郎。我らと共に、仇を討たぬか?そなたとて、心ひとつであろう。

 ああ・・・ここに持ってくるための、これまでの積み重ねだったのか。死の手袋の謎は残されていたし、大崎もそうだよね。治済がなぜシリアルキラーみたいなことをしてきたのかの動機も、まだドラマでちゃんと語られていないし。

 治済に対するフラストレーションが視聴者には溜まりに溜まっている。当然、史実ではそうじゃないかもだけど、このドラマでは、生田斗真が良い感じに憎らしくて、完全なる悪役。治済の手にかかって次々と人が死に、なんと幕府までが乗っ取られている。そういうことになっている。これだけ広がった大風呂敷をどうまとめるのかと思っていたよ。

 そのフラストレーションを晴らせる大逆転劇の物語が、ここから用意されていると信じるよ。わー、どんな手を使うんだろ🎵予告での、皆さん勢ぞろいでの写楽もそれと関係あるの?悲しき歌麿は一枚噛んでこないのかな・・・。

 蔦重、やるっきゃないでしょ!と思ったものの、史実で早死にする蔦重には、もうあまり寿命が無い。待って、もしかして・・・脚気で死ぬんじゃないのかも?蔦重、もしかして治済に返り討ちにされるのか?!ひえー😱

エネルギーをくれたのは、死んだはずの源内探し

 今回のドラマ冒頭に戻る。前回、おていは切迫早産に見舞われたらしい場面を迎えていて、榊原郁恵の産婆の手をもってしても、とても身籠った子は助からないらしかった。ブログの前々回に載せた蔦屋家の墓碑によれば、ていさんは助かるのは確かで、その頃に死んだ家族もいない(水子は別に葬られるのかもしれないけどね)。

 ドラマでもおていは生き残り、蔦重と夫婦ともども子を失った悲しみに打ちひしがれ切っていたところから今回はスタートした。ていの体調は戻りつつあるはずだが物が食べられず、気力を失ってしまっている蔦重夫妻。

 しかし、後の十返舎一九の重田貞一が、源内が考案したという相良凧(なんでも、公式ナビによると特徴はガラスの粉を練り込んだビードロ糸。これで相手の凧糸を切り落とす!のだとか)を背負って賑々しく蔦屋に売り込みに来訪し、「(死んだはずの源内は)どうやら生きてるって話でして」と話した時、蔦重の閉じ気味の瞳がやや開き、キラリと光が宿った。

蔦重:源内先生ってなあ、獄につながれて死んだことになってっけど、実は密かに逃げ延びて、田沼様の治めてた相良に潜んでたんだよ。で、そのお礼に考えたのが、この相良凧って話で。おていさん、見ただろ?石燕先生の絵。雷獣の髷が源内先生のようで。もしかしたら、妖の姿、借りて・・・。

てい:源内先生が、実は生きていると伝えていた?

蔦重:(嬉しそうに頷いて)いや、ねえか。んなことは。(かぶりを振るおてい)

 「袖の下」として相良凧を貞一から受け取り、源内が実は生き延びたのかもしれないと、おていに話す蔦重。そして、その可能性を探って話を聞きに歩く。

 戸口で、久しぶりに見上げた青空だったのかもね。蔦重の鬢が日の光を浴びてつややかに光り輝いていた。その行動が、子を失った絶望を徐々に薄れさせるようだった。それは、家で蔦重が持って帰る話を聞くおていさんもそう。

蔦重:良かった、(おていが)食えるようんなって。源内先生ってなあ大したもんだ。おていさんをこんな元気にしちまうんだから。

てい:旦那様も。

蔦重:だな。

 秋田から、まあさん(朋誠堂喜三二)が「暇なのよ~」と手紙の返信を自分で持ってきたくだりはホッコリしたな。

 でも、まあさんは隠居もして、藩で蚊帳の外だったのだろうか?藩の中枢にいたら、「解体新書」の画家・小田野直武の、源内獄死の翌年の秋田での不審死について、もっと突っ込んだ真実を知っていても良さそうだ。まあさんもまあさんで、定信に睨まれて国元に戻されるというヤバい立場ではあったから、仕方ないか。

 それで、蔦重が「源内先生は、でっけえ紙風船にぶら下がって蝦夷に行ったって言うんですよ」と、田沼意次の懐刀だった三浦庄司を訪ねたのだが、あれ?と違和感を持った。

 意次が失脚した際に、三浦も罪に問われたりしてたよね?でも、以前に意次が住んでいた住居をそのまま乗っ取って住んでるの?と思うぐらい、今回、江戸で悠々自適の良い暮らしを続けているみたいに見えた。

 ウィキペディア先生を確認したところ、こう書いてあった。

・・・諸大名の責任追及の矛先は意次第一の側近だった庄司にも向けられ、相良藩はこれに押される形で庄司を押込に処し、続いて罪人として相良へ送還のうえ入牢することになった[9][2]。田沼家の減封後は蟄居ないし追放になったというが、莫大な蓄財があったため、浪人しても不自由なく暮らしたという話も残る。(三浦庄司 - Wikipedia

 どんだけ貯め込んでいたんだ、三浦!蔦重と面会していた時、そこに訪ねてきたのが、きっと高岳に死の手袋を見せられた後の定信だったのだろうね。演じるのは原田泰造だもの、あれだけで終わるはずないと思っていたよ~ニヤニヤする。(・∀・)

定信著、究極の内情暴露本が出される?

 定信は、かつて敵陣にいたと信じていた高岳、三浦に話を聞いて、どんな心持ちになっただろう。一橋治済に踊らされていた自身を省みて、田沼派や、「田沼病」に冒されていると煽られて文化を担っていた人たちを、お門違いにも糾弾し続けて破滅させてしまったことは痛恨の極みと悔いるばかり・・・だろうか?

 推しの恋川春町だって殺しちゃったんだよね。悔いていなかったら、源内の「七つ星の龍」の物語を引き継いで書いたりはできない気もする。

 ここで、物語を書けちゃうんだから、定信が昔っから黄表紙好きだったという設定が生きてくる。幕府の内情を誰よりも知る立場だったのだから、やたら面白い究極の暴露本になってるだろうなー(・∀・)ニヤニヤ。将軍家斉と治済の肝胆寒からしめる、内情にとっても詳しい話になってるに違いないよね?

 そうそう、クランクアップすると続きの台本は渡されないと聞くから、こんなに面白くなってしまって意次役の渡辺謙もかぶりつきでテレビを見てるんじゃないだろうか。

 ところで今回、後の曲亭馬琴先生のうるさい滝沢瑣吉は下駄屋を営む会田家に入婿。ここまでドラマで彼の存在がフィーチャーされて描かれているということは、彼の「南総里見八犬伝」は今後の戦隊チームの活躍に触発されて生み出されたって方向に、話が転がっていくのだろうか?

 蔦重の生きる時代には、当然のごとく間に合わない。瑣吉が往時を懐かしく思い出しながらの執筆もあるのではないか。江戸の人たちも、実は江戸城での昔話をなんとなく想定しながら八犬伝を読んでいたとしたら、面白い。

 恥ずかしながら八犬伝は、小さい頃に「🎵仁・義・礼智~忠信・孝悌~いざとなったら玉を出せ🎵」をNHKで見て、当時子供向けの本を読んだレベルで終わっている。だから、内容が多少合致しているかとかそこらへんは何とも言えない。

江戸のお菓子を食べたい

 ミステリー「源内生存説を追え!」の過程でもそうだったけど、今回、美味しそうな江戸前のお菓子が続々とドラマに出てきて、目を奪われた。

 ちょっと待って!と本棚に飛んで行って岸朝子の名著「東京五つ星の手みやげ」を引っ張り出し、掲載されている名品があるんじゃないかと録画を止めて目を凝らしたのだけど・・・老舗のお菓子もカバーしている本だが、目当てのものは創業が明治~昭和だったり、江戸時代でも蔦重よりもちょい後の時代だったりで、惜しい。

 元禄年間に新宿に移転した「追分団子」はアリなんだな、船橋屋の葛餅もアリ。「言問団子」も江戸末期だからアリかもしれない。「うさぎや」のどら焼きは大正か・・・アウト。「志〃満ん草餅」も明治創業でアウトか・・・でも、アウトでも、似たような餅は当時、きっと作られていただろう。あんこ巻きとかもすぐ作れそうだし?

 謎だったのが秋田の「もろこし」と呼ばれる、まあさん持参のお菓子。検索してみたら、炒った小豆の粉を使った打菓子・・・やっぱり落雁みたいな物かな?

item.rakuten.co.jp

 今もちゃんと売られている。食べてみたい。秋田のアンテナショップに行けば手に入るようだ。最近は糖分もほどほどにしなければとは思うけれど、やっぱりお菓子は良いよね。大田南畝も、あんこ餅を食べてピンと来て蘭画を源内から預かったことを思い出した。私も、物を書く時にチョコレートがあるとだいぶ頭が回転するので食べ過ぎる。

 ドラマがそっちのけになりそうだったが、私が好きな「かのこ」や言問団子風の団子を含む、江戸前お菓子セレクション(「ふじ撰江戸名物菓子之部」だそうで)を駿河屋ふじ&とくが持ってきた時の、流産したばかりのおていへの優しさが沁みた。

 生きている自分たちが食べる分だけじゃなく、亡き人たち(おつよさんと赤ちゃん)にも小さいお菓子セットが準備されていたね。赤ちゃんの分もないと、ママは「自分だけ食べるのは嫌だ」と気が引けちゃうものね。優しさを感じて、ていも涙ぐんでいた。

 また、飯島直子演じるおふじは、おていに「食べなさい」とは押し付けず、自分たちでもぐもぐ美味しそうに食べ始め、自然に「私も」とおていが言ってから「ん」と手渡した。久しぶりの癒しの「ん」だったね。おていは、涙と共に菓子を食べていた。

 おふじは、おていに「義母上様」と呼ばれる立場ではあるけれど、蔦重の生母おつよが生きていた時はご無沙汰だった。私が私がじゃなく、おつよの邪魔をしない、弁えた人物。こういうところが、駿河屋おふじは完璧なんだと思ったね。 

蔦屋跡取り問題、みの吉リード?歌麿の恋心は紙くずと化し・・・

 蔦重夫婦が子を失ったってことは、歌麿の「店の後継ぎにしてくれよ」発言が、もしかして実現するのか?歌麿は、人別上は二代目として名が残る「勇助」と同じ名前だしね。おていは歌麿の苦しい恋心に気づいているから、蔦重の跡取りになりたいという歌麿の希望を受け入れる可能性はある。

 でも、みの吉の評判がうなぎのぼりなんだよな~。やっぱり丸屋の昔から奉公している、みの吉に軍配が上がるのだろうか?

駿河屋市右衛門:何があったんだよ、歌と。

りつ:言ってくれりゃ、私らが仲立ちするよ。

鶴屋喜右衛門:蔦屋さんがその気なら、私も手伝いますよ。

蔦重:吉原のため地本のために、良いようになさってください。(頭を下げる)

鶴屋:今、歌麿さんを手放すのはここを畳むことになりますかと!

駿河屋:おめえよお、日本橋ん出て、吉原の誉れになんじゃなかったのかよ!んじゃ悪いけど、よそと組ませてもらうぜ。

りつ:吉原もゆとりがないんでね。

鶴屋:うちも遠慮なく、歌麿さんと組ませていただきます。ああ、みの吉さん、身の振り方に困ったらいつでも言ってくださいね。

駿河屋:お前さんなら、俺でも良いぜ。

りつ:うちでもいいよ。

(3人が去る。頭を下げる蔦重とみの吉、心配そうにみの吉が背後から蔦重を見る)

 今はゆとりがないと言いながら、みの吉の身の振り方は任せろと3人の手が挙がっているんだもの、大したものだ。

 「亡き子、亡きオババからご加護を得るのだ、写経だ写経~」と瑣吉が店先でうるさく息巻いている時も、みの吉は「間違っちゃいないんだけどな~」と涼やかに瑣吉を眺めている。

 耕書堂に売り込みに来た後の十返舎一九も、最初は警戒するが追い返さず蔦重につないだ。彼から平賀源内生存説が出た時には、主人である蔦重の反応を注意深くじっと見ていた。

 手代同士のはずの瑣吉とは、以前のように揉めることもなく瑣吉先生と呼ぶ。瑣吉の書いた物を読みこみ、彼の行く末を考えて縁組がうまくいくよう計らう。店についても、今後の出版プランを提出したりもする。主人の蔦重と女将ていがまだ本調子を取り戻していない時期に、しっかりしている。

 みの吉の振る舞いは、確かに有能らしい風を吹かせている。みの吉、跡取りレースは歌麿よりもかなりリードか。ずっと店にいるのだし、既におていの心の支えだし。そういえば、身籠ったことを蔦重よりも先に知らされ蔦重をガックリさせていたもんね。

 今回、かなり不思議だったのは、蔦重が歌麿の希望を無視して蔦屋の印を上にして例の恋心シリーズの絵「歌撰恋之部」(お菓子のふじセレクションと同じ形式の名前?)を出す点だ。なぜだ?いくら目を見張るような見事な彫と摺で素晴らしい仕上がりにしたとしても、「これからは、お前の名を必ず上にする!」って約束したのに。

 おていと話す時に「勝手に出すと嫌がりゃしませんかね?」と考えはしたのに、蔦重はボンクラすぎる。「やはり歌麿の絵は蔦重あってこそ!そう歌さんに思っていただきましょう。そうすれば、お戻りになるのでは」と、歌麿に戻ってきてもらうための策としておていが考え、鶴屋も協力したのに、これじゃ台無しだ。

 歌麿は、自分の恋心なんてボンクラ蔦重の前では紙くず同然だと絶望して、絵を千切りたくもなるよね。見てる方の心が痛い・・・こうなったら歌麿を救えるのは誰?おていさん?「蔦屋重三郎からの恋文でございます」と予告で告げていたものの「嘘だね」と歌麿が切り返していた。でも・・・何とか助けてあげてよー。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#43 絶望の二人!歌麿の恋心をどこまでも汲み取れず、手切れを告げられた蔦重。家斉親子の罠にはまり梯子を外された定信には俊寛の面がお似合い

最近の家族の憂い

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第43回「裏切りの恋歌」が11/9に放送され、とうとう蔦重は歌麿に「俺、蔦重とはもう組まない」と引導を渡されてしまい、定信は罠に嵌められ絶望を味わった。公式サイトからあらすじを引用する。

≪あらすじ≫
第43回「裏切りの恋歌」

 蔦重(横浜流星)は、吉原への借金返済の代わりとして、歌麿(染谷将太)が描く五十枚の女郎絵の準備を進めていた。蔦重との関係に悩む歌麿の気持ちも知らず、半ば強引に仕事を進める蔦重だったが、ある日、歌麿が西村屋の万次郎(中村莟玉)と組む話をきき動揺する。一方、江戸城では、定信(井上祐貴)がオロシャ対策に全力を注いでいた。この一件をさばき将軍・家斉(城 桧吏)に手柄を認めてもらい“大老”の座を狙うが…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第43回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 このドラマは家族と一緒に見ているのだが、最終回まで残りあと5回ぐらいだというのに「このところ見ていられない」と家族が言う。蔦重の、亡き母つよも認める朴念仁っぷり、人情の機微に疎くて歌麿の心を散々傷つけているところが「俺もこうなんだよな、俺のことみたい」だと気弱になって言う。

 そうかな、単純なのはそれはそれで周りは安心な部分もあるよ、だから良いんじゃないかと思うけれど、溜息は「はーーーっ」と漏れ、いたたまれないと。ドラマを楽しめないようじゃ、もったいない。

 確かに歌麿は、蔦重に恋する気持ちを断ち切ろうと気の毒なほど。それに全然気づかない蔦重を見ていると「単純なのはそれはそれで良い」とはやっぱり言えない。「歌麿よ、こんな分からず屋の唐変木のどこがそんなに好きな訳?」と聞きたくなるね。

 当たり前だがウチの家族の見てくれは横浜流星には遠く及ばないのだが、同じような単純さでも不思議なものだ、蔦重の方にイライラする。染谷将太の歌麿が気の毒過ぎると感情移入しているからだと思うが、カッコ良い横浜流星が、蔦重みたいなカッコ悪い男をうまく演じているということでもあるね。

恋心を描き、その絵を蔦重にプレゼント・・・でも

 そういえば、不思議なシーンがあった。歌麿の前で突然、吉原の遣手が秘めた心を口にしだすのだ。

遣手:うちの人も昔はあんな風でさ、いい男だったのに・・・。

 それを、歌麿はじっと見ていた。いやいや、遣手の女が、急に口を開いてペラペラと本心を白状ってのはおかしいし、するはずがない。これは夢?と思ったが、そうじゃなくて・・・歌麿が「三つ目」だから、このように彼女の内心が汲み取れていたのだろうか?それとも、彼女を見て、まるっと歌麿が想像したのか。

 コウメ太夫がその主人を演じる水茶屋の難波屋では、会いに行けるアイドルである看板娘・おきたの淹れるお茶の値段を、仕方なく通常価格に戻した。彼女を目指した客で店は相変わらずの大盛況だが、儲けは当然減っただろう。そんな会話を難波屋主人と蔦重が交わしている間に、歌麿はおきたの妹分と思われる娘を見ていた。

店の娘:茶柱立ってないし、来ないかな。来ないかしら・・・(足音。表を通りかかる若侍。おきたの「ありがとうございました」の声を聞いて、微笑んで通り過ぎる。娘もニッコリ)

歌麿:(笑って、独り言)あれが目当てか。

蔦重:みてえだな。

 このように、素直に彼女たちの心中を察することのできる歌麿に対して、この時、鈍感な蔦重は、さらに余計な勘違いをしていたものだから、ああがっかり。

 歌麿は、アーティストの目が美を捉えるというのも当然そうなのだけど、自分の恋心を重ねるように彼女たちの恋心の発露を言動から感じ取り、どこか同志を応援するような気分で見ていた節もあったと思う。

 なのに、蔦重は、歌麿が単に女漁りをし始めたと理解したみたいだ。まあ、男性が女性を目で追う場合、普通はそんなものなのかもしれないが、これまでの20年間の積み重ねがあっても、どうにも考えが浅い蔦重。どうして気づかないんだよー、唐変木!

 でも、「旦那様、そもそも歌さんの見方を間違っておいでです」と、おていさんが言う訳にもいかないからな・・・誰が言う?瑣吉なら言えそうだよね。でも、彼も気づかなさそう。

てい:歌さんが、新しいおきよさんを探しておられるのですか?

蔦重:ああ・・・あちこち女によそ見ばかりしててよ。ありゃ、いい女いねえか探してんだよ。(ていは、そうじゃないのになーといったような、戸惑った表情。お腹が膨らみ始めている)・・・どうだい?具合は。

てい:ああ・・・頭痛も無くなりましたし、子はすくすく育っておると。(お腹を撫で微笑む)

 それで、歌麿は自分の恋心を託した「恋心」シリーズの絵を蔦重に渡したのだけれど、タイミングが悪かった。蔦重は、歌麿が西村屋と仕事をするのかという不安いっぱいで駆けつけてきたものだから、その雑音に支配されて、歌麿の愛の告白でもあるその揃い絵の意味を、しっかり理解できなかった様子だ。鈍感な上に、タイミングが可哀そうではある。

歌麿:(庵で女の大首絵を仕上げて)これで終わるか・・・。

蔦重:歌!邪魔するぞ!(入ってくる)いきなりすまねえな。ちょっといいか?

歌麿:いいよ。何かあったのか?

蔦重:西村屋と仕事するって、ほんとか?(無表情の歌麿)んなわけねえよな?・・・(5枚揃いの女絵を見て)おまえ、これ?

歌麿:いや、これは・・・(心を決めたように、まとめて差し出す)これは、蔦重にだよ。(ほほえむ)

蔦重:ああ・・・そうか。そうだよな。はあ・・・どれ。(座って絵を見始める)うん?これ、あん時の遣手か?

歌麿:うん。(次の一枚)その娘も、水茶屋で見かけたろ?

蔦重:ああ・・・一体、何描いてんだ?これ。

歌麿:「恋心」だよ。(そっと顔を逸らす)

蔦重:うん・・・いや、すげえ良い絵だけど、こりゃ売り方が難しいな。

歌麿:別に売らなくてもいいよ。売ってほしいと思って描いたもんじゃねえし。

蔦重:じゃあ、何で描いたんだ?

歌麿:俺が、恋をしてたからさ。

蔦重:(目を剥いて)お前、おきよさんみたいな人、見つけたのか!(蔦重の方を見る歌麿)いや、ここんとこのお前見て、いい人探してんじゃねえかって思ってたんだよ!誰だよ!(歌麿をポンと叩いて)こん中にいんのか?(どんどん表情が虚ろになり、舌打ちする歌麿)んだよ?言えねえような相手か?

歌麿:いや。(立ち上がって蔦重から離れる)

蔦重:誰だ?(絵を見ている)

歌麿:俺に女が出来んのがそんなに嬉しいのかって・・・。(庭向きに縁側に座る)

蔦重:当たりめえだろ!おきよさんと一緒になった時のお前、そりゃ楽しそうでよ。(歌麿と並んで座る)できれば、またそうなってくれねえかって思ってたんだよ。で、誰なんだよ?

歌麿:・・・言えねえな。俺が好きなだけで、向こうにゃ脈は無さそうだし。

蔦重:じゃあ、俺が橋渡ししてやるよ。(歌麿の背中に左から手を回して右肩を叩き、手を右肩に乗せたまま、相変わらず馴れ馴れしい)

歌麿:(無表情で庭を見ている)いいよ。

蔦重:遠慮すんな。

歌麿:いいって・・・。

蔦重:んじゃ、うまくいったら教えてくれよ。(ポンと肩を叩いて手を離す)

歌麿:俺、蔦重には言わねえよ。

蔦重:・・・は?(怪訝な顔)

歌麿:俺、蔦重とはもう組まない。(立ち上がり、棚から絵を取って蔦重に突き出す。蔦屋の印の下に、歌麿の名)このような扱いは酷くねえか?常なら絵師の名が上だろ?

蔦重:お前、そりゃ物によりけりだよ。「看板娘」は、お前の絵より「仕掛け」を売り出してえとこがあったし、お前の絵を押し出す「十躰」は逆になってんだろ?

歌麿:けど、それでいいかって俺に聞かなかったよな?

蔦重:じゃあわかった。これからは、お前の名を必ず上にする!

歌麿:西村屋の息子が面白えんだよ。あんなことやりてえこんなことやりてえって山のように言ってきてさ。その一つ一つが「そうきたか」ってな具合でさ。面白え本屋はなんも蔦重だけじゃねえって。

蔦重:いや・・・んなこと言ったって、お前、吉原どうすんだよ?皆、お前が立て直してくれるって頼りにしてんだ。お前だって、恩を受けてんだろ?

歌麿:そこは、俺なりの恩の返し方をしてくよ。女郎絵をよその本屋と請け負うっていう手もあるだろうし。

蔦重:んなこと言うなよ・・・頼む!(頭を下げる)何でもするから、考え直してくれ!

歌麿:じゃあ、俺をあの店の跡取りにしてくれよ。あの店、俺にくれよ。

蔦重:そりゃできねえよ。おていさんもいるし、ガキも生まれるし。大体なんでそんな事!

歌麿:何でもって言ったくせに。蔦重はいつもそうなんだ。お前のため、お前のためって言いながら、俺の欲しい物なんて何一つくんねえんだ。

蔦重:それ、どういうことだ?

歌麿:おていさんと子、とびきり大事にしてやれよ。(奥に去る)

蔦重:歌麿!

 店のあと取りになりたいって、蔦重と改めて家族になりたいってことだよね・・・しかしね、こんなに身近な人の感情に鈍感で、蔦重はよく売れっ子の本屋をやってこられたと思うけどね?バリバリ機敏に働く一方で、家庭に向けるアンテナが壊れていて配偶者の感情に無頓着な人は五万といるから、珍しくもないか。

 蔦重は、歌麿への懺悔の手紙を残して帰宅。

蔦重の手紙:「知らねえうちに嫌な思いをたくさんさせちまってたんだな。大事にしてたつもりが、いつの間にか籠の鳥にしちまってた。悪かった。あの日から20年、俺についてきてくれてありがとな。とびきりの夢を見させてもらった。ありがとう。体は大事にしろよ。お前は江戸っ子の自慢、当代一の絵師なんだから」

 歌麿を毒づいたりしない蔦重。この手紙を貰った歌麿が、また蔦重を助けるために手を貸す・・・というのは有り得ない話ではなさそう。嫌いになりたいけど、本音は好きなのだもんね。やっぱり写楽はアリかな。

 蔦重の、丸めた背中に雨が降る。どんよりと帰り、家人に「歌麿は、もうウチとはやらねえってよ」と歌麿との決裂(=耕書堂には大きな痛手)を伝えたら、身重のおていも帳場から飛んできた。

 蔦重が手にした歌麿最後の「恋」シリーズの絵について、「恋心を描いたって言ってたなあ」と蔦重に聞き、おていは顔を固くしている。自分が感じていた危機感を言えば良かったのか・・・でもどうすればと、キュッと息が一瞬詰まる思いだったかもしれないね。

 前回ブログで、これは大したことないでしょ、と思って以前の蔦屋の墓参りの話を書いた。その時に、ご一家の没年月日が記されている墓碑の写真を載せてしまったのだけれど、まさか、おていさんがあのような切迫早産的な展開になって、母子の安否が次回にまで引っ張られる運びになるなんて思いもしなかった。

 これは、前回ブログがしっかりネタバレになってしまう雲行きか?・・・ごめんなさいね💦

 史実通りならとりあえず良かった良かったになるっぽい。郁恵ちゃんの産婆さんもご活躍だろうし。だけどドラマだから、鬼脚本家だから、そこはとんでもない苦い涙のフィクションがかまされてくるかもしれない。油断できない。

定信に罠!嵌めたのは将軍親子

 今回のサブタイトルが「裏切りの恋歌」ということで、見事に裏切られたもう一人が松平定信だった。自分や、自分がやっていることに自信があるから、まさか梯子を外されるなんて予想もしなかったのだろう。

 しかも、主犯は将軍親子だなんてねえ。将軍という地位にリスペクトばりばりの定信だから、将軍がそのようなことに自ら手を下す事への驚愕もあっただろうな。

 まず、将軍家斉が、口うるさい定信の口を塞ぎつつ、美味しそうな罠を仕掛ける。この話運びのうまさ、父親の治済譲りだよね~。

将軍家斉:(「海辺御備取調書」という厚さ10センチ近い分厚い書物を手にしている)

松平定信:先頃の検分を基とし、江戸周辺の海辺の守りを考えましてございます。かいつまんで申し上げますと・・・。

家斉:(素早くカットイン)父上が、そろそろそなたに頼るのは止め、己で政を指図すべきだと言うのだ。

定信:は・・・?

家斉:しかし、余は難しきことは分からぬし、正直な所、政に興も湧かぬ。そなたが「将軍補佐」を外れても、ず~っと「将軍補佐」のごとく指図を出す仕組みは無いものかの?

 定信は、その足で尾張様の邸に直行したらしい。紀州様はご病気が匂わせてあったが、そういえば水戸様は最近どうしてるんだろうね。中の人が他のお仕事で忙しいのかな。ということで、ここのところ定信の相談相手は尾張様が多い。

尾張徳川宗睦(むねちか):「将軍補佐」を辞し、「大老」になるというのか?

定信:はい。大老ならば、将軍補佐のごとく睨みを利かせられますし。

宗睦:大老は、井伊、酒井、土井、堀田の四家からしか出さぬというしきたりがあるぞ。

定信:かつて、柳沢吉保が大老「格」に任じられました例もございます。然様な向きで、なんとか後押し頂けぬでしょうか?上様も、暗にそれをお望みのご様子ですし。

宗睦:しかし、妙ではないか。上様は、そなたを煙たがっておった。それを、ここのところ急に。

定信:そこはオロシャにございますかと。オロシャが攻めてくるかもしれぬ、その脅威を前に、私が入り用だとお考えくださったのかと。

 定信~💦良い方に良い方に物事を考えるのは、良い事だ・け・ど。こういうところが坊ちゃん育ちなんだな。「妙だ」と気づいた人からせっかくアドバイスをもらっても、それを無駄にしてちゃ・・・とここまで書いて、いやいや、定信は最初からアドバイスなんて求めてなさそうだよ。ただ、僕ちゃんが決めたから後押ししてね♡とだけ、宗睦に言いに、根回しに行ったつもりだったんだな。

 そこが蔦重とよく似ている。おていが「何か変じゃありませんでした?歌さん」と疑問を呈しても、軽く考えて却下しちゃうからね。その積み重ねが前述の事態を招く。

 定信は、徳川家康の東照大権現にも「東照大権現様。どうかこの美しき国を夷狄よりお守りくださいませ。否、私に守らせてくださいませ。叶えて頂けぬのならば・・・代わりに死を賜りたく」と祈っているけど、お願い事をしているのに、さらに「叶えて頂けぬなら」とゴリ押し、半ば脅すところにDV気質がニオイ立つ。

 解説が公式サイトに載っていた。

【べらぼうナビ🔍定信が手を合わせている方角】

定信が手を合わせているのは日光東照宮の方角です。定信は「たとえ自身や妻子が犠牲になろうとも天下の災いを鎮めてほしいと、1日に7、8回、多いときには10回も東照宮に念じていた」と自叙伝『宇下人言』に書き残しています。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第43回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 それでいいのだな?己や妻子が犠牲だぞ?と家康が聞いても、定信はハイ!と元気に答えそうだ。だからなのか・・・定信が直面した現実も厳しかった。お気の毒に。

 家斉の定信への工作は続く。パパ治済に言われた通りにやってるんだろうな。

家斉:では、オロシャは去りおったか。

定信:はい。我が国はオランダと清の他は国を開いておらぬ。故に、オロシャの望みを叶えることはできぬ。しかし、長崎というところがあり、そこは唯一、異国の船が出入りし通商が行われる港である・・・と、もったいをつけ信牌を渡したところ、王にそれを見せるためオロシャに舞い戻ったそうにございます。

家斉:そうか。実に見事な裁きであるな。

定信:お褒めに預かり、恐悦至極に存じます。(立ち上がり、三方に載せた書状を家斉に差し出す)

家斉:これは例の、あれであるな?

定信:はい。(笑う家斉、定信も)

 まさに家斉と定信の同床異夢。この場面に先立って、セミの鳴き声だけが響く怖いシーンがあったね。治済が、能面を並べて思案していた。

 当方、能の知識はほぼない。まずは手に取ったのは角も生えているから般若だろうと推測するが、治済は、それじゃ違うと考えた様子で、元に戻した。その次に手にしたのは、あの俊寛の面だよね・・・治済は、顔に面を当て、めっちゃ笑ってウンウン納得している感じだった。

 定信をただ怒らせるのじゃつまらない、絶望させてやる!ってことだったのかなと、治済の暗い考えを後で想像したよ。

 とうとう、そのXデーはやってきた。定信が意気揚々としているのが哀れ。

定信:(東照宮の方角に二拍手一礼、さらに深々と一礼)

水野為長:いよいよ大老。これよりは、更なる高みより政をなさるのでございますな。

定信:将軍を出すのは、田安家の念願であった。無論、大老は将軍ではないが、此度においては国の舵取りを任された。いささか不敬ではあるが、ここはひとつ、将軍になったつもりで事に当たろうと思っておる。

為長:大権現様も、殿こそが相応しいとお認めになったのでございましょう。

定信:(膝をつき、水野為長の右肩に手を置いて)参る!

為長:(万感の表情)はっ!

 この水野為長が治済のスパイで、裏切られていたら定信もちょっと可哀そうだよな・・・と思っていたけど、この表情だとそんなことは無さそうだ。ただ、「殿こそが相応しい」云々を言って肩に手を置いたら、普通はそこで家臣のこれまでの苦労をねぎらうんじゃないの、定信君💦家臣の自分への献身は当たり前と思っちゃってるかな。

 さて、いよいよのいよいよ、クライマックスだ。

将軍家斉:松平越中守。先日、その方より出された「早く下城したい」という願いであるが、今も心変わりは無いか?

定信:はっ。相違ございませぬ。(定信を真っ直ぐ見る、治済の目力が強い💦)

家斉:そなたの下城が然様に遅くなるのは何故か。

定信:「将軍補佐」と「老中」を兼任しておるゆえと存じまする。今の上様ならば、もはや補佐役などは御無用。老中にも、頼もしき顔触れが揃いました。よって、両お役目をお解き頂きたく。

家斉:相分かった。では、「将軍補佐」および「老中」の役目を許すこととす。

定信:ありがたき幸せに存じます。(治済が家斉の方に顔を向ける)

家斉:では、越中守。

定信:はっ。

家斉:・・・これよりは、政には関わらず、ゆるりと休むが良い。(定信、思わず家斉の顔を見て、視線が合う)フッ。これよりは余も将軍として励むとしよう。(意外な展開に固まっている定信、笑いを堪えている老中たち)

尾張徳川宗睦:(家斉に)それがしは、越中を置いて他にこの難しき形勢を乗り切れる者はおらぬと。

老中松平信明:恐れながら、難しき形勢とは?

宗睦:朝廷、オロシャ・・・。

信明:朝廷もオロシャも、素晴らしき越中守が見事に片を付けてくださいました。

本多忠壽:真そればかりではございません。越中守の倹約のお陰で御公儀の御金蔵には十万両も蓄えが増えましてございます。(悔しさに目を剥いている定信)

一橋治済:(にこやかに涼しい顔)越中。上様のため、徳川のため、まこと我が息子のため、ご苦労であった。(怒りに震える定信の顔を覗き込んで)ささ、下城されよ。心置きなく、願いを叶えよ。

定信:(立ち上がり、表情のない顔で出ていく。肩を落として廊下を歩く背中を、老中らの嘲笑が追ってくる)私ではないか・・・私ではないか・・・(家斉も大笑い)私ではないか・・・。(治済も微笑んでいる)

 (布団部屋では大声)私ではないか!嫌がられようとも煙たがられようとも、やるべきことをやり通したのは私ではないか!クズどもが・・・地獄へ、地獄へ落ちるが良い!(涙の滲む、血走った目)

 治済は、一橋家の悲願、長い長いミッションがとうとう望み通りにコンプリート!という思いかな。あ、まだ大御所就任が残っているか。反対する定信は片付いたから、大丈夫と安心しているかな。

 でも、将軍家を乗っ取り、一橋家の目上のたんこぶだったはずの田安家の賢丸(松平定信)に面倒ごとを片付けさせた上で、上から目線で「ご苦労であった」とお払い箱にする。それも、大老になれると望みを抱かせてから、突き落とす。しかも、自らの申し出に沿ってという、表向きにはキレイな形で・・・それを計画通りにやり切ったんだろうな。定信は完全にいたぶられたね。

 いつも一人で広い屋敷にポツンと能面に相対している治済は、生きている人間の生の表情で、怒り➡絶望といった表情を確かに見てみたかったのかもしれない。お望み通り、目の前の定信の中に、俊寛の面の表情を確認することができたかな?

死の手袋、キターーーーーー

 最後に、田沼時代にブイブイ言わせていた老女・高岳が久しぶりに帰ってきた。治済による長いミッションの初期の大成功、十代将軍家治の嫡子・家基が死んだ(殺された)時に介在した、例の死の手袋を持って。家基の死で、将軍家乗っ取りは現実化して傍流に移ることになったのだものなあ。

 この手袋を、種姫(定信の妹だったよね)から家基へのプレゼントとして誂えたのが自分だったから、その弱味を握った治済側の老女・大崎に高岳は口封じをされ、大奥は定信反対を引っ込めた。その結果、定信は筆頭老中に就任することができた。それが、田沼意次失脚の決定打になった・・・というのが今作の描き方だったと思う。

 つくづく、定信は治済に良いように使われているよねえ。治済が手を汚さずに望みを叶えられたのも、定信がいたからじゃないか。そこらへん、「丈右衛門だった男」と扱いは同じか。

 失脚した定信と、高岳。手袋を使って何をするつもりか?治済の大御所への夢を、二人がこれで止めることができるのだったら、胸アツストーリーになるね。そこに源内先生や、蔦重が絡んでくるのか?楽しみだ。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#42 ていが孕み、舞い上がった自己中蔦重はアーティスト歌麿の心を踏みにじる!いきり立つ定信、深まる孤立に気づかない

招かれざる客は誰?

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第42回「招かれざる客」が文化の日前日の11/2に放送された。11/1~11/3は怒涛の3日間だったので、後から録画を見た。

 残り2カ月、そろそろ来年の大河「豊臣兄弟」の宣伝などもSNSで目に入ってきて、もうそんな時期かと焦る。今年も、大晦日までの日々はダッシュで過ぎ去ってしまうのか・・・でも今年の「べらぼう」にも大いに楽しませてもらったよ。残り6回かな?

 終わりに向けて、今回は歌麿が蔦重の下を去るかという嵐が来た。この嵐の回収は、歌麿=写楽で蔦重と和解だと思うんだけどな・・・それで面白くも心安らかに終わってもらいたい。単なる勝手な希望だが。

 さて、今回のあらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫第42回「招かれざる客」
 歌麿(染谷将太)の美人大首絵で持ち直し、書物問屋も始めた蔦重(横浜流星)は、年が明けて身上半減から店を立て直した。歌麿の新作、江戸の「看板娘」を描いた錦絵も大評判となり、看板娘に会いたい客で各店は繁盛、江戸の町も活気づいていた。そんな中、てい(橋本愛)は蔦重に“子ができた”と告げる。一方、定信(井上祐貴)は、オロシャ問題や朝廷の尊号一件に対する強硬姿勢で、幕閣内で孤立し始めていた…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第42回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 今回の冒頭、尾張に出張した蔦重と仲良く語り合っていたのが書物問屋の永楽屋東四郎。この永楽屋に長男が養子に入ったので、親を継いだのは2番目で・・・という幻をどこかで読んだ気がするのだけれど、一体誰の話だったのだろう?思い出せない、失礼しました。

 さて、サブタイトルにもなっている「招かれざる客」は、今回の誰にとっての誰かと考えてみた。

蔦重の場合

 爆笑問題の田中が演じる相学者も、せっかく歌麿が手掛けてくれた評判の揃い物「婦人相学十躰」にケチを付けに来たのだから、蔦重にとっては招かれざる客そのものだったのだね。アラアラアラだ。せっかく爆問が揃って出た場面だったけどねー。ふたりの出番はこれで終わりのようだ。

 さて結局、「十躰」の体裁だけを変えた形の「婦女人相十品」の方も、絵に描かれている人物の名前を入れちゃならねえとお上から有難くない、「招かれざる」お達しがもたらされ、蔦重が夢見た「巷の美少女ブームで江戸アゲアゲ大作戦」は万事休すになったようだった。

 (でも、これって彼女たちが働いている店の名前だけでも絵に書き入れれば良かったんじゃ、と思ったのは私だけか?「難波屋看板娘」とか?それもダメなのか?とはいえ、彼女たちにしてみれば、多くの客が自分目当てにドッと来て、店主や親はホクホクでもめんどくさかっただろうなー。瑣吉とか、変装して繰り出してた治済とかあしらうのがホントにめんどくさそう。彼女ら、内心では招かれざる客だと思ってただろうね。)

 しかし、蔦重にとっての一番の招かれざる客は、西村屋だろう。ドラマの中では、今回、まだ蔦重は知らないところで暗躍されてしまった。いつの間にか歌麿を切り崩しに来ていたんだから、この痛手は大きいね。

 鱗の旦那の次男が、西村屋の二代目として後から出てくるのは分かっていたけれど(鱗形屋の親子、どちらも演じるのが歌舞伎役者だね)、あの細やかな心遣いのできる感じでの美しいご登場を見ると、歌麿の心の支えに二代目万次郎がなれそうで、もしかしたら二人は、割りない仲にもなっていきそうな気がする。

 ちょっと妄想が飛んで行ってしまったのだが、鱗形屋は西村屋にも借金をしていた様子だった。もしかして、借金の片に幼い次男は西村屋に売られたのだろうか?なんだかおぞましい妄想になってしまった。

 万次郎が持ってきた案思にも、暦と一緒に巷の若衆を描く話があった。西村屋も、目敏く歌麿のことをお仲間だと感づいて声を掛けに来たのか・・・?

松平定信の場合

 話を松平定信に転じる。最近の彼に降ってくるものは常に、招かれざる報せのオンパレードにも見えて、彼の眉毛はキリキリと上がりっぱなしだよね。蔦重が仕掛けている、町娘を使った江戸の活気を復活させる(でも悪いことに物価も上がってしまう💦)アイデアは「田沼病の復活」だそうで、そう煽られた松平定信が相変わらず良い眉毛の反応、これまた笑えた。

 この時に、無言で視線を交わす松平信明と本多忠壽が悪そうで、怪しかったね・・・これは次回の裏切りの序章だろう。その前、二人は治済のところに愚痴りに来ていたが、歌麿の女大首絵は治済にも大受けのようで、ふたりの話そっちのけだったのがおかしかった。

 そうだった、ロシアの船も来ちゃってた。これも当然、定信にしたら招かれざる客なわけだ。大黒屋光太夫の名前は、通訳するのは誰?で出ていたけれど、ドラマにはご出演なのかどうなのか。緒形拳が演じた映画の光太夫が懐かしく頭に浮かぶ。

 そろそろ定信の孤立も深まって足場が失われていくようだ。今回はこれぐらいで、定信についてはまた次回。

歌麿の場合

 さて、歌麿にとっての招かれざる客とは?今回、明らかに蔦重がソレになってしまった感がある。「鎌倉殿の13人」で、最終回に向けて真っ黒くなっていった主人公・北条義時を覚えているから、今年の主人公が多少黒くなろうが唐変木だろうが仕方ない。

 けれど、蔦重からの歌麿の扱いが酷い。デリカシーなくアーティスト心を踏みにじられ、気の毒だ。一枚一枚心を込めて描きたいのに、弟子にやらせて自分の名前だけ入れとけなんて言われるとか、吉原からの借金のカタに売られたも同然に五十枚も描かされるとか(それも事後承諾)。

歌麿:吉原?

蔦重:ああ。素人の女の名は書き入れちゃなんねえが、女郎なら構わねえってんで、親父様たちに話したら、やってくれるってんだ。

歌麿:待ってよ。俺、まだやるとも何とも言ってねえんだけど!

蔦重:頼む。もう、やるって言っちまったんだよ。

歌麿:言っちまったって・・・。

蔦重:うちは吉原に借金してんだろ?身上半減から返すの待ってもらってて。けど、吉原も今苦しくてよ。そこで、俺の借金百両を、お前の絵50枚で返すって話にまとまったんだ。(憤懣やるかたない表情の歌麿)お前の大首絵なら、入銀はなくとも売り上げで作る掛かりは賄えるし、うちの儲けは俺がどれだけ気張れるかってなるが、そこは俺が気張れってことで。吉原は、手前の持ち出しなく女郎を売り込めるっていう寸法だ。良い話だろ?

歌麿:それ、借金の片に俺を売ったってこと?

蔦重:いや!売ってねえ!今まで通り、お前への礼金はちゃんと払うから。

歌麿:けど、そんな話、聞いてねえって有り得ねえだろ!(ドス利かせて)

蔦重:ほんとに申し訳ねえ。(頭を下げて、近づく)けど・・・良い話だろ?うちも吉原も助かる。お前の名だって、売れ続ける訳だ。な?(浮かない顔の歌麿を見て、再度頭を下げて)頼む。ガキも生まれんだ!

歌麿:・・・へ?

蔦重:もう、んなことねえと思ってたが、ありがてえことに授かってよ。色々出すには出したが、大きく跳ねたのは「十躰」と「看板娘」だけだ。正直なとこ、新たな売れ筋が欲しい。頼む!お前だけが頼りなんだ!(平身低頭)身重のおていさんには苦労掛けたくねえんだ!頼む!頼むよ・・・。

歌麿:(目も顔も伏せ、じっと葛藤の中にいるが、顔を上げて苦笑)フッ、仕方中橋。やってやるよ。

蔦重:(顔を上げて)ほんとか?

歌麿:(笑って)義兄さんの言うことは聞かねえとな。俺は義弟だし。

蔦重:(一つ頷いて)恩に着る。(歌麿の手を取る)恩に着るぜ、義兄弟。(歌麿の背中が寂し気)

 ていのお腹に子を授かったことが分かり、蔦重は舞い上がった。その子のためという欲が極まると、ただでさえ鈍感なのに自己保身で何も見えなくなるのか。子ができて自己中真っ盛りの蔦重なんか、歌麿は見たくなかっただろうね。

 歌麿は、蔦重への報われない恋心には区切りをつけても、アーティストとしては蔦重と向き合おうとしていただけに、アーティストとしても縁を切るしかないと心に決めてしまったね。他の女を孕ませてのこの体たらくの蔦重を見てしまい、心の傷が深まった様が、背中に滲んでいた。もう完璧に離れたいと思ったに違いない。

 それが、西村屋二代目万次郎への宣言につながった。「西村屋さん。お受けしますよ、仕事。この揃い物を描き終わったら、もう蔦重とは終わりにします」と。

 そうだ・・・歌麿には、蔦重母のつよさんを奪っていった死神も「招かれざる客」だっただろう。つよは「あんたも私の息子だ」と言い、せっかく歌麿が心を打ち明け、話せる相手になっていたのにね。やはり鬼脚本、つよは今回の冒頭で早々に亡くなっていたことになっていた。

 つよの位牌を見やる歌麿が可哀そうで。彼女が生きていたら、朴念仁の蔦重が自分勝手に話をまとめて無理を言い出した時に、歌麿を庇ってくれる可能性は大いにあったよね。

 このドラマでは、歌麿の大事な理解者ばかりが命を奪われてきている。生きてる蔦重は朴念仁で、歌麿のメンタルはもう持たない😢救いは、相談にも乗ってくれる絵師の北尾重政。重政先生はホントに良い人。あとは万次郎、もう蔦重じゃない。

お墓参りした

 そういえば、まだ暑い頃に浅草の正法寺に行って、蔦重、つよ、てい、二代目蔦重を含む通油町蔦屋の皆さんのお墓参りをしたのだった。蔦屋家14人それぞれの法名と没年が歴代墓碑には彫られていて、それとは別に蔦重墓碣銘とその実母(津与)顕彰の碑文が一枚になっている碑もあった。

正面が蔦重墓碣銘と実母顕彰の碑文、右奥が14人の蔦屋歴代墓碑

正面の碑

歴代墓碑の説明文。蔦重は上の左から三番目、母つよは二番目。妻ていは下の右端

 ええと、この写真を見れば蔦屋の皆さんの没年も載ってるし、ネタバレになっちゃうかもしれないけれど史実だからお許しを。次回予告では、おていさんはお産で(?)苦しんでいる様子がちらりと映ったが、墓碑によればまだまだ長生きだ。産褥死はしないだろう。

 この歴代墓碑を見ると、ていさんの左隣には二代目蔦重が載る。お寺の説明文によると、二代目は、耕書堂番頭の「勇助」だそうだ。ドラマでは、手代の「みの吉」ぐらいしか目につかないけど?どこに勇助は隠れているのか?

 歌麿は、同じ「勇助」という名前が人別には載っていたから、歌麿が二代目蔦重になる道もあるのではないかと前から妄想しちゃってたな。なんと次回予告では「この店、くれよ」と言ってた気もするし。で、歌麿は二代目蔦重になるのかー?!と喜んじゃったんだけど。

 でも、歌麿のお墓は別にちゃんと存在しているという事実。ウィキペディア先生(喜多川歌麿 - Wikipedia)によると、歌麿は「1806年(文化3年)死去した。墓所は専光寺(移転前当時・浅草新堀端菊屋西側)現・世田谷区烏山。戒名は秋円了教信士」となる。

 つまり、この蔦屋歴代墓碑に名が残る二代目蔦重「勇山院松樹日行信士」と歌麿は戒名も異なり、別人だ。納得しないとね。

 ああもう、行かないといけない。今週末は知人の文化活動の応援に行くことになっている。地方ではこんなにも秋祭りが盛り上がるのだなあ、あちこち行きたくて仕方ないが、ちょっと体力的に圧倒されているかも。では、この辺で失礼。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#41 ババア➡おっかさんとの呼び方の変化が切ないが、間もなく母つよは退場。ハートブレイク歌麿が、初めて本心を明かした

分かりやす過ぎる、つよの頭痛

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第41回「歌麿筆美人大首絵」が10/26に放送された。次回11/2の放送までに、考えてみたら、迂闊にもあと数時間しか書く時間が無い。秋の週末は文化活動が忙しいが、自分の健康も守らないといけない。致し方ないので、今回はダラダラは諦めることにする。悪しからず。

 さて、さっそくドラマあらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫
第41回「歌麿筆美人大首絵」

 蔦重(横浜流星)が、処分を受けた須原屋(里見浩太朗)を訪ねると、須原屋は二代目に店を譲り引退すると言う。そして蔦重は、歌麿(染谷将太)と「婦人相学十躰」の売り出し方を思案する。そんな中、つよ(高岡早紀)の身体に異変が起きる。一方、城中では家斉(城桧吏)の嫡男・竹千代が誕生。定信(井上祐貴)は、祝いの場で突然、将軍補佐と奥勤め、勝手掛の辞職を願い出る。家斉や治済(生田斗真)は動揺するが…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第41回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 前回もつよと歌麿の栃木行きの話を書いたように、蔦重母つよの存在が、ここのところクローズアップされている。それで今回は、明らかに息子との今生の別れじゃないのか、という場面が用意されていた。早朝、尾張に旅立つ準備に忙しい蔦重に、つよが声をかける。

つよ:ちょいと。髪、結い直した方が良くないかい?

蔦重:(髷を撫でて)そうか?(ていも頷く。蔦重が座り、道具を広げたつよが、背後に回って結い直し始める)考えてみりゃ、初めてだな。

つよ:あんたいつも髪結床に行っちまうからね。

蔦重:あそこに行きゃ、世間が知れっからな。

つよ:まあ・・・おとっつあんとおんなじ頭の形だよ。(髷の解けた頭に、蔦重が手を当てる。つよは作業に忙しい)

蔦重:なあ。

つよ:うん?

蔦重:あれは嘘なのか?

つよ:あれって?

蔦重:昔、夫婦げんかした挙句、「てめえは俺の子じゃねえ」「私の子じゃねえ」って二人して出てったろ?

つよ:(笑って)駿河屋さんからまだ聞かされてないのかい?

蔦重:まだ?

つよ:口が堅いねぇ。さすがだよ。

蔦重:・・・んだよ?(不服そう)

つよ:あんたのおとっつあんはさ、ちょいと間抜けなとこがあって、博打でタチの悪い借金、作っちまったのさ。で、このままじゃマズいってんで、江戸から逃げようってことになってさ。でも、逃げた先でどんな暮らしになるともわからない。あんたは吉原で育ててもらった方が良いんじゃないかって話になって、駿河屋さんに引き取ってもらえるよう、頼み込んだのさ。でも、借金取りたちは、あんた目がけて吉原まで来ないとも限らない。で、口が裂けてもあれが親だなんて言いたくないように、おとっつあんも色に狂って、私も色に狂ったってことにして、子捨てしたのさ。

蔦重:・・・んだよ、そんな話だったのかよ。

つよ:どんな話だと思ってたんだい?

蔦重:ああ?俺ゃ公方様の隠し子で、二人は隠密で・・・とか。桃太郎だったんじゃねえかとか。ハッ、ガキの頃だぜ。

つよ:こんなしょぼくれた話で悪かったねえ。

蔦重:いや、良い話だ。俺が考えてたより余程いい。

つよ:そうかい。

蔦重:ああ。

つよ:(手を止めて、背後から囁く)柯理。(蔦重の肩に触れる。魔法にかかったような表情の蔦重)あんたは強い子だよ。でも、何でそんなに強いかって言ったら、そりゃやっぱり私が捨てたせいでさ。

蔦重:ありがた山です。せいぜい拝みまさぁ。

つよ:ごめんね。

蔦重:・・・んだよ、調子狂うじゃねえか。

つよ:裏を返しゃ、あんたは強くならなきゃ生きてけなかったんだ。下を向くな、前を向け。泣いてる暇があったら人様を笑わせることを考えろって。それでここまでやってきて、そりゃもうあんたは立派だよ。でもね、大抵の人はそんなに強くもなれなくて、強がるんだ。口では平気だって言っても、実のところ平気じゃなくてね。(髷を仕上げる)そこんとこ、もうちょっと気付けてありがた~く思えるようになったら、もう一段、男っぷりも上がるってもんさ。(肩をポンポン)はい。

蔦重:・・・んだよ、ババア。親らしいこと言うじゃねえか。

つよ:そうかい?じゃあ、あんたも息子らしいことしなよ。

蔦重:・・・じゃあ、土産買ってきてやるよ。尾張の土産、何が良い?

つよ:そういや、おとっつあんも尾張の出だったねえ。その辺、うろついてたら土産に頼むよ。

蔦重:合点承知!(ポーズを決める)よし!じゃあ行ってくらア。(立ち上がり、歩き出そうとするが止まって整えられた髷に触れ、つよを振り返る。せきばらい)おっかさん。フッ。

つよ:(髪結い道具を片付け中で、背を向けたまま)頼んだよ、重三郎。

蔦重:(にっこり)おう!(出ていく。蔦重の背中を見送る、つよの顔もほころぶ)

 蔦重は心の棘が抜けたね、それで、ようやく母を「ババア」から「おっかさん」に昇格させる気になった。ずっと親に捨てられたと思っていたんだもの、それが自分の安全を慮っての親の苦肉の策だったと知れば、ね。嬉しくて、足取りも軽く旅立てるというもの・・・つよは頭痛が治っていない、それが心配だろうけどね。

 「何ともないって!」と言いながら、こめかみを押さえて痛がっている所を見ると、つよは三叉神経痛にでもなった?と思ったが、命を奪う病となると、脳腫瘍あたりなのか・・・。予告では皆が拝んでいたから、次回、つよさんは鬼籍に入るらしい。キレイなさよなら、でも心が通ったばかりというのに切ないね。

 大体、ありがちな大河ドラマの主人公だと、幼少期の謎なんてものは、さっさと放送を始めて数か月中に片が付いているような気がする。徳川家康の幼少期の謎を秋まで引っ張ろうなんて誰も考えないだろう。家康は皆さんご存知の有名人だから、いくらフィクションで話を膨らませようが、引っ張り甲斐が無いもんね。

 それが、蔦重みたいに初めて大河で取り上げられるような未知の存在だと、残り2カ月になってようやく母子の秘密が明かされるなんて芸当もできる。

歌麿の人生初の心のサポーター?

 幼少期の話とくれば、これまでは主人公に代わって、歌麿とその鬼母が期待される役割を演じていた。もちろん歌麿のドラマでの生い立ちはフィクション、だが本当に気の毒過ぎて、脚本家を呪いたくなるレベル。今時のLGBTQの苦難を仮託している部分もあったりするんだろうね。

 で、蔦重母のつよの場合、もう一人の鬼母かと思ったら、そうではなかったと。それどころか、つよさんは歌麿のことも優しく包み込んだ。

歌麿:(庵の縁で、つよの握り飯を食べる)

つよ:こないだ、悪かったね。瑣吉がおかしなこと言い出して。

歌麿:なかなかうまく返しただろ?

つよ:・・・うまかったよ。旦那様は、何一つ気づかない程にね。

歌麿:フッ。(笑みが消え、つよを見る)

つよ:このままじゃ、あの子は一生、これっぽっちも、あんたの気持ちに気づかないよ。あんたはそれでいいのかい?

歌麿:(食べかけの握り飯を置き、庭に目をやる。蝉の声)・・・気づかれたとこで、いいことなんて何もねえじゃねえか。蔦重が同じ気持ちな訳もねえし、仕事もやりにくくなるだけだし。

つよ:耐えられんのかい?それで。

歌麿:(蝉の声。庭の木の幹に、ふたつ並んだセミの抜け殻)俺の今の望みは、きれいな抜け殻だけが残る事さ。蝉はどんな気持ちだったか分かんないけど、抜け殻だけはずらずら残ってて。それは、とびきり綺麗だったり面白かったりして、誰かの心を癒す。ふたりでいい抜け殻だけを残せんなら、俺は今、それだけでいいんだ。

 それにさ、この気持ちもいつかは消えてなくなんじゃねえかとも思うんだ。おきよがいた時は、ほんとに忘れてたわけだし。

つよ:はあ・・・ごめんねえ、歌。

歌麿:おつよさんが謝るような事じゃねえだろ。

つよ:私が悪いよ!あんな朴念仁に生んじまって!

歌麿:おつよさんが悪いわけでも蔦重が悪いわけでもねえし、ありがてえよ。聞いてもらえるってなあ、心が軽くなるもんだな。

つよ:(微笑んで近寄り、歌麿の茶碗に茶を注ぐ)私、来るよもっと。

歌麿:いいよ、忙しいだろ?店。

つよ:遠慮してんじゃないよ!おっかさんの前で!・・・あんたはあの子の義理の弟。だったら、あんたも私の息子さ。

歌麿:・・・じゃあ、よろしく頼むよ、おっかさん。(ぎこちなく微笑む)

 つよさんの踏み込み方は絶妙。そう、核心の話をしたくてたまらない人には、話を誤魔化さずに語ってもらった方が良いんだよね。歌麿が言うように、心が軽くなる。それまでは鉛で塗りこめられたように心が重苦しくても、安全な相手への吐露は、してみると深呼吸をする隙間ができるもんね。ほんとに良いおっかさん振りだよ。

 歌麿も、ようやく心の奥底を話せるサポーターができたように思ったかな。人生で、つよが初めてではないのか?おきよは、耳が聞こえなかったから、雰囲気で理解して心で支えていたかもしれないが、歌麿が話して相談するのは難しかったのではないか。人生でようやく現れた、自分のサポーター。そんな存在では。

 それなのに、次回で失ってしまうとしたら・・・鬼だ~💦やっぱり鬼脚本家。歌麿のために長生きしてほしかったなぁー。せっかく、重ーい蔦重への気持ちを言葉にできたのに。いくらなんでも、ていには相談できるようなネタではない。彼女も、しっかり歌麿の気持ちには気づいていたみたいだけど。

 あぁもう時間切れ。今回はここまでで失礼する。

 

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#40 こんこんと湧き出る、尽きぬ才能の泉。歌麿と山東京伝、ふたりの天才をくすぐるのは「描いてみたい」欲

さすがのミュージックティーチャー

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第40回「尽きせぬは欲の泉」が10/19に放送され、賑々しく未来の曲亭馬琴、葛飾北斎が登場した。北斎は、演じるくっきーがアドリブを炸裂させたとかで(【べらぼう】勝川春朗役・くっきー!の“アドリブ”シーンが話題に「本能でしたか!」「意味わからんくて好きw」(BuzzFeed Japan)のコメント一覧 - Yahoo!ニュース)、かなり獣味を感じさせたが・・・どうなんだろ。もう屁は恋川春町でお腹いっぱいなんだけどな。

 尚、蔦重は、きよを失い傷心の歌麿を、なんとか栃木から連れ帰り女の大首絵に取り組ませることに成功し、また、手鎖の刑を受けてへこんでいた山東京伝をも復帰させる道筋をつけた。クリエイターを鼓舞する編集者も大変だね。

 では、あらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫
第40回「尽きせぬは欲の泉」

身上半減の刑を受けた蔦重(横浜流星)は、営業を再開し、執筆依頼のため京伝(政演/古川雄大)を訪ねる。妻の菊(望海風斗)から、滝沢瑣吉(さきち/津田健次郎)の面倒をみてほしいと託される。蔦重は手代扱いで店に置くが、瑣吉は勝川春章(前野朋哉)が連れてきた弟子・勝川春朗(くっきー!)と喧嘩(けんか)になり…。蔦重は歌麿(染谷将太)の描いたきよの絵から女性の大首絵の案を思いつき、歌麿に会いに栃木へ向かう…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第40回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 サブタイトルは「欲の泉」なのだが、つまりは「才能の泉」なんだろうと思った。こんこんと湧き出る泉のように、天才の才能は湧いてあふれ出てくる。蔦重がやる気をくすぐるのがうまいのはその通りなんだけど(プライドの高ーい滝沢瑣吉が、蔦重の口車に乗せられて、京伝の代作をさせられていたもんね)、お上に言われたからって才能の泉を閉ざすなんて所詮無理。天才二人が語り合うシーンでは、彼らも才に突き動かされる己を自覚しているようだった。

喜多川歌麿:で、煙草入屋と二足のわらじで行くことにしたのかい?

北尾政演(山東京伝):フフっ本屋ってなあ、くすぐるのがうまくて嫌んなるよ。けど、それ、やられちまうのは、てめえの中に欲があるからなんだよなあ。モテてえ欲、描きてえ欲。止めるって何度思っても、いっつもそいつにやられちまうよ。なあ、歌さんはどうだい?

歌麿:(女の絵に、ポッピンを描いて筆を置く)欲なんてとうに消えたと思ってたんだけどなあ。(小さく笑う)

 「真人間になるとお白州で誓った」と頑張る山東京伝こと政演が、どうくすぐられてしまったかと言うと、それは蔦重だけじゃなく、鶴屋喜右衛門も妻のお菊も、明らかに手を組んでのこと。山東京伝復帰に向けて、陰で念入りに作戦会議が持たれて報連相もキッチリだったのだろうね。今回、政演がノックアウトされるまでを順に見ていこう。

北尾政演(山東京伝):歌さんが、江戸に帰ってきたんですか?

鶴屋喜右衛門:ええ。で、蔦屋さん、歌麿さんが描くための女を集めてるようですよ。

政演:え・・・描くための女って、わざわざ見て描いた女絵を出すってことですかい?そりゃ一体どんな絵・・・。

鶴屋:まだ分かりません。でも、蔦屋さんが市中の話題をかっさらうべく、仕掛けていることは間違いないでしょうね。(落ち着かない政演。お菊が鶴屋に茶を出す)でも良かったんじゃないですか?ねえ?

政演:へ?

鶴屋:歌麿さんがど~んと出てくれれば、山東京伝のいない寂しさは埋まるでしょうし。ああ・・・いなくなったことにすら気づかれず静かに身を引くことができるかもしれませんよ。

お菊:心置きなく真人間になれるね、あんた。

政演:へへへへへ、そうですね。へへっ!歌さんに、礼でも言わねえと。へへへへ!

(そっと鶴屋と微笑みあうお菊。落ち着かなく茶を飲む政演)

 それでも頑なな政演に、さらに大きな物をぶつける蔦重たち。よく政演の性格を分かっているからこその作戦だ。その前の蔦重と鶴屋のやり取り。

鶴屋:よろしいですか。

蔦重:鶴屋さん。どうしたんです?

鶴屋:ええ。実は京伝先生が煙草入れの店を始めたいって言い出してんですよ。

蔦重:え?

鶴屋:で、金を集めるために書画会を開こうって話してるんですが。

蔦重:そうですか。

鶴屋:ええ。

 常に何か腹に一物有りそうな鶴屋・・・と言うよりも、常に一を聞いて十のアイデアを脳裏にスパークさせる蔦重と言うべきか。「そうですか」「ええ」だけで、鶴屋が何を言わんとしているのかを把握して、これは絶好の機会だと思っている顔だ。

 蔦重と鶴屋は、昔はあんなに反目しあっていたのに、まさにツーカーの仲になった。オープニング前の二人の会話が面白かった。

九郎助稲荷:身上半減を売りにした蔦屋(耕書堂)でしたが、ブームはあっという間に去りました。

蔦屋重三郎:「身上半減」の物珍しさも息切れで。(煙管を鶴屋に差し出しながら)家内に煙草も倹約しろって言われまして。

鶴屋喜右衛門:蔦屋さんが倹約とは、皮肉なもんですね。

蔦重:ふんどしの苦労がわかっちまうようで、面白くねえですよ。ふんどしが倹約倹約言ってんのは、お上の金蔵を立て直すってのもあんでしょ?田沼様もそれで苦労してましたし。

鶴屋:どうぞ。(煙草を仕込んで?煙管を返す)

蔦重:(受け取って)ああ、ありがた山で。(煙管を蒸かす)

鶴屋:だから「身上半減」だったんですかね。商いを取り上げてしまっては、倹約していこうという風にはならない。半減ならば、店を潰すには惜しいとなると、おのず「倹約」していくことになる。俺の苦労を知れ、お前もやってみるが良いと。ついでに、江戸の名物本屋が自ら「倹約」を示してくれると。

蔦重:しゃらくせえ!

鶴屋:とはいえ、何か稼ぐ手立てはお考えで?

蔦重:この際、再印本をどんどん出してみようかと。売りもんが無くなって蔵出ししたでしょ。あれが案外受け良くて。面白えけど古いから摺ってねえ黄表紙の板木を安く売ってもらって、どんどん仕入れる。そうすりゃ、名作黄表紙の揃いものってなふうに、できるかなって。

鶴屋:いいですね。

蔦重:へえ。

鶴屋:うちもやってみようかなあ、それ。

蔦重:鶴屋さん、どうか今は、お情けを。(頭を下げる)

鶴屋:冗談ですよ。昔のでよければお譲りしますよ、京伝本の板。

蔦重:鶴屋さ~ん(手を合わせる)

鶴屋:まあ、うちが京伝先生の新作を取れれば、ですけどね。

蔦重:合点承知です。

 それで、政演を乗せて新作を描かせるための作戦決行の当日が来た。

政演:(廊下を行く蔦重と鶴屋に、自分の着物について)あの、ちょいと派手じゃありませんか?俺ゃ、もう真人間になったのに。

鶴屋:ハハ!まあまあ、今日一日は山東京伝。皆、山東京伝に会いに来てるんですから。

蔦重:これが終わりゃ、煙草入れ屋だ。山東京伝・北尾政演の最後の日ってこったな。

政演:そうですね。(襖の前に立つ。蔦重と鶴屋が同時に襖を開けるために両脇にしゃがむ)

蔦重:皆様、山東京伝先生のお出ましにございます!(鶴屋と襖を開ける)

広間の一同:よっ!きゃ~!京伝先生!京伝!

九郎助稲荷(綾瀬はるか)解説:そこで政演さんを待っていたのは、モテのスコールにございました。

一同:(口々に、止まないコール)色男!京伝先生!日本一!よっ!京伝!よっ!京伝!京伝!待ってました!よっ色男!(満面の笑みで左右に応え、座敷を進む政演)よっ、日本一!

政演:へへへへへ!(座に着く。隣に三味線を構える妻のお菊。鶴屋と蔦重も横に控える)ん?

お菊:(三味線を弾き始める)

座敷の男:「すがほ」だ!

九郎助稲荷:「すがほ(素貌)」は、政演さんが作った唄です。(解説がこちらに【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第40回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

政演:(唄い始める)♫文のさきめの口紅も~お~お~、(待ってました!の声がかかる)へへへ!(手振りをつけて)♫外へ移さぬ心とは~あ~あ~あ~(よっ、名調子!たっぷり!との声)♫神~々さ~んも~(よっ、京伝!いい声ねえ!と座が熱狂。政演は立ち上がり、踊りも付ける)♫どこやらもとふにせうちで~(どこやらもとうに承知で)え(よ!と合いの手)え(よ!)え(よ!)え(よ!)え(よ!)え(よ!)え(よ!)え(よ!)え~(よ!)(柱をつかんでくるり、よ!色男!と声)♫あろおけれど~・・・ハハハハ!(京伝!京伝~!の声)へへへ、ハハハ!

太輔(後の式亭三馬):これに!これに太輔へって!(黄表紙を差し出す)

蔦重:先生、どうぞ。(跪いて筆を差し出す。筆を受け取り、京伝本に似顔絵を描き、名を書く政演。扇や本など、次々にサインを求められる)

 モテたい欲が昔からある政演に、モテの嵐。蔦重仕込みの偽のエキストラってわけじゃないのだろう、本当の京伝ファンの集いだったのだろうね。ファンが喜んでくれる姿をあんなに見せられたら、嬉しいよねえ、止められないよね。ということで、政演は陥落。作家と煙草入れ屋と、二足の草鞋を履くことになった。

 しかし、さすがミュージカル俳優で「エール」では癖の強い「ミュージックティーチャー」を演じた古川雄大だ。ちょっと唄っただけで、何と声の伸びの良い事。本当に良い声だ。お菊役の望海風斗は元宝塚のトップスターだとか、夫婦のデュエットでも聞きたかったところだ。そうだ、政演が馬面太夫の吹き替えをしてくれたら良かったよなあ。あの時は唖然としたものなあ(失礼)。

歌麿は蔦重が好き、だからこその入り組んだ愛憎

 さて、他方の歌麿について。政演から押し付けられ、鶴屋さんがスルリとうまく逃げたものだから、蔦重が「作家見習い兼手代」として引き受けることになった、滝沢瑣吉・将来の曲亭馬琴。「らんまん」の寿恵ちゃんが「馬琴先生」と言って崇めて「南総里見八犬伝」を大事にしていたね。

 彼は、歌麿のことを「男色の相だ。あれはまず間違いない」と言わずもがなのことを口にし、髪結い中のつよに、髷を縛る紐を強く引っ張られていた。

 今更、何故ドラマで歌麿の男色に再度フォーカスするのかと思ったが、この子は蔦重に心を寄せているんだと視聴者に思い出させるためだったのだろうか?それはそれはご丁寧に・・・おきよのエピソードが挟みこまれたから、視聴者は忘れているかもしれないとでも?まさかねえ、歌麿はあんなにしっかり、主人公の蔦重以上に生い立ちが細やかにドラマで描かれてきたのだもの、忘れる訳はない。

 歌麿が、絵に小道具を描くことを思いつく、わずかな間に蔦重に向けた眼差し。万感の思いがこもっていたね。報われないとご本人も知っていながら、幼い頃から抱いていた蔦重への恋心はまだ生きていた。

 ゲスの勘ぐりをすると、歌麿はおきよとは名前の通り「清い」関係だったのかも、歌麿はおきよを死なせた梅毒になっていないのだもの。妻として、おきよさんは辛かっただろう。でも、当代一にもなろうという絵師である夫に、自分の姿を見つめて描いてもらうことで心を収めていたのかもしれない。蔦重の存在には嫉妬していても。

 そんな夫婦のあり方を受け入れてくれたおきよを、歌麿は恩に着て大事にして良い着物を着せて・・・ではなかったか。好き以上に、身寄りがない似た者同士の二人が依存しあっているようにも見えた。心の支えとして互いにかけがえのない存在であり、執着の対象であったことは確かだ。

 そのおきよを奪った蔦重に対して、愛憎相半ばする複雑な感情を抱くように。まさに、入り組んだ感情が歌麿の心中には形成されちゃったのだよね。

つよのアシスト➡そして、案思が決め手

 そんな歌麿に、おきよのような女絵、ことに女の大首絵を描いてもらいたいと考える蔦重がどうお願いするか。それまでは「女の顔は皆同じに描くし表情もねえ」と蔦重が言うのが、むしろどうして当時はそれで良かったのかと、想像すると怖いし不思議に思ったが、女の顔を描き分け表情を出せる歌麿が、新たにどうしても必要だという話だ。

 「喜多川歌麿は、当代一の絵師になる」と確信する蔦重が、歌麿をどう口説くのか。「まあ、案思(あんじ)だな、こういう時は案思しかねえんだよ」と蔦重が言う通り、仲が拗れた今となっては、歌麿が絵師としてやってみたい何かを提示できないとね。

 口説くのは難問だったと思うが、心理的下地を作ってくれていたのが栃木の環境だったり、蔦重の母つよだったと思う。後追い自殺を心配して、栃木へ歌麿と共に行き、よく見守りつつ折に触れて自然に歌麿に語り掛けるつよ。押しつけがましくなく、柔らかになんと鮮やかな・・・人たらしというのはこうやって人を和ませ、心を開かせるんだろうかとドラマと分かっていても勉強になる。

つよ:(栃木の豪商・釜屋の離れで歌麿の墨絵を見ている。暮らしの中の、きよの姿。足音がする)お帰り~宴はうまくいったかい?

歌麿:うん。なまめかしい弁財天を描くことになったよ。ありがてえ話さ。

つよ:(羽織を受け取り、畳みながら)ねえ、もう前みたいな絵は描かないのかい?おきよちゃん描いてたみたいな。立派な絵も良いけど、私はあっちの方が好きさ。何だか生き生きしてて、見てて飽きないしさ。

歌麿:・・・ああいうの描くと、何だか思い出しちまいそうで。

つよ:じゃあ、もう描かないって事かい?

歌麿:多分。

 こんな時もあった。庭でしゃがんでいる歌麿に、つよが話しかける。

つよ:どうかしたのかい?

歌麿:ああ・・・こいつ、何て虫だろうと思って。

つよ:歌は、生きもんが好きだねえ。虫、鳥、貝も描いてたっけ。

歌麿:うん。昔、石燕先生に「そこら辺にあるもん描け」って言われて。よくよく見ていると、同じ虫でも色が違うなとか、こいつ足が少ないとか、動きにも癖があって、俺らにゃ分からねえけど、それぞれの性格や半生があんだなって。

つよ:まあ、絵師さんの目ってのは、たまげたもんだ。

歌麿:「絵師は、三つ目の目に見えるもんを描くんだ」って。

つよ:そういや言ってたねえ先生、三つ目三つ目って。

歌麿:「俺に見えるもんはこれかな」って思って。絵に命を写し取りてえって・・・。

脳裏に浮かぶ回想の蔦重:お前は鬼の子なんだ!生き残って命、描くんだ。

 現代でも、引き出し上手な美容師さんにはついつい要らん事まで言ってしまう。つよと言葉を交わして、歌麿は気持ちを出しやすくなっている。心の内で引きこもりになってしまうより、よほど良い。石燕先生からの大事な言葉も、蔦重とケンカ別れした際の言葉も、落ち着いた安全な環境で思い返すことができていた。

 それで、歌麿を動かすのに大切なのは案思だ。良い案思がないかと瑣吉と街中を歩く蔦重は、不景気なので皆は高い吉原など行けず、「今は巷の美人に男が群がんだな」と気づいた。しかし、ただ巷の美人を並べても今一つ・・・と悩んだところに、「天下人の相だって言われた」という次郎兵衛兄さんが、流行りの「相法」または「相学」=顔貌で人の性分が分かる人相占いを持ち込んだ。

 絵の案思を携え、とうとう蔦重が栃木までやってきて、歌麿と対峙した。

蔦重:あん時は、済まなかった。(頭を下げる)

歌麿:鬼の子に、何の用です?

蔦重:んな、つきたての餅みてえなこと言うなよ。粘っこいぞ、お前。

釜屋伊兵衛:(茶とあんころ餅の載った盆を手に座敷へ)いや~、どうもどうも蔦屋さん。ご無沙汰でございます。

蔦重:どうも、ご無沙汰しております。うちのババアまでお世話になりまして。

釜屋:いえ。

つよ:そこは「母」だろ!品のない!(盆から茶を蔦重へ)

蔦重:そっちに品がないから呼べねえんだよ。

つよ:その口、このあんころ餅で塞いどきな。(餅の皿を渡す)

釜屋:どうぞどうぞ。

蔦重:いただきます。

釜屋:先生も、つきたてで。(茶と餅の皿を歌麿の前に置く)

歌麿:私は共食いになっちまいますんで。(つっけんどんな態度、恐縮する釜屋)

蔦重:まあ、餅はつきたてがうめえですもんね。(餅を食べて)お~!あ。だからお前の絵もうめえのか!フフっ!うん、うめえ。(下を向いている歌麿)

つよ:ちょっとあんた、何しに来たんだよ!(歌麿の味方をする)

蔦重:ああ。歌。うちから錦絵を出してほしい!(両手をついて頭を下げる)今、江戸の錦絵はパッとしねえ。ここで目を見張らせるもんを出せば、必ず当代一の絵師になれる!お前にとっても、またとない時節なんだよ!

歌麿:私のためのように言いますけど、つまるとこ、金繰りに行き詰っている蔦屋を助ける当たりが欲しいってだけですよね。あわよくば、私を売り出すことで、もう一度「蔦重ここに在り」って見せつけたいってのも。

蔦重:・・・まあ、けど・・・お前だっておきよさんのためにちゃんとしてえって言ってただろ?

歌麿:おきよのためにそうなりたいってのは、ありました。けど、おきよが亡くなった今、もうその気持ちはねえです。当代一の絵師を出したいっていう蔦重さんの夢を叶えてえ気持ちも、もうねえんで。関わる理由がねえです。

蔦重:・・・ああ、そうか。うん、じゃ、それは無しとして。一本屋として話させてもらうわ。俺ゃ、喜多川歌麿先生にこんなもんを描いてもらいてえんです。(歌麿の前に進み風呂敷の包みを解いて出したのは、歌麿が描いたおきよの墨絵と、「婦人相学十体、清らかなる相」と書かれた紙が載った盆)

釜屋:相学って?

蔦重:今、江戸じゃ相学ってのが大流行りの兆しを見せていまして。これに引っ掛けて色んな相の女を描く。そんな揃いもんを考えてんです。

 けど、これが成り立つには、女のタチが伝わる絵を描ける絵師がいる。女らしい一瞬を捕まえられる絵師がいる。それができんのは、喜多川歌麿しかいねえ。どうか、お願いします!(頭を下げる)

歌麿:もう、女は描かねえって決めてんで。

蔦重:え?

歌麿:おきよが喜ばねえと思うんで。おきよは・・・ずっと自分だけを見ていてほしいと願ってたから・・・。

蔦重:そりゃ、生きてる間はってことだけだよ。

歌麿:何で・・・何でそんなこと言えんだよ?蔦重はおきよのことなんて何も知らねえだろ!(激怒)

蔦重:知らねえよ。けど、この世でいっちゃん好きな絵師は同じだからよ。お前の絵が好きな奴は、お前が描けなくなることは決して望まねえ。これは間違いなく言い切れる。贔屓筋ってのは、そういうもんだ。(ウンウン肯く釜屋、泣きそうな微笑で歌麿を見つめている、つよ)おきよさんは幸せだったと思うぜ。何十枚、何百枚、何千枚って大好きな絵師に、亭主に、こんな風に描いてもらってよ・・・(おきよの絵を指す)。俺がおきよさんだったら、草葉の陰で自慢しまくるぜ。

 俺の夢だ何だも、無しでいい。だから、ここはお前の心ひとつで、お前が俺とこれをやりてえか、やりたくねえか、それだけで決めてくれ。

 結果、歌麿は江戸に戻った。蔦重との関係はどうでも、絵師としての描きたい欲に負けたらしい。

写楽はやっぱり歌麿だよね?

 歌麿はそして、編集者である蔦重の細かい依頼に従って修正しながら、女絵作品を仕上げていった。その時に、習作で割と写実的なのが出てきたので、おーっ!これはもしかして!!と思った。色めき立ったのは、きっと私だけじゃないと思う。こういうのを描きたい欲が、歌麿にはあるってことだもんね。そうかー。

蔦重:(歌麿の庵で絵を見て)これはこれでいいんだけど、ここまで真に迫ってほしいわけじゃなくて、あくまで女絵として綺麗であってほしいんだ。

歌麿:そんなこと言ってなかったろ。

(様々な表情を描き並べ、夜中に思案する歌麿。ほぼ出来上がった絵に、唇を描く。日が流れ、数点の絵を前に向き合った蔦重と歌麿)

蔦重:う~ん。(立ち上がり、歌麿の描き溜めた絵の束を持ってきて見る)お、あった。俺は、このおきよさんは何かがあって振り返ったと思ったのよ。何か、鳥でも飛んでたのか、見知った人でも見かけたのか。そう考えると、じ~っと見ちまう訳だ。この、じ~っと見ちまうってのが、買うことにつながると思うんだよ。

歌麿:んなこと言ってたっけ?(来る日も来る日も、筆を動かす。出来上がった絵を見る。振り返る女の、はだけた胸元に乳房がのぞく)

蔦重:フフ、こいつ、浮気相手と軽口叩いてやがんのか?

歌麿:いや、俺のつもりとしちゃ、浮気相手と一緒にいるとこ見られて、知り合いに平気の平左で嘘ついてる場面。

蔦重:ハハっ、いいなあ。けど、もっとその相らしさ足せねえか?

歌麿:あのよお、ちょいと我儘が過ぎねえか?

蔦重:歌麿先生なら、出来ると思ってんですよ。(煙管をくわえる。その姿を好ましげに見る歌麿)

歌麿:あ・・・小道具使うってなあ、どう?煙管、手鏡、手ぬぐい、提灯、ポッピン。小道具を扱う仕草には、人柄でやすいだろ?

蔦重:ああ・・・いい。良いな小道具。入銀も取れるかもしんねえし。

歌麿:そこ?

蔦重:よし!じゃあ誰が何使うか、考えようぜ!(歌麿の肩を組もうとして、避けられる)ん?

歌麿:あ・・・ちょいと肩凝っててさ。本屋が無茶言うもんでさ。

蔦重:そりゃいけねえ。(立ち上がり、歌麿の肩を揉む)

歌麿:いいよ。(嫌がる素振り)

蔦重:いや、大事な先生の肩だしよ。(揉む)

歌麿:もう、そういうのよしとくれよ!(振り払う。つよに案内されて鶴屋がくる)いや、あんまり馴れ馴れしいのもよ。

蔦重:ああ・・・悪い。(頭を下げる)もう、歌麿先生だしな。

鶴屋:よろしいですか?(うつむく歌麿を、つよが黙って見ている)

 歌麿は、蔦重が提示した案思を描いてみたいと思ったから、絵師として江戸に戻って蔦重と取り組んでいるだけで、もう、人間関係的には修復できない大きなギャップが存在したまま。歌麿側の愛情が拗れているもんだから。 

 嫌いじゃない。本心では好き、それを諦めようとしてきた。辛いから離れたいのに・・・というところ。それは、これまでも書いた通りだ。

 だから、依頼された作品終了後には、歌麿は蔦重からは距離を置きたそう。だが、もしかしたら、蔦重が「また描いて」と言ってきた時に、「じゃあ、描きたいように写実的に描かせてもらいたい。注文無しだったらやるけど?」といった絵描きとしての言い分を、蔦重が「それでもいいから、描いて」と受け入れた結果、生み出されていくのが写楽作品の一群なのでは?

 普段とは画風が違うから、名前を変えそうだもんね。写楽登場の日が楽しみだな。

後がないのか、定信

 今回、面白かったのは黄表紙や錦絵など出版物に対する定信の反応だった。腹心の水野為長が、新作の点数がぐっと減ったとか、中身も、黄表紙が教訓的になってて狂歌は格調高いものが多くなっているし、錦絵も相撲絵や武者絵が流行って「殿の望み通りの流れになってきておりますよ」と喜々として報告したのに、定信ってば本心が垣間見えた。

 「まこと、良い流れではあるが・・・」この続きの言葉は、本当は「つまらんな」だったんだろうねえ。自分が楽しんで読んでいた、往時の恋川春町の黄表紙に比べたらね。「良い流れである」と、水野には言い直したけどね。

 ドラマ冒頭、松平定信はお友達だったはずの本多忠籌や松平信明に「人は正しく生きたいとは思わぬのでございます。楽しく生きたいのでございます!」「倹約礼を取りやめ、風紀の取り締まりを緩めていただけませぬか?」と迫られたが、こう言って却下してしまった。

松平定信:世が乱れ悪党がはびこるのは、武士の「義気」が衰えておるからだ。武士が義気に満ち満ちれば、民は、それに倣い正しい行いをしようとする。「欲」に流されず、「分」を全うしようとするはずである!率先垂範!これよりは、ますます倹約に努め、義気を高めるべく文武に励むべし!

九郎助稲荷:あくまで改革路線を緩めなかった越中守様は、黒ごまむすびの会以来の「信友」らを政の中心から遠ざけ、イエスマンばかりを重用。更なる独裁へと突き進んでいったのでございます。

 独裁だとか、虚勢を張っている人を見ると、内には泣きたいぐらいの弱さを抱えて孤立して困っているんだろうなといつも思ってしまうのだが、厳しい表情をしている定信も、もう泣きたい気持ちでいっぱいに見える。どうしていいか分からなさそう。イエスマンにかしずかれてヨシヨシしてもらわないと心が保てなさそうだ。

 それで、「信友」の本多忠籌、松平信明は定信から離れ、一橋治済の下へと行ってしまった。これで裏から手を回されたら定信も終わりだね。後が無さそうだ。殺される前に手を引くと良いよね、治済は平気で手を下すから。

 しかし、面会時に治済が持っていたのは、前回長谷川平蔵の火付盗賊改方の手によって獄門に処されたという葵小僧の破れ提灯じゃないの?いや、ニヤニヤしている治済だって徳川だから、葵の御紋入りの提灯なんか、いくらでも持っているはずなんだけど。

 でも、何のためにそのアイテムを手に出てきたのか?わからんなー。定信の治世を乱すために、嫌がらせか。「丈右衛門だった男」のように、わざと葵小僧を仕立てて野に放っていたのか?

 さて次回、定信の運命やいかに。あ~、またダラダラ書きすぎちゃった💦

(ほぼ敬称略)

 

【べらぼう】#39 「己の考えばかり」の蔦重、お白州で定信に「田沼恋しき」発言!死ぬ気で戯けたか、ていに張り倒され身上半減の裁き。歌麿も去る

「おていちゃん」呼びの村田屋

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第39回「白河の清きに住みかね身上半減」が10/12に放送された。よりによってお白州で、時の老中を前に戯け切った夫・蔦重の話を聞き、気絶したていを心配して口々に声がかかる中、「おていちゃん!」と何度もちゃん付けする村田屋治郎兵衛に気が付いた。

 そうか、丸屋の跡取り娘であった彼女と、村田屋さんはきっと幼なじみ、昔、ていのことを好きだったけど諦めたクチかな等と考えた。日本橋の地本問屋たちの耕書堂への信頼は、多分に彼女の存在が基本を形成している。蔦重はそこに乗っかっているんだよなと改めて思った。

 先ほど、書き始めの設定中なのに誤ってほぼ白紙状態でブログの「公開する」ボタンを押してしまい、慌てて削除した。ぼんやりしてしまった。日曜日の昼近くになってもほぼ白紙、さて、夜の次回放送までにどこまで書けるかな?昨日、初の移住先での秋祭り参加で体力を使い果たしたもので、早々に切り上げるかもしれない。あらかじめご容赦を。でも、こういう疲れている時ほど、グタグタダラダラはとりとめなくまとまらず、止まらないものでもあるか・・・。

 さて、公式サイトからあらすじを引用する。

  ≪あらすじ≫
第39回「白河の清きに住みかね身上半減」

 地本問屋の株仲間を発足させた蔦重(横浜流星)は、改めを行う行事たちをうまく丸め込み、山東京伝(政演/古川雄大)作の三作品を『教訓読本』として売り出した。一方、きよ(藤間爽子)を失い、憔悴(しょうすい)した歌麿(染谷将太)は、つよ(高岡早紀)とともに江戸を離れる。年が明け、しばらくの後、突然、蔦屋に与力と同心が現れ、『教訓読本』三作品について絶版を命じられ、蔦重と京伝は牢(ろう)屋敷に連行されてしまう…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第39回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

びっくりの定信 vs. 蔦重

 奉行の裁くお白州に、時の筆頭老中がお出ましなんてことがあるのか?そこらへん、滅茶苦茶な行動が普段からできる人物ならともかく、このドラマの松平定信は、割と杓子定規寄りの人物だと思うんだけど・・・とにかく驚いたが、囚われた蔦重のお裁きの場に定信が現れて主人公蔦重と問答した。

 ドラマ的には盛り上がるけど、ああビックリ😲、でもそれで縮みあがるような蔦重じゃなかったね。最後の田沼一派でありますよと高らかに宣言するような、有名な狂歌を口にしちゃっていた。

 ちなみに、北町奉行(初鹿野信興)を演じているのが「おんな城主直虎」で直虎側近・奥山六左衛門を演じていた田中美央。「相方」中野直之役の矢本悠馬は、既に佐野政言で華々しく散っているもんね。新さん役の井之脇海も退場したし、最後の直虎組?

 この方、2017年の「直虎」の後、大河に4作も出ている(田中美央 - Wikipedia)。「どうする家康」の岡部元信は堂々と情厚く、良かったよね。「青天を衝け」では、なんと田沼意次の曽孫・意尊(田沼意尊 - Wikipedia)を演じていたんだ。キリッとした上司に振り回されてオタオタと冷や汗をかく役が似合うイメージが私の中ではあるが、それは直虎のせいだろう。今ドラマの定信役・井上祐貴も、かなりキリッと目元が涼やかだし。

 話を戻そう。前回までに、書籍問屋と同様、地本問屋も株仲間を作って相互監視をすることになっていた。「指図」を受けに山ほど原稿を奉行所に持ち込んで、音を上げさせようという作戦が効いたと言ってよい。九郎助稲荷の解説はこうだった。

九郎助稲荷(綾瀬はるか):蔦重たちは奉行所と水面下でやり取りを重ね、寛政二年(1790年)十月、正式に地本問屋の株仲間が発足。地本の関係者から、月ごとに行事を選び、新しく出す本や絵の内容を「改」める。自主検閲での発行を許されることとなりました。まあ、お分かりでしょうが、こんなものはザルです。にもかかわらず・・・。

 蔦重は、正月に耕書堂で発行する山東京伝の原稿を「これはダメです」と行事の吉兵衛に突き返されていた。「好色本の類は出しちゃならないってなってますし」と吉兵衛が言ったものの、蔦重は「こりゃ、好色を描くことで好色を戒める。そう但し書きしてあんじゃねえですか」と突っ張った。

 さらに、もう一人の行事・新右衛門が「初めてのことですし、奉行所もこちらがちゃんと改めているかどうか、抜き打ちで調べに来るんじゃねえですか」と異議を唱えたのに、引かない蔦重は「じゃあ、教訓読本って書いた袋入りにして売るってんでどうです?」と提案。「教訓読本って書いてありゃ、抜き打ちで調べたりしねえでしょ?」と粘った。

 「それだったらいいんじゃねえか」と他の地本問屋(たぶん奥村屋あたり)から声もあり、「頼む!色を売るしかねえ女たちの力になってやりてえんだよ」と頭を下げた蔦重に、行事ふたりもほだされた。気の毒に・・・。

 表書きが「教訓読本」と書いてあるのに中身が好色本。余計騙してる気がする。お上を甘く見たよねえ、中を見ないとでも思ったのか。

 そして翌年3月。あの時、腕組みをして黙っていた鶴屋喜右衛門だったが、「このまま、何のお咎めもなさそうですね」と蔦重に言い「実んとこ、抜き打ちのお調べなんて有ったんですかねえ」と、蔦重もすっかり気が緩んで返事。でも、溜息をついていたのは作者の政演(山東京伝)だった。

蔦重:何だ?そんな案じてんのか?

政演:そりゃそうですよ。そこここで逃げ道は作っておきましたけど。

蔦重:売れ行きもいいぞ。(吉原の)親父様たちも、ありがてえって。

政演:じゃあ、今日あたり行くべえ獅子ですかね!へへへへへ!

 そこにやってきた「主はどこにおる!」の声。みの吉の「お待ちください!」も空しく奉行所一行は座敷に踏み込み、山東京伝作「錦之裏(にしきのうら)」「仕懸文庫(しかけぶんこ)」「娼妓絹籭(しょうぎきぬぶるい)」の3作の教訓読本が絶版だと、たぶん与力が蔦重等に告げた。

 さらに「蔦屋重三郎および作者、山東京伝こと伝蔵、奉行所にて詮議いたす。連れて行け!」「教訓読本3作を運び出せ!」と同心らに命じ、蔦重も反論する間もなく連れていかれた。政演って、伝蔵って名なんだね。ピンとこないな~。

 お白州にひれ伏した政演は「かような大事になるとは思わなかったのか?」と問われて、声も引っくり返って「二度と書きませんので!蔦重に書けって!」とビビりも極まっていた。

 さて、お白州に引き出された蔦重はと言うと、この頑固者はただでは済まない。

役人:お前が行事を抱き込んだらしいではないか。

蔦重:どうにも好色本だって言いやがるもんで。

役人:どこからどう見ても、好色本であろう!

蔦重:皆様そうおっしゃいますが、私はそのつもりは全くございませんもので、ほとほと困っておりまして。

(扉が開き、北町奉行・初鹿野信興が入ってくる)

初鹿野:この一件、ご公儀を謀った非常に由々しきものと見て、越中守様、直々に検分なされることとなった。

 そして、松平定信がご登場!なんだろうね、黄表紙好きだから、蔦重大明神とかつて崇め奉った蔦重と話をしてみたかったのかな。恋川春町みたいに、知らぬ間に死んでもらわれたら困るというファン心理・・・んな訳ないか。こんな風にふざけていると、私も定信に怒られちゃうな。

定信:面を上げよ。うぬが蔦屋重三郎か。

蔦重:へえ。

定信:どれもこれも女遊びの指南書だが、これのどこが好色でないと?

蔦重:跋文には、「遊びは身を滅ぼす」ことを但し書きしております。故にそれは教訓の本。教訓読本にございます。

定信:これを好色本か教訓本か、それを決めるのはうぬではなく、私だ。心得違いを認め、かような物は二度と出さぬと誓え。

蔦重:・・・越中守様は、透き通った美しい川と濁った川、魚はどちらを好んで住むと思われますか?

定信:魚の話などしておらん。

蔦重:まあ、然様なことはおっしゃらず。雲の上のお方とお会いできるなんて、滅多ねえ訳でございますから。

定信:フン。魚は濁りのある方を好む。

蔦重:よくご存じで。しかし、それは何故にございましょう?

定信:濁りのある方が、餌が豊かであるのだろう。敵から身を隠しやすいというのもあろうか。流れが緩やかなら、過ごしやすくもあろうしな。

蔦重:私ゃ、人も魚とそう変わらねえと思うんでさ。人ってなあ、どうも濁りを求めるところがありまして。そこに行きゃうまい飯が食えて、隠れて面白い遊びができたりして、怠けてても怒られねえ。んなとこに行きたがるってのが人情ってんですかねえ。(初鹿野、役人、定信らが眉間にしわを寄せている)

定信:・・・然様な事、百も承知だ。

蔦重:(ふてぶてしく)そりゃそうだ。五つで「論語」を諳んじられた世に稀な賢いお方に、ご無礼致しました。(頭を下げる。定信はワナワナ怒っている)けど、これはご存知で?近頃「白河の清きに魚住みかねて 元の濁りの田沼恋しき」・・・なんて詠む輩もいるんですよお。(役人一同が怒りの表情)私ゃね、それはそれでけしからんと思う訳ですよ。多少てめえらが窮屈だからって、越中守様は、良き世にするために、懸命にきったねえドブ攫ってくださってる訳でしょう?そこで、私ゃ本屋として、何かできることはねえかと知恵を絞って、それでございます。(左手を差し出す)あくまで「教訓」ですよという体で好色本を出す。これを許す越中守様!こりゃもう、堅いふりして実は分かってらっしゃる。分かってなかったのはこっちってな具合に、評判になる訳ですよ。しがない本屋ではありますが、これからも越中守様の評判を上げるべく(定信が無言で合図を初鹿野に送る)、分に励みたいと思います。

初鹿野:引っ立てい!

役人一同:はっ!

蔦重:(両腕をつかまれ、立たされ、連れていかれる)私ゃねえ、越中守様のためを申してんです!分かってくださいますよねえ!

 5つで論語を諳んじるリアル定信もすごいが、この長い屁理屈のセリフをスラスラと言える横浜流星もすごいなあ、なんて思ってしまった。最近、短期記憶に自信が無いので。

 蔦重がこう言った相手が田沼意次だったら、「ハハハ、ありがた山は面白いのう」なんて反応が返ってきたかもしれないね。「田沼恋しき」は、本当に心から彼の本心だろうし、いっちょ褌の守様の目を見開かせてやろうと思っちゃったかな?

 出来る人ほど、自分が空気を作る者と自覚がある気がする。そういう人だから、他人が作った空気なんかあえて読まないと考えるかと。だが、このドラマの蔦重の場合は、どちらかと言えば、意図的というよりも空気が読めない人種かと思ってるんだけどな。境目か。

 空気が読めなくったって仕事に適したアイデアがどんどん浮かぶ人たちっているよね。いずれにしても、空気を読まず、どんどんバリバリ前進する人たちこそが、新しい世を切り開く。でも、天才じゃなく秀才の定信には通じないってことだよね。で、蔦重は拷問を受けることに。

 蔦重が、定信相手に盛大に戯けたと長谷川平蔵に聞いて、ていは失神。平蔵、こういう風に情報をもたらしてくれるのっていいなあ。町方のことを心配してくれているんだよね。

須原屋:躾ってこたあ、ほぼ見せしめですな。

長谷川平蔵:ああ。常ならば、詮議してから絶版であるし。

宿屋飯盛:近頃、その辺りがどうも・・・。

 公事宿の知り合いが多いとのことで宿屋飯盛も加わった。平蔵の説明によると、今回の蔦重に対するものは「躾」だと。ほぼ見せしめ、と須原屋が意味を解いた。詮議もなく絶版というのは、プロセスはどうでもいい、俺が法だ、と定信が命じているのか?

 ていは、命乞いをしてもらえないかと聞いたが、鶴屋は「累が及ぶことを考えれば、命乞いはできませんよ。皆、店も家もあります」と返事。いやいや、命乞いなんかしてごらんなさいよ、蔦重のあのお白州での態度に絶句することになるだけだって。誰もお付き合いできないでしょう。

 夫の命と店の命運が心配でも、「愚にもつかぬことを申しました。お許しを」と言えた、分別あるおてい。彼女しか、蔦重を助けてと訴え出ることはできない状況に追い込まれた。「命乞いをした者も、ただでは済まぬかも」と平蔵には脅されてしまったが、ていは「参ります。座して死を待つだけなのであれば」と言い切った。

 もうね、この脚本家は分かってらっしゃる!ここで、ていが大活躍だ。

おていの闘い、学者相手に論語オタクが問答

 長谷川平蔵がここでも良い仕事をした。ていの話を聞いてもらう相手として選んだのが、定信のご意見番である柴野栗山だということ。この人選を間違ったら危うかったよね。同席している時の小芝居も面白かった。

柴野栗山:面を上げなされ。

長谷川平蔵:栗山先生だ。

てい:本日は、お忙しい中、まことにありがとう存じます。蔦屋重三郎の妻、ていと申します。

栗山:話されよ。

てい:「子曰く、之を導くに政を以てし、之を斉うるに刑を以てすれば、民免れて恥無し。之を導くに徳を以てし、之を斉うるに礼を以てすれば、恥有りて且つ格る」(ウンウンとまあ分かった感じで頷く平蔵)

栗山:「君子は中庸し、小人は中庸に反す。小人が中庸に反するは小人にして忌憚なきなり」(うん?という表情の平蔵)その方の夫は2度目の過ち。許しても改めぬ者を許し続ける意味がどこにある?

てい:「義を見てせざるは勇無きなり」。夫は、女郎が身を売る揚げ代を、客に倹約しろと言われていると嘆いておりました。遊里での礼儀や女郎の身の上、然様なことを伝えることで、女郎の身を案じ、礼儀を守る客を増やしたかったのだと思います。女郎は、親兄弟を助けるために売られてくる孝の者。不遇な孝の者を助くるは、正しきこと。どうか、儒の道に損なわぬお裁きを願い出る次第にございます!

 カッケー。拍手喝采だ。この、おていさんが言ったこと「遊里での礼儀や女郎の身の上、然様なことを伝えることで、女郎の身を案じ、礼儀を守る客を増やしたかった」を、蔦重はお白州で定信に言えば良かったのにねえ。田沼びいきの反発心がどうしても出ちゃったんだよなー。そのせいで、巻き込まれた人たちが気の毒。

 それと「女郎は、親兄弟を助けるために売られてくる孝の者」の部分。大事なところだよね。好き好んで苦界に売られてきている訳じゃない。その部分に目を向けることができていない為政者は、その当時だけの話じゃない気がする。ていさんの話を聞いてほしい。

 ようやく最近の話じゃないかと思うんだけど?後ろで搾取している者どもが捕まるようになってきたのって。それも、まだまだ不十分に見える。

 栗山は、定信にこう話していた。

栗山:「過ぎたるは猶及ばざるが如し」。あまりに厳しい処分は、正学たる朱子学との矛盾を生み、御公儀の威信を損なうこととなりましょう。然様な刑罰を与えられる者こそ、賢者にふさわしくございますかと。

 結果として、政演には町奉行の初鹿野から「みだらなる風俗を描き、市中の風紀を乱した罪により、手鎖50日」が言い渡され、地本問屋仲間の改の奉行をしていた伊勢屋吉兵衛、新右衛門ふたりは、本当に気の毒なことに江戸払い!が申し渡された。蔦重に押し切られちゃったばかりにね・・・。

 そして、蔦重には「みだらなる書物を発行し風紀を乱した罪、および数々のご政道批判につき、身上半減とす!」が言い渡された。上記ふたりの、江戸を追い出される江戸払いより全然マシなお裁きになった。ドラマではなかったが、実際は賄賂での働きかけも相当あった?じゃなかったらこんなに軽く済まない気もするよね。

 この言い渡しの時に、蔦重の減らず口は健在なのが彼らしいと言うか・・・ここでもおていに助けられる格好になった。

蔦重:(天を仰いで)・・・ああ。

てい:(控えの座でつぶやく)身上半減って?

蔦重:そりゃあ、縦でございますか?横でございますか?ハッ、身を真っ二つってことにございますよね。

北町奉行初鹿野:蔦屋耕書堂、およびその方の身代の半分召し上げるということだ。

蔦重:然様で!いやあ、こりゃあ富士より高き、ありがた山にございます!(控えている駿河屋市右衛門が苦虫を嚙み潰したような顔)

初鹿野:以後は心を入れ替え、真に世のためとなる本を出すことを望んでの沙汰である。

蔦重:真に世のため・・・それが難しいんですよねえ。(おていが睨む)どうでしょう?真に世の為とは何か、お奉行様、一度、膝を詰めて。(足音が響く)叶うなら越中守さ・・・(おていに顔を叩かれ、はり倒される)何で・・・え?

てい:(蔦重を揺さぶり、叩き続けて)己の考えばかり!皆様がどれほど・・・!べらぼう!

蔦重:すまねえ・・・。

 今回の「べらぼう」はおていさんの口から。この後、蔦重は鶴屋喜右衛門にも怒られていたよね。「間違えて借金も半分持ってってくんねえですかねえ」と軽口をたたいて「ほんと、そういうところですよ!」と。鶴屋は仏顔が売りなのに。

 まさに、べらぼうの面目を施したと言うべきか、蔦重は裁きを、また店の売りにした。「身上半減ノ店」と看板を掲げて、畳を半分持っていかれたり、暖簾に半分ハサミを入れられたり、看板商品の名を半分切られている現代で言うポップ?をそのまま見せ、江戸っ子を面白がらせたのだった。ふう、懲りないねえ。

心配な歌麿、つよが繋ぎ止めるか

 さて、歌麿だ。歌麿は薄々分かっているような気もするんだけれども、蔦重が愛妻きよを決定的に奪った憎き仇とでも思っている様子だ。

 憔悴した彼を見守って癒す時間が必要なのは自ずとわかるが、せわしない江戸も、同様にせっかちな蔦重も、それを許さない感じ。常にそうきたか、そうきたかと頭をクルクル回転させて物事を乗り切っている蔦重は、人の回復をじっくり見守るなんて到底できそうにないもんね。

 幻影のおきよの言うままに屈託なく後追いしようとし、止めようとした蔦重を殴って「おい、おきよはまだそこにいんだよ!」と暴れ、飲み食いもロクにしなくなった歌麿は、きよの着物を羽織って泣いていた。この時の虚ろな感じがホントに哀れで涙を誘うよね。さすがの染谷将太。

 つよの握り飯を食べてくれた時、ああ良かったと全視聴者がホッとしたと思う。いいじゃないか、栃木への旅で、疑似親の愛でも浸らせてあげなよ。

 この時の、蔦重の唐変木がよく分かる会話。

つよ:(憔悴した歌麿がいる部屋に、お重を手に入っていく)歌。ここに置いとくね。気が向いたら、食べとくれよ。(お重の包みを解く)

歌麿:(無言で、泣き始める。つよが、抱き寄せてよしよしと背中をさする。歌麿は泣き続ける)

つよ:茶、淹れてくるね。(歌に告げて、部屋を出てくる)

蔦重:(廊下でつよに)おい、何だよ今の。

つよ:何か、思うとこがあったんじゃないのかい。

蔦重:何かって何だよ。

つよ:分かる訳ないだろ。赤ん坊みたいなもんだよ。泣けば、何かあったのか。笑えば治ったのかって。今はそうやって凌いでいくしかないよ。私、当分こっちにいるからあんた、戻りなよ。

蔦重:いい。今日明日代わってくれりゃ。

つよ:あんたより、私の方が役に立ちそうだしさ。向こうはあんたがいなくて天手古舞してるよ。

歌麿の弟子菊麿:どうぞ。あっしらも目を離さないようにしますんで。

(歌麿が、お重の中の握り飯をつかんで食べ始める。)

蔦重:(部屋に一歩入って)歌、また来るな。(無視して食べ続ける歌麿)

 傷ついている歌麿。愛するきよを奪われ(それは蔦重のせいだと思って)心にはザックリ傷を負い、まだドクドクと血が流れ続けている状態だろう。

 心の傷つきが、目に見えたらいいのにね。「今、全て無理ですから」が周囲にも見えれば、犯罪被害者やご遺族も、きっと二次被害を与えられることが減ると思うのになあ・・・残念だが、そうやって見て分かる能力は、「三つ目」じゃないノーマルな人間にはない。

 だとしても、歌麿の様子を見れば、大体のところは推測できるものだが蔦重は「己の考えばかり」で解決を急ぎ、遠慮なく踏み込んで嫌われるんだろう。せっかちな実業家タイプ。相談には乗るけれど、相手に十分共感できず、そこをすっ飛ばして解決策を示したつもりでひとり悦に入って嫌われる、か。

 可愛がってきた蔦重の個人的な思いもある上に、歌麿は利益を生む人物であるし、彼のキャリアのためにも、自分が見守って回復させたい蔦重の考えも分からないでもない。でも、段階があるし、歌麿の気持ちもある。今は離れて、つよの言う通り見守るしかない。

蔦重:(帰宅)ただいま。

てい:お帰りなさいませ。

つよ:お帰り~。

蔦重:おう。何やってんだ?

つよ:歌が、栃木のご贔屓のとこ行くって言い出してさあ。頼まれてた肉筆の絵、あったんだろ?それを向こうで描くって言い出して。(支度の手を止めない)

蔦重:大事ねえのか?向こうで後追いとか・・・。

つよ:だから、ついてくんじゃないか!

蔦重:よし、じゃあ俺も。

つよ:やめときなよ!あんたから離れたいってのもあるみたいだよ。

蔦重:え?なんで?

つよ:知らないよ。あんたに相談したらって言ったら、「もう関わりないから」って。

蔦重:ああ・・・。

つよ:何か、やらかしたんだね。

蔦重:おていさん・・・。

つよ:やめときなって!

蔦重:けど、歌麿とちゃんと話さねえと・・・。

つよ:そりゃ、自分の為だろ?歌の為じゃなくて、歌に自分の気持ちを分かってほしいだけだろ?今はまだ、そういうのはダメさ。

 この後ひとりになった蔦重は、歌麿の絵をめくりながら「なんであんなこと言っちまったんだ」と悔やんでいる。「お前は鬼の子なんだ!」のことだろう。続けての「生き残って、命、描くんだ。それが俺たちの天命なんだよ」は良いとしても、鬼の子ワードは、鬼母との関係を考えても歌麿には禁句だよね。

 この、おきよをモデルに描いた何枚もの歌麿の絵の中には、まるきり「ポッピンを吹く娘(婦女人相十品・ポッピンを吹く娘 文化遺産オンライン)」の構図を思わせる絵があった。それをしげしげと眺める蔦重。名作の習作となるんだな。ジャンルとしても、新しく大首絵が生まれることになりそうだ。

 しかし・・・こんなにも人情の機微の分かるおつよが、なぜ幼い蔦重を手放して姿を消すような真似をしたんだろう。ここらへんの物語をスピンオフで見たいなあ・・・と思ったが、駿河屋市右衛門を始め、みんな俳優陣が不自然な若作りしなきゃダメだよね?💦おっと。

 いや、スピンオフにはそっくりさんの若い人たち中心に集めよう!駿河屋は、「虎の翼」で「#俺たちの轟」のタグも生まれた戸塚純貴でどう?眉毛ね、眉毛が良い感じ。

 つよは誰かなあと、AIに聞いてみたら若手女優で高岡早紀に雰囲気が似てそうなのは広瀬すず、浜辺美波、小松菜奈、河合優実なんだとか。この面々の中だったら小松菜奈かな?広瀬すずも面白くなりそうだよね。妄想が止まらん。

 そうだそうだ、火付盗賊改め方長谷川平蔵が活躍していたねえ!スピンオフを望む声も大きくなってるかな?大岡越前もTBSからNHKBSに来たのだから、鬼平犯科帳も?それは時代劇専門チャンネルが「ちょっと待ったー」と許さないか・・・。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#38 薄幸の若夫婦😢愛妻きよを亡くし狂気の歌麿。定信の出版統制でピンチの蔦重、地本問屋仲間や鬼平を巻き込み「そうきたか」

もっと幸せを味わってもらいたかった

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第38回「地本問屋仲間事之始(じほんどんやなかまことのはじまり)」が10/5に放送され、やっと幸せを見つけたかと思った歌麿の妻きよが、梅毒に命を奪われた。前回ブログで先走って触れた通り、歌麿の妻きよの死は史実だから仕方ないか・・・でも、これまで幸薄かった二人だから、もっと長く、幸せに浸って見つめ合う時間を与えてほしかったな。

 公式サイトから、あらすじを引用する。

≪あらすじ≫
第38回「地本問屋仲間事之始(じほんどんやなかまことのはじまり)」

 蔦重(横浜流星)は、歌麿(染谷将太)のもとを訪ねると、体調を崩し、寝込むきよ(藤間爽子)の姿があった…。そんな中、蔦重は鶴屋(風間俊介)のはからいで、口論の末、けんか別れした政演(京伝/古川雄大)と再び会うが…。一方、定信(井上祐貴)は平蔵(中村隼人)を呼び、昇進をちらつかせ、人足寄場を作るよう命じる。さらに定信は、改革の手を緩めず、学問や思想に厳しい目を向け、出版統制を行う。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第38回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 蔦重が歌麿の弟子菊麿に呼ばれて歌麿の庵を訪ねた時、病臥するきよが、蔦重の姿を認めて錯乱した様子を見せたのが、ドラマを見ながらなぜ?と気になった。妄想で、何かと勘違いでも?と考えていたら、母つよがヒントを言ってくれたようだ。

蔦重:何で、絵描いてやりゃ落ち着くんだ?

つよ:自分のことだけを見ててくれれば嬉しいんじゃないのかい?惚れた男がさ。

 歌麿に、自分だけをずっと見ていてほしかった、きよ。だけど蔦重は歌麿の心にずっと居る(居た?)人だから、きよはそれを感じ取っていたか。だから蔦重を前に、心が騒いじゃったんだろうね。歌麿ときよ、身寄りを失っていた二人が人生で本当に初めて、深く思い合える相手を見つけていたんだ。その相手を・・・残酷なことだ。

 きれいな満月がアップになった時、またも「麒麟がくる」の信長様のワンシーンが始まるのか、或いは「光る君へ」かと一瞬思ってしまったが、そうじゃなくてね。初めて会話をする(できないはずなんだけど)きよが月の光に照らされて、縁側にいた。超常現象が満月の夜には似合うな。

歌麿:(布団に横たわるきよの体を拭きながら)俺のおっかさんはいっつも男の方ばっか見ててさ。けど、酔いつぶれて世話してる時だけは、こっち見てくれっから・・・世話すんのは嫌いじゃなくてさ。

きよの幻:こっち向いてもらえると嬉しいから?

歌麿:そうそう。ガキってのは、どんな親でも親が好・・・(我に返って声の方向を見る)

きよの幻:(縁側に腰かけ、団扇を手にしている)私もそんな子だった。歌さん。(月明かりの中で微笑む)

歌麿:(縁側をじっと見つめ、振り返ると、布団の中に実際のきよがいる。抱きしめる)行かねえで、おきよさん・・・お願えだから。(きよの頬に触れる)俺には、おきよさんしかいねえの・・・(どんよりした眼差しを彷徨わせるおきよに、頬を寄せる)置いてかねえで。ずっと見てっから・・・。(涙、きよを抱きしめる)

 きよは、この世に別れを告げた後で歌麿の前に姿を現したのかと思ったら、そうじゃなかった。歌麿が慌てて「いかねえで、ずっと見てっから」と寝ているきよに抱きついたら、きよは未だ今わの際にいたようだった。

 あれはどういう意味?普通なら、亡くなってからの幽霊登場と相場が決まっている。順番が違うと思うのだけれど。歌麿が「三つ目」だから、妖の世界に足を踏み入れようとするきよの姿を捉えることができたのか?

 弟子に呼ばれ、2度目に蔦重が庵を訪ねた時には、きよは哀れにも事切れてしばらく経過した様子で、ハエも周囲を飛んでいた。腐って崩れたか、ところどころ包帯も巻かれ、弟子たちの挙動から、かなり臭いもした様子。布団の下の畳も、人型に黒く染みがあった。亡くなって長いか、あるいは、生前から長くそこで闘病して布団を敷きっぱなしだったこともあるのかもしれない。

 歌麿・・・死んだきよに包帯を巻き、まだ「お世話」を続けていたのだろう。

 その死を信じず「まだ生きてっから」と言い張り、彼女の死に顔を描き続けて髭も月代もボーボーになった歌麿。「こうやったら一緒に逝けるって、おきよが」と梅毒死したおきよの手の甲に口づけしようとする狂気の彼から、強引にきよの亡骸を奪って(供養しないと成仏できないから💦)、蔦重は言った。

蔦重:お前は鬼の子なんだ!生き残って、命、描くんだ。それが俺たちの天命なんだよ。

 鬼の子・・・この鬼母から幼い歌麿が言われ続けたキーワードを言って、蔦重は泣いて暴れる歌麿から叩かれ続けた。自身の半身をもぎ取られたように深く傷ついた歌麿を、今後どうやって支えるのだろう。

 そうだった、栃木だよね。歌麿には栃木での肉筆画の仕事が控えていたんだった。東京から伊豆に移住してちょうど1年の私は、何よりも圧倒的な自然の美しさを日々感じている(昨日も近所の道を鹿がのそのそ横切っていった)。・・・歌麿ね、栃木の自然の中でいっぱい泣いて、きれいな物をたくさん見て、美味しいものを食べて、癒されてきてよ。環境を変えるのが一番。ただ、U字工事があんまりはしゃぎすぎて煩くしませんように。

まだまだ対立中だった政演と蔦重

 「蔦重さんとこでは、一切書かねえっす!」と政演に宣言されたものだから、蔦重が「いい度胸だな。日本橋を敵に回して書いていけると思うなよ」とドスを効かせてマジ顔で脅していた。

 あらあら・・・表では如才なく日本橋の良いところの本屋の旦那さんのような顔をしているが、余裕が無いと、やっぱり吉原の親父様・駿河屋市右衛門譲りのやり方に似た、素が出てきちゃうんだなあ。

 鶴屋喜右衛門には「何を勝手なことを言ってくれたんですか」と窘められていたが、それも「もう言っちゃった」とばかりにどこ吹く風、蔦重には反省が感じられない。

 前回からの続きで、政演と蔦重はまだ揉めている。「戯け者は、褌(松平定信)に抗ってかねえと一つも戯けられない世になっちまう」と焦っている蔦重をよそ目に、越中ふんどしの守の言う事を面白く担いでいる黄表紙「心学早染草」を、上方の本屋に頼まれて、こっそり書いてしまった政演(上方の本屋を演じるは元和牛の片割れ)。

 「面白くなきゃ、どのみち黄表紙は先細りになっちまうよ!それこそ、春町先生に嵐みてえな屁ひられるってもんじゃねえですかね!」と、政演が言う理屈はごもっともだけに、政演だって譲れない。それで、決裂。

 この二人を和解させようと間に入ったのは、鶴屋喜右衛門だった。

 政演が鶴屋に来たところに、蔦重も予め控えているという塩梅だ。「ちょいと、聞いてないですよ!」と、蔦重を見ていきなり逃げ腰の政演。年季の明けた菊園と所帯を持つことになった政演に、鶴屋さんと蔦重からの祝いの品が用意されていたが、顔は分かりやすく強張ったままだ。

 所帯を持つと色々と入り用だろうと、これからは、鶴屋と蔦重から作料とは別に年30両を決まって支払うことにしたと告げられて驚いた政演だったが、「私たちの仕事をいの一番にやっていただくことになる」と鶴屋に言われた時には、「それ、鶴屋さんだけでって話にはできねえですかね?」と抵抗した。あはは💦ヤダよねー。

蔦重:こないだのことなら悪かったよ。

鶴屋:怒らないで!

蔦重:謝ってるだけじゃねえですか!!

鶴屋:京伝先生も、そこまで嫌がること無いんじゃないですか?

政演(京伝):俺・・・モテてえから絵やら戯作やら始めたんですよ。ありがてえことに向いてて、向いてることすんのは楽しくて、面白え人たちに囲まれて、ヘヘッ、なによりモテて、へへへ!どこ行ってもモテて。あ~ほんと楽しかった。(蔦重の白い目に気づく)蔦重さんの言うこともわかんですよ。春町先生のことだって大好きだったし!けど、正直なとこ、世に抗うとか柄じゃねえってえか・・・。俺ゃ、ずっとフラフラ生きていてえんですよ。浮雲みてえに。へへへへ!

蔦重:あのよ。遊ぶな、働け、戯けるなって中で、どうやったら浮雲みてえに生きてくっつうんだよ?

政演:俺一人、雲一個くれえ何とかなんじゃねえですかねえ?

蔦重:てめえだけ良きゃ、それでいいのかよ!

鶴屋:蔦屋さん!

蔦重:(立ち上がる)てめえがその生き方できたのは、先にその道を生きてきた奴がいるから。周りが許してくれたからだろうが!な、今こそてめえが踏ん張る番じゃねえのかよ!

政演:しくじったのは、蔦重さんじゃねえですか!これ以上、俺にのっけねえでくだせえよ!(沈痛な顔の蔦重)

鶴屋:(パン!と畳を叩いて)はい、今日はここまで。

 この直後、店の手代らが「奉行所から呼び出しが!」と部屋に駆け込み、政演との話どころではなくなったが・・・いくら蔦重に「踏ん張れ」と言われても、蔦重の路線で踏ん張って書いてしまったら、誰だって飛んで火にいる夏の虫になるだけ。大田南畝が筆を折り、朋誠堂喜三二が国に戻され、そして恋川春町が腹を切った意味を、蔦重は頭を冷やしてよーく考えた方が良いよね。

 己の考えに囚われ、まだ田沼時代から頭の切り替えができていない。もう、話せばわかるお上じゃないよー。作家や絵師が気の毒だ。

さらなる出版統制がやってきた

 さすがに、蔦重も思い知らされる事態になった。奉行所からの呼び出しは、新たな出版統制に関するものだった。「黄表紙、浮世絵なぞ、そもそも贅沢品。良からぬ考えを刷り込み、風紀を乱す元凶である」と断言する定信は、自分の中の黄表紙好きを完全に葬ったか?推しの春町を死なせて布団部屋で泣いて以来、覚悟は定まっているか。

 ここで九郎助稲荷の解説。

九郎助稲荷:越中守様の出したお触れは、後の世で「出版統制」とも呼ばれ、戯作や浮世絵に初めて規制がかかるという、江戸の地本にとって大きな危機となりました。

北尾政演(山東京伝):(お触れを読みながら)今後、一切新しい本を仕立ててはならぬ?

九郎助稲荷:そして、その文面から、蔦重が出した黄表紙が取り締まりのきっかけとなったのは明らかでした。

 え、江戸の地本にとって?江戸だけなの?・・・とりあえず、寛政二年(1790年)5月に発令された松平定信の出版統制令について、ドラマぴったりの解説があったので、リンクのURLを。この他にもあったが、本当に便利な世の中になったよね、こうやってどんどんプロや同好の士が必要な知識をアップして披露してくださる。

serai.jp

 お触れのきっかけになったのは耕書堂の黄表紙。絶版を食らった「文武二道万石通」「鸚鵡返文武二道」「天下一面鏡梅鉢」の3作がそうなんだろう。蔦重と鶴屋が出版関係者(本屋、板木屋、摺師、戯作者、絵師、狂歌師)を集めて打開策を練りたい様子だけど、まずは蔦重が謝らない事には話は始まらない。

 自分が政演に押し付けようとした路線が危ういことに、ようやく蔦重も気づいたか?ところで、会合には懐かしい鱗形屋に西村屋も。今までどこにいたの?中の人たち、よその仕事が忙しかったのか?

蔦重:(手をついて、深々と一同に)申し訳ございません!こたびの触れは、間違いなく私のしくじりがきっかけ。まことに、申し訳ございませんでした!

本屋松村屋弥兵衛:どうすんだよ、これ!新しい本や絵は作っちゃならねえって!

彫師四五六:これから、摺り直しだけしか作らねえって事かい?これからどうやって食ってけって言うんだい!

蔦重:申し訳ございません!

本屋西村屋与八:謝られたって困んだよ。一体、どう落とし前つけてくれるってんだい?べらぼうが、ったく。(他からも口々に苦情の声)

蔦重:申し訳ございません。

本屋鶴屋喜右衛門:(パンと手を叩いて)お静かに。何か、手は考えてるんですか?蔦屋さん。

蔦重:へえ。ここはひとつ、お上に触れを変えさせようと考えております。

一同:はあ?

本屋村田屋治郎兵衛:触れを変えさえる?

蔦重:へえ。

本屋鱗形屋孫兵衛:お上に、やっぱり新しく作っても良いぜって言わせるって事か?

蔦重:そうです。

西村屋:できるわけねえだろ!べらぼうが!

松村屋:そりゃ、いくらなんでも無理だろ!

本屋奥村屋源六:あ~無理無理!

戯作者芝全交:そんなことができるんですかねえ。

絵師北尾政美:それはさすがに・・・(腕組み)

鶴屋:(パンパンと手を叩いて)お静かに。

蔦重:皆様、いま一度触れを見ていただけますか?

一同:ええ?はあ・・・。

蔦重:新規の仕立ては無用、けどどうしても作りたい場合は指図を受けろってのがあんでしょ?だったら、江戸中の地本問屋が指図を受けに行きゃどうかと。山のように草稿を抱えて。んなのたまんねえでしょう。音え上げて、指図は受けずともいいってなんねえかって。

鱗形屋:でもそれじゃ、指図もくそもなく一切出すなって事にはなんねえのかい?

一同:そうだよ、そうなるよ!

蔦重:まあ、上手く話を持っていかなきゃなんねえですが・・・。

西村屋ら:その前に、持ってくもんってなあどうすんだよ?山のような草稿なんて、どこにあるってんだ!そうだ!

蔦重:そこは、皆様で急ぎ作っていただく・・・とか。

一同:はあ?

西村屋:ふざけてんじゃないよ、べらぼうが!(政演が話を聞いている)

蔦重:もちろん、私も作ります。

狂歌師&戯作者・宿屋飯盛:山のような草稿って一体いつまでに必要なんで?

蔦重:できれば一月で。

松村屋:一月?一月でできるわけねえだろ、べらぼうが!

奥村屋ら:そんな早く書ける奴いる訳ねえだろ!そうだ!(筆の早い政演が考えている様子)

蔦重:そこを何とか、皆様の力をお貸しくだせえ!お願いします!(頭を下げる)

多くの面々:帰るぞ!帰ろう、帰ろう!

絵師勝川春章:(同じ絵師北尾重政に)んじゃ、助太刀に行きますか。潰れちまうからねえ、勝川一門も、北尾一派も。

宿屋飯盛:お弟子さん、山ほどいらっしゃいますもんね。

北尾政美:お世話になってます!(頭を下げる)

北尾重政:そうそう、弟子が世に出られなくなっちまうからね。(立ち上がる。数人後に続く)

蔦重:お力をお貸しくだせえ!お願いします!

勝川春章:おう、ちょいと失礼するよ。

北尾重政:よっ。俺たち、役に立てっかな?

蔦重:もちろん。ありがた山にございます!(頭を下げる。政演、鱗形屋も思案中)

重政:それにしても、べらぼうな案だねえ。

宿屋飯盛:でも、草稿持ってって奉行所を困らせるなんて面白そうですよね。

春章:あいつらを困らせるにはやっぱり数か?

重政:それとも、絶妙な具合で同心たちをうがってみるとか?

芝全交:分からないようにっていうのは、腕が鳴りますねえ。縛りがある方が面白いもの書けますし。

政美:絵を付ける甲斐もあるってもんですね!(政演、西村屋なども思案中)

 後半の口々のセリフは、一体誰が言ったものやら、テキトーになってしまった。なぜかと言えば、セリフの間、思案中の政演などの顔が映っているバックにセリフだけが聞こえてくる趣向だったから。間違いはいつものことながら、ご容赦を。

 思案中の政演の脳裏に甦ったのは、蔦重の例の言葉。「てめえがその生き方できたのは、先にその道で生きてきた奴がいるから。今こそてめえが踏ん張る番じゃねえのかよ!」そして、自分の言葉「しくじったのは蔦重さんじゃないですか!」だったのだが・・・政演から、蔦重に声をかけた。

政演:蔦重さん!(周りをキョロキョロ見て立ち上がって、笑顔で)俺、戻って草稿書いてきますね。

蔦重:(向き直って)いっそ、そのまま出せるもん頼むぜ。京伝先生。

政演:(ウンウン肯いてから)はい!

鶴屋:(一同を見て)まあ、京伝先生もやるって仰ってくれている訳ですし。

鱗形屋:(顔を上げて)よし、蔦重。また面白え案思、考えようぜ。

蔦重:へえ!

 蔦重の提案に乗って皆が何とか草稿を搔き集め、指図を求めて奉行所に出すことになるという、胸アツ展開。草稿が集まり山となった奉行所からは「やってられるか!」という期待通りの反応が返ってきたが、それを定信はまたスカして「浅知恵」なんて呼んでいた。

頼りはカモ平(鬼平)!

 その定信を攻略すべく蔦重が担ぎ出したのが、カモ平(鬼平)長谷川平蔵。単純で良い奴だよね、それは皆が認めるところだ。でも、吉原の救世主になれるのか?事は遊里に相当厳しいらしい、理由を付けてポーンと計150両もの金を平蔵に出すのだから。

 「断っておくが、賂代わりのもてなしなら、受け取ることはできぬぞ」と言いながらも吉原で蔦重に接待される平蔵の前に、これまた懐かしい面々が。えー、初回に姐さんのお弁当を食べちゃった人だよね?それが河岸見世二文字屋の女将はまになってたか。先代きくが、ご存知のかたせ梨乃。

 きくは、平蔵に50両を差し出して「どうぞお納めくださいまし」と、はまと共に頭を下げた。

長谷川平蔵:何の金だ?賂なら、受け取れぬぞ!

蔦重:賂ではなく、ご返金にございます。

平蔵:返金?

蔦重:へえ。

きく:長谷川様が騙されてくださったおかげで、河岸は食いつなぐことができました。

はま:私も、今日この日を迎えられております。

平蔵:俺が、いつ騙されたのだ?

蔦重:花の井のために入銀した50両。ありゃそのまま河岸に流して、米買いました。

平蔵:え?え?だから花の井の花の絵は無かったのか!

蔦重:ええ。まあ、情に厚い花魁でしたから、河岸を捨てておけなかったんでしょう。どうか、お許しを。

平蔵:そうだったのか(鬢のシケをいじって喜んでいる)。花の井、さすが俺の金蔵を空にした女だぜ。

蔦重:で、こちら。(袂から金50両を出す)利息にございます。人足寄場は、年たったの500両。足りない掛かりは長谷川様の工面。金繰りが大変だとお聞きしました。

平蔵:利息はこれしきか。

駿河屋市右衛門:(咳払いし、立ち上がる)

平蔵:冗談だ、冗談。

駿河屋:(さらに50両を出し、頭を下げる)長谷川様。どうか、もう一度吉原を救ってくださいませんでしょうか?(平蔵の手を取り、金を握らせる)今、倹約と悪所潰しで河岸は大変なことになってます。加えて、黄表紙、錦絵、細見もだめになるって話もあります。そうなりゃ吉原はもう・・・!

平蔵:いや、賂は受け取れんのだ!

蔦重:人足寄場は悪党とならざるを得なかった者たちを救う役目もあると聞いております。どうか、身を売るより他ならぬ女郎たちも、お救い下さいまし。(深々と頭を下げる)

平蔵:・・・分かった!分かった!何をすればよいのだ?

蔦重:へえ。越中守様から、ある言葉を引き出していただきたいのでございます。

 倹約と悪所潰し、細見もダメ、錦絵も黄表紙もダメと・・・本当に娯楽が撲滅されちゃう清い世。定信政権の下、娯楽産業で生きる人たちはお先真っ暗だ。男はなるほど人足寄場で対応すれば良いかもしれないが、定信は女側のことはどうやって手当てしようとか考えてる?全然考えてなかった?

乗せられる直情定信

 人足寄場については、ドラマではこういうことだった。倹約による不景気から町の治安が乱れ、政演が黄表紙に書いた「悪玉」を提灯に書き、街で暴れ回る若者が多くいた。それを「かようなことは、端から見越していた」「これは、不景気により田沼病に冒された者たちがあぶり出されてきたということ」と、さも予想していたように言う定信。相変わらず負けず嫌いだねー。

 定信は、「そ奴らを放り込み、療治する寄場を作ることとしたい」「寄場で真人間に鍛え直し、元百姓なら田畑に帰し、町人なら、鉱山など人の足りぬところで働かせる」つもり。今の東京都中央区にあった江戸石川島に設けられ、日本の刑務所の走りとも言われた「人足寄場」だが、それを、火付盗賊改方の長谷川平蔵が担当するよう命じられたのだった。(加役方人足寄場 - Wikipedia

 お役目には公金からは500両しか出ず、あとは命じられた平蔵の持ち出しらしい。こんな仕事はみんな断るよね、大変だ。でも、平蔵は「市中の事情に通じ、ならず者たちの扱いにも長けている」と定信に持ち上げられた上に、父の悲願だったという町奉行というニンジンを「考えぬでもない」と、ちらつかせられて引き受けたのだ。

 平蔵は、手元不如意まではいかずとも、懐は相当厳しいはず。そこに吉原が目を付けた・・・というか、何とか理由を付けて、若きカモ平だった頃の平蔵から吉原が巻き上げた分を全額お返しする勢いで、縋りついている。

 確かに、この上ない頼みの綱になりそうだもんね。田沼時代だったら意次に直接町方の声を届けることもできただろうが、松平定信にはそうはいかない。そこでワンクッション、平蔵を使うのだね。

 それで、吉原の決死の頼み・150両の重みを背負って、平蔵がどう定信に働きかけたか。蔦重相手に、相当練習したんだろうなー😅

定信:寄場はうまく進んでおるようだな。

平蔵:はっ。ところで、お耳には入っておりまするか?奉行所の件の方は。

定信:市中の本屋どもが、やたらと奉行所の指図を仰ぎに来ておる件か。

平蔵:さすが、お耳が早い。

定信:大方こちらに音を上げさせ触れを緩めさせようという、本屋どもの浅知恵であろう。

平蔵:なるほど、ご慧眼にございますな。いかがなさるおつもりにございますか?

定信:指図を受けられる数を限ろうと思うておる。ひと店につき、年1点までと。

平蔵:さすがのお考えにございます。本など、上方に任せればよいと某も考えます。

定信:上方、どういうことだ?

平蔵:実は今、上方の本屋が江戸に店を出してきておるようで。江戸で新しき本が出せぬとなれば、上方が待ってましたとばかり、黄表紙も錦絵も作るようになる。黄表紙と錦絵は江戸の誇り、渡してなるものか!・・・と躍起になっておるようです。まあ、くだらぬ町方の、意地の張り合いにございますよ。

定信:くだらなくなどなかろう!江戸が、上方に劣るなど、将軍家の威信に関わる!

平蔵:然様なこととなりまするか?

定信:然様なことも分からぬのか!

平蔵:ご容赦を!(手をついて頭を下げる)どうにも私は浅知恵で。しかしながら、ではどうすればご威信を守ることが出来ましょうか?

定信:そうだな、例えば・・・書物と同じように・・・。

 ・・・ということで、蔦重等が狙った通りのお達しが出ることになった。定信の、実は黄表紙好きだったってことが、ここで効果を発揮したのでは?蔦重の説明によると、こうだった。

蔦重:へえ。「地本も書物のごとき株仲間を作り、その内に行事を立て改めを行い、行事の差配で触れに触らぬ本を出すこととせよ」と、内々に命じられました!

地本問屋の一同:おお~!

 今回、序盤の蔦重のセリフの中に「上方の本屋が江戸の地本で名を上げようってこと」「西の出の本屋が幅を利かせてくる」というものがあった。この危機感を、長谷川平蔵を使って上手に定信に植え付け、上方に対する競争心をくすぐったようだ。でも、上方には、定信の力は及ばないのか。江戸だけか・・・お触れは江戸の本屋に対してだけだったのか。

 こんなことで平蔵に乗せられちゃうなんて、このドラマの定信はホント直情で負けず嫌い😅 しかし、今回のドラマも、うまい話し運びだけど吉原救済の方はどうなった?株仲間を作って行事を立てようが、お触れの内で本を作るのだから、細見なんて出せなくなるのではないのか・・・この時代、例えば吉原が潰れて、吉原から離れた女たちが、新たな生きる道を見出せるの?

黄表紙の灯を守るとは

 そうそう、大事なことがあった。蔦重が考えを改め、政演との争いに終止符が打たれたのだ。上方の本屋・大和田安兵衛を誘い「黄表紙を盛り立てていくためにも(地本問屋の株)仲間に加わって」と言う場面で、大和田から黄表紙を書いた政演が同席。「いいんですか?」と遠慮がちに問う政演に、蔦重が考えを述べた。

蔦重:そもそも、黄表紙ってなあ節操もねえ。昔話や幽霊譚、廓話、言い伝え。面白えもんを、何でもかんでも心のままに放り込む。だから皆、夢中になった。読む方も、作る方も。こんなご趣向を出される方をはじくなんて、春町先生に草葉の陰から嵐みたいな屁、ひられるとこだった。(政演に)言ってくれて、ありがた山だ。(頭を下げる)

政演:蔦重さん・・・。(おだやかに微笑む)

 そして、耕書堂に戻って皆の前でこうも言っていた。

蔦重:つまるところ、面白えもんを作るのを諦めねえってことが、黄表紙の灯を守ることだ。

 次回、NHK版「火付盗賊改方、長谷川平蔵である!」が聞けるようだ。ついでにスピンオフもナイトドラマで作っちゃえ!それに、くっきーが演じる若き北斎(勝川春朗)、名前だけじゃなく実物はいつ出てくるかな?ワクワク。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#37 春町の死で意地になった定信と蔦重、なんでそうなるの?正義の政策も弱者にツケが回るようじゃダメだし、お咎め覚悟で人を巻き込み抗うのも違う

定信、頭に血がのぼり過ぎ💦

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第37回「地獄に京伝」が9/28に放送された。定信に絶版を言い渡された「鸚鵡返文武二道」による恋川春町の死に影響され、春町推しなのに腹を切らせたようなものの定信も、本を書かせた蔦重も葛藤する。まずはあらすじを公式サイトから。

≪あらすじ≫
第37回「地獄に京伝」

 春町(岡山天音)が自害し、喜三二(尾美としのり)が去り、政演(古川雄大)も執筆を躊躇(ちゅうちょ)する。そのころ、歌麿(染谷将太)は栃木の商人から肉筆画の依頼を受け、その喜びをきよ(藤間爽子)に報告する。一方、定信(井上祐貴)は棄捐令(きえんれい)、中洲の取り壊し、大奥への倹約を実行する。そのあおりを受けた吉原のため、蔦重(横浜流星)は政演、歌麿に新たな仕事を依頼するが、てい(橋本 愛)がその企画に反論する。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第37回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 前回ブログで定信は反省しないと書いたが、やっぱりと言うか・・・いや、定信なりに反省はしたのだろう、しかしその結果が「なんでそうなるの」ということなんだろうと思う。

 どうやら一橋治済にいちいちうるさい、そろそろ消すかと目を付けられたか、彼の魔の手が伸びたらしい徳川治貞が体調を崩した。「もうよいお年であられるしなあ」と、治済が能面から半分顔を出しての物言いがゾッとした。

 治貞と対面した定信は、本心を吐露していた。

徳川治貞:(脇息にもたれ、咳込む)聞くところによると、ずいぶんと下々を締め付けておるようじゃの。

松平定信:そこを締めぬことには、あるべき世の形とはなりませぬので。

治貞:先年、本居宣長という和学者に、政について意見を出させたのだが、物事を急に変えるのは良くないと言うておった。ハハ、いやそなたが間違っているとは思わぬが、急ぎ過ぎると、人はその変化についてこられぬのではないか?

松平定信:心得ましてございまする。

治貞:悪を無くせると思わぬ方が良いとも。

定信:・・・悪を、無くせるものではない?

治貞:すべての出来事は、神の御業の賜。それを善だ悪だと我々が勝手に名付けておるだけでな。まあ、己の物差しだけで測るのは危ういということだ。

定信:(唇が震える)世は思うが儘には動かぬもの。そう諫言した者を、私は腹を切らせてしまいました。(治貞:痛ましや、の表情)その者の死に報いるためにも、私は、我が信ずるところを成し得ねばなりませぬ!

治貞:(え?と何か言いたげに顔が歪んだ所で、咳込んでしまう)

 治貞はよほど言いたいことがあって一瞬気色ばんだからこそ、喉の炎症が反応して咳が出ちゃったと見える。喘息持ちは分かるなあ💦言いたいことこそ言えないのよ。諫言した者に腹を切らせてしまったのなら、そこで己の歩みを止めて一旦考えるべきではないか、それなのに猪突猛進を続けてどうする、と言いたかったのでは・・・そう思いたい。

 普通はそうだ。何か問題が生じたら、歩みを止め、相手も自分も受け入れられる塩梅の良い落としどころを考える。でも、DV気質だと、相手のことはお構いなく、自分の信じる結果が出るまで力で押して押して押し通すしかないと思っている。それが正義だと信じていれば、妥協しないから質が悪い。

 ドラマの定信は、このやり取りを見るとDV気質の持ち主だと決まったようなもの。相当迷惑、困った人だ。相手を慮って己の計画を修正するなんて考えもしないのだ。でも、育ち方を見れば、田安家のお坊ちゃまだもん、周りのことを考えて己の考えを曲げるなんて場面は想定されていなかっただろうね。

 治貞に「下々を相当締め付けている」と言われる時点までに、ドラマで定信がやったことと言えば、基本的にはまず賄賂を禁じ、それで足りないなら倹約すれば良いのだとのお達しがあり、政を笑う黄表紙の絶版があり、自由に物が言えない世の中になった。

 さらに今回は、棄捐令(きえんれい)、中洲の取り壊しがあった。棄捐令で武家の借金が棒引きされ被害を被った貸し手の札差は、吉原で散財することがなくなった。また、中洲という遊び場が壊されて、きっと川の流れは良くなったかもしれないが、そこで生計を立てていた者らは路頭に迷う。岡場所も手入れがされ、遊女が吉原に大挙して流れ込んだという話だった。

表面化する定信VS.治済

 そして、大奥への倹約にも踏み込んだ定信。一橋治済から、ひとこと言われてしまう。この時に、治済の前に並べられていたのは3つの同じ能面に見えた。3つも作らせて、出来の良い物を・・・ということか?まあ、贅沢な。

松平定信:大奥から、嘆願が参ったのでございますか?

一橋治済:大奥があまりに質素なのは御公儀の威光に関わるとなあ。

定信:大奥の中なぞ、表に見せるものでもありますまいし、贅沢であれば威厳があるというのも浅薄極まりない考えかと存じますが。

治済:大奥の女たちには表に出る楽しみもない。中で楽しむほどのことと情けを懸けてやってはくれぬか。

定信:では、中の楽しみを減じぬような倹約の手を、私の方で考えましょう。

治済:お手柔らかにな。

 定信は、大奥が外部から納めさせて日常的に食べていた贅沢な羊羹を、大奥内部の御膳所で作れば十分の一のかかりで済むとか細々チェックをして大崎を嫌がらせた。それで大崎は治済に泣きついたのであろうが、その結果、なんと治定は治済腹心の大崎本人を、大奥から追放してしまった。

 大崎は現将軍の産婆だったとも言われる乳母。三代将軍の家光だったら、春日局に当たるのでは?そういう大物をね・・・さらに、このドラマでは、治済の命で毒殺などの陰謀に深く関わってきた「手の者」なのだから、陰の支配者を気取りたい治済の気は治まらないよね。

 また、とうとうやってきたのが、太上天皇の称号の一件。これは、治済自身の思惑(大御所と呼ばれたい)と絡み、治済はぜひ実現したい話だっただろう。

治済:(能面をいじりながら)それから、例の朝廷の件はいかがとなっておる?

定信:帝がお父君に太上天皇の尊号をお贈りしたいという一件にございますか。

治済:あれは、認めても良いと思うがの。特段こちらにかかりをという話ではなし。

定信:かしこまりました。では、御三家にもはかりました上、私の方で返答いたしておきましょう。

治済:よろしくの。・・・そうじゃ、紀伊中納言様がご体調を崩されておるそうじゃ。

定信:中納言様が。

治済:お風邪と聞いておるが、もうよいお年であられるしなあ。(能面から上半分の顔を出す。見開いた目が怖い)

 治済は嬉しそう。自分の一橋よりも上だったはずの田安出身の定信、同じ吉宗の従弟の立場の定信をこうやって配下において、しかも自分の謀の実現のために使いまわしている。しかも、(たぶん)自分の計画通りに紀伊治貞が体調を崩し、早晩この世を去るのだから、時々のニヤニヤ顔を隠すために能面を使っているのではないだろうか。

 しかし、定信は治済の意に反して尊号の件は不承知と決し、そのように朝廷に返答した。

治済:太上天皇の尊号の一件は、不承知と返答したそうじゃの?(翁の面を手にしている)

定信:御尊号は譲位された帝にのみ贈られる尊称。帝のお望みでも、先例を破ることよろしからずと、御三家、老中ともまとまりましたゆえ、将軍補佐として私が、然様に上奏するように決しましてございます。

 この時の、挑むような生き生きとした定信(井上祐貴)と、反論したげな治済(生田斗真)の表情が相変わらず良い。しかし、割って入った者がいた。

一橋家臣:殿!(外から声をかける)

治済:何じゃ?(襖を開けて入ってきて控えた家臣、定信の存在に言葉を発するのを躊躇する)

定信:私に遠慮するな、申すが良い。

治済:申せ。

家臣:大奥より使いが参り、大崎殿が老女の役を免ぜられたと。

定信:大崎殿は、不正な蓄えの他、老女の任にふさわしからぬ行いも多く見受けられ、お役を免ずべきと決しましてございます。お約束通り、楽しみを減ずることなく倹約も叶いましたかと。

治済:(能面を箱にしまいながら)どうも、田沼も真っ青な一存ぶりじゃが。

定信:上様の命とあらば、いつでもお役を辞する覚悟にございます。御金蔵の立て直し、武家の暮らし向き市中の風俗取り締まり、蝦夷、朝廷、懸案は山積み!このお役目を引き受け、事を成し得るお方が他にあるならば、私は・・・いつでも退く覚悟にございます。(懐から出して書状を畳の上に突き出し、治済に視線を向ける。「謹上 御老中衆中 定信」と表に書いてある)

 このやりとりは、ドラマでは寛政元年(1789年)の話。ちょうど、このあたりについては歴史家磯田道史先生のBSの番組で取り上げていた。定信の「いつでも辞めてやる」の張ったりは、もっと上の役目「大老」を狙っての賭けだったのではないかとの話だった。

英雄たちの選択

江戸城の怪人〜御三卿 一橋治済の野望〜

 

江戸中期。御三卿のひとつ一橋治済は、藩主として領国を経営することも幕府政治に参画することも許されず、ただ次期将軍の備えの子をなすだけの退屈な人生を送っていた。ところが10代将軍・家治の息子が急逝したため、治済の子、家斉が将軍を継ぐことに。眠っていた権力への野望が目覚める。治済は将軍家を乗っ取ろうとするが、田沼意次や松平定信ら実力派官僚に阻まれ政治抗争に発展。陰謀渦巻く江戸城政治。その果てには…。(江戸城の怪人〜御三卿 一橋治済の野望〜 | NHK

 八代将軍徳川吉宗、田沼意次、松平定信と、時代を変革し日本のかじ取りをしようとした意欲的な3人が続いた後、(ネタバレ失礼)一橋治済に操られた11代将軍家斉の時代が半世紀も続く。磯田先生らの言によれば、目先が楽しいだけの「のほほん」とした、日本のためにはさしてならない、時代に逆行した期間だったそうだ💦

 もうすぐ黒船も来ようという、日本にとっては大事な時期に・・・血筋だけで理屈を封じた男に幕府が乗っ取られた格好だ。幕府瓦解の遠因か。理屈に秀でた松平定信に政治を続けて行わせていたら、幕府は時代なりに強化されていった可能性があるのかと思うともったいない。

 定信が提唱したという「大政委任論」も、何とか治済・家斉親子の暴走を止めたかったからなんだろう💦帝王学というか「将軍何たるか」を考えもしない親子相手に、苦労した結果かと思うと気の毒だ。(大政委任論 - Wikipedia

変化を受け入れられず、抗う蔦重

 蔦重は、前回の春町の死でかなりのショックを受け、いつものように「そうきたか!」というようなアイデアを捻りだすどころではない。

 絶版になった3作の作家たちが死亡・国元に強制帰国・逃走し、大田南畝は筆を置いた。他の武家の戯作者は、処分を恐れ大方縮みあがっている。倹約の世で不景気、黄表紙はもう辞め時か、という地本問屋の声に「いやあ、大事ねえですよ」「次は町方の先生たちに踏ん張ってもらいましょう!」と反論するが、時代の変化を見ようとしない板元に巻き込まれる作家は迷惑だよね。

 蔦重のターゲットになったのは、町方の政演(山東京伝)だった。政演も、既にお咎めを食らったことがあり、お上に目を付けられているのに強気な蔦重が言うままに書かされるのを恐れ、「政を茶化さないなら」と、ビクビクしながら書いていた。

 強気と言っても、蔦重のそれは焦りだ。大河ドラマ「平清盛」で松田聖子が口ずさんでいた「遊びをせんとや生まれけむ」は、後白河院がまとめた「梁塵秘抄」のフレーズだった(遊びをせんとや生まれけむ『梁塵秘抄』の遊びの本当の意味)。その「遊び」を「戯け」に置き換えたのが「戯けをせんとや生まれけむ」、ところどころこのドラマでも出てきていたように思う。

 今回も、「遊ぶってなあ、生きる楽しみだ。楽しみを捨てろってなあ、欲を捨てろってこった。けど、欲を捨てる事なんかそう簡単にはできねえんだよ」と言う蔦重。遊びや戯けは、それぐらい生まれついて自然なことと考える蔦重は現代人に近い。だもの、「褌に抗ってかねえと、ひとつも戯けられねえ世になる」と焦るのだろう。

 他方の褌守定信は、「遊ぶところがあるから人は遊び、無駄金を使う。遊ぶところを無くしてしまえばよい」と言っていた。遊ぶのは環境のせい、という訳だ。厳しいなあ。

 こういう定信だからこそ、対抗するにはアイデアが欲しいところ。そのままバカ正直に反抗しても「身二つになるだけ」だ。町方の話を聞いてくれる老中が率いていた、自由な田沼時代は終わったのだ。

 強引に「倹約を吹き飛ばす」と話を進めようとする蔦重にストップをかけたのは、ていだった。

蔦重:・・・ってことで、吉原を救うためのもんを考えたいんだ。歌、錦絵頼む。

歌麿:もちろん。何、描けばいいんだい?

蔦重:そりゃあ、絢爛豪華な女郎を絢爛豪華に描いてほしいんだ。(心配そうに、顔をそむける政演)

歌麿:絢爛豪華・・・。

蔦重:ああ。政演。お前、吉原には散々世話になってる身だ。やらねえとは言わねえよな?

政演:けど、お咎めを受けるようなのは・・・。

蔦重:分かってる。思うによ、いっちゃん悪いのは倹約なんだよ。倹約ばかりしてちゃ、景気が悪くなり続け、皆貧乏。そのツケは、つまるところ立場の弱え奴に回されんだ。(廊下に来て話を聞くおてい)そういうことを、面白おかしく伝えてほしいんだ。世にも褌にも。

 例えばよ、倹約がいき過ぎて、てめえそのものを倹約するってなあ、どうだ?それが流行って、最後には国から人がいなくなっちまうってなあ!

てい:(いきなり部屋に入ってきて、ひれ伏す)お二方とも、どうか書かないでくださいませ!然様な物を出せば、歌さん、政演先生、蔦屋もどうなるか知れません。どうか、書かないでください!

蔦重:あのよぉ、吉原じゃ一切れ24文で身を売るようなことになってんだぞ。

てい:(蔦重に向き直る)大変申し上げ憎うございますが、旦那様は所詮、市井の一本屋にすぎません。立場の弱い方を救いたい、世を良くしたい、そのお志は分かりますが(詰め寄る)、少々、己を高く見積もり過ぎではないでしょうか!

蔦重:ああ?(てい、眼鏡をパッと外し睨みあう)

歌麿:眼鏡。

政演:まあ、強い目だねえ。(顔を逸らす蔦重)あっ、目閉じた!

蔦重:昔、陶朱公のように生きろって言ったのはどこのどなたでしたっけ?

てい:韓信の股くぐりとも申します。

蔦重:世を良くするような商人になれって言いませんでしたっけ?

てい:倒れてしまっては志を遂げることもできませぬと申し上げております!

蔦重:春町先生は、黄表紙の灯を消さねえために腹まで切ったんだ!それを、てめえらの保身ばっかり・・・恥ずかしいと思わねえのか?!(睨みあう)

てい:(眼鏡をかけ、袂から本を出す)黄表紙の灯が消えることをご案じなら、このような向きはいかがでしょう。

歌麿:ああ、それ大昔の青本ですよね。

てい:はい。「金々先生」以前、青本は人の道を説く教訓を旨としたものでございました。これなら、御公儀に目を付けられることは無いかと。

政演:温故知新ってことですか。今や、かえって新しいかもしれませんね。

蔦重:ふざけんじゃねえよ!「金々先生」の前に戻るってなあ、それじゃ春町先生は一体、何のために生きてたんだってなんだろうが!てめえには情けってもんがねえのか!

てい:春町先生のご自害は、私どもに累を及ぼさないためのものでもありましたかと!

蔦重:だから!

てい:故に、お咎め覚悟で突き進むことは望んでおられぬと存じます!

蔦重:・・・はあ・・・(気まずい顔の、歌麿と政演)

 ホントだよ、蔦重・・・ちょっとは頭に上った血の気を冷まして考えてほしい。でも、これでも分からないんだろうな。まず、分かりたくないのだろう。

 歌麿が言っていた。蔦重が背負っているのは春町先生への思いだけじゃない。春町先生、田沼様、源内先生、吉原の人たち、新さん。ずいぶん多くの人たちを見送ってきたのだね。こちらもそれだけのドラマを見せてもらってきた。もう10月だもん・・・ずいぶん遠くまで来たものだ。残るはあと11回か!

 「荷、背負い込み過ぎじゃね?」と政演は笑ったが、「けど、生き残るってなあ、そういうことかもな」と返した歌麿。彼も、毒母やら師を見送った。そこで近々、さらに見送らねばならない人がいる・・・悲しいなあ。

 きよを前に、歌麿は政演に言った。

歌麿:身を売るしか生きる術のない人たちにとって、遊ぶなだの倹約しろだのってのは、やっぱり野垂れ死ねってことになっちまう。他に身を立てる道が支度されんなら別だけど、そんなもなあ、滅多にねえ訳で。つまるところ、買い叩かれるしかねえ。弱い者にツケが回るってなあ、蔦重の言う通りなんだよな。

 現代にも通じる言葉だ。「どうしたものか」と考えた政演は、ありのままに虫や草花を描いた歌麿の襖絵をヒントに、吉原での人間模様をありのままに小話に書く洒落本を思いついた。

 「歌さんの絵は、ありのままだから面白えわけじゃねえですか。小話も、そういう具合にしてえなって」と政演。それがピンとこないと言っていた蔦重だったが、実際に読んでみて、みの吉にも読ませて(みの吉は原稿に夢中)、納得。

蔦重:これが才ってやつか。(座り直して)女郎を姉妹や知り合いのように思わせる。幸せになってほしいと願わせる。これ以上の指南書はございません。(手をついて頭を下げ)うちで買い取らせてください。(ていも頭を下げる)

政演:へへっ、お高くお願いします!(みの吉、まだ熱心に読んでいる)

 今回は、政演の才能に救われた蔦重、ということ。これが寛政二年(1790年)正月の耕書堂の店頭に並んだ洒落本「傾城買四十八手」だったが・・・筆の早い政演は、もう1冊花魁に頼まれた「心学早染草」も、見事にものにしていた(羨ましい~!ぱっぱと手離れよくアウトプットできる人!)。

 蔦重も鶴屋さんも知らない仕事だったため、大目玉を食らった政演・・・というか、定信の政を持ち上げるような内容だったからこそ、蔦重は烈火のごとく怒った。心学とは、おていさんによると「神仏の教えに儒学を織り交ぜて分かりやすく道徳を説いたもの」だそうだ。

 さらなる九郎助稲荷(綾瀬はるか)の解説では、こうだ。

九郎助稲荷:それは、良い魂と悪い魂、善魂と悪魂が一人の男の体を巡って戦う話で、しまいには善魂が勝利し、男は善人として生きていくという、それだけの話。ですが、今でも使われる善玉悪玉という言葉は、ここがルーツ。つまり、長く読み継がれていくほど出来の良い話で。そう、これは越中守様が推し進める倹約、正直、勤勉といった教えを、見事にエンタメ化したものでした。

 政演、すごいね~!本当に才能がある人はこうなんだ。短期間で、頭に降りてきたものをサササと書いていくだけの作業だったのかな。蔦重が怒ったって止められないよ、頭に降りてきちゃったんだから。ただただ羨ましい。

 蔦重は怒りに任せて「お前、こんな褌担いで何考えてんだよ、おい」「こんな面白くされちゃみんな真似して、どんどん褌担いじまうじゃねえかよ!」「草葉の陰から春町先生に雷みてえな屁ひられっぞ」と政演に罵声を浴びせた。

 一方の政演。逃げ回り「面白けりゃいいんじゃねえですかね?」「面白えことこそ、黄表紙にはいっち大事なんじゃねえですかね!褌担いでるとか、担いでねえとかよりも!面白くなきゃ、どのみち黄表紙は先細りになっちまうよ!それこそ、春町先生に嵐みてえな屁ひられるってもんじゃねえですかね!」と恐る恐るながらさすがの点を突いて反論した。

 そこで、言葉に窮した蔦重は、手が出た。「何度言や分かんだよ!(本で叩く)戯け者は褌に抗ってかねえと、一つも戯けられねえ世になっちまうんだよ!

 蔦重こそ、町方が幕府筆頭老中に抗っても、首を刎ねられ身二つになるだけだとおていに言われていたじゃないか。それこそ、どうしてわからないのかな・・・。

 政演は「俺、もう書かねえっす。蔦重さんとこでは、一切書かねえっす!」と言うに至った。人気作家が書いてくれない宣言、板元は万事休すだ。

おていはライター

 ところで、寛政二年(1790年)正月に、耕書堂の店頭に並んだ3冊に「即席耳学問」という、市場通笑作の上中下巻の本があった。これを書いた市場通笑が、ドラマでは実はおていさんだって設定になっていたような。(市場通笑 - Wikipedia

 確かにこの人、通油町で育ってるみたいだ・・・「教訓の通笑」と称されたってことだが、ドラマの中ではまさに「教訓のおてい」の役回りだもん、ぴったり。でもこれまで、おていが作品を書いているシーンなんてあっただろうか?

 真面目に遡ってみると、灰捨て競争をしたのが1783年(天明三年)夏の浅間山の噴火、その後におていは蔦重と結婚する訳だから、1779年(安永八年)刊行の初の黄表紙「嘘言弥二郎傾城誠」からの数冊は、丸屋、もしくは他のどこかから出版したって事なのか?それにおてい、蔦重よりも一回り以上お年上だったってことになるね、なんて。

歌麿の妻きよは・・・

 歌麿は、栃木の豪商・釜屋伊兵衛(U字工事の益子卓郎♪)に依頼され、高額が見込める肉筆画を描くことになり大喜び。説明のために自宅の襖絵にも見事に肉筆画を描いて見せ、新妻きよも喜びを分かち合った。 

 この栃木の商人の役は、U字工事にうってつけ。相方の福田も、釜屋伊兵衛の甥の役で次回以降、出てくるらしい。このふたりを、U字工事を差し置いて他の人が演じたら不自然だ。大河デビュー、本当に良かったよね。カミナリのまなぶもどうでもいい役で出てきていたが、なぜ?U字工事を起用するから吉本の手前?まなぶの「鎌倉殿の13人」での役は面白かったけどなあ。

NHK公式サイトより引用https://www.nhk.jp/g/ts/42QY57MX24/blog/bl/pyRxwlZnDK/bp/pdj8Dg1Lvp/

 おきよだが、喜んで背伸びをした際に足が裾から覗き、そこには赤い腫物が・・・次に足が映った際には、その赤い腫物の数が増えていた。あああ・・・あれは梅毒だよね。ドラマ「大奥」で平賀源内が梅毒で死んだ時も、同じような腫物があったもの😢なんということだろう。

 「おきよがいたら、俺、何でもできる気がするよ」と、きよを抱きしめた歌麿は言っていた。きよは歌麿を開眼させ、幸せをくれたのに。

 ここでウィキペディア先生を見てしまった。歌麿の妻(戒名:理清信女)は、寛政二年(1790年)夏に死んでいた。戒名から、ドラマでは「きよ」と名付けたんだろうね。喜多川歌麿 - Wikipedia

 きよの死が、歌麿の大首画の誕生に関係するのだろうか・・・いずれにしても、しばらく栃木に旅して絵を描いて、心を癒してきてほしい。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#36 自裁した春町を惜しむ喜三二の涙に泣く😢図らずも推しを追い詰めてしまった空回り中の定信、きっと反省しない

理解するに難しいサブタイトル💦

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第36回「鸚鵡(おうむ)のけりは鴨(かも)」が9/21に放送され、岡山天音演じる恋川春町が最期を迎えた。まずはあらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫ 第36回「鸚鵡(おうむ)のけりは鴨(かも)」

 蔦屋の新作『鸚鵡返文武二道(おうむがえしぶんぶのふたみち)』『天下一面鏡梅鉢(てんかいちめんかがみのうめばち)』が飛ぶように売れる。定信(井上祐貴)は、蔦重(横浜流星)の本に激怒し、絶版を言い渡す。喜三二(尾美としのり)は、筆を断つ決断をし、春町(岡山天音)は呼び出しにあう。そして蔦重は、南畝(桐谷健太)からの文で、東作(木村 了)が病だと知り、須原屋(里見浩太朗)や南畝とともに、見舞いに訪れる。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第36回 - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 ・・・えーと、今回のサブタイ「鸚鵡(おうむ)のけりは鴨(かも)」なんだが、また分かりにくい。「鸚鵡」は松平定信の「鸚鵡言」から、恋川春町が茶化した黄表紙「鸚鵡返文武二道」が問題になっているのが関係するのは分かるけど、「けりは鴨」は、はてさてどうなってる?

 「けり」は春町の辞世「我もまた 身はなきものと おもひしが 今はの際は さびしかり鳧(けり)」の末尾に出てきた。それをいつもめっちゃ人が良い絵師の北尾重政が「鳧は鴨。鸚鵡のけりは鴨でつけるっていう捻りですかね」とちょっとだけ解説してくれた。

 それでも「はて?」と思ってしまった。鳧はそのまま「けり」で良くない?なんでわざわざ鴨を出す・・・と混乱したからだが、鳧は「かも」とも読むんだね。「かも(鴨)」と「けり(鳧)」、全く別の鳥かと思っていた。

鴨・鳧【かも】とは
1.カモ科の鳥のうち、比較的小形の水鳥の総称。首が長く手足は短い。嘴(くちばし)は横に平べったくで櫛(くし)の歯状の板歯がある。冬に北から来て、春に帰るものが多い。種類が多くて、肉は美味。「鳧」は「ケリ」と読めて、チドリ科の鳥である「ケリ」を指すこともある。
2.1の味がいいことから、いい獲物。いいもうけの対象として利用される相手のこと。(鴨・鳧【かも】 の意味と例文(使い方):日本語表現インフォ

 アンダーラインはこちらで付けた。ちょっと検索したら鳧の写真を載せているページがあったので、もうひとつ引用させていただこう。やっぱり鳧と鴨とでは、私の頭の中でのイメージが大いに異なる。このページでは、作家の沢木耕太郎の小説「春に散る」での鳧に関する表現にも触れている。

朝日新聞の連載小説、沢木耕太郎作「春に散る」の中に、「けりをつける」ことが書かれていましたが、昔の人は「けり」に鳥の「鳧=ケリ」という字を当てたそうです。ケリという鳥のいることも知りませんでした。
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昔の人は、ケリをつけるのケリに鳧という字を当てた。鳧は日本の田圃などに巣を作る鳥だが、田起こしの時期とぶつかっては、せっかく作った巣を壊されてしまう。それでも鳧は諦めずに二度、三度と巣を作りつづける。鳧は簡単にケリをつけようとしないのだ。   (文中より)

鳧(けり)=チドリ目チドリ科タゲリ属~チドリの仲間です。
画像検索にて、保存させていただきました。

辞書をひいてみましたが、(めんどうなことがらについて)しめくくりをする。終わりにする。と出ていました。

けりをつけるの“けり”は、助動詞の“けり”から来た語だが、「鳧」の字を宛てることがある。   (と検索では・・・)
***************************************

時によっては、簡単にけりをつけるのではなく、鳧のように粘り強く努力をしなくてはいけないときもありそうです。(「けりをつける」の“けり”とは? - 気ままな思いを

 ちょっと「鴨」が引っかかってしまったので、のっけからこだわってしまって失礼。しかし、鴨ってカモになるとかカモネギとかそちらを考えちゃうと、鸚鵡騒動のけりは鴨でつけるって言われても、やっぱりピンとこないし分かりにくい。鴨に持って行かなくて良かったよね、鳧(けり)のままで。

 毎回のサブタイトル、作る側の独りよがりの格好つけと言うか、考え過ぎと言うか、空回りして定信状態な気がするのは私だけか?(今更)誰のためのサブタイトル?視聴者のためになってる?

この際「筆を折り国に帰る」が最善策

 寛政の改革を進める松平定信が、多忙の余り、心ならずもお目こぼし状態になっていた黄表紙だというのに、調子に乗ってしまった蔦重。さらに茶化しを過激化させたことで「謀反も同じ」と逆鱗に触れ、とうとう定信側も動き出してしまった。

 当初定信は、腹心の水野為長(永?)に「茶化されているとの見方もできる」と言われても、後押しされていると勘違いしてすっかり嬉しくなっちゃって「蔦重大明神」とか言ってたのにねえ・・・なんか気の毒。

 ドラマでは定信の猪突猛進ぶりを諫めたいらしい人たちが「世の見方はこうですよ」と、あっちからもこっちからも黄表紙を出してきた。直接は言いにくいものだからね。その時に、裃の懐って深い、あれもこれも入るんだ、みんな懐に隠し持って暇があれば読んでるんだなんて思ったりした。

 しかし、定信の水野配下の隠密は何をやってる?黄表紙について、あれだけ大流行だったのだから、もっとしつこく世間での反応のされ方を(ネガティブだけど)報告しても良かったのに。それとも言うに忍びなかったか、「まー、うちの殿も仕方ないよね」と、陰で一緒になって笑ってたか。なんて。

 それで、自分の政策を茶化されているとようやく気づいた定信は、耕書堂出版の3作を絶版だと言い、役人が耕書堂に踏み込んできた訳だ。3作とは、こちら。

  1. 文武二道万石通(ぶんぶにどうまんごくどおし)天明八年(1788年)朋誠堂喜三二作
  2. 鸚鵡返文武二道(おうむがえしぶんぶのふたみち)寛政元年(1789年)恋川春町作
  3. 天下一面鏡梅鉢(てんかいちめんかがみのうめばち)寛政元年(1789年)唐来三和作

 唐来三和は、既に武士を辞めて「江戸本所松井町の娼家和泉屋の婿養子になった」という町人身分だから(唐来参和 - Wikipedia)、一時身を隠すとかすれば大丈夫な気がする、そんなに目の仇にはされにくいかも。

 武士の喜三二と春町は陪臣であり、直臣の大田南畝のように直接睨まれたりする風当たりを気にしなくてもいいとはいえ、盾になる主君が定信に怒られる訳だから、それはそれでやりにくい。それで、喜三二は筆を折ると言って、国に帰ることになった。帰るといっても、江戸の武士だから、国元に行くのはチャレンジングだったろうね。

喜三二:殿に怒られちまってさ。黄表紙は言うまでもなく、遊び回っておったことが嗅ぎつけられてなあ。お家の恥だ、ご先祖に申し訳が立たぬって、顔真っ赤にして涙浮かべて怒られてさ(略)まあ、遊びってのは、誰かを泣かせてまでやるこっちゃないしなあ。

 この言葉に、蔦重も「わかりました」と言うしかない。

 秋田藩(久保田藩)は、佐竹氏が治める表高20万石、実高は40万石の大藩であり(ちなみに定信の白河藩の石高は11万石だったそうな)、その江戸留守居役の筆頭の喜三二(勤めの「気散じ」に書いてたんだよね)は、実は大物だ。筆を折って国に帰るという手は、この際、何よりの解決策だったのでは。

 江戸にいたら目障りだし、定信の隠密のターゲットになってアレコレ難癖も付けられやすいだろう。国元の秋田ならば、定信といえど、そう易々と手を突っ込めないだろうから。ほとぼりを冷ますには距離を置くのが一番だ。

 喜三二が国元に去る前の送別会で、忘八や女将ら、吉原の面々に久々にお目にかかれたのが楽しかった。吉原に入り浸っていた喜三二だけに、送別会も吉原で、なんだね。次郎兵衛義兄さんの妻も大きな酒樽を会場に運んでいたね。オーミーを探せ!なんて言われたカメオ出演の頃からずっとだから、あれもあったこれもあったが懐かしい。

 その中で、女郎屋にハシゴの居続けで何作も書く話があったが(松葉屋の女将が勇敢にバケモノに立ち向かったりして)、その時の相方の花魁松の井が、年季が無事に明け、手習いの女師匠になって笑顔で今も生きているのが確認できたのは嬉しかった。

 ドラマの序盤、名もなき女郎らの投げ捨てられた遺体が出てきたり、河岸見世の病んだ女郎たちがそれでも体を売り続ける苛酷な状況も描かれた。女郎で年季明けまで完走できる子は果たして居るのか、多くが年季明けまでに命を落とすのではないかと危ぶんでいたが、フィクションでもいい、鬼脚本の中で、ひとりでも幸せになれた子がいたんだ。

 実は、喜三二と古ーい付き合いの姐さんも出てきていたから、もうひとり女郎稼業を完走した人がいたようだったが。

 送別会で懐かしい面々に惜しまれ(蔦重の策)、喜三二は断筆を撤回。「まあさん、まだ書けます!」と宣言した。その時、「春町もまだ書くらしいし」と言っていたが・・・ああ。

殿が春町を慮るあまりに逃げられない

 他方、恋川春町。大藩に勤める喜三二と違い、彼が年寄本役(家老)を勤めるのは小島松平藩という「吹けば飛ぶような」1万石の小藩なのだ。

 絶版になった本を書いた「恋川春町」は、実は当主松平信義ではないかと定信に疑われ、信義は、春町の正体を「家中の倉橋格なる者」だと明かした上で「倉橋、此度のことを心より悔やむあまり病となり、隠居した」と弁明した。

 春町は、直参ではないからこれ以上のお咎めは無いと踏み、隠居で減った収入は戯作で稼ぐつもりでいた。しかし、春町作「悦贔屓蝦夷押領」を読み、田沼意次が立てた手柄を定信が横取りするという、痛烈な皮肉が仕掛けてあることに気づいた定信は怒り爆発(田沼病にかかってるとか何とか一橋治済にからかわれて発火点に引火)。キーっとなってる定信のさらなる呼び出しに、春町は悩む。

蔦重:いっそ呼び出しに応じて、春町先生の考えを腹割って話すってなあ、ねえですか?

春町:あちらは将軍補佐。こちらは吹けば飛ぶような1万石の小名の家来ぞ。

蔦重:けど、黄表紙好きだって話、嘘じゃねえかもしんねえでしょ?許されんなら、共に参りますし。

春町:・・・うまくいけばよいが、うまくいかねばその場でお手討ち。小島松平家がお取り潰しともなりかねぬ。それは打てぬ博打だな・・・。

蔦重:嘘八百並べて這いつくばって許しを乞うんですか?春町先生に、それができるとは思えねえんですが・・・。

春町:・・・あ~!(畳の上に倒れる)そこよな。

蔦重:いっそ、まことに病で死んじまうってなあ、ねえですか?病で隠居で、建前はホントだったってことにして、絵や戯作を生業として別人で生きていくってなあ・・・いや、ねえか。

春町:(起き上がる)いや!いや、それが最善かもしれぬ。(部屋を飛び出す)

蔦重:へ?あ・・・春町先生?え?おお、どこへ行くんですか?

(小島松平家当主と向き合う、裃姿の春町)

松平信義:死んで別人となり、戯作者として生きていく・・・。

春町(倉橋格):はい。某が死んでしまえば、責める先がなくなる。殿もこれ以上しつこく言われることも無くなりましょうし。

信義:しかし・・・然様なことができるのか?

春町:人別や隠れ家など、蔦屋重三郎が万事計らってくれると。支度が調うまで、殿にはしばし「病にて参上できず」と頭を下げていただく労をお願いすることになりますが・・・。

信義:当家はたかが一万石。何の目立ったところも際立ったところもない家じゃ。表立って言えぬが、恋川春町は当家唯一の自慢。私の密かな誇りであった。

春町:殿・・・。

信義:そなたの筆が生き延びるのであれば、頭なぞいくらでも下げようぞ。

春町:(涙を堪えて頭を下げ)ご温情、まことありがたく!

 殿、優しい!こんなにも素敵な言葉をくれて・・・作家冥利に尽きるね。この殿を困らせることは、春町には決してできない。それが彼の決断にも影響していくんだろう。

 信義は「倉橋は麻疹になった」と定信に報告。「治りましたら、必ずや申し開きに参らせますので、しばしお待ちを!」と深々と頭を下げた。しかし、定信の右手は春町の黄表紙をギギギと握りしめて・・・おお怖💦

春町:越中守様(定信)が明日、ここに?

信義:麻疹もいつわりであろうと言ってこられた。

春町:それでは、殿が越中守様を謀ったことに・・・。

信義:倉橋!今すぐ逐電せよ!後のことは私が何とかする。

 ここまで追い詰められたら、終わりだ。これ以上は殿に迷惑が掛かるもんねえ。耕書堂を眺め、豆腐を買って帰るしかない。

 春町は腹を切り、大きな大きな豆腐の角に頭をぶつけて死んだ。駿河屋市右衛門が、春町の人別も用意して蔦重に渡してくれていたのに・・・。

 もし耕書堂前で、蔦重に会えていたら、逃げる気にもなり、他の運命もあったのだろうか?いや、春町の死体が無いのでは、定信が検分に来られても困る。

 春町の死を耕書堂に知らせに来た喜三二。演じる尾美としのりの泣き演技が凄かった。春町の顔にかけられた布を春町の妻しず(いたんだ!)が取った時も、心底から虚を突かれたようにハッとして手を合わせ、本当に泣いている。その後の他の演者の泣きの演技が、申し訳ないけど嘘っぱちに見えるほど、尾美としのりの喜三二は、春町の死を全身で悼んで泣いていた。

 ここで、春町の鬢(音声解説で「髷」って言ってたけど違うよね)に白い何かがぽつぽつ付いていることに気づいた蔦重。それは豆腐だったのだけれど、奥さんもわざと取らずにそのままにしたのかと思うと、よく分かっている奥さんだ。

 また、屑籠の中のちぎった手紙にも気づいた蔦重。許可を得て、それを並べて復元した。

春町:蔦重。いきなりかような仕儀となり、すまぬ。実は例の件が抜き差しならぬこととなってしまってな。殿は逃げよと言ってくださったが、然様なことをすればこの先、何がどうなるかしれぬ。小島松平、倉橋は無論、蔦屋にも他の皆にも累が及ぶかもしれぬ。それは、できぬと思った。もう、全てを丸くおさむるには、このオチしかないかと。

 この手紙は、しかし「恩着せがましいか」と、春町の手で破られたのだった。「なんで本を書いただけでこんな」と歌麿は言った。が、頭に血がのぼっている定信には分からなかったのだね。

 春町が死んだと聞いて、初めて定信は自分がやり過ぎた、追い詰め過ぎたことに気づいたのだろうか?

定信:亡くなった?

信義:はい。腹を切り、かつ・・・ハハハハハ、豆腐の角に頭をぶつけて・・・。

定信:豆腐?

信義:御公儀を謀ったことに倉橋格としては腹を切って詫びるべきと、恋川春町としては、死して尚、世を笑わすべきと考えたのではないかと、板元の蔦屋重三郎は申しておりました。一人の至極まじめな男が、武家として、戯作者としての「分」をそれぞれ弁え、全うしたのではないかと越中守様にお伝えいただきたい、そして、戯ければ腹を切らねばならぬ世とは、一体誰を幸せにするのか、学もない本屋風情には分かりかねると、そう申しておりました。

 この後、布団部屋で白い布団に頭を突っ込み、定信は泣いた。昔の賢丸時代を思い起こさせる幼い泣き方に、「自分は一生懸命なのに、自分で自分の推しを殺してしまった」という悔いはありそうだけれど、だからといってその後悔が彼を変えるのだろうか?

 自分のために「なんでうまくいかないのー」と泣くだけ泣いて、自分の信じる道だからとこれからも突っ走りそうだ。春町が何を思い、なぜ切腹後にわざわざ豆腐の角に頭をぶつけるなんて命を懸けて戯けをやり切ったか、春町の視点で物を考えることはあったのだろうか。

(ほぼ敬称略)