黒猫の額:ペットロス日記

狭い場所から見える景色をダラダラと。大河ドラマが好き。

【べらぼう】#45 チーム「写楽」始動!定信、力技で蔦重を一味に加え、ていは腹をくくり蔦重を鼓舞&歌麿を説得、MVP獲得

蔦重、言い返せるご身分か?とヒヤヒヤ

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第45回「その名は写楽」が11/23に放送され、おていが捨て身の「出家する」宣言をするなど歌麿に必死の説得をしかけ、MVPの大活躍だった。さっそくあらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫第45回「その名は写楽」
 定信(井上祐貴)らに呼び出された蔦重(横浜流星)は、傀儡(くぐつ)好きの大名への仇(かたき)討ちに手を貸すよう言われる。芝居町に出向いた蔦重は、今年は役者が通りで総踊りをする「曽我祭」をやると聞き、役者の素の顔を写した役者絵を出すことを思いつく。蔦重は、南畝(桐谷健太)や喜三二(尾美としのり)らとともにその準備を進めていくが…。一方、歌麿(染谷将太)は、自分の絵に対して何も言わない本屋に、いらだちを感じていた…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第45回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 ・・・ということで、ドラマ冒頭は前回から続いての定信らが蔦重を呼び出して、仇討ちチームへの加入を誘った場面から。お誘いへの蔦重の回答がまだだった。

 蔦重、源内先生がホントに好きだったのねえ、会えなくてガッカリは分かるよ。だけど主人公とはいえ町人なんだから。ハハーッと素直に控えないものだから、松平定信の腹心の水野某なんてもうイライラMAX。お偉いお武家様相手に、そのふてぶてしい態度は危ないって💦

松平定信:どうだ、蔦屋重三郎。我らと共に仇を討たぬか?(定信、高岳、三浦庄司らが同席)

蔦重:(原稿を突き出す)これは、源内先生が書いたんじゃねえんですね。

定信:それは、三浦の話を基に私が書き起こしたものだ。

蔦重:然様にございますか。では、ここにてお暇いたします。(原稿を残し、座を立つ。首をかしげる定信)私は、源内先生に会いに参りましたもので。ああ、このことは聞かなかったことといたします。

定信:そなた、源内の遺志を継ぐ気はないのか?源内は生きておればそこにある源内軒のように、傀儡好きの大名を成敗し、仇を討ちたいと思ったはずじゃ。

蔦重:越中守様は源内先生に会ったことねえでしょう!(強めに言い返す)「どうしたいか」は、源内先生に会った時に直にお聞きしますんで。

定信:そなた、源内が本気で生きておると思うておるのか?

蔦重:へえ。では。

柴野栗山:そなたは世のために悪党を成敗したいとは思わぬのか?この先、同じことが繰り返されぬように。

長谷川平蔵宣以:そうだ!世のために悪党は捕らえねばならぬであろう!

三浦庄司:そなた前に、悪党を野放しにするのは間違いであったと殿(田沼意次)に申したではないか!

高岳:然様。我々は天誅を下すのだ。

蔦重:(扉に向かい、定信らに背を向け立ったまま)はあ・・・。けど、そいつが悪党だって証はねえわけですよね?(振り返る)もし間違いならとんでもなく間抜けな話ですし、こんな話に関わりゃ、私も身内の身も危うくなります。吹けば飛ぶような本屋にございますゆえ、何卒ご勘弁を。(帰ろうとするが、扉が開き、抜刀間際の水野ら定信家臣団がいる)

定信:確かに関われば身は危うい。残念ながら、お前はもう関わっておるのだ。

蔦重:(家臣に囲まれ)随分、野暮なお仕打ちで。

定信:生憎、こちらは野暮だ粋だで生きておらぬのでな。なに、吹けば飛ぶような本屋に頼むのは大したことではない。「源内が生きているのではないか」と、世の中を大騒ぎさせてほしいだけだ。お前ほど、この役目にふさわしい者もおらぬであろう?

 人にものを頼む態度じゃない。さすがDV気質・上から目線の定信だ。まあ仕方ない。あちらは高ーいご身分。武士でも将軍様の孫なんてそうそういない。新興商人の蔦重はせいぜい無礼打ちされないように、身を処していなければ。

 だけど、源内先生には会えないし、無理やり変な企てに巻き込まれて逃げ場無し。蔦重がへこむのは分かるよ。

 不思議なのは、これまで定信は、自分ヨイショの読売を撒くなど社会を騒がせる手はたぶん水野経由で自前で賄ってきていたと思うのに、何故ここにきて蔦重を頼るのか?「お前ほど、この役目にふさわしい者もおらぬ」と蔦重に言ってたけれど、餅は餅屋ってことでやらせる気になったのかなあ?蔦重なんか信頼できなくないのか?

 それとも、あの「七ツ星の龍」の物語を復活させて書いてみたはいいけれど、広め方で悩んで行き詰ったのかな。

 「七ツ星の龍」の源内作に見せた物語は、やっぱり裏で黄表紙好きの定信が書いていた訳だけど、死を呼ぶ手袋にまつわる真相の目星をつけた源内が生きているとなれば、治済は焦る。その噂の出所は、保身のため、定信としてはなるべく遠ざけたいのか?そのために庶民を使うか・・・冷たい奴!

 結局、下々に対するものの考え方は、一橋治済も松平定信も使い捨てOKで一緒だということかな。同じ吉宗の孫だ。

 今回、大崎が身の危険を感じて再雇用を治済に願い出ていた。いや~、ダメだよ大崎、会いに来たってあなた、治済にトカゲの尻尾切りで殺されるだけだと思うけどな。「恐ろしいことじゃ」と言っていた治済の眼がトカゲのように怖かったよ。

 この時、大崎が挙げた陰謀話の多さに笑ったよね。そりゃ身に覚えはあるんでしょうね、どこからかは狙われますって。

おていがビシッとMVP

 今回のMVPはおていさんだと思う。定信への反発心やら何やら納得できない気持ちでグズグズしている様子の蔦重に、ビシッと方向性を示したのがまずあっぱれ。そして、アーティスト歌麿を「描きたい欲」で突き動かすことに成功した点だ。

 蔦重はていを巻き込みたくないし、考えが定まらずに嘘をつくのだが、そんなことでおていを煙に巻けるわけがない。「それは、狐ではなく狸の化かし方にございますね。一体、何があったのでございますか?」と冷静に返されてしまうのだ。

 そして、事の次第を正直におていに伝えた蔦重。

てい:つまり、世を騒がせねば、旦那様も私たちもどうなるか分からぬということにございますか?

蔦重:ああ。ほんとすまねえ!こんなことになるたあ・・・すまねえ。(ひれ伏す)

てい:・・・仇討ち。「忠臣蔵」の大星由良助は、茶屋遊びで世を欺きましたかと。やらぬという道が塞がれておる上は、やるしかございませんでしょう!(副音声の解説「丸眼鏡の奥で瞳が輝く」)よろしいのではございませんか。悪党を討つのは世のためにもなる事でしょうし。この際、蔦屋重三郎らしい、うんとふざけた騒ぎになさってはいかがでしょう?しみったれのふんどしの守様から掛かりをふんだくり、かつてないほど贅沢でふざけた騒ぎを起こすのです。そして、それを以て春町先生への供養と成すのはいかがでしょう?

蔦重:・・・春町先生の。

てい:はい。きっとお喜びになられるかと。

回想の恋川春町:(褌一丁で踊っている)皆様にはせめてお笑いいただきたく!

蔦重:(思い出して頬が緩む)おていさん。

てい:はい。

蔦重:極上々吉。極々上々々々々々・・・。

てい:お褒めに預かり恐悦至極にございます。では、いかにふざけましょうか?

蔦重:まあ・・・手っ取り早いのは読売なんだけど、それじゃつまんねえな。

てい:持ち込まれたあの草稿を本にして出す・・・のは、難しうございますね。

蔦重:うん。そりゃ、俺も店もあっという間にお縄でさ。

てい:では、危ういことには触れぬ筋で、源内先生が書いたとしか思えぬ黄表紙。

蔦重:黄表紙、洒落本、浄瑠璃・・・。

てい:市九さん!確か、市九さんは・・・。

蔦重:あいつは、浄瑠璃が書ける!

てい:しかも、源内先生が生きておるかもしれぬとお告げを持ってこられたお方です!

蔦重:こりゃ、天の導きとしか思えねえな!

てい:では、源内先生が書いたとしか思えぬ新作の浄瑠璃を、市九さんに書いてもらい・・・

蔦重:小屋にかけてもらいましょう!

てい:はい!

 わざわざ副音声の解説では、おていさんの瞳のキラリンを伝えていた程、やる気満々。なんと頼りになる女将さんだろう。定信によって死に追いやられた恋川春町への供養として贅沢にふざけるのだ、かかる金銭も定信からふんだくってやれと。

 このおていのビシッとした言葉で蔦重も腹が定まり、前向きにエンジンがかかった。ではいかに?という点も、ふたりでブレインストーミングの結果、浄瑠璃と決まった。脚本を書くのは、源内生存説を持ち込んだ十返舎一九だ。

 何を書いたかな?とウィキペディア先生をチェック(十返舎一九 - Wikipedia)。しかし、1793年(寛政五年)10月あたりなのだよね・・・ウィキによると、彼は翌1794年に通油町の蔦重の下に寄食するようだ。そもそも「源内先生が書いたとしか思えぬ」浄瑠璃本を書かせる心づもりなのだから、十返舎一九の名前では残ってないのかもね。

源内作っぽい「役者絵」を出すプロジェクトへ

 蔦重はその後、新作浄瑠璃をかけてもらう芝居小屋を探しに芝居町に行ったらしい。長谷川平蔵の手下・磯八が営む二八そばの屋台で、懐かしの歌舞伎役者・市川門之助(濱尾ノリタカ)とバッタリ。おお、門之助の中の人は「あんぱん」でもご活躍だったね。眉毛が記憶に残る。

 ところで確認したくなったのが「江戸三座」。ウィキペディア先生をここでもチェック、以下一部引用した。

・・・正徳4年(1714年)には山村座が取り潰されて中村座・市村座・森田座の江戸三座となる[2]。その三座も座元(座の所有者)が後継者を欠いたり経営が困難になったりすると、興行権が譲渡されたり別の座元が代わって興行を行うことがしばしばあった。享保末年以降(1735)になると、三座にはそれぞれ事実上従属する控櫓がつき、本櫓が経営難で破綻し休座に追い込まれると年限を切ってその興行権を代行した。(江戸三座 - Wikipedia

 この頃の江戸三座は、風紀粛清、倹約奨励のご時世により大打撃を受けていたらしい。蔦重は、三座が立ち行かなくなっている芝居町で、控櫓が「三座に取って代われるまたとない折だ」として鼻息荒く催す「曽我祭」について門之介から聞かされた。

 曽我祭では「菊之丞や宗十郎、鬼次、鰕蔵」といった人気役者も通りに踊り出て、「総踊り」する。「役者の素の顔をお天道さんの下で拝める」ので「お祭り騒ぎ中のお祭り騒ぎ」になる話だと門之助が蔦重に説明した。

 これを聞いて蔦重が「役者の素の顔・・・」とつぶやき、久々に妄想が頭に広がった。蔦重の妄想が出てくる時は、頭が回転し始めた時だ。

妄想の客たち:何だこりゃ、こんなの初めて見たぞ!こんな店、初めてだ!

妄想の八五郎:(店に入ってきて絵を手に取る)おお~!熊さん、これ!

妄想の熊吉:な、何だい?こりゃ!

妄想の八五郎:今評判の役者の似せ絵でよ、これを片手に役者の顔を拝むってのが通よ!

妄想の熊吉:けど、誰なんだい?こんなふざけたもん描いた奴は?

妄想の八五郎:それがよ、平賀源内じゃねえかって噂なんだよ!

妄想の熊吉:平賀源内?

 蔦重は「これだ・・・」とニヤリとし、「源内先生が描いたと思われるような役者絵を出す」プロジェクトを始動させた。浄瑠璃は止めたってことかな。

 プロジェクトには耕書堂に関わる絵師、戯作者らが勢揃い。そして「何で役者絵で何で源内先生なんだい?」という喜三二の問いに、蔦重はこう言った。

蔦重:(芝居は落ち目、役者絵も春章先生の死でひどいものになってるが)けど、逆手にとりゃ何をやっても目立つわけでしょ?そこに、こんな役者絵をどーんとぶつけんでさ。(大田南畝の家にあった源内作の蘭画を見せる)こりゃ、源内先生が描いた絵にございます。役者絵と蘭画は相性が良いと思うんだ。しかも、今年は芝居町の通りで「曽我祭」をやるってんだ。役者の素の顔、お天道様の下で拝めるっていう寸法で。そこに役者の素の顔を写した役者絵がありゃあ、どうなります?芝居に客が戻り、絵も売れる。しかも、それを描いた絵師が、死んだとされてる平賀源内なんじゃねえかってなりゃあ・・・。

 「江戸中が祭りだ!もう、上から下まで大騒ぎ!」「乗った!」「俺もやってみてえ!蘭画風の役者絵!」等々と絵師たちは大盛り上がり。

 他方、戯作者たちも、乗り気じゃなかった様子の大田南畝までが「画号だな!源内先生じゃないかと思わせる画号がいるな!」と前のめりに言い出し、それを受けて蔦重は「絵師の画号や、騒ぎがどんどん派手になる仕掛けを考えてもらいてえんです」と発破をかけた。

画号は写楽!とうとう写楽!

 このように、蔦重の号令で、プロジェクトチームは思いきりふざけることになった。 しかし、ふざけると言っても、ヘラヘラしている訳じゃなく真剣そのものだ。メンバーは知恵を絞って、真剣にエンタメを追求している。

 源内らしい画号については、さっそく朋誠堂喜三二が「しゃらくさい」はどうか?いかにも源内先生が言いそうだと言い始め、蔦重も「源内先生にピッタリ」だと言い、南畝も賛同。「洒落斎」、次に閃いて「写楽」と蔦重が文字にした。

 「この世の楽を写す、またはありのままを写すことが楽しい・・・写楽!」と一同の意見はまとまったが、それはそれは・・・虫撰を描いた時の歌麿の心持ちそのものなんじゃないか?このドラマで描かれてきた、歌麿のためにあるような言葉だと思った。

ていが心に火を点け、歌麿が復帰

 蔦重はプロジェクトの資金を定信から出させることに成功した。「この仇討ち、奉行所にお届けはお出しに?」の一言は定信の痛いところを突いたよね。出せる訳ないから。眉を吊り上げ奥歯を噛んだ定信が目配せし、ワナワナの水野が蔦重の前に千両箱を置いた。蔦重は一転、明るく「ありがた山にございます!」と受け取った。やるね!

 「写楽」プロジェクトの肝心の絵の方は、絵師チームで試行錯誤が続けられていた。くどい蔦重が、頭の中にある役者絵を追求するあまり絵師らにダメ出しを続け、温厚な重政先生がキレて退場。

北尾重政:やってられっか!こっちはてめえの言った通り、知恵絞ってんだ!これじゃねえ、あれじゃねえならガキでも言えらあ、べらぼうめ!大体、源内風だ似顔だって言うけどよ、おい、てめえの胸の内にゃ、そりゃこんな絵だってもん、浮かんでんのかよ?当たりが出るまで闇雲に描き散らせってなあ、流石に付き合いきれねえぜ!

 ごもっとも!思えば「一目千本」以来、蔦重とは付き合いも長く、優しくサポートしてくれていた重政先生が😢・・・ここで大物の庇護者が離脱したことは大きなショックだ。

 そして、「画風を言葉で指図するのは至難の業」「歌さんは呼んでこれないの?歌さんなら何とかできんじゃないかい?」の言葉を耳にして、おていも黙っていられなくなっただろう。

てい:旦那様の胸の内には、絵は浮かびましたので?

蔦重:ああ・・・「十躰」の折に、歌が描いてきて、良かったんだけどそん時は「違う」ってよした絵があってさ。あんな風に役者描けりゃ、面白えんじゃねえかって。

 おていは、飾り気のない女たちの表情を描いた、歌麿筆の揃い物の女絵5枚を手に、歌麿の下へ赴いた。全部分かってればそうなるよね。歌麿も「たかが浮世絵1枚にどうかしている」と他の本屋に陰口を叩かれても、納得のいく絵を描こうともがいていた。

歌麿:こりゃ、蔦屋の女将さん。

てい:ご無沙汰しております。

歌麿:(描き散らした絵が部屋に一杯広がっている)こんな有様ですけど、いいですか?

てい:押しかけましたのは、こちらでございますので。(絵を避けて進み、歌麿の傍に座る。包みから絵を取り出す。5枚の女絵を並べる)「歌撰恋之部」5図すべて出来上がりましたので、お納めいただきたく。

歌麿:(背を向けたまま)差し上げたもんなので。

てい:これは、蔦屋重三郎からの、恋文にございます。正しくは、恋文への返事にございます。どうか、一目でも見てやってくださいませ。(両手をつき、頭を下げる。歌麿、振り向き、座って女絵に手を伸ばす。生え際の髪の毛一本まで表現した繊細な仕上がり)あの人は、その毛割を何度も何度も何度もやり直させました。歌さんは、こういうところを気にするからと。色味も、深く柔らかいものを好むのだ、着物の柄も、きっとこういうものを考えていたのではないかと、それはしつこく。摺師と大ゲンカしておりました。(次々と手に取る歌麿)

 板元印と名の位置には、終いまで悩んでおりました。歌さんを立たせるべきだが、自分と歌さんの仲に上下を付けたくはない。肩を並べ、共に作りたいと思っていることを伝えたいと。(歌麿、黙って聞いている)歌さんの名が上のものが3図、蔦屋の印が上のものが2図と、落ち着きました。

 歌さん。よそにも素晴らしい本屋はおりましょう。けれど、かように歌さんのことを考え抜く本屋は、二度とは現れぬのではございませんか?歌さん、どうか戻ってやってはいただけませんか?(ていを見ている歌麿)今、あの人は何よりも歌さんを望んでいます!

歌麿:(苦笑)・・・悪いけど、もうこういうの懲り懲りなんで。

てい:私は出家いたします!(え?という表情の歌麿)産んでやれなかった子、義母上様、父、新之助さん、おふくさん、とよ坊、石燕先生、春章先生、春町先生、田沼様、雲助様、土山様、東作さんも。あの人には、関わった方々の菩提を弔う暇もございません。代わりに、寄り添う者が入り用です。

 決して身を引くのではございません。もう男と女というのでもございませんし、私は今後、そのような形であの人と共に生きていきたいと存じます。

歌麿:・・・嘘だね。

てい:・・・(小さく笑う)見抜かれましたか。然様にございますね。私の本音を申せば・・・見たい。(歌麿がていを見る)二人の男の業と情、因果の果てに生みだされる絵というものを、見てみたく存じます。私も本屋の端くれ。サガというものでございましょうか。(ていを見つめる歌麿)

 最後、歌麿が、明らかにアーティストとしての「描きたい欲」に点火された顔をしているよ!ていの言葉の何が嘘だと思ったか、細かいことはどうでもいい。歌麿は、もう蔦重と描きたくなってるんだよ。これまで、他の本屋でイライラが募っていたから余計だね。

 そうだそうだ、前回ブログで蔦重を唐変木呼ばわりしてしまった板元印と絵師名の位置。ちゃんと訳がありましたねー。前回は、意地悪にも蔦屋の印が上のものしか映像では見せてくれてなかった、歌麿も気づいてなかったってことなんだね。

 このシーンではほとんどおていが喋っていて、歌麿のセリフはごくわずか。でも、その視線が彼の感情を物語っている。やっぱり大した役者だね、染谷将太は。

 もちろん、おていの橋本愛もスゴイ。渾身の説得を展開したものの、難物歌麿相手にあえなく撃沈。そこで素のまま本音を打ち明ける。本屋に生まれ育ち、「端くれ」なんて謙遜するけど、生まれながらの本屋はおていなんだよね。その彼女が「見たい」という本音が歌麿の心に刺さったどころか火を点けた訳だけど、ここまでの肝の座った女優さんになるなんて、「あまちゃん」の時には想像もできなかった。

 大河は「西郷どん」「青天を衝け」「いだてん」も出てたか、でもこの「べらぼう」のおていの橋本愛が確実に一番良いね。そして、今作の中でも私的にはベストのおていだった。

 ていが歌麿を連れて、耕書堂に現れた時のワクワク感。BGMもいい感じに盛り上げてくれている。歌麿、戦場に赴くみたいに表情がめっちゃ引き締まってる。待ってました✨✨優しい重政先生が当て馬みたいで悪いけど、どうぞ許して!

 さあ、チーム写楽の本格始動だ。

血脈重視のキモイ治済、キモ過ぎる💦

 蔦重は、芝居町で平蔵の手下の仙太と出くわした時に、平蔵が大崎の行方を追っていると知った。葵小僧の装束一式は芝居町の衣装屋に頼んだものだったと平蔵は蔦重に明かし、その指図をアレコレしていたのは姿を見せない「やたら武家に詳しい女」だったとのことだった。

 そりゃ大崎でしょ・・・!あの葵小僧の事件の時、なぜか治済が葵の御紋の、一部焼け焦げたような提灯を持っていた気がする。怪しかったけど、やっぱり関係していたね。

 騒ぎを起こし、為政者定信の評判を落とすつもりだったのかもしれないが、一党をお縄にした火付盗賊改方の鬼平の株は江戸で大いに上がった。葵小僧一党は、定信の改革で仕事を失った者どもだって後から本多忠壽が言っていた。治済に操られそうな者どもだ。

 蔦重に「それが大崎様ってことですか?」と聞かれ、平蔵は「まだわからぬが、世間を煽り立てて事を大きくするのは、あやつのやり口だ。葵小僧もただ食うに困っただけの小悪党だったものが、傀儡とされたのかもしれぬ。そして、その葵小僧という傀儡により大勢の者が襲われ、命を落とした」と言った。

 「あやつ」は大崎じゃなくて治済だよね。視聴者のこちらはピンと来たけど、蔦重は分かっているのか?

 今回、治済はキモーい信念を将軍家斉や老中との問答で明らかにしていたよね。生田斗真がセリフを優しく噛んで含めるように言うものだから、背筋が余計にゾオッとしたよ。冗談じゃなくて、心底信じている人の言い回し。

治済:上様。将軍の務めとは何か、仰せになってみられよ。

家斉:・・・将軍家の血筋を絶やさぬため健やかな男子を作り、かつ、血脈を日の本に広げていくことにございます。

治済:フッ(笑う)。清水の家が、そろそろ空きそうじゃ。(家斉、ビクッとする)上様には急ぎ、お励み頂きたく。(女たちに目を転じて)そなたらも、上様のお気に入りとならねばのう。(つらそうに目を閉じる家斉)

 ドラマの大奥では、亡くなった(殺された)幻の11代様・家基の祟りで家斉の子が育たないとの噂があるようだった。あの世でもこの世でも、ふたりの11代様は哀れだね。

 リアルで、家斉がずっと家基の供養を欠かさなかったというが、気持ちも分かるよね。次は順番からいったら増上寺なんじゃないの?と思うが、家斉は10代家治と家基が葬られている寛永寺に葬られている。家斉の望みだったのだろうか。

家基に代わって第11代将軍となった家斉は、晩年になっても命日には自ら墓参するか、若年寄を代参させていたが、遠縁である先代将軍の子にここまで敬意を払うのは異例であった。また、家斉は文政元年(1818年)に重病に倒れ、なかなか回復しなかったため、家基の祟りと噂された。後に回復したが、家斉はその噂を聞いて震え上がり、木像を刻ませて智泉院に下付し、文政11年(1828年)の家基50回忌には、新たに若宮八幡宮の社殿を建立させたほどであった[4][5]

なお、家基の生母である蓮光院は家斉の将軍在任中の文政11年(1828年)に、没後30年以上経って従三位を追贈されているが、将軍の正室(御台所)や生母以外の大奥の女性が叙位された例は珍しい。(徳川家基 - Wikipedia

 ドラマでも、家斉が家基の霊を恐れて供養を始めるのだろうか。そして、次は治済 vs. 老中のふたり。

松平信明:大奥に、もっと金を入れよと?

本多忠籌:恐れながら、異国に向けての備えを始めたばかりですし・・・。

治済:(分かってないな、といった顔)そなたらのう、上様のお子こそ日の本を強くする一番の薬ぞ。日の本の諸国を「一橋」の血脈で染め上げてこそ、謀反の恐れもない、心ひとつの真に安寧の世となるではないか。

忠籌:しかし、日の本中とは。然様な事、まことできますものでしょうか?

治済:天は、健やかなる体を持つ一橋の血を選ばれた。知に長けた田安でもなく、情に厚い先代の公方様の血筋でもない。これは、血脈を以て染め上げよという天のご意志。案ずるな。(信明と忠籌が目配せ)

 わー、キモ過ぎる・・・でも、そう思うのは現代だから?と思ったら、ドラマの老中ふたりも気味悪がっていた。当時のリアルではどうだったんだろう?それ、その通り!という受け止めもあったのでは?と思うと、やっぱり江戸時代には生まれたくない。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#44 源内ミステリー➡戦隊モノか必殺仕事人か!ワクワクの治済成敗物語(➡八犬伝?)の始まり始まり(・∀・)闇落ち歌麿にはただ涙😢

終盤の展開に息を呑む

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第44回、驚きの「空飛ぶ源内」が11/16に放送された。演じている役者さんたちもビックリだったそうだ。

 最終回に向けて、壮大なギアチェンジですな・・・まずは公式サイトから今回のあらすじを引用する。

≪あらすじ≫
第44回「空飛ぶ源内」

 蔦重(横浜流星)の前に、耕書堂で本を書かせてほしいと、駿府生まれの貞一(井上芳雄)と名乗る男が現れる。貞一は源内(安田 顕)が作ったという相良凧(さがらだこ)を持っていて、蔦重は源内が生きているのではと考え始める。その後、玄白(山中 聡)や南畝(桐谷健太)、重政(橋本 淳)らと会い、源内の謎を追い続ける…。一方、歌麿(染谷将太)は吉原で、本屋に対して派手に遊んだ順に仕事を受けると豪語し座敷で紙花をばらまいていた…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第44回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 ふむ、あらすじではネタバレになるからギアチェンジには触れていないね。ここまで主人公の蔦重の物語と、幕府側の松平定信の物語は、鬼平の長谷川平蔵がかろうじてつなぎ役になっている程度で、接点は、蔦重が罪に問われた時に無理くり出てきた感のあった、お白洲への筆頭老中定信のご登場ぐらい。

 ほんと、無理くりだよねー田中美央の奉行が可哀そう、と思っていたが、それが、ここでまさか物語の2つの流れが収斂されていくために必要だったなんてねえ、考えもしなかった。再会で、あんた誰?にならないために。

 主にドラマの時代背景を説明するために、定信がいるのかと思っていた。特に蔦重のようにあまり知られていない主人公の場合、メジャーな歴史を辿ってくれるビッグネームが居ると助かるんだよね、大体の立ち位置が分かるから。定信は、その役割を担うにピッタリだったから油断してたな。

 今回のラストで蔦重の前に現れた定信は、まるで戦隊ヒーローのレッドの立ち位置。あんなにフィクション全振りの戦隊レッド定信でいいんですか・・・いいんです!もう、やっちゃってください。

てい:旦那様、これを。戸口のところに置かれておりました。ともかく、お目通しを。

蔦重:ああ。(木箱から原稿を取り出し、目を通し始める)「一人遣傀儡石橋(ひとりづかいくぐつのしゃっきょう)」・・・七ツ星の龍?

回想の平賀源内:「その名も七ツ星の龍。しかし悪党も大したもの、なんとその龍こそを人殺しに仕立て上げる。危うしの七ツ星。そこに現れたるは古き友なる源内軒」

九郎助稲荷の解説:死を呼ぶ手袋のカラクリに気づいた七ツ星の龍と源内軒は、悪党の正体を突き止める。それは、傀儡好きの大名であった。しかし、ふたりはその成敗にしくじり七ツ星の龍は命を落とす。・・・そこに描かれていたのは、源内軒が仇討ちに立ち上がるその後の物語でありました。

蔦重:・・・本人だよ。これ書けるのは、源内先生しかいねえよ。

てい:え?(添えられていた書付けを差し出す。「八日申の刻安徳寺にお越しあるべく候」と見える)

蔦重:「安徳寺にお越しあるべく候」・・・安徳寺。

 そこで安徳寺に赴いた蔦重!鐘の鳴る中、奥へと案内される。絶対待ち人は源内だと思って心が躍っているよね。

蔦重:(襖が開かれ)・・・何で・・・(正面に松平定信が座っている)

定信:久しいな、蔦屋重三郎。

蔦重:(目を転じて)長谷川様。三浦様も。これは・・・。

三浦庄司:まあ座れ、蔦重。(立ち尽くす蔦重)

定信:何故かようなことになっておるのか、知りたくはないのか?(蔦重、右手に持った原稿に目をやる)

三浦:蔦重!(蔦重、部屋に入り座る。後ろで襖が閉まる)

高岳:(箱を持って蔦重のそばに来る)田沼様の頃、大奥に勤めておった高岳と申す。(箱から手袋を出し、蔦重に差し出す)

蔦重:(受け取り)これは?

定信:かつて源内がそなたと作っておった戯作のネタとした手袋じゃ。事の起こりは、それが私の下に届いたことだ。

回想の定信:これは?

回想の高岳:家基様が命を落とされた鷹狩りの際、身に着けておられた手袋。私が田沼に頼み、種姫様より差し上げた物にございます。(定信が手袋を吟味する)毒が仕込まれており、親指を噛む癖のあった家基様は・・・(噛む仕草をする)。

回想の定信:・・・田沼が仕込んだということか?

回想の高岳:いえ。私の手元に参りました折には、かような異変はございませなんだ。毒が仕込まれたのは、家基様に献上されるまでの間。そして、それを私の手元に持って参りました大崎は、元は上様の乳母。その当時、西の丸に勤めておりました。

回想の定信:・・・大崎が?

回想の高岳:大崎にそれを命じましたのは、越中守様を追い落としたのと同じお方かと。

高岳:この話を誰かにしようとも、怪しいのは私か田沼様とならざるを得ぬ。故に私は、今日まで黙り込むより他なかった。恐らくは、田沼様も。(蔦重、渡された手袋を見ている。高岳、座に戻る)

定信:しかし、大崎がやったという確かな証はない。証を得るために私は、長谷川に大崎を探すことを頼んだ。

長谷川平蔵:それを見て驚いてなあ。それは、私がかつて田沼様に探せと命じられた手袋なのだ。その折、それは右近将監様なる御方のお手元にあった。しかし、その御方がこれまたなぜか亡くなられ、その後、手袋は行方知れずとなった。・・・田沼様に、今こそ仇を討ってくれと頼まれておるように感じてな。

定信:その辺りのことを詳しく聞くべく・・・。

回想の三浦:(障子を締め切り、手袋を受け取って)死を呼ぶ手袋!

回想の定信:死を呼ぶ手袋?

回想の三浦:かつて平賀源内が、その一連の真相を推測し描いた戯作があったのでございます。亡き殿をうがった七ツ星の龍を救うため、友人の源内軒が、死を呼ぶ手袋の謎を追うという・・・。

回想の定信:・・・源内は、それ故に捕らえられたのか?(涙ぐみ、うなずく三浦)

三浦:私は、当時起こったことを申し上げた。その後、亡き殿、若殿、先の公方様の身の上に起こったことも。

定信:否。引いた眼で見れば、我らも皆、その者の傀儡とされ、弄ばれておったとも言える。故に此度、宿怨を越え、共に仇を討つべく手を組むに至った。どうだ、蔦屋重三郎。我らと共に、仇を討たぬか?そなたとて、心ひとつであろう。

 ああ・・・ここに持ってくるための、これまでの積み重ねだったのか。死の手袋の謎は残されていたし、大崎もそうだよね。治済がなぜシリアルキラーみたいなことをしてきたのかの動機も、まだドラマでちゃんと語られていないし。

 治済に対するフラストレーションが視聴者には溜まりに溜まっている。当然、史実ではそうじゃないかもだけど、このドラマでは、生田斗真が良い感じに憎らしくて、完全なる悪役。治済の手にかかって次々と人が死に、なんと幕府までが乗っ取られている。そういうことになっている。これだけ広がった大風呂敷をどうまとめるのかと思っていたよ。

 そのフラストレーションを晴らせる大逆転劇の物語が、ここから用意されていると信じるよ。わー、どんな手を使うんだろ🎵予告での、皆さん勢ぞろいでの写楽もそれと関係あるの?悲しき歌麿は一枚噛んでこないのかな・・・。

 蔦重、やるっきゃないでしょ!と思ったものの、史実で早死にする蔦重には、もうあまり寿命が無い。待って、もしかして・・・脚気で死ぬんじゃないのかも?蔦重、もしかして治済に返り討ちにされるのか?!ひえー😱

エネルギーをくれたのは、死んだはずの源内探し

 今回のドラマ冒頭に戻る。前回、おていは切迫早産に見舞われたらしい場面を迎えていて、榊原郁恵の産婆の手をもってしても、とても身籠った子は助からないらしかった。ブログの前々回に載せた蔦屋家の墓碑によれば、ていさんは助かるのは確かで、その頃に死んだ家族もいない(水子は別に葬られるのかもしれないけどね)。

 ドラマでもおていは生き残り、蔦重と夫婦ともども子を失った悲しみに打ちひしがれ切っていたところから今回はスタートした。ていの体調は戻りつつあるはずだが物が食べられず、気力を失ってしまっている蔦重夫妻。

 しかし、後の十返舎一九の重田貞一が、源内が考案したという相良凧(なんでも、公式ナビによると特徴はガラスの粉を練り込んだビードロ糸。これで相手の凧糸を切り落とす!のだとか)を背負って賑々しく蔦屋に売り込みに来訪し、「(死んだはずの源内は)どうやら生きてるって話でして」と話した時、蔦重の閉じ気味の瞳がやや開き、キラリと光が宿った。

蔦重:源内先生ってなあ、獄につながれて死んだことになってっけど、実は密かに逃げ延びて、田沼様の治めてた相良に潜んでたんだよ。で、そのお礼に考えたのが、この相良凧って話で。おていさん、見ただろ?石燕先生の絵。雷獣の髷が源内先生のようで。もしかしたら、妖の姿、借りて・・・。

てい:源内先生が、実は生きていると伝えていた?

蔦重:(嬉しそうに頷いて)いや、ねえか。んなことは。(かぶりを振るおてい)

 「袖の下」として相良凧を貞一から受け取り、源内が実は生き延びたのかもしれないと、おていに話す蔦重。そして、その可能性を探って話を聞きに歩く。

 戸口で、久しぶりに見上げた青空だったのかもね。蔦重の鬢が日の光を浴びてつややかに光り輝いていた。その行動が、子を失った絶望を徐々に薄れさせるようだった。それは、家で蔦重が持って帰る話を聞くおていさんもそう。

蔦重:良かった、(おていが)食えるようんなって。源内先生ってなあ大したもんだ。おていさんをこんな元気にしちまうんだから。

てい:旦那様も。

蔦重:だな。

 秋田から、まあさん(朋誠堂喜三二)が「暇なのよ~」と手紙の返信を自分で持ってきたくだりはホッコリしたな。

 でも、まあさんは隠居もして、藩で蚊帳の外だったのだろうか?藩の中枢にいたら、「解体新書」の画家・小田野直武の、源内獄死の翌年の秋田での不審死について、もっと突っ込んだ真実を知っていても良さそうだ。まあさんもまあさんで、定信に睨まれて国元に戻されるというヤバい立場ではあったから、仕方ないか。

 それで、蔦重が「源内先生は、でっけえ紙風船にぶら下がって蝦夷に行ったって言うんですよ」と、田沼意次の懐刀だった三浦庄司を訪ねたのだが、あれ?と違和感を持った。

 意次が失脚した際に、三浦も罪に問われたりしてたよね?でも、以前に意次が住んでいた住居をそのまま乗っ取って住んでるの?と思うぐらい、今回、江戸で悠々自適の良い暮らしを続けているみたいに見えた。

 ウィキペディア先生を確認したところ、こう書いてあった。

・・・諸大名の責任追及の矛先は意次第一の側近だった庄司にも向けられ、相良藩はこれに押される形で庄司を押込に処し、続いて罪人として相良へ送還のうえ入牢することになった[9][2]。田沼家の減封後は蟄居ないし追放になったというが、莫大な蓄財があったため、浪人しても不自由なく暮らしたという話も残る。(三浦庄司 - Wikipedia

 どんだけ貯め込んでいたんだ、三浦!蔦重と面会していた時、そこに訪ねてきたのが、きっと高岳に死の手袋を見せられた後の定信だったのだろうね。演じるのは原田泰造だもの、あれだけで終わるはずないと思っていたよ~ニヤニヤする。(・∀・)

定信著、究極の内情暴露本が出される?

 定信は、かつて敵陣にいたと信じていた高岳、三浦に話を聞いて、どんな心持ちになっただろう。一橋治済に踊らされていた自身を省みて、田沼派や、「田沼病」に冒されていると煽られて文化を担っていた人たちを、お門違いにも糾弾し続けて破滅させてしまったことは痛恨の極みと悔いるばかり・・・だろうか?

 推しの恋川春町だって殺しちゃったんだよね。悔いていなかったら、源内の「七つ星の龍」の物語を引き継いで書いたりはできない気もする。

 ここで、物語を書けちゃうんだから、定信が昔っから黄表紙好きだったという設定が生きてくる。幕府の内情を誰よりも知る立場だったのだから、やたら面白い究極の暴露本になってるだろうなー(・∀・)ニヤニヤ。将軍家斉と治済の肝胆寒からしめる、内情にとっても詳しい話になってるに違いないよね?

 そうそう、クランクアップすると続きの台本は渡されないと聞くから、こんなに面白くなってしまって意次役の渡辺謙もかぶりつきでテレビを見てるんじゃないだろうか。

 ところで今回、後の曲亭馬琴先生のうるさい滝沢瑣吉は下駄屋を営む会田家に入婿。ここまでドラマで彼の存在がフィーチャーされて描かれているということは、彼の「南総里見八犬伝」は今後の戦隊チームの活躍に触発されて生み出されたって方向に、話が転がっていくのだろうか?

 蔦重の生きる時代には、当然のごとく間に合わない。瑣吉が往時を懐かしく思い出しながらの執筆もあるのではないか。江戸の人たちも、実は江戸城での昔話をなんとなく想定しながら八犬伝を読んでいたとしたら、面白い。

 恥ずかしながら八犬伝は、小さい頃に「🎵仁・義・礼智~忠信・孝悌~いざとなったら玉を出せ🎵」をNHKで見て、当時子供向けの本を読んだレベルで終わっている。だから、内容が多少合致しているかとかそこらへんは何とも言えない。

江戸のお菓子を食べたい

 ミステリー「源内生存説を追え!」の過程でもそうだったけど、今回、美味しそうな江戸前のお菓子が続々とドラマに出てきて、目を奪われた。

 ちょっと待って!と本棚に飛んで行って岸朝子の名著「東京五つ星の手みやげ」を引っ張り出し、掲載されている名品があるんじゃないかと録画を止めて目を凝らしたのだけど・・・老舗のお菓子もカバーしている本だが、目当てのものは創業が明治~昭和だったり、江戸時代でも蔦重よりもちょい後の時代だったりで、惜しい。

 元禄年間に新宿に移転した「追分団子」はアリなんだな、船橋屋の葛餅もアリ。「言問団子」も江戸末期だからアリかもしれない。「うさぎや」のどら焼きは大正か・・・アウト。「志〃満ん草餅」も明治創業でアウトか・・・でも、アウトでも、似たような餅は当時、きっと作られていただろう。あんこ巻きとかもすぐ作れそうだし?

 謎だったのが秋田の「もろこし」と呼ばれる、まあさん持参のお菓子。検索してみたら、炒った小豆の粉を使った打菓子・・・やっぱり落雁みたいな物かな?

item.rakuten.co.jp

 今もちゃんと売られている。食べてみたい。秋田のアンテナショップに行けば手に入るようだ。最近は糖分もほどほどにしなければとは思うけれど、やっぱりお菓子は良いよね。大田南畝も、あんこ餅を食べてピンと来て蘭画を源内から預かったことを思い出した。私も、物を書く時にチョコレートがあるとだいぶ頭が回転するので食べ過ぎる。

 ドラマがそっちのけになりそうだったが、私が好きな「かのこ」や言問団子風の団子を含む、江戸前お菓子セレクション(「ふじ撰江戸名物菓子之部」だそうで)を駿河屋ふじ&とくが持ってきた時の、流産したばかりのおていへの優しさが沁みた。

 生きている自分たちが食べる分だけじゃなく、亡き人たち(おつよさんと赤ちゃん)にも小さいお菓子セットが準備されていたね。赤ちゃんの分もないと、ママは「自分だけ食べるのは嫌だ」と気が引けちゃうものね。優しさを感じて、ていも涙ぐんでいた。

 また、飯島直子演じるおふじは、おていに「食べなさい」とは押し付けず、自分たちでもぐもぐ美味しそうに食べ始め、自然に「私も」とおていが言ってから「ん」と手渡した。久しぶりの癒しの「ん」だったね。おていは、涙と共に菓子を食べていた。

 おふじは、おていに「義母上様」と呼ばれる立場ではあるけれど、蔦重の生母おつよが生きていた時はご無沙汰だった。私が私がじゃなく、おつよの邪魔をしない、弁えた人物。こういうところが、駿河屋おふじは完璧なんだと思ったね。 

蔦屋跡取り問題、みの吉リード?歌麿の恋心は紙くずと化し・・・

 蔦重夫婦が子を失ったってことは、歌麿の「店の後継ぎにしてくれよ」発言が、もしかして実現するのか?歌麿は、人別上は二代目として名が残る「勇助」と同じ名前だしね。おていは歌麿の苦しい恋心に気づいているから、蔦重の跡取りになりたいという歌麿の希望を受け入れる可能性はある。

 でも、みの吉の評判がうなぎのぼりなんだよな~。やっぱり丸屋の昔から奉公している、みの吉に軍配が上がるのだろうか?

駿河屋市右衛門:何があったんだよ、歌と。

りつ:言ってくれりゃ、私らが仲立ちするよ。

鶴屋喜右衛門:蔦屋さんがその気なら、私も手伝いますよ。

蔦重:吉原のため地本のために、良いようになさってください。(頭を下げる)

鶴屋:今、歌麿さんを手放すのはここを畳むことになりますかと!

駿河屋:おめえよお、日本橋ん出て、吉原の誉れになんじゃなかったのかよ!んじゃ悪いけど、よそと組ませてもらうぜ。

りつ:吉原もゆとりがないんでね。

鶴屋:うちも遠慮なく、歌麿さんと組ませていただきます。ああ、みの吉さん、身の振り方に困ったらいつでも言ってくださいね。

駿河屋:お前さんなら、俺でも良いぜ。

りつ:うちでもいいよ。

(3人が去る。頭を下げる蔦重とみの吉、心配そうにみの吉が背後から蔦重を見る)

 今はゆとりがないと言いながら、みの吉の身の振り方は任せろと3人の手が挙がっているんだもの、大したものだ。

 「亡き子、亡きオババからご加護を得るのだ、写経だ写経~」と瑣吉が店先でうるさく息巻いている時も、みの吉は「間違っちゃいないんだけどな~」と涼やかに瑣吉を眺めている。

 耕書堂に売り込みに来た後の十返舎一九も、最初は警戒するが追い返さず蔦重につないだ。彼から平賀源内生存説が出た時には、主人である蔦重の反応を注意深くじっと見ていた。

 手代同士のはずの瑣吉とは、以前のように揉めることもなく瑣吉先生と呼ぶ。瑣吉の書いた物を読みこみ、彼の行く末を考えて縁組がうまくいくよう計らう。店についても、今後の出版プランを提出したりもする。主人の蔦重と女将ていがまだ本調子を取り戻していない時期に、しっかりしている。

 みの吉の振る舞いは、確かに有能らしい風を吹かせている。みの吉、跡取りレースは歌麿よりもかなりリードか。ずっと店にいるのだし、既におていの心の支えだし。そういえば、身籠ったことを蔦重よりも先に知らされ蔦重をガックリさせていたもんね。

 今回、かなり不思議だったのは、蔦重が歌麿の希望を無視して蔦屋の印を上にして例の恋心シリーズの絵「歌撰恋之部」(お菓子のふじセレクションと同じ形式の名前?)を出す点だ。なぜだ?いくら目を見張るような見事な彫と摺で素晴らしい仕上がりにしたとしても、「これからは、お前の名を必ず上にする!」って約束したのに。

 おていと話す時に「勝手に出すと嫌がりゃしませんかね?」と考えはしたのに、蔦重はボンクラすぎる。「やはり歌麿の絵は蔦重あってこそ!そう歌さんに思っていただきましょう。そうすれば、お戻りになるのでは」と、歌麿に戻ってきてもらうための策としておていが考え、鶴屋も協力したのに、これじゃ台無しだ。

 歌麿は、自分の恋心なんてボンクラ蔦重の前では紙くず同然だと絶望して、絵を千切りたくもなるよね。見てる方の心が痛い・・・こうなったら歌麿を救えるのは誰?おていさん?「蔦屋重三郎からの恋文でございます」と予告で告げていたものの「嘘だね」と歌麿が切り返していた。でも・・・何とか助けてあげてよー。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#43 絶望の二人!歌麿の恋心をどこまでも汲み取れず、手切れを告げられた蔦重。家斉親子の罠にはまり梯子を外された定信には俊寛の面がお似合い

最近の家族の憂い

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第43回「裏切りの恋歌」が11/9に放送され、とうとう蔦重は歌麿に「俺、蔦重とはもう組まない」と引導を渡されてしまい、定信は罠に嵌められ絶望を味わった。公式サイトからあらすじを引用する。

≪あらすじ≫
第43回「裏切りの恋歌」

 蔦重(横浜流星)は、吉原への借金返済の代わりとして、歌麿(染谷将太)が描く五十枚の女郎絵の準備を進めていた。蔦重との関係に悩む歌麿の気持ちも知らず、半ば強引に仕事を進める蔦重だったが、ある日、歌麿が西村屋の万次郎(中村莟玉)と組む話をきき動揺する。一方、江戸城では、定信(井上祐貴)がオロシャ対策に全力を注いでいた。この一件をさばき将軍・家斉(城 桧吏)に手柄を認めてもらい“大老”の座を狙うが…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第43回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 このドラマは家族と一緒に見ているのだが、最終回まで残りあと5回ぐらいだというのに「このところ見ていられない」と家族が言う。蔦重の、亡き母つよも認める朴念仁っぷり、人情の機微に疎くて歌麿の心を散々傷つけているところが「俺もこうなんだよな、俺のことみたい」だと気弱になって言う。

 そうかな、単純なのはそれはそれで周りは安心な部分もあるよ、だから良いんじゃないかと思うけれど、溜息は「はーーーっ」と漏れ、いたたまれないと。ドラマを楽しめないようじゃ、もったいない。

 確かに歌麿は、蔦重に恋する気持ちを断ち切ろうと気の毒なほど。それに全然気づかない蔦重を見ていると「単純なのはそれはそれで良い」とはやっぱり言えない。「歌麿よ、こんな分からず屋の唐変木のどこがそんなに好きな訳?」と聞きたくなるね。

 当たり前だがウチの家族の見てくれは横浜流星には遠く及ばないのだが、同じような単純さでも不思議なものだ、蔦重の方にイライラする。染谷将太の歌麿が気の毒過ぎると感情移入しているからだと思うが、カッコ良い横浜流星が、蔦重みたいなカッコ悪い男をうまく演じているということでもあるね。

恋心を描き、その絵を蔦重にプレゼント・・・でも

 そういえば、不思議なシーンがあった。歌麿の前で突然、吉原の遣手が秘めた心を口にしだすのだ。

遣手:うちの人も昔はあんな風でさ、いい男だったのに・・・。

 それを、歌麿はじっと見ていた。いやいや、遣手の女が、急に口を開いてペラペラと本心を白状ってのはおかしいし、するはずがない。これは夢?と思ったが、そうじゃなくて・・・歌麿が「三つ目」だから、このように彼女の内心が汲み取れていたのだろうか?それとも、彼女を見て、まるっと歌麿が想像したのか。

 コウメ太夫がその主人を演じる水茶屋の難波屋では、会いに行けるアイドルである看板娘・おきたの淹れるお茶の値段を、仕方なく通常価格に戻した。彼女を目指した客で店は相変わらずの大盛況だが、儲けは当然減っただろう。そんな会話を難波屋主人と蔦重が交わしている間に、歌麿はおきたの妹分と思われる娘を見ていた。

店の娘:茶柱立ってないし、来ないかな。来ないかしら・・・(足音。表を通りかかる若侍。おきたの「ありがとうございました」の声を聞いて、微笑んで通り過ぎる。娘もニッコリ)

歌麿:(笑って、独り言)あれが目当てか。

蔦重:みてえだな。

 このように、素直に彼女たちの心中を察することのできる歌麿に対して、この時、鈍感な蔦重は、さらに余計な勘違いをしていたものだから、ああがっかり。

 歌麿は、アーティストの目が美を捉えるというのも当然そうなのだけど、自分の恋心を重ねるように彼女たちの恋心の発露を言動から感じ取り、どこか同志を応援するような気分で見ていた節もあったと思う。

 なのに、蔦重は、歌麿が単に女漁りをし始めたと理解したみたいだ。まあ、男性が女性を目で追う場合、普通はそんなものなのかもしれないが、これまでの20年間の積み重ねがあっても、どうにも考えが浅い蔦重。どうして気づかないんだよー、唐変木!

 でも、「旦那様、そもそも歌さんの見方を間違っておいでです」と、おていさんが言う訳にもいかないからな・・・誰が言う?瑣吉なら言えそうだよね。でも、彼も気づかなさそう。

てい:歌さんが、新しいおきよさんを探しておられるのですか?

蔦重:ああ・・・あちこち女によそ見ばかりしててよ。ありゃ、いい女いねえか探してんだよ。(ていは、そうじゃないのになーといったような、戸惑った表情。お腹が膨らみ始めている)・・・どうだい?具合は。

てい:ああ・・・頭痛も無くなりましたし、子はすくすく育っておると。(お腹を撫で微笑む)

 それで、歌麿は自分の恋心を託した「恋心」シリーズの絵を蔦重に渡したのだけれど、タイミングが悪かった。蔦重は、歌麿が西村屋と仕事をするのかという不安いっぱいで駆けつけてきたものだから、その雑音に支配されて、歌麿の愛の告白でもあるその揃い絵の意味を、しっかり理解できなかった様子だ。鈍感な上に、タイミングが可哀そうではある。

歌麿:(庵で女の大首絵を仕上げて)これで終わるか・・・。

蔦重:歌!邪魔するぞ!(入ってくる)いきなりすまねえな。ちょっといいか?

歌麿:いいよ。何かあったのか?

蔦重:西村屋と仕事するって、ほんとか?(無表情の歌麿)んなわけねえよな?・・・(5枚揃いの女絵を見て)おまえ、これ?

歌麿:いや、これは・・・(心を決めたように、まとめて差し出す)これは、蔦重にだよ。(ほほえむ)

蔦重:ああ・・・そうか。そうだよな。はあ・・・どれ。(座って絵を見始める)うん?これ、あん時の遣手か?

歌麿:うん。(次の一枚)その娘も、水茶屋で見かけたろ?

蔦重:ああ・・・一体、何描いてんだ?これ。

歌麿:「恋心」だよ。(そっと顔を逸らす)

蔦重:うん・・・いや、すげえ良い絵だけど、こりゃ売り方が難しいな。

歌麿:別に売らなくてもいいよ。売ってほしいと思って描いたもんじゃねえし。

蔦重:じゃあ、何で描いたんだ?

歌麿:俺が、恋をしてたからさ。

蔦重:(目を剥いて)お前、おきよさんみたいな人、見つけたのか!(蔦重の方を見る歌麿)いや、ここんとこのお前見て、いい人探してんじゃねえかって思ってたんだよ!誰だよ!(歌麿をポンと叩いて)こん中にいんのか?(どんどん表情が虚ろになり、舌打ちする歌麿)んだよ?言えねえような相手か?

歌麿:いや。(立ち上がって蔦重から離れる)

蔦重:誰だ?(絵を見ている)

歌麿:俺に女が出来んのがそんなに嬉しいのかって・・・。(庭向きに縁側に座る)

蔦重:当たりめえだろ!おきよさんと一緒になった時のお前、そりゃ楽しそうでよ。(歌麿と並んで座る)できれば、またそうなってくれねえかって思ってたんだよ。で、誰なんだよ?

歌麿:・・・言えねえな。俺が好きなだけで、向こうにゃ脈は無さそうだし。

蔦重:じゃあ、俺が橋渡ししてやるよ。(歌麿の背中に左から手を回して右肩を叩き、手を右肩に乗せたまま、相変わらず馴れ馴れしい)

歌麿:(無表情で庭を見ている)いいよ。

蔦重:遠慮すんな。

歌麿:いいって・・・。

蔦重:んじゃ、うまくいったら教えてくれよ。(ポンと肩を叩いて手を離す)

歌麿:俺、蔦重には言わねえよ。

蔦重:・・・は?(怪訝な顔)

歌麿:俺、蔦重とはもう組まない。(立ち上がり、棚から絵を取って蔦重に突き出す。蔦屋の印の下に、歌麿の名)このような扱いは酷くねえか?常なら絵師の名が上だろ?

蔦重:お前、そりゃ物によりけりだよ。「看板娘」は、お前の絵より「仕掛け」を売り出してえとこがあったし、お前の絵を押し出す「十躰」は逆になってんだろ?

歌麿:けど、それでいいかって俺に聞かなかったよな?

蔦重:じゃあわかった。これからは、お前の名を必ず上にする!

歌麿:西村屋の息子が面白えんだよ。あんなことやりてえこんなことやりてえって山のように言ってきてさ。その一つ一つが「そうきたか」ってな具合でさ。面白え本屋はなんも蔦重だけじゃねえって。

蔦重:いや・・・んなこと言ったって、お前、吉原どうすんだよ?皆、お前が立て直してくれるって頼りにしてんだ。お前だって、恩を受けてんだろ?

歌麿:そこは、俺なりの恩の返し方をしてくよ。女郎絵をよその本屋と請け負うっていう手もあるだろうし。

蔦重:んなこと言うなよ・・・頼む!(頭を下げる)何でもするから、考え直してくれ!

歌麿:じゃあ、俺をあの店の跡取りにしてくれよ。あの店、俺にくれよ。

蔦重:そりゃできねえよ。おていさんもいるし、ガキも生まれるし。大体なんでそんな事!

歌麿:何でもって言ったくせに。蔦重はいつもそうなんだ。お前のため、お前のためって言いながら、俺の欲しい物なんて何一つくんねえんだ。

蔦重:それ、どういうことだ?

歌麿:おていさんと子、とびきり大事にしてやれよ。(奥に去る)

蔦重:歌麿!

 店のあと取りになりたいって、蔦重と改めて家族になりたいってことだよね・・・しかしね、こんなに身近な人の感情に鈍感で、蔦重はよく売れっ子の本屋をやってこられたと思うけどね?バリバリ機敏に働く一方で、家庭に向けるアンテナが壊れていて配偶者の感情に無頓着な人は五万といるから、珍しくもないか。

 蔦重は、歌麿への懺悔の手紙を残して帰宅。

蔦重の手紙:「知らねえうちに嫌な思いをたくさんさせちまってたんだな。大事にしてたつもりが、いつの間にか籠の鳥にしちまってた。悪かった。あの日から20年、俺についてきてくれてありがとな。とびきりの夢を見させてもらった。ありがとう。体は大事にしろよ。お前は江戸っ子の自慢、当代一の絵師なんだから」

 歌麿を毒づいたりしない蔦重。この手紙を貰った歌麿が、また蔦重を助けるために手を貸す・・・というのは有り得ない話ではなさそう。嫌いになりたいけど、本音は好きなのだもんね。やっぱり写楽はアリかな。

 蔦重の、丸めた背中に雨が降る。どんよりと帰り、家人に「歌麿は、もうウチとはやらねえってよ」と歌麿との決裂(=耕書堂には大きな痛手)を伝えたら、身重のおていも帳場から飛んできた。

 蔦重が手にした歌麿最後の「恋」シリーズの絵について、「恋心を描いたって言ってたなあ」と蔦重に聞き、おていは顔を固くしている。自分が感じていた危機感を言えば良かったのか・・・でもどうすればと、キュッと息が一瞬詰まる思いだったかもしれないね。

 前回ブログで、これは大したことないでしょ、と思って以前の蔦屋の墓参りの話を書いた。その時に、ご一家の没年月日が記されている墓碑の写真を載せてしまったのだけれど、まさか、おていさんがあのような切迫早産的な展開になって、母子の安否が次回にまで引っ張られる運びになるなんて思いもしなかった。

 これは、前回ブログがしっかりネタバレになってしまう雲行きか?・・・ごめんなさいね💦

 史実通りならとりあえず良かった良かったになるっぽい。郁恵ちゃんの産婆さんもご活躍だろうし。だけどドラマだから、鬼脚本家だから、そこはとんでもない苦い涙のフィクションがかまされてくるかもしれない。油断できない。

定信に罠!嵌めたのは将軍親子

 今回のサブタイトルが「裏切りの恋歌」ということで、見事に裏切られたもう一人が松平定信だった。自分や、自分がやっていることに自信があるから、まさか梯子を外されるなんて予想もしなかったのだろう。

 しかも、主犯は将軍親子だなんてねえ。将軍という地位にリスペクトばりばりの定信だから、将軍がそのようなことに自ら手を下す事への驚愕もあっただろうな。

 まず、将軍家斉が、口うるさい定信の口を塞ぎつつ、美味しそうな罠を仕掛ける。この話運びのうまさ、父親の治済譲りだよね~。

将軍家斉:(「海辺御備取調書」という厚さ10センチ近い分厚い書物を手にしている)

松平定信:先頃の検分を基とし、江戸周辺の海辺の守りを考えましてございます。かいつまんで申し上げますと・・・。

家斉:(素早くカットイン)父上が、そろそろそなたに頼るのは止め、己で政を指図すべきだと言うのだ。

定信:は・・・?

家斉:しかし、余は難しきことは分からぬし、正直な所、政に興も湧かぬ。そなたが「将軍補佐」を外れても、ず~っと「将軍補佐」のごとく指図を出す仕組みは無いものかの?

 定信は、その足で尾張様の邸に直行したらしい。紀州様はご病気が匂わせてあったが、そういえば水戸様は最近どうしてるんだろうね。中の人が他のお仕事で忙しいのかな。ということで、ここのところ定信の相談相手は尾張様が多い。

尾張徳川宗睦(むねちか):「将軍補佐」を辞し、「大老」になるというのか?

定信:はい。大老ならば、将軍補佐のごとく睨みを利かせられますし。

宗睦:大老は、井伊、酒井、土井、堀田の四家からしか出さぬというしきたりがあるぞ。

定信:かつて、柳沢吉保が大老「格」に任じられました例もございます。然様な向きで、なんとか後押し頂けぬでしょうか?上様も、暗にそれをお望みのご様子ですし。

宗睦:しかし、妙ではないか。上様は、そなたを煙たがっておった。それを、ここのところ急に。

定信:そこはオロシャにございますかと。オロシャが攻めてくるかもしれぬ、その脅威を前に、私が入り用だとお考えくださったのかと。

 定信~💦良い方に良い方に物事を考えるのは、良い事だ・け・ど。こういうところが坊ちゃん育ちなんだな。「妙だ」と気づいた人からせっかくアドバイスをもらっても、それを無駄にしてちゃ・・・とここまで書いて、いやいや、定信は最初からアドバイスなんて求めてなさそうだよ。ただ、僕ちゃんが決めたから後押ししてね♡とだけ、宗睦に言いに、根回しに行ったつもりだったんだな。

 そこが蔦重とよく似ている。おていが「何か変じゃありませんでした?歌さん」と疑問を呈しても、軽く考えて却下しちゃうからね。その積み重ねが前述の事態を招く。

 定信は、徳川家康の東照大権現にも「東照大権現様。どうかこの美しき国を夷狄よりお守りくださいませ。否、私に守らせてくださいませ。叶えて頂けぬのならば・・・代わりに死を賜りたく」と祈っているけど、お願い事をしているのに、さらに「叶えて頂けぬなら」とゴリ押し、半ば脅すところにDV気質がニオイ立つ。

 解説が公式サイトに載っていた。

【べらぼうナビ🔍定信が手を合わせている方角】

定信が手を合わせているのは日光東照宮の方角です。定信は「たとえ自身や妻子が犠牲になろうとも天下の災いを鎮めてほしいと、1日に7、8回、多いときには10回も東照宮に念じていた」と自叙伝『宇下人言』に書き残しています。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第43回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 それでいいのだな?己や妻子が犠牲だぞ?と家康が聞いても、定信はハイ!と元気に答えそうだ。だからなのか・・・定信が直面した現実も厳しかった。お気の毒に。

 家斉の定信への工作は続く。パパ治済に言われた通りにやってるんだろうな。

家斉:では、オロシャは去りおったか。

定信:はい。我が国はオランダと清の他は国を開いておらぬ。故に、オロシャの望みを叶えることはできぬ。しかし、長崎というところがあり、そこは唯一、異国の船が出入りし通商が行われる港である・・・と、もったいをつけ信牌を渡したところ、王にそれを見せるためオロシャに舞い戻ったそうにございます。

家斉:そうか。実に見事な裁きであるな。

定信:お褒めに預かり、恐悦至極に存じます。(立ち上がり、三方に載せた書状を家斉に差し出す)

家斉:これは例の、あれであるな?

定信:はい。(笑う家斉、定信も)

 まさに家斉と定信の同床異夢。この場面に先立って、セミの鳴き声だけが響く怖いシーンがあったね。治済が、能面を並べて思案していた。

 当方、能の知識はほぼない。まずは手に取ったのは角も生えているから般若だろうと推測するが、治済は、それじゃ違うと考えた様子で、元に戻した。その次に手にしたのは、あの俊寛の面だよね・・・治済は、顔に面を当て、めっちゃ笑ってウンウン納得している感じだった。

 定信をただ怒らせるのじゃつまらない、絶望させてやる!ってことだったのかなと、治済の暗い考えを後で想像したよ。

 とうとう、そのXデーはやってきた。定信が意気揚々としているのが哀れ。

定信:(東照宮の方角に二拍手一礼、さらに深々と一礼)

水野為長:いよいよ大老。これよりは、更なる高みより政をなさるのでございますな。

定信:将軍を出すのは、田安家の念願であった。無論、大老は将軍ではないが、此度においては国の舵取りを任された。いささか不敬ではあるが、ここはひとつ、将軍になったつもりで事に当たろうと思っておる。

為長:大権現様も、殿こそが相応しいとお認めになったのでございましょう。

定信:(膝をつき、水野為長の右肩に手を置いて)参る!

為長:(万感の表情)はっ!

 この水野為長が治済のスパイで、裏切られていたら定信もちょっと可哀そうだよな・・・と思っていたけど、この表情だとそんなことは無さそうだ。ただ、「殿こそが相応しい」云々を言って肩に手を置いたら、普通はそこで家臣のこれまでの苦労をねぎらうんじゃないの、定信君💦家臣の自分への献身は当たり前と思っちゃってるかな。

 さて、いよいよのいよいよ、クライマックスだ。

将軍家斉:松平越中守。先日、その方より出された「早く下城したい」という願いであるが、今も心変わりは無いか?

定信:はっ。相違ございませぬ。(定信を真っ直ぐ見る、治済の目力が強い💦)

家斉:そなたの下城が然様に遅くなるのは何故か。

定信:「将軍補佐」と「老中」を兼任しておるゆえと存じまする。今の上様ならば、もはや補佐役などは御無用。老中にも、頼もしき顔触れが揃いました。よって、両お役目をお解き頂きたく。

家斉:相分かった。では、「将軍補佐」および「老中」の役目を許すこととす。

定信:ありがたき幸せに存じます。(治済が家斉の方に顔を向ける)

家斉:では、越中守。

定信:はっ。

家斉:・・・これよりは、政には関わらず、ゆるりと休むが良い。(定信、思わず家斉の顔を見て、視線が合う)フッ。これよりは余も将軍として励むとしよう。(意外な展開に固まっている定信、笑いを堪えている老中たち)

尾張徳川宗睦:(家斉に)それがしは、越中を置いて他にこの難しき形勢を乗り切れる者はおらぬと。

老中松平信明:恐れながら、難しき形勢とは?

宗睦:朝廷、オロシャ・・・。

信明:朝廷もオロシャも、素晴らしき越中守が見事に片を付けてくださいました。

本多忠壽:真そればかりではございません。越中守の倹約のお陰で御公儀の御金蔵には十万両も蓄えが増えましてございます。(悔しさに目を剥いている定信)

一橋治済:(にこやかに涼しい顔)越中。上様のため、徳川のため、まこと我が息子のため、ご苦労であった。(怒りに震える定信の顔を覗き込んで)ささ、下城されよ。心置きなく、願いを叶えよ。

定信:(立ち上がり、表情のない顔で出ていく。肩を落として廊下を歩く背中を、老中らの嘲笑が追ってくる)私ではないか・・・私ではないか・・・(家斉も大笑い)私ではないか・・・。(治済も微笑んでいる)

 (布団部屋では大声)私ではないか!嫌がられようとも煙たがられようとも、やるべきことをやり通したのは私ではないか!クズどもが・・・地獄へ、地獄へ落ちるが良い!(涙の滲む、血走った目)

 治済は、一橋家の悲願、長い長いミッションがとうとう望み通りにコンプリート!という思いかな。あ、まだ大御所就任が残っているか。反対する定信は片付いたから、大丈夫と安心しているかな。

 でも、将軍家を乗っ取り、一橋家の目上のたんこぶだったはずの田安家の賢丸(松平定信)に面倒ごとを片付けさせた上で、上から目線で「ご苦労であった」とお払い箱にする。それも、大老になれると望みを抱かせてから、突き落とす。しかも、自らの申し出に沿ってという、表向きにはキレイな形で・・・それを計画通りにやり切ったんだろうな。定信は完全にいたぶられたね。

 いつも一人で広い屋敷にポツンと能面に相対している治済は、生きている人間の生の表情で、怒り➡絶望といった表情を確かに見てみたかったのかもしれない。お望み通り、目の前の定信の中に、俊寛の面の表情を確認することができたかな?

死の手袋、キターーーーーー

 最後に、田沼時代にブイブイ言わせていた老女・高岳が久しぶりに帰ってきた。治済による長いミッションの初期の大成功、十代将軍家治の嫡子・家基が死んだ(殺された)時に介在した、例の死の手袋を持って。家基の死で、将軍家乗っ取りは現実化して傍流に移ることになったのだものなあ。

 この手袋を、種姫(定信の妹だったよね)から家基へのプレゼントとして誂えたのが自分だったから、その弱味を握った治済側の老女・大崎に高岳は口封じをされ、大奥は定信反対を引っ込めた。その結果、定信は筆頭老中に就任することができた。それが、田沼意次失脚の決定打になった・・・というのが今作の描き方だったと思う。

 つくづく、定信は治済に良いように使われているよねえ。治済が手を汚さずに望みを叶えられたのも、定信がいたからじゃないか。そこらへん、「丈右衛門だった男」と扱いは同じか。

 失脚した定信と、高岳。手袋を使って何をするつもりか?治済の大御所への夢を、二人がこれで止めることができるのだったら、胸アツストーリーになるね。そこに源内先生や、蔦重が絡んでくるのか?楽しみだ。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#42 ていが孕み、舞い上がった自己中蔦重はアーティスト歌麿の心を踏みにじる!いきり立つ定信、深まる孤立に気づかない

招かれざる客は誰?

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第42回「招かれざる客」が文化の日前日の11/2に放送された。11/1~11/3は怒涛の3日間だったので、後から録画を見た。

 残り2カ月、そろそろ来年の大河「豊臣兄弟」の宣伝などもSNSで目に入ってきて、もうそんな時期かと焦る。今年も、大晦日までの日々はダッシュで過ぎ去ってしまうのか・・・でも今年の「べらぼう」にも大いに楽しませてもらったよ。残り6回かな?

 終わりに向けて、今回は歌麿が蔦重の下を去るかという嵐が来た。この嵐の回収は、歌麿=写楽で蔦重と和解だと思うんだけどな・・・それで面白くも心安らかに終わってもらいたい。単なる勝手な希望だが。

 さて、今回のあらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫第42回「招かれざる客」
 歌麿(染谷将太)の美人大首絵で持ち直し、書物問屋も始めた蔦重(横浜流星)は、年が明けて身上半減から店を立て直した。歌麿の新作、江戸の「看板娘」を描いた錦絵も大評判となり、看板娘に会いたい客で各店は繁盛、江戸の町も活気づいていた。そんな中、てい(橋本愛)は蔦重に“子ができた”と告げる。一方、定信(井上祐貴)は、オロシャ問題や朝廷の尊号一件に対する強硬姿勢で、幕閣内で孤立し始めていた…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第42回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 今回の冒頭、尾張に出張した蔦重と仲良く語り合っていたのが書物問屋の永楽屋東四郎。この永楽屋に長男が養子に入ったので、親を継いだのは2番目で・・・という幻をどこかで読んだ気がするのだけれど、一体誰の話だったのだろう?思い出せない、失礼しました。

 さて、サブタイトルにもなっている「招かれざる客」は、今回の誰にとっての誰かと考えてみた。

蔦重の場合

 爆笑問題の田中が演じる相学者も、せっかく歌麿が手掛けてくれた評判の揃い物「婦人相学十躰」にケチを付けに来たのだから、蔦重にとっては招かれざる客そのものだったのだね。アラアラアラだ。せっかく爆問が揃って出た場面だったけどねー。ふたりの出番はこれで終わりのようだ。

 さて結局、「十躰」の体裁だけを変えた形の「婦女人相十品」の方も、絵に描かれている人物の名前を入れちゃならねえとお上から有難くない、「招かれざる」お達しがもたらされ、蔦重が夢見た「巷の美少女ブームで江戸アゲアゲ大作戦」は万事休すになったようだった。

 (でも、これって彼女たちが働いている店の名前だけでも絵に書き入れれば良かったんじゃ、と思ったのは私だけか?「難波屋看板娘」とか?それもダメなのか?とはいえ、彼女たちにしてみれば、多くの客が自分目当てにドッと来て、店主や親はホクホクでもめんどくさかっただろうなー。瑣吉とか、変装して繰り出してた治済とかあしらうのがホントにめんどくさそう。彼女ら、内心では招かれざる客だと思ってただろうね。)

 しかし、蔦重にとっての一番の招かれざる客は、西村屋だろう。ドラマの中では、今回、まだ蔦重は知らないところで暗躍されてしまった。いつの間にか歌麿を切り崩しに来ていたんだから、この痛手は大きいね。

 鱗の旦那の次男が、西村屋の二代目として後から出てくるのは分かっていたけれど(鱗形屋の親子、どちらも演じるのが歌舞伎役者だね)、あの細やかな心遣いのできる感じでの美しいご登場を見ると、歌麿の心の支えに二代目万次郎がなれそうで、もしかしたら二人は、割りない仲にもなっていきそうな気がする。

 ちょっと妄想が飛んで行ってしまったのだが、鱗形屋は西村屋にも借金をしていた様子だった。もしかして、借金の片に幼い次男は西村屋に売られたのだろうか?なんだかおぞましい妄想になってしまった。

 万次郎が持ってきた案思にも、暦と一緒に巷の若衆を描く話があった。西村屋も、目敏く歌麿のことをお仲間だと感づいて声を掛けに来たのか・・・?

松平定信の場合

 話を松平定信に転じる。最近の彼に降ってくるものは常に、招かれざる報せのオンパレードにも見えて、彼の眉毛はキリキリと上がりっぱなしだよね。蔦重が仕掛けている、町娘を使った江戸の活気を復活させる(でも悪いことに物価も上がってしまう💦)アイデアは「田沼病の復活」だそうで、そう煽られた松平定信が相変わらず良い眉毛の反応、これまた笑えた。

 この時に、無言で視線を交わす松平信明と本多忠壽が悪そうで、怪しかったね・・・これは次回の裏切りの序章だろう。その前、二人は治済のところに愚痴りに来ていたが、歌麿の女大首絵は治済にも大受けのようで、ふたりの話そっちのけだったのがおかしかった。

 そうだった、ロシアの船も来ちゃってた。これも当然、定信にしたら招かれざる客なわけだ。大黒屋光太夫の名前は、通訳するのは誰?で出ていたけれど、ドラマにはご出演なのかどうなのか。緒形拳が演じた映画の光太夫が懐かしく頭に浮かぶ。

 そろそろ定信の孤立も深まって足場が失われていくようだ。今回はこれぐらいで、定信についてはまた次回。

歌麿の場合

 さて、歌麿にとっての招かれざる客とは?今回、明らかに蔦重がソレになってしまった感がある。「鎌倉殿の13人」で、最終回に向けて真っ黒くなっていった主人公・北条義時を覚えているから、今年の主人公が多少黒くなろうが唐変木だろうが仕方ない。

 けれど、蔦重からの歌麿の扱いが酷い。デリカシーなくアーティスト心を踏みにじられ、気の毒だ。一枚一枚心を込めて描きたいのに、弟子にやらせて自分の名前だけ入れとけなんて言われるとか、吉原からの借金のカタに売られたも同然に五十枚も描かされるとか(それも事後承諾)。

歌麿:吉原?

蔦重:ああ。素人の女の名は書き入れちゃなんねえが、女郎なら構わねえってんで、親父様たちに話したら、やってくれるってんだ。

歌麿:待ってよ。俺、まだやるとも何とも言ってねえんだけど!

蔦重:頼む。もう、やるって言っちまったんだよ。

歌麿:言っちまったって・・・。

蔦重:うちは吉原に借金してんだろ?身上半減から返すの待ってもらってて。けど、吉原も今苦しくてよ。そこで、俺の借金百両を、お前の絵50枚で返すって話にまとまったんだ。(憤懣やるかたない表情の歌麿)お前の大首絵なら、入銀はなくとも売り上げで作る掛かりは賄えるし、うちの儲けは俺がどれだけ気張れるかってなるが、そこは俺が気張れってことで。吉原は、手前の持ち出しなく女郎を売り込めるっていう寸法だ。良い話だろ?

歌麿:それ、借金の片に俺を売ったってこと?

蔦重:いや!売ってねえ!今まで通り、お前への礼金はちゃんと払うから。

歌麿:けど、そんな話、聞いてねえって有り得ねえだろ!(ドス利かせて)

蔦重:ほんとに申し訳ねえ。(頭を下げて、近づく)けど・・・良い話だろ?うちも吉原も助かる。お前の名だって、売れ続ける訳だ。な?(浮かない顔の歌麿を見て、再度頭を下げて)頼む。ガキも生まれんだ!

歌麿:・・・へ?

蔦重:もう、んなことねえと思ってたが、ありがてえことに授かってよ。色々出すには出したが、大きく跳ねたのは「十躰」と「看板娘」だけだ。正直なとこ、新たな売れ筋が欲しい。頼む!お前だけが頼りなんだ!(平身低頭)身重のおていさんには苦労掛けたくねえんだ!頼む!頼むよ・・・。

歌麿:(目も顔も伏せ、じっと葛藤の中にいるが、顔を上げて苦笑)フッ、仕方中橋。やってやるよ。

蔦重:(顔を上げて)ほんとか?

歌麿:(笑って)義兄さんの言うことは聞かねえとな。俺は義弟だし。

蔦重:(一つ頷いて)恩に着る。(歌麿の手を取る)恩に着るぜ、義兄弟。(歌麿の背中が寂し気)

 ていのお腹に子を授かったことが分かり、蔦重は舞い上がった。その子のためという欲が極まると、ただでさえ鈍感なのに自己保身で何も見えなくなるのか。子ができて自己中真っ盛りの蔦重なんか、歌麿は見たくなかっただろうね。

 歌麿は、蔦重への報われない恋心には区切りをつけても、アーティストとしては蔦重と向き合おうとしていただけに、アーティストとしても縁を切るしかないと心に決めてしまったね。他の女を孕ませてのこの体たらくの蔦重を見てしまい、心の傷が深まった様が、背中に滲んでいた。もう完璧に離れたいと思ったに違いない。

 それが、西村屋二代目万次郎への宣言につながった。「西村屋さん。お受けしますよ、仕事。この揃い物を描き終わったら、もう蔦重とは終わりにします」と。

 そうだ・・・歌麿には、蔦重母のつよさんを奪っていった死神も「招かれざる客」だっただろう。つよは「あんたも私の息子だ」と言い、せっかく歌麿が心を打ち明け、話せる相手になっていたのにね。やはり鬼脚本、つよは今回の冒頭で早々に亡くなっていたことになっていた。

 つよの位牌を見やる歌麿が可哀そうで。彼女が生きていたら、朴念仁の蔦重が自分勝手に話をまとめて無理を言い出した時に、歌麿を庇ってくれる可能性は大いにあったよね。

 このドラマでは、歌麿の大事な理解者ばかりが命を奪われてきている。生きてる蔦重は朴念仁で、歌麿のメンタルはもう持たない😢救いは、相談にも乗ってくれる絵師の北尾重政。重政先生はホントに良い人。あとは万次郎、もう蔦重じゃない。

お墓参りした

 そういえば、まだ暑い頃に浅草の正法寺に行って、蔦重、つよ、てい、二代目蔦重を含む通油町蔦屋の皆さんのお墓参りをしたのだった。蔦屋家14人それぞれの法名と没年が歴代墓碑には彫られていて、それとは別に蔦重墓碣銘とその実母(津与)顕彰の碑文が一枚になっている碑もあった。

正面が蔦重墓碣銘と実母顕彰の碑文、右奥が14人の蔦屋歴代墓碑

正面の碑

歴代墓碑の説明文。蔦重は上の左から三番目、母つよは二番目。妻ていは下の右端

 ええと、この写真を見れば蔦屋の皆さんの没年も載ってるし、ネタバレになっちゃうかもしれないけれど史実だからお許しを。次回予告では、おていさんはお産で(?)苦しんでいる様子がちらりと映ったが、墓碑によればまだまだ長生きだ。産褥死はしないだろう。

 この歴代墓碑を見ると、ていさんの左隣には二代目蔦重が載る。お寺の説明文によると、二代目は、耕書堂番頭の「勇助」だそうだ。ドラマでは、手代の「みの吉」ぐらいしか目につかないけど?どこに勇助は隠れているのか?

 歌麿は、同じ「勇助」という名前が人別には載っていたから、歌麿が二代目蔦重になる道もあるのではないかと前から妄想しちゃってたな。なんと次回予告では「この店、くれよ」と言ってた気もするし。で、歌麿は二代目蔦重になるのかー?!と喜んじゃったんだけど。

 でも、歌麿のお墓は別にちゃんと存在しているという事実。ウィキペディア先生(喜多川歌麿 - Wikipedia)によると、歌麿は「1806年(文化3年)死去した。墓所は専光寺(移転前当時・浅草新堀端菊屋西側)現・世田谷区烏山。戒名は秋円了教信士」となる。

 つまり、この蔦屋歴代墓碑に名が残る二代目蔦重「勇山院松樹日行信士」と歌麿は戒名も異なり、別人だ。納得しないとね。

 ああもう、行かないといけない。今週末は知人の文化活動の応援に行くことになっている。地方ではこんなにも秋祭りが盛り上がるのだなあ、あちこち行きたくて仕方ないが、ちょっと体力的に圧倒されているかも。では、この辺で失礼。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#41 ババア➡おっかさんとの呼び方の変化が切ないが、間もなく母つよは退場。ハートブレイク歌麿が、初めて本心を明かした

分かりやす過ぎる、つよの頭痛

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第41回「歌麿筆美人大首絵」が10/26に放送された。次回11/2の放送までに、考えてみたら、迂闊にもあと数時間しか書く時間が無い。秋の週末は文化活動が忙しいが、自分の健康も守らないといけない。致し方ないので、今回はダラダラは諦めることにする。悪しからず。

 さて、さっそくドラマあらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫
第41回「歌麿筆美人大首絵」

 蔦重(横浜流星)が、処分を受けた須原屋(里見浩太朗)を訪ねると、須原屋は二代目に店を譲り引退すると言う。そして蔦重は、歌麿(染谷将太)と「婦人相学十躰」の売り出し方を思案する。そんな中、つよ(高岡早紀)の身体に異変が起きる。一方、城中では家斉(城桧吏)の嫡男・竹千代が誕生。定信(井上祐貴)は、祝いの場で突然、将軍補佐と奥勤め、勝手掛の辞職を願い出る。家斉や治済(生田斗真)は動揺するが…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第41回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 前回もつよと歌麿の栃木行きの話を書いたように、蔦重母つよの存在が、ここのところクローズアップされている。それで今回は、明らかに息子との今生の別れじゃないのか、という場面が用意されていた。早朝、尾張に旅立つ準備に忙しい蔦重に、つよが声をかける。

つよ:ちょいと。髪、結い直した方が良くないかい?

蔦重:(髷を撫でて)そうか?(ていも頷く。蔦重が座り、道具を広げたつよが、背後に回って結い直し始める)考えてみりゃ、初めてだな。

つよ:あんたいつも髪結床に行っちまうからね。

蔦重:あそこに行きゃ、世間が知れっからな。

つよ:まあ・・・おとっつあんとおんなじ頭の形だよ。(髷の解けた頭に、蔦重が手を当てる。つよは作業に忙しい)

蔦重:なあ。

つよ:うん?

蔦重:あれは嘘なのか?

つよ:あれって?

蔦重:昔、夫婦げんかした挙句、「てめえは俺の子じゃねえ」「私の子じゃねえ」って二人して出てったろ?

つよ:(笑って)駿河屋さんからまだ聞かされてないのかい?

蔦重:まだ?

つよ:口が堅いねぇ。さすがだよ。

蔦重:・・・んだよ?(不服そう)

つよ:あんたのおとっつあんはさ、ちょいと間抜けなとこがあって、博打でタチの悪い借金、作っちまったのさ。で、このままじゃマズいってんで、江戸から逃げようってことになってさ。でも、逃げた先でどんな暮らしになるともわからない。あんたは吉原で育ててもらった方が良いんじゃないかって話になって、駿河屋さんに引き取ってもらえるよう、頼み込んだのさ。でも、借金取りたちは、あんた目がけて吉原まで来ないとも限らない。で、口が裂けてもあれが親だなんて言いたくないように、おとっつあんも色に狂って、私も色に狂ったってことにして、子捨てしたのさ。

蔦重:・・・んだよ、そんな話だったのかよ。

つよ:どんな話だと思ってたんだい?

蔦重:ああ?俺ゃ公方様の隠し子で、二人は隠密で・・・とか。桃太郎だったんじゃねえかとか。ハッ、ガキの頃だぜ。

つよ:こんなしょぼくれた話で悪かったねえ。

蔦重:いや、良い話だ。俺が考えてたより余程いい。

つよ:そうかい。

蔦重:ああ。

つよ:(手を止めて、背後から囁く)柯理。(蔦重の肩に触れる。魔法にかかったような表情の蔦重)あんたは強い子だよ。でも、何でそんなに強いかって言ったら、そりゃやっぱり私が捨てたせいでさ。

蔦重:ありがた山です。せいぜい拝みまさぁ。

つよ:ごめんね。

蔦重:・・・んだよ、調子狂うじゃねえか。

つよ:裏を返しゃ、あんたは強くならなきゃ生きてけなかったんだ。下を向くな、前を向け。泣いてる暇があったら人様を笑わせることを考えろって。それでここまでやってきて、そりゃもうあんたは立派だよ。でもね、大抵の人はそんなに強くもなれなくて、強がるんだ。口では平気だって言っても、実のところ平気じゃなくてね。(髷を仕上げる)そこんとこ、もうちょっと気付けてありがた~く思えるようになったら、もう一段、男っぷりも上がるってもんさ。(肩をポンポン)はい。

蔦重:・・・んだよ、ババア。親らしいこと言うじゃねえか。

つよ:そうかい?じゃあ、あんたも息子らしいことしなよ。

蔦重:・・・じゃあ、土産買ってきてやるよ。尾張の土産、何が良い?

つよ:そういや、おとっつあんも尾張の出だったねえ。その辺、うろついてたら土産に頼むよ。

蔦重:合点承知!(ポーズを決める)よし!じゃあ行ってくらア。(立ち上がり、歩き出そうとするが止まって整えられた髷に触れ、つよを振り返る。せきばらい)おっかさん。フッ。

つよ:(髪結い道具を片付け中で、背を向けたまま)頼んだよ、重三郎。

蔦重:(にっこり)おう!(出ていく。蔦重の背中を見送る、つよの顔もほころぶ)

 蔦重は心の棘が抜けたね、それで、ようやく母を「ババア」から「おっかさん」に昇格させる気になった。ずっと親に捨てられたと思っていたんだもの、それが自分の安全を慮っての親の苦肉の策だったと知れば、ね。嬉しくて、足取りも軽く旅立てるというもの・・・つよは頭痛が治っていない、それが心配だろうけどね。

 「何ともないって!」と言いながら、こめかみを押さえて痛がっている所を見ると、つよは三叉神経痛にでもなった?と思ったが、命を奪う病となると、脳腫瘍あたりなのか・・・。予告では皆が拝んでいたから、次回、つよさんは鬼籍に入るらしい。キレイなさよなら、でも心が通ったばかりというのに切ないね。

 大体、ありがちな大河ドラマの主人公だと、幼少期の謎なんてものは、さっさと放送を始めて数か月中に片が付いているような気がする。徳川家康の幼少期の謎を秋まで引っ張ろうなんて誰も考えないだろう。家康は皆さんご存知の有名人だから、いくらフィクションで話を膨らませようが、引っ張り甲斐が無いもんね。

 それが、蔦重みたいに初めて大河で取り上げられるような未知の存在だと、残り2カ月になってようやく母子の秘密が明かされるなんて芸当もできる。

歌麿の人生初の心のサポーター?

 幼少期の話とくれば、これまでは主人公に代わって、歌麿とその鬼母が期待される役割を演じていた。もちろん歌麿のドラマでの生い立ちはフィクション、だが本当に気の毒過ぎて、脚本家を呪いたくなるレベル。今時のLGBTQの苦難を仮託している部分もあったりするんだろうね。

 で、蔦重母のつよの場合、もう一人の鬼母かと思ったら、そうではなかったと。それどころか、つよさんは歌麿のことも優しく包み込んだ。

歌麿:(庵の縁で、つよの握り飯を食べる)

つよ:こないだ、悪かったね。瑣吉がおかしなこと言い出して。

歌麿:なかなかうまく返しただろ?

つよ:・・・うまかったよ。旦那様は、何一つ気づかない程にね。

歌麿:フッ。(笑みが消え、つよを見る)

つよ:このままじゃ、あの子は一生、これっぽっちも、あんたの気持ちに気づかないよ。あんたはそれでいいのかい?

歌麿:(食べかけの握り飯を置き、庭に目をやる。蝉の声)・・・気づかれたとこで、いいことなんて何もねえじゃねえか。蔦重が同じ気持ちな訳もねえし、仕事もやりにくくなるだけだし。

つよ:耐えられんのかい?それで。

歌麿:(蝉の声。庭の木の幹に、ふたつ並んだセミの抜け殻)俺の今の望みは、きれいな抜け殻だけが残る事さ。蝉はどんな気持ちだったか分かんないけど、抜け殻だけはずらずら残ってて。それは、とびきり綺麗だったり面白かったりして、誰かの心を癒す。ふたりでいい抜け殻だけを残せんなら、俺は今、それだけでいいんだ。

 それにさ、この気持ちもいつかは消えてなくなんじゃねえかとも思うんだ。おきよがいた時は、ほんとに忘れてたわけだし。

つよ:はあ・・・ごめんねえ、歌。

歌麿:おつよさんが謝るような事じゃねえだろ。

つよ:私が悪いよ!あんな朴念仁に生んじまって!

歌麿:おつよさんが悪いわけでも蔦重が悪いわけでもねえし、ありがてえよ。聞いてもらえるってなあ、心が軽くなるもんだな。

つよ:(微笑んで近寄り、歌麿の茶碗に茶を注ぐ)私、来るよもっと。

歌麿:いいよ、忙しいだろ?店。

つよ:遠慮してんじゃないよ!おっかさんの前で!・・・あんたはあの子の義理の弟。だったら、あんたも私の息子さ。

歌麿:・・・じゃあ、よろしく頼むよ、おっかさん。(ぎこちなく微笑む)

 つよさんの踏み込み方は絶妙。そう、核心の話をしたくてたまらない人には、話を誤魔化さずに語ってもらった方が良いんだよね。歌麿が言うように、心が軽くなる。それまでは鉛で塗りこめられたように心が重苦しくても、安全な相手への吐露は、してみると深呼吸をする隙間ができるもんね。ほんとに良いおっかさん振りだよ。

 歌麿も、ようやく心の奥底を話せるサポーターができたように思ったかな。人生で、つよが初めてではないのか?おきよは、耳が聞こえなかったから、雰囲気で理解して心で支えていたかもしれないが、歌麿が話して相談するのは難しかったのではないか。人生でようやく現れた、自分のサポーター。そんな存在では。

 それなのに、次回で失ってしまうとしたら・・・鬼だ~💦やっぱり鬼脚本家。歌麿のために長生きしてほしかったなぁー。せっかく、重ーい蔦重への気持ちを言葉にできたのに。いくらなんでも、ていには相談できるようなネタではない。彼女も、しっかり歌麿の気持ちには気づいていたみたいだけど。

 あぁもう時間切れ。今回はここまでで失礼する。

 

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#40 こんこんと湧き出る、尽きぬ才能の泉。歌麿と山東京伝、ふたりの天才をくすぐるのは「描いてみたい」欲

さすがのミュージックティーチャー

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第40回「尽きせぬは欲の泉」が10/19に放送され、賑々しく未来の曲亭馬琴、葛飾北斎が登場した。北斎は、演じるくっきーがアドリブを炸裂させたとかで(【べらぼう】勝川春朗役・くっきー!の“アドリブ”シーンが話題に「本能でしたか!」「意味わからんくて好きw」(BuzzFeed Japan)のコメント一覧 - Yahoo!ニュース)、かなり獣味を感じさせたが・・・どうなんだろ。もう屁は恋川春町でお腹いっぱいなんだけどな。

 尚、蔦重は、きよを失い傷心の歌麿を、なんとか栃木から連れ帰り女の大首絵に取り組ませることに成功し、また、手鎖の刑を受けてへこんでいた山東京伝をも復帰させる道筋をつけた。クリエイターを鼓舞する編集者も大変だね。

 では、あらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫
第40回「尽きせぬは欲の泉」

身上半減の刑を受けた蔦重(横浜流星)は、営業を再開し、執筆依頼のため京伝(政演/古川雄大)を訪ねる。妻の菊(望海風斗)から、滝沢瑣吉(さきち/津田健次郎)の面倒をみてほしいと託される。蔦重は手代扱いで店に置くが、瑣吉は勝川春章(前野朋哉)が連れてきた弟子・勝川春朗(くっきー!)と喧嘩(けんか)になり…。蔦重は歌麿(染谷将太)の描いたきよの絵から女性の大首絵の案を思いつき、歌麿に会いに栃木へ向かう…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第40回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 サブタイトルは「欲の泉」なのだが、つまりは「才能の泉」なんだろうと思った。こんこんと湧き出る泉のように、天才の才能は湧いてあふれ出てくる。蔦重がやる気をくすぐるのがうまいのはその通りなんだけど(プライドの高ーい滝沢瑣吉が、蔦重の口車に乗せられて、京伝の代作をさせられていたもんね)、お上に言われたからって才能の泉を閉ざすなんて所詮無理。天才二人が語り合うシーンでは、彼らも才に突き動かされる己を自覚しているようだった。

喜多川歌麿:で、煙草入屋と二足のわらじで行くことにしたのかい?

北尾政演(山東京伝):フフっ本屋ってなあ、くすぐるのがうまくて嫌んなるよ。けど、それ、やられちまうのは、てめえの中に欲があるからなんだよなあ。モテてえ欲、描きてえ欲。止めるって何度思っても、いっつもそいつにやられちまうよ。なあ、歌さんはどうだい?

歌麿:(女の絵に、ポッピンを描いて筆を置く)欲なんてとうに消えたと思ってたんだけどなあ。(小さく笑う)

 「真人間になるとお白州で誓った」と頑張る山東京伝こと政演が、どうくすぐられてしまったかと言うと、それは蔦重だけじゃなく、鶴屋喜右衛門も妻のお菊も、明らかに手を組んでのこと。山東京伝復帰に向けて、陰で念入りに作戦会議が持たれて報連相もキッチリだったのだろうね。今回、政演がノックアウトされるまでを順に見ていこう。

北尾政演(山東京伝):歌さんが、江戸に帰ってきたんですか?

鶴屋喜右衛門:ええ。で、蔦屋さん、歌麿さんが描くための女を集めてるようですよ。

政演:え・・・描くための女って、わざわざ見て描いた女絵を出すってことですかい?そりゃ一体どんな絵・・・。

鶴屋:まだ分かりません。でも、蔦屋さんが市中の話題をかっさらうべく、仕掛けていることは間違いないでしょうね。(落ち着かない政演。お菊が鶴屋に茶を出す)でも良かったんじゃないですか?ねえ?

政演:へ?

鶴屋:歌麿さんがど~んと出てくれれば、山東京伝のいない寂しさは埋まるでしょうし。ああ・・・いなくなったことにすら気づかれず静かに身を引くことができるかもしれませんよ。

お菊:心置きなく真人間になれるね、あんた。

政演:へへへへへ、そうですね。へへっ!歌さんに、礼でも言わねえと。へへへへ!

(そっと鶴屋と微笑みあうお菊。落ち着かなく茶を飲む政演)

 それでも頑なな政演に、さらに大きな物をぶつける蔦重たち。よく政演の性格を分かっているからこその作戦だ。その前の蔦重と鶴屋のやり取り。

鶴屋:よろしいですか。

蔦重:鶴屋さん。どうしたんです?

鶴屋:ええ。実は京伝先生が煙草入れの店を始めたいって言い出してんですよ。

蔦重:え?

鶴屋:で、金を集めるために書画会を開こうって話してるんですが。

蔦重:そうですか。

鶴屋:ええ。

 常に何か腹に一物有りそうな鶴屋・・・と言うよりも、常に一を聞いて十のアイデアを脳裏にスパークさせる蔦重と言うべきか。「そうですか」「ええ」だけで、鶴屋が何を言わんとしているのかを把握して、これは絶好の機会だと思っている顔だ。

 蔦重と鶴屋は、昔はあんなに反目しあっていたのに、まさにツーカーの仲になった。オープニング前の二人の会話が面白かった。

九郎助稲荷:身上半減を売りにした蔦屋(耕書堂)でしたが、ブームはあっという間に去りました。

蔦屋重三郎:「身上半減」の物珍しさも息切れで。(煙管を鶴屋に差し出しながら)家内に煙草も倹約しろって言われまして。

鶴屋喜右衛門:蔦屋さんが倹約とは、皮肉なもんですね。

蔦重:ふんどしの苦労がわかっちまうようで、面白くねえですよ。ふんどしが倹約倹約言ってんのは、お上の金蔵を立て直すってのもあんでしょ?田沼様もそれで苦労してましたし。

鶴屋:どうぞ。(煙草を仕込んで?煙管を返す)

蔦重:(受け取って)ああ、ありがた山で。(煙管を蒸かす)

鶴屋:だから「身上半減」だったんですかね。商いを取り上げてしまっては、倹約していこうという風にはならない。半減ならば、店を潰すには惜しいとなると、おのず「倹約」していくことになる。俺の苦労を知れ、お前もやってみるが良いと。ついでに、江戸の名物本屋が自ら「倹約」を示してくれると。

蔦重:しゃらくせえ!

鶴屋:とはいえ、何か稼ぐ手立てはお考えで?

蔦重:この際、再印本をどんどん出してみようかと。売りもんが無くなって蔵出ししたでしょ。あれが案外受け良くて。面白えけど古いから摺ってねえ黄表紙の板木を安く売ってもらって、どんどん仕入れる。そうすりゃ、名作黄表紙の揃いものってなふうに、できるかなって。

鶴屋:いいですね。

蔦重:へえ。

鶴屋:うちもやってみようかなあ、それ。

蔦重:鶴屋さん、どうか今は、お情けを。(頭を下げる)

鶴屋:冗談ですよ。昔のでよければお譲りしますよ、京伝本の板。

蔦重:鶴屋さ~ん(手を合わせる)

鶴屋:まあ、うちが京伝先生の新作を取れれば、ですけどね。

蔦重:合点承知です。

 それで、政演を乗せて新作を描かせるための作戦決行の当日が来た。

政演:(廊下を行く蔦重と鶴屋に、自分の着物について)あの、ちょいと派手じゃありませんか?俺ゃ、もう真人間になったのに。

鶴屋:ハハ!まあまあ、今日一日は山東京伝。皆、山東京伝に会いに来てるんですから。

蔦重:これが終わりゃ、煙草入れ屋だ。山東京伝・北尾政演の最後の日ってこったな。

政演:そうですね。(襖の前に立つ。蔦重と鶴屋が同時に襖を開けるために両脇にしゃがむ)

蔦重:皆様、山東京伝先生のお出ましにございます!(鶴屋と襖を開ける)

広間の一同:よっ!きゃ~!京伝先生!京伝!

九郎助稲荷(綾瀬はるか)解説:そこで政演さんを待っていたのは、モテのスコールにございました。

一同:(口々に、止まないコール)色男!京伝先生!日本一!よっ!京伝!よっ!京伝!京伝!待ってました!よっ色男!(満面の笑みで左右に応え、座敷を進む政演)よっ、日本一!

政演:へへへへへ!(座に着く。隣に三味線を構える妻のお菊。鶴屋と蔦重も横に控える)ん?

お菊:(三味線を弾き始める)

座敷の男:「すがほ」だ!

九郎助稲荷:「すがほ(素貌)」は、政演さんが作った唄です。(解説がこちらに【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第40回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

政演:(唄い始める)♫文のさきめの口紅も~お~お~、(待ってました!の声がかかる)へへへ!(手振りをつけて)♫外へ移さぬ心とは~あ~あ~あ~(よっ、名調子!たっぷり!との声)♫神~々さ~んも~(よっ、京伝!いい声ねえ!と座が熱狂。政演は立ち上がり、踊りも付ける)♫どこやらもとふにせうちで~(どこやらもとうに承知で)え(よ!と合いの手)え(よ!)え(よ!)え(よ!)え(よ!)え(よ!)え(よ!)え(よ!)え~(よ!)(柱をつかんでくるり、よ!色男!と声)♫あろおけれど~・・・ハハハハ!(京伝!京伝~!の声)へへへ、ハハハ!

太輔(後の式亭三馬):これに!これに太輔へって!(黄表紙を差し出す)

蔦重:先生、どうぞ。(跪いて筆を差し出す。筆を受け取り、京伝本に似顔絵を描き、名を書く政演。扇や本など、次々にサインを求められる)

 モテたい欲が昔からある政演に、モテの嵐。蔦重仕込みの偽のエキストラってわけじゃないのだろう、本当の京伝ファンの集いだったのだろうね。ファンが喜んでくれる姿をあんなに見せられたら、嬉しいよねえ、止められないよね。ということで、政演は陥落。作家と煙草入れ屋と、二足の草鞋を履くことになった。

 しかし、さすがミュージカル俳優で「エール」では癖の強い「ミュージックティーチャー」を演じた古川雄大だ。ちょっと唄っただけで、何と声の伸びの良い事。本当に良い声だ。お菊役の望海風斗は元宝塚のトップスターだとか、夫婦のデュエットでも聞きたかったところだ。そうだ、政演が馬面太夫の吹き替えをしてくれたら良かったよなあ。あの時は唖然としたものなあ(失礼)。

歌麿は蔦重が好き、だからこその入り組んだ愛憎

 さて、他方の歌麿について。政演から押し付けられ、鶴屋さんがスルリとうまく逃げたものだから、蔦重が「作家見習い兼手代」として引き受けることになった、滝沢瑣吉・将来の曲亭馬琴。「らんまん」の寿恵ちゃんが「馬琴先生」と言って崇めて「南総里見八犬伝」を大事にしていたね。

 彼は、歌麿のことを「男色の相だ。あれはまず間違いない」と言わずもがなのことを口にし、髪結い中のつよに、髷を縛る紐を強く引っ張られていた。

 今更、何故ドラマで歌麿の男色に再度フォーカスするのかと思ったが、この子は蔦重に心を寄せているんだと視聴者に思い出させるためだったのだろうか?それはそれはご丁寧に・・・おきよのエピソードが挟みこまれたから、視聴者は忘れているかもしれないとでも?まさかねえ、歌麿はあんなにしっかり、主人公の蔦重以上に生い立ちが細やかにドラマで描かれてきたのだもの、忘れる訳はない。

 歌麿が、絵に小道具を描くことを思いつく、わずかな間に蔦重に向けた眼差し。万感の思いがこもっていたね。報われないとご本人も知っていながら、幼い頃から抱いていた蔦重への恋心はまだ生きていた。

 ゲスの勘ぐりをすると、歌麿はおきよとは名前の通り「清い」関係だったのかも、歌麿はおきよを死なせた梅毒になっていないのだもの。妻として、おきよさんは辛かっただろう。でも、当代一にもなろうという絵師である夫に、自分の姿を見つめて描いてもらうことで心を収めていたのかもしれない。蔦重の存在には嫉妬していても。

 そんな夫婦のあり方を受け入れてくれたおきよを、歌麿は恩に着て大事にして良い着物を着せて・・・ではなかったか。好き以上に、身寄りがない似た者同士の二人が依存しあっているようにも見えた。心の支えとして互いにかけがえのない存在であり、執着の対象であったことは確かだ。

 そのおきよを奪った蔦重に対して、愛憎相半ばする複雑な感情を抱くように。まさに、入り組んだ感情が歌麿の心中には形成されちゃったのだよね。

つよのアシスト➡そして、案思が決め手

 そんな歌麿に、おきよのような女絵、ことに女の大首絵を描いてもらいたいと考える蔦重がどうお願いするか。それまでは「女の顔は皆同じに描くし表情もねえ」と蔦重が言うのが、むしろどうして当時はそれで良かったのかと、想像すると怖いし不思議に思ったが、女の顔を描き分け表情を出せる歌麿が、新たにどうしても必要だという話だ。

 「喜多川歌麿は、当代一の絵師になる」と確信する蔦重が、歌麿をどう口説くのか。「まあ、案思(あんじ)だな、こういう時は案思しかねえんだよ」と蔦重が言う通り、仲が拗れた今となっては、歌麿が絵師としてやってみたい何かを提示できないとね。

 口説くのは難問だったと思うが、心理的下地を作ってくれていたのが栃木の環境だったり、蔦重の母つよだったと思う。後追い自殺を心配して、栃木へ歌麿と共に行き、よく見守りつつ折に触れて自然に歌麿に語り掛けるつよ。押しつけがましくなく、柔らかになんと鮮やかな・・・人たらしというのはこうやって人を和ませ、心を開かせるんだろうかとドラマと分かっていても勉強になる。

つよ:(栃木の豪商・釜屋の離れで歌麿の墨絵を見ている。暮らしの中の、きよの姿。足音がする)お帰り~宴はうまくいったかい?

歌麿:うん。なまめかしい弁財天を描くことになったよ。ありがてえ話さ。

つよ:(羽織を受け取り、畳みながら)ねえ、もう前みたいな絵は描かないのかい?おきよちゃん描いてたみたいな。立派な絵も良いけど、私はあっちの方が好きさ。何だか生き生きしてて、見てて飽きないしさ。

歌麿:・・・ああいうの描くと、何だか思い出しちまいそうで。

つよ:じゃあ、もう描かないって事かい?

歌麿:多分。

 こんな時もあった。庭でしゃがんでいる歌麿に、つよが話しかける。

つよ:どうかしたのかい?

歌麿:ああ・・・こいつ、何て虫だろうと思って。

つよ:歌は、生きもんが好きだねえ。虫、鳥、貝も描いてたっけ。

歌麿:うん。昔、石燕先生に「そこら辺にあるもん描け」って言われて。よくよく見ていると、同じ虫でも色が違うなとか、こいつ足が少ないとか、動きにも癖があって、俺らにゃ分からねえけど、それぞれの性格や半生があんだなって。

つよ:まあ、絵師さんの目ってのは、たまげたもんだ。

歌麿:「絵師は、三つ目の目に見えるもんを描くんだ」って。

つよ:そういや言ってたねえ先生、三つ目三つ目って。

歌麿:「俺に見えるもんはこれかな」って思って。絵に命を写し取りてえって・・・。

脳裏に浮かぶ回想の蔦重:お前は鬼の子なんだ!生き残って命、描くんだ。

 現代でも、引き出し上手な美容師さんにはついつい要らん事まで言ってしまう。つよと言葉を交わして、歌麿は気持ちを出しやすくなっている。心の内で引きこもりになってしまうより、よほど良い。石燕先生からの大事な言葉も、蔦重とケンカ別れした際の言葉も、落ち着いた安全な環境で思い返すことができていた。

 それで、歌麿を動かすのに大切なのは案思だ。良い案思がないかと瑣吉と街中を歩く蔦重は、不景気なので皆は高い吉原など行けず、「今は巷の美人に男が群がんだな」と気づいた。しかし、ただ巷の美人を並べても今一つ・・・と悩んだところに、「天下人の相だって言われた」という次郎兵衛兄さんが、流行りの「相法」または「相学」=顔貌で人の性分が分かる人相占いを持ち込んだ。

 絵の案思を携え、とうとう蔦重が栃木までやってきて、歌麿と対峙した。

蔦重:あん時は、済まなかった。(頭を下げる)

歌麿:鬼の子に、何の用です?

蔦重:んな、つきたての餅みてえなこと言うなよ。粘っこいぞ、お前。

釜屋伊兵衛:(茶とあんころ餅の載った盆を手に座敷へ)いや~、どうもどうも蔦屋さん。ご無沙汰でございます。

蔦重:どうも、ご無沙汰しております。うちのババアまでお世話になりまして。

釜屋:いえ。

つよ:そこは「母」だろ!品のない!(盆から茶を蔦重へ)

蔦重:そっちに品がないから呼べねえんだよ。

つよ:その口、このあんころ餅で塞いどきな。(餅の皿を渡す)

釜屋:どうぞどうぞ。

蔦重:いただきます。

釜屋:先生も、つきたてで。(茶と餅の皿を歌麿の前に置く)

歌麿:私は共食いになっちまいますんで。(つっけんどんな態度、恐縮する釜屋)

蔦重:まあ、餅はつきたてがうめえですもんね。(餅を食べて)お~!あ。だからお前の絵もうめえのか!フフっ!うん、うめえ。(下を向いている歌麿)

つよ:ちょっとあんた、何しに来たんだよ!(歌麿の味方をする)

蔦重:ああ。歌。うちから錦絵を出してほしい!(両手をついて頭を下げる)今、江戸の錦絵はパッとしねえ。ここで目を見張らせるもんを出せば、必ず当代一の絵師になれる!お前にとっても、またとない時節なんだよ!

歌麿:私のためのように言いますけど、つまるとこ、金繰りに行き詰っている蔦屋を助ける当たりが欲しいってだけですよね。あわよくば、私を売り出すことで、もう一度「蔦重ここに在り」って見せつけたいってのも。

蔦重:・・・まあ、けど・・・お前だっておきよさんのためにちゃんとしてえって言ってただろ?

歌麿:おきよのためにそうなりたいってのは、ありました。けど、おきよが亡くなった今、もうその気持ちはねえです。当代一の絵師を出したいっていう蔦重さんの夢を叶えてえ気持ちも、もうねえんで。関わる理由がねえです。

蔦重:・・・ああ、そうか。うん、じゃ、それは無しとして。一本屋として話させてもらうわ。俺ゃ、喜多川歌麿先生にこんなもんを描いてもらいてえんです。(歌麿の前に進み風呂敷の包みを解いて出したのは、歌麿が描いたおきよの墨絵と、「婦人相学十体、清らかなる相」と書かれた紙が載った盆)

釜屋:相学って?

蔦重:今、江戸じゃ相学ってのが大流行りの兆しを見せていまして。これに引っ掛けて色んな相の女を描く。そんな揃いもんを考えてんです。

 けど、これが成り立つには、女のタチが伝わる絵を描ける絵師がいる。女らしい一瞬を捕まえられる絵師がいる。それができんのは、喜多川歌麿しかいねえ。どうか、お願いします!(頭を下げる)

歌麿:もう、女は描かねえって決めてんで。

蔦重:え?

歌麿:おきよが喜ばねえと思うんで。おきよは・・・ずっと自分だけを見ていてほしいと願ってたから・・・。

蔦重:そりゃ、生きてる間はってことだけだよ。

歌麿:何で・・・何でそんなこと言えんだよ?蔦重はおきよのことなんて何も知らねえだろ!(激怒)

蔦重:知らねえよ。けど、この世でいっちゃん好きな絵師は同じだからよ。お前の絵が好きな奴は、お前が描けなくなることは決して望まねえ。これは間違いなく言い切れる。贔屓筋ってのは、そういうもんだ。(ウンウン肯く釜屋、泣きそうな微笑で歌麿を見つめている、つよ)おきよさんは幸せだったと思うぜ。何十枚、何百枚、何千枚って大好きな絵師に、亭主に、こんな風に描いてもらってよ・・・(おきよの絵を指す)。俺がおきよさんだったら、草葉の陰で自慢しまくるぜ。

 俺の夢だ何だも、無しでいい。だから、ここはお前の心ひとつで、お前が俺とこれをやりてえか、やりたくねえか、それだけで決めてくれ。

 結果、歌麿は江戸に戻った。蔦重との関係はどうでも、絵師としての描きたい欲に負けたらしい。

写楽はやっぱり歌麿だよね?

 歌麿はそして、編集者である蔦重の細かい依頼に従って修正しながら、女絵作品を仕上げていった。その時に、習作で割と写実的なのが出てきたので、おーっ!これはもしかして!!と思った。色めき立ったのは、きっと私だけじゃないと思う。こういうのを描きたい欲が、歌麿にはあるってことだもんね。そうかー。

蔦重:(歌麿の庵で絵を見て)これはこれでいいんだけど、ここまで真に迫ってほしいわけじゃなくて、あくまで女絵として綺麗であってほしいんだ。

歌麿:そんなこと言ってなかったろ。

(様々な表情を描き並べ、夜中に思案する歌麿。ほぼ出来上がった絵に、唇を描く。日が流れ、数点の絵を前に向き合った蔦重と歌麿)

蔦重:う~ん。(立ち上がり、歌麿の描き溜めた絵の束を持ってきて見る)お、あった。俺は、このおきよさんは何かがあって振り返ったと思ったのよ。何か、鳥でも飛んでたのか、見知った人でも見かけたのか。そう考えると、じ~っと見ちまう訳だ。この、じ~っと見ちまうってのが、買うことにつながると思うんだよ。

歌麿:んなこと言ってたっけ?(来る日も来る日も、筆を動かす。出来上がった絵を見る。振り返る女の、はだけた胸元に乳房がのぞく)

蔦重:フフ、こいつ、浮気相手と軽口叩いてやがんのか?

歌麿:いや、俺のつもりとしちゃ、浮気相手と一緒にいるとこ見られて、知り合いに平気の平左で嘘ついてる場面。

蔦重:ハハっ、いいなあ。けど、もっとその相らしさ足せねえか?

歌麿:あのよお、ちょいと我儘が過ぎねえか?

蔦重:歌麿先生なら、出来ると思ってんですよ。(煙管をくわえる。その姿を好ましげに見る歌麿)

歌麿:あ・・・小道具使うってなあ、どう?煙管、手鏡、手ぬぐい、提灯、ポッピン。小道具を扱う仕草には、人柄でやすいだろ?

蔦重:ああ・・・いい。良いな小道具。入銀も取れるかもしんねえし。

歌麿:そこ?

蔦重:よし!じゃあ誰が何使うか、考えようぜ!(歌麿の肩を組もうとして、避けられる)ん?

歌麿:あ・・・ちょいと肩凝っててさ。本屋が無茶言うもんでさ。

蔦重:そりゃいけねえ。(立ち上がり、歌麿の肩を揉む)

歌麿:いいよ。(嫌がる素振り)

蔦重:いや、大事な先生の肩だしよ。(揉む)

歌麿:もう、そういうのよしとくれよ!(振り払う。つよに案内されて鶴屋がくる)いや、あんまり馴れ馴れしいのもよ。

蔦重:ああ・・・悪い。(頭を下げる)もう、歌麿先生だしな。

鶴屋:よろしいですか?(うつむく歌麿を、つよが黙って見ている)

 歌麿は、蔦重が提示した案思を描いてみたいと思ったから、絵師として江戸に戻って蔦重と取り組んでいるだけで、もう、人間関係的には修復できない大きなギャップが存在したまま。歌麿側の愛情が拗れているもんだから。 

 嫌いじゃない。本心では好き、それを諦めようとしてきた。辛いから離れたいのに・・・というところ。それは、これまでも書いた通りだ。

 だから、依頼された作品終了後には、歌麿は蔦重からは距離を置きたそう。だが、もしかしたら、蔦重が「また描いて」と言ってきた時に、「じゃあ、描きたいように写実的に描かせてもらいたい。注文無しだったらやるけど?」といった絵描きとしての言い分を、蔦重が「それでもいいから、描いて」と受け入れた結果、生み出されていくのが写楽作品の一群なのでは?

 普段とは画風が違うから、名前を変えそうだもんね。写楽登場の日が楽しみだな。

後がないのか、定信

 今回、面白かったのは黄表紙や錦絵など出版物に対する定信の反応だった。腹心の水野為長が、新作の点数がぐっと減ったとか、中身も、黄表紙が教訓的になってて狂歌は格調高いものが多くなっているし、錦絵も相撲絵や武者絵が流行って「殿の望み通りの流れになってきておりますよ」と喜々として報告したのに、定信ってば本心が垣間見えた。

 「まこと、良い流れではあるが・・・」この続きの言葉は、本当は「つまらんな」だったんだろうねえ。自分が楽しんで読んでいた、往時の恋川春町の黄表紙に比べたらね。「良い流れである」と、水野には言い直したけどね。

 ドラマ冒頭、松平定信はお友達だったはずの本多忠籌や松平信明に「人は正しく生きたいとは思わぬのでございます。楽しく生きたいのでございます!」「倹約礼を取りやめ、風紀の取り締まりを緩めていただけませぬか?」と迫られたが、こう言って却下してしまった。

松平定信:世が乱れ悪党がはびこるのは、武士の「義気」が衰えておるからだ。武士が義気に満ち満ちれば、民は、それに倣い正しい行いをしようとする。「欲」に流されず、「分」を全うしようとするはずである!率先垂範!これよりは、ますます倹約に努め、義気を高めるべく文武に励むべし!

九郎助稲荷:あくまで改革路線を緩めなかった越中守様は、黒ごまむすびの会以来の「信友」らを政の中心から遠ざけ、イエスマンばかりを重用。更なる独裁へと突き進んでいったのでございます。

 独裁だとか、虚勢を張っている人を見ると、内には泣きたいぐらいの弱さを抱えて孤立して困っているんだろうなといつも思ってしまうのだが、厳しい表情をしている定信も、もう泣きたい気持ちでいっぱいに見える。どうしていいか分からなさそう。イエスマンにかしずかれてヨシヨシしてもらわないと心が保てなさそうだ。

 それで、「信友」の本多忠籌、松平信明は定信から離れ、一橋治済の下へと行ってしまった。これで裏から手を回されたら定信も終わりだね。後が無さそうだ。殺される前に手を引くと良いよね、治済は平気で手を下すから。

 しかし、面会時に治済が持っていたのは、前回長谷川平蔵の火付盗賊改方の手によって獄門に処されたという葵小僧の破れ提灯じゃないの?いや、ニヤニヤしている治済だって徳川だから、葵の御紋入りの提灯なんか、いくらでも持っているはずなんだけど。

 でも、何のためにそのアイテムを手に出てきたのか?わからんなー。定信の治世を乱すために、嫌がらせか。「丈右衛門だった男」のように、わざと葵小僧を仕立てて野に放っていたのか?

 さて次回、定信の運命やいかに。あ~、またダラダラ書きすぎちゃった💦

(ほぼ敬称略)

 

【べらぼう】#39 「己の考えばかり」の蔦重、お白州で定信に「田沼恋しき」発言!死ぬ気で戯けたか、ていに張り倒され身上半減の裁き。歌麿も去る

「おていちゃん」呼びの村田屋

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第39回「白河の清きに住みかね身上半減」が10/12に放送された。よりによってお白州で、時の老中を前に戯け切った夫・蔦重の話を聞き、気絶したていを心配して口々に声がかかる中、「おていちゃん!」と何度もちゃん付けする村田屋治郎兵衛に気が付いた。

 そうか、丸屋の跡取り娘であった彼女と、村田屋さんはきっと幼なじみ、昔、ていのことを好きだったけど諦めたクチかな等と考えた。日本橋の地本問屋たちの耕書堂への信頼は、多分に彼女の存在が基本を形成している。蔦重はそこに乗っかっているんだよなと改めて思った。

 先ほど、書き始めの設定中なのに誤ってほぼ白紙状態でブログの「公開する」ボタンを押してしまい、慌てて削除した。ぼんやりしてしまった。日曜日の昼近くになってもほぼ白紙、さて、夜の次回放送までにどこまで書けるかな?昨日、初の移住先での秋祭り参加で体力を使い果たしたもので、早々に切り上げるかもしれない。あらかじめご容赦を。でも、こういう疲れている時ほど、グタグタダラダラはとりとめなくまとまらず、止まらないものでもあるか・・・。

 さて、公式サイトからあらすじを引用する。

  ≪あらすじ≫
第39回「白河の清きに住みかね身上半減」

 地本問屋の株仲間を発足させた蔦重(横浜流星)は、改めを行う行事たちをうまく丸め込み、山東京伝(政演/古川雄大)作の三作品を『教訓読本』として売り出した。一方、きよ(藤間爽子)を失い、憔悴(しょうすい)した歌麿(染谷将太)は、つよ(高岡早紀)とともに江戸を離れる。年が明け、しばらくの後、突然、蔦屋に与力と同心が現れ、『教訓読本』三作品について絶版を命じられ、蔦重と京伝は牢(ろう)屋敷に連行されてしまう…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第39回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

びっくりの定信 vs. 蔦重

 奉行の裁くお白州に、時の筆頭老中がお出ましなんてことがあるのか?そこらへん、滅茶苦茶な行動が普段からできる人物ならともかく、このドラマの松平定信は、割と杓子定規寄りの人物だと思うんだけど・・・とにかく驚いたが、囚われた蔦重のお裁きの場に定信が現れて主人公蔦重と問答した。

 ドラマ的には盛り上がるけど、ああビックリ😲、でもそれで縮みあがるような蔦重じゃなかったね。最後の田沼一派でありますよと高らかに宣言するような、有名な狂歌を口にしちゃっていた。

 ちなみに、北町奉行(初鹿野信興)を演じているのが「おんな城主直虎」で直虎側近・奥山六左衛門を演じていた田中美央。「相方」中野直之役の矢本悠馬は、既に佐野政言で華々しく散っているもんね。新さん役の井之脇海も退場したし、最後の直虎組?

 この方、2017年の「直虎」の後、大河に4作も出ている(田中美央 - Wikipedia)。「どうする家康」の岡部元信は堂々と情厚く、良かったよね。「青天を衝け」では、なんと田沼意次の曽孫・意尊(田沼意尊 - Wikipedia)を演じていたんだ。キリッとした上司に振り回されてオタオタと冷や汗をかく役が似合うイメージが私の中ではあるが、それは直虎のせいだろう。今ドラマの定信役・井上祐貴も、かなりキリッと目元が涼やかだし。

 話を戻そう。前回までに、書籍問屋と同様、地本問屋も株仲間を作って相互監視をすることになっていた。「指図」を受けに山ほど原稿を奉行所に持ち込んで、音を上げさせようという作戦が効いたと言ってよい。九郎助稲荷の解説はこうだった。

九郎助稲荷(綾瀬はるか):蔦重たちは奉行所と水面下でやり取りを重ね、寛政二年(1790年)十月、正式に地本問屋の株仲間が発足。地本の関係者から、月ごとに行事を選び、新しく出す本や絵の内容を「改」める。自主検閲での発行を許されることとなりました。まあ、お分かりでしょうが、こんなものはザルです。にもかかわらず・・・。

 蔦重は、正月に耕書堂で発行する山東京伝の原稿を「これはダメです」と行事の吉兵衛に突き返されていた。「好色本の類は出しちゃならないってなってますし」と吉兵衛が言ったものの、蔦重は「こりゃ、好色を描くことで好色を戒める。そう但し書きしてあんじゃねえですか」と突っ張った。

 さらに、もう一人の行事・新右衛門が「初めてのことですし、奉行所もこちらがちゃんと改めているかどうか、抜き打ちで調べに来るんじゃねえですか」と異議を唱えたのに、引かない蔦重は「じゃあ、教訓読本って書いた袋入りにして売るってんでどうです?」と提案。「教訓読本って書いてありゃ、抜き打ちで調べたりしねえでしょ?」と粘った。

 「それだったらいいんじゃねえか」と他の地本問屋(たぶん奥村屋あたり)から声もあり、「頼む!色を売るしかねえ女たちの力になってやりてえんだよ」と頭を下げた蔦重に、行事ふたりもほだされた。気の毒に・・・。

 表書きが「教訓読本」と書いてあるのに中身が好色本。余計騙してる気がする。お上を甘く見たよねえ、中を見ないとでも思ったのか。

 そして翌年3月。あの時、腕組みをして黙っていた鶴屋喜右衛門だったが、「このまま、何のお咎めもなさそうですね」と蔦重に言い「実んとこ、抜き打ちのお調べなんて有ったんですかねえ」と、蔦重もすっかり気が緩んで返事。でも、溜息をついていたのは作者の政演(山東京伝)だった。

蔦重:何だ?そんな案じてんのか?

政演:そりゃそうですよ。そこここで逃げ道は作っておきましたけど。

蔦重:売れ行きもいいぞ。(吉原の)親父様たちも、ありがてえって。

政演:じゃあ、今日あたり行くべえ獅子ですかね!へへへへへ!

 そこにやってきた「主はどこにおる!」の声。みの吉の「お待ちください!」も空しく奉行所一行は座敷に踏み込み、山東京伝作「錦之裏(にしきのうら)」「仕懸文庫(しかけぶんこ)」「娼妓絹籭(しょうぎきぬぶるい)」の3作の教訓読本が絶版だと、たぶん与力が蔦重等に告げた。

 さらに「蔦屋重三郎および作者、山東京伝こと伝蔵、奉行所にて詮議いたす。連れて行け!」「教訓読本3作を運び出せ!」と同心らに命じ、蔦重も反論する間もなく連れていかれた。政演って、伝蔵って名なんだね。ピンとこないな~。

 お白州にひれ伏した政演は「かような大事になるとは思わなかったのか?」と問われて、声も引っくり返って「二度と書きませんので!蔦重に書けって!」とビビりも極まっていた。

 さて、お白州に引き出された蔦重はと言うと、この頑固者はただでは済まない。

役人:お前が行事を抱き込んだらしいではないか。

蔦重:どうにも好色本だって言いやがるもんで。

役人:どこからどう見ても、好色本であろう!

蔦重:皆様そうおっしゃいますが、私はそのつもりは全くございませんもので、ほとほと困っておりまして。

(扉が開き、北町奉行・初鹿野信興が入ってくる)

初鹿野:この一件、ご公儀を謀った非常に由々しきものと見て、越中守様、直々に検分なされることとなった。

 そして、松平定信がご登場!なんだろうね、黄表紙好きだから、蔦重大明神とかつて崇め奉った蔦重と話をしてみたかったのかな。恋川春町みたいに、知らぬ間に死んでもらわれたら困るというファン心理・・・んな訳ないか。こんな風にふざけていると、私も定信に怒られちゃうな。

定信:面を上げよ。うぬが蔦屋重三郎か。

蔦重:へえ。

定信:どれもこれも女遊びの指南書だが、これのどこが好色でないと?

蔦重:跋文には、「遊びは身を滅ぼす」ことを但し書きしております。故にそれは教訓の本。教訓読本にございます。

定信:これを好色本か教訓本か、それを決めるのはうぬではなく、私だ。心得違いを認め、かような物は二度と出さぬと誓え。

蔦重:・・・越中守様は、透き通った美しい川と濁った川、魚はどちらを好んで住むと思われますか?

定信:魚の話などしておらん。

蔦重:まあ、然様なことはおっしゃらず。雲の上のお方とお会いできるなんて、滅多ねえ訳でございますから。

定信:フン。魚は濁りのある方を好む。

蔦重:よくご存じで。しかし、それは何故にございましょう?

定信:濁りのある方が、餌が豊かであるのだろう。敵から身を隠しやすいというのもあろうか。流れが緩やかなら、過ごしやすくもあろうしな。

蔦重:私ゃ、人も魚とそう変わらねえと思うんでさ。人ってなあ、どうも濁りを求めるところがありまして。そこに行きゃうまい飯が食えて、隠れて面白い遊びができたりして、怠けてても怒られねえ。んなとこに行きたがるってのが人情ってんですかねえ。(初鹿野、役人、定信らが眉間にしわを寄せている)

定信:・・・然様な事、百も承知だ。

蔦重:(ふてぶてしく)そりゃそうだ。五つで「論語」を諳んじられた世に稀な賢いお方に、ご無礼致しました。(頭を下げる。定信はワナワナ怒っている)けど、これはご存知で?近頃「白河の清きに魚住みかねて 元の濁りの田沼恋しき」・・・なんて詠む輩もいるんですよお。(役人一同が怒りの表情)私ゃね、それはそれでけしからんと思う訳ですよ。多少てめえらが窮屈だからって、越中守様は、良き世にするために、懸命にきったねえドブ攫ってくださってる訳でしょう?そこで、私ゃ本屋として、何かできることはねえかと知恵を絞って、それでございます。(左手を差し出す)あくまで「教訓」ですよという体で好色本を出す。これを許す越中守様!こりゃもう、堅いふりして実は分かってらっしゃる。分かってなかったのはこっちってな具合に、評判になる訳ですよ。しがない本屋ではありますが、これからも越中守様の評判を上げるべく(定信が無言で合図を初鹿野に送る)、分に励みたいと思います。

初鹿野:引っ立てい!

役人一同:はっ!

蔦重:(両腕をつかまれ、立たされ、連れていかれる)私ゃねえ、越中守様のためを申してんです!分かってくださいますよねえ!

 5つで論語を諳んじるリアル定信もすごいが、この長い屁理屈のセリフをスラスラと言える横浜流星もすごいなあ、なんて思ってしまった。最近、短期記憶に自信が無いので。

 蔦重がこう言った相手が田沼意次だったら、「ハハハ、ありがた山は面白いのう」なんて反応が返ってきたかもしれないね。「田沼恋しき」は、本当に心から彼の本心だろうし、いっちょ褌の守様の目を見開かせてやろうと思っちゃったかな?

 出来る人ほど、自分が空気を作る者と自覚がある気がする。そういう人だから、他人が作った空気なんかあえて読まないと考えるかと。だが、このドラマの蔦重の場合は、どちらかと言えば、意図的というよりも空気が読めない人種かと思ってるんだけどな。境目か。

 空気が読めなくったって仕事に適したアイデアがどんどん浮かぶ人たちっているよね。いずれにしても、空気を読まず、どんどんバリバリ前進する人たちこそが、新しい世を切り開く。でも、天才じゃなく秀才の定信には通じないってことだよね。で、蔦重は拷問を受けることに。

 蔦重が、定信相手に盛大に戯けたと長谷川平蔵に聞いて、ていは失神。平蔵、こういう風に情報をもたらしてくれるのっていいなあ。町方のことを心配してくれているんだよね。

須原屋:躾ってこたあ、ほぼ見せしめですな。

長谷川平蔵:ああ。常ならば、詮議してから絶版であるし。

宿屋飯盛:近頃、その辺りがどうも・・・。

 公事宿の知り合いが多いとのことで宿屋飯盛も加わった。平蔵の説明によると、今回の蔦重に対するものは「躾」だと。ほぼ見せしめ、と須原屋が意味を解いた。詮議もなく絶版というのは、プロセスはどうでもいい、俺が法だ、と定信が命じているのか?

 ていは、命乞いをしてもらえないかと聞いたが、鶴屋は「累が及ぶことを考えれば、命乞いはできませんよ。皆、店も家もあります」と返事。いやいや、命乞いなんかしてごらんなさいよ、蔦重のあのお白州での態度に絶句することになるだけだって。誰もお付き合いできないでしょう。

 夫の命と店の命運が心配でも、「愚にもつかぬことを申しました。お許しを」と言えた、分別あるおてい。彼女しか、蔦重を助けてと訴え出ることはできない状況に追い込まれた。「命乞いをした者も、ただでは済まぬかも」と平蔵には脅されてしまったが、ていは「参ります。座して死を待つだけなのであれば」と言い切った。

 もうね、この脚本家は分かってらっしゃる!ここで、ていが大活躍だ。

おていの闘い、学者相手に論語オタクが問答

 長谷川平蔵がここでも良い仕事をした。ていの話を聞いてもらう相手として選んだのが、定信のご意見番である柴野栗山だということ。この人選を間違ったら危うかったよね。同席している時の小芝居も面白かった。

柴野栗山:面を上げなされ。

長谷川平蔵:栗山先生だ。

てい:本日は、お忙しい中、まことにありがとう存じます。蔦屋重三郎の妻、ていと申します。

栗山:話されよ。

てい:「子曰く、之を導くに政を以てし、之を斉うるに刑を以てすれば、民免れて恥無し。之を導くに徳を以てし、之を斉うるに礼を以てすれば、恥有りて且つ格る」(ウンウンとまあ分かった感じで頷く平蔵)

栗山:「君子は中庸し、小人は中庸に反す。小人が中庸に反するは小人にして忌憚なきなり」(うん?という表情の平蔵)その方の夫は2度目の過ち。許しても改めぬ者を許し続ける意味がどこにある?

てい:「義を見てせざるは勇無きなり」。夫は、女郎が身を売る揚げ代を、客に倹約しろと言われていると嘆いておりました。遊里での礼儀や女郎の身の上、然様なことを伝えることで、女郎の身を案じ、礼儀を守る客を増やしたかったのだと思います。女郎は、親兄弟を助けるために売られてくる孝の者。不遇な孝の者を助くるは、正しきこと。どうか、儒の道に損なわぬお裁きを願い出る次第にございます!

 カッケー。拍手喝采だ。この、おていさんが言ったこと「遊里での礼儀や女郎の身の上、然様なことを伝えることで、女郎の身を案じ、礼儀を守る客を増やしたかった」を、蔦重はお白州で定信に言えば良かったのにねえ。田沼びいきの反発心がどうしても出ちゃったんだよなー。そのせいで、巻き込まれた人たちが気の毒。

 それと「女郎は、親兄弟を助けるために売られてくる孝の者」の部分。大事なところだよね。好き好んで苦界に売られてきている訳じゃない。その部分に目を向けることができていない為政者は、その当時だけの話じゃない気がする。ていさんの話を聞いてほしい。

 ようやく最近の話じゃないかと思うんだけど?後ろで搾取している者どもが捕まるようになってきたのって。それも、まだまだ不十分に見える。

 栗山は、定信にこう話していた。

栗山:「過ぎたるは猶及ばざるが如し」。あまりに厳しい処分は、正学たる朱子学との矛盾を生み、御公儀の威信を損なうこととなりましょう。然様な刑罰を与えられる者こそ、賢者にふさわしくございますかと。

 結果として、政演には町奉行の初鹿野から「みだらなる風俗を描き、市中の風紀を乱した罪により、手鎖50日」が言い渡され、地本問屋仲間の改の奉行をしていた伊勢屋吉兵衛、新右衛門ふたりは、本当に気の毒なことに江戸払い!が申し渡された。蔦重に押し切られちゃったばかりにね・・・。

 そして、蔦重には「みだらなる書物を発行し風紀を乱した罪、および数々のご政道批判につき、身上半減とす!」が言い渡された。上記ふたりの、江戸を追い出される江戸払いより全然マシなお裁きになった。ドラマではなかったが、実際は賄賂での働きかけも相当あった?じゃなかったらこんなに軽く済まない気もするよね。

 この言い渡しの時に、蔦重の減らず口は健在なのが彼らしいと言うか・・・ここでもおていに助けられる格好になった。

蔦重:(天を仰いで)・・・ああ。

てい:(控えの座でつぶやく)身上半減って?

蔦重:そりゃあ、縦でございますか?横でございますか?ハッ、身を真っ二つってことにございますよね。

北町奉行初鹿野:蔦屋耕書堂、およびその方の身代の半分召し上げるということだ。

蔦重:然様で!いやあ、こりゃあ富士より高き、ありがた山にございます!(控えている駿河屋市右衛門が苦虫を嚙み潰したような顔)

初鹿野:以後は心を入れ替え、真に世のためとなる本を出すことを望んでの沙汰である。

蔦重:真に世のため・・・それが難しいんですよねえ。(おていが睨む)どうでしょう?真に世の為とは何か、お奉行様、一度、膝を詰めて。(足音が響く)叶うなら越中守さ・・・(おていに顔を叩かれ、はり倒される)何で・・・え?

てい:(蔦重を揺さぶり、叩き続けて)己の考えばかり!皆様がどれほど・・・!べらぼう!

蔦重:すまねえ・・・。

 今回の「べらぼう」はおていさんの口から。この後、蔦重は鶴屋喜右衛門にも怒られていたよね。「間違えて借金も半分持ってってくんねえですかねえ」と軽口をたたいて「ほんと、そういうところですよ!」と。鶴屋は仏顔が売りなのに。

 まさに、べらぼうの面目を施したと言うべきか、蔦重は裁きを、また店の売りにした。「身上半減ノ店」と看板を掲げて、畳を半分持っていかれたり、暖簾に半分ハサミを入れられたり、看板商品の名を半分切られている現代で言うポップ?をそのまま見せ、江戸っ子を面白がらせたのだった。ふう、懲りないねえ。

心配な歌麿、つよが繋ぎ止めるか

 さて、歌麿だ。歌麿は薄々分かっているような気もするんだけれども、蔦重が愛妻きよを決定的に奪った憎き仇とでも思っている様子だ。

 憔悴した彼を見守って癒す時間が必要なのは自ずとわかるが、せわしない江戸も、同様にせっかちな蔦重も、それを許さない感じ。常にそうきたか、そうきたかと頭をクルクル回転させて物事を乗り切っている蔦重は、人の回復をじっくり見守るなんて到底できそうにないもんね。

 幻影のおきよの言うままに屈託なく後追いしようとし、止めようとした蔦重を殴って「おい、おきよはまだそこにいんだよ!」と暴れ、飲み食いもロクにしなくなった歌麿は、きよの着物を羽織って泣いていた。この時の虚ろな感じがホントに哀れで涙を誘うよね。さすがの染谷将太。

 つよの握り飯を食べてくれた時、ああ良かったと全視聴者がホッとしたと思う。いいじゃないか、栃木への旅で、疑似親の愛でも浸らせてあげなよ。

 この時の、蔦重の唐変木がよく分かる会話。

つよ:(憔悴した歌麿がいる部屋に、お重を手に入っていく)歌。ここに置いとくね。気が向いたら、食べとくれよ。(お重の包みを解く)

歌麿:(無言で、泣き始める。つよが、抱き寄せてよしよしと背中をさする。歌麿は泣き続ける)

つよ:茶、淹れてくるね。(歌に告げて、部屋を出てくる)

蔦重:(廊下でつよに)おい、何だよ今の。

つよ:何か、思うとこがあったんじゃないのかい。

蔦重:何かって何だよ。

つよ:分かる訳ないだろ。赤ん坊みたいなもんだよ。泣けば、何かあったのか。笑えば治ったのかって。今はそうやって凌いでいくしかないよ。私、当分こっちにいるからあんた、戻りなよ。

蔦重:いい。今日明日代わってくれりゃ。

つよ:あんたより、私の方が役に立ちそうだしさ。向こうはあんたがいなくて天手古舞してるよ。

歌麿の弟子菊麿:どうぞ。あっしらも目を離さないようにしますんで。

(歌麿が、お重の中の握り飯をつかんで食べ始める。)

蔦重:(部屋に一歩入って)歌、また来るな。(無視して食べ続ける歌麿)

 傷ついている歌麿。愛するきよを奪われ(それは蔦重のせいだと思って)心にはザックリ傷を負い、まだドクドクと血が流れ続けている状態だろう。

 心の傷つきが、目に見えたらいいのにね。「今、全て無理ですから」が周囲にも見えれば、犯罪被害者やご遺族も、きっと二次被害を与えられることが減ると思うのになあ・・・残念だが、そうやって見て分かる能力は、「三つ目」じゃないノーマルな人間にはない。

 だとしても、歌麿の様子を見れば、大体のところは推測できるものだが蔦重は「己の考えばかり」で解決を急ぎ、遠慮なく踏み込んで嫌われるんだろう。せっかちな実業家タイプ。相談には乗るけれど、相手に十分共感できず、そこをすっ飛ばして解決策を示したつもりでひとり悦に入って嫌われる、か。

 可愛がってきた蔦重の個人的な思いもある上に、歌麿は利益を生む人物であるし、彼のキャリアのためにも、自分が見守って回復させたい蔦重の考えも分からないでもない。でも、段階があるし、歌麿の気持ちもある。今は離れて、つよの言う通り見守るしかない。

蔦重:(帰宅)ただいま。

てい:お帰りなさいませ。

つよ:お帰り~。

蔦重:おう。何やってんだ?

つよ:歌が、栃木のご贔屓のとこ行くって言い出してさあ。頼まれてた肉筆の絵、あったんだろ?それを向こうで描くって言い出して。(支度の手を止めない)

蔦重:大事ねえのか?向こうで後追いとか・・・。

つよ:だから、ついてくんじゃないか!

蔦重:よし、じゃあ俺も。

つよ:やめときなよ!あんたから離れたいってのもあるみたいだよ。

蔦重:え?なんで?

つよ:知らないよ。あんたに相談したらって言ったら、「もう関わりないから」って。

蔦重:ああ・・・。

つよ:何か、やらかしたんだね。

蔦重:おていさん・・・。

つよ:やめときなって!

蔦重:けど、歌麿とちゃんと話さねえと・・・。

つよ:そりゃ、自分の為だろ?歌の為じゃなくて、歌に自分の気持ちを分かってほしいだけだろ?今はまだ、そういうのはダメさ。

 この後ひとりになった蔦重は、歌麿の絵をめくりながら「なんであんなこと言っちまったんだ」と悔やんでいる。「お前は鬼の子なんだ!」のことだろう。続けての「生き残って、命、描くんだ。それが俺たちの天命なんだよ」は良いとしても、鬼の子ワードは、鬼母との関係を考えても歌麿には禁句だよね。

 この、おきよをモデルに描いた何枚もの歌麿の絵の中には、まるきり「ポッピンを吹く娘(婦女人相十品・ポッピンを吹く娘 文化遺産オンライン)」の構図を思わせる絵があった。それをしげしげと眺める蔦重。名作の習作となるんだな。ジャンルとしても、新しく大首絵が生まれることになりそうだ。

 しかし・・・こんなにも人情の機微の分かるおつよが、なぜ幼い蔦重を手放して姿を消すような真似をしたんだろう。ここらへんの物語をスピンオフで見たいなあ・・・と思ったが、駿河屋市右衛門を始め、みんな俳優陣が不自然な若作りしなきゃダメだよね?💦おっと。

 いや、スピンオフにはそっくりさんの若い人たち中心に集めよう!駿河屋は、「虎の翼」で「#俺たちの轟」のタグも生まれた戸塚純貴でどう?眉毛ね、眉毛が良い感じ。

 つよは誰かなあと、AIに聞いてみたら若手女優で高岡早紀に雰囲気が似てそうなのは広瀬すず、浜辺美波、小松菜奈、河合優実なんだとか。この面々の中だったら小松菜奈かな?広瀬すずも面白くなりそうだよね。妄想が止まらん。

 そうだそうだ、火付盗賊改め方長谷川平蔵が活躍していたねえ!スピンオフを望む声も大きくなってるかな?大岡越前もTBSからNHKBSに来たのだから、鬼平犯科帳も?それは時代劇専門チャンネルが「ちょっと待ったー」と許さないか・・・。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#38 薄幸の若夫婦😢愛妻きよを亡くし狂気の歌麿。定信の出版統制でピンチの蔦重、地本問屋仲間や鬼平を巻き込み「そうきたか」

もっと幸せを味わってもらいたかった

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第38回「地本問屋仲間事之始(じほんどんやなかまことのはじまり)」が10/5に放送され、やっと幸せを見つけたかと思った歌麿の妻きよが、梅毒に命を奪われた。前回ブログで先走って触れた通り、歌麿の妻きよの死は史実だから仕方ないか・・・でも、これまで幸薄かった二人だから、もっと長く、幸せに浸って見つめ合う時間を与えてほしかったな。

 公式サイトから、あらすじを引用する。

≪あらすじ≫
第38回「地本問屋仲間事之始(じほんどんやなかまことのはじまり)」

 蔦重(横浜流星)は、歌麿(染谷将太)のもとを訪ねると、体調を崩し、寝込むきよ(藤間爽子)の姿があった…。そんな中、蔦重は鶴屋(風間俊介)のはからいで、口論の末、けんか別れした政演(京伝/古川雄大)と再び会うが…。一方、定信(井上祐貴)は平蔵(中村隼人)を呼び、昇進をちらつかせ、人足寄場を作るよう命じる。さらに定信は、改革の手を緩めず、学問や思想に厳しい目を向け、出版統制を行う。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第38回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 蔦重が歌麿の弟子菊麿に呼ばれて歌麿の庵を訪ねた時、病臥するきよが、蔦重の姿を認めて錯乱した様子を見せたのが、ドラマを見ながらなぜ?と気になった。妄想で、何かと勘違いでも?と考えていたら、母つよがヒントを言ってくれたようだ。

蔦重:何で、絵描いてやりゃ落ち着くんだ?

つよ:自分のことだけを見ててくれれば嬉しいんじゃないのかい?惚れた男がさ。

 歌麿に、自分だけをずっと見ていてほしかった、きよ。だけど蔦重は歌麿の心にずっと居る(居た?)人だから、きよはそれを感じ取っていたか。だから蔦重を前に、心が騒いじゃったんだろうね。歌麿ときよ、身寄りを失っていた二人が人生で本当に初めて、深く思い合える相手を見つけていたんだ。その相手を・・・残酷なことだ。

 きれいな満月がアップになった時、またも「麒麟がくる」の信長様のワンシーンが始まるのか、或いは「光る君へ」かと一瞬思ってしまったが、そうじゃなくてね。初めて会話をする(できないはずなんだけど)きよが月の光に照らされて、縁側にいた。超常現象が満月の夜には似合うな。

歌麿:(布団に横たわるきよの体を拭きながら)俺のおっかさんはいっつも男の方ばっか見ててさ。けど、酔いつぶれて世話してる時だけは、こっち見てくれっから・・・世話すんのは嫌いじゃなくてさ。

きよの幻:こっち向いてもらえると嬉しいから?

歌麿:そうそう。ガキってのは、どんな親でも親が好・・・(我に返って声の方向を見る)

きよの幻:(縁側に腰かけ、団扇を手にしている)私もそんな子だった。歌さん。(月明かりの中で微笑む)

歌麿:(縁側をじっと見つめ、振り返ると、布団の中に実際のきよがいる。抱きしめる)行かねえで、おきよさん・・・お願えだから。(きよの頬に触れる)俺には、おきよさんしかいねえの・・・(どんよりした眼差しを彷徨わせるおきよに、頬を寄せる)置いてかねえで。ずっと見てっから・・・。(涙、きよを抱きしめる)

 きよは、この世に別れを告げた後で歌麿の前に姿を現したのかと思ったら、そうじゃなかった。歌麿が慌てて「いかねえで、ずっと見てっから」と寝ているきよに抱きついたら、きよは未だ今わの際にいたようだった。

 あれはどういう意味?普通なら、亡くなってからの幽霊登場と相場が決まっている。順番が違うと思うのだけれど。歌麿が「三つ目」だから、妖の世界に足を踏み入れようとするきよの姿を捉えることができたのか?

 弟子に呼ばれ、2度目に蔦重が庵を訪ねた時には、きよは哀れにも事切れてしばらく経過した様子で、ハエも周囲を飛んでいた。腐って崩れたか、ところどころ包帯も巻かれ、弟子たちの挙動から、かなり臭いもした様子。布団の下の畳も、人型に黒く染みがあった。亡くなって長いか、あるいは、生前から長くそこで闘病して布団を敷きっぱなしだったこともあるのかもしれない。

 歌麿・・・死んだきよに包帯を巻き、まだ「お世話」を続けていたのだろう。

 その死を信じず「まだ生きてっから」と言い張り、彼女の死に顔を描き続けて髭も月代もボーボーになった歌麿。「こうやったら一緒に逝けるって、おきよが」と梅毒死したおきよの手の甲に口づけしようとする狂気の彼から、強引にきよの亡骸を奪って(供養しないと成仏できないから💦)、蔦重は言った。

蔦重:お前は鬼の子なんだ!生き残って、命、描くんだ。それが俺たちの天命なんだよ。

 鬼の子・・・この鬼母から幼い歌麿が言われ続けたキーワードを言って、蔦重は泣いて暴れる歌麿から叩かれ続けた。自身の半身をもぎ取られたように深く傷ついた歌麿を、今後どうやって支えるのだろう。

 そうだった、栃木だよね。歌麿には栃木での肉筆画の仕事が控えていたんだった。東京から伊豆に移住してちょうど1年の私は、何よりも圧倒的な自然の美しさを日々感じている(昨日も近所の道を鹿がのそのそ横切っていった)。・・・歌麿ね、栃木の自然の中でいっぱい泣いて、きれいな物をたくさん見て、美味しいものを食べて、癒されてきてよ。環境を変えるのが一番。ただ、U字工事があんまりはしゃぎすぎて煩くしませんように。

まだまだ対立中だった政演と蔦重

 「蔦重さんとこでは、一切書かねえっす!」と政演に宣言されたものだから、蔦重が「いい度胸だな。日本橋を敵に回して書いていけると思うなよ」とドスを効かせてマジ顔で脅していた。

 あらあら・・・表では如才なく日本橋の良いところの本屋の旦那さんのような顔をしているが、余裕が無いと、やっぱり吉原の親父様・駿河屋市右衛門譲りのやり方に似た、素が出てきちゃうんだなあ。

 鶴屋喜右衛門には「何を勝手なことを言ってくれたんですか」と窘められていたが、それも「もう言っちゃった」とばかりにどこ吹く風、蔦重には反省が感じられない。

 前回からの続きで、政演と蔦重はまだ揉めている。「戯け者は、褌(松平定信)に抗ってかねえと一つも戯けられない世になっちまう」と焦っている蔦重をよそ目に、越中ふんどしの守の言う事を面白く担いでいる黄表紙「心学早染草」を、上方の本屋に頼まれて、こっそり書いてしまった政演(上方の本屋を演じるは元和牛の片割れ)。

 「面白くなきゃ、どのみち黄表紙は先細りになっちまうよ!それこそ、春町先生に嵐みてえな屁ひられるってもんじゃねえですかね!」と、政演が言う理屈はごもっともだけに、政演だって譲れない。それで、決裂。

 この二人を和解させようと間に入ったのは、鶴屋喜右衛門だった。

 政演が鶴屋に来たところに、蔦重も予め控えているという塩梅だ。「ちょいと、聞いてないですよ!」と、蔦重を見ていきなり逃げ腰の政演。年季の明けた菊園と所帯を持つことになった政演に、鶴屋さんと蔦重からの祝いの品が用意されていたが、顔は分かりやすく強張ったままだ。

 所帯を持つと色々と入り用だろうと、これからは、鶴屋と蔦重から作料とは別に年30両を決まって支払うことにしたと告げられて驚いた政演だったが、「私たちの仕事をいの一番にやっていただくことになる」と鶴屋に言われた時には、「それ、鶴屋さんだけでって話にはできねえですかね?」と抵抗した。あはは💦ヤダよねー。

蔦重:こないだのことなら悪かったよ。

鶴屋:怒らないで!

蔦重:謝ってるだけじゃねえですか!!

鶴屋:京伝先生も、そこまで嫌がること無いんじゃないですか?

政演(京伝):俺・・・モテてえから絵やら戯作やら始めたんですよ。ありがてえことに向いてて、向いてることすんのは楽しくて、面白え人たちに囲まれて、ヘヘッ、なによりモテて、へへへ!どこ行ってもモテて。あ~ほんと楽しかった。(蔦重の白い目に気づく)蔦重さんの言うこともわかんですよ。春町先生のことだって大好きだったし!けど、正直なとこ、世に抗うとか柄じゃねえってえか・・・。俺ゃ、ずっとフラフラ生きていてえんですよ。浮雲みてえに。へへへへ!

蔦重:あのよ。遊ぶな、働け、戯けるなって中で、どうやったら浮雲みてえに生きてくっつうんだよ?

政演:俺一人、雲一個くれえ何とかなんじゃねえですかねえ?

蔦重:てめえだけ良きゃ、それでいいのかよ!

鶴屋:蔦屋さん!

蔦重:(立ち上がる)てめえがその生き方できたのは、先にその道を生きてきた奴がいるから。周りが許してくれたからだろうが!な、今こそてめえが踏ん張る番じゃねえのかよ!

政演:しくじったのは、蔦重さんじゃねえですか!これ以上、俺にのっけねえでくだせえよ!(沈痛な顔の蔦重)

鶴屋:(パン!と畳を叩いて)はい、今日はここまで。

 この直後、店の手代らが「奉行所から呼び出しが!」と部屋に駆け込み、政演との話どころではなくなったが・・・いくら蔦重に「踏ん張れ」と言われても、蔦重の路線で踏ん張って書いてしまったら、誰だって飛んで火にいる夏の虫になるだけ。大田南畝が筆を折り、朋誠堂喜三二が国に戻され、そして恋川春町が腹を切った意味を、蔦重は頭を冷やしてよーく考えた方が良いよね。

 己の考えに囚われ、まだ田沼時代から頭の切り替えができていない。もう、話せばわかるお上じゃないよー。作家や絵師が気の毒だ。

さらなる出版統制がやってきた

 さすがに、蔦重も思い知らされる事態になった。奉行所からの呼び出しは、新たな出版統制に関するものだった。「黄表紙、浮世絵なぞ、そもそも贅沢品。良からぬ考えを刷り込み、風紀を乱す元凶である」と断言する定信は、自分の中の黄表紙好きを完全に葬ったか?推しの春町を死なせて布団部屋で泣いて以来、覚悟は定まっているか。

 ここで九郎助稲荷の解説。

九郎助稲荷:越中守様の出したお触れは、後の世で「出版統制」とも呼ばれ、戯作や浮世絵に初めて規制がかかるという、江戸の地本にとって大きな危機となりました。

北尾政演(山東京伝):(お触れを読みながら)今後、一切新しい本を仕立ててはならぬ?

九郎助稲荷:そして、その文面から、蔦重が出した黄表紙が取り締まりのきっかけとなったのは明らかでした。

 え、江戸の地本にとって?江戸だけなの?・・・とりあえず、寛政二年(1790年)5月に発令された松平定信の出版統制令について、ドラマぴったりの解説があったので、リンクのURLを。この他にもあったが、本当に便利な世の中になったよね、こうやってどんどんプロや同好の士が必要な知識をアップして披露してくださる。

serai.jp

 お触れのきっかけになったのは耕書堂の黄表紙。絶版を食らった「文武二道万石通」「鸚鵡返文武二道」「天下一面鏡梅鉢」の3作がそうなんだろう。蔦重と鶴屋が出版関係者(本屋、板木屋、摺師、戯作者、絵師、狂歌師)を集めて打開策を練りたい様子だけど、まずは蔦重が謝らない事には話は始まらない。

 自分が政演に押し付けようとした路線が危ういことに、ようやく蔦重も気づいたか?ところで、会合には懐かしい鱗形屋に西村屋も。今までどこにいたの?中の人たち、よその仕事が忙しかったのか?

蔦重:(手をついて、深々と一同に)申し訳ございません!こたびの触れは、間違いなく私のしくじりがきっかけ。まことに、申し訳ございませんでした!

本屋松村屋弥兵衛:どうすんだよ、これ!新しい本や絵は作っちゃならねえって!

彫師四五六:これから、摺り直しだけしか作らねえって事かい?これからどうやって食ってけって言うんだい!

蔦重:申し訳ございません!

本屋西村屋与八:謝られたって困んだよ。一体、どう落とし前つけてくれるってんだい?べらぼうが、ったく。(他からも口々に苦情の声)

蔦重:申し訳ございません。

本屋鶴屋喜右衛門:(パンと手を叩いて)お静かに。何か、手は考えてるんですか?蔦屋さん。

蔦重:へえ。ここはひとつ、お上に触れを変えさせようと考えております。

一同:はあ?

本屋村田屋治郎兵衛:触れを変えさえる?

蔦重:へえ。

本屋鱗形屋孫兵衛:お上に、やっぱり新しく作っても良いぜって言わせるって事か?

蔦重:そうです。

西村屋:できるわけねえだろ!べらぼうが!

松村屋:そりゃ、いくらなんでも無理だろ!

本屋奥村屋源六:あ~無理無理!

戯作者芝全交:そんなことができるんですかねえ。

絵師北尾政美:それはさすがに・・・(腕組み)

鶴屋:(パンパンと手を叩いて)お静かに。

蔦重:皆様、いま一度触れを見ていただけますか?

一同:ええ?はあ・・・。

蔦重:新規の仕立ては無用、けどどうしても作りたい場合は指図を受けろってのがあんでしょ?だったら、江戸中の地本問屋が指図を受けに行きゃどうかと。山のように草稿を抱えて。んなのたまんねえでしょう。音え上げて、指図は受けずともいいってなんねえかって。

鱗形屋:でもそれじゃ、指図もくそもなく一切出すなって事にはなんねえのかい?

一同:そうだよ、そうなるよ!

蔦重:まあ、上手く話を持っていかなきゃなんねえですが・・・。

西村屋ら:その前に、持ってくもんってなあどうすんだよ?山のような草稿なんて、どこにあるってんだ!そうだ!

蔦重:そこは、皆様で急ぎ作っていただく・・・とか。

一同:はあ?

西村屋:ふざけてんじゃないよ、べらぼうが!(政演が話を聞いている)

蔦重:もちろん、私も作ります。

狂歌師&戯作者・宿屋飯盛:山のような草稿って一体いつまでに必要なんで?

蔦重:できれば一月で。

松村屋:一月?一月でできるわけねえだろ、べらぼうが!

奥村屋ら:そんな早く書ける奴いる訳ねえだろ!そうだ!(筆の早い政演が考えている様子)

蔦重:そこを何とか、皆様の力をお貸しくだせえ!お願いします!(頭を下げる)

多くの面々:帰るぞ!帰ろう、帰ろう!

絵師勝川春章:(同じ絵師北尾重政に)んじゃ、助太刀に行きますか。潰れちまうからねえ、勝川一門も、北尾一派も。

宿屋飯盛:お弟子さん、山ほどいらっしゃいますもんね。

北尾政美:お世話になってます!(頭を下げる)

北尾重政:そうそう、弟子が世に出られなくなっちまうからね。(立ち上がる。数人後に続く)

蔦重:お力をお貸しくだせえ!お願いします!

勝川春章:おう、ちょいと失礼するよ。

北尾重政:よっ。俺たち、役に立てっかな?

蔦重:もちろん。ありがた山にございます!(頭を下げる。政演、鱗形屋も思案中)

重政:それにしても、べらぼうな案だねえ。

宿屋飯盛:でも、草稿持ってって奉行所を困らせるなんて面白そうですよね。

春章:あいつらを困らせるにはやっぱり数か?

重政:それとも、絶妙な具合で同心たちをうがってみるとか?

芝全交:分からないようにっていうのは、腕が鳴りますねえ。縛りがある方が面白いもの書けますし。

政美:絵を付ける甲斐もあるってもんですね!(政演、西村屋なども思案中)

 後半の口々のセリフは、一体誰が言ったものやら、テキトーになってしまった。なぜかと言えば、セリフの間、思案中の政演などの顔が映っているバックにセリフだけが聞こえてくる趣向だったから。間違いはいつものことながら、ご容赦を。

 思案中の政演の脳裏に甦ったのは、蔦重の例の言葉。「てめえがその生き方できたのは、先にその道で生きてきた奴がいるから。今こそてめえが踏ん張る番じゃねえのかよ!」そして、自分の言葉「しくじったのは蔦重さんじゃないですか!」だったのだが・・・政演から、蔦重に声をかけた。

政演:蔦重さん!(周りをキョロキョロ見て立ち上がって、笑顔で)俺、戻って草稿書いてきますね。

蔦重:(向き直って)いっそ、そのまま出せるもん頼むぜ。京伝先生。

政演:(ウンウン肯いてから)はい!

鶴屋:(一同を見て)まあ、京伝先生もやるって仰ってくれている訳ですし。

鱗形屋:(顔を上げて)よし、蔦重。また面白え案思、考えようぜ。

蔦重:へえ!

 蔦重の提案に乗って皆が何とか草稿を搔き集め、指図を求めて奉行所に出すことになるという、胸アツ展開。草稿が集まり山となった奉行所からは「やってられるか!」という期待通りの反応が返ってきたが、それを定信はまたスカして「浅知恵」なんて呼んでいた。

頼りはカモ平(鬼平)!

 その定信を攻略すべく蔦重が担ぎ出したのが、カモ平(鬼平)長谷川平蔵。単純で良い奴だよね、それは皆が認めるところだ。でも、吉原の救世主になれるのか?事は遊里に相当厳しいらしい、理由を付けてポーンと計150両もの金を平蔵に出すのだから。

 「断っておくが、賂代わりのもてなしなら、受け取ることはできぬぞ」と言いながらも吉原で蔦重に接待される平蔵の前に、これまた懐かしい面々が。えー、初回に姐さんのお弁当を食べちゃった人だよね?それが河岸見世二文字屋の女将はまになってたか。先代きくが、ご存知のかたせ梨乃。

 きくは、平蔵に50両を差し出して「どうぞお納めくださいまし」と、はまと共に頭を下げた。

長谷川平蔵:何の金だ?賂なら、受け取れぬぞ!

蔦重:賂ではなく、ご返金にございます。

平蔵:返金?

蔦重:へえ。

きく:長谷川様が騙されてくださったおかげで、河岸は食いつなぐことができました。

はま:私も、今日この日を迎えられております。

平蔵:俺が、いつ騙されたのだ?

蔦重:花の井のために入銀した50両。ありゃそのまま河岸に流して、米買いました。

平蔵:え?え?だから花の井の花の絵は無かったのか!

蔦重:ええ。まあ、情に厚い花魁でしたから、河岸を捨てておけなかったんでしょう。どうか、お許しを。

平蔵:そうだったのか(鬢のシケをいじって喜んでいる)。花の井、さすが俺の金蔵を空にした女だぜ。

蔦重:で、こちら。(袂から金50両を出す)利息にございます。人足寄場は、年たったの500両。足りない掛かりは長谷川様の工面。金繰りが大変だとお聞きしました。

平蔵:利息はこれしきか。

駿河屋市右衛門:(咳払いし、立ち上がる)

平蔵:冗談だ、冗談。

駿河屋:(さらに50両を出し、頭を下げる)長谷川様。どうか、もう一度吉原を救ってくださいませんでしょうか?(平蔵の手を取り、金を握らせる)今、倹約と悪所潰しで河岸は大変なことになってます。加えて、黄表紙、錦絵、細見もだめになるって話もあります。そうなりゃ吉原はもう・・・!

平蔵:いや、賂は受け取れんのだ!

蔦重:人足寄場は悪党とならざるを得なかった者たちを救う役目もあると聞いております。どうか、身を売るより他ならぬ女郎たちも、お救い下さいまし。(深々と頭を下げる)

平蔵:・・・分かった!分かった!何をすればよいのだ?

蔦重:へえ。越中守様から、ある言葉を引き出していただきたいのでございます。

 倹約と悪所潰し、細見もダメ、錦絵も黄表紙もダメと・・・本当に娯楽が撲滅されちゃう清い世。定信政権の下、娯楽産業で生きる人たちはお先真っ暗だ。男はなるほど人足寄場で対応すれば良いかもしれないが、定信は女側のことはどうやって手当てしようとか考えてる?全然考えてなかった?

乗せられる直情定信

 人足寄場については、ドラマではこういうことだった。倹約による不景気から町の治安が乱れ、政演が黄表紙に書いた「悪玉」を提灯に書き、街で暴れ回る若者が多くいた。それを「かようなことは、端から見越していた」「これは、不景気により田沼病に冒された者たちがあぶり出されてきたということ」と、さも予想していたように言う定信。相変わらず負けず嫌いだねー。

 定信は、「そ奴らを放り込み、療治する寄場を作ることとしたい」「寄場で真人間に鍛え直し、元百姓なら田畑に帰し、町人なら、鉱山など人の足りぬところで働かせる」つもり。今の東京都中央区にあった江戸石川島に設けられ、日本の刑務所の走りとも言われた「人足寄場」だが、それを、火付盗賊改方の長谷川平蔵が担当するよう命じられたのだった。(加役方人足寄場 - Wikipedia

 お役目には公金からは500両しか出ず、あとは命じられた平蔵の持ち出しらしい。こんな仕事はみんな断るよね、大変だ。でも、平蔵は「市中の事情に通じ、ならず者たちの扱いにも長けている」と定信に持ち上げられた上に、父の悲願だったという町奉行というニンジンを「考えぬでもない」と、ちらつかせられて引き受けたのだ。

 平蔵は、手元不如意まではいかずとも、懐は相当厳しいはず。そこに吉原が目を付けた・・・というか、何とか理由を付けて、若きカモ平だった頃の平蔵から吉原が巻き上げた分を全額お返しする勢いで、縋りついている。

 確かに、この上ない頼みの綱になりそうだもんね。田沼時代だったら意次に直接町方の声を届けることもできただろうが、松平定信にはそうはいかない。そこでワンクッション、平蔵を使うのだね。

 それで、吉原の決死の頼み・150両の重みを背負って、平蔵がどう定信に働きかけたか。蔦重相手に、相当練習したんだろうなー😅

定信:寄場はうまく進んでおるようだな。

平蔵:はっ。ところで、お耳には入っておりまするか?奉行所の件の方は。

定信:市中の本屋どもが、やたらと奉行所の指図を仰ぎに来ておる件か。

平蔵:さすが、お耳が早い。

定信:大方こちらに音を上げさせ触れを緩めさせようという、本屋どもの浅知恵であろう。

平蔵:なるほど、ご慧眼にございますな。いかがなさるおつもりにございますか?

定信:指図を受けられる数を限ろうと思うておる。ひと店につき、年1点までと。

平蔵:さすがのお考えにございます。本など、上方に任せればよいと某も考えます。

定信:上方、どういうことだ?

平蔵:実は今、上方の本屋が江戸に店を出してきておるようで。江戸で新しき本が出せぬとなれば、上方が待ってましたとばかり、黄表紙も錦絵も作るようになる。黄表紙と錦絵は江戸の誇り、渡してなるものか!・・・と躍起になっておるようです。まあ、くだらぬ町方の、意地の張り合いにございますよ。

定信:くだらなくなどなかろう!江戸が、上方に劣るなど、将軍家の威信に関わる!

平蔵:然様なこととなりまするか?

定信:然様なことも分からぬのか!

平蔵:ご容赦を!(手をついて頭を下げる)どうにも私は浅知恵で。しかしながら、ではどうすればご威信を守ることが出来ましょうか?

定信:そうだな、例えば・・・書物と同じように・・・。

 ・・・ということで、蔦重等が狙った通りのお達しが出ることになった。定信の、実は黄表紙好きだったってことが、ここで効果を発揮したのでは?蔦重の説明によると、こうだった。

蔦重:へえ。「地本も書物のごとき株仲間を作り、その内に行事を立て改めを行い、行事の差配で触れに触らぬ本を出すこととせよ」と、内々に命じられました!

地本問屋の一同:おお~!

 今回、序盤の蔦重のセリフの中に「上方の本屋が江戸の地本で名を上げようってこと」「西の出の本屋が幅を利かせてくる」というものがあった。この危機感を、長谷川平蔵を使って上手に定信に植え付け、上方に対する競争心をくすぐったようだ。でも、上方には、定信の力は及ばないのか。江戸だけか・・・お触れは江戸の本屋に対してだけだったのか。

 こんなことで平蔵に乗せられちゃうなんて、このドラマの定信はホント直情で負けず嫌い😅 しかし、今回のドラマも、うまい話し運びだけど吉原救済の方はどうなった?株仲間を作って行事を立てようが、お触れの内で本を作るのだから、細見なんて出せなくなるのではないのか・・・この時代、例えば吉原が潰れて、吉原から離れた女たちが、新たな生きる道を見出せるの?

黄表紙の灯を守るとは

 そうそう、大事なことがあった。蔦重が考えを改め、政演との争いに終止符が打たれたのだ。上方の本屋・大和田安兵衛を誘い「黄表紙を盛り立てていくためにも(地本問屋の株)仲間に加わって」と言う場面で、大和田から黄表紙を書いた政演が同席。「いいんですか?」と遠慮がちに問う政演に、蔦重が考えを述べた。

蔦重:そもそも、黄表紙ってなあ節操もねえ。昔話や幽霊譚、廓話、言い伝え。面白えもんを、何でもかんでも心のままに放り込む。だから皆、夢中になった。読む方も、作る方も。こんなご趣向を出される方をはじくなんて、春町先生に草葉の陰から嵐みたいな屁、ひられるとこだった。(政演に)言ってくれて、ありがた山だ。(頭を下げる)

政演:蔦重さん・・・。(おだやかに微笑む)

 そして、耕書堂に戻って皆の前でこうも言っていた。

蔦重:つまるところ、面白えもんを作るのを諦めねえってことが、黄表紙の灯を守ることだ。

 次回、NHK版「火付盗賊改方、長谷川平蔵である!」が聞けるようだ。ついでにスピンオフもナイトドラマで作っちゃえ!それに、くっきーが演じる若き北斎(勝川春朗)、名前だけじゃなく実物はいつ出てくるかな?ワクワク。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#37 春町の死で意地になった定信と蔦重、なんでそうなるの?正義の政策も弱者にツケが回るようじゃダメだし、お咎め覚悟で人を巻き込み抗うのも違う

定信、頭に血がのぼり過ぎ💦

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第37回「地獄に京伝」が9/28に放送された。定信に絶版を言い渡された「鸚鵡返文武二道」による恋川春町の死に影響され、春町推しなのに腹を切らせたようなものの定信も、本を書かせた蔦重も葛藤する。まずはあらすじを公式サイトから。

≪あらすじ≫
第37回「地獄に京伝」

 春町(岡山天音)が自害し、喜三二(尾美としのり)が去り、政演(古川雄大)も執筆を躊躇(ちゅうちょ)する。そのころ、歌麿(染谷将太)は栃木の商人から肉筆画の依頼を受け、その喜びをきよ(藤間爽子)に報告する。一方、定信(井上祐貴)は棄捐令(きえんれい)、中洲の取り壊し、大奥への倹約を実行する。そのあおりを受けた吉原のため、蔦重(横浜流星)は政演、歌麿に新たな仕事を依頼するが、てい(橋本 愛)がその企画に反論する。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第37回 - 大河ドラマ「べらぼう」見どころ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 前回ブログで定信は反省しないと書いたが、やっぱりと言うか・・・いや、定信なりに反省はしたのだろう、しかしその結果が「なんでそうなるの」ということなんだろうと思う。

 どうやら一橋治済にいちいちうるさい、そろそろ消すかと目を付けられたか、彼の魔の手が伸びたらしい徳川治貞が体調を崩した。「もうよいお年であられるしなあ」と、治済が能面から半分顔を出しての物言いがゾッとした。

 治貞と対面した定信は、本心を吐露していた。

徳川治貞:(脇息にもたれ、咳込む)聞くところによると、ずいぶんと下々を締め付けておるようじゃの。

松平定信:そこを締めぬことには、あるべき世の形とはなりませぬので。

治貞:先年、本居宣長という和学者に、政について意見を出させたのだが、物事を急に変えるのは良くないと言うておった。ハハ、いやそなたが間違っているとは思わぬが、急ぎ過ぎると、人はその変化についてこられぬのではないか?

松平定信:心得ましてございまする。

治貞:悪を無くせると思わぬ方が良いとも。

定信:・・・悪を、無くせるものではない?

治貞:すべての出来事は、神の御業の賜。それを善だ悪だと我々が勝手に名付けておるだけでな。まあ、己の物差しだけで測るのは危ういということだ。

定信:(唇が震える)世は思うが儘には動かぬもの。そう諫言した者を、私は腹を切らせてしまいました。(治貞:痛ましや、の表情)その者の死に報いるためにも、私は、我が信ずるところを成し得ねばなりませぬ!

治貞:(え?と何か言いたげに顔が歪んだ所で、咳込んでしまう)

 治貞はよほど言いたいことがあって一瞬気色ばんだからこそ、喉の炎症が反応して咳が出ちゃったと見える。喘息持ちは分かるなあ💦言いたいことこそ言えないのよ。諫言した者に腹を切らせてしまったのなら、そこで己の歩みを止めて一旦考えるべきではないか、それなのに猪突猛進を続けてどうする、と言いたかったのでは・・・そう思いたい。

 普通はそうだ。何か問題が生じたら、歩みを止め、相手も自分も受け入れられる塩梅の良い落としどころを考える。でも、DV気質だと、相手のことはお構いなく、自分の信じる結果が出るまで力で押して押して押し通すしかないと思っている。それが正義だと信じていれば、妥協しないから質が悪い。

 ドラマの定信は、このやり取りを見るとDV気質の持ち主だと決まったようなもの。相当迷惑、困った人だ。相手を慮って己の計画を修正するなんて考えもしないのだ。でも、育ち方を見れば、田安家のお坊ちゃまだもん、周りのことを考えて己の考えを曲げるなんて場面は想定されていなかっただろうね。

 治貞に「下々を相当締め付けている」と言われる時点までに、ドラマで定信がやったことと言えば、基本的にはまず賄賂を禁じ、それで足りないなら倹約すれば良いのだとのお達しがあり、政を笑う黄表紙の絶版があり、自由に物が言えない世の中になった。

 さらに今回は、棄捐令(きえんれい)、中洲の取り壊しがあった。棄捐令で武家の借金が棒引きされ被害を被った貸し手の札差は、吉原で散財することがなくなった。また、中洲という遊び場が壊されて、きっと川の流れは良くなったかもしれないが、そこで生計を立てていた者らは路頭に迷う。岡場所も手入れがされ、遊女が吉原に大挙して流れ込んだという話だった。

表面化する定信VS.治済

 そして、大奥への倹約にも踏み込んだ定信。一橋治済から、ひとこと言われてしまう。この時に、治済の前に並べられていたのは3つの同じ能面に見えた。3つも作らせて、出来の良い物を・・・ということか?まあ、贅沢な。

松平定信:大奥から、嘆願が参ったのでございますか?

一橋治済:大奥があまりに質素なのは御公儀の威光に関わるとなあ。

定信:大奥の中なぞ、表に見せるものでもありますまいし、贅沢であれば威厳があるというのも浅薄極まりない考えかと存じますが。

治済:大奥の女たちには表に出る楽しみもない。中で楽しむほどのことと情けを懸けてやってはくれぬか。

定信:では、中の楽しみを減じぬような倹約の手を、私の方で考えましょう。

治済:お手柔らかにな。

 定信は、大奥が外部から納めさせて日常的に食べていた贅沢な羊羹を、大奥内部の御膳所で作れば十分の一のかかりで済むとか細々チェックをして大崎を嫌がらせた。それで大崎は治済に泣きついたのであろうが、その結果、なんと治定は治済腹心の大崎本人を、大奥から追放してしまった。

 大崎は現将軍の産婆だったとも言われる乳母。三代将軍の家光だったら、春日局に当たるのでは?そういう大物をね・・・さらに、このドラマでは、治済の命で毒殺などの陰謀に深く関わってきた「手の者」なのだから、陰の支配者を気取りたい治済の気は治まらないよね。

 また、とうとうやってきたのが、太上天皇の称号の一件。これは、治済自身の思惑(大御所と呼ばれたい)と絡み、治済はぜひ実現したい話だっただろう。

治済:(能面をいじりながら)それから、例の朝廷の件はいかがとなっておる?

定信:帝がお父君に太上天皇の尊号をお贈りしたいという一件にございますか。

治済:あれは、認めても良いと思うがの。特段こちらにかかりをという話ではなし。

定信:かしこまりました。では、御三家にもはかりました上、私の方で返答いたしておきましょう。

治済:よろしくの。・・・そうじゃ、紀伊中納言様がご体調を崩されておるそうじゃ。

定信:中納言様が。

治済:お風邪と聞いておるが、もうよいお年であられるしなあ。(能面から上半分の顔を出す。見開いた目が怖い)

 治済は嬉しそう。自分の一橋よりも上だったはずの田安出身の定信、同じ吉宗の従弟の立場の定信をこうやって配下において、しかも自分の謀の実現のために使いまわしている。しかも、(たぶん)自分の計画通りに紀伊治貞が体調を崩し、早晩この世を去るのだから、時々のニヤニヤ顔を隠すために能面を使っているのではないだろうか。

 しかし、定信は治済の意に反して尊号の件は不承知と決し、そのように朝廷に返答した。

治済:太上天皇の尊号の一件は、不承知と返答したそうじゃの?(翁の面を手にしている)

定信:御尊号は譲位された帝にのみ贈られる尊称。帝のお望みでも、先例を破ることよろしからずと、御三家、老中ともまとまりましたゆえ、将軍補佐として私が、然様に上奏するように決しましてございます。

 この時の、挑むような生き生きとした定信(井上祐貴)と、反論したげな治済(生田斗真)の表情が相変わらず良い。しかし、割って入った者がいた。

一橋家臣:殿!(外から声をかける)

治済:何じゃ?(襖を開けて入ってきて控えた家臣、定信の存在に言葉を発するのを躊躇する)

定信:私に遠慮するな、申すが良い。

治済:申せ。

家臣:大奥より使いが参り、大崎殿が老女の役を免ぜられたと。

定信:大崎殿は、不正な蓄えの他、老女の任にふさわしからぬ行いも多く見受けられ、お役を免ずべきと決しましてございます。お約束通り、楽しみを減ずることなく倹約も叶いましたかと。

治済:(能面を箱にしまいながら)どうも、田沼も真っ青な一存ぶりじゃが。

定信:上様の命とあらば、いつでもお役を辞する覚悟にございます。御金蔵の立て直し、武家の暮らし向き市中の風俗取り締まり、蝦夷、朝廷、懸案は山積み!このお役目を引き受け、事を成し得るお方が他にあるならば、私は・・・いつでも退く覚悟にございます。(懐から出して書状を畳の上に突き出し、治済に視線を向ける。「謹上 御老中衆中 定信」と表に書いてある)

 このやりとりは、ドラマでは寛政元年(1789年)の話。ちょうど、このあたりについては歴史家磯田道史先生のBSの番組で取り上げていた。定信の「いつでも辞めてやる」の張ったりは、もっと上の役目「大老」を狙っての賭けだったのではないかとの話だった。

英雄たちの選択

江戸城の怪人〜御三卿 一橋治済の野望〜

 

江戸中期。御三卿のひとつ一橋治済は、藩主として領国を経営することも幕府政治に参画することも許されず、ただ次期将軍の備えの子をなすだけの退屈な人生を送っていた。ところが10代将軍・家治の息子が急逝したため、治済の子、家斉が将軍を継ぐことに。眠っていた権力への野望が目覚める。治済は将軍家を乗っ取ろうとするが、田沼意次や松平定信ら実力派官僚に阻まれ政治抗争に発展。陰謀渦巻く江戸城政治。その果てには…。(江戸城の怪人〜御三卿 一橋治済の野望〜 | NHK

 八代将軍徳川吉宗、田沼意次、松平定信と、時代を変革し日本のかじ取りをしようとした意欲的な3人が続いた後、(ネタバレ失礼)一橋治済に操られた11代将軍家斉の時代が半世紀も続く。磯田先生らの言によれば、目先が楽しいだけの「のほほん」とした、日本のためにはさしてならない、時代に逆行した期間だったそうだ💦

 もうすぐ黒船も来ようという、日本にとっては大事な時期に・・・血筋だけで理屈を封じた男に幕府が乗っ取られた格好だ。幕府瓦解の遠因か。理屈に秀でた松平定信に政治を続けて行わせていたら、幕府は時代なりに強化されていった可能性があるのかと思うともったいない。

 定信が提唱したという「大政委任論」も、何とか治済・家斉親子の暴走を止めたかったからなんだろう💦帝王学というか「将軍何たるか」を考えもしない親子相手に、苦労した結果かと思うと気の毒だ。(大政委任論 - Wikipedia

変化を受け入れられず、抗う蔦重

 蔦重は、前回の春町の死でかなりのショックを受け、いつものように「そうきたか!」というようなアイデアを捻りだすどころではない。

 絶版になった3作の作家たちが死亡・国元に強制帰国・逃走し、大田南畝は筆を置いた。他の武家の戯作者は、処分を恐れ大方縮みあがっている。倹約の世で不景気、黄表紙はもう辞め時か、という地本問屋の声に「いやあ、大事ねえですよ」「次は町方の先生たちに踏ん張ってもらいましょう!」と反論するが、時代の変化を見ようとしない板元に巻き込まれる作家は迷惑だよね。

 蔦重のターゲットになったのは、町方の政演(山東京伝)だった。政演も、既にお咎めを食らったことがあり、お上に目を付けられているのに強気な蔦重が言うままに書かされるのを恐れ、「政を茶化さないなら」と、ビクビクしながら書いていた。

 強気と言っても、蔦重のそれは焦りだ。大河ドラマ「平清盛」で松田聖子が口ずさんでいた「遊びをせんとや生まれけむ」は、後白河院がまとめた「梁塵秘抄」のフレーズだった(遊びをせんとや生まれけむ『梁塵秘抄』の遊びの本当の意味)。その「遊び」を「戯け」に置き換えたのが「戯けをせんとや生まれけむ」、ところどころこのドラマでも出てきていたように思う。

 今回も、「遊ぶってなあ、生きる楽しみだ。楽しみを捨てろってなあ、欲を捨てろってこった。けど、欲を捨てる事なんかそう簡単にはできねえんだよ」と言う蔦重。遊びや戯けは、それぐらい生まれついて自然なことと考える蔦重は現代人に近い。だもの、「褌に抗ってかねえと、ひとつも戯けられねえ世になる」と焦るのだろう。

 他方の褌守定信は、「遊ぶところがあるから人は遊び、無駄金を使う。遊ぶところを無くしてしまえばよい」と言っていた。遊ぶのは環境のせい、という訳だ。厳しいなあ。

 こういう定信だからこそ、対抗するにはアイデアが欲しいところ。そのままバカ正直に反抗しても「身二つになるだけ」だ。町方の話を聞いてくれる老中が率いていた、自由な田沼時代は終わったのだ。

 強引に「倹約を吹き飛ばす」と話を進めようとする蔦重にストップをかけたのは、ていだった。

蔦重:・・・ってことで、吉原を救うためのもんを考えたいんだ。歌、錦絵頼む。

歌麿:もちろん。何、描けばいいんだい?

蔦重:そりゃあ、絢爛豪華な女郎を絢爛豪華に描いてほしいんだ。(心配そうに、顔をそむける政演)

歌麿:絢爛豪華・・・。

蔦重:ああ。政演。お前、吉原には散々世話になってる身だ。やらねえとは言わねえよな?

政演:けど、お咎めを受けるようなのは・・・。

蔦重:分かってる。思うによ、いっちゃん悪いのは倹約なんだよ。倹約ばかりしてちゃ、景気が悪くなり続け、皆貧乏。そのツケは、つまるところ立場の弱え奴に回されんだ。(廊下に来て話を聞くおてい)そういうことを、面白おかしく伝えてほしいんだ。世にも褌にも。

 例えばよ、倹約がいき過ぎて、てめえそのものを倹約するってなあ、どうだ?それが流行って、最後には国から人がいなくなっちまうってなあ!

てい:(いきなり部屋に入ってきて、ひれ伏す)お二方とも、どうか書かないでくださいませ!然様な物を出せば、歌さん、政演先生、蔦屋もどうなるか知れません。どうか、書かないでください!

蔦重:あのよぉ、吉原じゃ一切れ24文で身を売るようなことになってんだぞ。

てい:(蔦重に向き直る)大変申し上げ憎うございますが、旦那様は所詮、市井の一本屋にすぎません。立場の弱い方を救いたい、世を良くしたい、そのお志は分かりますが(詰め寄る)、少々、己を高く見積もり過ぎではないでしょうか!

蔦重:ああ?(てい、眼鏡をパッと外し睨みあう)

歌麿:眼鏡。

政演:まあ、強い目だねえ。(顔を逸らす蔦重)あっ、目閉じた!

蔦重:昔、陶朱公のように生きろって言ったのはどこのどなたでしたっけ?

てい:韓信の股くぐりとも申します。

蔦重:世を良くするような商人になれって言いませんでしたっけ?

てい:倒れてしまっては志を遂げることもできませぬと申し上げております!

蔦重:春町先生は、黄表紙の灯を消さねえために腹まで切ったんだ!それを、てめえらの保身ばっかり・・・恥ずかしいと思わねえのか?!(睨みあう)

てい:(眼鏡をかけ、袂から本を出す)黄表紙の灯が消えることをご案じなら、このような向きはいかがでしょう。

歌麿:ああ、それ大昔の青本ですよね。

てい:はい。「金々先生」以前、青本は人の道を説く教訓を旨としたものでございました。これなら、御公儀に目を付けられることは無いかと。

政演:温故知新ってことですか。今や、かえって新しいかもしれませんね。

蔦重:ふざけんじゃねえよ!「金々先生」の前に戻るってなあ、それじゃ春町先生は一体、何のために生きてたんだってなんだろうが!てめえには情けってもんがねえのか!

てい:春町先生のご自害は、私どもに累を及ぼさないためのものでもありましたかと!

蔦重:だから!

てい:故に、お咎め覚悟で突き進むことは望んでおられぬと存じます!

蔦重:・・・はあ・・・(気まずい顔の、歌麿と政演)

 ホントだよ、蔦重・・・ちょっとは頭に上った血の気を冷まして考えてほしい。でも、これでも分からないんだろうな。まず、分かりたくないのだろう。

 歌麿が言っていた。蔦重が背負っているのは春町先生への思いだけじゃない。春町先生、田沼様、源内先生、吉原の人たち、新さん。ずいぶん多くの人たちを見送ってきたのだね。こちらもそれだけのドラマを見せてもらってきた。もう10月だもん・・・ずいぶん遠くまで来たものだ。残るはあと11回か!

 「荷、背負い込み過ぎじゃね?」と政演は笑ったが、「けど、生き残るってなあ、そういうことかもな」と返した歌麿。彼も、毒母やら師を見送った。そこで近々、さらに見送らねばならない人がいる・・・悲しいなあ。

 きよを前に、歌麿は政演に言った。

歌麿:身を売るしか生きる術のない人たちにとって、遊ぶなだの倹約しろだのってのは、やっぱり野垂れ死ねってことになっちまう。他に身を立てる道が支度されんなら別だけど、そんなもなあ、滅多にねえ訳で。つまるところ、買い叩かれるしかねえ。弱い者にツケが回るってなあ、蔦重の言う通りなんだよな。

 現代にも通じる言葉だ。「どうしたものか」と考えた政演は、ありのままに虫や草花を描いた歌麿の襖絵をヒントに、吉原での人間模様をありのままに小話に書く洒落本を思いついた。

 「歌さんの絵は、ありのままだから面白えわけじゃねえですか。小話も、そういう具合にしてえなって」と政演。それがピンとこないと言っていた蔦重だったが、実際に読んでみて、みの吉にも読ませて(みの吉は原稿に夢中)、納得。

蔦重:これが才ってやつか。(座り直して)女郎を姉妹や知り合いのように思わせる。幸せになってほしいと願わせる。これ以上の指南書はございません。(手をついて頭を下げ)うちで買い取らせてください。(ていも頭を下げる)

政演:へへっ、お高くお願いします!(みの吉、まだ熱心に読んでいる)

 今回は、政演の才能に救われた蔦重、ということ。これが寛政二年(1790年)正月の耕書堂の店頭に並んだ洒落本「傾城買四十八手」だったが・・・筆の早い政演は、もう1冊花魁に頼まれた「心学早染草」も、見事にものにしていた(羨ましい~!ぱっぱと手離れよくアウトプットできる人!)。

 蔦重も鶴屋さんも知らない仕事だったため、大目玉を食らった政演・・・というか、定信の政を持ち上げるような内容だったからこそ、蔦重は烈火のごとく怒った。心学とは、おていさんによると「神仏の教えに儒学を織り交ぜて分かりやすく道徳を説いたもの」だそうだ。

 さらなる九郎助稲荷(綾瀬はるか)の解説では、こうだ。

九郎助稲荷:それは、良い魂と悪い魂、善魂と悪魂が一人の男の体を巡って戦う話で、しまいには善魂が勝利し、男は善人として生きていくという、それだけの話。ですが、今でも使われる善玉悪玉という言葉は、ここがルーツ。つまり、長く読み継がれていくほど出来の良い話で。そう、これは越中守様が推し進める倹約、正直、勤勉といった教えを、見事にエンタメ化したものでした。

 政演、すごいね~!本当に才能がある人はこうなんだ。短期間で、頭に降りてきたものをサササと書いていくだけの作業だったのかな。蔦重が怒ったって止められないよ、頭に降りてきちゃったんだから。ただただ羨ましい。

 蔦重は怒りに任せて「お前、こんな褌担いで何考えてんだよ、おい」「こんな面白くされちゃみんな真似して、どんどん褌担いじまうじゃねえかよ!」「草葉の陰から春町先生に雷みてえな屁ひられっぞ」と政演に罵声を浴びせた。

 一方の政演。逃げ回り「面白けりゃいいんじゃねえですかね?」「面白えことこそ、黄表紙にはいっち大事なんじゃねえですかね!褌担いでるとか、担いでねえとかよりも!面白くなきゃ、どのみち黄表紙は先細りになっちまうよ!それこそ、春町先生に嵐みてえな屁ひられるってもんじゃねえですかね!」と恐る恐るながらさすがの点を突いて反論した。

 そこで、言葉に窮した蔦重は、手が出た。「何度言や分かんだよ!(本で叩く)戯け者は褌に抗ってかねえと、一つも戯けられねえ世になっちまうんだよ!

 蔦重こそ、町方が幕府筆頭老中に抗っても、首を刎ねられ身二つになるだけだとおていに言われていたじゃないか。それこそ、どうしてわからないのかな・・・。

 政演は「俺、もう書かねえっす。蔦重さんとこでは、一切書かねえっす!」と言うに至った。人気作家が書いてくれない宣言、板元は万事休すだ。

おていはライター

 ところで、寛政二年(1790年)正月に、耕書堂の店頭に並んだ3冊に「即席耳学問」という、市場通笑作の上中下巻の本があった。これを書いた市場通笑が、ドラマでは実はおていさんだって設定になっていたような。(市場通笑 - Wikipedia

 確かにこの人、通油町で育ってるみたいだ・・・「教訓の通笑」と称されたってことだが、ドラマの中ではまさに「教訓のおてい」の役回りだもん、ぴったり。でもこれまで、おていが作品を書いているシーンなんてあっただろうか?

 真面目に遡ってみると、灰捨て競争をしたのが1783年(天明三年)夏の浅間山の噴火、その後におていは蔦重と結婚する訳だから、1779年(安永八年)刊行の初の黄表紙「嘘言弥二郎傾城誠」からの数冊は、丸屋、もしくは他のどこかから出版したって事なのか?それにおてい、蔦重よりも一回り以上お年上だったってことになるね、なんて。

歌麿の妻きよは・・・

 歌麿は、栃木の豪商・釜屋伊兵衛(U字工事の益子卓郎♪)に依頼され、高額が見込める肉筆画を描くことになり大喜び。説明のために自宅の襖絵にも見事に肉筆画を描いて見せ、新妻きよも喜びを分かち合った。 

 この栃木の商人の役は、U字工事にうってつけ。相方の福田も、釜屋伊兵衛の甥の役で次回以降、出てくるらしい。このふたりを、U字工事を差し置いて他の人が演じたら不自然だ。大河デビュー、本当に良かったよね。カミナリのまなぶもどうでもいい役で出てきていたが、なぜ?U字工事を起用するから吉本の手前?まなぶの「鎌倉殿の13人」での役は面白かったけどなあ。

NHK公式サイトより引用https://www.nhk.jp/g/ts/42QY57MX24/blog/bl/pyRxwlZnDK/bp/pdj8Dg1Lvp/

 おきよだが、喜んで背伸びをした際に足が裾から覗き、そこには赤い腫物が・・・次に足が映った際には、その赤い腫物の数が増えていた。あああ・・・あれは梅毒だよね。ドラマ「大奥」で平賀源内が梅毒で死んだ時も、同じような腫物があったもの😢なんということだろう。

 「おきよがいたら、俺、何でもできる気がするよ」と、きよを抱きしめた歌麿は言っていた。きよは歌麿を開眼させ、幸せをくれたのに。

 ここでウィキペディア先生を見てしまった。歌麿の妻(戒名:理清信女)は、寛政二年(1790年)夏に死んでいた。戒名から、ドラマでは「きよ」と名付けたんだろうね。喜多川歌麿 - Wikipedia

 きよの死が、歌麿の大首画の誕生に関係するのだろうか・・・いずれにしても、しばらく栃木に旅して絵を描いて、心を癒してきてほしい。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#36 自裁した春町を惜しむ喜三二の涙に泣く😢図らずも推しを追い詰めてしまった空回り中の定信、きっと反省しない

理解するに難しいサブタイトル💦

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第36回「鸚鵡(おうむ)のけりは鴨(かも)」が9/21に放送され、岡山天音演じる恋川春町が最期を迎えた。まずはあらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫ 第36回「鸚鵡(おうむ)のけりは鴨(かも)」

 蔦屋の新作『鸚鵡返文武二道(おうむがえしぶんぶのふたみち)』『天下一面鏡梅鉢(てんかいちめんかがみのうめばち)』が飛ぶように売れる。定信(井上祐貴)は、蔦重(横浜流星)の本に激怒し、絶版を言い渡す。喜三二(尾美としのり)は、筆を断つ決断をし、春町(岡山天音)は呼び出しにあう。そして蔦重は、南畝(桐谷健太)からの文で、東作(木村 了)が病だと知り、須原屋(里見浩太朗)や南畝とともに、見舞いに訪れる。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第36回 - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 ・・・えーと、今回のサブタイ「鸚鵡(おうむ)のけりは鴨(かも)」なんだが、また分かりにくい。「鸚鵡」は松平定信の「鸚鵡言」から、恋川春町が茶化した黄表紙「鸚鵡返文武二道」が問題になっているのが関係するのは分かるけど、「けりは鴨」は、はてさてどうなってる?

 「けり」は春町の辞世「我もまた 身はなきものと おもひしが 今はの際は さびしかり鳧(けり)」の末尾に出てきた。それをいつもめっちゃ人が良い絵師の北尾重政が「鳧は鴨。鸚鵡のけりは鴨でつけるっていう捻りですかね」とちょっとだけ解説してくれた。

 それでも「はて?」と思ってしまった。鳧はそのまま「けり」で良くない?なんでわざわざ鴨を出す・・・と混乱したからだが、鳧は「かも」とも読むんだね。「かも(鴨)」と「けり(鳧)」、全く別の鳥かと思っていた。

鴨・鳧【かも】とは
1.カモ科の鳥のうち、比較的小形の水鳥の総称。首が長く手足は短い。嘴(くちばし)は横に平べったくで櫛(くし)の歯状の板歯がある。冬に北から来て、春に帰るものが多い。種類が多くて、肉は美味。「鳧」は「ケリ」と読めて、チドリ科の鳥である「ケリ」を指すこともある。
2.1の味がいいことから、いい獲物。いいもうけの対象として利用される相手のこと。(鴨・鳧【かも】 の意味と例文(使い方):日本語表現インフォ

 アンダーラインはこちらで付けた。ちょっと検索したら鳧の写真を載せているページがあったので、もうひとつ引用させていただこう。やっぱり鳧と鴨とでは、私の頭の中でのイメージが大いに異なる。このページでは、作家の沢木耕太郎の小説「春に散る」での鳧に関する表現にも触れている。

朝日新聞の連載小説、沢木耕太郎作「春に散る」の中に、「けりをつける」ことが書かれていましたが、昔の人は「けり」に鳥の「鳧=ケリ」という字を当てたそうです。ケリという鳥のいることも知りませんでした。
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昔の人は、ケリをつけるのケリに鳧という字を当てた。鳧は日本の田圃などに巣を作る鳥だが、田起こしの時期とぶつかっては、せっかく作った巣を壊されてしまう。それでも鳧は諦めずに二度、三度と巣を作りつづける。鳧は簡単にケリをつけようとしないのだ。   (文中より)

鳧(けり)=チドリ目チドリ科タゲリ属~チドリの仲間です。
画像検索にて、保存させていただきました。

辞書をひいてみましたが、(めんどうなことがらについて)しめくくりをする。終わりにする。と出ていました。

けりをつけるの“けり”は、助動詞の“けり”から来た語だが、「鳧」の字を宛てることがある。   (と検索では・・・)
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時によっては、簡単にけりをつけるのではなく、鳧のように粘り強く努力をしなくてはいけないときもありそうです。(「けりをつける」の“けり”とは? - 気ままな思いを

 ちょっと「鴨」が引っかかってしまったので、のっけからこだわってしまって失礼。しかし、鴨ってカモになるとかカモネギとかそちらを考えちゃうと、鸚鵡騒動のけりは鴨でつけるって言われても、やっぱりピンとこないし分かりにくい。鴨に持って行かなくて良かったよね、鳧(けり)のままで。

 毎回のサブタイトル、作る側の独りよがりの格好つけと言うか、考え過ぎと言うか、空回りして定信状態な気がするのは私だけか?(今更)誰のためのサブタイトル?視聴者のためになってる?

この際「筆を折り国に帰る」が最善策

 寛政の改革を進める松平定信が、多忙の余り、心ならずもお目こぼし状態になっていた黄表紙だというのに、調子に乗ってしまった蔦重。さらに茶化しを過激化させたことで「謀反も同じ」と逆鱗に触れ、とうとう定信側も動き出してしまった。

 当初定信は、腹心の水野為長(永?)に「茶化されているとの見方もできる」と言われても、後押しされていると勘違いしてすっかり嬉しくなっちゃって「蔦重大明神」とか言ってたのにねえ・・・なんか気の毒。

 ドラマでは定信の猪突猛進ぶりを諫めたいらしい人たちが「世の見方はこうですよ」と、あっちからもこっちからも黄表紙を出してきた。直接は言いにくいものだからね。その時に、裃の懐って深い、あれもこれも入るんだ、みんな懐に隠し持って暇があれば読んでるんだなんて思ったりした。

 しかし、定信の水野配下の隠密は何をやってる?黄表紙について、あれだけ大流行だったのだから、もっとしつこく世間での反応のされ方を(ネガティブだけど)報告しても良かったのに。それとも言うに忍びなかったか、「まー、うちの殿も仕方ないよね」と、陰で一緒になって笑ってたか。なんて。

 それで、自分の政策を茶化されているとようやく気づいた定信は、耕書堂出版の3作を絶版だと言い、役人が耕書堂に踏み込んできた訳だ。3作とは、こちら。

  1. 文武二道万石通(ぶんぶにどうまんごくどおし)天明八年(1788年)朋誠堂喜三二作
  2. 鸚鵡返文武二道(おうむがえしぶんぶのふたみち)寛政元年(1789年)恋川春町作
  3. 天下一面鏡梅鉢(てんかいちめんかがみのうめばち)寛政元年(1789年)唐来三和作

 唐来三和は、既に武士を辞めて「江戸本所松井町の娼家和泉屋の婿養子になった」という町人身分だから(唐来参和 - Wikipedia)、一時身を隠すとかすれば大丈夫な気がする、そんなに目の仇にはされにくいかも。

 武士の喜三二と春町は陪臣であり、直臣の大田南畝のように直接睨まれたりする風当たりを気にしなくてもいいとはいえ、盾になる主君が定信に怒られる訳だから、それはそれでやりにくい。それで、喜三二は筆を折ると言って、国に帰ることになった。帰るといっても、江戸の武士だから、国元に行くのはチャレンジングだったろうね。

喜三二:殿に怒られちまってさ。黄表紙は言うまでもなく、遊び回っておったことが嗅ぎつけられてなあ。お家の恥だ、ご先祖に申し訳が立たぬって、顔真っ赤にして涙浮かべて怒られてさ(略)まあ、遊びってのは、誰かを泣かせてまでやるこっちゃないしなあ。

 この言葉に、蔦重も「わかりました」と言うしかない。

 秋田藩(久保田藩)は、佐竹氏が治める表高20万石、実高は40万石の大藩であり(ちなみに定信の白河藩の石高は11万石だったそうな)、その江戸留守居役の筆頭の喜三二(勤めの「気散じ」に書いてたんだよね)は、実は大物だ。筆を折って国に帰るという手は、この際、何よりの解決策だったのでは。

 江戸にいたら目障りだし、定信の隠密のターゲットになってアレコレ難癖も付けられやすいだろう。国元の秋田ならば、定信といえど、そう易々と手を突っ込めないだろうから。ほとぼりを冷ますには距離を置くのが一番だ。

 喜三二が国元に去る前の送別会で、忘八や女将ら、吉原の面々に久々にお目にかかれたのが楽しかった。吉原に入り浸っていた喜三二だけに、送別会も吉原で、なんだね。次郎兵衛義兄さんの妻も大きな酒樽を会場に運んでいたね。オーミーを探せ!なんて言われたカメオ出演の頃からずっとだから、あれもあったこれもあったが懐かしい。

 その中で、女郎屋にハシゴの居続けで何作も書く話があったが(松葉屋の女将が勇敢にバケモノに立ち向かったりして)、その時の相方の花魁松の井が、年季が無事に明け、手習いの女師匠になって笑顔で今も生きているのが確認できたのは嬉しかった。

 ドラマの序盤、名もなき女郎らの投げ捨てられた遺体が出てきたり、河岸見世の病んだ女郎たちがそれでも体を売り続ける苛酷な状況も描かれた。女郎で年季明けまで完走できる子は果たして居るのか、多くが年季明けまでに命を落とすのではないかと危ぶんでいたが、フィクションでもいい、鬼脚本の中で、ひとりでも幸せになれた子がいたんだ。

 実は、喜三二と古ーい付き合いの姐さんも出てきていたから、もうひとり女郎稼業を完走した人がいたようだったが。

 送別会で懐かしい面々に惜しまれ(蔦重の策)、喜三二は断筆を撤回。「まあさん、まだ書けます!」と宣言した。その時、「春町もまだ書くらしいし」と言っていたが・・・ああ。

殿が春町を慮るあまりに逃げられない

 他方、恋川春町。大藩に勤める喜三二と違い、彼が年寄本役(家老)を勤めるのは小島松平藩という「吹けば飛ぶような」1万石の小藩なのだ。

 絶版になった本を書いた「恋川春町」は、実は当主松平信義ではないかと定信に疑われ、信義は、春町の正体を「家中の倉橋格なる者」だと明かした上で「倉橋、此度のことを心より悔やむあまり病となり、隠居した」と弁明した。

 春町は、直参ではないからこれ以上のお咎めは無いと踏み、隠居で減った収入は戯作で稼ぐつもりでいた。しかし、春町作「悦贔屓蝦夷押領」を読み、田沼意次が立てた手柄を定信が横取りするという、痛烈な皮肉が仕掛けてあることに気づいた定信は怒り爆発(田沼病にかかってるとか何とか一橋治済にからかわれて発火点に引火)。キーっとなってる定信のさらなる呼び出しに、春町は悩む。

蔦重:いっそ呼び出しに応じて、春町先生の考えを腹割って話すってなあ、ねえですか?

春町:あちらは将軍補佐。こちらは吹けば飛ぶような1万石の小名の家来ぞ。

蔦重:けど、黄表紙好きだって話、嘘じゃねえかもしんねえでしょ?許されんなら、共に参りますし。

春町:・・・うまくいけばよいが、うまくいかねばその場でお手討ち。小島松平家がお取り潰しともなりかねぬ。それは打てぬ博打だな・・・。

蔦重:嘘八百並べて這いつくばって許しを乞うんですか?春町先生に、それができるとは思えねえんですが・・・。

春町:・・・あ~!(畳の上に倒れる)そこよな。

蔦重:いっそ、まことに病で死んじまうってなあ、ねえですか?病で隠居で、建前はホントだったってことにして、絵や戯作を生業として別人で生きていくってなあ・・・いや、ねえか。

春町:(起き上がる)いや!いや、それが最善かもしれぬ。(部屋を飛び出す)

蔦重:へ?あ・・・春町先生?え?おお、どこへ行くんですか?

(小島松平家当主と向き合う、裃姿の春町)

松平信義:死んで別人となり、戯作者として生きていく・・・。

春町(倉橋格):はい。某が死んでしまえば、責める先がなくなる。殿もこれ以上しつこく言われることも無くなりましょうし。

信義:しかし・・・然様なことができるのか?

春町:人別や隠れ家など、蔦屋重三郎が万事計らってくれると。支度が調うまで、殿にはしばし「病にて参上できず」と頭を下げていただく労をお願いすることになりますが・・・。

信義:当家はたかが一万石。何の目立ったところも際立ったところもない家じゃ。表立って言えぬが、恋川春町は当家唯一の自慢。私の密かな誇りであった。

春町:殿・・・。

信義:そなたの筆が生き延びるのであれば、頭なぞいくらでも下げようぞ。

春町:(涙を堪えて頭を下げ)ご温情、まことありがたく!

 殿、優しい!こんなにも素敵な言葉をくれて・・・作家冥利に尽きるね。この殿を困らせることは、春町には決してできない。それが彼の決断にも影響していくんだろう。

 信義は「倉橋は麻疹になった」と定信に報告。「治りましたら、必ずや申し開きに参らせますので、しばしお待ちを!」と深々と頭を下げた。しかし、定信の右手は春町の黄表紙をギギギと握りしめて・・・おお怖💦

春町:越中守様(定信)が明日、ここに?

信義:麻疹もいつわりであろうと言ってこられた。

春町:それでは、殿が越中守様を謀ったことに・・・。

信義:倉橋!今すぐ逐電せよ!後のことは私が何とかする。

 ここまで追い詰められたら、終わりだ。これ以上は殿に迷惑が掛かるもんねえ。耕書堂を眺め、豆腐を買って帰るしかない。

 春町は腹を切り、大きな大きな豆腐の角に頭をぶつけて死んだ。駿河屋市右衛門が、春町の人別も用意して蔦重に渡してくれていたのに・・・。

 もし耕書堂前で、蔦重に会えていたら、逃げる気にもなり、他の運命もあったのだろうか?いや、春町の死体が無いのでは、定信が検分に来られても困る。

 春町の死を耕書堂に知らせに来た喜三二。演じる尾美としのりの泣き演技が凄かった。春町の顔にかけられた布を春町の妻しず(いたんだ!)が取った時も、心底から虚を突かれたようにハッとして手を合わせ、本当に泣いている。その後の他の演者の泣きの演技が、申し訳ないけど嘘っぱちに見えるほど、尾美としのりの喜三二は、春町の死を全身で悼んで泣いていた。

 ここで、春町の鬢(音声解説で「髷」って言ってたけど違うよね)に白い何かがぽつぽつ付いていることに気づいた蔦重。それは豆腐だったのだけれど、奥さんもわざと取らずにそのままにしたのかと思うと、よく分かっている奥さんだ。

 また、屑籠の中のちぎった手紙にも気づいた蔦重。許可を得て、それを並べて復元した。

春町:蔦重。いきなりかような仕儀となり、すまぬ。実は例の件が抜き差しならぬこととなってしまってな。殿は逃げよと言ってくださったが、然様なことをすればこの先、何がどうなるかしれぬ。小島松平、倉橋は無論、蔦屋にも他の皆にも累が及ぶかもしれぬ。それは、できぬと思った。もう、全てを丸くおさむるには、このオチしかないかと。

 この手紙は、しかし「恩着せがましいか」と、春町の手で破られたのだった。「なんで本を書いただけでこんな」と歌麿は言った。が、頭に血がのぼっている定信には分からなかったのだね。

 春町が死んだと聞いて、初めて定信は自分がやり過ぎた、追い詰め過ぎたことに気づいたのだろうか?

定信:亡くなった?

信義:はい。腹を切り、かつ・・・ハハハハハ、豆腐の角に頭をぶつけて・・・。

定信:豆腐?

信義:御公儀を謀ったことに倉橋格としては腹を切って詫びるべきと、恋川春町としては、死して尚、世を笑わすべきと考えたのではないかと、板元の蔦屋重三郎は申しておりました。一人の至極まじめな男が、武家として、戯作者としての「分」をそれぞれ弁え、全うしたのではないかと越中守様にお伝えいただきたい、そして、戯ければ腹を切らねばならぬ世とは、一体誰を幸せにするのか、学もない本屋風情には分かりかねると、そう申しておりました。

 この後、布団部屋で白い布団に頭を突っ込み、定信は泣いた。昔の賢丸時代を思い起こさせる幼い泣き方に、「自分は一生懸命なのに、自分で自分の推しを殺してしまった」という悔いはありそうだけれど、だからといってその後悔が彼を変えるのだろうか?

 自分のために「なんでうまくいかないのー」と泣くだけ泣いて、自分の信じる道だからとこれからも突っ走りそうだ。春町が何を思い、なぜ切腹後にわざわざ豆腐の角に頭をぶつけるなんて命を懸けて戯けをやり切ったか、春町の視点で物を考えることはあったのだろうか。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#35 伝わる・伝わらない問題。黄表紙の皮肉は分かりにくいが良い塩梅💦歌麿、新妻きよと言葉抜きの愛情を育み心の魑魅魍魎を吐き出した

意次昇天には「妖」の源内が雷鳴轟かせお出迎え

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第35回「間違凧文武二道(まちがいだこぶんぶのふたみち)」が9/14に放送された。

 前回までオープニングでトリを飾り続けてきたケンワタナベ演じる田沼意次が、今回のドラマでは姿を見せないながらもとうとう世を去った。さらに今回トリの鶴ちゃんの鳥山石燕先生も、雷鳴と共に意次の魂を迎えに来たのではと思われる源内さん(エレキテルだけに雷はぴったり)っぽい「妖」の姿を絵に留めたのを最後に、力を使い果たしたのか亡くなった。

 やっぱり源内さんは迎えに来ますとも・・・意次は心ズタボロで傷ついて亡くなったはず。周囲の人は皆、掌返しだし、築いたと思ったものが、これでもかと粉々に砕かれていくのを目の当たりにさせられた末の死だもの。そんなハートブレイクの「七つ星の龍」を、源内さんが妖に変身してでも迎えに来ないはずがない。

 ウィキペディア先生を確認したら、意次は生年と没年が旧暦7月末なのだという。

 坂本龍馬は誕生日に死んだと聞くが(旧暦では同じ11/15 坂本龍馬 - Wikipedia)、意次の場合もニアミス。そういうものかな。西暦だと放送日にも近かったね。意次の最期に合わせて雷鳴を轟かせて源内さんの妖を出してくるなんて、ドラマもかなりエモいことをやってくださる。ジーンとした。

 そこに「とうとうくたばったか」「投石を許せ。この葬列については、石を投げた者を取り締まらぬこととせよ」「これ以後、民は恨みつらみをぶつける的を無くすのだ。思う存分投げさせてやれ」等と、民の心を慮ったような格好で、実は自分の恨みをぶつける憎まれ口をたたいていたのが松平定信。演じる井上祐貴ぐらいにお綺麗なお顔立ちじゃないと、とても言い放てないようなセリフだ。やっぱり美形は悪役を担わされちゃうんだね。

 そうそう、これ以上に無い石燕先生だと前のブログで書いたけれど、今ドラマの石燕先生については家族も大絶賛。江戸っ子の彼に言わせると、今回、「いごくな(動くな)」と江戸弁で言ったのがまた、良かったそうだ。

 そうなんだよ、今、片岡鶴太郎以上に石燕先生を演じられる役者がいたらお目にかかってみたいよね。だから1回だけかもしれないが、トリは彼の名誉にもなって良かった。

ふたりの仲に、言葉はむしろ邪魔だったかな

 あらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫ 第35回「間違凧文武二道(まちがいだこぶんぶのふたみち)」

 定信(井上祐貴)の政(まつりごと)を茶化した『文武二道万石通(ぶんぶにどうまんごくどおし)』。しかし、これを目にした定信は勘違いをし、逆に改革が勢いづく結果となり、蔦重(横浜流星)は複雑な気持ちになる。そんな中、読売で、定信が将軍補佐になったことを知る…。歌麿(染谷将太)は、かつて廃寺で絵を拾い集めてくれたきよ(藤間爽子)と再会し、心に変化が生まれる。江戸城では、家斉(城 桧吏)が大奥の女中との間に子をもうける…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第35回 - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 歌麿と、きよ。本当はもっと恋人関係の醸成をじっくり見せてもらいたい気もしたな。歌麿は、きよの無邪気な笑顔に心を動かされ、きよの姿を描かせてもらい・・・そして、言葉の通じない彼女と居ることで、歌麿は気持ちの上で大きな成長を遂げた。

 それが、説明セリフで全部語られてしまったようでもったいない。言葉抜きで心を通わせ関係を構築した歌麿ときよだけに、演技で見せてもらいたかった気がしたな、中の人が演技のうまいふたりだけに。きよの姿を丁寧に写し取りながら恋心が芽生え(歌麿が温かく良い表情で、きよを見てたよね💕)、きよのおかげで枕絵の大作を描けるようになっていく歌麿の変化をもっと映像で・・・スピンオフでもいいよ。

歌麿:(略)俺、所帯を持とうと思って。

蔦重:所帯?

てい:やはり、そういうことにございますよね。

歌麿:(隣の連れを見て)おきよってんだ。ついでに、おきよは聞こえないし、喋れないから。(つよが「あーそう」といった風に無言で頷く)

蔦重:ん?どっかで会ったことあるような・・・。

歌麿:そうだよ。お堂で絵、拾ってくれた人だよ。な?(きよを見る。朗らかに殴る真似をする、きよ)

蔦重:・・・ああ、ああ、ああ、ああ!あん時の!

歌麿:そこからおきよの絵、描かせてもらうようになってさ。

蔦重:絵を。

歌麿:(良い笑顔)うん。言葉が無いから、おきよが何考えてんのかよく分かんないんだけど、顔つきや動きから何考えてんのか考えんのが楽しくて。それを絵にするのも楽しくて。時が経つのを忘れるってえか。・・・蔦重。俺、ちゃんとしてえんだ。

蔦重:ちゃんと?

歌麿:ちゃんと名を上げて、金も稼いで、おきよにいいもん着させていいもん食わせて、ちゃんと幸せにしてえんだ。(おきよと顔を見合わせて、ニコニコ)

蔦重:おう。

歌麿:で、石燕先生が借りてた仕事場をそのまま借りられねえかと思ってさ。手持ちだけじゃちょいと足りねえもんで、これ、買い取ってもらえねえかな?(絵の束を出す)

蔦重:(受け取り、絵を見る)お前、これ。

歌麿:うん。前に描けなかった「笑い絵」さ。(戯れる男女の寝姿。抱き合い、頬を寄せ、喜びに満ちた笑顔)

蔦重:・・・よく描けたな。

歌麿:おきよのおかげなんだよ。おきよがいたから幸せって何かって分かって、そしたら、幸せじゃなかったことも絵にすることができた。(絵に描かれた、鬼の形相で男に食らいつく女、うごめく魑魅魍魎。ていとつよも、遠目で絵を見つめる。)・・・あ、だめかい?通しで見ると、全然、まったくまとまりがねえんだよな。

蔦重:(絵の束を揃えて立ち上がり、きよの前に座る)おきよさん。まこと、ありがた山にございます。(両手をつき、頭を下げる)こいつにこんな絵を描かせてくれて、ありがた山です!(戸惑う、きよ)こりゃ、歌麿を当代一に押し上げる、この世で他の誰にも描けねえ、こいつにしか描けねえ絵です!どうか、一生そばにいてやってくだせえ!(頭を下げたまま、動かない)

歌麿:蔦重。俺は嬉しいんだけどさ・・・。

つよ:おきよさんには全く伝わってないと思うよ。

歌麿:多分、身を引いてくれとでも頼まれたと思ってんじゃねえかな。フフフフ・・・。(訝し気な、きよ)

蔦重:・・・ああ、いやいや、違う!

 そう、蔦重がオーバーな頭の下げ方をするから、逆の意味に取られたりして、全然伝わってない。慇懃無礼じゃないけれど、時に言葉や礼を尽くせば尽くすほど、相手を不安にさせ警戒させることもあるよね。難しいものだ。

 まあ、歌麿、とにかくよかったよ!「もうほんとにただの抱えの絵師だな・・・」なんて今回の始めだって蔦重依存をにじませて拗ねていたのに。「ただただ死ぬのを待ってるってな風だったんだよ」と、ていに蔦重が語るような、本当に不憫な生い立ちだったのに。

 きよのおかげで、あっという間に幸せが理解出来ちゃって、そしたら不幸な経験も絵に描けるようになった。心の中の魑魅魍魎を吐き出せたんだね。毒母のせいで心理的に閉じ込められていた、呪いのようなトラウマ感情からも抜けることができたようだ。

 きよと並んだ歌麿の笑顔が眩しいね。あの歌麿の枕絵のエピソードが、こんなに輝かしいものとなろうとは、意外。

伝わってないフリの人に「しかと伝える」危険

 ドラマの蔦重は、ご存知のように田沼びいき。だから、耕書堂が越中「褌」守定信を持ち上げていると思われるのが気に食わない。定信は自身への皮肉が込められた黄表紙「文武二道万石通」を読み、逆に励まされていると思って大ハッスルで、同じ梅鉢の紋を身につけた作中の畠山重忠を「喜三二の神が、私をうがってくださったのか!」と大喜び。蔦重のことを「蔦重大明神」とまで呼ぶ始末なのだから、まあ確かにね。

 不満な蔦重は「実んとこ、からかってんのが伝わってなくて。うちは褌を持ち上げてるとしか思われてねえんです」と戯作者らに訴えていた。「褌の褌担ぎ」「ただの太鼓持ち」と見られるのが意に沿わないからと、田沼叩きを止めれば「露骨にからかうだけになっちまう」とのことで、まさにからかいの塩梅は難しい。

 恋川春町も、自身が執筆した黄表紙「悦贔屓蝦夷押領(よろこんぶひいきのえぞおし)」の皮肉が伝わっていないと不満顔だ。小島松平家で勤務中にもかかわらず文机に頬杖なんかついちゃってる春町に、当主・松平信義(林家正蔵)が話しかけた。

松平信義:また、案思でも考えておるのか?

倉橋格(恋川春町):(ひれ伏して)お役目中に申し訳ございませぬ。

信義:苦しうない、面を上げよ。(座って、懐から本を出す)「よろこんぶ」とびきり面白かったぞ!実に皮肉でな。

春町:殿には、皮肉をお分かりいただいて。

信義:越中守様になぞらえた重忠が、田沼様になぞらえた義経に命じて押領した蝦夷を頼朝に献上する。蝦夷も押領、手柄も押領。よく、お叱りを受けなかったな。

春町:幸か不幸か、その皮肉が全く伝わっておりませぬようで。

信義:伝わり過ぎてもお咎めを受けようし、難しいところじゃな。

春町:・・・あの、殿は越中守様の政をどのようにお考えで?

信義:・・・志はご立派だが、果たしてしかと伝わるものなのか。

春町:しかと伝わる?

 からかいは伝わってないかもしれないが、伝わり過ぎてもお咎めを受ける。が、他方の褌(定信)の志も又、上手くは伝わらないのではないかと殿は言った。

 どうなんだろう・・・物事が伝わっていないと思っていても、実はそんなことは無いのかもしれないと思うけどな。

 皮肉については「分かっているけど、ギリギリ分からないでやり過ごすことができる程度にしておいてちょうだいよ、じゃないと表立って処分しなきゃいけなくなるでしょ」ってなことで、伝わってないフリのお目こぼしだよね。

 他方、お上の政策についても、トンチキに見える下の反応は「やだな、そんなの面倒だな~」という受け入れたくない気持ちの表れ、抵抗なのであって、実際にはお上の意図はまあ伝わっていると思うんだよね。お上が、志の持ち方を誤っているから、まともに相手にしたくないだけというか。

 それを、伝わってないならしっかり伝えてやれ!とばかりに押しつけがましくメッセージをエスカレートさせるのは危険だと思うのね。耕書堂の黄表紙も、各方面に心得をわざわざ書きまくる定信も💦(定信の場合は、うんざりされるだけだから、すぐさま危険とまでは言い難いが、長い目で見たら排除される危険が生じるね。)

 実際の定信は、本当に黄表紙ファンだったとしても、心得を書いたり新しく将軍を補佐する職務を忠実に勤めていたら、いくら好きでも黄表紙を読む暇は無くなったかも。それを、わざわざ「こっち見てー」と言いながら立ち上がってお尻ペンペンするような・・・蔦重も春町も、なんか危機感が薄い。実際の春町先生、田沼時代と大して変わらないとでも思ってたか。

 春町は、定信の文武に優れた者を作り出そうとする志があまりよく伝わらず、おかしな方向に武張っている「トンチキ侍」よりも、田沼時代を象徴する「ヌラクラ侍」の方がよほどマシだとばかりに、誰が読んでも分かる皮肉を込めた黄表紙を仕上げてしまった。定信の著書「鸚鵡言」をも完全にもじっている「鸚鵡返文武二道」だ。あーあ💦

 春町もそちら方向に走り出したらバカ真面目というか、単純・・・「よろこんぶ」も最も売れてないからとへそを曲げていたのに、殿に褒められて気持ちに片が付いちゃうぐらいだね。

 そのあからさまな皮肉を込めた春町の戯作の草稿を読み、蔦重等は大喜び。だが、ストップをかけたのは、眼鏡キラン✨のおていだった。

蔦重:じゃあ、これで仕上げに進めますか。

てい:お待ちくださいませ。これは、あまりにもからかいが過ぎるのではないでしょうか?

蔦重:けど、これは現にも起こってることで。

てい:だからこそ、まずいかと。

蔦重:いいじゃねえか。最後は凧あげてめでたしめでたしなんだから。

てい:そこも、あまりにもおふざけが過ぎますかと!

恋川春町:俺は、さしてふざけておるつもりはないのだ。褌の思い描いた通り、世は動かぬかもしれぬ。だが、思うようには動かぬものが思わぬ働きを見せるかもしれぬ。故に、躍起になって己の思う通りにせずとも良いのではないか。少し、肩の力を抜いてはいかがかと。俺としては、そういう思いも込めて描いたものだ。

大田南畝:からかいではなく、諫めたいというところか。

春町:まあ、そういったところだな。

てい:それは、からかいよりもさらに不遜、無礼と受け取られませんでしょうか?

蔦重:そもそも不遜で無礼なことをしようってわけで。

てい:とにかく、私はこれは出せば危ないと存じます。

 そこに、つよと次郎兵衛が廊下をやって来て、次郎兵衛が蔦重に告げた。

次郎兵衛:ちょいと面白え話を小耳に挟んでさ。こりゃ早くおめえに知らせなきゃって。どうもよ、越中守様ってなあ大の黄表紙好きらしいぜ。前にお屋敷で奉公してた人に聞いたから、間違いねえよ。「金々先生」以来の恋川春町贔屓。蔦屋のことも、大の贔屓だって話だぜ!

 蔦重等ご一同はこの情報で調子に乗り、ていさんの必死の忠告も消し飛んでしまった。ああ、次郎兵衛兄さん、話を持ち込んでくるタイミングが悪かったねえ💦

定信の怒りは積み重なるばかり

 今回、早くも家斉が、歴代将軍で誰よりお得意の子作りに踏み出していた。仁政を成すために学を修める務めを強調したい定信に「大事な務めを成し得て安堵しておる」「それぞれ秀でたことをすればよいと思うのじゃ。余は子作りに秀でておるし、そなたは学問や政に秀でておる。それぞれ務めればそれで良いではないか」と言い放っていた。定信は無言ながらイライラ。

 父である一橋治済も、優雅に能を舞いながら「突き詰めれば政など誰でもできる。それこそ、足軽上がりでもできたわけであるからの。しかし、後継ぎをもうけることは上様にしかできぬ。ご立派であると思うがの」と、現在政に携わっている定信にそれを言う?というディスりを悪びれずに言った。

 そして、豪華な能装束を3着も島津重豪から贈られたという治済に「賂も固く禁じましたこと、ご存知にございましょう。一橋様がかようなことをなされては、示しがつきませぬ!」と咎めた定信に、治済は能面を差し出し「これでひとつ、よしなに」と言った。え~!すごいな治済。ここで賄賂の能面?

 「某をバカにしておられるのか?」と怒り満面の定信に、治済は「いやいや、わしはそなたから10万石ももろうたゆえ、せめて少しでも返そうと思うたのじゃが」と、さらに逆鱗に触れるような言葉を重ねた。

 くー、治済は天才的だね・・・筆頭老中になるにあたり、引き換えに田安を返上させられたことについては、定信は断腸の思いだったはず。それを、ねえ。昔と同様手玉に取られて、苦労するよね定信も。

 この怒りの積み重ね、危険だよ・・・これが蔦重らに向かうのか💦お手柔らかに頼みたいが。ね!😢

 そうそう、定信が家斉に「御心得之箇条」という文書を自ら書いて渡していた。ずらずら書いてある中で、家斉がピックアップして読み上げたのが「六十余州は禁廷より御預り遊ばされ候御事に」だった。

 定信が続けて「日ノ本の諸州も天子様より御預りしており、決してご自身の自由にできるものではありませぬ・・・といった具合にございます」と説明を加えていたが、コレ、幕末の尊王攘夷運動の際に攘夷派が声高に訴えていた理論だよね。

 なんとこれの言い出しっぺが、定信なんだそうだ。余計なことを言いおって~💦と後世の幕府側の人たちに叱られそうな話だ。YouTube動画の「かしまし歴史チャンネル」の「きりゅう」こと川合章子さんが仰っていたのだが、えーと、どの動画だったか・・・😅💦

youtu.be

 ここのところ年のせいか動画の類を見始めると寝てしまい、なかなか最後までコンプリートできないのだが、「かしまし」解説はきりゅうさんの知識が海のように深く、思わぬ発見をさせてもらえる。「べらぼう」最終回まで、寝ないで見たいものだ。

 さあ、次回は蔦重と春町ら運命の寛政元年(1789年)だ。見るのが怖い。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#34 さよなら、ケンワタナベの田沼意次!相良の悲運にタイミングを合わせたような牧之原市の竜巻被害に涙😢田沼一派の蔦重は書を以て抗う覚悟

台風15号が田沼意次の領地・静岡県牧之原市を抜けていった

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第34回「ありがた山とかたじけ茄子(なすび)」が9/7に放送され、とうとう田沼時代に幕が引かれ、新リーダー松平定信の下、土山宗次郎の斬首など見せしめの田沼一派の粛清も行われた。

 しかし・・・最後の田沼一派として抗う覚悟を見せた蔦重。待ち受けるは、茨の道か😢公式サイトのトップにある新しい蔦重ビジュアルも、何か不安げ・・・。あらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫ 第34回「ありがた山とかたじけ茄子(なすび)」

 老中首座に抜てきされた定信(井上祐貴)は、質素倹約を掲げ、厳しい統制を敷き始める。 そんな中、蔦重(横浜流星)は狂歌師たちに、豪華な狂歌絵本を作ろうと呼びかける。しかし、そこに現れた南畝(桐谷健太)は、筆を折ると宣言。南畝は定信を皮肉った狂歌を創作した疑いで処罰の危機にあった。意次(渡辺 謙)が作った世の空気が定信の政によって一変する中、蔦重は世の流れにあらがうため、ある決意をもって、意次の屋敷を訪れる。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第34回 - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 前回ブログで書いてしまおうかと思ったものの1回待ったのだが、推定風速75m/sの国内最大級とも言われ激甚災害にも指定されようという竜巻被害を、なんと意次の領地であった相良(静岡県牧之原市)が被った。この田沼時代終焉のタイミングで、だ。

 報道によれば、竜巻は台風15号の襲来に伴って9/5昼に発生、約2000棟以上もの住宅被害をもたらし、牧之原市の東隣の吉田町では死者も出た。意次役のケンワタナベもインスタグラムでお見舞いコメントを出していたとか。

 先日、牧之原市はブログでも書かせていただいたばかりだ。

toyamona.hatenablog.com

 相良城跡地にある市の史料館帰りに牧之原から吉田にかけて車で走ったが、吉田ICに至る道の周辺はまっ平ら。ボコボコした山が特徴的な伊豆とは違う印象だった。アメリカではまっ平らなカンザスなどで竜巻被害がよくあり、死者が出るニュースはよく耳にした記憶があるが、日本でもそうなるんだ・・・と年々凶暴化するように感じる日本の天候に暗澹とした。

 9/5に牧之原市の被害を見て「これは忍びない」と、NHKはもしかして、9/7放送では意次失脚に伴う相良城の没収からの破却シーンを慌ててドラマ本編から削ったりしたのだろうか?それとも、最後の紀行で牧之原を扱うから、ドラマでは最初から映像は無かったか・・・。

 そういえば、結局、蔦重を殺めようとした「丈右衛門だった男」の正体は、三浦庄司は知りながらシレっと蔦重にとぼけて終わった。

 意次は蔦重を巻き込みたくなくてまだ配慮したのだろうとは思ったが、もう子どもじゃないのだから、「白天狗の手先ではないかと思われるから、今後政に絡んで立ち回る際には気を付けろ」と、これまでの経緯を明かしたら良かったのでは。だって、白天狗は今や現将軍の父、田沼様も政から退くことになるわけだし。

 「打ち壊しの折の礼」として三浦から渡された25両×2の「切り餅」は、500万円ぐらいはしたらしい。蔦重が「頂き過ぎ」と言うぐらい渡してきたのも、先が無いと見通している意次としては、お別れのご挨拶のつもりだったのか・・・ギリギリまで頑張りそうだから、そんなことないかな。

世論をコントロール、華々しく登場の定信

 「田沼様はいつご老中にお戻りになられますので?」と聞いた蔦重に「いつごろかのう」と濁した三浦庄司。その日は来なかったね。みの吉が手にして蔦屋に駆け込んできた読売には、「松平越中守様 御老中首座に御昇進」と書かれていて、「なんで田沼様じゃねえんだよ!」と蔦重は色めき立った。

 定信の登場は、打ち壊しの1カ月後だったそうだ。お救い米のお米はダラダラ遅らせるのに、こういうタイミングをつかんでいる。

九郎助稲荷(綾瀬はるか)解説:天明七年(1787年)六月十九日。松平越中守様は、老中首座に抜擢されました。(不満顔の松平康福らを従え、先頭で廊下を進む定信)

市中の読売:さあさあ、新しいご老中様だ!ごぼう抜きの御取立て!あの吉宗公のお孫様だよ!(歓声が上がる)陸奥の白河のお殿様が、まだかまだかと待ち望まれて、とうとうこの度新しいご老中様にお就きになった。何が凄いってね、この人、江戸の米不足をお嘆きになってお国の米を何百俵と・・・。

綾瀬はるか:吉宗公のお孫様登用という出来事に、市中の期待は膨れ上がり越中守様の話題でもちきりとなっておりました。

ナベ:はあ~、まだ三十になったばかりだってさ!

女1:へえ、すごいね!ねえ!(風車売りの男が聞いている)

烏亭焉馬(えんば。大工の棟梁風):若えのに、政の腕が良いんだってな。

男1:白河じゃ、飢えて死んだ奴いないらしいですよ。

焉馬:じゃあ江戸も、二度とおまんまの食い上げって事にはならねえな。

男2:むしろたらふくじゃねえですか?

一同:そうだよな!(鋭い目を向ける、水売りらしい男)

マツ:へえ!柔術で大きな熊を倒したんだって!

タケ:知ってるよ!五つの時には「論語」をそらんじたんだろ?

ウメ:違うね、生まれてすぐって話だよ!ねえ!(呼びかけられた目つきの怪しい女が、ゆっくり頷く。手元の白玉アップ)

水野為長:(定信に)「まさか、このお方がこうなろうとは。御年は若し、末頼もしく思うのは松平越中守」。読売に提灯持ちをさせたのは大当たりでございましたね!もはや吉宗公のお孫様ではなく、吉宗公の生まれ変わりとまで言われておりますよ!(何枚もの書付けを定信に渡し、定信が目を通す)

綾瀬はるか:越中守様が手にしたのは世間の噂。市中や城中で起こる出来事を、漏れなく把握するべく努めていたのです。完璧主義ですね。

松平定信:(一文に目が留まり)私が莫大な賂を贈り老中になったのであろうと言っておるこの者、素性を確かめておけ。(頭を下げる水野為長)

為長:(障子を開けて、庭に控えた者どもに)聞いたか。(頷き立ち去る)

定信:これを読売に。(懐から書付けを出して、為長へ)

為長:こちらは?

定信:私の世直しの第一歩を記したものである。

 今も昔も、メディアに自らの提灯持ちを上手くさせると大当たりが狙えると、為政者は知っている。本来は市民のための武器となるメディアのはずが、侮蔑的に「マスゴミ」などとの言い方を広め貶め、市民から決して頼られぬよう距離を置かせておいて為政者側だけが宣伝のために活用するとかね。うまいよね。

 定信の手下らは、命じられて世論工作を行っていた。瓦版(読売)に「吉宗公のお孫様」と民衆が期待を抱くように盛り上げて書かせ、良い噂を市中にばらまいていたが、その先が怖かった。定信は、悪い噂の出所を確かめるまでやっていた。どこかの北の方の国のようだ。

 それが、もしかして耕書堂前での声「ここって田沼の手先なんだろ?」「ああ、今どき流行んねえよな」(工作員らによる?)につながっていたのかも・・・おお、怖い怖い。

 白天狗工作員だった「丈右衛門だった男」のように、当時、その手の工作を行う手下らは、普通に多く藩に雇われていたのか。それで、定信もこんなに大々的に手下を動員して地ならしをしていたか・・・ここらへんは、リアルなのかフィクションなのか。

 ここまでできるなら、どうして定信はまんまと白河藩に養子に行かされ実家の田安も半ば潰される事態に陥ったのか?と思いもするが、やっぱり定信は白河藩の当主となって初めて、堂々と工作員も使いまわせるようになったのかもね。子どもの頃、してやられてしまったことを省みて。

 松平定信が老中首座となり、時代は変わった。定信の熱い施政方針演説をつまらなさそうに聞く、11代将軍家斉(羽織紐の房?を遠慮がちにイジイジ)と、父の一橋治済(あくびを大仰にかみ殺す)がスパイスになっていたが、やっぱり年の功、生田斗真の顔芸が突き抜けていて断然面白かった。

老中首座松平定信:賢明なる各々方には今更言うまでもないが、いま、この国は「田沼病」にかかっておる!

老中松平康福:田沼病?

定信:田沼病とは、奢侈にやたらと憧れる病である。奢侈をしたいがために、武家は恥を忘れ賂を貰うことに血道を上げた。商人は徳を忘れ己が儲ける事ばかり考え、百姓は分をわすれ田畑を捨て江戸に出てきた。上から下まで、己の欲を満たすことばかり考え、わがまま放題に振る舞った。その行きついた先が、先日の打ちこわしである。

 田沼病は恐ろしい病だ。人の心を蝕み、やがてそれは世の成り立ちさえ脅かす。これを治すための薬はただ一つ。万民が「質素倹約」を旨とした享保の世に倣うことである!上下打ち揃って倹約に努め、遊興に溺るることなく、それぞれの分を全うすべく努めるべし。(家斉、羽織紐をいじる)武士は文武に勤め世を守り(治済、あくび)、百姓は耕作に勤め世を支え、その他の者は世に尽くすべし!

一同:はっ!

みの吉:(耕書堂で、読売を読み上げる)「さすれば、世は万民にとり住みよいものとなろう」

 さて、松平康福や水野忠友ら老中の面々もクランクアップとのことで、花束を手にNHKのXアカウントに写真が載っていた。そうか・・・彼ら田沼派老中もドラマからさよならか。

 松平康福と水野忠友は、縁戚でもあった意次と今後付き合わない宣言とか、養子縁組をわざわざ解消するとか、なかなかに苦労したらしい。

 牧之原市教育委員会がまとめた「相良藩主田沼意次」の年表を見ると、康福は、意次が1788年7月末に死んだ翌年2月には死んでいる。半年後に死ぬなんて、お年のせいもあるだろうが、もしかしたら田沼派として消されたなんてことは?妄想としても、考えすぎか。

 離縁された意次の息子(意正)の代わりに水野家に新たに婿養子に入った人物が尽力し、意正は1819年に若年寄に起用され、1823年には領地も相良に1万石で復したのだったよね・・・ここらへんはウィキペディア先生で見た気がする。

 先ほどの年表を見たら、1793年から田沼意次の旧領相良3万石が一橋治済の領地となり、1819年には圧政で一揆が起きて一橋屋敷が襲われていた。良い土地だからと、治済が欲しがったのか?圧政で一揆勃発とは何ということだ。

 ところで、市井のおばさん3人組の前で、おいしそうな白玉を手にしている定信工作員(こちらもおばさん)の手元がいやにアップになったものだから、白玉を作りたくなった。できたてをヒンヤリさせたら美味しいのなんの・・・たまらんものね。

 今度は白玉粉を豆腐で練って作ってみたいと思いつつ、なかなか時間が無い。白玉団子は、江戸時代に庶民にも人気だったようだ。(白玉粉って何? 白玉を使ったひんやりおやつレシピや歴史をまとめてご紹介! | 和樂web 美の国ニッポンをもっと知る!

蔦重夫婦の大ゲンカ

 松平定信が天下を取り、気に食わないのが蔦重だ。「田沼の犬」と言われても、それを甘受してきたぐらいの田沼びいき。それも流行んねえと陰口を叩かれ、母つよには定信の男前の錦絵を出せとか、手代みの吉には、素性を隠した定信が大暴れする黄表紙を出してはと言われてしまった。

蔦重:(店頭で、辺りを憚らず)うさんくせえと思わねえのかよ!あの褌野郎。打ち壊しを収めたのは田沼様だ。それを、さもてめえが収めたような面してご老中んなったんだろ。人の褌で相撲取った褌野郎じゃねえか。

てい:(帰ってきて、店に入り戸を閉める)なれど。打ち壊しを引き起こしたのも、また田沼様かと。(つよとみの吉、お帰りなさいと声をかけるがスルーされる)己で引き起こしたものを己で収めた。それはお手柄ではなく、帳尻合わせをしただけと見なされたのではないでしょうか。

蔦重:・・・かもしんねえけどよ。

てい:(読売を差し出して)ご老中から、新たなお達しがあったようです。(略、前述の定信熱い施政方針演説が読売に書かれている)

蔦重:とんでもねえな、褌は。

てい:倹約に励み、分を弁え働く。私には、至極真っ当なことを仰っているように思えますが。

つよ:そうだよねえ。

蔦重:正気で言ってんのかよ。

みの吉:逆に、旦那様はどのあたりが正気でないと?

蔦重:あ?そいつはな、世のため死ぬまで働け遊ぶな贅沢すんなって言ってんだよ。んなの、どうとったって正気の沙汰じゃねえだろうが。

てい:お言葉ですが、働くな死ぬまで遊べ贅沢しろでは世は成り立ちませぬかと。

蔦重:じゃあ、おていさんは死ぬまで働き詰めで良いんですか?

てい:放蕩の末、身を持ち崩すよりはましかと存じます。

蔦重:じゃあさ!

てい:派手に遊び回る方を通だの粋だのともてはやす。そもそも今までの世がとち狂っていた!・・・と、皆様言っておいででした。

蔦重:あ?皆様ってどこの誰様なんだよ?

てい:(丸眼鏡を外し、一歩踏み込み)世間様にございます!

蔦重:何だよ、何で眼鏡取んだよ!

てい:旦那様。明鏡止水にございます。

蔦重:何だよそれ。

てい:新しいご老中のお考えは、極めて真っ当で皆は喜んでいる。それは本屋にとり、大事なことではないでしょうか!(目線を外さない)

蔦重:あ~。

 ていの瞳(目力がすごい)は止まった水のように澄んでいるから、蔦重も敵わなさそう。でも、蔦重は「死んでも倹約なんかしない」と抗い、ていは躍起になって倹約し出したと、つよが次郎兵衛さんに言っていた。まだここら辺は可愛いもの。大ゲンカ第二弾が後に控える。

田沼一派として「見せしめ」に?

 野菜に草花に昆虫。素朴で繊細に描いた歌麿の絵だ。これを、良い紙、良い顔料で金銀雲英(きら)も使い、彫は一流の藤一宗を起用した豪華な狂歌絵本にしようと思っていると、蔦重は狂歌師の面々を前に言った。定信が発した贅沢禁止令はどこへやら、「倹約なんて3日で飽きまさ。年明けるころには貯まっちまった宵越しの銭を使いたくて、うずうずしまさ!」と、強気な発言だ。

 そこに若年寄(本多忠籌と松平信明)らお偉い方に絞られ、すっかり顔を青くした大田南畝(四方赤良)がやってきて、「俺はもう狂歌も戯作も止める。筆を折る」としょんぼり。「俺は罰せられるかもしれんのだ」と訳を語った。

世の中に 蚊ほどうるさきものはなし ぶんぶといふて 夜(よ)も寝(いね)られず 

 この有名な狂歌は「よるもねられず」と思っていたが、「よもいねられず」と読むのだね・・・なんて話じゃなくて、これが大田南畝の作だと疑われ、それを褒めてしまったばかりに南畝は罰せられるのかもしれなくなったのだった。

 怖すぎる。たかが蚊の歌で呼び出しを受け、沙汰は追ってすると。目の前の若年寄の作だと思ったから褒めたのに、ねえ。「これは知りません」とだけ言えば良かったのか・・・正解が分からないが、「見せしめ」として目を付けられたのなら逃れようもないよね。

 とにかく「今までのように戯けたらお縄になる」と狂歌師らも悟り始めた。「田沼派の不正役人を一斉処罰」なんて読売も出回り、冗談じゃ済まなくなってきた。大田南畝のパトロンで、田沼意知の代わりに誰袖を落籍したことになっていた元勘定組頭の土山宗次郎も、不正役人の名簿に名を連ね、さらなる処罰を恐れてなんと逐電。所沢の山口観音まで逃げたとか。(土山宗次郎 - Wikipedia

 ここで、大ゲンカ第二弾。「蔦重、良い嫁さんを貰ったもんだ」と、母つよも内心で思ったことだろう。田沼びいきと思われている耕書堂も正念場なのだ。判断を間違えれば、処罰される可能性もある。

蔦重:カボチャさん、これ土山様が処罰って・・・。

大文字屋:そうなんだよ。しかも土山様、逐電しちまったんだよ。

蔦重:逐電ってなんで。

大文字屋:分からねえけど、逐電する程の罰が下りそうだってことじゃねえかな。

蔦重:けど、もう罰は受けてやしませんでした?

大文字屋:だから、こりゃもう「見せしめ」だよ。

蔦重:え・・・。

つよ:ねえ、これってまさか、うちにまで累が及ぶって話じゃないよね?

蔦重:んなわけあるかよ。俺ゃ土山様と歌詠んでただけだ。

てい:なれど、土山様の汚れたお金で、共に遊興に耽ったとも言えますよね。それを罪とし「見せしめ」にということは、ありえるのではないでしょうか。

蔦重:なに他人事みてえに言ってんだよ。おていさんは、この店の女将だろ!

てい:だからこそ、最も悪いことを申し上げております!私は一度、店を潰しております。二度目は御免ですから。・・・(頭を下げつつ)お気持ちは分かります。ですが今は、己の気持ちを押し通す手ではなく、店を守る手を打っていただきたく。(ていに見惚れるつよ)

 蔦重は簡単には諦めず、考えた。「明鏡止水、世のあるがまま。皆が喜ぶのは褌(定信)を上げ、田沼様を下げるもの」とは思うものの、これまでの楽しい自由な創作環境をもたらしてくれたのは、他ならぬ田沼様なのだ。

平賀源内:自らの思いに由ってのみ、「我が心のまま」に生きる

 自由、と言いたいのだろう。言われた言葉を反芻し、我が心のままに本を出す覚悟を決めたが、そのために仁義を切りに行ったのが田沼意次の邸だった・・・ということなのだろう。

意次との別れ

 今回のクライマックスは、主人公蔦重と、蔦重を支えてきた存在の田沼意次との別れの場面だ。蔦重は時代の寵児で成り上がりであり、その時代を作ったのは意次だ。

田沼意次:(廊下を早足で来るが、途中で平静を装う。蔦重の待つ部屋に入り、蔦重の顔を覗き込み)何かあったか?まさか、そなたにまで累が?

蔦重:(ひれ伏したまま)いえ、然様なことでは。

意次:そうか。何かあれば、遠慮のう申せ(腰を下ろす)・・・今となっては、力になれるかどうか怪しいがな。ハハハ。

蔦重:(にっこりと笑い)田沼様。私は、先の上様の下、田沼様が作り出した世が好きでした。皆が欲まみれで、いいかげんで。でも、だからこそ分を越えて親しみ、心のままに生きられる隙間があった。吉原の引手茶屋の拾い子が、日本橋の本屋にもなれるような。

意次:俺も、お前と同じ成り上がりであるからな。持たざる者には良かったのかもしれぬ。けれど、持てる側からしたら憤懣やるかたない世でもあったはず。今度はそっちの方が、正反対の世を目指すのはまあ、当然の流れだ。

蔦重:・・・田沼様。私は書を以てその流れに抗いたく存じます。最後の田沼様の一派として。田沼様の世の風を守りたいと思います。ただ、そのためには田沼様の名を貶めてしまうかもしれません。いや・・・貶めます。そこはお許しいただけますでしょうか。

意次:・・・フン。「許さぬ」などと申せるはずがなかろう。もしそんなことをしたら、源内があの世から雷を落としてこよう。ハハハハハハ!好きにするがいい。自らに由として「我が心のまま」にじゃ。

蔦重:(ウンウン頷いて)田沼様。ありがた山の寒がらすにございます!

意次:(蔦重の両手を取り)こちらこそ、かたじけ茄子だ。ワハハハハハハ・・・(笑いながら、蔦重の手の甲をパンパン叩く)

 このドラマの意次は、蔦重に本当に優しい。「貶めます」なんて言いに来られたら「お前、口では上手く言ってるけど、つまりは俺を裏切ってけちょんけちょんに書いて儲けますよって事だろう?ああ?あちらに迎合するんだよな、ずいぶんと時代の波乗りがお上手で」って怒ってもおかしくない話だと思った。

 でもね、自由が大事なんだよな。我が心のままに。それが田沼時代の風だと。それに従うと、止めろとは言えないって・・・。

 まだ見ていないのだが、映画「国宝」ではケンワタナベと横浜流星は親子を演じていると聞く。だから、ここでも親子感がにじみ出ているのかな。意次の意知以外の子どもたちがドラマには出てこないのは、意知死後のふたりの関係を親子となぞらえたいからなのかな。

 蔦重が見送られる際に、田沼家では新しい取り組みを行っていた。「家中の役目を皆の入れ札で決めてみようかと思うてな」=選挙だよね。

 上が決めることも皆の考えで決めたっていい、「これを国を挙げてやったらおもしろいことになると思わぬか?世が引っくり返るかもしれん」と意次に言わせているが、この意次の取り組みは本当にあったと聞いた。

 本当なら、すごい。ドラマで意次の去り際にわざわざ取り上げるぐらいだから、本当なのだろう。

 もう邸には幕府からのお達しを告げる若年寄が来ており、三浦庄司が意次に目配せした。「ではすまんがここで。楽しみにしてるぞ、ありがた山」と声をかけて去る意次は、ギリギリの時まで蔦重に優しい・・・。

(裃姿でひれ伏す意次。廊下、障子越しに控える三浦)

若年寄本多忠籌:(上座から)面を上げよ、田沼主殿頭。沙汰を申しつける。

九郎助稲荷の解説:軽輩から成り上がり老中まで上り詰めた政治家、田沼意次。進取の気性に富み、最後まで新しき政の仕組みを考え続けた人生であったと言われています。

 本多忠籌役の矢島健一さんって「おんな城主直虎」でも嫌われ役だった。その彼が演じる本多忠籌の先祖は、やっぱり本多忠勝なのか?ウィキペディア先生に氏族は平八郎家と書いてあるからそうらしい。由緒正しき人物、となるとそうなるんだろう。え、定信の独裁に引導を渡す人なのか。へえー。(本多忠籌 - Wikipedia

 これでケンワタナベがクランクアップと聞いて、寂しい。他に誰がこの役を演じることができたかと考えると、この説得力は思いつかない。私の中での田沼意次は、平幹二郎が「剣客商売」で演じた役だったが、完全に塗り替わった。どちらも好きな役者だけれど。

書を以て抗う

 ということで、蔦重は戯作者を集めて話をした。

 「これから先、ふざけりゃお縄になる世がくると思ってます」と言い、「戯れ歌一つで沙汰を待てなんて、いくら何でも野暮が過ぎる」「いい世を作ってくれるなんて、どうもまやかしにしか思えねえ」「おもしれえのは、世をてめえの思う形にしてえ褌野郎だけじゃねえですか!これから先、褌以外はちっとも面白くねえ世がくると思ってまさ」と、定信への不信をぶちまけた。

 そこで蔦重が目論むことは・・・「この流れに、書を以て抗いてえ」と。皆様、力をお貸しくださいと頭を下げた。

 「蔦重、いったいどんな書を以て抗うのだ?」と恋川春町は、吉原で仕切り直したいばっかりの戯作者の面々を制して蔦重に確認した。蔦重は、「褌の御政道をからかう黄表紙を出してえと思ってます」と返答、皆は仰天。政をからかうなんて、もってのほかの時代、お上をネタにすることすら禁じられているのだ。大田南畝は「ありえぬ!御公儀をからかうなど、首が飛ぶぞ!」と色を成した。

 確かに建前はそうだが、じゃあこの読売は何だと、蔦重は懐から出してみせた。最近の読売は、散々定信の宣伝をしてきているのだ。

蔦重:これが野放しにされてんのが不思議じゃねえですか?ここんとこ、読売はやたら褌や政について書くようになった。しかも、読売とは思えねえほどネタが確か。こりゃ一体・・・。

宿屋飯盛:お上がネタを漏らして書かせてる?

蔦重:ご名答!調べてみたら、案の定、褌がやらせてましたさ。

大田南畝:しかしそれは、頼まれておるわけで、ネタにするのとは訳が違おう!

蔦重:仰せの通り。でも、その黄表紙が田沼様を叩くものなら、どうです?てめえの良い噂を、金払って書かせるような奴ですよ。極悪人田沼を叩いて褌の守様をもち上げりゃ、これ幸いと見逃すんじゃねえですか?

つよ:しかも売れそうだね、そりゃ!

蔦重:おう。そこも狙いだよ。

北尾政美:けど、褌を持ち上げるって、からかうんじゃありませんでしたっけ?

北尾重政:一見持ち上げてると見せ、その実からかうってことじゃねえか?

蔦重:さすが、重政先生。一つは、そういう向きの黄表紙を出します。それから、もう一つは・・・(きょとんとする歌の絵を持ってくる)これです。倹約ばやりの世の中に、目玉が飛び出るほど豪華な狂歌絵本を出します!

喜多川歌麿:あ、その絵、そうなるの?

蔦重:おう。ってことで、南畝先生。

南畝:俺はやらぬぞ。やらぬと言ったはずだ。

蔦重:俺は、贅を尽くしたもんを作りてえんです。贅沢すんなって言われても、欲しくてたまんなくなるような。けど、四方赤良の狂歌が無え狂歌絵本は、贅を尽くしたとは言えねえ。どうか一首、寄せてもらえませんか?(頭を下げる)

 俺ゃ、狂歌ってなあ素晴らしい遊びだと思ってまさ。意味もねえ、くだらねえただただ面白え。これぞ無駄、これぞ遊び、これぞ贅沢!しかも、身一つでできる心の贅沢だ。だから、上から下まで遊んだ。分を越えて、遊べた。これぞ、四方赤良が生み出した、天明の歌狂いです。俺ゃ、それを守りてえと思ってます。南畝先生はどうです?

南畝:(目の前に置かれた絵の束を手に取り、弦の葉陰に伸びる一匹の毛虫の絵を見て)・・・「毛をふいて 傷やもとめん さしつけて 君があたりに はひかかりなば」

智恵内子:毛虫に寄せる恋。

元木網:毛虫が勢い込んで夜這いをしたとこで、振られちまうよなってとこですか。

朱楽菅江:きれいごとを引っぺがして、お前の本性を暴いてやる!・・・とも、とれますね。

南畝:屁だ。

蔦重:え?

南畝:戯れ歌一つ詠めぬ世など、屁だ!あそれ、へ、へ、へ・・・(一同で踊る)

 書を以て抗うが、黄表紙で田沼叩きをやって見せる事、そして豪華絵本を出すこと。田沼叩きはやっぱり、これまで田沼派だった書店が、慌てて踵を返し、新たなる権力者にお追従に走ったとも見えそうだけどなあ。単なる迎合だと。果たして意図は通じるのかな。

 で、天明八年(1788年)年明けに豪華絵本と黄表紙3冊が出たと。この年は、意次が亡くなる年・・・いくら仁義を切ったからって、田沼叩きは水に落ちた犬に石つぶてを投げるような😢

 さて、個人的に好きなコンビがこれから出てくるそうだ。ごめんねごめんね~の栃木コンビ・U字工事。栃木者をやらせたら右に出る者はいないけれど、なぜ栃木?

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#33 わかっていたよ、魔の33回だもの・・・天使の新さんが蔦重を守って身代わり昇天、悪魔の「丈右衛門だった男」は若き長谷川平蔵が始末

打ち壊しは、米価を下げるための抗議行動

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第33回「打壊演太女功徳(うちこわしえんためのくどく)」が8月31日に放送された。なに、エンタメだって?

 しかし、前回のブログ終わりで書いた通りになってしまった・・・「予告では、土まんじゅうの前で蔦重が涙していたよ。それが新さんのものでないことを祈る」と。いや、主人公が土まんじゅうを前にして泣いている予告を見たらさ、そりゃ新さんぐらいに重要キャラが死ぬのだと思うよね。

 既に、おふくととよ坊の土まんじゅうも目にしている。親子3人、一家全滅か・・・見ている方はやり切れないが、新さんとしたら、実は何も悲しいことは無いのかも。世の中を明るくする男(蔦重)を守る人生だったのだと、人生の意味を実感することができて、あの世では愛する妻子が迎えてくれるのだ。感激の再会では?

 これまでにない酷暑の8月末日に放送された第33回。脚本家森下佳子は「おんな城主直虎」の33回に、いわゆる槍ドンを持ってきた人だ。あのあと直虎は自分のやった事の反動で生きながら死んだような状態になっていたけれど、目撃した小野ファンのこちらもガックリだったからね・・・残暑をどう乗り越えたらいいのかと思うほどの、衝撃だった。

togetter.com

 一体何のこと?と思われる方は、どうぞこちら👆のまとめ記事をご覧くださいな。今思い出しても脱力させられるほどの衝撃回だった。脚本家も反省したのか、「べらぼう」の場合は最後に歌麿が出てきて蔦重をヨシヨシしてくれた。見ているこちらも救われたね。

 ということで、改めて今回のあらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫ 第33回「打壊演太女功徳(うちこわしえんためのくどく)」

 天明7年、江戸で打ちこわしが発生する。新之助(井之脇 海)たちは、米の売り惜しみをした米屋を次々に襲撃する。報を受けて混乱する老中たちに対し、冷静かつ的確に提言する意次(渡辺 謙)。そんな中、蔦重(横浜流星)が、意次のもとを訪れ、米の代わりに金を配り、追々米を買えるようにする策を進言する。一方、一橋邸では治済(生田斗真)が、定信(井上祐貴)に、大奥が反対を取り下げ、正式に老中就任が決まると告げるが…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第33回 - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 私は誤解していたらしい。打ち壊しでは、飢えに耐えかねた民衆が立ち上がり、てっきり米や財物の略奪は起こるものなのかと思っていた。ドラマでは「丈右衛門だった男」が扇動していたみたいに、商店を襲って力で食料を確保するのが基本だと思っていた。つまり、身も蓋もないが、集団強盗みたいになる。

 そうしたら、「べらぼうナビ」でもそうじゃなかったんだと説明があった。

【べらぼうナビ🔍秩序ある打ちこわし?】

打ちこわしの際、江戸の市民たちは「騒ぎに乗じて米や金を略奪しない」「鳴物を合図に休憩しながら行う」など秩序ある行動をしていたとみられ、それを「誠に丁寧、礼儀正しく狼藉」と表現した武家による記録も残っています。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第33回 - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 つまり、純粋な打ち壊しは現代なら抗議行動、デモの行列に近いものと当時は評価されるものだったみたいだ。「打ち壊すだけなら米屋との喧嘩で済む」と、前回、新さんが言っていたし、今回も「盗むな、打ち壊すだけだ」とか「盗みは止めてもらいたい」と丈右衛門だった男に扇動されて盗みを始めた奴らに対しても言っていた。

 それでも、やっぱり現代の目では「いやいや、店を壊して歩いたら器物損壊になっちゃうでしょ、それじゃ喧嘩と称して無罪放免になるのは無理がある」との意識が働いてしまうよね・・・。

 ネットでまずはチェックするのはウィキペディア先生。概要を把握するには便利なんでね・・・単なるブログだからといつも安易に走ってゴメン、大学の先生には怒られそうだが、当初と違い、最近は割と出典も書き手もしっかりしてるよね?

 まあ、以前、海外の友達と話がかみ合わなかったので、ウィキ英語版で日本の某政治家の項を読んでみたら、誰の事?と思うぐらいの美々しい書きぶりで肝心なことが省略されていて、その外向けの情報コントロールの徹底ぶりには唖然としたことがあるから、ウィキペディア先生も信用ならないところは確かにあるのだ・・・。

 そういう影響をネットは受けやすいのだろうね。組織力(金)のある方が勝ちなんだな。命じられてハイハーイとちゃちゃっと情報粉飾に手を貸す人もいて、ギョッとさせられたこともあるし。そうやって変にネット上での情報粉飾が進んだ今世紀は、本当に日本の政治も歪になってきたと感じる。

 脱線したが、下の引用のうち、アンダーラインはこちらで引いた。

 明けて天明7年5月21日(1787年7月6日)、打ちこわしは江戸の中心部から周辺部にかけての全域に広まった。打ちこわし勢は鳴り物として鐘、半鐘鉦鼓、太鼓、拍子木、金盥などを鳴らしながら人々を集め、棒や斧、鋤や鍬、そして鳶口などを持ち、鳴り物や掛け声で合図をし、時々休憩を取りながら打ちこわしを行った。最初は打ちこわしを見物していて途中から参加する場合もあり、そのような人々は障子の桟や木切れなど打ちこわしの現場に散乱している物を手にとって打ちこわしを行った。そして打ちこわしの標的の商家の門戸を破る時は大八車を用い、二階に登る時には段梯子を用いるなどし、門塀、壁、障子、畳、床など家屋を破壊し、米を搗く道具である臼や杵、酒樽や桶、帳面などの商売道具、箪笥長持などの家具、呉服などの家財道具などを壊し、更に米や麦、大豆や酒、醤油、味噌などが路上にぶちまけたり川に投げ込むなどした。しかし打ちこわしによって家屋の倒壊に至ったケースは確認されておらず、また5月20日、21日の段階では打ちこわされた商家の米や麦、大豆などを路上にぶちまける、川に投ずなどといった事態が頻発したが、打ちこわしに乗じた盗賊行為などはほぼ見られなかった。これは打ちこわしの目的が民衆の苦しみを省みずに米の買占めを行い、米価高騰を引き起こした商人たちへの社会的制裁を加えることにあったためと考えられ、また当初打ちこわしに乗じた盗賊行為がほぼ見られなかった点や、鳴り物や掛け声で合図をし、ときどき休憩を取りながら打ちこわしを行った点などから、打ちこわし勢が高度に組織化された規律ある行動を行っていたと見られている[102]。これは江戸打ちこわしについて水戸藩士が「まことに丁寧、礼儀正しく狼藉」を行っていたと記録したり、別の武士の記録にも「打ちこわし勢は一品も盗み取ろうとしない」と書かれていることからも裏付けられる[103]

 打ちこわしに参加した民衆の中には「ここに来て打ちこわしに参加したのは、米の値段を下げ、世の中を救うためである」とか、「日頃米を買い占め売り惜しんだ者たちよ、人々の苦しみを思い知るが良い」などと大声で叫んだとの記録が残っており、また当時、江戸での米流通拠点であった浅草蔵前や小網町の辻など、江戸各所に「天下の大老、町奉行から諸役人に至るまで米問屋と結託して賄賂を受け取り、関八州の民を苦しめている。その罪の故、我らは打ちこわしを行うに至った。もし我々仲間のうち一人でも捕縛して罪に問うことがあれば、大老を始め町奉行、諸役人に至るまで生かしてはおかない。我々は幾らでも大勢で押し寄せるしそのこと厭いはしない、かくなる上は人々の生活が成り立っていけるような政治を実現すること」といった内容が書かれた木綿製の旗が立てられたと伝えられている。このことからも打ちこわし参加者の主目的が米の価格高騰の中、暴利をむさぼる商人たちへの社会的制裁、そしてそのような商人たちと結託し、民衆を省みず仁政を行おうとしない幕府の政治に対する批判、更には米価を下げ世を救うことを要求するといった点にあることが示唆される[104]。(天明の打ちこわし - Wikipedia

 もうちょっと簡単に頼むよ、暑さで頭もボーっとしてるんだからさ・・・という私みたいな体たらくの人向けには、受験生向けのこちら(↓)も参考になりそう。

打ちこわしは、米の価格を引き下げるという目的で行われました。

 

背景には、飢饉が起き米不足になると、金を持っている商人たちは自分の食事を確保するため町にある米を買い占めてしまったのです。その結果、市場に出回る米の量が減り、コメの価格が高騰したのです。

 

そのことに腹を立てた都市部の人達が、米不足で上がった米価を下げるために行われました。商人、名主、金貸しらの屋敷を叩き壊して抗議したのが、打ちこわしです。(【打ちこわしとは】簡単にわかりやすく解説!!原因や目的・影響・その後など | 日本史事典.com|受験生のための日本史ポータルサイト

 えー、「自分の食事を確保するため」だけ?投機買いもあって、米価が上昇したんだよね?誰でも買えると幕府がしちゃったから、買い手が増え、買い占めする人もドッと増えた。死んだ意知の、生前の失策だったな。

 とにかく、打ち壊しは米価を下げるため。よくわかりました。打ち壊しの翌日、米を買いにその店に行ってたとウィキのどこかにも書いてあった。数を頼んで米を力ずくで盗みに行ったわけじゃなかった。

 でもそれは、ていさんら蔦屋の面々も分かって無かったよね。打ち壊しで米を捨てるのは本末転倒とか、お百姓さんが泣きますよとか言ってたもんね。打ち壊しが何たるかの共通認識までは当時無かったのか、ドラマだから現代の視聴者の目線に立ってご説明を入れてくれたか、だ。

やっぱり戸板に乗せて運んだら💦

 蔦重は、米の手配が間に合わないなら金銭を先に民に配り、その金で決まった量の米を追々配ると民に伝えては?と田沼意次に進言しに行き、意次はその策を受け入れた。(蔦重が来たからって幕府での話し合いを抜けてくる意次!蔦重、すごい存在感だね。意次が鋭いと言うべきか。)

 そこで蔦重は、お祭り男の次郎兵衛さんがご活躍の賑々しい行列を仕立て、「♬天から恵みの銀が降る」「♬三匁二分、米一升。声は天に届いた」「♬鈴が鳴る鳴る、太鼓が怒鳴る。腹が鳴るのはおしまいで」と歌う、かの馬面太夫のお仲間の富本節の名手(新居浜レオン。ちゃんと歌手を連れてきただけあって安心して聞けたね)を先頭に、打ち壊しエリアを練り歩いた。

 蔦重自身も「お救い銀が出るってさあ」「米に引き換えられるんでい。ここの幟にある通り!」と口上を述べ、表情が一変して笑顔があふれる民と共に「銀が降る、銀が降る」と行列の中で踊り、打ち壊しの鎮静化に大いに役だった。

 対する「丈右衛門だった男」は、打ち壊しを田沼政権にとどめを刺す暴動に仕立てようと考え、わざわざ盗みを勧めるように小判を撒いたりしていたのに、その企ても蔦重にうまく潰されてしまった形。行列の中で皆とおどけて踊る蔦重に狙いを定め、抜いた匕首を手に行列の中を進み、蔦重の背後から迫った。蔦重危機一髪!

 肩をつかまれ振りむく蔦重。しかし・・・そこに身代わりのように割って入り、刃物に傷ついたのは、打ち壊しのリーダー新さんだった。傷を負い、その場に倒れながらも、新さんは「丈右衛門だった男」に言った。

小田新之助:これは、打ち壊しだ!人を殺める場ではない!

まわりの人々:・・・匕首だ!(悲鳴が起き、「丈右衛門だった男」が遠巻きにされる)匕首だ~うわ~!

 丈右衛門だった男は、一瞬怯み、それでも匕首を蔦重めがけて振り上げた。その彼の胸に、矢が命中。男は声も無く倒れた。矢を射ったのは、あのカモ平ならぬ立派に成長した鬼平だった。駆け付けた鬼平が口上を述べる。

長谷川平蔵宣以(のぶため):御先手組弓頭、長谷川平蔵である!これより狼藉を働く者は容赦なく切り捨てる!見物しておる者は召し捕える!かような目に遭いたい者はおるか!(逃げる盗人たち)

 絶対に「長谷川平蔵である!」の部分は、例の中村吉右衛門の言い回しを意識したよね。BGMが聞こえてくるようだった。

 倒れた新さんは起き上がらない。しかし、「私は大事ない。行け」と新さんが長七にも笑顔で言い、「大したことないが医者には診せた方がいい」とのこの場での判断で、蔦重が残り、医者に連れていくことになったのだったが・・・新さんは、途中でみるみる急変して命を落とすに至った。

 「刃に毒でも塗られてたのかもしれぬな」と新さんも口にしていたが、毒やらアヘンやらがお得意な白天狗チーム。そうだったんだろうね。匕首の鞘の中に、予め毒が仕込んであるのかな。

 蔦重はボーっとしてないで、新さんの傷を見て、さっさと止血ぐらいしてくれと素人の私はヤキモキしていたが、毒なら、傷口を洗うとか、少なくとも蔦重は長七を呼び戻して戸板で静かに新さんを運ぶべきだったんじゃ?と愕然とした。

 それなのに・・・なんじゃ、あのズルズル引きずって無理くり歩かせようとしちゃって!「急ぎましょう」なんて、蔦重はアホか。毒も回るし、毒無しだって出血が止まらなくならないか?

 せっかくの新さんの最期なのに、あの演出はいただけなかった。「太陽にほえろ」のジーパン刑事の最期とかを夢見て、何かわからないけど感動的に盛り上げようと蔦重に無駄な運搬作業をさせちゃったのか?ゴメン、だけどやっぱり水を差されたような気分だ。

 別に歩かなくても、その場に倒れたままでも十分、新さん役の井之脇海も蔦重の横浜流星も、視聴者の涙を絞らせる良い演技をしてくれたと思うけどな。横浜流星だったら、新さんぐらいは軽々とお姫様抱っこで運べそうだし、なんて。蔦重は、筆より重い物は持たない非力な設定だったけどね。

蔦重:(苦しげな新さんを支えて歩きながら)しかし、やりましたね。これで米の値も下がりますよ!

新之助:下がるか・・・。

蔦重:へえ!米屋もお上も、欲張るとこうなっちまうんだって思い知りましたさ!へへへ!

新さん:蔦重・・・。(みるみる足取りが重くなってきている)

蔦重:へえ。

新さん:俺は、何のために生まれてきたのか分からぬ男だった・・・貧乏侍の三男に生まれ、源内先生の門を叩くも、秀でた才もなく・・・おふくと坊のことも守れず・・・うう。

蔦重:何、言ってんです!新さんは字もうめえし目のつけどこもいい、すこぶる値打ちのある男でさ!

新さん:蔦重を、守れてよかった・・・俺は、世を明るくする男を守るために、生まれて・・・きた・・・(ガックリ、事切れたか)。

蔦重:(新之助の体を抱えて、まだ橋を渡ろうとする)よしてくだせえよ、新さん。いきますよ。(力を振り絞り、新之助の体を引きずって)ああ~、うう~、新さん!ああ~!新さん!新さん!(力の抜けた新之助ごと、橋の上に倒れ込む。新之助の顔を見る。目を閉じ、笑みを浮かべた顔。)新さん?新さん・・・(泣く)新さん!(叫ぶ)

 何のために生まれてきたの、というフレーズを聞いて、朝ドラ「あんぱん」の方に意識が飛んでしまったが、「何のため」とか変な意義を考え始めると足が止まったり鬱になるだけだと思うんだよね。人間は、ただ生まれてきた。自分なりに生きればいい、それで十分でしょう?

歌麿に支えられて

 救いが無かった「おんな城主直虎」の第33回と違い、今作の33回には歌麿がいてくれた。悩みから抜けた明るい表情で、おていに対しても卑屈な視線を向けずまっすぐ。良い顔をしている。石燕先生の下に行ってホントに良かったね。

みの吉:いらっしゃいませ・・・お帰りなさい!

喜多川歌麿:おう。

耕書堂店員一同:(口々に)お帰りなさい!

歌麿:(帳場にやってきて)おていさん。あの、蔦重いませんか?ちょいと絵を見せたいんですが。(愁いを帯びた目を逸らす、おてい)何かあったんですか?

(人気のない路地を行く歌麿。虫の声、烏の鳴き声がする。寺の門を入ると、見渡す限りの土まんじゅう。そのひとつの前に座った蔦重。そばに座る歌麿)

歌麿:蔦重。(泣き晴らしたような表情で、虚ろな視線を向ける蔦重。土まんじゅうに向かい、手を合わせる歌麿)これ、見てもらいたくてさ(紙の束を差し出す。素朴な線と淡い色で、ありのままに描かれた草花。花のそばで舞う、蝶やトンボ。草陰に巣を張る、小さな蜘蛛。驚いた顔で、歌麿を見る蔦重)これが、俺の「ならではの絵」さ。

蔦重:(絵に見入って)・・・生きてるみてえだな・・・。(蓮の葉の池に、雨蛙)

歌麿:(ニコニコと)絵ってのは、命を写し取るようなもんだなって。いつかは消えてく命を、紙の上に残す。命を写すことが、俺のできる償いなのかもしれねえって思い出して、近頃は少し、心が軽くなってきたんだよ。

蔦重:歌・・・新さんが死んだ。俺を庇って死んだんだよ。俺、ここに穴掘って埋めて・・・俺ゃ、この人たちを墓穴掘って叩き込んだんだって・・・。

歌麿:新さんって、どんな顔して死んだ?いい顔しちゃいなかった?さらいてえほど惚れた女がいて、その女と一緒になって。苦労もあったろうけど、きっと楽しいことも山ほどあって。最後は世に向かって、てめえの思いをぶつけて貫いて。だから(蔦重の肩に手を置いて)とびきり良い顔しちゃいなかったかい?

蔦重:(涙を流しながら、でもウンウン肯いて土まんじゅうに手を置く)良い顔だったよ・・・。今までで一番いい顔で、男前で・・・なあ。お前に、写してもらいたかった。(歌麿にしがみつき)写してもらいたかったよ!(歌麿が蔦重を抱きしめる)

 ひとつ分からなかったのは、蔦重の言う「この人たち」って新さん以外では誰を指して言ってるんだろう。おふくと坊だったら、もうすでに土まんじゅうの中にいる。新さんは分かるけど、それ以外の誰の墓穴を掘って叩き込んだと泣いているんだろうか。

 それと・・・思い出すのは昨年の「光る君へ」だ。主人公はみんな泣いて友を手ずから葬るのがトレンドか、とも思ったし、自分で掘ったという割に、蔦重の手も装束もきれい。道具はあったのだよね?いや、埋めたのは当日じゃなくて、別日なのかな。そんなことはどうでもいいけど。

 それより、いいなあ、お帰り歌麿。彼の登場ですっかり心が癒された。この絵が「虫撰」として世に出るのだよね。三つ目を持つ歌さんが、こうやって命を写し取ってくれてるんだ。清々しい気持ちになる絵だよ。

 そんなことを書きながら、移住して家庭菜園を始めたばかりの私は、「何のため」等と言わずに精一杯毎日を生きている虫たちを、申し訳ないがトマトやナス、オクラのために次々と容赦なく始末させてもらっている。人間の身勝手で、まったく申し訳ない。おいしく野菜は食べさせてもらっている。 

毒手袋が高岳を失脚させ、田沼時代を終わらせる

 大奥が勝敗を決した。治済から渡された箱から出てきたのは、やっぱりの毒手袋だった。残るはそれしかなかったが。

 てっきり松平武元(石坂浩二)を殺害して手袋を回収したのは、女のシルエットだったから大崎かと思っていたんだが、前回の様子では別人が箱に入れて治済に渡した模様。つまり、治済には多くの手先がいるようだ。

 ドラマの大崎は毒を操るサイコパス、なんでこんなに便利な人が一橋治済の下にいたんだろう。これが複数いるのか💦

大崎:(高岳の前に箱を差し出す)このような物が、私のところに送りつけられてきたのですが、気味が悪く・・・高岳様、何かご存知で?(ほほえみ、箱を開ける。鷹狩りの手袋を取り出してみせる)

高岳:それは、私がかつて誂え、種姫様の名で亡き家基様にお贈りしたものじゃが。

大崎:然様にございましたか。(嬉しそうな顔で、手袋を見回して)あれ。ここだけ色が。(親指の部分が変色している。高岳の目を見ながら、手袋の親指を噛む仕草をする。鳥が啼き、家基の最期の場面)

高岳:何故、かような。(余裕が消え、唇が歪む)

大崎:(静かに)調べてみましょうか?

 いやいやいやいや、何かご存知なのは大崎の方でしょうが!全てを仕組んだ張本人、この日を待って待って、高岳を引きずり下ろすのを楽しみにしていたんだろうな~。手袋を噛むウキウキした仕草の、にくらしいこと。

 この後、松平定信の老中就任に反対していた大奥(高岳)の意見がひっこめられて、あっという間に田沼派に終わりが訪れた。

 意次は、市中で銀の引き渡しが始まり、米も集まってきて、裕福な商人たちの炊き出しも始まっていると一服しながら三浦庄司に笑顔、打ち壊しをなんとかかんとか納められたと安堵の様子だった。

 が、大奥の変わり身の知らせを受け、あっけない負けを悟った。

楠木半七郎:殿、出羽守様がおいでにございます。

田沼意次:(部屋を移動、待っていた水野に)どうした?

水野忠友:大奥が突如、越中守様の老中登用を認めると。

意次:・・・何故?

水野:わかりませぬ。しかし、とにかく老中登用は構わぬと高岳殿が。 (高岳は、大奥で夕暮れの中、唇を噛み、手袋を握りしめて悔し涙)

三浦庄司:(田沼家)これは、どういったことになりますので?

意次:御三家、一橋ひいては上様をも後ろ盾にした老中が生まれるということになろうな。しかも、奴はとびっきり俺のことを嫌っておる。

三浦:あの、先だってのようにご老中様方の力を以て止めることは・・・。

意次:そもそも、大奥の反対を建前にしておったし、西の丸様は今や、上様。物事を決する力を手にしておられる。ハハ・・・忘れておったわ、お城の魔物どものことを(険しい顔)。

 そうなんだよね。もう将軍家治はいないんだよ。それで勝負は決していたはずだった。が、まだまだ行けると思っていたんだ、意次は。

 家基の死後、手袋が消えた時に、そんな危うい立場なのに高岳は情報共有されてなかったような・・・いきなり来られて、気の毒な。手袋を誂えた本人だもの、それに毒がべったりだったら言い逃れは難しいよね。表沙汰になれば、どんな処罰が待っているか知れない。手袋を引き取る代わりに、定信の老中就任にもう異を唱えるなと、大崎に黙らされたってことだ。

 そして、定信と一橋治済との間にもバトルが。タダでは引き受けない、老中首座ならばと定信が返したら、じゃあ、田安の家を返上しろと白天狗治済。どうしてそうなるの?って、それが最初から白天狗の狙いなんだから。さも、会話の途中で思いついたみたいな振りをしていたけれど、ずっと狙っていたことだろう。

 なんと言うか、一斉にオセロがひっくり返されていくように勝ちが決まっていく白天狗。想定外なのは「丈右衛門だった男」の死ぐらいか?それも大して気に留めることでもないか。

 御三卿の三番手、だったら上の一番手二番手はつぶしておこうってずーっとあのただっぴろい家でひとり逆転のプランを練り、オセロゲームをするように手下を使って細々と作戦を実行してきたんだろう。

 清水家当主の清水重好が体は弱いのは何故?第二、第三の丈右衛門に、長期間にわたって薬でも盛られているのかな?田安の亡き当主も体が弱かったね。田安家が消されるのも、一橋の目の上のタンコブだったから。定信が、そもそも生まれるのが遅かった。

おまけの半蔵

 有吉弘行が、服部半蔵の子孫の役で大河ご出演。子孫は白河藩で永らえていたんだね。「どうする家康」で半蔵役は山田孝之だったものだから、その子孫が有吉とは、ちょっとイメージが結びつかない。でも、こういうのも楽しい。また出てね。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#32 粘る田沼派!飢えた物乞いに身をやつした白天狗(やりすぎ💦)、天明の打ちこわしが迫る江戸の街で蔦重(主人公=田沼の犬)の存在を知る

すぐに転落かと思ったら

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第32回「新之助の義」が8/24に放送された。徳川家治の薨去を機に、すぐにも田沼意次が追い込まれ転落していくものと思っていたので、「あ~😢ケンワタナベが・・・💦」と戦々恐々として見た。

 ところがどっこい。ドラマでは意次の老中辞職後、田沼派老中コンビも大奥の高岳も、そしてケンワタナベの意次本人も、将軍家斉誕生、そして打ち壊しまでは結構粘っていた。そうだったんだ・・・後ろ盾の家治没後、すぐに一気に潰された訳じゃなかったか。そう考えると、天災が続いて飢饉に打ち壊しと、ホントに不運だったんだな。

 あらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫ 第32回「新之助の義」

 御三家は新たな老中に定信(井上祐貴)を推挙する意見書を出すが、田沼派の水野忠友(小松和重)や松平康福(相島一之)は謹慎を続ける意次(渡辺 謙)の復帰に奔走し、意次は再び登城を許される…。そんな中蔦重(横浜流星)は、新之助(井之脇 海)を訪ねると、救い米が出たことを知る。蔦重は意次の対策が功を奏したからだと言うが、長屋の住民たちから田沼時代に利を得た自分への怒りや反発の声を浴びせられてしまう。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第32回 - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 熾烈な政争が始まり、田沼派の老中ふたりが、あれこれと理屈をつけて御三家や一橋からの松平定信の老中就任の要望を跳ね除け、意次の復帰を画策していた。メインテーマが流れる前に話は一気にテンポよく進み、意次は再び登城を許される。ここら辺の見せ方がうまかった。

九郎助稲荷(綾瀬はるか):・・・田沼派は皆、御三家と一橋様の出方に身構えておりました。そこに・・・。

(江戸城。御三家から老中宛ての書状が差し出される)

老中水野忠友:主殿頭の代わりの老中を推挙?

尾張徳川宗睦:新しき西の丸様の世、我らはこの者が何よりであると考えておる。

老中松平康福:ご意見、心より有難く。

水野:拝見いたします。(深々と頭を下げ、書状を開く)

康福:あっ!んん・・・!(松平定信の名。水野にも書状を見せる)

水野:このお方は!

回想の松平定信:私にとっては盗賊同然の主殿。実は2度ほど刺し殺そう(×2)としたことがございます。

水野:お・・・恐れながら、老中になるには取り決めがございます。老中を輩出する家柄である事。または奉行職などの要職を・・・。

紀州徳川治貞:ほう。では、田沼は何故、老中となれたのだ?

一橋治済:ひとつ、よろしく頼む。

老中ふたり:はは~!(ひれ伏す)

(場面が変わり、老中ふたりから書状を見せられる高岳)

高岳:あの木綿小僧を老中にですか。

九郎助稲荷:定信様は初登城の日、我こそは吉宗公の孫であると、吉宗公の愛した木綿の着物で現れるという、クセ強めのアピールを行っておりました。

康福:フッ。そなたらも皆、木綿の打掛を着させられるぞ。肩こりで子作りどころではなくなろう。

高岳:表には、黒ごまむすびの会という一派が出来たとか。

水野:大奥でも、次を見越し西の丸様の乳母であった大崎にゴマをするような者が増えておると聞く。そなたにとっても、これは厄介な話であろう。

康福:ハハハ!大奥では、黒ゴマはむすぶものではなく、するものか。これぞまさに、黒いごますりじゃな!

水野:(受け流し)このままでは、西の丸様を擁した御三家と一橋様の天下。我らはどうなるか分からぬのではないか。

高岳:(一考して)ではまず、「大奥が承服しないので田沼様を戻してほしい」とするのはいかがでしょう?

(一橋家へと場面が変わる)

一橋治済:大奥が、越中(松平定信)を老中に迎えるなら主殿の謹慎を解いてほしい?

康福:はっ!詳しくはこの者より。

水野:実は他ならぬ種姫様が、此度のことを案じておられるそうで。

治済:何を案じることがあるのだ。

水野:ただいま市中では、米の値が上がり民の不満が溜まっております。かような折に、世の期待を一身に背負われ老中となりながら、万が一しくじりを犯しては越中守様に傷がつくことになるのではないかと。(脇息に肘をつき、考え顔の治済)

康福:然様な折の生贄としてあえて、主殿を復帰させておけと、そういうことかと。

治済:ふ~ん。

九郎助稲荷:かくして、田沼様は再び登城を許されました。

 老中のおふたり、お疲れさん。男女逆転「大奥」の吉宗公は、木綿の打掛を颯爽とまとっていた。しかし、中の人(冨永愛)は重さに辟易していたんだよね。その同じ冨永愛(高岳)が、定信のことを「木綿小僧」と呼んでいた😅あはは・・・それに、今更だけど、老中松平康福役の相島一之って、高岳を演じていたような?

 Xを見てみたら、やっぱりそう。それに!気づいていなかったけれど、他のポストを見たら「大奥」で玉栄を演じていた奥智哉って役者さん、「べらぼう」では幻の11代様・家基だったんだね・・・どっちにも出ている役者さんが多すぎて、把握できてない😅欲張ると、仲里依紗あたりも大河に出してほしい。「大奥」ではかなり頑張ってたよね!

 脱線した。先ほど引用した場面の終盤で「生贄としてあえて主殿(意次)を復帰させておく」って説明がなされていた。それがまさに瓢箪から駒、本当になっちゃうってことか。言霊~💦

 ウィキペディア先生(田沼意次 - Wikipedia)で家治が亡くなった年と翌年の意次の官暦を見ると、確かに1786年末に「赦免」という文字がある。そこで田沼意次は4か月間の謹慎が解け、登城が許されたのだね。

 意次は雁間詰めながら、通りかかる老中コンビに「進言」という形で策を申し上げていると。「裏の老中首座」だと。でも、一時うまく逃れても、後がかえって恐ろしいことになる。1787年の結果を見てしまうとね・・・背筋が凍るね。

 でも、今回のところでは、意次は老中の水野と酒を酌み交わしながらこんなことを言っていた。

田沼意次:来たか、この時が。

水野忠友:はい。いよいよにございます。

意次:一気に攻め込むぞ。(つまみの乾き物をバリバリ音をさせて食べる)

 大将首は既に取られたというのに・・・だからこそか、まだまだ意気軒高だ。

意外にも、攻め込まれる白天狗

 白天狗治済は、家治が死んだ時点で完勝だと確信していたんだろうな。我が世の春だと思って舞い上がっていたのに、現実は違った。御三家には首根っこを押さえられ、田沼派の老中コンビ(松平康福&水野忠友)に意気揚々と命を下してみれば、尾張徳川宗睦(榎本孝明)と、紀州徳川治貞(高橋英樹)の重量ペアに否定されてしまった。

 高橋英樹に一喝されちゃあ、誰も文句を言えないね・・・じゃなくて、御三家当主の方が、将軍のご家族の御三卿当主よりも立場が強いんだね。そこを、ピンポイントでのんびり小憎らし気に生田斗真がちゃんと演じてくれていて、面白かった。

(一橋邸。能舞台で御三家をもてなす一橋治済)

尾張徳川宗睦:万石以上の買米をしたり、お救い米を出させたり、ここのところ進言という形で政を指図している者がおるらしいの。

水戸徳川治保:ふん・・・裏の老中首座とか言われておるらしいではないか。

尾張宗睦:ところで、我らが出した意見書への返事がまだのようだが。もう三月(みつき)じゃ。

一橋治済:(大きく口を開けて)・・・ああ!失念しておりました。(不快そうな表情を浮かべる紀州徳川治貞)近いうち、確かめておきまする。

紀州治貞:一橋殿。そなたは次の将軍(頭を下げる)のお父上となられるが、その際、果たすべき役目を何と心得る?

一橋治済:越中守が老中として腕を振るえるお膳立てをすること・・・にございますかな。

紀州治貞:ほう。で、その第一の役目を失念されておられたと?

一橋治済:(家臣に)老中どもに、返事を急ぐよう申しつけよ。

一橋家臣:はっ。

 そして、お城での場面。御三家当主を前に、田沼派の老中コンビが説明をする。一橋治済も、御三家の脇に控えて同席している。

老中松平康福:大奥が、此度は定めに背くことはできぬと。

一橋治済:定め?何の定めじゃ?

松平康福:詳しくは、この者から。(いつもこれ💦)

老中水野忠友:越中守様は、上様のお子であらせられる種姫様の兄上。故に、西の丸様の兄上様となり、将軍家の身内は、老中とはなれぬ定めがあったと言い出しまして。

一橋治済:そんな定め、あったか?

水野忠友:どうも、九代家重公の御遺言らしく。

一橋治済:ハッ・・・家重?そのような定めなど、無しにすればよい!無しじゃ。(咎めるような紀州治貞の視線)

水野忠友:しかし、私どもは歴代将軍家のお定めを破れる立場ではございませぬ。

一橋治済:わしが破って良いと言っておるのじゃ。破れ。

水野忠友:恐れながら、一橋様はどのようなお立場で?

一橋治済:西の丸の、次の将軍の父じゃ。

松平康福:(水野と顔を見合わせて)それはその・・・。

尾張宗睦:一橋殿。残念ながら、それは公に命を下せる立場ではないのだ。

一橋治済:しかし・・・。

紀州治貞:見苦しい!(ガツンと一喝)

 とほほの一橋治済。家重は呼び捨てなんだね。それが本心で一橋家では当たり前なのかも。でも、公の場ではあり得ないでしょ。対する家重の遺言も、田安と一橋の兄弟の身内を排除したいからこそ、そう言い残したんだろうな、わかります・・・。

 そして、田沼意次は紀州治貞を訪ね、「1つ策を思いついた」と、こう告げた。どんどん攻めるね。

田沼意次:越中守様を西の丸様の後見にというのはいかがでございましょう?

紀州治貞:それは、一橋の立場を無くせということか?

意次:恐れながら・・・一橋様は、今まで政に関わったことがございません。然様なお方を後見となさるのは、次の上様、ひいては徳川の世のためになると中納言様はお思いになりますでしょうか?(思案顔の紀州治貞)もし、この考えをお気に召していただけるならば、私の方から、ご老中方に進言するぐらいはできまするが。

九郎助稲荷:田沼様は一橋様と御三家の連携を切り崩し(紀州治貞からの手紙を踏み潰す一橋治済)、幕閣の多くが田沼派という状況を、上手く使うことにしたのです。

 紀州治貞は、御三家の意見を意次の進言に沿って取りまとめた上で、一橋治済に手紙を書いていたようだった。治済は「西の丸の、次の将軍の父じゃ~」なんて、悦に入っている場合じゃないね。

 そして、1787年4月、いよいよ11代家斉の将軍宣下を迎えた時、「越中守の座る座を塞ぐように」田沼派の新しい老中が立てられていたそうな。阿部正倫というと、幕末の大河ドラマでは必ず出てくる阿部正弘のおじいちゃん(阿部正倫 - Wikipedia)。阿部正弘で印象深いのは、「篤姫」の草刈正雄かなあ。

 田沼派は粘る粘る。次の将軍が口出しできないように何もかも固めちゃえってか。綾瀬はるかの九郎助稲荷は「新将軍の周囲をがっちりと田沼派で固めることに成功したのです」と高らかに宣言していたが・・・本当に成功したのか。

 ここで出てきたのが女善児大崎だ。キャー💦この人、家斉の乳母だと思っていたが、生まれた時の助産師だったとか(大崎 (大奥御年寄) - Wikipedia)。だから薬物にも詳しくて、何でもできる設定になってるんだろうね。そして、実在していた人だったんだね。

大崎:(一橋家)この一連。そもそもあの女狐の浅知恵で始まったものかと。

一橋治済:なるほどのう。(大崎の前にを置く。中を見る大崎)

大崎:(ほほえんで)かしこまりました。それから一つ、面白きお話が。(目を見開く治済)

 ひえ~箱の中身は何なんだろう?・・・まさか、右手親指周辺に毒べったり、家基暗殺に使われた死を呼ぶ手袋がここで?大奥総取締の高岳の運命が次回、どうなるか怖いな。

まだ米(ほんの少し💦)を殺気立つ長屋に持ってくる蔦重

 前回、飢えて殺気立った長屋に、少量の米を持ってきた蔦重のことを唐変木と書いたと思う。それが、ふくととよ坊殺害のきっかけになってしまったのに、ご本人は気づいてもいなかった?1786年秋、蔦重は性懲りもなく、前回と同じ行動に出たから、心底驚いた。

 蔦重は、仕事の包みに隠して持ってきた、ほんのちょっとの新さんの分だけの米を差し出した。また「お口巾着で」と、言うつもりだったのか・・・💦アホでしょー。絶句する。

小田新之助:(新さんの長屋の部屋)お上はロクにお救い米を出してくれぬし、大水のすぐ後は裕福な商人たちも助けてくれたのだが、今はそれも無くなってな。

蔦屋重三郎:ああ・・・(筆耕の原稿を受け取って)ありがとうございます。

新之助:皆、殺気立っておるのだ。

蔦重:新さん、これ。(筆耕料の銭を渡す)あと・・・(包みから米を出す)これを。

新之助:いや、金だけで。

蔦重:そう言わず。

新之助:おふくととよ坊が亡くなったのは、俺が米を受け取ったからとも言える。(とよ坊の玩具が映り、沈痛な表情で言葉を呑む蔦重)蔦重を責めておるのではないぞ。こちらも有り難かった。だが、俺はこの出来事にきちんと向き合わねばならぬと思うのだ。

蔦重:じゃあ、仕事をたくさんお願いする向きで。

新之助:うむ。ひとつそれで頼む。(笑顔を浮かべて頭を下げる)

 1787年正月の差し入れ時点では、長七や長屋の面子と、蔦屋のみの吉らが揉めたために「もうここには来るな」「仕事のことなら俺から訪ねる」「ここは大店の主がくるようなところではない」と、蔦重は新さんには言われていた。至極真っ当な意見だ。

 蔦重は「俺ゃもとは身寄りもねえ吉原育ちですよ」と食い下がるも、新さんは噛んで含めるように「そうだな。吉原と、そこに落ちてくる田沼の金で財を成した。ひょっとすると、田沼の世で一番成り上がった男かもしれぬ。だから、ここへは来ぬ方が良い」と言ってくれた。なんて優しいのか。

仏様過ぎる新さんが気になる

 蔦重の唐変木も気になるが・・・ちょっと待って新さん。自分を律し過ぎなのか、仕事をくれるからと蔦重におもねり過ぎなのか、生まれながらの仏様なのか?私は、妻子を殺され間もない新さんが、長屋中で一番殺気立って尖っていたって良いくらいだと思うんだけど。(その怒りで、長屋の皆の導火線に火を点ける存在になると予想していたが、外れた💦)

 家族を突然殺されたとなると、例えば病気で亡くなったのとは、私が知る範囲では、ご遺族の受け取り方は全然違う。人によって千差万別なんだと言われればその通りだが。

 前回、手を下した加害者に怒りをぶつけず、「俺は誰を責めれば良いのだー!」と涙を流したのもそうだったけど、新さんは良い子ちゃんに過ぎるなあ。蔦重を責めている訳じゃないってわざわざ言ってたしね。生き仏か。

 理不尽に見えてしまうくらいに何にでも牙をむくような、遺族としての怒りはどこに?愛する家族を殺されたばかりだよ?なぜに、あのように穏やかに、強盗殺人のきっかけを作ったような唐変木の蔦重と話ができるのかな?

 解離している様子とも見えないし。そんなに、ふくととよ坊の存在は軽かった?そんなはずないけど💦

 ・・・はいはい、ドラマですからね。ここで熱くなっても始まらない。新さんは「俺はこの出来事にきちんと向き合わねばならぬ」と言っていたが、そんなに理性だけできれいに対処できる話ですかとちょっと言いたい。気持ちの上では、新さんが被ったのは、ひとりだけが津波に襲われたくらいのインパクトのはずだよ。私なら、半ば壊れると思うが(➡ためらわず適切な支援を受けましょう)。

 きっと新さんは武士だから心身を律している設定なんだよね。それで、蔦重の提案にも心を閉ざすことなく、理屈の通る形で見事に昇華させて行動に移したと。立派過ぎて、サイボーグのようだ・・・。もっと妻子を殺されて涙涙でどうしようもない人間らしい新さんでも良かったと思うけどな。

やりすぎ白天狗

 ちょっと細かいことが気になり過ぎたかも・・・。

 ドラマの本筋に話を戻すと、蔦屋にやってきた田沼家の三浦庄司に話を聞いて、田沼意次が城に戻り、陰からお救い米の手配に奔走していると知った蔦重は、せっかくのその努力が世間には何も伝わっていないと三浦に告げた。むしろ、悪いことは全部田沼のせいになっていると。

 じゃあ、それが伝わるように黄表紙でも作ってと三浦は言った。政は書いちゃならねえのが決まり、だけれどそのくらいはお目こぼしできるだろうと。

 天明七年(1787年)五月十二日には大坂で打ちこわしが発生、瞬く間に全国に広がったという。それを防ごうと、江戸では五月二十日に奉行所でお救い米を配るとの情報を載せた読売(チラシ)を、三浦庄司(=田沼)に頼まれた地本問屋らが相当の礼を目当てに「こっそり」作成した(しかも、トラブルを恐れ、配るのは蔦屋が取り仕切る)。

 ところが米は届かず、米屋から直接差し押さえをしようとする幕府側。将軍後見への推挙を引き換えに頼まれた松平定信は「米は送る」と意次に言っていたのにねえ。やっぱり、意次が去った時、紀州治貞に言ってたように口だけだったのか。

田沼意次:このままでは、打ちこわしの波は江戸まで襲って参りまする。徳川の民のためにお慈悲を頂けませぬでしょうか。(上座に紀州治貞、傍らに松平定信。頭を下げる意次)もし、お聞き届けくださりますれば、上様のご後見にご推挙申し上げる所存にございまする。

松平定信:後見?

意次:後見ともなれば、上様がご成年になられるまで、越中守様のお考えはそのまま上様のお考えということに。

紀州治貞:恐れ多い物言いだが、数年間はそなたが上様。天下に号令できるということだ。(悩んでいる様子の定信)

意次:越中守様、徳川御一門のお考え、奉行、老中から上がってくる策とを合わせ、最善の政を探るという形で考えておりまする。これぞまさしく、神君家康公が目指された政のあり方ではございますまいか。

定信:米は送ってやる。ただし、後見に関わる話は預からせてもらう。そなたには何度煮え湯を飲まされたかしれぬ。此度こそ甘言ではないという証は無い。悪いが、私ももう小僧ではないのでな。

意次:しかし、それでは米の送り損とはなりますまいか?

定信:江戸での打ち壊しは徳川の威信に関わる。一族の血を受け継ぐ者として、そこは助太刀いたすということだ。(意次が頭を下げる)そなたには分からぬ考えかもしれぬがな。

意次:(頭を下げたまま、半分苦虫をかみつぶしたような笑顔)かたじけのうございまする。(紀州治貞に)では。(立ち上がり、下がる)

紀州治貞:そなたの心意気は見上げたものだが、良いのか?

定信:中納言様。励めども米は支度できぬ・・・ということも、あるのでございますよ。

 こんなに意次が頑張っているのに、血筋にふんぞり返って嫌がらせなんて、ホントにムカつく定信だ。結果、届くと言われた天明七年五月二十日に米がないのだから、ジリジリと奉行所前で待っている民衆はたまらない。

 一触即発のところ、とうとう、扇動者「丈右衛門だった男」だけじゃなく、物乞いに身をやつした一橋治済までがなぜか登場!何ですかこれ・・・暇だな・・・💦

 「米が無ければ犬を食え?」「犬を食えとは~!」「そこのお侍様が」と奇声を上げて治済が主張、それを丈右衛門が「まことか~」「俺達には犬を食えと!」と奉行所の役人に怒りをぶつけるよう、あおった。

 えー💦そこまでする?「暴れん坊」の将軍父?NHKの大河なんだけど。そういえば、ていさんが「飢えたる犬は棒を恐れず」と、犬つながりの今週の格言を言っていたね。

 蔦重が、騒ぎ出した民の中心に丈右衛門がいることに気づきながらなすすべも無い所、怒りの群衆と化す前に、長屋衆の皆を率いて去ったのは新さんだった。

 「お上ってのは、私たちも生きているとは考えないのかね」と、死んだふくの言葉が脳裏に浮かんだ新之助は、「やめろ!」と皆を止めた上で、「お上のお考え、しかと受け取った!」と去り際に言った。それを追う蔦重。

 治済は蔦重を見ていた。ここで「田沼の犬、見~つけた」だったかな。

 「打ちこわしをする気じゃないですよね」と新之助らを止めに来た蔦重は、皆に「引っ込んでろ、田沼の犬が」とコテンパンにされた後、新之助にこう言われた。

新之助:蔦重。俺は、おふくと坊は世に殺されたと思うのだ。なぜ、おふくは坊は殺されねばならなかった?米が無いからだ!なぜ米が無いのだ?米を売らぬからだ!なぜ米を売らぬのだ?売らぬ方が儲かるからだ!では、なぜ売らぬ米屋が罰せられぬ?罰する側が共に儲けておるからだ!

 皆、己の金のことしか考えぬ。然様な田沼が作ったこの世に、殺されたのだ!俺は、俺たちは、それをおかしいということも許されぬのか?(蔦重の胸ぐらをつかんで)こんな世は正されるべきだと声を上げることも!(去っていく新之助。続く長屋の男たち←女もいるけどね。地べたに散らばった読売と、傷だらけでうずくまった重三郎)

蔦重:我が・・・心のまま・・・。(重三郎の姿を眺め、路地の陰から去っていく、物乞い姿の治済)

 カッコ()の中は、なるべく解説が言う通りに書いているのだが・・・新之助を追う列の中には複数の女もいるのに、なぜNHKは不必要な場面でも「男たち」と言いたがる?「プロジェクトX」みたいだね。

 ここで、蔦重は諦めなかった。布を持ち込み、新之助に言った。

蔦重:新さんは、声を上げりゃいいでさ。我が心のままに。我儘に生きて良いんだって、源内先生も言ってたんだし。

回想の平賀源内:自らの思いに由ってのみ、「我が心のまま」に生きる。我儘に生きることを自由に生きるっつうのよ。

(ハッとした新之助。白い布を広げる蔦重)

蔦重:これに思いを書いて、幟を作っちゃどうです?その方が、間違いなく伝わりまさ。新さん達が、一体、何に怒ってんのか。けど、今、布は高えんでタダで渡すわけにはいかねえ。俺の我儘も聞いてほしいんでさ。

新之助:何だ?

蔦重:誰ひとり捕まらねえ、死んだりしねえことです。皆様(見回して頭を下げる)、お願いします。

長七ら:ハハハハ!善人ぶりやがって!俺のために死ぬなってか?(笑い声)

蔦重:俺ゃ、みんなと一緒に笑いてえんでさ!打ち壊しが終わって、飯、ガツガツ食いながら

「長七さん、ありゃいい打ち壊しだったねえ。誰ひとり捕まらなかったし、死ななかったし」

「いや蔦重、ひとつだけ良くなかったことがあったぜ」

「なんです、そりゃ」

「見てくれヨ、この腹。米食い過ぎで満腹山のポンポコだぬき!」って。

 カラッと行きてえじゃねえですか、江戸っ子の打ち壊しは。血生ぐせえ野暮な斬り合いは、お侍さんに任せてねえ。

新之助:・・・喧嘩だな。打ちこわしが喧嘩なら、江戸の華で済む。

蔦重:仰る通りの油町!

長七:喧嘩って、どういう・・・。

新之助:(蔦重の横に立って、長屋衆に)米を盗んだり斬りつけたりしなければ、それはただの米屋との喧嘩で済む。大した罪にはならぬということだ。

長屋衆A:俺ゃ、みんなに言ってくる!

B:あ、俺も!

C:俺も!

 ・・・ムムム、そんなあ。こんなに極限状態に至っての打ちこわしで、米を盗まないってことができるのか?それに、米を米屋から奪わないで、どうやって米をたらふく腹いっぱい食べようというのか。矛盾している。米屋が率先して差し出すとでも?

 喧嘩の理屈が相手に通用するものかどうか。打ちこわしに来た群衆に囲まれてみれば、米屋だって恐怖でいっぱいだろう。新さんが話ができる前に、捕まるか排除されるか・・・落ち着いて、漢文の幟を読んでくれるかどうか。

 「金を視ること勿れ。全ての民を視よ。世を正さんとして、我々打ち壊すべし」

 予告では、土まんじゅうの前で蔦重が涙していたよ。それが新さんのものでないことを祈る。

(ほぼ敬称略)

【べらぼう】#31 大将首を取られたら戦は負け。家治毒殺で意次は完敗、白天狗は凱歌をあげる。新さんは妻子が殺害され、戦士になるか

家治が大崎に謀られた

 NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第31回「我が名は天」が8/17に放送された。とうとう本丸の将軍家治が毒殺され、白天狗・一橋治済のクーデターは成功した。田沼意次は敗軍の将、今後の処罰が心配だ。まずはあらすじを公式サイトから引用する。

≪あらすじ≫ 第31回「我が名は天」

 江戸市中は利根川が決壊し大洪水になる。蔦重(横浜流星)は、新之助(井之脇 海)やふく(小野花梨)を気にかけ米などを差し入れようと深川を訪れる。食料の配給が行われる寺で平蔵(中村隼人)に会い、幕府は復興対策に追われ、救い米どころか裕福な町方の助けを頼りにしていると知る。そんな中、江戸城では家治(眞島秀和)が体調を崩し月次御礼(つきなみおんれい)を欠席する。老中らが戸惑う中、意次(渡辺 謙)は家治からある話を聞かされる…。(【大河べらぼう】べらぼうナビ🔎第31回 - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

 この回の「まとめ」(【大河べらぼう】第31回「我が名は天」まとめ - 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK)を見ると、オフショットの微笑ましい写真がいくつか並べられている。

 今回で、チビ家斉君は撮了なんだね。花束を手に、家治役の眞島秀和と一橋治済役の生田斗真にはさまれて、ニコニコしている。次回からは、成長著しい家斉君が出てくるのだ。関連記事で写真を見たら、次の子も生田斗真にどこか似てるよ。NHKのキャスティング力は本当にバカにできないよね。(べらぼう:第11代将軍・家斉が大河ドラマに! 治済の嫡男・豊千代が成長 城桧吏が演じる

 でも、写真の家治役の眞島秀和は花束無し。ということは、今後も出てくるの?意次を慰め、治済や家斉を苦しめる幽霊か?治済の場合は幽霊なんか鼻で笑っちゃいそうだが、家斉の夢にも出てくるなら、ビビらせるには十分効き目がありそうだ。

 前回の感激の歌麿回で一息つけたとはいえ、ドラマ上、田沼意知が殺されて以降、苦しい展開が続くのは分かっていた。で、田沼時代に、今回とうとうとどめが刺され、今後、蔦重の苦境も真綿で首を絞められるように始まっていくのだろうか・・・。

 今回、田沼意次を庇護し続けてきた将軍家治が良く考えられた手段で毒殺の憂き目にあい、意次はあっけなく老中を辞めるに至った。

 昔のチーズ・醍醐を手ずから作ったのは亡き家基の母・知保の方だった。「大奥」でよく見たカステラじゃなかったが、おいしそう。家治の体調が良くないと聞き、何か滋養のあるものをと知保の方が相談した相手が女善児・大崎だったのが万事休す。

 醍醐を前に、口にするのを躊躇する家治に「田安はお取り潰しと決まっております。一口だけでも」と畳みかける大崎。何故そんなに将軍暗殺に一生懸命になれるんだ?彼女の過去に、何があった?田沼意次が名を上げた郡上一揆の処罰で、家族が閑職に追いやられて死んだとか?それとも、治済の乳兄弟とかで、一橋の恨みを幼少期から叩き込まれてきたのか?

 知保の方が罪に問われるのを恐れ、家治が醍醐について公には口にできないことは大崎も白天狗も重々承知。してやられたよ。「毒見を」と言った家治の前から大崎が醍醐の載った盆を持ち上げたが、何故、目の前で毒見役に食させないのか・・・陰で大崎の手を通ってしまえば、毒見役なんて無意味だ。

お家乗っ取り&断絶、敗者は悪評しか残らない

 そして、死を前に、家治は一言でもと、まさに死力を尽くして治済に告げた。心をつかまれた場面だったね。時は天明六年八月(1786年)、脚気の症状が悪化しがちな夏だ。「篤姫」でも家定が亡くなったのは、夏だったように思う。

家治:(朦朧として横たわる。枕元に幼い家斉。下段の間に治済と、家治弟の清水重好が並んでいる)西の丸・・・もう、時もなさそうじゃ。故に、大事なことを一つだけ・・・。田沼主殿頭は・・・まとうどの者である。

家斉:まとうど?

家治:臣下には、正直な者を重用せよ・・・正直な者は、世のありのままを口にする。それが、たとえ我らにとり、不都合なことでも・・・。政において、それはひどく大事なことだ。

家斉:はい、父上様。

家治:(苦しそうな息で、視線を家斉に向ける)長生き一つできぬ不甲斐ない父で、すまぬな・・・家基!

家斉:え?

家治:うう・・・家基・・・(身を起こす)家基・・・(体をよじり、褥を出て這い始める)家基!(下段の間に降りる)・・・悪いのは、父だ・・・全て・・・そなたの父だ・・・。(治済の胸ぐらを片手でつかむ)よいか・・・天は見ておるぞ!天は、天の名を騙る、おごりを許さぬ!(両手で治済をつかむ)これからは、余も天の一部となる・・・余が見ておることを、ゆめゆめ忘るるな!(表情を変えない治済、崩れる家治)

側近ら:上様!(駆け寄る)

清水重好:今の・・・?(治済の顔を疑いの目で見つめる)

一橋治済:西の丸様と、家基様を間違えておられた。はあ・・・おいたわしや・・・もはや、夢と現もお分かりにならぬように・・・。

奥医師:お亡くなりになりました。(一同、家治に礼をする)

治済:西の丸様。(向き直る)上様には及びませぬが、これからはこの父が西の丸様をお支え申し上げます。どうぞ、ご案じなく。

 治済、憎らしいねえ(生田斗真がうますぎる)。ここで、将軍といえども家治は「治済を捕えよ!」とは言えなかったのかなあと思ってしまった。家斉に、正直者の家臣を大事にと遺言するのが精一杯。基本的に、家治は気が優しいのだろうね。

 田沼意次は、「まとうど=正直者」という評価を9代将軍家重にも、そして、今回、10代家治にも得た。これは記録に無かったとしても、本当なのかもしれないね。そうじゃなければ、こんなに重用されないだろう。

 物事を正直に口にするのには葛藤があるもの。もしかして、空気を読まず、人の目を恐れず物事を言えてしまうってことは、意次は優秀だけど少し発達障害的な特徴もあったのかな・・・誤解を恐れずに書くと、そう思ってしまった。

 突出する偉人って、そういうものだと思うから。

 そんな正直者の彼は、ドラマでは割と楽天的に前へ前へと行動してしまうキャラだったから、佐野政言に預かった系図をいきなり池ポチャしちゃったり。想像すると、日頃の行動にも、周囲の恨みを買っていると分からず悪気無く行動するのが想像されてしまうのだよなあ。

 人の恨みというものが、意次は心底想像できない人だったのではないか。そんなことを、最後の家治との対面場面で思った。

意次:醍醐を食された?

家治:(脇息にもたれて)うむ・・・。越中(松平定信)の指南で、お知保が大奥にて手ずから作ったな・・・。

意次:おふたりのうち、どちらか、もしくはおふたりともに謀られたということではございますまいな?

家治:来し方を辿れば、ふたりとも余に含むところもあろう・・・故に、毒を盛る・・・考えられぬことではないが・・・。

意次:その方々を表に出すわけには・・・そこが、あの者の狙いにございますか!(黒書院に座って待つ一橋治済が映る)私には、あの者の考えていることが分かりませぬ。何故、かような無益なことを繰り返すのか!

家治:あやつは・・・天になりたいのよ。あやつは人の命運を操り、将軍の座を決する天になりたいのだ。・・・そうすることで、将軍などさほどのものではないと、嘲笑いたいのであろう。将軍の控えに生まれ付いた、あの者なりの復讐であるのかもしれぬな・・・。(息を詰める意次)とはいえ、お知保が絡んでおる上は、奥医師に真のことを告げる訳にもいかぬ・・・誰か、毒おろしの得意な医者はおらぬか?

意次:かしこまりました。口の堅い医者を連れて参りまする。

家治:余にはまだ、生きて守らねばならぬものがある!(ひれ伏す意次)

 家治の具合は悪化し、連れてきた医師のせいで、意次はあろうことか将軍毒殺犯の冤罪まで擦り付けられ、面会も差し止められてしまった。敵は、噂の使い方がうまいね。そして、老中の座も自ら降りるよう、意次は老中首座の松平康福に諭される。まさに万事休す。家治の死後、恨みつらみを一身に受けよとばかりに、完膚なきまでに叩かれるのもまもなくだ。

 正直者だけど空気が読めない人が、人の恨みとはこういうものだと叩き込まれるようで、しんどい話だ。

 遡れば吉宗が、脳性麻痺だけれど知性で何ら劣らない長男家重を後継ぎに選んだ判断は、現代の感覚にも適う英断だった。しかし、障害者に対する偏見が強かったらしい当時、それは正義に反する判断だと、弟たちの田安宗武&一橋宗尹やその周辺が考えてもおかしくなかったんだろう。

 その「誤ったご判断」を取り除いて差し上げる、ぐらいの正義に満ちあふれた気持ちを、宗尹四男の治済が受け継いでいてもおかしくない。そして、彼はやり遂げたのだ。

 今回、家治の弟・清水重好が家治臨終の場にいて「今の?」と疑いの目を治済に向けていたが、そんなことしたらあなたまで毒を盛られるよ!と思って背筋がゾッとしてしまったよ。重好が、家治の後を継いで将軍になってもおかしくなかったと思うから。

 歴史を見ると、家重の系統はきれいさっぱり消されてしまった。家治は暗愚な将軍で政は田沼主殿頭に任せきり、そして田沼は賄賂塗れ。最近までは、そんな評価だけが言われていたよね。

 磯田道史先生が、昔言っていた言葉を考えてしまう。ブログにもどこかで書いたと思うが、歴史は勝者の歴史だが、単なる敗者はまだ挽回の機会がいつかあるかもしれないからマシ。しかし、本当に惨めなのは族滅させられた敗者だと。多くは汚名を着せられたまま消えていくのだよね・・・。

 重好は、誰か調べている人いないのかな・・・知りたくてもウィキペディア先生にさえあまり物が書いてない。将軍候補だったのに?子どもは居らず、側室がいた様子もない。もしかしたら彼は、田安や一橋の恨みの深さをひしひしと感じて、危険だからと子を作るのを止めてしまったのか?それとも、抹殺された多くの側室や子女がいたのかな。

 ドラマの家治も、亡き正室に似た若い側室に子を儲ける危険性を感じ取っていたもんね。

 家重と、その息子ふたり家治と重好。孫の家基。家系ごと、葬り去られてしまうのだね。

家治毒殺は、証明される日がくるのか

 ところで、第10代将軍徳川家治は、上野の寛永寺に葬られている。寛永寺の徳川将軍の墓地には④家綱(+火災により合祀されたという③家光?ホント?)、⑤綱吉、⑧吉宗、⑩家治、⑪家斉、⑬家定が眠っているそうで、さらに南北に分けると北側墓地に⑤⑧⑬、南側に④⑩⑪なのだそうだ。(公方様や篤姫が眠る「聖地」、上野寛永寺の徳川将軍家墓所【哲舟の歴史よもやま取材ルポ その10】 | 歴人マガジン

 ・・・将軍は増上寺と寛永寺に交互に葬られるのかと思ったら、どこまでも⑩家治にピッタリくっついてくる⑪家斉、と見えてしまう。

 ちなみに、増上寺には②秀忠、⑥家宣、⑦家継、⑨家重、⑫家慶、⑭家茂が葬られ、例外は谷中墓地に神道形式で葬られた⑮慶喜。①家康は言わずと知れた久能山東照宮と日光東照宮だ。(③家光は日光かと思っていたが、火災により改葬か?後で調べよう。)

 で、上記のサイトには、こんなことが書いてあった。

宝塔の地下2mのところに、各将軍の遺体は棺に納められて眠る。増上寺の墓所は東京大空襲で焼けたため、昭和33年(1958)に遺骨の発掘調査が行われ、一ヵ所にまとめられたが、こちら寛永寺の廟所は基本的に江戸時代の形のまま「聖地」として残されており、一度も発掘調査は行われていない。将軍たちは亡くなってからそのまま、座した姿で今も眠り続けている。(同上)

 つまり、家治は葬られてから一度も現代科学の目にさらされての調査はされていないらしい。そういえばと、蔵書の『徳川将軍十五代のカルテ』(篠田達明著、2005年)をひっくり返してみたら、増上寺組の6将軍と10人の正室・側室は、昭和三十三年(1958年)の同寺の改修工事の折に墓が発掘され、学術調査が行われていた。

 だが、家治は寛永寺組だ。なるほど、今後もしも学術調査が行われるとしたら、現代科学をもってすれば毒殺かどうか分かる可能性はあるのかもね?白黒ハッキリさせてもらいたい気もする。他に毒殺が疑われる将軍なんて、思いつかないから。その時に、例えば祟り封じ的な痕跡が家治とドラマでも描かれた家治嫡男・家基(寛永寺に葬られている)の墓に見つかったりしたら、疑いは真っ黒だよね。

 この『~カルテ』は20年前の出版だが、最近の意次復権の動きとは逆の、昔ながらの意次観が見受けられる。家斉の項を読むと、家基について、こう触れている。

家基の急死は田沼意次による毒殺ではないかと噂が立った。風説は長らく周辺に立ち込め、家斉は生涯に渡って家基の祟りを恐れた。普段頭痛持ちだったのも、家基の怨霊に脅かされ、不安を抱いていたのだろうと囁かれた。(136頁)

 家斉がそんなに家基の怨霊を恐れていたのだとしたら、家基毒殺は意次じゃなくて一橋家の手によるものだと考えるのがスジだと思うんだけど。擦り付けられてるなあ、意次。家斉は、家基を怖がっていたのなら、家治のことも同様だったか?家治と家基、両者の祟りを恐れていたと想像するけど。

 そうそう、家斉の正妻はドラマでも出てきている島津重豪の娘(広大院)だが、彼女は寛永寺に葬られた夫とは異なり、増上寺に葬られているのが不思議だ。他には、13代家定の正室・天親院が増上寺で、家定本人と継室・天璋院篤姫が寛永寺という、なんだか篤姫の圧をそこはかとなく感じさせる例があるだけで、他の正室は夫の将軍と共に同じ寺に葬られているようなのに、だ。

 ま、あれだけの数の子女を他で作られちゃったら、夫に対しては将軍といえども嫌悪感だけしかなかったかもしれないけどね。同じ墓は絶対に嫌!みたいな。

 将軍の⑧⑩が寛永寺、⑨が増上寺だから、⑪の家斉の墓は、本来は順番でいったら増上寺になるはずだったように見える。だが、家斉の、家治と家基親子の怨霊?に尽くす気持ちが強くて「いやだ、寛永寺じゃないと」と駄々をこねた結果、家治親子と同じ寛永寺になり、増上寺の11代様のために空けてあった所に後から死んだ正室が葬られ、墓所の寺が分かれたのではないか・・・と妄想が止まらない。

 家基が父・家治と同じ寛永寺に葬られているのを確認したウィキペディア先生にも、こんな記述がある。(徳川家基 - Wikipedia

家基に代わって第11代将軍となった家斉は、晩年になっても命日には自ら墓参するか、若年寄を代参させていたが、遠縁である先代将軍の子にここまで敬意を払うのは異例であった。また、家斉は文政元年(1818年)に重病に倒れ、なかなか回復しなかったため、家基の祟りと噂された。後に回復したが、家斉はその噂を聞いて震え上がり、木像を刻ませて智泉院に下付し、文政11年(1828年)の家基50回忌には、新たに若宮八幡宮の社殿を建立させたほどであった[4][5]

なお、家基の生母である蓮光院は家斉の将軍在任中の文政11年(1828年)に、没後30年以上経って従三位を追贈されているが、将軍の正室(御台所)や生母以外の大奥の女性が叙位された例は珍しい。

 異例なことばっかり。怪しいにおいがする。家斉は真っ黒の自覚があったよね。もしくは、父の白天狗がやったことを知って、自分が引き受ける業の大きさに愕然として恐れおののき、償いの気持ちでいっぱい・・・かな。

 修善寺駅の近くにも、悲劇の源頼家を祀った神社やお地蔵さんがある。殺した側が怨霊を恐れて祀ったのだ。それしかない。先ほどの『カルテ』には、家斉の常軌を逸した子だくさんについても、こう書かれている。

(家斉は)正室の他に十六人の側室を抱え、歴代将軍にはまれに見る五十七人の子女をもうけた。それというのも十五歳で将軍職を継いだ時、実家の一橋家から「先代将軍に男子がふたりしか生まれなかったことがそなたの運命を変えたのじゃ。宗家へ行ったら心して子女をもうけよ」と訓戒を受け、子作りに励んだからである。(137頁)

 ドラマでも、白天狗が我が子家斉にこのような訓戒を垂れる場面が出てくるのだろうか。オットセイ将軍なんて揶揄されるが、怨霊への恐れに突き動かされてるようで、なかなかお気の毒な11代将軍だ。ドラマの場合は、確実に全部白天狗のせいだ。

蔦重も・・・何故そんなに空気が読めないのか?

 今回、町方では想定していなかった悲劇が新さんとふく夫婦を襲った。なんと、食い詰めた知人(しかも、ふくが貰い乳をさせてやっていた赤ちゃんの親)が押し込み強盗となって、間が悪かったのかもしれないが、ふくと坊やが殺されたのだった。

 蓆をかぶされたふくと乳飲み子とよ坊の遺体を前に、愕然とする新さん😢😢😢私は誰を恨めばよいのだー!と叫んでいたが、オリジナルキャラの悲劇は、みんな脚本家のせい。脚本家が鬼なんだーと言っても全然構わないよね?

 特に、なんで赤ちゃんまで・・・😢😢😢とは思うけれど、この悲劇によって、新さんが物語上必要な変身を遂げるんだろうね。新さんまで、思いっきり悲劇をかぶるにおいがする。鬼脚本家め。

 この時にね、貰い乳をした女が「あの家にはきっと米があるよ」と夫に漏らし、その夫が新さんのいない隙のふくと、とよ坊を襲っていたわけだが・・・それって、蔦重の唐変木のせいじゃないかと思ったよ。主人公なのにねえ。

 だってね、水浸しの長屋に、あんなに颯爽といかにもの差し入れの風呂敷を携えて新さん達のもとへ現れていたじゃない?全てを失って、片付けに追われる皆が見ていた中で堂々と。「あの家は請け人から何か施しを貰ってる」と思われるし、それを目の前でわざわざやっちゃいけなかったよね・・・「あああ~後で盗まれる」って全視聴者が思ったと思うよ。

 そこで、ふくが食べるだけといってお米なんか炊いちゃったら、それこそ良いにおいを長屋中に振りまいちゃう訳でしょう。「お口巾着」なんてさ、蔦重は飢えている人たちを何て甘く見てたんだろう。

 新さん家族をサポートしたいなら、あからさまに仕事だけを見せびらかして渡し、「ちょっと食べに来い」ってふたりに囁いておけばよかったんじゃないの。来た時に、こっそり隠し持てるだけ持たせるとか、坊やを一時的に預かるとか。マッハで坊やの服を拵えてたぐらいだから、おていさんは喜んで世話しそうだけどなあ。お乳を貰う乳母は探さなきゃだけど。

 次回、新さんを襲う悲劇が心配だ。もちろん、意次の転落も目撃しなきゃならないのだろうね😢

(ほぼ敬称略)