黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

ばれちゃったかな?

 シルバーウイークもあっという間に過ぎていく。私の物事を忘れるスピードも年々速度を増しているので、忘れる前に先日のペット彼岸会についても書かねば。

 前日の散歩で疲れ切ったかと思いきや、筋肉痛もなく、無事に彼岸会の催される寺院に行くことができた。と言っても、車で。

 10時からの会なので、入れるのは9時半からだそうだ。少し早すぎた。コロナ禍ならでは、まだ会場に入ることはできないのだった。

 日差しがしっかりあったので、駐車場の車中で待つことに。車は日陰に移動した。

 そこは「前向き駐車」と大書きしてあり、正面には今まで気づかなかった石仏がすっくと立っていた。それで前向き駐車・・・縁起が書いてあるが、車中からは読めそうで読めない。

 法要に来ているのに、車を降りて読もうともしない私。その程度の態度じゃ、有難い法会に参加しても、ねえ。まさに馬の耳に念仏か。

 あの世の存在は信じているけれど霊感もなく、私はお世辞にも信仰心が篤いとは言えない。毎日、お経をあげているわけでもない。

 それでも、亡き息子のためだと思うと、こうやってノコノコと法会には来る。自分の知らない世界に息子がいるのなら、誰かに祈って息子のことをお頼みするしかない気がするからだ。

 死に際の豊臣秀吉は、誰かれ構わず秀頼のことを頼む頼むと言っていたというが、それを私は一つも笑えないのだ。息子のあの世での安穏を保証してくれる誰かが欲しい。

 猫など動物の守護をしてくれるのは馬頭観音(!)という観音様なのだそうだ。「馬の耳に念仏」なんてさっき書いてしまったが、皮肉でも何でもないです。偶然です。

 ググってみたところ、柔和な顔をしている観音様方の中で、馬頭観音だけは怒髪天を衝いた憤怒の形相をしているという。

 だけれど、こちらの馬頭観音の仏像には、犬がまつわりつき、猫も膝でリラックスして、いかにも優しそうな表情をしておられる。

 優しいお顔の観音様でよかった。ビビりの息子が怖がっちゃうものね。

 時間になり、手指消毒を入口でしっかり施されてから会場に入った。参列者は先に焼香を済ませ、ひとりずつ1メートル程度は離れた席に着席。椅子の背の部分には、後頭部を覆うような透明のカバーが張ってあった。

 前列や後列とは、互い違いに座る。全体としてみると市松模様に見えるのかな。

 私の斜め前にはまだ学齢前の女の子がひとりで座っていたが、お坊様たちが入場してくるころには近くに座る家族との賑やかなおしゃべりも静かになり、隣に座っている(たぶん)おばあちゃんに抱きついて、完全に寝てしまった。

 お坊様方の朗々とした美声のお経は、きっと子守歌のように気持ちが良かったのだろう。コーラスをおやりになったらすごいだろうなあ。

 こんな心の持ちようでは、法会中に眠りに落ちた幼子と大して変わらない。反省しつつ、暗くなった会場でお経を有難く聞きながら、私もとにかく息子のあの世での幸せを祈った。

 その間、息子が降りてきて私の膝に乗っているような気がしてきて、右手は息子をいつも撫でていたように、ほんのちょっとだけ軽く動かしていた。エアなでなでだ。

 そうしたら、いきなり強烈な視線を感じた。

 通路を挟んで横並びの列の、一番遠い端の席。父親の膝に抱っこされて参列していた小学1年生ぐらいの女の子が、わざわざ伸びあがってこちらを見ていた。手前の、母親の膝の上にやはり座っていた弟らしいもっと幼い男の子も、こちらをじっと見ている。

 ふたり揃って、親にそれぞれ抱っこされている態勢から、私を「ガン見」していたのだ。

 「え?なんで・・・」と、気づいて面食らってしまった。私は決して、手を大仰に動かしていたわけではないのに。会場は暗く、遠い席から私が何をしているかなんて、わかるはずもないのだ。

 どぎまぎしてしまったが、しばらくすると子どもたちは、私から視線を外してお経の方に意識を向けた。

 女の子は手を合わせてしっかり拝んでいるところを見ると、日頃からご家庭で熱心にお経をあげているのかもしれない。

 男の子はお坊さんが木魚を叩くのに合わせてそれを生き生きと真似て、その勢いでお母さんの膝の上で座ったままちょっと跳ねている。法会が始まる寸前まで、むずがって体をひねったり伸ばしたりして抱っこしているお母さんを困らせ、お坊さんから「あちらへ・・・」と「ご案内」を受けていた同じ子とは、とても思えない。

 すごいなあ。取ってつけの私とは、信仰心の年季が違うようだ。私も亡き息子への気持ちだけは、間違いなくあるんだけど。

 やがて法会は終わり、退出の順序の案内を受けながら、その子たちは家族で先に帰って行った。

 あの子たちは、私のいったい何を見ていたのかな? 何だったのか・・・。私の膝の上のエア息子が、あの子たちには見えちゃった、ということにしておこう。