黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

そうじと片付け

 週末、メニエール発作が治まったばかりだったのであまり下方向を見ないようにしていたのだが、ふと洗面台から少し離れた姿見を見たときに、何かしぶきのような影が下部を覆っているのが目に入った。

 ごはんだ・・・よく見たら、亡き猫型息子がまき散らしたポタージュごはんが、姿見の床上1Mぐらいまでハネて、乾いていた。1か月も経ってるからカピカピだ。

 触れると粉が落ちた。

 頭を揺らさないようにゆっくり、ティッシュ数枚を濡らして拭き取った。隣の木製の引き戸にも、床上5、60cmぐらい一帯にシミとなったハネを見つけ、同じようにそーっと拭いた。

 下顎右半分を切除して以降、息子はペコちゃん状態で舌が右側面から出るようになっていて、ポタージュ状のごはんを舌で一生懸命食べると、耳や頭のてっぺんを含めて顔じゅうがごはんだらけに。それを自分でペロペロしてきれいにすることも、舌の可動方向や範囲が極端に変わってしまって以前のようにはできなかった。

 息子の右側口元には再発したガンがコブのように膨れてきていたから、息子が手で拭うのは心配。やらせないようにしたつもりだったけれど、気づくと、息子の両手はごはんが毛の間でカピカピに乾き、塊になっていた。

 舌でも手でも顔を満足にはきれいにできない息子は、それが嫌で、頭をブルンブルンと振り回してどうにかごはんを取ろうとしていた。結果、ポタージュごはんは歌舞伎の隈取みたいにさらに盛大に息子の顔にくっつき、床も壁もキッチンのカーテンも、そこらへんがごはんだらけ。

 まだ濡れているそれを、私が踏んづけてあちゃー、今日はもう靴下何枚目かな・・・というのが日常になったのだった。

 息子が頭を振り回す前に、濡れティッシュできれいに拭いてしまおうと私は追いかけたのだが、息子は「口拭きババア」がもちろん嫌い。こっそり隠れてあちこちで頭を振り、ごはんをそこらへんに跳ね飛ばしていた。

 あまりに広範囲では毎回やってられない。それで、発病後設けた窓際の息子専用スペースにペットシーツを何枚も敷いてごはんはあげることにして、何とか折り合いが付いた。シーツの他、窓やシェードがかなりしぶきを受け止めた。

 乾いたポタージュごはんは掃除しやすくなる(発見)。要らないカードでカリカリ削って、掃除機で粉末を吸って後を水拭きして・・・というのが日課になったが、そうかー、姿見とドアにね・・・まだこんなところに残っていたんだ。

 今日見たら、ズボンプレッサーの側面にも残っていた。後で拭かねば。

 しかし、後で拭かねば・・・と反射的に思い、その調子でせっせと日常の掃除をしてしまうと、息子の痕跡がどんどん無くなっていくことになる。

 息子が亡くなっても、私はあまり考えもせず朝からごはんで汚れたタオルやフリースブランケットを集めて洗濯機を回した。息子があちこちでバッタリ横たわれるように、寝ころべる「ベッド」は6~7か所作ってあったが、順番に洗濯していかないときれいがキープできないから、ついつい日常の洗濯を始めていたのだった。空いた物からどんどんと。

 息子はきれいなタオルやフリースで寝たがったから。タオルを取り換えるのに気づくと、わざわざ別のベッドから移動してきてバッタリすることもあった。

 息子がキッチン前でごはんを待つ「待合室」と呼んでいた作業台下の座布団のカバーもそう。ごはんの後に口拭きババアから逃れるためにもぐってしまうから、汚れがちだった。そういった物はさっさと洗った。

 が、夫が慌てたように「片付けは、ゆっくりでいいよね」と言って、ああそうかと思った。

 気づけば、テレビ前に夏蒲団をたたんでバスタオルをかけて「ベッド」にしていたのも洗ってしまったので、ぽーんと空間が空き、部屋に音が軽くこだましてしまって、何か広くなってしまったと驚いた。

 「片付け」のつもりはなかったんだけど・・・むしろ、息子のためにきれいにしたかっただけだ。

 実は、息子専用スペースの床と、窓際には、まだごはんのこびりついている場所がある。もう軽々しく掃除できなくなってしまった場所なんだけれども・・・夏までにはしないとなあ。覚悟が要りそうだ。