黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

【光る君へ】#14 兼家没、遠ざかったまひろと道長は各自もどかしい空回り

前回ブログについての反省

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第14回「星落ちてなお」が4/7に放送され、オープニングのトリを飾っていた藤原兼家(演・段田安則)が没した。ここまで公の硬派的な物語を引っ張ってきた功労者、まだまだ居てほしかったが・・・そんなことを言ったら、いとに叱られるか。

 まずはあらすじを公式サイトから引用しよう。

(14)星落ちてなお

初回放送日: 2024年4月7日

仕え先を探すまひろ(吉高由里子)は、土御門殿からの帰りに道長(柄本佑)と鉢合わせてしまう。久しぶりの再会だったが・・・。ある日、兼家(段田安則)は道長らを呼び、道隆(井浦新)を後継者にすると告げる。道兼(玉置玲央)は納得がいかず、激高する。やがて兼家が逝去。跡を継いだ道隆が摂政になり、独裁を始める。一方まひろ(吉高由里子)は、たね(竹澤咲子)に読み書きを教えていたが、厳しい現実が待ち受けていた。((14)星落ちてなお - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 前回ブログに関しては反省している。最後にまひろと道長が土御門殿で鉢合わせただけで、アレコレ妄想を炸裂させてしまった。

 今回蓋を開けてみたら、何のことはない。ただ従者がまひろのことを事務的に説明しただけで、2人は他人行儀にすれ違って終わった。え?そうなるの?ズギューンと撃ち抜かれた顔しているよ、いいの?いいの?・・・と鼻息荒く期待しちゃったが、とにかくすみませんでしたー。

 これからも、まひろと道長の何の展開も無いニアミスとか、バッタリ会うとかの場面が出てくるのだろうか。もう無駄に舞い上がらないように、2人が接近しても「あーそー」程度でフラットに見ることにする。

 それにしても、4年ぶりに訪問したまひろの顔と名前が一致している従者の人、凄い(ところで、百舌彦はどこへ?)。淀みない説明だったねえ。

従者:北の方様のところに以前より出入りしておる、前の蔵人式部丞藤原為時の娘にございます。

道長:ふむ。

まひろ:(頭を下げ、脇によける。道長通過)

 もしかしてこの人は、道長の従者というよりも家人であり、帰ってきた道長をお迎えに出ただけなのかも。それだったら、倫子様を訪ねてきたまひろのことは土御門殿スタッフ全員が情報共有済みかもね。

 さて、まひろと鉢合わせの後、嗅覚が優れている倫子様の前で心ここに在らずの失態を見せてしまった道長。幼い娘がせっかく「ちちうえ」って言えたのにねー。「良い風だ」なんて言って、まひろの去った方向をチラ見している場合じゃない。

 こうやって、倫子様の心の中で様々な事象が少しずつ積み重なっていき、道長の心の中のまひろの存在が徐々に浮かび上がってくるのだと思うと・・・炙り出されるな、きっと。

哀れ道兼、とは思わないんだよな

 兼家が永祚2年(990年)に没する少し前、兼家の口から後継者は長男・道隆が指名された。これまで父の政権奪取のための汚れ役を担ってきた道兼は、土壇場での父の裏切りに最大級にキレた。悪魔的な顔に身震いした。役者がうますぎる。

兼家:(息子たちが控える中、よろよろと着座する)今日は気分が良いのでお前たちを呼んだ。出家いたす。望み通り関白になったが、明日それを辞し、髪を下ろす。わしの跡は・・・道隆、お前が継げ。

道隆:はっ・・・仰せ、かしこまりましてございます。

道兼:父上は正気を失っておられる。父上の今日あるは、私の働きがあってこそ。何故、兄上に!

兼家:黙れ。正気を失っておるのはお前の方じゃ。お前のような人殺しに一族の長が務まると思うのか!

道隆:人殺し・・・。

兼家:大それた望みを抱くなぞ許し難し。下がれ。

道兼:父上こそ、帝の父の円融院に毒を盛り、花山院の女御様とそのお子を呪詛しその挙句、殺め奉った張本人ではないか!

(道隆が目を泳がせ、道長を振り返るが道長は目を伏せる)

兼家:道隆は何も知らずともよい。お前はまっさらな道を行け。

道隆:はっ。(道兼、憤懣やるかたない表情)

兼家:道兼は、これからも我が家の汚れ仕事を担って兄を支えて参れ。それが嫌なら、身分を捨てどこへでも流れてゆくがよい。

道兼:(目を剝き、歯を食いしばる)この老いぼれが・・・とっとと死ね!(去る)

兼家:以上である。(立ち上がろうとしてよろけ、道隆と道長が支える)よい(手を振り払う)道隆、道長。今より父は無いものと思って生きよ。(歌いつつ、家司に支えられ去っていく)

道長:(父の背中を見送る。視線を転じると、道兼がうなだれている)

ナレーション:これ以来、道兼は参内しなくなった。

 道隆が何も知らず、まっさらな道を歩んでいるとは思わない。確か、花山帝のお子を呪詛するように安倍晴明に兼家が迫った時には、御簾の中に並んでいた公卿の中に道隆の顔もあったから。

 そして、当時の円融帝に毒を盛った時にも、妹である女御の詮子が宴会に乗り込んできて父を詰り、その場にいた道隆も薄々事情は分かったはずだった。ここでとぼけても視聴者はおぼえているよ。道隆は、道兼の殺人(まひろの母殺し)については無知でも、その他の父兼家&道兼の悪事は、道長と同程度に知っている。

 死を前にした兼家は腹を括ったな。これまでは道兼の機嫌を取るような言動も見られた。それは手駒としてうまく操りたかったからだろう。でももう自分は望み通り「家」を残し、死んでいくだけ。道兼もお払い箱だ(息子なのに・・・)。

 暴れ馬道兼を残される道隆と道長はたまらないだろうが、道隆は以前も道兼をうまくなだめていた。それがまた通じるか?

 こうして父にいいように言いくるめられてきた道兼が、父の真意を知って思わぬ失意を味わった点については・・・親に裏切られて大変にお気の毒、とはやっぱり思えないのだよなあ。主人公まひろの母殺しという、始めから正当な悪役でのご登場だし、DV夫は妻にも逃げられ、因果応報という言葉が浮かぶばかりだ。

 クローズアップされた道兼の妻は、兼家の異母妹、つまり道兼にとっては半分叔母(!)の繁子だが、繁子はまるで現代の女性センターに予め相談してあったように、手回しよく娘尊子を先に家から逃がし、「お父上の喪にも服さぬような、あなたのお顔はもう見たくもございませぬ」とキッパリ言って出ていった。

 彼女の経歴も、なかなか面白い。一条帝の乳母として力もあるのだろう。「好いた殿御ができました」と言っていたが、亡くなった兼家の家司を務めていた平惟仲と再婚するそうだ。惟仲もなかなか目端が利く波乱万丈の人物のようだが、今後そこまで描かれるか?

「人を呪わば穴二つ」を体現した源明子

 セミが鳴く中闘病生活を送った兼家が亡くなったのは、当時の暦での7/2。現代の暦では7/26だそうだ(藤原兼家 - Wikipedia)。暑いね。その直前、道長のもう1人の妻・源明子が熱心に兼家に対する呪詛を行っていた。前回兼家からせしめた、例の扇を祭壇に据えてのことだ。

 画面には並行して、横たわる兼家の様子、そして空を見上げる安倍晴明が映る。晴明は(式神らしき)従者に言う。「今宵、星は落ちる。次なる者も長くはあるまい」

 寝ていたはずの兼家は、東三条殿の中を彷徨い、裸足で庭に出た。三日月を見上げて微笑んだが、にわかに月は赤く染まった。ちょうどその頃、明子は高い声で「即滅ソワカー!」と叫んで扇目がけて気を投げつけ、扇が吹き飛んだ。

 轟音とともに雨が降り、明子は腹を抱えて苦しみ倒れた。そして兼家も、庭で倒れ雨に打たれ事切れた・・・らしい。翌朝、死後の兼家を道長が見つけ抱きかかえた。血の気の無い兼家と対照的に、生気が満ちて唇が深紅の道長。道長は、直秀らを自分の手で葬って以来、死穢とかどうでもいい人だと視聴者は知っている。

 兼家の死は、明子の呪詛が成就したということだろう。作用反作用というか、兼家を呪い殺した代わりに、腹に宿っていた道長との子も、母の身代わりなのか犠牲となった。

 多くの視聴者が「人を呪わば穴二つ」と頭に浮かんだことだろう。明子はそれを体現してしまった。

 その後、伏せった明子。彼女の目には、当時の貴族には大問題だった穢れを乗り越え、喪中の身で穢れた自分を見舞いに来た道長は、自分をスーパー気遣っている王子様に見えたかな?彼女は道長が元々死穢やしきたりを気にしないとか未だ知らないようで、彼の行動を勘違いして心動かされたかも。

 もし勘違いなら、後々怖いなあ・・・。勝手に買いかぶったとしても。

 子どものころにいじめに遭っていた人に、「今相手を呪いたい?」と聞いたら、「今が幸せだからそんなことはどうでもいい」と返された。現在の幸せを手にできれば、呪う心も消えていく。でも、嫡妻の倫子がいる立場の明子はそうもいかないだろう。

 その状況で、六条御息所の役回りの明子が、またどんな呪いを発動するのか・・・いや、また先走った妄想は止めておこう。

まひろにロックオンの宣孝

 兼家の死の報をまひろの家にもたらしたのは宣孝だった。その時、いとが「やった!」とばかりに密かにガッツポーズをした。「わしの目の黒いうちはそなたの父が官職を得ることはない」とまひろに宣言していた為時の最大の障壁が世を去り、いとが喜ばない訳がない。いと、かわいいなあ。

 為時は、息を飲み「激しいご生涯であったのう・・・」と感慨深く言い、「ひとりにしてくれ」と目頭を拭った。

 「殿さまのあれはうれし涙でございますよね?」との、いとの問いに、まひろは「分からないわ。父上ご自身もお分かりになっていないかも。嬉しくても悲しくても涙は出るし、嬉しいか悲しいか分からなくても涙は出るのよ」と言った。「複雑だよねー」の一言で返さないところが将来の紫式部だ。

 帰る前に、宣孝は「知らせは、もう1つある」と、自身の筑前下向を告げた。まひろは当意即妙に「筑前の守におなりなのでございますか」と返し、宣孝は「前の筑前守が病で職を辞したそうで、にわかの赴任を命じられた」と説明した。派手な出で立ちでの御嶽詣の御利益だ、とも。

 さらに「いよいよわしも国司になるぞ」との言葉に、まひろはすぐに「おめでとうございます」と頭を下げた。こういうまひろとの軽やかな会話を、宣孝は気に入ったのだろう。まひろをガン見しながら「わしも、為時殿の一家を置いていくのは忍びないと思っておったが」と言葉をつなげる様子を見て、宣孝の気持ちの在りように何も気づかない為時は超鈍感としか言いようがない。

 次回予告を見る限り、ぐにゃぐにゃ惟規が家運を引き上げてくれるようで、それはそれで楽しみだが・・・筑前に赴任してもイケオジ宣孝が何かまひろにアプローチを続けるのかも気になる。

新摂政の身内びいきの陰で、道長苦戦

 ところで、亡父の「次は道兼」との間違った見立てのせいで道兼の懐に入り込んでしまっていた公任(演・町田啓太)。ヘタを打ったと後悔し、「これからは道隆様に真剣に取り入らねば」「道兼様は正気ではない」と愚痴をこぼしていたが、次回予告では「俺に尽くすと言ったよな?」と道兼に迫られるらしい。危機一髪、ガンバレ公任!

 この公任は蔵人頭と前回呼ばれていたが、新摂政道隆の初の公卿会議でもう1人の蔵人頭に選ばれたのが、17歳の道隆長男・伊周(三浦翔平)。「蔵人頭、参れー」と一条帝のかわいらしくも爽やかな声に召喚され進み出て、宮中の女官たちのきゃあきゃあ声をかっさらっていた。

 さらに道隆の身内びいきは続き、公卿会議で道長含め「ありえぬ」の大合唱になったにもかかわらず、長女の女御定子を中宮に冊立してしまう場面が描かれた(ナレで「道隆の独裁が始まった」も入った)。

 そこには2人の蔵人頭が控えていた訳だが・・・中の人は町田啓太に三浦翔平なのだから、「一条帝の蔵人頭は顔だけで選んだ」(失礼)と言われても信じてしまうぐらいのキラキラ顔。感覚がマヒする眺めだった。

 さて、このような道隆の身内びいき全開の陰で、道長は直秀の死の直接原因になった検非違使の改革案を何度も出し、兄によって却下が繰り返されていたことが分かった。

摂政道隆:お前はまた検非違使庁の改革案を出しているようだな。

道長:はっ。

道隆:幾度も却下したではないか。

道長:諦めません。検非違使庁のしもべは裁きの手間を省くため、罪人を密かに殺めておりまする。そのような非道を許せば、国は荒みます。民が朝廷を恨みます。

道隆:罪人は罪人である。どのように処されようと我らが知ったことではない。身分の高い罪人は、供もつけて流刑に処し、時が過ぎれば都に戻るようになっておる

道長:身分の高い者だけが、人ではありませぬ!

道隆:お前はもう権中納言ぞ。下々のことは下々に任せておけば良い。

 道長は直秀への誓いを忘れず、できることは実行していた。しかし、貴族の常識がそれを受け入れず、彼の努力も空回り。「何も成していない」と気落ちすることになった。江戸を斬る、大岡越前、遠山の金さん、水戸黄門あたりの時代劇を見て育つと、下々の中に入ってこそ良い政ができるってぇもんですよ、と言いたくなる。ドラマの道長は、平安貴族では希な存在だ。

 こうなると、やはりトップオブトップに立つしかないと身に染みて決意することになるんだろうな、道長は。

 しかし、平安時代のある時期には死刑が無かったなんて話は貴族様だけのことだった。ちょっと想像すればわかりそうなものだったのに・・・。庶民に対しては、司法システムに乗せるまでもなく、警官レベルが銃殺してしまうようなものだった訳だね。貴族様だけが人であるかのような話を、私もしていてしまったのだな・・・。

 道隆と道長の会話には、定子を巡る続きがあった。

道隆:定子様を中宮にする。

道長:え?円融院の遵子様が中宮としておられますが。

道隆:中宮の遵子様には皇后にお上がりいただき、定子様を中宮になし奉るつもりじゃ。

道長:皇后と中宮が並び立つ前例は、ありませぬ。

道隆:前例とは何だ?そもそも前例の一番初めには前例なぞなかったであろうが。

道長:されど・・・!

道隆:公卿たちを説得せよ。

道長:できませぬ。

道隆:これは相談ではない。摂政の命である。

 この、3后が存在するのに中宮を皇后並みにして1枠をプラス、実質4枠にして娘を押し込んだ道隆の手法については、専門の歴史家の方々や、専門でもない方々まで、多くの方がネット上でご説明されているようなので、私まで参戦する必要はない。ただ、3枠のうち2后をひとりで占めてしまった円融帝が悪く見える。ただ兼家と仲が悪かった結果がそうなったんだね。

 この兄貴の手法を弟の道長君が将来悪用するという・・・先走ったので止めようね。

まひろ、ききょう(未来の清少納言)との会話

 さて、新蔵人頭に選ばれた伊周の妻選びを目的に和歌の会を摂政家が催すことになり、ようやっとまひろとききょうの出番が回ってきた。

 ききょうは自分たちが「にぎやかし」にしか過ぎないと自虐していたが、摂政の北の方である才女の高階貴子に認められている2大才女が、まひろとききょうであることは、特筆すべきことではないか(ドラマの中だけど)。

 その会の後日、市女笠を被り、ききょうがまひろを訪ねてきた。

ききょう:まひろ様。

まひろ:ききょう様・・・!

き:誰ですの?今の汚い子。

ま:文字を教えている子です。それはもう賢くて。

き:あのような下々の子に教えているの?

ま:ええ。文字を知らないためにひどい目に遭う人もおりますので。

き:何と物好きな・・・。(屋内に入って)先日の和歌の会はつまらぬものでございましたわね。あのような姫たちが、私は一番嫌いでございます。より良き婿を取ることしか考えられず、志を持たず、己を磨かず、退屈な暮らしもそうと気づく力も無いような姫たち

ま:そこまでおっしゃらなくても・・・。

き:まひろ様だってそうお思いでしょ。

ま:少しは・・・。

き:私は宮中に女房として出仕して、広く世の中を知りたいと思っておりますの。

ま:それは、ききょう様らしくて素晴らしいことでございます。

き:まひろ様に、志は無いの?

ま:私の志は・・・先ほども申しましたように、文字の読めない人を少しでも少なくすることです。

き:(やや呆れて)この国には我々貴族の幾万倍もの民がおりますのよ。そのこと、ご存知?

ま:存じてます。されど、それで諦めていたら何も変わりません

き:そうでございますか・・・(立ち上がり)私は私の志のために、夫を捨てようと思いますの。

ま:は?

き:夫は女房に出るなどという恥ずかしいことは止めてくれと申しますのよ。文章や和歌はうまくならずともよい。自分を慰める女でいよと。どう思われます?下の下でございましょ。

ま:されど、若君もおられますよね。

き:息子も、夫に押っ付けてしまうつもりです。息子には済まないことですが、私は私のために生きたいのです。広く世の中を知り己のために生きることが、他の人の役にも立つような・・・そんな道を見つけたいのです。

ま:(ききょうを見つめる)

 この会話を文字起こしして読んでいると、また朝ドラ「虎に翼」を思い出してしまう。第2週では、主人公の寅子らは民事訴訟の法廷を傍聴した。そこで、当時の戦前の民法では、婚姻関係にある女の財産は着物1枚までも夫によって管理されてしまうという現実を知る。

 ただ、裁判中の件では婚姻関係は既に破綻しており、夫による妻の財産の管理権を夫側がことさらに主張するのは、妻を苦しめる目的での「権利の濫用」だとの大岡裁きが下り、主人公たちはホッとした。(ちなみに裁判長は「真田丸」の叔父上、「鎌倉殿の13人」の大江殿の栗原英雄だったー!)

 何が言いたいかというと・・・ききょうのような考えを持った女も、ドラマ上だけでなく、きっと千年前もいただろう。そして戦前の猪爪寅子も。とても優秀な人たちなのに、そういった彼女らの声は日本の歴史の中でずーっと花火のようにポツンポツンと打ち上がっては消え、結局は大勢には影響を及ぼせず飲み込まれてきたのかと思うと虚しく悲しい。悲観的に過ぎるか。

 この場面のききょうのセリフについているBGMだって、ドーンドーンドーンみたいに太鼓が勇ましく打ち鳴らされる行進曲で、面白おかしく茶化されているように聞こえた。女が志を語るとなると「へいへい、姉ちゃん威勢がいいね~」といった風に扱われるのがオチなのか。

 まひろの「少しでも文字を読めない人を少なくしたい」プロジェクトは、順調に滑り出したかに見えたのに、少女タネの父親から猛反発を食らってしまった。「文字なんか要らねえ。俺ら、あんたらお偉方の慰み者じゃねえ」と。独りよがりのお節介な慈善事業みたいに思われたのか・・・。

 難しいし、もどかしいね、まひろ。この経験を踏まえ、彼女はどう考えて行動していくのだろうか。「諦めていたら何も変わりません」とききょうにも言ったのだから、まだへこたれないよね?

今回のほっこりエピソード2つ

 その①。まひろが土御門殿の仕事を断ってきてしまったことを、仕方ないながら「断られた」と先方のせいにして説明したため、いとは「何ゆえに」と憤慨した。

 まひろにしたら当然、道長のいる場所での仕事など最初から受ける訳にはいかない。だけれど、いとは大いに期待してまひろを送り出したのだろう。

 そのあと、家計を案じて為時に泣いて暇乞いをするほど、この度のまひろの就職に賭けていたと思うと、いとには気の毒だった。けれど結果的にほっこりエピソードにつながった。

いと:いとにございます。

為時:(書物を読んでいる)入れ。

いと:(為時の前に座り、頭を下げる)殿様、お暇を頂きとうございます。(為時、顔を上げる)本当にお世話になりました。何のお役にも立てず・・・。

為時:ま、待て。いきなりいかが致したのじゃ。

いと:私、食べなくても太ってしまう体でございますので、何と言うか、居場所が無いというか・・・。

為時:いや、今更何を申すか。

いと:されど、土御門殿での姫様のお仕事も決まらず、私の仕立物の注文も途絶えがちで・・・もう、私がお暇を頂くしかあるまいと(伏して泣く)。

為時:行く当てなぞ、無いであろう。(いとのそばへ行く)惟規の乳母となってこの家に来たのは、お前が夫と生まれたばかりの子を流行り病で亡くした直後であった。故にお前は、惟規を我が子のように慈しんでくれた。この家は、お前の家である。(いと、顔を上げる)ここにおれ。(いと、さらに泣く)

 「食べなくても太ってしまう」体質と言わせるとは、さすが女の脚本家。ご本人はかなり小柄で細いお人だったなあと、大昔にお話しさせていただいた時の事を思い出すが、これぐらいの世代の女の人の数多が「それな!」と頷いたと思うし、いとが真剣に言うからこそ笑った。

 それに、これまで語られなかった彼女の境遇も分かった。流行り病で夫と生まれたばかりの子を亡くした後、惟規の乳母になったと・・・辛さを知る身だからこそ、妻・ちやはを亡くした為時にも寄り添い、惟規にも尽くしたのだろう。「この家は、お前の家である。ここにおれ」と言ってもらえて、良かったね。

 その②。道綱の母が、また兼家に「道綱、道綱、道綱」と呪文のように唱えている。これまでも良く出てきた、息子の出世を願う母の真剣な、だけど毎回ちょっと笑わせる、サブリミナル効果(?)を狙っているらしい行為だった訳だが・・・。

寧子:(剃髪し、目を閉じて横になっている兼家の枕元で)道綱、道綱、道綱。聞こえますか?

道綱:母上、もうおやめください。

寧子:道隆様に、道綱のことをお忘れなくと仰っておいてくださいませね。道綱・・・。

道綱:お加減のお悪い時にそんなことを申されるのは・・・。(兼家が目を開ける)

寧子:あっ、お気づきになられた!殿様!(兼家の手を握る)

兼家:(寧子を見てほほえむ)「嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る」

寧子:殿・・・!

道綱:今の歌、何?

寧子:私の・・・「蜻蛉日記」よ。

兼家:あれは・・・よかったのう・・・(寧子、涙を堪えて兼家の手に頬ずり)輝かしき日々であった・・・。

 道綱、母の大ヒット作を知らんのかーい!と突っ込みたくなったが、寧子の方は嬉しかっただろうな。兼家が自作にこっそり目を通し、しかも作中の歌を死の床で諳んじてくれたのだ。愛を感じたと思う。

 謀略を尽くして権力を握った悪党政治家として世を去るだけじゃない。兼家にも、打算ばかりじゃない人間らしい関係が、寧子との間にはあったのだった。「蜻蛉日記」をちゃんと読みたくなった。

(ほぼ敬称略)