黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

【光る君へ】#32 まひろは「物語の泉」が脳内に湧き、道長は嫡妻倫子様に嘘をついた

書いて出さないと落ち着かない

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第32回「誰がために書く」が8/25に放送された。「誰がために」とくれば「鐘が鳴る」と反応する世代なので、一瞬、何かヘミングウェイと関連するものでもあったかと無駄に思ってしまった。大作家誕生ってことか?さて、公式サイトからあらすじを引用する。

(32)誰がために書く

初回放送日:2024年8月25日

道長(柄本佑)の思惑通り、一条天皇(塩野瑛久)はまひろ(吉高由里子)が書いた物語に興味を示す。そこで道長は、まひろに道長の娘・彰子(見上愛)が暮らす藤壺へあがり、女房として働きながら執筆することを提案。狙いは、一条天皇が物語の続きを読むため、藤壺へ来ることを増やし、彰子との仲を深めるきっかけにすることだ。まひろは道長の提案に戸惑うが、父・為時(岸谷五朗)に背中を押され…。((32)誰がために書く - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK)

 前回終わり、一条帝はまひろの書いた物語を読み始めたかと思いきや、本を閉じた。その後、読んでいなかったらしい。

 尋ねたら、あ、忘れてたわ~的に軽く帝に返された道長はガッカリ。まひろに「帝のお気に召さなかった」と正直に伝えに来た。まひろはそう聞いて「力及ばず申し訳ございませぬ」と答えたものの落胆はしないと言い、意に介さないところを見せた。

まひろ:帝にお読みいただくために書き始めたものにございますが、もはやそれはどうでもよくなりましたので、落胆はいたしませぬ。今は、書きたいものを書こうと思っております。その心を掻き立ててくださった道長様には、深く感謝いたしております。

 「それが、お前がお前であるための道か?」と道長は聞いて微笑んだ。その道を見つけたいと、まひろは若き日に、道長の妾になるのを断ったのだったよね。

 つまり、「誰がために書く➡まひろ自身のため」ということで。帝でも、道長のためでもない。ドラマとはいえ、まひろの道長への思い、「好き」を一方的に搾取する形にならなくて良かったな。大作家先生に、そんな心配要らないか。

 まひろはそして、道長がリラックスして物語を読むそばで、自分の脳内に湧き始めた物語をせっせと書くことに注力していた。ふたりの姿は、カップルとしてとても自然だった。とても倫子様や呪詛の明子には見せられない。道長は、2人の正式な妻の下ではリラックスできなくなっていたのにね・・・。

 大作家まひろ先生としては、湧き出てくる物語を止めるのは自分でももう難しいだろう。いとは「良いお仕事になると思ったのに」とブツブツ言っていたが、この類は金になる・ならないの問題じゃない。湧き出ちゃうのだものね。書いて出さないと、パンパンになって気持ち悪くなるだろう。

 私も、売れない本を頼まれて書いたことがある(既に絶版)。多少、ひと様のお為になったようで良い経験になったが、私のような者でさえ、最初のアイデアが頭にドンと落ちてきてからは、それを原稿の形で書いてしまうまでの数か月間は、持て余して落ち着かなかった。

 まひろの頭の中にポカーンと開いてしまった「物語の泉」の巨大さは、千年に一人の規模なんじゃないか。想像すると、一旦物語が湧いてしまったら、頭の中に持っていられなくて押しつぶされそうだ。せっせと書いて頭から出してしまわないといけない。

 彼女の人物像を造形した人気脚本家である大石静も、きっと物語が湧いてくる大きな泉を頭の中にお持ちなんだろうな。羨ましいことだ。

まひろが書く物語:源氏の君は、お上が常にお側にお召しなさるので、心安く里住まいもできません。心の中では、ただ藤壺のお姿を類なきものとお思い申し上げ、このような人こそ妻にしたい。この人に似ている人など・・・。

 「桐壺」の章を集中して書くまひろに、道長は「俺が惚れたのはこういう女だったのか」と驚きを隠せないようだったが、ホントにね。道長も、とんでもなく運が良かった。さすが持ってる人だ。

 (ところで、NHK+で見たところ字幕が「類なきものなし」となっていた。はて?と思ったがやはりそれじゃ変、「なし」は要らないよね。消し忘れたかな。)

 そうそう、道長だからこそ彼女の「やる気スイッチ」を押せたのだろうけれど、物書きとしてのまひろについて情報をもたらした才能あふれる公任、妻の敏子さん(夫婦ともども見る目がある)には、道長は格別のお礼をすべきなんじゃないか。 

まひろとの過去はなかったことに?

 一条帝が、思惑通りまひろが書く物語の続きを所望したので、道長はまひろを中宮彰子の女房へとスカウトした。だが、まひろは「続きをお読みくださいますなら、この家で書いてお渡しいたします」と断った。

 が、道長は「それではダメなのだ。帝は博学なおまえにも興味をお持ちだ。中宮様のお側にいてもらえれば、帝がお前を目当てに藤壺にお渡りになるやもしれぬ」と、おとり作戦の本音を漏らした。

 まひろは、「おとり」になれと言われて「まっ」と顔をそむけたが、余裕なく必死な道長はそれに構わず、娘の賢子も女童として召し抱えるから考えてみてくれと言い、慌ただしく去った。

 そして道長は、嫡妻倫子様にとうとう嘘をついたよね。なぜ、まひろを知っているのかと問われてのことだ。予告でその問いを聞いて、震えあがった人は多いだろう。私もだ。

倫子:まひろさん?殿がなぜ、まひろさんをご存知なのですか?

道長:公任に聞いたのだ。面白い物語を書くおなごがおると。

倫子:へえ~・・・。

道長:帝は、そのおなごが書いた物をお気に召し、続きをご所望だ。

倫子:まあ(道長の方を向く)。

道長:藤壺にそのおなごを置いて先を書かせれば、帝も藤壺にお渡りになるやもしれぬ。

倫子:(身を乗り出して)名案ですわ、殿!さすが!

道長:そうか。倫子が良いなら、そういたそう。(倫子は喜び、道長に酒を注ぐ)これが最後の賭けだ。

倫子:はい。まひろさんのことは昔から存じておりますし、私もうれしゅうございます。(笑顔)

道長:うむ。

 これで道長は引き返せなくなった。今まで、まひろについては倫子様に「言わなかっただけ」で嘘はついていなかった。しかし、もうアウト。まひろとの仲については、倫子様の前では無かった事にするつもりなのだね。倫子様の笑顔は見たかったけれど、半ば騙された形では悲しいなあ・・・。

 しかし、じゃあ道長はどう言えば良かったのか。「うん、幼い頃からの知り合いなのだ」とでも?しかし、ただの知り合いじゃない、初恋相手だもの。道長はまだ知らないようだが、娘賢子まで儲けた仲なんだもの。

 結局、おとり作戦を遂行するには今、倫子様に真実を打ち明けられるはずもない。言ってしまえば話は壊れる。嘘をつくしかないのは理解できる。

 例の文箱の中のまひろからの漢詩、まだ取ってあったりするのかな・・・もし処分していても(道長がそうすると思えないが)、名探偵倫子様はしっかりと筆跡を記憶していそうだ。

 (これについては、「代筆したと抗弁すれば良い」との案をSNSで見た。なるほど・・・悪知恵が働くなあ、皆さん。)

 それに、倫子様は「私でも高松殿でもない、誰かがいる」と殿の第三の女の存在にも感付いていたが、彰子が入内しても放置される胸を痛める展開になって以来、それどころじゃなさそうだった。でも、一旦火が点けば、第三の女探しを徹底して始めるかも・・・。

 倫子様は、今のところ知らぬが仏。中宮彰子にご挨拶に上がって道長と目が合い、戸惑うまひろに、例の慈愛の笑顔を向けていた。娘の窮地を救ってくれる存在だと感謝しているんだね、きっと。ん~倫子様ファンとしては、何とも気の毒でたまらない。

 赤染衛門も何も知らずに「あんなに素晴らしい婿君と巡り会えた土御門の御方様は類まれなるご運の持ち主。羨ましゅうございます」と言い、まひろも「まことに」と応じたが、赤染衛門の夫のようにあちこちで子を作って呆れられている方が、最初から妻のショックは少なかろう。倫子様が後に味わうことになるかもしれない裏切りのショックは、殊の外大きそうだ。

 ああ、倫子様がまひろと道長のふたりの仲の真相を知るのはいつなのか。引っ張れば引っ張るほどコワイ。道長の寿命を十年奪うと安倍晴明が言ったのはこういうこと?光のまひろを出仕させれば、まひろと倫子様の直接衝突を見ることになりそうだと、鈍い道長だって分かるよね?こちらの寿命も多少奪われそうなんだけど。

 

道長のメンター・安倍晴明の死

 その晴明が命を終えた。中の人ユースケ・サンタマリアがNHKの「土スタ」に前日ご出演だったし、雨乞いのあとの衰えぶりから見ても、死は避けられないだろうと視聴者全員、予感はあったと思う。

 思えば、初々しい頃の道長から、長きに渡って見守ってきたのだ。彼には、このドラマでのホワイト道長の白い部分が、昔から見えていたという事だ。今作では少しひねたキャラの晴明なのかと思いもしたが、実は志を道長に投影して導いてきたようだった。

 死に瀕して、晴明は、馬を駆ってやってくる道長を待っていた。

安倍晴明:(褥に横たわっている。御簾の外では従者の須麻流が祈祷を上げている)お顔を拝見してから死のうと思い、お待ちしておりました。

道長:何を申しておる。思いの外、健やかそうではないか。(枕元に座る)

晴明:私は今宵、死にまする。ようやく光を手に入れられましたな。これで中宮様も盤石でございます。いずれあなた様の家からは、帝も皇后も関白も出られましょう。

道長:それほどまでに話さずとも良い。

晴明:お父上が成し得なかったことを、あなた様は成し遂げられます。

道長:幾たびも言うたが、父の真似をする気はない。

晴明:ただ一つ、光が強ければ闇も濃くなります。そのことだけはお忘れなく。

道長:(うんうん頷いて)わかった。

晴明:呪詛も祈祷も、人の心の在りようなのでございますよ。私が何もせずとも、人の心が勝手に震えるのでございます。(道長を見る)何も恐れることはありませぬ。思いのままにおやりなさいませ。(目を閉じる。合唱した須麻流の肩が震える。)

道長:(晴明に向き直る)長い間、世話になった。(深々と頭を下げる)

 この後、道長も去って暗くなった部屋で横たわったままの晴明は、目を開けたが、それはこの世を去った瞬間だったようだ。三日月と満天の星が輝く中、彼の瞳には流れ星でも映ったか。星は、彼の五芒星を連想させるね。

 その時には須麻流の祈祷も聞こえないし、彼は合掌したまま項垂れて動かない。寝てしまった訳ではあるまい。須麻流もまた、晴明と共に旅だったのかも。晴明が命を吹き込んだ、式神だったからだろうか。

 この世のものとも思えぬ力を持った人物として描かれた晴明。その彼に「光」としてまひろを手に入れるよう言われたのだし、これで彰子も盤石だとか、何も恐れることはない、思いのままにやれと言われたのだ。伊周が多少何かを画策してもへっちゃら、道長も心から安心できたのでは・・・倫子様VS.まひろの件も、つまりは良い着地をするのだろうか。・・・どんな?

 晴明の予言「あなた様の家からは、帝も皇后も関白も出られましょう」を聞いた時、道長は喜んだりもしなかった。なんて平静、確かにパパ兼家と違うね。晴明には何度も告げられてきたのだろうか?

 子どもの将来については、源氏物語で光源氏が似たようなことを占いで言われていたのを思い出した。「3人の子をなし、ひとりは帝、ひとりは中宮、真ん中の劣った者も太政大臣となる」と。冷泉帝、明石中宮、夕霧のことだ。ドラマでまひろが源氏物語を書き始めたことだし、また読み返したい。

女に生まれて良かった

 今回のドラマで、一番心が揺さぶられたのが、中宮の女房として出仕するまひろに対する為時パパの「贈る言葉」だった。

まひろ:(雪の降る年の瀬、家族を前に)では、行って参ります。

為時:うむ。帝にお認めいただき中宮様にお仕えするお前は、我が家の誇りである。

惟規:大袈裟ですねえ。俺、内記にいるから遊びに来なよ。

まひろ:中務省まで行ったりしてもいいのかしら?

惟規:待ってるよ。

まひろ:父上、賢子をよろしくお願いいたします。(いとに)頼みましたよ。

いと:お任せくださいませ!(賢子を抱き寄せる。まひろ、賢子を見るが賢子は目を逸らす)

為時:身の才のありったけを尽くして素晴らしい物語を書き、帝と中宮様のお役に立てるよう祈っておる。

惟規:大袈裟だな・・・。

まひろ:精一杯務めてまいります。

為時:お前が・・・おなごであって良かった。(涙を堪え、ほほ笑む。家族も、まひろも目を潤ませる)

 散々、優秀なまひろに「男であれば」と言い続けてきた為時パパ。まひろ自身も悩みの種だった。それが下敷きにあるからこそ、「おなごであって良かった」が生きた。

 そうだよ、中宮様の女房になるんだもの、女じゃないと成れないものね。しかも物書きとしての優秀さ、博識ぶりが帝のお目に留まったからであり、女でも見た目じゃなく中身で勝負して花開いたのだ。感慨深いよね。

 しかし、娘の賢子とはギクシャクしたまま。目を逸らすなんて・・・賢子。為時パパは、まひろを誇りとする娘に育てると約束してくれたけれども、前途多難か。

 為時パパが感動の別れの言葉を言うたびに、惟規が「大袈裟」だと繰り返して言っていたのは、次回で内裏からすぐに帰ってきちゃう伏線かな?(ネタバレ失礼)

 しかし、宮の宣旨を始め、あれだけズラリと並ばれると女房達の迫力たるや・・・どう頑張って泳ごうが圧倒されて水底に引きずり込まれそうだけれど、まひろ、健闘を祈るよ。内裏での生活も楽しみだ。

どこに出仕するの

 そういえば内裏は火事で焼けちゃったから(彰子の恋物語、ベタだけどかわいかったねえ)、今、一条帝はどこにおわします?まひろが上がることになる場所は何処?気になったので『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著)をチェックした。

 史実では、紫式部が何年に出仕したのかは不明、日付だけ12/29だと判明しているとか。内裏が焼けて彰子がキュンとなっていたのが寛弘二年(1005年)11/15で、その年か、翌年には出仕したと考えられるらしい。ドラマでは1005年説を採用したんだね、時代考証担当の先生は翌年説だけど。

 となると、ドラマ的には火災後の慌ただしい頃の出仕とすれば、道長の焦りも浮き彫りになるというものだ。

 整理すると、紫式部出仕の場所は、焼けてしまった平安宮内裏でなく、11/27に帝と彰子が遷御した東三条第内裏ということになる。翌年の3/4には道長の一条院へと帝と彰子はまた遷御するというから、仕える彰子とセットでどんどん道長に近づいていくまひろを想像してしまう。

 倫子様の目の届くところでも、まひろ道長の恋は続くのだろうか?うーむ。

(ほぼ敬称略)