黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

【光る君へ】#31 天からまひろへと降り注ぎ始めた「源氏物語」、モデルの皆様の反発は心配なれど、あとは書くだけ

丁寧に描かれた「源氏」誕生ストーリー

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第31回「月の下で」は8/18に放送された。道長がまひろを訪ねてきたところで再度の1週飛ばし・・・待ってました。さっそくあらすじを公式サイトから引用する。

(31)月の下で

初回放送日:2024年8月18日

ある日突然、道長(柄本佑)がまひろ(吉高由里子)を訪ねてくる。道長はまひろに、一条天皇(塩野瑛久)に入内するも、相手にされず寂しく暮らす娘・彰子(見上愛)を慰めるために物語を書いてほしいと頼み込む。しかし、真の目的は…。一方、宮中では年下の斉信(金田哲)に出世で先をこされた公任(町田啓太)が参内しなくなってしまった。事態を案じた斉信が公任の屋敷を訪ねてみると、思いがけない人物と遭遇する。((31)月の下で - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 ドラマは、なぜ「カササギ語り」を賢子の手で残らず燃やしてしまったか。読みたかったのに~!と道長同様こちらも勿体ない思いがしたが、紫式部が書いてない物を残せないもんね、仕方なかった。

 そして、道長の懇願によって、まひろが「中宮様の御為」に書いたのがいわゆる帚木三帖(帚木三帖 - Wikipedia)という設定なのだろうか。それとも、全く違う物語?

 いずれにしても、その後、源氏物語をまひろが書き始めるまでのプロセスが今回は丁寧に描かれた。それが、たぶん脚本家大石静ご自身の物語を書く手法にも通じていただろうかと想像すると、とても興味深かった。

①まひろ、道長から中宮様のために物語を頼まれる

 まず、道長がこっそりまひろを訪ね、長女・中宮彰子を慰める物語執筆を依頼した。道長は娘を思うパパの気持ち全開で、まひろが引くくらい、しつこいくらいに頼んでいる。

道長:四条宮で和歌を教えているそうだな。

まひろ:はい。なぜそれを・・・。

道長:公任に聞いた。学びの会の後、お前が語る「カササギ語り」という話が大層な評判で、公任の北の方も女房達も夢中になっておるというではないか。その物語を、俺にも読ませてくれぬか?

まひろ:そのために、わざわざここへいらしたのでございますか?

道長:そうだ。

まひろ:そのようなお姿で・・・。

道長:ん?ああ。(身をやつした地味な狩衣姿)枕草子よりずっと面白いと聞いたゆえ。

まひろ:どうでしょう。

道長:もし面白ければ、写させて中宮様に献上したいと思っておる。

まひろ:・・・申し訳なきことながら、「カササギ語り」は燃えてしまってもう無いのでございます。

道長:燃えた?

まひろ:燭を倒してしまい、残らず・・・。

道長:・・・その話は偽りであろう?

まひろ:偽りではありませぬ。床に炎の後もありますゆえ。(黒くなった床)

道長:ああ・・・すまぬ。疑ったことは許せ。

まひろ:無念でゆうべは眠れませんでした。

道長:それは気の毒であった。それをもう一度思い出して書くことはできぬのか?

まひろ:そういう気持ちにはなれませぬ。燃えたという事は、残すほどの物ではなかったと思いますので。

道長:ならば・・・(まひろの横に座って、目を見据えて)中宮様のために新しい物語を書いてくれぬか?(まひろ、無言で目を逸らす)帝のお渡りもお召しも無く・・・(まひろ、驚いて道長を見る)寂しく暮らしておられる中宮様をお慰めしたいのだ。政のために入内させた娘とはいえ、親として捨て置けぬ。

まひろ:・・・道長様のお役に立ちたいとは存じます。されど・・・。

道長:されど、何だ?

まひろ:そうやすやすと、新しいものは書けませぬ

道長:お前には才がある。やろうと思えばできるはずだ。

まひろ:買いかぶりにございます

道長:俺に力を貸してくれ。(まひろ、視線を逸らしたまま)また参る。どうか考えてみてくれ。(まひろ、無言)邪魔を致した。(振り返り、まひろを見て去っていく。まひろ、目を逸らす)

 こちらは後の世の人間だから、大作家紫式部先生となるまひろが書けることは知っている。だから、自分の娘のために必死で頼んでいる道長を見て「もったいぶらずに書いてあげちゃいなよ」と、まひろに対してつい思ってしまうが、今の、まだ大先生ではない彼女には、ハードルが高く見えるのも分かる。

 「カササギ語り」は、締め切りがあって絶対書かねば!という環境下で書いていた訳でも無さそうだ。たぶん、物語がまひろの頭に湧いた時に楽しんで書いて、四条宮で披露していた程度だったのでは?

 なら、いきなり「中宮様に献上するから書いて」と言われたらビビってしまうよね。失敗は許されない。愛する道長の、自分への信頼もかかってくる。

 ここが、趣味で書くのか、仕事として書くかの境目ということか?編集者道長に「お前には才がある」と言われて「買いかぶりにございます」と答えるのも、ただ謙遜ではないだろう。本当にまだ自信が持てないから、帰る道長の声かけにも無言だし、目も逸らしていたのだろうね。

 もちろん、まひろはここでは終わらない。

②まひろ、リサーチを開始

 ほぼ断ったような状態であっても、まひろには物語を書きたい気持ちはしっかりあったようだ。他ならぬ道長に頼まれたのだ。気の毒な彰子のためにも、力になりたいと思っただろう。

 そういう外圧に加えて、元々内部的にも書きたい欲もある人だし。

 まひろは四条宮の学びの会の後、早速あかね(後の和泉式部)に話しかけた。リサーチ開始だ。

まひろ:枕草子をどのようにお読みになったのか、いま一度お聞かせくださいませんか?

あかね:何か言ったかしら私。覚えてないわ。覚えてないけど、あまり惹かれなかった。

まひろ:それは何故でございますか?

あかね:なまめかしさが無いもの。(妖艶な物腰)枕草子は気が利いてはいるけれど、人肌の温もりが無いでしょ。(まひろ、感心する)だから胸に食い込んでこないのよ。巧みだな~と思うだけで。

「黒髪の 乱れも知らず うち伏せば まづ掻きやりし 人ぞ恋しき」

フフフ。

 まひろは、あかねに人気作・枕草子を拝借して読んだ。前回、親王様から頂いたとあかねが自慢していたものだ。

 以前、作者のききょう(清少納言)が持参してきて軽く目を通した時とは、今回の読み方の姿勢が全然違って前のめり。詳細に分析しながら、明け方まで時も忘れて一気に読み込んでいる様子だった。頭をフル回転させながら、集中して読んだのだろう。

 弟の惟規とも、干し魚をつまみに酒を飲みながら対話した。

まひろ:惟規。惟規の自分らしさって何だと思う?

惟規:はあ?

まひろ:答えてよ。

惟規:やなことがあっても、すぐに忘れて生きてるところかな。

まひろ:そうね。

惟規:どうしたの?

まひろ:じゃあ、私らしさって何?

惟規:え~、難しいな。

まひろ:うん、私って難しいと思う、私も。

惟規:いや、そういう意味じゃなくて・・・

まひろ:もっと言って。人と話していると分かることもあるから。色々言って。

惟規:そういうことを、グダグダ考えるところが姉上らしいよ。そういうややこしいところ。根が暗くて、鬱陶しいところ。

まひろ:根が暗くて鬱陶しい・・・(心ここに在らずで考え始めている)。

惟規:怒るなよ、自分で聞いたんだから。色々言ってって言ったんだから。(まひろ、急に立ち上がり、去る)怒るなって言ったでしょ!

 惟規、そうじゃないんだってば。あの目つき、まひろは明らかに何か思いついた。忘れてしまう前にさらに考えを深めたいか、メモしたくて立ち去ったっぽかった。

 早くメモらないと、幻のように消えてしまうこともあるから一刻も早く・・・💦そんな感じの目だった。

 人と話をしていると、頭の中は整理される。自分の発言についても「そう言ってしまうんだ」という驚きがある。断片的に頭の中をバラバラに泳いでいたものが、言わんばかりの良い形でまとまっていく。こうなったら、後は忘れないうちに頭の中にある物を紙の上に書きだすだけだ。

 それは、まひろも(そして脚本家殿も)同じみたいだね。

③まひろ、道長に紙をねだり物語を書く

 そして、まひろは道長に紙を無心した。他の「左大臣殿」と書かれたたくさんの文とは異なり、表書きの無い、小ぶりな文が道長の執務部屋には届いていた。それを道長は、始めにちゃーんとピックアップして読んだ。分かるんだね。

まひろの手紙:中宮様をお慰めするための物語、書いてみようと存じます。ついては相応しい紙を賜りたくお願い申し上げます。

 そして道長は、上等な越前紙をまひろ宅に自ら届けにきた。いとや乙丸が呆気にとられる中、百舌彦ら従者が、ブルーの布に包まれた紙の束を次々に縁に積み上げていく。その包みの1つを解いた道長が、まひろに言った。

道長:お前が好んだ越前の紙だ。(1枚、まひろに渡す)「越前には美しい紙がある。私もいつかあんな美しい紙に歌や物語を書いてみたい」と申したであろう、宋の言葉で。

まひろ:ああ・・・誠に良い紙を、ありがとうございます。中宮様をお慰めできるよう、精一杯面白いものを書きたいと存じます。

道長:俺の願いを初めて聞いてくれたな。

まひろ:まだ書き始めてもおりませぬ。(微笑みあう2人)

 まひろの言葉を1つも漏らさずに憶えているんだろうか、道長は。愛だなあ。それで越前紙を持ってきた。怖いくらい嬉しいことだよね。

④道長の嘘がバレる➡再度リサーチへ

 道長に上質な紙を貰ったまひろは、一心に頭の中の物語を形にし始めた。合間に紙を撫でて微笑み、嬉しそうだ。

 さっそく書き上げた作品を、道長が読みに来た。縁に座ったまひろが横眼で道長を眺める中、道長はハハハと笑って読み、「良いではないか」と言った。

 「どこが良いのでございますか?」と聞くまひろ。作品に対して貪欲だな。依頼人の生半可な反応では満足しないらしい。さすがだ。

 そして、会話の中で道長の嘘がバレていった。

道長:え?ああ、飽きずに楽しく読めた。

まひろ:楽しいだけでございますよね。まことにこれで中宮様をお慰めできますでしょうか。

道長:書き上がったから俺を呼んだのではないのか。

まひろ:そうなのでございますが、お笑いくださる道長様を拝見していて何か違う気がいたしました。

道長:何を言っておるのか分からぬ。これで十分面白い。明るくて良い。

まひろ:中宮様も、そうお思いになるでしょうか・・・中宮様がお読みになるのですよね?

道長:(目を泳がせて)うん。

まひろ:もしや道長様、偽りを仰せでございますか?中宮様と申し上げると、お目が虚ろになります。・・・正直な御方。

道長:お前には敵わぬな。

まひろ:やはり。

道長:実は、これは帝に献上したいと思うておった。枕草子にとらわれるあまり、亡き皇后様から解き放たれぬ帝に、枕草子を超える書物を献上し、こちらにお目を向けていただきたかったのだ。されど、それを申せばお前は「私を政の道具にするのか」と怒ったであろう?

まひろ:それは・・・怒ったやもしれませぬ。

道長:故に偽りを申したのだ。すまなかった。(作品をまひろに返す)

まひろ:・・・帝がお読みになる物を書いてみとうございます

道長:えっ・・・これを、帝にお渡しして良いのか?

まひろ:いえ、これとは違うものを書きまする。帝のことをお教えくださいませ。道長様が間近にご覧になった帝のお姿を、何でもよろしゅうございます。お話しくださいませ。帝のお人柄、若き日のこと、女院様とのこと、皇后様とのことなどお聞きしとうございます

道長:ああ、話しても良いが、ああ、どこから話せばよいか・・・。

まひろ:どこからでもよろしゅうございます。思いつくままに、帝の生身のお姿を。

道長:生身のお姿か・・・。

まひろ:家の者たちは私の邪魔をせぬようにと宇治に出かけております。時はいくらでもありますゆえ。

道長:わかった。

 この後、いつも心湧きたつあのBGMが流れて(”Primaveraー花降る日”というタイトルらしい)、道長が様々な帝のご様子をまひろに語っていった。

 まひろは食い入るような眼で、どんどん道長から「人間・帝」の話を聞きだしていく。それにつれて道長は、帝のことだけでなく「俺もどうしたらよいか分からなかったのだ」「帝の御事を語るつもりが、我が家の恥をさらしてしまった」等と、自分側にも話が及んだ。

 これが面白くない訳が無い。ベールに包まれた国のトップの帝と、その周りの人々について、現在政のトップに立つ道長から話が聞けるのだから。想像するだけでワクワクしてしまう。この話を一緒に聞きたい人たちは、五万といるだろう。聞く側も時を忘れる、相当面白いリサーチになったはずだ。私もその場にいたかった。

 まひろは「帝もまた人でおわすという事ですね」「帝の御乱心も、人でおわすから」「道長様がご存じないところで帝もお苦しみだったと思います」「帝も道長様も皆、お苦しいのですね」「人とは何なのでございましょうか」と言った。

 人であるからこその苦しみという、影を描かない枕草子には無い視点に立った物語が、まひろの頭の中で生成されていく。

⑤まひろ、ブレインストーミングを経て執筆開始

 深夜までまひろに帝について語り、道長は、ふたりで月を見上げた。まひろは「人は何故、月を見上げるのでしょう」と問い、道長は「なぜであろうな」等と返したところ、まひろがこう言い出した。

まひろ:かぐや姫は月に帰っていきましたけど、もしかしたら月にも人がいてこちらを見ているのやもしれませぬ。それゆえ、こちらも見上げたくなるのやも。

道長:相変わらず、お前はおかしなことを申す。

まひろ:「おかしき事こそ、めでたけれ」にございます。直秀が言っておりました。

道長:(直秀の名に虚を突かれたよう。月を見上げて)・・・直秀も、月におるやもしれぬな。誰かが・・・誰かが今、俺が見ている月を一緒に見ていると願いながら、俺は月を見上げてきた。皆、そういう思いで月を見上げているのやもしれぬな。

(まひろ、月明かりに照らされた道長の横顔を見つめ、2人で満月を見上げる。道長が、まひろを見つめ、ふいに2人の目が合う。しかしまひろの視線に押されたか、何か諦めたような道長)もう、帰らねば・・・。(無言でお辞儀をし、見送るまひろ)

 「誰か」は、当然まひろだね。目が合った時、これまでなら恋人同士として抱き合う場面だったのではないか。そんな視線を一瞬、道長はまひろに投げた。しかし、小さく笑って止めたようだった。

 書く気に溢れているまひろの作家オーラを見て取り、今夜はおとなしく帰ろうと思ったのかな。まひろの興奮した脳内では、既にカチャカチャと何か作動し始めており、壮大なブレインストーミングが始まっているはず。作家まひろのために、道長は帰って正解だ。

 翌日だろう。まひろは紙に帝、中宮、女御、親王、皇太后、女院死と書きだし、縁をウロウロ。いとが心配して為時パパに「お方様はどうにかなってしまわれたのでしょうか」と聞くほど集中して考えているようだ。

 もちろん、為時パパは「左大臣様の頼みに応えようとしておるのだろう。放っておいてやろう」と言った。娘のことが分かっている。

⑥物語が降ってくる、その時が来た

 まひろはとうとう文机に紙を置き、筆を執った。産みの苦しみを経て、頭の中には天から降って来た物語が溢れている。もう、それを文字にしていくだけの作業があるだけだ。どんどん溢れてくるから、もどかしいくらいだろう。

 映像では、まひろの上に文字の書かれた色とりどりの紙がとめどなく降ってくるのだ。これがまた感動的。枕草子の「春はあけぼの」の映像化にも舌を巻いたが、「源氏物語」が生まれる瞬間も美しくて、ああ、とうとうその時が来たかと涙が流れた。

 最初の一文字目が「い」とくれば、源氏物語の「いづれの御時にか」が続くはず。あの物語の誕生だ。

モデルの帝は

 一読した道長は「これは・・・かえって帝の御機嫌を損ねるのではなかろうか」と心配した。

 まひろは「これが私の精一杯にございます。これでダメなら、この仕事はここまででございます。どうか、帝に奉ってくださいませ」と頭を下げた。悩む道長は、結局、一条帝にまひろが書いた物語を奉り、帝は読み始めた。

 これまで私は源氏物語だけを読んで楽しみ、このドラマを見るまで、ここまでこの時代の宮廷の様子に肉薄して反映したものだとまで考えたことが無かったが、ドラマを見てみると、なるほど源氏物語には当時の人たちがモデルとしてあちこちに散りばめられている。

 「桐壺」など、一条帝と皇后定子の物語だと、当時の誰もが思うだろう。道長じゃなくても、私だって、うーむと悩みたくなる。三島由紀夫の「宴のあと」、柳美里の「石に泳ぐ魚」を思い浮かべた人も少なくないのでは。

 もしその能力が私にあったなら、という前提の下だけれど、私の知る人にも小説に書けたら絶対に面白いよね、という人生を送っている人たちが数人いる。事実は小説よりも奇なり、を地で行っている。

 でも、多少の設定変更をしたとしても絶対にその人だと分かってしまうから、その人をモデルに書くことなんかできないよな・・・と思う。その人が亡くなってから?いや、ご家族は生きている訳だし、反発は必至だ。

 紫式部は身分制の厳しい時代に生きていた訳で、不敬にもならずに一条帝をモデルに源氏物語を書けたということは、やはり、帝でさえ一歩譲るような権力者藤原道長の絶対的なバックアップがあったからなんだろう。

 『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著)によれば、当時では相当高価な紙に書かれている点を考えても、入手できるパトロンがいないと書けないみたいだ。「蜻蛉日記」の藤原道綱の母には兼家パパがいたし、和泉式部には親王様たちがいた。だから紙を入手できて、それで書けたのよね?そう考えると、貧乏貴族のまひろの家では道長抜きでは無理な話だったね。

 まひろが書き始める動機付けは、このドラマの設定は自然だと思った。タイトルも、「枕草子」に囚われている一条帝をターゲットに書くから「源氏物語」なのだね、ターゲットは道長じゃなかった。なぜ「藤原物語」じゃないのか、長年の疑問が解けた思いがする。納得だ。

 一条帝に「亡き皇后定子との間に生まれた親王には、光源氏のように臣籍降下させるべき」との考えを刷り込めれば、道長にとっては万々歳。実際はそうならなかったものの、当時の人々にはそう映ったのではないだろうか。

いじらしい彰子、切ない倫子様、怖いマウンティング明子

 目を転じると、今回も瓢箪に絵を描く中宮彰子がいじらしかった。以前、敦康親王が一条帝と楽し気に瓢箪に絵を描く姿をじっと見ていたもんね。それで、またの機会が来たら、その時こそ親王を楽しませたいと思っているのだろう。

 その、人を良く見ている彰子が「父上と母上は、どうかなさったのでございますか?」と、とうとう道長に聞いてきた。道長は「ご心配頂くようなことはございませぬ」と応じたが、嫡妻倫子様とは土御門殿ですれ違うばかり。孤軍奮闘の倫子様がひたすら気の毒な状況になっている。

 道長は、まひろとの娘・賢子を(自分の娘と知らず)膝に乗せてこの上ない笑顔を向けていたが、その笑顔を倫子様にも向けてあげてほしいものだ。

 ちなみに高松殿の明子は通常運転と言うか・・・相変わらずのランキングさん、マウンティングを止めない。一方的に炎を燃やし続け、一緒に居て疲れる人だ。その明子に、珍しく道長が本音を言った。

高松殿明子:殿。土御門殿の頼道様は、元服の折に正五位下におなり遊ばしたのでございますよね。

道長:うん。

明子:我が家の巌と苔もまもなく元服でございます。

道長:ああ、月日の経つのは早いものだな。

明子:我が子にも、頼道様に負けない地位をお与えくださいませ。私は醍醐天皇の孫。北の方様は宇多天皇の御ひ孫。北の方様と私は、ただの嫡妻と妾とは違う事、殿とてお分かりでございましょう。

道長:・・・倫子の家には世話になった。土御門殿には財もある。それがどれほど私を後押ししてくれたか分からぬ

明子:(背を向け、声音が低くなる)私には血筋以外に何も無いと仰せなのでございますか?

道長:そうではない。それが全てではないと言うたのだ。・・・内裏で子ども同士が競い合うようなことも無いようにせねばならぬ。明子が争う姿を見せれば、息子たちもそういう気持ちになってしまう。気を付けよ。

明子:(道長の手を退け、そっぽを向く。褥を出る道長。慌てて道長を捕まえる)お許しくださいませ。お帰りにならないで。

道長:(手を外す)放せ。また参るゆえ。

明子:殿・・・。

ナレーション:以来、道長は土御門殿にも高松殿にも帰らず、内裏に泊まる日が多くなった。

 疲れるよなあ、道長。明子については「争う姿」しか見てない気がする。呪詛する姿もか・・・息子や娘たちも「負けるな負けるな」と急き立てる、コワーイお母さんしかきっと見てないのでは。明子の作戦失敗だ。

 道長は、まひろにしか本音を晒せない様子だけれど、やっぱり個人的には倫子様が気の毒。倫子様のすれ違った後の切ない表情を見ているだけで「ああ・・・何も悪くないのに😢」と思うよね。

 できれば道長は、倫子様と早いところ互いに信頼関係を取り戻してほしいものだが・・・道長の心をガッチリつかんでしまった、まひろが存在する限りダメそうだ。主人公はまひろ、そしてまひろが書く「源氏物語」だしね。

(ほぼ敬称略)