黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

1年前の7月、愛猫に扁平上皮癌が見つかった⑦

 紅豆杉というもの

 手術をしても、リンパ節も切除せず、dirtyと疑いのある細胞も残ってしまっているということは、つまりは再発は必至だと言われたも同然だった。

 むしろ、手術やそれ以前のバイオプシーによって、体力をかなり消耗している高齢猫。ここに至っては近づく未来を大きくは変え難いとはいえ、ちょっとでも息子の死を遠ざたい。

 そのためには、何かを考えなければ…。藁をもつかみたい心境だった。

 まだ息子を入院させる前の7月下旬。息子クロスケを連れて獣医から帰宅するタクシーで、運転手さんから聞いたことのないお茶の話を聞いた。息子の病状をちょっと話したから、同情してくれたらしかった。

 なんでも、運転手さんは膀胱癌を数年前に患って、今も再発していない。そして、何度目かの再発しているかどうか確認する検査結果が、また数日で出るそうだった。

 癌を発病したころは、周りが心配してアガリクス冬虫夏草やら、マクロビの食事療法など、様々なものを勧めてくださったそうだ。色々試して、これだ!と今も継続して摂取していると言うのが「紅豆杉」というお茶とサプリメントの錠剤だという。

 その他は全部止めて、体調が悪くなるからと抗癌剤も止めてしまったそうだ。驚いた。(え、抗癌剤も止めて大丈夫なんですか?)の質問は、聞かずに飲みこんだ。

 「聞いたことないですか?新聞にも、抗癌剤の原料になっているって載っていて、乱獲なんかもあったみたいですよ」と運転手さんは言うが、いやー、聞いたことない…。「コウトウスギってどんな字を書くんですか?」と伺ったところ「紅、マメ、杉の木の杉」、ちなみに紅ではなく白と書いて白豆杉ということもあると教えてくれた。

 帰宅してしばらく忘れていたが、ハッと思い出してネットで調べた。

 確かに、生息する中国高地での乱獲の記事や、国内で販売している紅豆杉サプリメントのパンフレットなども出てきた。ふーん、サプリメント…た、高い!通常、自分の為だったら手が出ない金額だ。

 しかし、抗酸化作用が強く、広く使われている抗癌剤タキソールの原材料であること、癌の細胞分裂を阻害してアポトーシスさせるらしいこと、それが「ネイチャー」にも載ったとか、200余の医療機関でも使われ関連学会での使用実績の発表もあるとか…。

 そういったものを見ると、「私が知らなかっただけで信憑性がありそう」と考えるようになり、副作用もないのならちょっと聞いてみよう、との結論に至った。

 サプリメント製造販売の相談窓口に電話をしたのは、クロスケが入院した翌日、7月26日だった。

 ご説明によると、癌治療の場合は、人間の大人だと「錠剤は毎日18錠、お茶は紅豆杉の木片2g入りのティーパック7袋半を毎日煎じた1~2リットルを飲む」とのことだった。でも、私が知りたいのは動物、特に猫に与えた場合だ。

 窓口が「詳細はこちらへ」と丁寧にご案内くださったので、今度は岐阜大学の「紅豆杉研究室」に電話を入れた。

 「口腔癌なんですが」と切り出し、「実は猫なんです」と言ったところで反応が心配だったが(ヒトのための研究をしている場所なのだから、仕方ない…)、ちょっと「え」という間はあったものの、研究者らしき人物が真面目に答えてくださった。

 動物実験の段階で投与した癌の犬の場合は、毎日体重1㎏あたり1錠を与えて、数か月で良好な結果を得て、治癒したのだとか。癌の種類にもよるだろう、しかも犬だし…とは思ったが、希望が持てる。猫のクロスケの場合、当時は3~4㎏の体重があったので、「日に3~4錠を与えてみて」とのことだった。

 「お茶は苦くて飲まないでしょう」と言われたが、現在は首横に開けたカテーテルで胃に流動食や薬を注入できると伝えたら、「それなら」と、お茶は1パックを煎じた500㏄を与えるか、もしくは「できるだけ与える水分全てを紅豆杉茶で置き換えてほしい」とのことだった。そして「お大事に」と言ってくれた。

 後から考えてみると、お茶はクロスケの力にかなりなっていたようだった。

 その日の26日夕から息子との面会の際に煎じた紅豆杉茶500㏄を持ち込み、看護師さんに「ご飯を溶くとか水を使う場面で、できる範囲でいいから与えてほしい」とお渡しした。看護師さんたちも、たくさん飲ませてくださって、助かった。

 錠剤の方も、翌27日からS先生にお渡しして飲ませるようにお願いし、すりつぶしてごはんと一緒に与えていただいたが…後から、猫の場合は錠剤に使われているキシリトールが良くなかった(ヒトだと問題ない)と代替医療の獣医の指摘で分かったので、もし読んでいる方で錠剤の紅豆杉を猫に与えようと考えた場合は、安心なお茶の方にしてくださいませ。

 ということで、dirty細胞が残っていようが、紅豆杉茶で殲滅だ!再発を抑えてしまえば治るよね!と希望を捨てずに頑張ろう、頑張れると思った。

 8月7日、無事に退院を迎えた日のことだった。まわりのスタッフさんに頭を下げてお礼を言っていたら、直接の担当ではない獣医さんの一人が声をかけてきた。「正直、クロスケちゃんは助からないかもと思っていたんです。それが生きて退院できるとは…クロスケちゃんの体力はすごいです。本当に良かったですね。」

 おかげさまで…と言いながら、そうよね、これって紅豆杉茶のおかげもあるかな、あのタクシー運転手さんは神様だったかな、と思った。