黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

【どうする家康】#18 夏目広次=吉信、コンフィデンスマンJP的脚本の妙

家康討ち死の報に悲喜こもごも

 NHK大河ドラマ「どうする家康」の第18回「真・三方ヶ原合戦」を5/14、涙して見た。タイトルは流行りの「シン」ではなく「真」が付いての三方ヶ原合戦で、脂の乗り切った中年(失礼)俳優のおふたり(甲本雅裕&波岡一喜)が花道を飾る回。まんまと泣かされた。

 そりゃ、「カムカムエヴリバディ」の橘金太と、「青天を衝け」の川村様だもの、泣かされるのは分かっていた。そういえば、印象に残っていたのはどちらも雨にぐっしょり打たれての演技だ。それを思い出して、ついついそっちの役名を呼んでしまったりしてね。

 まずは18回のあらすじを公式サイトから引用させていただく。

金陀美具足の遺体が信玄(阿部寛)のもとに届けられると、家康(松本潤)討死の知らせは全国に広まった。瀬名(有村架純)は動転しつつも、籠城戦への備えを家中に伝え、信長(岡田准一)は武田との決戦を覚悟する。勝頼(眞栄田郷敦)たちは浜松城に攻め込むが、酒井忠次(大森南朋)の機転で徳川軍は難を逃れた。浜松を後にして西に兵を進めた信玄だが、体の異変に襲われていた。そんな中、徳川家臣団の前にある男が現れる。(これまでのあらすじ | 大河ドラマ「どうする家康」 - NHK

 「そんな中、徳川家臣団の前にある男が現れる」とは、また意味深な書き方。このあらすじでは家康の動向はネタバレできないとばかりに、極力触れないように書きたいらしい。だから「家康の前に」と書かずに「徳川家臣団の前に」とわざわざ書いている。涙ぐましい。

 前回にも書いたが、徳川家康がこの時点で生存していることは後世の我々には全国的にほぼ周知の事実だ。そうなると、そんなに頑張って歴史上のネタバレを避けようと努めても、無駄な努力だと思うんだけどなあ。

 さて。今回はオープニングのタイトルバックが一新された。これまで白地にパステル調の若々しい明るいデザインだったが、金・赤・黒が目につく絢爛豪華?な感じになった。家康も30代、そろそろ重々しさを加味していこうとなったのか。ちょっと「功名が辻」のタイトルバックを思い出す。

 オープニング始めのミニアニメでは、その回の象徴的なものが毎回描かれるが、今回は家康所有の金陀美具足の兜が、脆くも蒸発するように空中に運ばれ消えていった。前回終わりで金陀美具足姿の遺体が武田兵によって荷車で運ばれて行き、兜首は槍先にぶら下げられていたから、金陀美具足の命運は知れている。タイトルバック終りの方で大映しになる金陀美具足はこのままなのかなあ。

 オープニング開けは前回終わりの続きで、井伊直政(まだ虎松)が武田軍の鬨の声を聞き、「討ち取ってやったわ」「やりましたのう」という武田兵の会話を信じられないといった顔で聞く姿が映し出されたが、別に虎松についてはそれ以上掘り下げられることはなかった。なんだー、せっかく三方ヶ原の先の祝田が地元なのに残念。それこそ地の利を生かし、武田の陣中に忍び込んでいく等々と想像していたのに。

 次に描かれたのは岡崎城中の狼狽ぶり。(たぶん)家康討ち死の報を受けて「まことなのか」と平岩親吉を突き飛ばす瀬名、これは前回既に見た。ここで戦国のおなごらしく「虚説に惑わされず、子細を見極めなされ」と息子にカツを入れるのが良かった。

 続いて虚空を眺めていたのが信長。「一心同体」の愛する家康が、あっという間に信玄に敗死したとの報せはかなりショックだっただろう。もっと援軍を増やすべきだったかと後悔したかどうか・・・ショックが怒りとなって後の水野信元への処分に向かうのかな。

 その信長が受けるであろうダメージの大きさを、抜かりなく想像して駆けつけたのが藤吉郎か。情報が速い。「やはり、桶狭間など二度は起きぬか」と神妙な信長、そりゃそうですよー。

 「武田信玄が松平家康を打ち倒したか!」と大喜びしたのが足利義昭。「松平」とまだ言ってる執念深さ。明智光秀は義昭から心が離れている感じがアリアリだ。中の人、いい表情するなあ。それに気づかない義昭。

足利義昭:さすがは信玄入道。見事見事。明智、そなたももう信長の所には行かなくていいぞ。あいつはもう用無しだ。これからは信玄じゃ。

明智光秀:信長様と信玄入道がぶつかってどちらが勝つかは・・・。

義昭:目に見えておる!唯一の味方である松平が滅んだ。ヤツはもう終わりじゃ!

光秀:上様。まだ分かりませぬ。徳川が滅んだのかどうかは。

義昭:(うるさそうに)家康はもう死んだんじゃろう?

 この時、義昭は寝間に女性を待たせていたようで、光秀の話を面倒くさそうに早々に切り上げたがっていた。これが「麒麟がくる」だったら御簾の奥にいるのは駒ちゃんということになりそうだが・・・今作の義昭様だと、やっぱり駒ちゃんは絶対に逃げるな。

 意外だったのが光秀の描き方で、今回、ちょっと人間的だった。今作の光秀は打算だけで動く人物ではなさそうだ。いずれ光秀は義昭を見限って信長の下に行くと当然分かっているにしても、単にどちらが得か天秤にかけた結果ではなく、信長の、ある意味真面目さに心を動かされて信長側に付くような雰囲気が感じられるが、気のせいか。

 「麒麟がくる」では光秀に片思いだったサイコパス信長だが、もしかしたら今作では光秀の方が信長に片思いする展開だったりするのかな?まあ、妄想だ。恋愛感情の場合もあれば、人間的に惚れこむ場合もあるだろう。どちらでもいい。

 それで、光秀が家康の接待を失敗したとして激怒する信長の姿に、改めて可愛さ余って憎さ百倍の炎が燃え上がっての本能寺、なんてことはないか?光秀にも注目したい。

阿部信玄は残念なチョイスを重ねる

 これはもう「そうしないと歴史に反するからどうしようもないのだ」とご本人にも言われそうだけれど、ドラマではここまでラスボス感満載の完璧信玄なのに、ここからの信玄は、武田ファンや山梨側の人から見たら、きっと「流石に見えて実は残念」だらけのチョイスばかりする。ああ。

 こうやって運は手をすり抜けていくんだな。逆に言えば、家康がそうやって運を手繰り寄せていく。それをドラマとして自然に見せていると思う。

 「家康の首」が運ばれてきた際、家康とはいつだったか山中でこっそり会った信玄が見ればすぐに他人の首と分かる訳だが、敬意の見られる扱いで陣中に安置するのは流石だ。これは良い。

 だが、浜松城の「空城の計」を見破ったのなら、「故事を学んでいるのは結構」とか余裕を見せていないで、勝頼(腹からしっかり声が出ていて誠にカッコイイ)の言う通り浜松城は片付けておかないと!と武田ファンは悔しがったのでは。勝頼の代にタスクを残したばかりに、息子は酷い目に遭うのだよ、信玄!

 今は些細な事と思うなら、些細なうちにやっておきましょう、それが教訓か。

 そもそも、今作の信玄は腹部に痛みの自覚がある。それで「時が惜しいのじゃ」なんて言っちゃって浜松を見逃した。徳川を「立ち上がれぬほどに叩いた。もう十分」との評価は、しかし間違っていたね。日本史を左右するほどの、大きな間違いだったよ信玄。

 時が惜しい信玄は、勝頼のために織田信長を討ち果たしておきたかったのだろう。それはわかる。でもね、だったらもっと早く立ち上がっておけたら良かったね。浅井長政が裏切ったあたりで長政と信玄が力を合わせていたらどうだったのだろう。

 でもそれを言い出したら、もっと前に「上杉謙信との争いは不毛だから、とっとと手を打っておくれ」と言いたいところかな、武田ファンの方々は。

 本当にもったいない御仁だ、信玄は。

 家族には昔からしつこく言ってうるさがられているのだが、「信玄の死は織田や徳川の忍びにやられた」という説は無いのだろうか。だって、両陣営にとって、あまりにも都合のいい時期に死んでくれている。こんなことあるか、と皆が思う時期だ。

 直接的に襲われて死ぬ以外でも、例えば毒殺。即効性がなくても遅効性があるとか、少しずつ与えてれば効果を示す毒だって当時はあったのではないか?それで癪が起きるってことで。

 それに、最近聞いた話では、信玄はかなりの期間「徳川家康は、織田信長配下の国衆だ」と誤解していたというではないか。こうなると、武田忍びの情報収集能力にも疑義が浮かぶ。武田忍び、失礼ながら、言われるほどじゃなかったのでは?

 片や、織田方は、桶狭間の戦いでの今川義元の本陣の位置情報をきっちり取って来た梁田政綱が、戦後一番に表彰されたとか。それが本当ならば、信玄が西進を始めたあの状況下、織田の忍び達は、第一の仕事として信玄の位置情報を捉え、できれば暗殺することに邁進していたのではないだろうか。

 今後、こういった資料が出てこないかなー。忍びの研究が昨今特に日進月歩の勢いで進んでいるらしいから、そんな話が出てくるのを待っている。

青春ドラマのような甥と叔父の「好きなんじゃろうがー!」

 今回のドラマでは、時が半日遡った。逆回し的映像ってどこかで見た。全部見たわけではないが、そう、同じ脚本家の「コンフィデンスマンJP」で、ダー子がオサカナに仕掛けをする時点まで映像が遡って謎が明かされていた。毎回、見て「やられたー」と思う。その方式で、今回は三方ヶ原合戦の真実が明かされた。

 まずは本多忠勝の叔父、本多忠真の死に様だ。榊原康政と甥の本多忠勝の危ない所を絶妙に矢を射て助け、間髪置かず槍を振るって敵を撃退。足手まといだから残れ、なんて忠勝に言われていたのにね。だからか忠真は、ひょうたんの酒をあおって見せてから「言うたじゃろ、腕は衰えとらんと!」と言う。足は確かにふらついているんだけれど、強い。

 ふたりを浜松城へと逃がし殿(しんがり)として戦場に残ろうとする忠真。忠真の「おめえらは行け!」の言葉に「遠慮なく!」と康政は駆け出し、動かない忠勝。康政は振り返るが、走り去る。

 忠勝は叔父の肩をつかみ「ひとりでは死なせん」と言う。

忠真:おめえは本当にアホ戯けじゃの!(忠勝、敵方向に進もうとする)おめえの死に場所はここではねえだろうが!

忠勝:(立ち止まって)俺は!叔父上を置いては行けぬ!

忠真:おめえの夢は、主君を守って死ぬことじゃろうが!

忠勝:あいつを主君などと・・・!

忠真:(忠勝を殴りつけ)好きなんじゃろうが!(倒れて忠真を見上げる忠勝に微笑み、うんうん頷いて)殿を守れ。おめえの大好きな殿を。(優しく忠勝を抱きしめる)行け、平八郎

忠勝:(抱きしめられたまま目を見開き、言葉が出ない)

忠真:(泣くのをこらえ、忠勝を放して敵の方に向いて立ち)行けー!

忠勝:うあ~!うあ~!あ~!あ~!

忠真:(甥の泣き声と駆け去る音を背後に聞き、涙を流す。1度振り返り確認後、またひょうたんの酒をあおって)さあ、本多忠真様がお相手じゃあ!こっから先は一歩も通さんわ!来い!(敵兵が喚声と共に向かってくる)

 忠真の呑兵衛殿はドラマの設定だそうだが、愛情たっぷりの照れ隠しには呑兵衛が良く似合う。もちろん、常に足がふらつくほどのアル中は現代では褒められたものではないのは当然ながら。

 正直でないのは家系なのだろうか、忠勝もまだ「あいつを主君などと」と言っちゃう。そうじゃないだろ、と忠真には分かっているからこそのパンチ1発。これも現代では褒められたものではない。

 この、1発殴ってからの「好きなんだろーが。○○を守れ、お前の大好きな○○を」で、見ているこちらは一体何の青春ドラマが始まったのかと一瞬むず痒くなってしまった。見開かれた忠勝(山田裕貴)の目が少女マンガの登場人物のようにキラッキラにきれいで、さらにその思いを強くした。

 しかし、忠真の中の人(波岡一喜)は「青天を衝け」の川村様である。「行けー、平八郎」からはもう涙涙、じっと最後まで見届けた。お疲れさまでした。

キタキタキタキタ、夏目広次=吉信の最期

 信玄の下に「家康の首」が届けられてからドラマでは半日、時が遡った。しかし、夏目広次のエピソードでは実のところは半日では済まなかった。まさかの初回、第2回まで見直すことになるとは。やられたーだった。

 家康は、夏目の下の名「広次」をほぼ毎回間違えて呼ぶが、なぜちゃんと広次と呼べないのか。ギャグじゃなかった。実はそれが「よし」「のぶ」に関連して間違えていたのだ。以前、彼は吉信と名乗っていたのだった。

 そうだったのか・・・夏目吉信は竹千代の幼少期に仕え、人質として駿府に送られる際にもお供となるはずだったんだね。しかも、竹千代に「若は私がお守りします」と約束していた。

竹千代(家康):竹千代は弱いんじゃ。

夏目吉信:弱いと言えるところが若の良いところでござる。素直にお心を打ち明け、人の話をよくお聞きになる。だから皆、若をお助けしたくなる。皆が助けてくれます。

竹千代:吉信も一緒に来てくれるのか?

吉信:もちろん。この夏目吉信が若をお守りいたします。若は、きっと大丈夫。

竹千代:ありがとう、吉信。

 家康がなぜ天下を取れたのか。その謎を夏目吉信が言ってくれている。それぐらい竹千代を理解していたのだが・・・それが戸田宗光の策略によって海辺で襲われ、竹千代は織田方に送られてしまった。あの「どんぶらこ~どんぶらこ~どんぶらこっこ、よ~いよい」で竹千代が目を閉じる間に無数の矢が崖から降ってくるシーンは怖かった。

 でも、第2回を見ても、あの竹千代襲撃場面での夏目吉信は見当たらない。今回、新たに挿入されたシーンで、あの場に夏目がいて幸運なことに生き延びていたと分かったが、あれだけ赤い衣装の人たち(織田方)が倒れた松平の兵をグサグサ止めを刺して回っていたのに、夏目はよくも無傷で助かったものだ。気を失っていたらしいが。

 三方ヶ原合戦では夏目「吉信」を始め、家臣が何人も家康の身代わりになったとは有名な話なのでいつからか知っていたが、本人が名乗っていたのは「広次」なのに石碑にあるなど知られている「吉信」。その謎を、こんなに上手に解いて、しかも感動的な物語を提示してきたのには本当に脱帽する。

 夏目は、三河一向一揆での謀反を不問に付してもらっただけではなかった。その前に、竹千代を奪われていたのを松平広忠に許された。そこでの改名だから、広忠の偏諱を賜って「広次」なんだね。死後は、家康の方が愛着のある「吉信」という名に戻して伝えていったとしたら説得力がある。夏目広次=吉信の名前の謎については、もうこれが正解ってことにしていいんじゃないか。

 しかし・・・今作の広忠、懐が深すぎる。嫡男を奪われたのにその責任がある家臣を許し、名前の一字まで与えるとは。形見の藁の虎人形も与えてたしね。それだけ夏目が松平にとって大事な存在だったにしても、夏目にすればこれは申し訳なく感激する。竹千代(家康)だけじゃなく、広忠に対して恩義を忘れない気持ちになるだろう。

 そこで、三方ヶ原での「殿、具足をお脱ぎください」となるわけだが・・・全てを察して無言で動く家臣達、抑え込もうとする鳥居元忠らに抵抗しながらとうとう「夏目吉信じゃろ?」と幼少期の記憶を思い出した家康。「お主は、幼い頃わしと一番よう遊んでくれた・・・夏目吉信じゃろ?」

 その家康の言葉を背後で耳にしながら、顔をくしゃくしゃに小さい目を黒目だけにして泣き顔になってしまう夏目を見ているこちらも、泣かないのは無理だった。

 家康が夏目の下の名前を間違えるのは、慣れ親しんだ「吉信」じゃないから。家康になぜわしはいつも間違えるかと問われて「影が薄いからでしょう」と夏目は答えていたが、それは夏目がわざと影を薄くしていたのでは?岡崎に墓参りで帰った際に、彼の名を思い出せない元康に「それで良いのです」と返した夏目は、多少ホッとしていたんだろうね。

 それから、本多忠勝を蹴飛ばして「すまん、お主はまだ先じゃ」と身代わりにはまだ早いと言い、自分が具足を身に着ける夏目もそうだが、それを素早く身に付けさせる夏目の家臣達にも私は泣いた。彼らは、金陀美具足姿となった主(夏目)の両脇に、最後まで付き従った家臣だと思う。もう主も自分も死ぬしかないと分かっているのに。ああ、この波状攻撃。涙の堤防も決壊する。

 とどめは、「徳川三河守家康はここにおるぞ~!」と名乗りをあげた夏目の金陀美具足姿。頭の小さい松潤サイズだからか、なんか少し兜が窮屈に見える。それでも立ち姿が美しかったなー。

 武田兵に殺されていく夏目の脳裏には「ありがとう、吉信」の竹千代の声。背景に流れるのは、あの阿月ちゃんが傷だらけで全力疾走して故郷の金ヶ崎にたどり着いたときのBGMだ。これはもう、さわやかな殉死の曲みたいになってるけど、阿月ちゃんも思い出して泣けた。

 このシーンで武田兵を演じた皆さんのご苦労も100カメでわかり、興味深かった。ご関心がある方は、こちらでどうぞ。(100カメ アクションチーム 大河ドラマ「どうする家康」を支える職人集団! - #どうする家康 - NHKプラス

(敬称略)