黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

【どうする家康】#19 お万、神仏後押しのハニートラップ成功

家康は摩利支天、お万は手作りの子授け観音?

 NHK大河ドラマ「どうする家康」は第19回「お手付きしてどうする!」が1週間前の5/21に放送された。また1週間遅れで書いている。スミマセン。あと少しで日曜昼の4K放送、第20回が始まる。滑り込みセーフか。

 個人的には家康の人生に大きな教訓となったはずの三方ヶ原合戦の直後の19回だったから、家康の脳内に潜入してその内省の様子がつぶさに描かれたら興味深かったのになーと思ったが、山田孝之演じる服部半蔵も「笑ってはいけない城勤め」で参上するし、息抜き的なコミカル回の印象だった。とはいえ、今後に続く不気味な仕込みもありつつ。

 まずは、公式サイトからあらすじを引用させていただく。

武田軍は撤退し、信玄(阿部寛)は勝頼(眞栄田郷敦)にすべてを託す。信長(岡田准一)は武田に寝返った将軍・足利義昭(古田新太)を京から追放。一方、家康(松本潤)は信玄との激戦で大きな犠牲を払ったショックから、立ち直れないでいた。そんな中、美しい侍女のお万(松井玲奈)に介抱され、つい心を許してしまう。そのことを知った瀬名(有村架純)は浜松を訪ねるが・・・。(これまでのあらすじ | 大河ドラマ「どうする家康」 - NHK

 以前の回で家康は、三方ヶ原合戦にあたって瀬名の下へ行き、自作の木彫りのウサギを手渡した。それは自分の弱くて優しい心。それを託した後、さらに彫っていたのが戦神の摩利支天だった。何かが動物の背に乗っている感じの彫り物だけど何だろう?と思っていたら、今回、石川数正が正解を教えてくれた。

いつも懐に入れておられる戦神、摩利支天が守ってくださったのかもしれませんな。

 摩利支天と言えば、「風林火山」の主役・山本勘助を懐かしく思い出す。メダルのようなものを首から下げていたような。貫地谷しほり演じるヒロインのお墓にも掛けたりしていた。

 この「風林火山」も面白かったが、当時の市川亀治郎がとても新鮮な武田晴信→信玄を演じていた。

 前半は爽やかな青年部将、後半はおどろおどろしく「あ~ま~り~(甘利)」と裏切りを疑い目を血走らせるシーンがあり、亀次郎の信玄は歌舞伎チックで面白かったが・・・あれが「事件」となれば、今後は再放送もできなくなるのだろうか。

 ちょっと脱線した。

 家康が懐に摩利支天を入れていて武田信玄との激しい戦を生き延びることができた一方で、お万は家康をたらし込むハニートラップに入る前に、何かの紙人形のようなものを手にして、作っていた。おそらく家康を風呂場で世話をする際に、懐に忍ばせていたのだろう。

 そして、家康がそれを見つけ拾った(!)のは、明らかにちょっとお万にクラっとなって、「もうよい!」とお万を下げさせた時だった。拾われたあの紙人形はどうなった?家康が持ち続けたのだろうか・・・まじないが効いたのだろうなあ。その次のお風呂だったもんなあ、お手付きは。

 その人形はまた出てきた。お万が懐妊してからで、母子を思わせるように小さいのと合わせて2つ。紙人形はその時も抽象的すぎて何やら判然としなかったが、子授けの観音様の類の神仏を思わせた。

 お万はこの御仏に祈って、今回のハニートラップを敢行したのか。相当な覚悟だ。実家の神社も戦災で焼け、父も死に母も動けず・・・みたいなことを言っていた。自分が立て直すしかない、そのためにできる事はコレだと計画を練った、という設定のようだった。

築山殿とお万、とってもイーブンな主従関係

 有名な築山殿によるお万の方への折檻の逸話も、うまくアレンジされていた。何と自分から仲間に頼んで木に縛り付けてもらい、棒を瀬名に差し出させて打ってくれとお万が言うなんて。その縛った縄を、かえって解いてあげる瀬名にするなんて。今作は本当に、瀬名の名誉を挽回する方向で進む。

 (そうそう、アレンジと言えば、三方ヶ原合戦にまつわって地元に伝わる有名過ぎる逸話の数々。てっきりスルーかと思っていたら、今回になって浜松の民によって家康がディスられてますよ、と酒井忠次に報告される場面で出てきた。うまい処理だった。)

 今回の見せ場、瀬名とお万のやり取りはこうだった。

お万:(庭の木に後ろ手に縛られ繋がれている)御方様。万は大変なことをしてしまいました。御方様に申し訳なくて、申し訳なくて。どうぞ懲らしめてくださいませ!(瀬名に棒を差し出す侍女)お気の済むまで折檻してくださいませ。殺されても文句は言いませぬ!お願いでございます。

瀬名:お腹の子に罪は無かろう。

お万:されど、この子を産めばお家が乱れます。城を出て私が育てるとしても殿のご落胤とあらば世に恥ずかしくない躾を施さねばなりません。我が家は、社でございますが戦で焼けてしまい、父は死に、母は動けず、とてもとてもそのような。(泣く)

瀬名:(笑ってしまう)お万。もうよい。(お万の縄を解く)私はそなたを見くびっておったようじゃ。おっとりした慎ましいおなごじゃと。なんのなんの、才ある子じゃ。これでは、うちの殿などひとたまりもあるまい。(お万の肩に手を置いて)見事じゃ。(ふたりとも膝を付き向かい合う)

 殿から金子をふんだんに頂くがよい。その金で、この子を立派に育てよ。焼けた社も再建するがよい。恥ずかしいことはない。それもおなごの生きる術じゃ。私は嫌いではないぞ。

お万:恥じてはおりません。多くのご家臣を亡くされてお心が疲れ切っていた殿を、御慰め申し上げたまで。男どもは己の欲しいものを手に入れるために戦をし、人を殺し、奪います。おなごはどうやって?人に尽くし、癒しと安らぎを与えて手に入れるのです。おなごの戦い方の方がよほど、ようございます。

 私はずっと思っておりました。男どもに戦のない世など作れるはずがないと。政も、おなごがやればよいのです。そうすれば、男どもにはできぬことがきっとできるはず。御方様のような御方なら、きっと。

 (立ち上がって)もうここへ来ることも、皆さまの前に姿を現すこともございますまい。この子は立派にお育ていたします。いずれ殿のお役に立つ子に。御方様、どうぞお達者で。(一礼して去る)

 しかし、御方様に対してこんなに滔々と自説を開陳して、勝手に出ていこうとして大丈夫なのか、お万。「無礼者」と瀬名(のお付き)に手打ちになったりしないのか?と見ているこちらがビクビクしてしまった。城で仕える者と殿の正室が、とってもイーブンな関係だ。瀬名ならでは、浜松ならではなのか。ホワイト企業だなー。

 そもそも、お万のキャラ設定がちょっと不思議にも思えるほど彼女に優しい。「うかつ者のお万」「控えめでおっとり」と言われ、瀬名にまで家康に手を出すなんぞ「俄かには信じられない。お万は、よう知っておるがおっとりした慎ましい娘で」と評されるお万。

 折檻シーンでは「早くお逃げ」と侍女仲間が彼女を庇って逃がそうとするし、遡るとお万に手を出した家康のことを「どうしようもない」と家臣たちが台所で噂をする場面では、背景で働く侍女たちの顔色が変わっていた。彼女が家康にレイプされたと思ったか(実態はそうだろう)。女同士で好かれ、可愛がられ応援されているキャラのようだった。

 今作では、松潤演じる家康を悪玉キャラになどまさか描けないし、そうすると普通は「殿にハニトラを仕掛けるなんて大した玉だ!」とお万が非難を集めそうなところではある。だが、お万が嫌われキャラにならないよう、今作は周到に考えられている。

 やっぱり、御仏の導きとはいえ、外形的には侍女のお万を手籠めにした家康は加害者だろうし、本来はレイプの被害者だったと現代では解されるお万を悪者にはしにくいよなあ。それで、物語的にハニトラを噛ませたんだろう。

 ハニトラと言えば、ほんの少し前(!)の昭和の時代劇だと、主君に手を出されレイプされた女側ばかりが「魔性の女」と変に色っぽく背徳的に誘惑する存在として描かれがちだった。令和にアップデートされている本作では、NHKだし、それはない。ハニトラを知らない時点でも「私、お万もぶってしまうかもしれませんから」と、女側にも責任があるとする解釈も、瀬名のセリフにはチラチラ見えなくもないが・・・。

 瀬名と話すまでは、お万の妊娠は計画ずくだと侍女仲間らにはバレていなかったと思う。が、それも覆った。おっとり者でもうかつ者でもなく、殿をはめる賢い子。実家の不幸など、お万の境遇が城中でも同情を集めていたらしいけれど、あの後、ハニトラ大成功だったと知った侍女仲間は、彼女をどう見ただろうか。

結城秀康と保科正之

 今作で描く当時の正室とその他の妻妾の違いについては、以前、瀬名が今川氏真の「妾」とされるという件で瀬名の両親の会話で説明されていた。以前のブログからそのあたりを再掲する。

toyamona.hatenablog.com

氏真からの申し渡しについて妻・巴に説明する関口氏純(渡部篤郎)。

巴:瀬名を、氏真様の妻にしていただけるのですか?それでわれら一同お咎めが無いのなら、この上ない良いお話ではありませぬか。三河の不忠者などより氏真様の方がよほどご立派

氏純:いや・・・妻という訳ではない

と:そりゃ、殿にはご正室がおわします。側室でもありがたいことではありませぬか

う:側室でもない。つまりは妻という立場ではない御奉公じゃ

と:それは・・・夜伽役ということでございますか?遊び女扱いさせるということでございますか?私は今川本家につながる身ですよ!その私の娘を!?

瀬名:母上、瀬名は氏真様にご奉公いたしとうございます。

う:瀬名

せ:瀬名は、幼い頃より氏真様をお慕い申し上げておりました。どのような形であれ、彼の方のお傍にいらるるはこの上ない喜びでございます

と:瀬名

せ:竹千代と姫をよろしくお願い申し上げまする(亀姫の泣き声)

 このように、瀬名が求められていたのは「遊び女扱い」であって妻である「側室」ではなかった。「妾」となり、良家の娘とは思えない扱いを受けることになるのだろう。

 お万は、今作の現段階では正室に認知されていないので妻(側室)でも妾(遊び女)でも無く、城を出されるということか。そして信玄が死んだ翌年(1574年)の2月に於義丸、後の結城秀康を産む。今作ではどうなるかわからないが、双子だとも言われる。

 正室が承認しない立場だったから、お万の子は城外で生まれ、秀吉の養子に出され、さらに結城家に養子に行く。ただ、築山殿の死後は、母子の扱いは良くなったらしい。

 今回のドラマではカバーされるとは思えないが、結城秀康を見ていると、家康の子・秀忠(ドラマではこれから生まれてくる)のご落胤の保科正之の境遇ととても似ていると思う。彼も、秀忠正室のお江が認めていなかった女性(お静の方だっけ?)が隠れて城外で生み、武田信玄の次女に育てられ、保科家に養子に行く。

 家康も秀忠も、親子二代で全く同じようなことをやっていることになる。親子だね。そしてご落胤のふたりは、後々ちゃんと徳川を支える人物になるというところが健気で泣ける。保科正之の子孫・会津松平家が、正之の言葉に縛られ幕末に辿る運命を考えると、さらに泣ける。

お家の存亡がかかる子作りは、殿のお仕事

 ドラマでは瀬名も一応その点は謝罪してはいたけれど、そもそも、家康に側室を用意しておかない正室の怠慢が、今回の騒動のベースとしてある。三方ヶ原合戦で、どうしてあんなにも家臣らが身を挺して家康を守り、代わりに死んでいったのか。夏目吉信が言ったように、殿が生きてさえいれば徳川は存続できるからだ。

 それを思い知らされたばかりの人たちが、戦後、殿に側室を用意しようと正室に働きかけたようには見えなかった。これは殿のお仕事!!!!!ぐらいの勢いで、子作りをしてもらわないと困るのでは?お家の存亡がかかっているのだ。

 その点で、お家が多少乱れる難点はあるにしても「何をしておられる」と家老2人がかりで怒るなんて辻褄が合わない。このドラマの石川数正&酒井忠次はどうかしている、と昭和の男都合全開の時代劇に毒された私は思う。(信康が「父上を見損なった!」と怒って文をビリビリ破るのは、まあ理解できる。)

 それに、大戦の影響でメンタルがやられている様子の家康。そういう意味でも、瀬名が自ら浜松に行くか(せめて定期的に岡崎と行ったり来たりするか)、時代劇的にはすぐに出てくる「お慰めする女人」とやらを置かないなんて。「正室として立場がありません!」とプリプリするなら、正室として側室を置く役目を果たしてからおっしゃい!と糾弾されそうだよ瀬名~。

 それとも「家康じゃなくても、自分の子である信康に子を作ってもらえば徳川は大丈夫」と今作の瀬名は考えていたか。でも、家康だってまだ30代前半なのにね。

勝頼を褒めちぎる武田信玄。そして琵琶法師は誰か

 ドラマ冒頭の桜の散る中、元亀4年(1573年)4/12、武田信玄は有名な遺言「3年の間、我が死を秘するべし」と言って信州駒場で死んでいった。「敵とはいえ、人の死を喜ぶとは何事か!」と鳥居元忠は怒られていたが、万人は思っているだろう。家康は命拾いしたと。

 歴史家・作家の加来耕三氏が、家康が天下を取れたのは信玄を真似たからと言うほどに、家康にインパクトを与えた信玄。ひっくり返せない史実なんだけど退場は惜しい。勿体ない人だと前回も書いた。でも、まさに神が信長を選んだんだね。

bookplus.nikkei.com

 とはいえ、信玄の「3年間は自分の死を秘密にしろ」という遺言は、はっきり言って無理ゲーではないかとかねがね思ってきた。

 前回ブログにも書いたけれど、やっぱり信玄は忍びの働きを軽く見ているとしか思えない。「甲斐の忍びはともかく、他国の忍びは大したことない、3年ぐらい大丈夫だろ」と思っているのか。この見通しが甘すぎる信玄を見るにつけ、実は武田家はあんまり忍びを活用できておらず、情報収集に難ありだったのではないかと疑ってしまう。

 それと、信玄の遺言はもう1つセットで「(勝頼嫡男の)信勝が成人するまで勝頼は陣代を務めろ」というのが知られている。そんな遺言をしてしまったら家中から信頼も得られないし勝頼がかわいそうじゃんねー、というこれも無理ゲーな内容だが、このドラマではそれは無かった。これも、今後にまた噂話的な面白い活用の仕方があるのかな。

 むしろ、今作では信玄の勝頼に対する信頼が凄まじい。こんなに勝頼を褒めちぎり、勝頼の内なる風船を自信でパンパンに膨らませた信玄は初めて見た。

信玄:ここまでか・・・。

勝頼:父上の残された思い、四郎勝頼がこの身に負うて成し遂げて見せまする。

信玄:それはならん。わしの真似をするな。そなたの世を作れ。そなたの器量はこのわしを遥かに凌ぐ

勝頼:そんなこと、あろうはずが・・・。

信玄:このわしが言うんじゃ、信じよ。そなたはわしの全てを注ぎ込んだ至高の逸材じゃ。黄泉にて・・・見守る・・・。(長い吐息の後、絶命)

勝頼:(うなだれる)

 勝頼のことを「わしの全てを注ぎ込んだ至高の逸材」だと信玄が呼ぶなんて。確かに、今作の勝頼はありえない程カッコイイ。彼の物語としてドラマを見たいぐらいだ。これまでは大概、諏訪という他家を継ぐ者として育てられた四郎勝頼が、息子・信勝は武田家の正当な継承者でも自分は息子の陣代にすぎないと、信玄からのその扱いに苦しみ、背伸びをして無理な戦を重ねる系列の物語ばかりを見てきた。

 今作は違う。勝頼は腹から声が出て戦ぶりも堂々としているし思慮深く、信玄からの信頼も厚く自信に満ちあふれている。これでどうしたら負けるのか?前も書いたように、今作の勝頼は本当に長篠の戦で勝利を収めてしまいそうだし、一度そういった世界線も見てみたい。

 ところで、気になったのが琵琶法師。琵琶法師は、信玄が没した場で「生者必滅 会者定離」と唄っていた。天正元年(1573年)の桜の散る中(つまり春)、死んでいった信玄の画のフレームアウトしそうな一番右側に控えている人と、緑の中(つまり夏)で琵琶を抱えて唄っていた人は同一人物なんだろうか、それとも別人か。

 そして、今回の終りの方で、紅葉が見える中(つまり秋)、信玄が没した場所で骸になっていた人物がいた。例の百足が骸の上を這っていたのは武田家を示すシンボリックなものだろうし、持ち物らしい小刀の鞘に武田家の❖家紋が見えるから、武田ゆかりの人だろう。これが信玄が死ぬときに一番右側に映っていた人か?

 可能性としては、①信玄の死を3年秘するため、信玄が死ぬ場に居合わせた右側の人物が、勝頼と山県、穴山によって命を絶たれた、②もしくは信玄を慕って自ら殉死したのかと思う。いずれにしても春にその場で死んでおり、秋に骸を晒す説明はつく。でも、そうすると夏の琵琶法師は誰なんだろう?ただの琵琶法師?

 もしかしたら、③殉死したのは琵琶法師かな?旧武田家臣か。

 春に信玄が没し秋が過ぎ、勝頼はいよいよ「三河を手に入れる」と言った。これから武田忍びの千代が三河に潜入し、徳川への工作が始まるんだろう。ロックオンされたのは岡崎城の信康と瀬名だ。

 こうなると「男どもに戦のない世など作れるはずがないと。政も、おなごがやればよいのです。そうすれば、男どもにはできぬことがきっとできるはず。御方様のような御方なら、きっと」とのお万の言葉が薄気味悪い。これに瀬名が走らされちゃうのかー。ヒタヒタと瀬名に悲劇が迫る音が聞こえるような、不気味な終わり方だった。

 そうそう、岡田信長が武術の腕を見せて寸止めした義昭の首への一太刀は、流石だった。あんなスピードでも止めちゃうんだ・・・と、しびれた。他の俳優さんだと無理じゃないかな。

 そして、明智光秀が義昭を見限り「この明智光秀、これより殿の天下一統のためこの身を捧げまする」と言い、信長から「励め」と受け入れられて心底嬉しそうな顔をした。前回書いたが、やっぱり今作の光秀は打算じゃなく、信長ラブみたいだ。

(ほぼ敬称略)