黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

【どうする家康】#21 近づく瀬名Xデー、その前に戦国走れメロス再び

スネ夫&ドラえもん、じゃない鳥居強右衛門

 NHK大河ドラマ「どうする家康」第21回「長篠を救え!」が6/4に放送され、長篠合戦での有名人、戦国時代の「走れメロス」鳥居強右衛門のエピソードが描かれた。強右衛門のことは分かっていたのに、日曜夜に泣かされて、さらに6/10の再放送を見てまた泣いた。この年になると涙腺が弱くて困る。

 金ヶ崎まで激走した阿月ちゃんも、自分をちゃんと受け止めてくれたお市様のために走って「走れメロス」的感動をもたらしたが、今回の強右衛門も、自分を信頼してくれた殿のために走った。

 この走る姿というのが日本人はかなり好きなんじゃないのかな、あれだけマラソンや駅伝観戦が好きな国民性だもの。プラスして自己犠牲を承知で誰かのために走るって・・・人情の弱いところのど真ん中を突いてきている。

 まずは公式サイトからあらすじを引用させていただく。

武田に包囲された奥三河の長篠城。城主・奥平信昌(白洲迅)はピンチを伝えるため、鳥居強右衛門(岡崎体育)を岡崎へ送り出す。強右衛門の手紙を受け取った家康(松本潤)は、織田に援護を求めると、信長(岡田准一)は二万を超える軍勢を率いて岡崎へやってくる。そして天下一統に突き進む信長は、参戦の条件として家康に驚くべき条件を提示する。(これまでのあらすじ | 大河ドラマ「どうする家康」 - NHK

 ドラマの中の強右衛門がまさに拗ねた態度をとるものだから、性格的には「スネ夫」、そして体型から「ドラえもん」のふたつを合わせて造形されたフィクションのキャラか?なんて思う人なんかもいたかもしれない。

 この鳥居強右衛門の「ろくでなし」設定は、忠義者だと刷り込まれていたオールド大河ファンとすると、意表を突かれて「スネ夫だ」と笑ってしまった。徳川の援軍は来ないとか、「長篠は見捨てられたんだて」「武田を裏切って徳川に付いたんはしくじりでごぜえます。殿は徳川に騙されたんじゃ」とかグダグダ言う姿は、ホントどうしようもない。

 有名人と書いたが、鳥居強右衛門を全く知らなかったという人もいるだろう。うちの家族もそうだった。まあ、関心は人それぞれ、そういう人もいる。

 「実在した超有名人なんだよ、戦前なんか忠義者ってことで」と家族にご注進したら、ドラマを見ていくうちに家族も「この人絶対地元のヒーローだよね!」と大興奮。「そうそう、信長が彼に感動して(?)作ったお墓もあるって」「鳥居って名前の駅もあるってよ」と、行ったことも無いけど小耳に挟んでいた話を伝えた。自分でも行ってみたくなった。

 強右衛門役はシンガーソングライターの岡崎体育。「🎵はーしれ、はーしれ強右衛門~」は耳に残りまくりだ。歌もそうだが、岡崎に走るって名前からキャスティングした?そんな訳ないか。彼は、この役をやる前に別ドラマで体重を17キロ減量し、今回は逆にかなり増量したとネットニュースか何かで読んだが、なるほど、旗指物にもなった磔の図がそっくりだった。それに寄せての増量だったか。

 ただ、長篠城では食糧庫を武田軍に焼かれて食べ物に困り、さらにお腹を空かせてマラソン以上の長距離を走る役柄なのに?と思わないでもなかった。そうか、だからちょっとぐうたら風味のろくでなしキャラにしたのかな。

 そのろくでなし人間が、同僚にいたぶられそうになった時に「殿」である奥平信昌の背後にサッと隠れ、庇ってもらっていた。日頃から殿には信頼を寄せていたのだろう。

 「わしはもう武田には戻れん。徳川様を信じるほかないんじゃ」という信昌の言葉に、「呼んで参りましょうか?」と強右衛門。「逃げる気じゃろう、己だけ武田に寝返る気じゃ」と他の兵は反発するし、もう長篠城は後がない状態なのだから、もっとシュッとした、いかにも健脚のマラソン体型の足軽(実際の強右衛門はそうだったのでは?)を選びそうなものだが、信昌は、ふっくらしたろくでなし強右衛門に使者を任せた。

 周りは罵るのに「わが殿はこんなわしを信じて見送ってくださった。優しい殿なんでごぜえます」。だからこそ、強右衛門は逃げることなく岡崎まで走り、また、一刻も早くと朗報を告げに帰ってきた。

 そして、史上有名な名場面となるわけだが、ドラマでは、視聴者を焦らすようにフェイントを噛ませてきた。

 見ていたら、往路の泳ぐ場面は長篠城から抜け出した時のもので、そうだろうと頷けるのだが、復路でも、武田兵を蹴散らして(!)➡泳いで(?)➡長篠城に帰還して(?!)城兵に救援が来ることを伝えて喜び合う(!!)完璧な幸福場面が続いたため「え?え?え?そんなバカな」と思わず口に出た。   

 しかし、直後に金色の光を浴び始めたところで、これは強右衛門の白日夢(=ウソでーす)をドラマでやっていると分かった。全然上がっていない胴上げをされたり、亀姫が白無垢で登場、強右衛門の胸に飛び込む訳がない。

 本当は、復路の強右衛門は武田兵を蹴散らすこともなく捕まって磔にされるのだから、彼は川を泳ぎ城に戻ることはない。城兵に朗報を伝えて手を取りあって喜び合うことはできない。

 このフェイントの後に、強右衛門はやっぱり捕まる。抱きとめた姫だと思ったのは武田兵だった。いたぶられたところで敵将勝頼登場、「慮外者め」と自軍の兵を叱責したところで、忠義者だと強右衛門を褒めて縄を解き、城兵に救援は来ないと伝えろ、そうしたら召し抱えてやると言った。当然、断れば殺される運命の強右衛門。

 強右衛門は、最初は勝頼に従う。フェイント第2弾だ。「来ん。徳川様は助けに来ん。わしらは見捨てられた!」と長篠城に向かって叫んだ。絶望の泣き声が響く城内。

 しかし、こぼした褒美の甲州金を拾う時に思い出したのは、自分を信頼して送り出してくれた亀姫の手と笑顔だった(拾うのを手伝う武田兵の皆さん・・・勝頼の手前、自分のものにしたりはしないだろう)。

 一瞬のスキを突いて逃げ、立てこもる長篠城側の奥平家中に向けて改めて真実を叫ぶ強右衛門。そして、亀姫のことを信昌に伝え、死に至る。

強右衛門:ウソじゃ~!殿!徳川様はすぐに参らっせるぞ!織田様の大軍勢と一緒じゃ!皆の衆~まあちいとの辛抱じゃあ!持ちこたえろ、持ちこたえるんじゃあ!(城内から歓声が上がる)

(磔にされて)殿!殿!徳川の姫君はな、麗しい姫君様じゃ!ようごぜえましたなあ、大事にしなされや!そりゃあまあ本当に素晴らしい姫君様じゃ!殿~!(刺され、絶命)

奥平信昌:(涙を流して)強右衛門~強右衛門!

 これだもの。後に結婚した亀姫が、従来言われた「嫉妬深くて信昌に側室を作らせない」訳じゃなかったんだと、このドラマを見ると思う。強右衛門の信頼が結んだふたりだったから、しっかりとした絆で結ばれたんじゃないのかと思わせる。・・・もちろん、神君の姫を迎えた格下夫としては側室を作らないなんてことは当然の振る舞いかもだけど。

 岡崎体育の強右衛門の芝居も良いのだけれど、思うに、私は城側の受けの芝居で泣かされたように思う。朗報を聞いて喜んだ後で、強右衛門の運命を見届けつつ涙を流して声を限りに叫ぶ白洲迅演じる奥平信昌と城兵の皆さん。そこにもらい泣きした。

亀姫のお嫁入り事情の陰に、織田VS徳川

 ドラマでは、強右衛門の活躍に絡め、織田と徳川の対立と、家康長女である亀姫がどうして格下の国衆である奥平家に嫁いだのかを、説得力ある話に仕立てていた。冒頭のミニアニメでは、強右衛門の手(磔の縄がかけられている)と亀姫の手が結ばれていた。

 信康が釣り合わないと反対して見せたように、後世の人間からすると、家康の娘(しかも唯一の正妻腹)の嫁ぎ先として奥平はそぐわない感覚も、はるか昔、「歴史読本」の家康子女の表を見た時には無いではなかった。なるほど、徳川の存亡のかかった頃の功労者に嫁いだ訳だから、事情は分かる。

 実際は亀姫の輿入れは家康が2年前ぐらいには決めていたらしいと多分歴史家の先生のツイッターで見たような気がするが、ともかく、ドラマでは亀姫の奥平への輿入れを信長が勝手に決めたとなっていた。それに反発したホワイト育ちの信康が、家康の躊躇いにも構わず「わが妹と奥平殿との婚姻の儀、無しとしていただきたく存じまする」とブラック信長に申し入れた。

 続けて家康が「この件につきましては我が家の事柄でございますれば我らにお任せ願いたく」と言ってしまったところ、織田と徳川との清須同盟はもうお終い、「臣下になれ、どうする家康!」と月代(誰も突っ込めない怖さ💦)姿の信長に詰め寄られる事態になったのだった。

 まあ、「今すぐ助けに来なければ、織田と手を切る」「武田勝頼と組んで信長を攻める」なんて先に魔王信長を脅しちゃった代償だ。「わしが脅せばこんなもんじゃ!😊」じゃないよね、家康。

 ホワイト家に生まれ育つと、ブラックの危険性が分からないんだな・・・五徳は分かっていたから父の来訪に怯えていたのだろうけれども、夫の信康は分からない。今回の騒ぎで、ホワイト家ですくすく育った信康も亀姫も少し世間を知ったということか。

 それで、五徳の苦しみにも信康が多少寄り添えるようになってめでたくご懐妊となり(清須同盟解消によって五徳を連れ帰るとの話が出た時、視線を交わしていたね)、その懐妊が、織田の臣下に落とされる危機から徳川を救うのでは?そろそろ信康・五徳夫妻に長女が生まれる頃のはず。

 ところで亀姫。天然ちゃんだとの描写はこれまでも積み上げられていたが、最初、築山御殿の外に倒れていた強右衛門を獣かと思い、石を投げるって・・・!最終的に投げようとしていたのは、昔、平岩親吉が瀬名を慕っておみやげに持ってきた漬物石か?

 その天然の亀ちゃんが、信長VS.家康の緊迫した場面で状況を打開した。強い。後の片鱗をここで見せてるのか?

信長:(清須同盟を破棄して去ろうとする)

強右衛門:奥平信昌が家臣、鳥居強右衛門でごぜーます。どうかお帰りにならんでくだせーまし。長篠を救って下せえまし!

信長:奥平に伝えよ。徳川は長篠を見捨てた。武田に帰れと。

強右衛門:戻れんのでごぜえます!武田にもどりゃあ、エライ目に!(信長に縋りつこうとする)

信長家臣:無礼者!

亀姫:(走ってきて)お怒りをお鎮めくださいませ!亀のせいでこのようなことになってしまい申し訳ございませぬ。父上、亀はもうワガママを申しませぬゆえ、どうか仲直りしてくださいませ!亀は奥平殿のもとへ喜んで参ります!

強右衛門:(泣く)

瀬名:我が夫は織田様の臣下となるのを拒むものではございませぬ。ただ、これは家臣一同にかかわる事柄ゆえ、よく話し合う猶予を頂きたいまで。ひとまずこのことは脇に置いて、長篠を救うことを先になさってはいかがでございましょう。その後に、お答え申します。旦那様、そうでございましょうね。

家康:ああ。

信長:(考えて、亀姫の肩に手を置く)面を上げなされ、怒ってなどおりませぬ。ほんの余興でござる。ハハ・・・。むろん、長篠は助ける。

強右衛門:ありがとうごぜえます!ありがとうごぜえます!ありがとうごぜえます!

 こう信長は言い、五徳を泣かせ、徳川家中に尋常じゃない冷や汗をかかせた信長によるドッキリはひとまず収まった。今作の信長は、瀬名始め女たちには結構敬意を払っている。

 「ようございましたな、強右衛門殿!・・・」と言いつつ、彼の手を取った亀姫。彼女の幼さが見える中にも真摯さが伝わって、強右衛門は感激しただろう。

亀姫:(泣いている強右衛門に)奥平殿にお伝えくだされ。どうか持ちこたえてくださいませと。亀は、奥平殿の下へ参るのを楽しみにしておりますと。毛むくらじゃらでも構いませんと。

強右衛門:我が殿は、毛むくじゃらではごぜえません。(亀姫の両手を取って)姫、わしは一刻も早く皆に伝えてやりてえで、これにて!

 強右衛門に死が訪れた時、岡崎城台所に設えられた獣囲いの鳴子が鳴った。囲いには、強右衛門が入れられていた。鳴子の音は姫の耳に届いたか?明らかに姫に恋したね、強右衛門。

怖い怖い、千代と瀬名との関わり進展か

 「お友達になりましょう」と瀬名が武田の間者・千代を誘った前回終わり。瀬名がとうとう地獄の釜の蓋に手をかけてしまったと恐怖に震えたが、そこから今回はスタートした。

瀬名:ようおいでくださった。

千代:(庵の入口で頭を下げて)なんと素敵な所でしょう。まさか築山殿じきじきにお招きいただけるとは思いませんでした。

瀬名:またお会いできてうれしい。お千代さん。

 ここで、前回の瀬名は千代に「私を憶えておいででございますか」と聞かれて「昔、お寺で楽しい踊りを。フフ」と三河一向一揆の際の扇動者はあなただったねと暗に答え、岡崎クーデターも扇動したのは「こたびも、あなたではないかと思っておりました」と言ってのけた。

 普通に聞けばケンカを売るようなセリフだが、瀬名はあくまでにこやかに「家臣に手出しされるくらいなら私がお相手しようと思って」「お友達になりましょう」と千代に伝えていた。が、今回そこは端折られている。

 瀬名は、千代のためにお茶をたてる。

千代:苦しいご胸中、お察しいたします。もはや徳川は風前の灯火。頼みの織田様もこき使うばかりで助けてはくれませぬしなあ。岡崎は岡崎で生き残っていかねばなりますまい。武田はいつでも受け入れますよ、あなた様と信康様を。

瀬名:(話の内容に構わず)お千代さん、旦那様は?

千代:・・・とうに亡くしました。

瀬名:戦で?

千代:ええ。

瀬名:お子は?(千代が無言でかすかにかぶりを振る)それで忍び働きを・・・あなたも苦労しますね。

千代:性に合っております。武田様もよくしてくださいますし。

瀬名:でも、もし戦が無かったら、また違った暮らしをしていたことでしょう?旦那様を支えて、お子たちを育てて。(千代は無言、茶を飲む)あなたから幸せを奪ったのは、本当はどなたなのかしら。(千代、瀬名を見る)私とあなたが手を結べば、何かができるんじゃないかしら。徳川のためでも、武田のためでもなく、もっと大きなことが。

千代:(無言で瀬名と見つめ合っていたが)フフ、ハハハハ・・・はあ、毒を飲まされるところでございました。

瀬名:フフフフ、毒など入っておりません。

千代:いえ、そのきれいな眼に引き込まれて要らぬことを喋ってしまう毒でございます。フフ、怖いお方でございますね。(茶碗を置いて)今日はこの辺で。(立ち上がって縁側へ)

瀬名:また、お出で下さいませね。(千代、無言で立ち去る)

 千代は、山田八蔵を通じて瀬名が接触してきたことを、瀬名が困って武田に救いを求めてきたと理解して築山に来たことが最初のセリフから分かる。客観的に見れば正に風前の灯火の徳川、領地がぐんと縮んだのは前回のブログでも見た通りだ。

 しかし、瀬名は関係ない質問(千代の身上調査)をぶつけ、話の主導権を千代から奪った。一瞬呆気に取られた千代だが、手練れの忍びだけあって「毒」を呑み込む前に「今日はこの辺で」と立ち去った。

 瀬名は、お万の言葉に突き動かされている。また引用する。

私はずっと思っておりました。男どもに戦のない世など作れるはずがないと。政も、おなごがやればよいのです。そうすれば、男どもにはできぬことがきっとできるはず。御方様のような御方なら、きっと。

 この言葉が、瀬名を大きく揺り動かしている。彼女のやろうとしている正義は視聴者には垣間見えたものの、家康や石川数正など家中には伝えていないままだ。それこそ外形的には、ただただ武田の間者と通じ、やり取りを重ねようと瀬名から積極的に働きかけているとしか・・・こうやって、このドラマでは悲劇への道が開かれていくのだろうなあ。

 信長からの仕打ちはどう影響したろうか。徳川は臣従しろと迫られたあの緊迫の場面は、瀬名が武田接近を真剣に考える契機になったかもしれない。今回の終わり、再訪したらしい千代の去り際の鈴の音が響く。瀬名は何を千代と話したのだろう。千代も築山殿攻略の作戦を練って改めて出張ってきただろうから、その話が聞きたかった。

 次回は、設楽原で織田徳川連合軍が大勝利を収めるはず。その手前で、瀬名は武田とどのような近づき方をしたか?瀬名Xデーに向け、息を飲むばかりだ。

(敬称略)