政子、妹助命のために尼将軍になる
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の第46回「将軍になった女」が12/4に放送された。12/11がラスト前であと残り2話。これで承久の乱や3上皇の島流しもやった上に主人公義時の死を描いて、本当に終われるの?積み残しが出ませんかね。
義時死後の、伊賀氏の変からの泰時の執権就任もどうするのか・・・主人公が死んでからの後始末は、もしかして「新選組!」同様スピンオフで?それもいいかも。「映画化するから続きは劇場でご覧ください」だけはご勘弁くださいましね。
まあ、こんな勝手な心配をこちらがしなくても、三谷幸喜はきっと鮮やかな物語の締めくくりを用意してくれているに違いない。その点は稀代の脚本家を信頼して見守るだけだ。
さて、政子はとうとう尼将軍となり、妹の命を助けた。と言うよりも、妹の命を助けるために尼将軍になったのだろう。
政子:放免になりましたよ。もう大丈夫、誰もあなたを咎めはしません。私は尼将軍になりました
実衣:尼将軍?
ま:誰も私には歯向かえない。小四郎もね。(実衣を抱いて)みんないなくなっちゃった。とうとうふたりきり。支え合って参りましょう、昔みたいに
み:(ためらいつつ)はい
この後、ふたりが抱き合って泣きながら唱えたのは「ボンタラクソワカ」(ナレ・正しくは「オンタラクソワカ」である。デジャヴ)。昔、時政が「オンベレブンビンバ」と言って、家族がそれぞれこれが正しい呪文ではないかと「ウンタラポンチンガー」「プルップ」などの候補を挙げた時に、間違って落ち着いたのが、実衣が言った「ボンタラクソワカ」だった。
あの時は「りく」抜きでの時政パパと子どもたちの最後の家族だんらん。きょうだいの会話から実衣はなんだかんだ可愛がられている家族のアイドル的立ち位置だとの様子が伝わってきたし、仲の良さに泣かされた。しかし、元々大姫の言い出した奇矯な呪文が、ここまで家族を思い出させるよすがになろうとは・・・。
とにかく、政子が将軍に立つという一世一代の決心をしたのは、実衣の「姉上のせいよ~」が効いたのだと思う。自分を守ろうとする姉にまで、いつも辛辣な実衣だ。
政子:ここはあれね、義高殿が捕らえられていたところ
実衣:全成殿も
ま:そうでしたね
み:何しに来たの?私がどんなにみすぼらしい姿になっているか、確かめに来たんでしょ
ま:やめて
み:いいのよ、私だってりくさんが捕まった時、面白半分で見に行きましたから。はい、こんな感じ
政子が自分を蔑んで見に来たと思う実衣。姉の評価がどうも見当違い、姉の何を見てきたのだろう。政子が義時に言った「全てが自分を軸に回っていると思うのはおよしなさい」を、彼女にも言いたい場面はこれまでも多かった。
「私が何かしようとすると、いつも姉上は邪魔してくる」「姉上がいないだけでこんなにノビノビできるなんて私もびっくり」には、見ているこちらが「は?」と思わず反応させられた。
自分がそうだからといって、他の人が同じようにしか考えられないと信じるのは浅はかだ。攻撃的な人ほど実は不安を内包し、他人が自分に攻撃をしかけてくるに違いないとムダに牙をむいている場合があるけれど、そういう人は相手を見誤っている。見ているのは、鏡に映った自分だ。深呼吸して、落ち着いて相手を見たらいいのに。
彼女がそんな見方しかできなくなったのは、なぜだろう。家族の中でいつも蚊帳の外、大事を教えてもらえずにいて、心理的に自分を守るために攻撃的な見方しかできなくなったのだろうか。
そんな家族の中心にいたのは姉だ。姉の結婚によって、自分を含めて家族のすべてが影響を受けた。だから「姉上のせいだ」と思い続けてきたーーという設定なのだろう。
姉はどんどん階段を上って鎌倉のファーストレディーになった。トキューサなど他の家族が政子を「御台」「尼御台」と呼ぶようになっても、実衣は「姉上」とほぼ呼んでいて、対抗心を持ち続けていたように見えた。社会的な姉の立場の変化などは無視して、ずっと「姉妹」の関係性を意地でも引っ張りたかったか。
そんな妹らしい甘えた意識が、実衣に悲劇を引き寄せた。妹心理を良くわかってるなあと、出来た姉を持つ妹としては感じた。宮澤エマは芸達者だと「おちょやん」で知った通り、本当にうまい。
政子、生きる意味を得心したか
政子は実衣がどうも自分を誤解して反抗的な言動を取ることには戸惑ってきただろうけれど、今回の実衣の「姉上のせいよ、姉上が頼朝と一緒になるから。なんで私までこんな人生歩まなくちゃいけないの、なんで」はグサリと胸に突き刺さったことだろう。
改めて、自分の結婚のせいで家族が影響を受け、弟妹の人生を左右したことには責任を感じたはずだ。
「私はそんな大事を決められるおなごではない」と自分が逃げ回っている間に、弟義時はすっかり闇執権になった。本心の「小四郎」はそんなことをしたいタイプの子ではなかったのに、血を分けた妹の首を刎ねる、人の心が離れようとそうでなければ政が成り立たないと叫ぶほどに、力を振りかざしている。宿老たちを尻目に「私の考えが鎌倉の考えです」と平然と言い放ち、上皇との対立にさえ強気だ。
そうさせたのは自分だったと、政子は考えさせられたはずだ。弟は悲鳴を上げていると気づいたのだと思いたい。この状況を打破するには自分が立ち上がるしかないとようやく悟り、それが「私は私の政がしてみたい」という言葉につながったように思う。
以前も引用した、丹後局が政子に言った言葉を思い出す。
丹後局:私もあなたも、大きな力を持った方に仕えた似た者同士。困ったことがあるなら、遠慮なくおっしゃい
政子:たまに心の芯が折れそうになるのです
た:でしょうね
ま:4人の子のうち3人を亡くしました。背負うものが多すぎて、慎ましやかで良かったのです。身内の誰ひとり欠けることなく・・・
た:話の途中で済まぬが、頼朝殿と一緒になったのは何年前ですか
ま:40年
た:それで、まだそんな甘えたことを言っているのですか?いい加減、覚悟を決めるのです。あの頼朝殿と結ばれたというのは、そういうこと。人並みの人生など、望んではなりません。
ま:申し訳ありません
た:何のために生まれてきたのか、何のためにつらい思いをするのか。いずれ分かる時がきます。いずれ
この「いずれ」の時がとうとう到来したのではないか。政子は、実衣を助けるだけでなく、自分が伊豆に帰らせなかったせいで苦しんできた義時の、重荷を共に背負って鎌倉を率いて行こうと覚悟を決めたのだと思う。
施餓鬼の際に人々から力を貰い、意思も固まったのだろう。(ところで、あのウメは亀の前の孫?)この後の政子は、見ていて爽快だ。
義時:三寅様はまだ幼く、この先、元服されるのを待ってから征夷大将軍となっていただきます
政子:それまではどうするのですか
よ:私が執権として政を執り行いますので不都合はないかと
ま:なりません。あなたは自分を過信しています。三寅様はまだ赤ん坊ですよ。御家人たちが大人しく従うはずがない。また鎌倉が乱れます
よ:しかし
ま:(自分を指さす)私が鎌倉殿の代わりとなりましょう
よ:姉上が(苦笑)
ま:(堂々と)もちろんです。鎌倉殿と同じ力を認めていただきます。呼び方はそうですね、尼将軍に致しましょう(ニコニコ)
義時は、姉の踏み出した輝かしい一歩を訝しんで「姉上にしては珍しい。ずいぶんと前に出るではないですか。私への戒めですか」と政子の前に立ちふさがるように闇っぷりを発揮したが、政子は「全てが自分を軸に回っていると思うのはおよしなさい」とニッコリ。この笑顔に、政子の覚悟が見えた気がする。
トキューサは頑張っている
ところで、尼将軍になってその権限で実衣の放免を決めた政子が「とうとうふたりきり」と実衣を抱いて言った時、闇張りぼてに中身まで吸収された義時はわかるけれどもトキューサは?と思わないでもなかった。
もしかして政子は、トキューサについては小四郎の忠実な下僕になっていると見ていたか、少なくとも義時を止めるには頼りにならない無力な存在だと見切っていたのかもしれない。
しかし実際は、トキューサは今回も頑張って兄に対して踏みとどまり、安全な着地にするように努力していた。バランス感覚がすごくある、末っ子ならではかもしれない。
- 妹を処刑するという兄の鬼判断を現実にしないように「兄上は本気でおっしゃっているわけではありません。それくらいの罪を犯したんだと…」と割って入った。言下に否定されたけれど。(無力①)
- 「首を刎ねる」→「女子の首を刎ねるなどという例はかつてない」→「耳と鼻を削ぎ、流罪」と刑が決した土壇場で「せめて耳たぶだけにしてあげてもらえませんか、どうかお願いします!」と懇願。これも「煩わしい、首を刎ねてしまえ」と否定されたが。耳たぶ・・・。(無力②)
- 地頭職の返上を求めてきた上皇に対して激昂する義時に、「兄上、意地の張り合いもここまでにしておきませんか」と正面から進言。これも言下に否定されたが。(無力③)
- 義時から上皇への脅しの意を含んだ千の軍勢を率いて上洛する前に「親王様をお断りするのであれば上皇様の前で頭を下げてきていただきたい」と泰時に言われ、「兄上に逆らうのか」と一旦は無力④化しかかったが「あの方の言いなりになっていてはいずれ取り返しのつかないことになります。誰かが止めなければ」との泰時の言葉にうなずく。
- 「脅しか」と軍勢について聞く上皇に、義時の本意はともかく「滅相もございません。実朝様のこと以来、どこへ行くにも護衛を連れております」と上手に言い訳。兼子のアシストもあって蹴鞠にかこつけて泰時の依頼通り上皇に頭を下げ、ケンカせずに鎌倉に狙い通りの結果(摂関家と源氏の血を引く三寅)をもたらした。
書き出してみると、本当にトキューサは頑張った。泰時は「小四郎」の心の声を代弁する存在だから、闇義時の「耳に障る」ようになって政所から排除されてしまったので、政所ではトキューサが孤軍奮闘。そして政所外で泰時と相談するようになった。
以前、トキューサは善児小屋で、泰時が兄の希望であるなら自分が兄の闇を共に被ると宣言していたけれど、その時は兄の正義を信じていたのだろう(この北条兄弟は「兄」の言葉にとても忠実。義時といいトキューサといい)。でも、今や、トキューサのバランス感覚が「やっぱり兄に完全にはついて行けない」と言っていて、泰時に乗り換えることになったのだろう。
ふたりのタッグが、泰時執権時代のひとときの安寧を作るのかと思うと胸アツだ。
息を忘れる義時の最期、キーは「のえ」か政子か
さて、最終回が迫る。ラスト前の次回で、もう義時は絶命するところまで行くのではないかとの見方もあるようだ。制作統括はラストシーンを見て窒息しそうになったらしい。きっと、見ているだけで固唾を飲み、その後呼吸をするのを忘れるような小栗旬の熱演によって、緊迫のドロドロシーンに仕上がっているのではないだろうか。
となると、やっぱり毒キノコ膳を「のえ」に食べさせられた義時が、のたうち回って死ぬのだろうか。その姿を見てほくそ笑む「のえ」、あり得そうだ。ここまでそのために「のえ」が給仕する義時の食事シーンが頻繁に仕込まれてきたのかも。菊地凛子が普通の妻を演じて終わるはずがない、とSNSでも見た。
前45回で、義時に八重と比奈と比べられてディスられた「のえ」が、今46回は最初から不満全開の表情で登場し、「そもそも八重さんも比奈さんも北条にとっては仇の血筋」と逆にディスってみせた。義時は食事中に箸を投げたが、それにめげずに「あなたと私の子が後を継ぐべき」と「のえ」は無理押し。夫婦の亀裂は深まった。
さらに、次47回予告を見たら「のえ」ははっきりと鬼の形相をしていたので、何かやってくれるはず。
今作の「のえ」は、あまり他者を慮れない、短絡的で直情的な性格だ。息子の政村でさえ、自分の立場を上げるための存在。幼いころからの母の態度を見ていて、それを政村自身も分かっていそうだ。政村は、二階堂行政と「のえ」の話を聞いていた時、唇を嚙んでいたように見えた。
彼は武士の鑑・畠山重忠の死んだ日に生まれた。このドラマのルールに従えば、生まれ変わり。だから、「北条時宗」で政村を演じた伊東四朗似ではなくて、見栄えが良い若手俳優(新原泰佑)が持ってこられているのだろうな。怪力設定なのかな。
先走ってしまうようだが、彼が泰時系の得宗家を将来支え続けるのも、母とは別人格として自分を救ってくれた兄への恩返しだろうし、そこに重忠のフェアプレー精神が生きているような気もしている。
ともかく、「のえ」は誰かに簡単に操られて犯人に仕立て上げられてしまいそう。源仲章の件は単なるリハーサル、三浦義村の手にかかって赤子の手をひねられるのではないだろうか。「のえ」の子の政村の烏帽子親が三浦義村だということで、カメラ目線の彼の笑顔に背筋がゾッとした。のえ、滅亡仕掛人・平六に関わったらダメだって!
「のえ」の兄・伊賀光季は京都守護であり、承久の乱では在京していて上皇軍に血祭りにあげられてしまう。例えばそこに、兄の死が「小四郎のせい」「小四郎に見捨てられた」と義村に刷り込まれれば、「のえ」はその方向でパッと燃え上がりそうだ。
次回のフォトギャラリーで祖父の二階堂行政と紫色の織物を手に喜んでいたが、これは亡くなる兄の京土産だったりして?
そういえば、伊賀光季と同じ京都守護だった大江殿の息子・親広は、義時の娘を妻にしているのに上皇方に付き、それでも生き延びた。
大江殿は実衣の処分について話し合った時に「尼御台、お身内だからこそ厳しく応じるべきではないでしょうか。大切な肉親でも、罪を犯したときは罰する。その時初めて御家人たちは尼御台への忠義を誓うことになるのです」と言っていたが、次回、この言葉がブーメランになりそうなところで、政子に救われるのではないか。
義時の最期については、それとも、幼い時に政子が「首を絞めたくなる」と言っていた通り、政子が命を狙った結果、絶命するのだろうか。「のえ」がやり損なったところに政子の刺客の手が迫るというのもアリか。
もちろん政子が直接的に手を下すのは無理そう、でも政子を助けたトウがいる。彼女が闇執権から尼将軍に主替えしている可能性はないのか。
この政子の狙いは、前述の通り、「小四郎」を闇執権の苦しみから解き放つためだろう。ご苦労様、もういいよ、私がお願いして以来ずっと苦しかったね、もう泰時に任せられそうだからあなたはゆっくりしてね、ということだ。
そうそう、今回、和むシーンとして泰時に忘れ物を届けに来た初との夫婦のやり取りがあったが、こういう夫婦のラブラブを見せておいて、次回はこの2人を離縁させるんじゃないかと心配になっている。
初は、史実では既に三浦に戻り、従兄と再婚していたのではなかったか。もうここまできたら、次回も最終回も、完全なるフィクションとして初&泰時は夫婦のままでいてほしい。お願い!
(ほぼ敬称略)