政子は実朝に付き、反義時を鮮明に
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は11/13に第43回「資格と死角」を放送した。政子が上洛して談判に成功し、第三代鎌倉殿の実朝が後継者を京から迎える話が現実味を増したことで、実朝&政子の喜びをよそに不穏な空気が漂った。そして、終盤の三浦義村による公暁挑発!まさかの義村による「北条を許すな」に至るワザとら芸が圧巻だった。
政子は前42回「夢のゆくえ」で、「頼家のようなことにならないと良いのだけど」と実朝を心配していた。他方、義時は「これ以上、西を大事にすれば坂東の御家人全てを敵に回します。あの御方に頼家様のようになってほしくないのです」と政子に脅しをかけ、実朝が表を退き政は宿老に任せるよう、警告していた。
その後、政子は一旦は「生き急ぐことはない、ゆっくりと時をかけ、立派な鎌倉殿になればよいのです」と弟・義時の言を入れて息子・実朝の意思を曲げさせたいような言葉を口にした。
その時、私が思い出したのは第32回「災いの種」で生き返った頼家と政子との会話のシーンだった。政子は、北条を変に守るような(彼女としたら頼家をも守るつもりだったとは思う)中途半端な立ち位置で比企の乱の「真実」を創作して頼家に説明したものだから、彼の中で自分には真実を語らない母として、決定的に信頼を失った。
頼家:比企は滅んだということですか
政子:誰もあなたが目を覚ますと思ってなかった。館に火を放ち命を絶ちました。あなたひとりを死なせることはできなかったのでしょう。本当のことです
頼家:北条の奴らだ
政子:あの人たちは、自ら命を絶ったのです
頼家:そんな訳がないではないか。やめてください
政子:忘れるのです。断ち切るのです
頼家:できません
政子:何のために生き永らえたか考えて
頼家:善哉は?
政子:三浦が守っています。つつじも
頼家:北条を儂は絶対に許さん!出ていってくれ、お願いだから
適当なメモを適当に起こしたので間違っているかもしれないが、この場面を思い出した。だから、ああ政子、二の轍を踏むのか、長男に続いて次男の信頼まで失うのかと危ぶんだ。
ところが実朝の場合はそうはならなかった。前回の最後では、政子は息子の側に立つことを決め、皆の前で旗幟を鮮明にしたからだ。大江広元に相談して、サポートを得てのことだった。
政子:もちろん、実朝には好きなようにやらせてあげたい。でもそれが、あの子の命を縮めるようなことになるとしたら
大江:鎌倉殿は、後ろ盾として上皇様をお選びになった。頼朝様のお考えとは異なるかもしれませんが、世は変わりました。今なら、あの御方はご子息にどうおっしゃるか。むろん、小四郎殿にも一理ございます。後は尼御台のお気持ちひとつ
前回の話だけれど、大江殿はなぜこう政子に言ったのか、ちょっと引っ掛かっていた。「世は変わった」と言っても、坂東武者はその変化について行ってなどいないだろう。そうしたら、自分たちの考えから浮き上がった鎌倉殿など危なっかしく見えるだけだ。政子愛に浮かれる大江殿は、それも見えなくなったのか、それとも何か裏にあるのか。
次回描かれるはずの惨劇を知っていれば、政子の当初の心配は正しかったんだよ、と悲しくなる。「とんでもない♪」と前回とっても可愛かった千世さんが、泣くのだな。
前回終盤の畳みかけで、「新世界」がバックに流れる中、政子は「都のやんごとなき貴族から養子を取り、実現すればこれ以上の喜びはございません」と澄ました顔で言って実朝を喜ばせたが、代わりに義時は「このままでは済まさん!」と怒り心頭だった。
結局、今43回では政子は、後鳥羽上皇との間で話が進む養子をしっかりと実現させるために上京し、卿二位藤原兼子と話をまとめてくる。丹後局にやり込められていた頃の政子とは違い、兼子を掌で転がすように味方に取り込んだのは痛快だった。
大満足の結果を得て鎌倉に戻った政子は、実朝とキャッキャと喜び合っていたけれど、義時の「これ以上、西を大事にすれば坂東の御家人全てを敵に回します。あの御方に頼家様のようになってほしくない」は頭から消してしまったかのようだった。
義時は主人公らしからぬ真っ黒な張りぼてまで被り、自分のやりたくないことまでやって坂東武者のための鎌倉を作る(&そしてそのてっぺんに北条が立つ)ことに邁進してきたのだ。このままで済む訳がない。
「かおはいいのに」源仲章が増長、死亡フラグが立つ
後鳥羽上皇の親王をもらい受ける話がほぼ固まったことで、実朝は大喜び、政子も満足げ。そこに増長し始めたのが源仲章だった。前42回の終盤では、
仲章:鎌倉殿より伺っております。後継ぎの件、早々に上皇様と相談し、しかるべき御人を見つけたいと思っております。失礼
と、義時に対して不遜な態度ながら敬語で話をしていた。トキューサは「腹の立つ顔だ」と愚痴ったように、明らかに不遜が顔に出た仲章。そして、今43回で仲章は、とうとう義時に嫌味たっぷりにタメ口を叩くようになった。
仲章:北条殿(義時を呼び止める)。めでたい事づくし。頼仁親王様が鎌倉殿になられた暁には、この源仲章がいわば関白として支え、政を進めていく
義時:決まっているような言い方ですな
仲章:(笑って)朝廷と鎌倉を結ぶ役割に、私より適任のものがいれば教えてくれよ。執権殿は伊豆にでも帰られ、ゆっくり余生を過ごされよ
義時:かねてより望んでいたことにございます
仲章:そうなったら、私が執権になろうかな!ハハハハハハ(高笑い)
この見事に憎々し気な高笑い。生田斗真の顔芸すごい(そういえば、実衣の息子の頼全誅殺の時もそうだった)。仲章を見ていると、義時が主人公だったことをこちらも思い出し、義時の心情に寄り添うことができそうな気にもなるし、義時が武士であること(=すぐ殺す)を忘れて調子に乗った都人仲章の死亡フラグもしっかり立ったように思う。トキューサの「腹の立つ顔だ」を活かした、ツイッターで評判になっていた一句は、とにかくぴったりだ。
みなもとの なんかはらたつ なかあきら かおはいいのに かおはいいのに
あの烏帽子の中にチーズ入れたろかと何度思ったことか。#殿絵 #鎌倉絵 #鎌倉の13人 pic.twitter.com/wVn4H3MJdS
— 麦味噌 (@monomozuku) October 16, 2022
視聴者が義時寄りのスタンスを取り戻す同情ポイントは、もう1つあった。仲章のことを警告するため、義時は泰時に会いに来た。そこで彼は、珍しく真っ黒張りぼてを脱ぎ、ひととき本来の姿で息子に対峙したのだ。
義時:お前は私をよく思っておらぬ
泰時:お待ちください
義時:わかっている。しかし私はお前を認めている。いずれお前は執権になる。お前なら私が目指していてなれなかったものになれる。その時、必ずあの男が立ちはだかる。源仲章の好きにさせてはならぬ。だから、今から気を付けよ。借りを作るな
泰時:ご安心ください。私も讃岐守はご辞退申し上げようと思っていたところです。気が・・・合いましたね
義時:・・・帰る。親王を将軍に迎え入れる件、受け入れることにした。つまり、親王はこちらにとっては人質だ
泰時:人質・・・お待ちください。父上が目指してなれなかったものとは何ですか?
義時:(無言で出ていく)
泰時:(やるせない顔)
義時は、「帰る」の後は、サッと真っ黒張りぼてを被ってダークな体での話しぶりになった。「気が合いましたね」と息子に言われ、照れたか。
それから、「仲章に借りを作るな」と息子に言った傍から、まさか妻「のえ」が仲章に籠絡されて「借り」以上のまずい事態になるだなんて・・・といった展開に次回はなりそう。
仲章が「のえ」伊賀の方にちょっかいを出したことで、義時は仲章殺害の意思を固めただろう。さすが武士、争いごとは暴力で決着をつける。さらに、仲章とのことが露見してうろたえる「のえ」を、彼の死がさらに追い詰め、伊賀氏の乱の下地に・・・と持っていきそうな気がする。
しかし、泰時はうれしい言葉を親に言われたものだ。こんな風に親に認められていると真っすぐ言われた泰時は、義時のダーク張りぼてにはいつ気づくのか。いつだったか修羅の道は「私のためですか」と聞いて「そうだ」と義時が答えたのを、泰時は覚えているかな。
泣くよね、普通は。親が本当に自分のためにと考えて、露払いのように、やりたくもない修羅の道を歩んでいると知ったら。「鎌倉殿の13人」の主人公は争いを勝ち抜いた勝者のはずだったが、そういう悲しいダークヒーローなんだな。
切り替えの早い三浦義村、実はぶれずに義時派
さて、源仲章に煽られるだけ煽られて、真っ黒ダーク張りぼてを更に怒りの炎に包んでいる義時のダーク思考を正確に把握しているのは、三浦義村だろう。彼は筋肉に自信があるだけじゃなく、頭がいいことは視聴者ならわかっている。そして、義時の刎頚之友だと比企の乱で自称していた。とても重い言葉だ。
義村、義時は所謂ズッ友。さらに言うと、義村は義時のことずっと好きだったんじゃないのかな?と「かしまし歴史チャンネル」のきりゅうさん張りの「腐った眼」で見て思う。その義村なら、どう動くか考えてみたい。
今43回の序盤では、義村は「頼家様より賢い」等と公暁を持ち上げ、「(実朝は)未だにお子ができず、鎌倉殿は側室を持とうとされない。だったら若君(公暁)で(後継ぎは)決まりではないか?」と意気揚々だった。乳人の発言力は絶大。公暁の鎌倉殿就任で、三浦が北条の上を行く日も近いと考えていたかもしれない。
しかし、まさかの実朝の養子話。それを聞いて「おかしいだろ!」「いずれ鎌倉は西の奴らに乗っ取られるぞ!」と怒鳴ったが、それは義時も同じく抱いている恐れだったと思う。
義村は「これが帝のお子だったら、俺も納得してやるよ」と義時と実衣に本音をぶつけていたが、まさかのソレが出来。義村も「御家人たちもみな喜ぶと思います」と主だった13人の前で、実朝に言わされることになった。ちなみに義時も「実現すれば、これに勝る喜びはございません」と義村の直前に言わされていた。歩調は揃っている。
そして、公暁の鎌倉殿になる目はなくなった。義村は、公暁を乳人として世話を焼いてきたが、それは三浦のため。弟・胤義に「このままでは若君は一生鎌倉殿にはなれん」「三浦が這い上がる最後の好機なんだ。何とかしなければ」と言ったが、「何とかする」の意味は、義村の中では「必ず公暁を鎌倉殿にしなければ」ではなく「三浦が這い上がれればいい」。そこが大事だ。
それが、終盤の公暁への白々しいほどの挑発につながったと思う。義村は切り替えたのだ。そして、それは刎頚之友・義時と話し合った上でだろう。そうでなければあそこまで「北条を許すな」と言えるか。
つまり、次回の実朝(&仲章)暗殺の黒幕は、義時と義村だと予想する。
今後、鎌倉殿になれない公暁は、三浦にとってはお荷物。キャラが父の頼家とかぶる公暁は、千日参籠も平気でリセットしてルールを勝手に変えるし、13人での話し合いでの場でも目下への配慮がない(次回「審判の日」タイトル、13人目のユダは公暁だった)。信頼できない奴は、そうなったら、邪魔なだけだ。
ダークと言われる義時だが、義村は手先となって実際に手を汚してきた。畠山重忠の乱では、乱の始めに畠山嫡男・重保を騙し討ちし、締めくくりで畠山の従弟・稲毛重成を誅殺。和田の乱では、自身の従兄の和田義盛を裏切って義時に情報を流し、ドラマでは「放て」と義盛を射殺す指示を出している。
だから、自分が焚きつけた暗殺実行犯の公暁を殺すことも「若君、すまない」の一言を唱えるぐらいで、義村は実行できるだろう。(そんな兄を見て、胤義は京へと出奔するのかな。)
どう見ても、義村の義時への献身が過ぎるけど・・・好きなんじゃないかなー(腐った眼)。
一方の義時も「このままでは済まさん」と言っていた言葉の通りだ。京に傾倒する鎌倉殿など鎌倉のためにはならないと、京の代理人・源仲章とまとめて処分する気になってるだろうと思う。
「従三位🎵」とポーズを決めてキャッキャウフフと養子の話を決めて喜び合っていた政子と実朝親子の姿が悲しいが、ダーク義時は絶対反撃するよ、うん。
ドラマの結末について考えたこと
まさかと思ったが、今回は大江殿が政子に愛の告白をした。
「私は頼朝様に呼ばれ鎌倉に参りました。その後、頼家様、実朝様と代は変わりましたが、私がお仕えしてきた方はただ一人、尼御台にございます」「大江広元、二度と両の眼でハッキリと尼御台を見ること叶いませんが、心の目には今もありありと、そのお姿が浮かびます」
政子は「重すぎます」といなして大江殿はシュンとしていたが、彼は政子のブレーンとして彼女を支えていく気だろう。政子もそれを期待している。
言葉では尼御台一筋と語った大江殿は、以前も書いたように、私の目には頼朝の後は義時をバックアップしてきたように見えた。「鎌倉幕府は大江幕府」とSNSでも見かけたが、正に、彼の知識と考えをベースに、幕府は動いてきた。
それが、「シンクタンク大江」は今、義時から政子へと移行している。大江殿は義時の下を去ったのだ。その意味は大きいのではないか。
大江殿は、自分が付いた人にとって邪魔になる人をサクサク排除して道を付けていく人。政子VS.義時が表面化した今、次回で実朝が義時&義村の指金で公暁に暗殺されたとしたら、政子は義時への復讐を考えるかもしれない。少なくとも、それが頭に浮かぶぐらい、実朝を失って悲嘆はするだろう。
愛する女性が子を殺されて悲嘆する様を前に、大江殿はどうするだろう?今作の大江殿は、わざわざ愛の告白までしているのだ。そして・・・いきなり和田合戦の際に見せた剣の腕は何を意味する?
文官が、バッサバッサと敵を斬りさばいて偽義朝のドクロを取りに行くという、ちょっと唐突なあの活躍シーン。三谷幸喜の脚本では、笑えるエピソードが後に形を変えたリフレインで重要シーンになったりする(「これは何ですか?」の頼朝と政子のやりとりとか)ので、ちょっと気になっている。
家族は「これは、最終的に義時を殺すのは大江殿だな」と言い始めた。
このドラマの結末について、政子役の小池栄子は「口あんぐり」だと言った。それぐらいの驚きとなると、もしやもしや・・・政子のために、「政子の鎌倉」のために、義時殺害の方向に大江殿が動くのではないだろうか。「私にお任せを」とか言って。
「最も頼りになる者は最も恐ろしい」との大江殿の言葉を、本人が体現する訳だ。まさか、病で目が見えなくなったとの話も、義時の下を離れて政子の下に来るための策だったりして。剣豪大江殿は、何か計算しているところがあるのかもしれない。
大江殿の意を含んだ毒キノコ膳をニコニコと義時に運ぶのが、侍女姿の長澤まさみだったら面白い。「のえ」は、大江殿の罪を擦り付けられる、という方向でどうだろう。(原則敬称略)