人質交換成功、瀬名母子は無事に松平へ
NHK大河ドラマ「どうする家康」の第6回「続・瀬名奪還作戦」が2/12に放送され、元康の下に愛妻瀬名と竹千代、亀姫の3人が無事にやってくることができた。とりあえず一安心といったところだが、まずは公式サイトからのあらすじを引用しておく。
今川氏真(溝端淳平)は元康(松本潤)に対し「降伏しなければ瀬名(有村架純)たちを皆殺しにする」と通達した。本多正信(松山ケンイチ)からは「今川家重臣を生け捕りにし、瀬名たちと人質交換する」という更なる秘策を提案され、実現困難ともいえる大胆な策だが、元康はすべてを託すことに。正信の命を受けた半蔵(山田孝之)は難攻不落の上ノ郷城に忍び込み、やがて火の手が上がる。その炎は成功の合図なのか、それとも…。(これまでのあらすじ | 大河ドラマ「どうする家康」 - NHK)
・・・この「あらすじ」を読むと、ちょっと見逃せないと言うか・・・軽く突っ込みたくなる。
氏真が「降伏しなければ瀬名たち皆殺し」を元康に対して通達したという場面、あったかな?確かに前回「寛大なご処分を」と嘆願した田鶴に氏真が関口家は死罪だと宣言したり、今回、氏真が瀬名たち関口家に対して「元康が余の軍門に下るのを良しとしなければ、ヤツの目の前でそなたたちの首を刎ねる」と駿府を出る前に言った場面はあったと思うのだけれど、元康には?微妙に話が違う。
それに、氏真から通達が来ていたとしたら、以下の松平家中のやり取りは少し変だ。
数正:殿!今川本軍、吉田城に入りました。
元康:そうか。
正信:すぐ近くに今川氏真が来てるってことですか。こりゃおっかねえや。
数正:殿、また物見によると・・・これは確かではありませぬが・・・。
元康:何じゃ?
数正:お方様とお子様方、それに関口夫妻も縄で縛られ引き連れられておると。
元康:何?2つや3つの子もか!
正信:まあまあ。向こうから人質を連れてきてくれたと考えましょう。話が早えや。
数正:いずれにせよ、明日には着陣します。
正信:本軍が来ちまったら退かざるをえないですな。機は今宵限りか・・・。
もし「あらすじ」の通りに人質交換作戦発動前に氏真から元康にはっきり通達が来ていたなら、数正も「確かではありませぬが」なんて物見の情報に頼ってこんなことを言っていなくても良さそうなんだけどな。
1回目の服部党の作戦が失敗し、次の策として人質交換作戦を正信と半蔵から提案され話し合っていた時、松平軍から氏真軍はまだ遠く駿府にいたはずでは?上ノ郷城を攻撃する時点でも、松平軍は氏真軍が来たら「退かざるをえない」「機は今宵限り」と正信は言っている。つまり、逆に考えて今川の軍門に一方的に下るか下らないか迫られる局面には見えない。だから、元康への通告なんて本当に事前にあったのかな?と思った。
次に、「正信の命を受けた半蔵」と書かれているのもおかしい。半蔵は、間接的ではなくて元康から直接の命を受けていた。「あらすじ」担当者、ドラマを見ずに資料だけで書いてないかな?
元康:策とは、策とは何じゃ。
服部半蔵:戦のどさくさに紛れて上之郷城に忍び入ります。
本多正信:鵜殿長照とそのふたりの子、生け捕りに致しまする!
元康:生け捕る?鵜殿家と関口家を取り換えるということか。
正信:いかにも。
酒井忠次:今川氏真、応じるだろうか。
正信:応じるに決まっています!今川家に最も忠義が厚い一門衆の鵜殿家をもし見殺しにすれば、もはや今川に味方するものはおらんようになりますでな。
元康:生け捕りにできるのか?
正信:服部党は必ずやり遂げまする。
元康:半蔵!
半蔵:俺らはできるかできねえかでは考えませぬ。やれと言われたことをやるのみ。
石川数正:わずかにでも望みがあるのならやりましょうぞ。
元康:半蔵
半蔵:はっ。
元康:やれ。
半蔵:はっ。
正信:はあ~。(首の皮がつながった安堵のため息)
ムズムズしていたことはもう1つある。そもそも、人質交換の件は「実現困難ともいえる大胆な策」と書いてるけど・・・この「あらすじ」だけじゃなくドラマ本編でも、昔、元康本人が子ども時代に経験した有名な人質交換の話に触れないのは何故なのだろうか?
織田家に囚われた竹千代(元康)は、今川の軍師・太原雪斎が捕らえた織田信秀の庶長子の信広と「人質替え」された事があり、今回描かれた鵜殿長照の子らを捕えて人質交換にする作戦は、三河衆も関わった元康自らの過去の実体験から出てきた策だと考えるのが自然だ。だが、今作ではそれは無かったことになっているのか。
せっかくドラマのような本当の話らしいのに、ムダにするなんてもったいない。それとも、人質交換が元康の二番煎じでは、手垢のついた策だと視聴者に思われると思ったのかな?
そういえば、「どうする家康」では信長にいたぶられていた尾張での白兎時代のインパクトが強くて、どうやって尾張から抜け出して駿府の今川へと移ったのかが思い出せないけど、どうなっていたっけ。人質交換の結果じゃないとすれば何?
忍者の活躍、創作のようで創作じゃない
上ノ郷城攻めでは、城攻めの大将に!と元康母の於大の方が無理押しした久松長家があっけなく「引け~!」と押し返されていたのがおかしかった。榊原康政も、ボロボロの備えで「一番乗り~」と繰り返し叫んで笑いを取り、小平太(康政)を助けないと言いながらも助けた本多忠勝がいてこその初陣だった。
忠勝と康政は、酒井忠次と共に今後、四天王となるかと思うと楽しみなふたりだ。もう1人の井伊直政の登場はまだなのかな?「青天を衝け」で徳川昭武を好演した中の人が演じると聞いて、楽しみにしているのだけど。
さて、通常の兵力も使いながら、並行して忍びの者が活躍した攻城戦としてこの上ノ郷城攻めは有名なのだそうで、初めて知った。ただ敵の大将首を取って陥落させればいいのではなく、人質を生け捕りにしなければならない高度なミッションがあったから、忍びも投入されたのだろう。
守備兵を騙し討ちし、すり替わった半蔵や女大鼠らがまず入城。忍び達は死体に化けて倒れて待ち構え、櫓上から合図の鉛玉が彼らの上にパラパラと落とされる。遠吠えがサイレンのように夜空に響く中、忍びたちはゾンビのように起き上がり、両手の苦無を突き刺しながら絶壁を登り、続々と城に潜入していく。文句なくワクワクした。
そして、観念して息子たちを逃がそうとした鵜殿長照だったが、死の間際に視線を送ってしまったがために息子たちの行方を女大鼠に知られ、息子たちは生け捕られた。
知らせを受けた時に、本多正信が鵜殿長照自害の報告では服部党を責めたのに、直後の生け捕り成功の報告では打って変わって服部党を誉めそやしたのが、安定のイカサマ師ぶりだった。もちろん、事前に甲賀忍者にも声をかけてあったのも、イカサマ師設定として抜かりなかった。彼は、交渉に行くとなったら古傷が痛みだすし、人質交換の場でも榊原康政の陰に隠れて弾除けにしていたりと胡散臭さが期待通り徹底していた。
(そういえば、本多正信と服部半蔵は「こうが」と呼んだが、当の甲賀忍者の伴与七郎は「こうか」と濁らず発音していた。本当は「こうか」なのに一般的に「こうが」呼びされている、というのを示したかった?芸が細かい。)
公式サイトの「あらすじ」には、上ノ郷城に服部半蔵らが忍び込み、城から「火の手が上がる」と書いてあったが、普通に「火の手」と言って連想する火災よりも、ドラマでは派手な花火が打ちあがった。これも、当時の忍びの道具に合った設定らしい。やるなあ!
忍者の活躍について、ドラマの時代考証のひとり平山優先生も
「忍びの使い方が非常にうまかったですよね」「山田雄司先生(三重大学教授)に忍者の考証をしていただいて、本当の戦国の忍びの連中がリアルに動いている!という感じがしましたね」
「実際に上之郷城を攻めた時には、伊賀者が突破口を開いたと『武徳編年集成』などにも記録されていますので、そういったところがドラマのストーリーに生かされていて、違和感なく観ることができました」(大河と歴史の裏話 話し手・平山 優(歴史学者) | コラム | 大河ドラマ「どうする家康」 - NHK)
と、公式サイトで始まったコラム「ゆるっと解説 大河と歴史の裏話」で話されている。SNSを眺めていると、忍者のアクションシーンがクローズアップされただけで胡散臭い作り物扱いで眉を顰める人もいたようだったが、実は最近の研究の成果が存分に生かされてのドラマ作りがされていたとわかる。
そういえば、数年前のお城サミットでも平山先生は忍びについて講演されていたような。磯田道史先生も、忍びの者について文書を喜々として読み漁っている話を新聞のコラムに書いていて、忍者系の研究が最近は殊に進んでいるんだなあと思った覚えがある。
今回の忍者活躍については、お気に入りのYouTube動画「かしまし歴史チャンネル」でも「服部半蔵は忍者だったのか?」というタイトルで解説があった。きりゅうさんは半蔵の手裏剣が投げるたびに後ろに飛んでいくので「今後の伏線ではないのか」「そのうち家康さんの命を助けるとかあるんじゃないのか」と指摘していたが、確かに!単にヘタクソで笑わせるためだけじゃないのかもしれない。期待しておこう。
真矢ミキ、あれでは終わらなかった
それで、瀬名と竹千世、亀姫の母子3人は、鵜殿家の氏長・氏次兄弟との交換ということになった。上ノ郷城が陥落して、吉田城に滞在する氏真と取引をするため、松平軍が人質を引き連れて城の前を流れる川の対岸に陣を敷いた、という形になっていたと思う。
城中には瀬名の父母である関口夫妻も来ていたが、石川数正が人質交換の使者としてやって来た時の長いやり取りが、俳優陣の力が入っていて、泣かせた。数正は関口夫妻を含めた5人と鵜殿兄弟の交換を申し出たが、関口夫妻は娘と孫のために罪を負うとして断った。
今川氏真:上ノ郷が落ちた。卑しき忍び達を使い、夜討ちをしたらしい。武士らしく正々堂々と戦うことすらできぬようじゃ、そなたの夫は。もはや一片の情けをかけるにも価せぬ。彼奴に届けてやることにした、そなたたち一同の首を!岡部よ、子どもからやれ。親の死ぬるところを見せるのは不憫というもの。せめてもの情けじゃ。
竹千代:あっぷっぷ!
瀬名:竹・・・(すすり泣く)
(半鐘の音)
兵:御屋形様!松平勢が城外に!
氏真:元康!
(略。石川数正が使者として到来)
石川数正:お久しゅうございます駿府様。お目通り叶い恐悦至極。
氏真:余と取引とは偉くなったものよの。
数正:恐れながら駿府様に取りましても決して悪い取引ではござらぬかと。
氏真:ハハハハハ。三河者というのは算術もできぬらしい。そちらは二人。こちらは五人。数が合わぬ。
数正:しかしながら忠義の者のご子息を見殺しにしたとあれば駿府様の御名にもお傷が!
氏真:大きなお世話じゃ!この今川氏真、薄汚い逆賊と取引はせぬ。関口家の者どもと共にお主の首を元康に送りつける。それが余の返事じゃ。岡部、やれ。
数正:駿府様!
氏真:気安く呼ぶな!
数正:今も今川に忠義を尽くすご家来衆がどう思うか!この岡部様とて!
氏真:黙れ~!どいつもこいつも余を裏切りおって!余が元康にどれだけ目をかけていたか!我が父がお前たち三河者のことをどれだけ・・・!恩知らずの薄情者どもが!岡部、数正を斬れ。(刀を構えつつもためらう岡部)斬れ!おのれ~早う斬らぬか!
巴:お待ちなされ!みっとものうございますぞ、御屋形様。
氏真:何だと?
巴:お気持ちが昂ると抑えられず、つい喚き散らす。私がお守りをしていた幼き頃から少しもお変わりにならぬ。そんなことだから皆、離れていくのです!
氏真:ハッ、無礼者めが。お前から殺してやる。
巴:是非ともそうしていただきとうございます。私と夫はここに残り、責めを負いまする。のう?旦那様。
関口氏純:さよう。我ら夫婦を御成敗なされば御屋形様の面目も保てましょう。そして二人と三人の取引ならば悪くもないはず。よって何卒、娘と孫だけはお助けいただき、どうか松平との取引に応じてくださいますようお願い申し上げまする!
巴:お願い申し上げまする!
瀬名:父上、母上。何を申されます!
氏純:御屋形様!どうか前途有為なる鵜殿の兄弟をお救いくださいませ!
巴:太守様なら・・・義元公ならば必ずやそうなさいましょうぞ。
氏純:我らとて今川家が衰えていくことなど望んでおりませぬ。どうかお家を立て直されませ!
瀬名:嫌です・・・瀬名は嫌です!
氏純:そなたは黙っておれ。
瀬名:黙りません!
氏純:バカを申すな!
瀬名:でも・・・。
氏真:(壇上に置いてある父義元の遺品を手に取り、じっと見る)
前回、田鶴にお別れを言いたかったと情報を漏らしたせいで服部党の失敗を招き、やっちゃった感のあった巴。ここで汚名挽回、見事にカッコ良い役回りで「太守様だったら」「義元様なら」で氏真のハートを撃ち抜き、自ら処断を申し出て、娘と孫を救う道を開いた。さすが、ただでは終わりませんね、真矢ミキだもんね。
そして、巴の言葉は瀬名のフラグも建てた。「瀬名、そなたが命を懸けるべき時は、いずれ必ず来ます」。誰かを救うために命を懸けるんだね、瀬名。周知のとおり、失敗しちゃうんだけれどもね。そして神君を守るために幕府によって悪女にされちゃうんだけどね、悲しいね。
てっきり、これまでの通説通りに関口夫妻はこの瀬名脱出を機に命を落とすと考えていたのだけれど、そんな場面はなかった。ということは、最近の説のように関口夫妻は立場を落としながらも今川家中で生き延びるのか。
なるほど、それなら納得できる。後年、駿河を追われた氏真に対して、家康が城を持たせたり援助することがあるけれど、ここで瀬名母子や関口夫妻をむごたらしく殺していたらとてもそんなこと家康は許せないのではないか。瀬名母子と関口夫妻の命をここで助けたことが、氏真の命もつなぐことになるのでは。
義元の死以来、亡き偉大な父が恋しいと口にする暇も無かった様子の氏真。ラストシーン、氏真の「父上」のつぶやきが悲しかった。溝端淳平もいい役者さんだ、長いシーンでの数多い長セリフ。大変だ。
(ほぼ敬称略)