黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

【どうする家康】#28 恋愛コメディの主人公は、寄せられる愛に鈍感

岡田信長&松潤家康、本能寺の「恋」

 NHK大河ドラマ「どうする家康」第28回「本能寺の変」が7/23の先週放送され、あまりにも有名な戦国武将・織田信長が討たれた。

 今の時点で、多分そうだ。まだ茶屋四郎次郎がセリフで言うだけで武田勝頼のように首を画面で拝見した訳じゃないので、今作の場合、一応ね、警戒はしておく。遺骸を回収したという阿弥陀寺のお坊さんたちも出てこないし。

 こんなことを440年も経っている後世の人間までが書いたりするぐらいだから、当時の人間は本当に疑心暗鬼になっただろうなあ。信長の、首を含めて、亡骸が晒されることは無かったから。「上様は死んでない」と秀吉みたいに喧伝する人間がいれば、余計に迷うよね。

 敵将の首を上げ、公衆に晒すという行為は残酷だが、ただそれだけじゃない。後続政権の成立に関わる問題だ。もし光秀がすみやかに信長の首を晒せていたら、三日天下は避けられたのだろうか。

 今作の光秀の場合、人望の点で無理そうだけれど、「麒麟がくる」の十兵衛光秀なら?何かできそうじゃない?

 さて、今回も公式サイトから、あらすじを引用する。

信長(岡田准一)が本能寺へ入ったという知らせを受け、家康(松本潤)は堺へ向かう。堺の商人たちと手を結び、家康は信長を討った後の体制も盤石に整えていた。だが、そこにお市(北川景子)が現れる。市から、あることを聞かされ、家康は戸惑う。信長を討つなら今夜しかないーー家康は、一世一代の決断を迫られる。そして迎えた夜明け、本能寺は何者かの襲撃を受け、炎に包まれ・・・。(これまでのあらすじ | 大河ドラマ「どうする家康」 - NHK

 鉄砲の買い付けの算段は着けていたようだったが、堺では有名どころと接待ゴルフを重ねていただけでは?あれで「盤石の体制に整えて」家臣の鼻を明かすほどの戦略的な行動を家康が取っていたのかな。金の手当てができればすべて丸く収まるか。細かい話だけど。

 しかし、準備万端と家臣に言いながら、家康は悩んでいた。堺に突然現れたお市の言葉「あなた様は兄のたった一人の友ですもの」に悩み、瀬名の言葉「兎はず~っと強うございます。狼よりもずっとずっと強うございます。あなたならできます」を思い出し、信長を討つ決断ができない。信長の「待っててやるさ」まで脳裏には浮かぶ。こうなったら無理だろう。

 ところで、木彫りの兎を手に家康が叫び、寝ずに起きている家臣たちが耳を傾けている描写ってカッコイイの?夜中に叫ぶのはご近所迷惑、あまりに独りよがりで少年漫画っぽい。

 だいたい、いい大人の名のある武将が、自制心はどこへ。この人たちの生育過程で受けてきた鍛錬が、軽々しく叫ばせたりしないだろう。他人に弱みを見せるようなもので、白けちゃったのは私だけか?悩んでたら何をしてもいいのか。

 さて、こうして史実通りの本能寺の変が家康抜きで起きる訳だが、翌朝(変の当日)、家臣に言った

情けないが、決断できぬ。今のわしには到底成し遂げられぬ。無謀なることで皆を危険に曝すわけにもいかぬ。全ては・・・全ては我が未熟さ。すまぬ

で泣くところが、誠に「どう家」の主人公らしい、兎だ。憑き物が落ちたな。

 その殿に寄り添い、「お力になれず申し訳ない」「今はまだ、その時ではないということ」「いずれ必ず、その時は来る」「いずれ必ず、天下を取りましょうぞ」「それまで御方様の思い、大切に育みましょうぞ」と励ます家臣達は、本当にやさしい。

 憑き物が落ちる鍵になったお市との会話を引用しておこう。

お市:兄を恨んでおいででしょう。

家康:(張り付いたような表情で)とんでもない。

お市:私は、恨んでおります。(家康、遠くで厳しい顔)もっとも、兄ほど恨みを買っている者はこの世におりますまい。でも、あなた様は安泰。兄は決して、あなた様には手を出しませぬ。

家康:(訝しみ、近くに来て座る)何故?

お市:あなた様は、兄のたった一人の友ですもの。

家康:友・・・?

お市:兄は、ずっとそう思っております。

家康:(顔を背けて)まさか。(家臣たちも裏で話を聞いている)

お市:皆から恐れられ、誰からも愛されず、お山のてっぺんで独りぼっち。心を許すたった一人の友には憎まれている。(家康がお市を見つめる)あれほど哀れな人はおりませぬ。きっと、兄の人生で楽しかったのはほんのひととき。家を飛び出し、竹殿たちと相撲を取って遊んでいたあの頃だけでしょう。

 たまに思う事があります。いずれ誰かに討たれるのなら、あなた様に討たれたい。兄はそう思っているのではと。兄は、あなた様が羨ましいのでしょう。弱くて、優しくて(覗いている家臣の方を見て)皆から好かれて。兄が遠い昔に捨てさせられたものを、ず~っと持ち続けておられるから。

 出過ぎたことを申しました。そろそろ岐阜へ帰ります。また、お会いできますよう。(互いに例を交わし、お市は退出。名残惜しそうに廊下で振り返る)

 前回の「安土城の決闘」が、信長からの「愛の告白」としかみえない「決闘」だったのだから、いい加減信長の気持ちに気づいてあげようね、家康よ。

 信長は、正直にトップに立つ己の限界を見せ、涙を流して声を震わせ、君ももらい泣きしていたじゃないか。「本当にお前が俺の代わりをやる覚悟があるなら俺を討て、待っててやるさ」とまで言われていたじゃないか。まだお市の話に怪訝な素振りをするなんて、分かりが悪すぎる。

 妻子を失ったショックが大きすぎ、「弱き兎が狼を食らう」思考にすっかり自己陶酔か?そして、妻子を殺す原因が信長だから、お市に言われるまで信長から寄せられる愛にしっくりきていなかった?

 これはまあ、少女マンガや恋愛ドラマでよく見る話。主人公はなぜかとても鈍感で、誰かに指摘されるまで、寄せられている大きな愛に気づかないのさ❤テンプレだ。

 そして「本能寺の変」なんだけどね・・・変じゃなくて恋バナになってる。変の最中、信長の意識にあることが「家康」一択って。そんな事があるか。かわいそうな嫡男信忠、そして五男の御坊丸(信房・勝長)。この変の際に京で討たれているが、父に一顧だにされず今作ではキャスティングさえもされていないっぽい。

 念のために書くと、ドラマでは信長の家康への気持ちを「恋愛」としてドーンと押し出している訳ではない。「唯一の友」への友情だと、お市も言っている。その友情が暑苦しくて依存的な理由としては、お得意パターンである厳しすぎる父からの呪いだ。

信秀:信じられるのは己ひとり。それが己の道じゃ!(略)

信長:己ただ一人の道を行けと?

信秀:そうじゃ。どうしても耐え難ければ、心を許すのは一人だけにしておけ。こいつになら殺されても悔いはないと思う友を、一人だけ。

 孤独な信長が、縋りつくように家康を求めたのだ。しかし、信長の妻妾が一切出てこない今作、友情の範囲にその感情は収まるのだろうか?

 創業者が少年への性加害で大問題になっている「ジャニーズ」俳優のふたりが、NHKの看板・大河ドラマで、渾身の同性間の恋愛を演じているんだろうなと、私は興味深く見たが。(少なくとも信長➡家康)

 実は目論見はそこら辺にあるのか。同性間の恋愛に、大河を通じて市民権を与えるという。(ジャニーの性加害を容認するのとは全く違う。)それが信長&家康の「本能寺の変」だ。

 光秀と信長の関係を掘り下げた「麒麟がくる」とは全然違う。いちばんしっくりきた本能寺の変としては、私の中ではまだ「麒麟」が勝ち残っている。

岡田信長の言葉で気づいた「今作はコメディ」

 それと、NHK+で岡田准一のインタビューを見ていて、大事なことに改めて気づいた。安土城のある滋賀県近江八幡市での7/16のトークショー「本能寺の変直前SP信長・岡田准一、安土城の地・近江八幡で語る」だ。

 「どうする家康」の脚本家・古沢良太は、岡田准一曰く、「展開を作っていく事で物語を動かされる方」「人物を描かれる脚本家」「コメディが得意な方」。コメディが得意・・・そうだった。

 コメディ作家と言えば、比べて何だが、三谷幸喜というコメディの稀代のヒットメーカーは、「鎌倉殿の13人」「真田丸」「新選組!」を書いても、たまに滑るギャグが入るくらいで王道の大河ドラマとして成立させていた。さすが根っからの大河好き。「コメディ作家だが大河も一流のものが書ける」というところ。

 一方、今作はどうやら、コメディの得意な作家が、タイトルもいきなりコメディだと分かりやすい「どうする家康」を書いている。最初からコメディだったんだよ・・・「大河ドラマ」枠など何のその、コメディが得意な作家が、歴史と潤沢な受信料を使ってコメディを正面からぶつけてきている。そう考えて見るべきだった。

 そう気づくと、信長の血染めの真っ赤過ぎる着物も、信長のひと振りで明智方の兵が3人ぐらいは一気にぶっ倒されたり串刺しにされているのも、昔懐かしい時代劇か、香港映画のオーバーアクションっぽくて納得。「様々な武術の卓越した技に裏打ちされた、岡田師範の素晴らしい殺陣を皆さんご堪能ください」のショータイムだった。

 岡田信長は、最初に忍び(家康だと錯覚)に襲われ、どう見ても普通の人ならば致命傷となる傷を負わされた。刀は体を貫き、それを後から自分で抜いちゃったのだから、出血はとめどないだろう。

 しかし、尋常ならざる岡田信長だ。見た目が血まみれという多少のダメージは感じさせるものの、パワーは衰えずほぼ普通に戦い続ける。火事場の馬鹿力にしても、相当おかしい。笑うべき場面だった。

 白い着物もいつの間にか「赤こんにゃく」のように真っ赤っか。イメージは、昔、白兎・家康と出会った頃の信長の着物の色か。失血死しそうな出血量のはずだが、どこまでも死なない。弁慶か。

 だが、頭の回転だけは血が足りなくてままならず、「家康」「家康」だけになっちゃったってことかな。でも、ある意味幸福で、それが本望だったんだろう(光秀に会うまでは)。

 家康の方も、「信長」「信長」だけを考えて堺から逃げている訳だが、そんなに心ここにあらずの状態じゃ危ない。いよいよ三大危機の「神君伊賀越え」、上の空では簡単に野武士らに討たれてしまう。

 で、落ち武者狩りチームと戦いながら家康が叫ぶのが「信長~!」えええ!何て言ったらいいんだ。コメディを見慣れないもので。

三英傑と、お呼びじゃない光秀

 本作はコメディ。だから「本能寺の変」という舞台で制作側が「これ面白いよね🎵ククク」と笑いを堪えてやりたかったのは、「お呼びじゃない光秀」が、信長の眼前にスーッと軍勢を割って登場し、「何だ、お前か」とガッカリされるあの感じなんだろう。

 信長が「討たれるなら家康」とお膳立てまでしてあげたのに、いざ本能寺を囲んでいたのは「お呼びでない光秀」。炎の中を彷徨って家康を探していたのに、お気の毒の極みだ。それを笑うのは何か気分が悪い。「貴公は乱世を鎮めるまでの御方。平穏なる世では無用の長物」と罵倒されちゃうし、信長がかわいそう。

 そして、毛利攻めをしている秀吉は「直ちに引き返す。この猿が敵を討ったるがや。この猿が、徳川家康の首を取ったろまい!」といきり立ったのに出鼻が挫かれる。「兄様、違うんだわ!やったのは徳川だなく明智だわ」「あけち?」とキョトン。そこら辺を「ねえねえ皆眼中に無かったんだよ~面白いでしょ~✨✨✨」とばかりに畳みかけてきている。

 酒向芳が極めて好演している証拠だと思うのだけれど、だから「あの」光秀だった訳。

 三英傑が眼中に無い小者であり、本能寺の変の前々日である5/29の段階で、信長・信忠・家康が揃って京にいるのに守りが手薄だと知って急に思いつきで襲撃を決めるような浅さ。四国説も何も今作では出ていないので、ただただ家康接待での恨みが引き金になって謀反を起こしたかのように描かれた。

 信長が切り取ったと言われる名香・蘭奢待かな?と思われる何かを焚き、恍惚となっていたのも何か刹那的。そして、家康生け捕りを命じる場面では「あの糞戯けの口に、腐った魚を詰めて殺してやるわ!」が決め台詞になっていたが、アップの表情がどうにも漫画チック。

 光秀は人格的にもどうかと思うような悪役で終始した。ただ、どうして岡田信長が重用したのか全然説得力無いじゃん!とは言いたくなる。信長自身だって「やれんのか、金柑頭!お前に俺の代わりが!」と懐疑的だったし。

 ひとつ、気になっている。変の前日、信長は文机に向かって何かを熱心に書いていた。筆を置いてため息をついて・・・書き終わっていたね。家康への遺書?天下人マニュアルか?

 焼けていなければ、これは光秀の手に渡るのでは。光秀は、自分へのラブレターだと大いに勘違いして、上様の愛情深さに感激し後悔するのかな。ククク。

 さあ、白兎は狼を乗り越え、さらばと別れを告げた。次回は伊賀越え。「真田丸」の伝説の爆笑伊賀越えを、今作がコメディの名に懸けて絶対超えようと無理しないよう祈るばかりだ。予告によると、とうとう本多正信が出てくる。お帰りなさい、待ってたよー。また外連味たっぷりの登場みたいで、楽しみだ。

(敬称略)