黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

性加害、切実な被害者の声が届くようになったか😢

外部専門家チームの人選をしたのは誰?素晴らしい

 いつも大河ドラマのことばかり書いているが、今週9/10の放送はラグビーでお休みだったし、たまには被害者周辺の話も書こうと思う。ちょうどある問題が大きくクローズアップされており、気になっている。「どうする家康」主演の松本潤も所属する、ジャニーズ事務所の創設者の話だ。

 故ジャニー喜多川による、所属事務所のタレントや候補生(Jr.)の未成年者に対する性加害問題が昨今大きく取り上げられている。今年に入っての動きをメモしておくと;

  • 3/18 BBCが故ジャニー喜多川による性加害についての番組を放送
  • 5/14 姪の藤島ジュリー景子社長(当時)が謝罪動画を公表
  • 8/4 国連の「ビジネスと人権の作業部会」委員が記者会見
  • 8/29 ジャニーズ事務所の外部専門家チームが記者会見
  • 9/7 ジャニーズ側記者会見。故人による性加害を公式に認め謝罪、藤島社長の退任、東山紀之社長の就任を発表

ーーという流れだ。

 反響を見ていて思うのは、時代が変わったという点だ。「枕営業」などと被害者の声が茶化されることなく、やっと尊重され扱われるようになった気がするが、まだ表面的なものだろうか?少なくとも、被害者を尊重しないとまともじゃないとの空気は流れている。こんなにも日本社会での受け止め方が変化したことに、正直言って驚きがある。

 切実な被害者の声に、今やっと日本社会が耳を傾けるようになった理由は何だろう。この国では少し前のMeToo運動も茶化して低調だった印象があるのに。

 ジャニーズ問題では、男が被害者として声を上げたからか?男が物を言わないと真面目に受け止めない日本社会だから・・・という気もしないではない。女が散々言ってきても大して耳を貸さないけれど、男が言って初めて「そりゃ大変だ」と物事が動き出す。よくあることだ。

 そして、外圧に弱い日本人だから、まず国内的しがらみのないBBCが報道してくれたことが大きい。ここで、国連の人権委員会をも動かした。提言に法的拘束力はないとはいえ、日本人にショックを与えるには十分、作戦勝ちだと思う。被害者側の作戦参謀は誰だろう。BBCがアドバイスしたのだろうか。

 さらに国内での流れを決定的にしたのは、ジャニーズが依頼した「外部専門家による再発防止特別チーム」が、誰に忖度する訳でもなく被害事実を公に認定したことだろう。公式サイトにガバナンス上の問題点、再発防止策の提言を含む報告書(調査報告書(公表版).pdf (saihatsuboushi.com)調査報告書(概要版).pdf (saihatsuboushi.com))が載っていた。

 「ジャニーズが頼んだのだから、適当にお茶を濁して終わるのではないか」「独立した第三者委員会じゃないとダメだろう」との見方もネット上にはあった。しかし「このメンバーがお茶を濁して済ます訳ないじゃないか、被害者支援都民センターの面子がかかっているんだぞ」と、私は心中思って推移に注目していた。

 何しろ、記者会見に並んだ専門家の3人のうち2人は、同センター関係者。理事長の精神科医・飛鳥井望先生と臨床心理士の斎藤梓さん。被害者の声に長く耳を傾け支えてきたベテランの人たちだ。同センターには、性犯罪被害者からの相談が近年は多くなっていたはず。そのプロの方たちが、被害者の声を蔑ろにするわけがないと信じられた。

 会見時に真ん中で主に受け答えをされていた方は、元検事総長の林眞琴弁護士。検察は言うまでもなく「被害者とともに泣く」存在。そのトップにいた人だ。

「外部専門家による再発防止特別チーム」についてのお知らせ | ジャニーズ事務所 | Johnny & Associates (johnny-associates.co.jp)

 この外部チームの人選をしたのは誰だろう、その人は本当に偉かったと思う。こんなに被害者方向に顔をちゃんと向けた面子を揃えるのはなかなか無い。そしてこの面子を、よくジャニーズ側に飲ませたものだ。もちろん、飛鳥井先生を始め外部専門家チームも良くお引き受けになった。疑いを持たれながらの大変な作業だったろう。

 紹介者は誰だろう?外部取締役?顧問弁護士なのだろうか?裏で弁護士ら支援者同士がつながって良き方向に導いたのだろうか?誰かわからないが素晴らしい仕事をした。

所属タレント=ほぼ被害者、無理なアウティングは悲劇を招くおそれも

 この外部専門家チームの報告・提言によって追い詰められ、ジャニーズ事務所は謝罪した。記者会見での生真面目なヒガシと人の良さそうなイノッチの姿を見て、所属タレントが売り物の印象そのままを生かし、ジュリー氏や前々日に退任したとして姿も見せなかった前副社長の盾にされちゃったかと気の毒だった。

 前社長、前副社長が揃ってまず記者会見すべきだったのではないか。新社長のお披露目はその後だろう。

 会社経営は素人でよくわからないが、現在所属するタレントは「ジャニーズ」の冠をかぶされている限りはどんどんCMなど仕事が無くなっていきそうだ。国際化している大企業のスポンサーは、性加害に対する国際基準に照らして離れていくだけだろう。早く別会社を仕立て、タレントをそちらに移さなければ惨憺たることになるのでは?

 いっそのこと、タッキーの会社「ToBe」に全員引き受けてもらったらどうか?

 そして「ジャニーズ」という名を持つ企業は、新会社から切り離されたものとして被害者への損害賠償等を担うとして前社長が存続させるとか?故人の遺産を全て被害弁償に当てる財団にするとか?所属タレントへの被害を少なく抑えるために、何かできることがありそうだが。

 そう心配になるのも、現在のジャニーズ所属タレントの中には被害者が沢山いるだろうと思うからだ。「皆ほぼ被害者」と言っていいかもしれない。①故人から直接に被害を受けた人たちと、②直接ではなくても、故人への絶対崇拝の逃げられない空気の中でのいわば「順番待ち」だったかもしれない人たちだから。

 ②の人たちは、いつ自分も被害を受けるかと恐れおののいて過ごし、同時に、自分の身近な友人が被害を受けた噂を知って、「何もできなかった」という自責感にも苦しんできたはずだ。

 1人の被害が発生すると、波紋が広がっていくように、同心円状に皆、被害の影響を受けて傷ついていくもの。「被害者はひとりじゃない」と言われる所以だ。子どもが被害に遭って、そばで泣く親の姿、まわりで悲しむ友人の姿は容易に想像できるはずだ。

 今回の問題について櫻井翔の口が重く、キャスター失格だとかあげつらわれているのが気になっている。無責任に追い詰めて、彼が①だったらどうするんだ?もしくは②で、近しい人、例えば嵐のメンバーが①であって事情をよく知っていたら。

 追い詰めて、事実上の強制的なアウティングなどをさせないでもらいたい。彼が「知っていた」と言えば、誰かが①と推測されてしまう。追い詰めないでほしい。ファンへの影響も当然考えるべきだろう。スターには、同心円状に多くの人がいるのだ。

 故人が絶対的な存在であればあるほど、なかなか協力者も得られにくい。被害者に近い立場で誰にも言えず孤立していれば、何ができたというのか。「ほぼ被害者」なのだから、所属タレントを責めないでほしい。

 これまでメンタル的に不安定なジャニーズタレントの存在は、ファンでなくても目についた。反動からか、過剰にマッチョに振る舞ったり薬物に落ちていく人たちも気になった。故人から被害に遭った人たち、その周辺にいた人の心は、今大揺れに揺れているだろう。フラッシュバックの連続に見舞われているかもしれない。気の毒でしかない。

 所属タレントの皆さんは、被害を受けて心にザックリ傷を負っている状態なのだから、治療や支援を受けるのは当たり前で恥ずかしいことでは全くない。しんどかったら無理せずに医療機関や被害者支援都民センターでカウンセリングを受けてほしい。

 支援センターのカウンセリングは、ある程度まで無料のはずだ。しかし、その場合、ジャニーズ事務所前社長は相続した遺産を同センターに寄付し、資金的に支援をバックアップすべき道義的責任があると思う。

どこかで記事にできなかったのだろうか

 さて、自分の過去を省みる。英字新聞の放送メディア担当記者として働いた時期があったのだから、当時、何かできなかったか。今もその立場だったら、今回の記者会見は必ず取材に出向いて記事にしていたことだろう。

 今回の問題がクローズアップされてくるにつれ、あまりの被害の大きさに気が重くなった。ただ・・・確認してみると微妙にタイミングがズレていて、私には記事化は難しかった。言い訳になってしまうが。

 20世紀は女性の性被害が矮小化され、茶化されまくっていた時代だ。まるで、被害者側も楽しんでいて「枕営業」「ハニートラップ」をしかけているかのように加害者側に都合の良い解釈がはびこる一方で、性被害が、どれだけ被害者に心身ともに長く続く無残な被害を与えるかについて、例えば、半年歯が溶けるほど吐き続けた後の自死を招いてしまう程悲惨なことにもなるのだと、知られていなかった。

 ましてや男性の性被害に対しては「ホモ」などと揶揄され、私は全く気が回っていなかった。この頃、男性の性被害者であることの辛さは一入だっただろう。理解者がほぼ社会にいないのだから。

 さて、9/7放送のTBS「情報7daysニュースキャスター」で示されていた表を一部引用させていただく。

①1988年 元フォーリーブスの北公次氏が告白本出版、翌年、告白ビデオを発表

②1999年 週刊文春がジャニー氏のセクハラについて記事連載、ジャニーズが名誉棄損で提訴

③2002年 東京地裁が賠償額880万の支払いを文春側に命じる

④2003年 東京高裁が賠償額を120万に減額、ジャニー氏によるセクハラ被害の真実性を認める

⑤2004年 上告棄却の決定、ジャニー氏の性加害の事実を認めた高裁判決が確定

 まず①の北公次氏の暴露本とビデオ。彼は既に2012年に病死している。私は申し訳ないが、本もビデオも存在を知らなかった。痛々しい訴えのビデオは「情報7Days」で放送された今回、初めて見た。1988年は、まだ留学中だった。

 英字新聞でメディア面担当になったのは90年代半ば、阪神大震災の後だ。98年に体を壊し、週刊文春の連載②1999年は療養中。元気でも「これは週刊誌ネタ。新聞が書く段階ではない」との住み分けを意識して手を出さなかったと思うが・・・この頃は手術や療養に忙しく、週刊誌を読む余裕が無かった。

 新聞が記事にしやすかったタイミングの裁判③~⑤の2002~2004年については、体調悪化が続き、逃すことになった。2003年7月に新聞社を療養期間満了で退職、判決確定時には新聞社外にいた。

 なんとも記者運が無い。所詮、ポンコツ体質には無理な仕事だった。

 もしも健康で在職してメディア面担の仕事を続けていたとしたら、③~⑤のタイミングで記事にできただろう。自分でも間違いなくこの時に裁判記録を読み、記事を書いたと思う。

 ただ、それが当時紙面に載ったかどうかは何とも言えない。英字だし、かえってベタ記事にしてしまえば目につかずに載せられたか。デスクや上が気に入らなければ大きめの記事にはできなかったかもしれないし、逆に問題なく載せてもらえたかもしれない。

 当時のデスクの中には脈絡なく好みの水着グラビアみたいな配信写真を大きく載せたがるのに、被害者目線の「性被害」の記事には眉を顰め「男女平等もいい加減に」などと叱りボツにする人がいた。そういうデスクは「女は男の言うことを聞いていればいいんだ」とばかりに加害者の肩を持つ。「なぜ加害者側か」と頭に来たものだ。

 それも男社会ゆえだったと思うと、仮に男が被害者に回る記事を書いたとしても、余計にそのデスクの頭では単なる同性愛の「怪しからん話」と捉えられ、「新聞の扱う記事ではない」と考えられてしまった可能性もありそうだ。あくまで推測だけれど。

 もしかして、⑤の上告棄却を記事化した朝日新聞と毎日新聞は、上からの指示でのボツを避けるためのあえてのベタ記事だったのだろうか。だとしたら、現場の知恵だ。他紙はボツとは闇が深い・・・。

 2004年と言えば、犯罪被害者等基本法ができた年だ。被害者を黙らせておけば社会は平穏、といった空気が少しずつ変わってきた頃だったと思う。

 それでも、性被害=女性が遭う、という見方が固定化していたし、私自身も男性の被害者に会って実際にお話を伺う機会をいただいたのはもう少し後、被害者支援に関わり始めてからだった。2005年以降だ。

 その時まで正直、自分でも「男同士なら抵抗できるだろう」との無意識な思い込みを持っていたと思う。が、考えてみれば被害が無いわけが無いのだ。加害者は抵抗できない人を狙うから。被害者を女性に限ってしまうのも、現在急速に広まったLGBTの考え方に違和感が無くなってみると、何故そう考えていたのか、おかしな話だと思う。

 また、日本は企業や団体が優先され、個人の声はなかなか聞いてもらえない傾向にあった。弱者と見なされてしまえば尚更。有力企業を率いてきた権力者の加害に目を瞑らず加害として捉えるという点で、SNSが発達して個人の声を蔑ろにできなくなった今のタイミングまで社会が成熟するのを待たざるを得なかったのかもしれない。

 声を上げた被害者が、誰であれ、守られる社会であってほしい。

(ところどころ敬称略)