黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

【どうする家康】#14&15 ジャニーズ2人で性虐待を演じた意味

爽やかな阿月(あづき)回に涙

 NHK大河ドラマ「どうする家康」について、前14回「金ヶ崎でどうする!」のブログは、爽やかな感動回だったので書きたかったけれど体調が許さず諦めた。続けて読んでくださってる方、ゴメンナサイね。今は15回を書こうと思ったけど、14回もちょっとだけでも書いておこう。まずは公式サイトからあらすじを引用する。

⑭ 信長(岡田准一)と共に、朝倉義景との戦に臨んだ家康(松本潤)。その裏では、浅井長政(大貫勇輔)が謀反を決意していた。浅井・朝倉に挟み撃ちにされれば、織田・徳川連合軍はひとたまりもない。長政の妻・お市(北川景子)の心中を察した侍女・阿月(伊東蒼)は、謀反を知らせるため、信長が陣を敷く金ヶ崎へ向かうが・・・。(これまでのあらすじ | 大河ドラマ「どうする家康」 - NHK

 泣けましたね。少女期に自由に走りたかったのに膝を縛られて躾けられ、親に売られた阿月の人生と相まって、感動ストーリーになっていた。演じた彼女はどこかで見たなと思ったら、「おかえりモネ」だった。印象的で憶えていた。

 彼女の走りを見て、「走れメロス」を確認したくなって古い角川文庫を引っ張り出し、寝床で読んだ(老眼の身には字が小さくて閉口。こんなに小さかったっけ)。阿月は激走して命を落としたけれど、メロスは死んでいなかった。

 じゃあ、まだ若い阿月だって生かして欲しかった・・・死んでなくても、あれだけの頑張りを見せて役目を果たしたのだから、十分家康たちだって感動して背中を押されたはず。何も殺さなくても。男の気持ちを盛り上げるため、すぐ女のキャラって殺されちゃうな。

 プラス、お市の方が家康宛に忍びを使って密書を届けようとしたのはやっぱり違和感が残った。あそこはどう考えても尊敬する兄・信長宛に送るでしょう!今作のお市は、信長のことは嫌いではなかった訳だし。

 阿月も最初から家康の陣を目指して走っていたようだった。もし信長の陣に行くつもりだったとしても、息も絶え絶えに金ヶ崎に辿り着いて「こちらはいずれの(ご家中)?」と聞いて徳川三河守の陣だと教えられ、コンフェイトを貰った時のお市の笑顔の横に家康の顔も思い浮かび、安心して家康に伝言して息絶える・・・という話の運びになれば、その方が自然じゃないのかな?と思った。

 とはいえ、夫の裏切りを兄に知らせるため、お市の方が両端を縛った小豆を信長に届けるという、有名な袋の鼠エピソードが、うまくアレンジされた回だった。

 この回で家康は、①信長におちょくられて「ざけんな!」とつぶやいて見せ、②挟み撃ちの可能性から「ここは危のうござる」とおずおずと金ヶ崎からの撤退を進言しに行ったはずが信長と大げんかに発展し「あほたわけ」呼ばわり、③阿月の遺体を目の前にしてもまだ撤退を決断しない信長に「逃げんか、あほたわけ!」と怒鳴りつけるという成長ぶりを見せた。

 ようやくかー!と、ここまであまりに不甲斐ない神君家康公だったから、前のブログで主人公に期待できずに見ているのもつまらないと書いた。だが、この14回でブラック企業の総帥に子会社の社長がようやく言い返せるようになったか、偉いぞ!それでこそ将来の神君!と少し期待した。

 でも、そんなに簡単に信長のマウンティングを跳ね返せるわけもなく。ここで、衝撃の第15回が待っていましたね。

家康に対する、信長によるグロテスクな耳攻撃

 4/23に放送された第15回「姉川でどうする!」のあらすじも、公式サイトから引用しておく。

⑮ 命からがら藤吉郎(ムロツヨシ)と共に金ヶ崎の激戦を生き延びた家康(松本潤)。休む間もなく、信長(岡田准一)に浅井・朝倉討伐の先陣を申し付けられる。そんな中、浅井長政(大貫勇輔)からは「ともに信長を討ち取ろう」と呼びかける密書が届く。姉川を挟んで両軍が向き合い、決戦の時が迫る中、家康は信長を裏切るか否かの選択を迫られる。家臣の中でも意見が分かれ、紛糾するところに、家康陣へ信長から銃弾が撃ち込まれ…。(これまでのあらすじ | 大河ドラマ「どうする家康」 - NHK

 ドラマで「先陣」を家康が申し付けられたのは、戦の現場だった。信長に引間城に家康が入れと内政干渉的なことを言われ、家康がムッとした後だ。だから、先に申し付けられたのは「参陣」じゃないのかな。申し付けた人物も、これは幕府軍への参加だということで、信長じゃなくて義昭家臣の明智光秀だったし。なんか、細かい点がモヤモヤする書き方を公式サイトがするのは何故なのか。

 この15回では、前14回の家康の反抗的な物言いを根に持った信長が、京に戻ってきた家康の耳を手に取り、執拗に気持ち悪くこねくり回していた。

 それは、まさに光秀が家康に姉川参陣を申し付けた場面で、「よい、来るか来ぬかはお主が決めろ。ただ、よーく考えてな」と言って信長が家康の耳を弄び、さらに耳に吐息がかかる近さで「乱世を終わらせるのは誰じゃ」と言って、耳を噛むふりをして笑い、金平糖を渡して去った。アメとムチで支配するDV夫みたいなやり方だ。

 容器に入っていた金平糖は4つ。家康が妻子に約束した人数分ぴったりなのがゾッとした。すべて家康の抱える事情はお見通しと言わんばかりだ。(このプレゼントは光秀が介在してのことなのか?光秀の考えが分からない…。)

 そして、姉川の戦い。戦では、浅井長政からの密書を受け、家康は「信長を討つ。浅井に付きたい」と土壇場で言い出し、藤吉郎に法螺貝を鳴らされても催促の銃を打ち込まれても朝倉軍に対して先陣をなかなか切ろうとしなかった。

 信長は「生意気だな」と家康の葛藤を見透かして口にした。この余裕。

 家康は感情を露わに抵抗し、優秀な家老2人がかりで説得され、顔を歪ませて苦しんだ挙句ようやく「敵は浅井・朝倉、かかれー」との下知を下すに至った。信長は家康が自分に変わらず従ったことで勝利の笑い、反対に家康は悔し涙を流した。

 それまでに相当な時間を費やし、見ているこちらも「またこのグジュグジュ家康なのか」と、このシーンでは正直うんざりしていた。朝倉軍はずいぶんとスローに川を渡っていたんだ、とか考えていた。

 ドラマでは、従来なら華々しい徳川の活躍が描かれる見せ場のはずの姉川の戦いも、戦自体はスルーで戦闘場面はなかった。金ヶ崎の退き口もそうだったが、私が知っている徳川の活躍も、どうやら江戸時代のフィクションのようなのでスルーされたのか。ドラマで焦点があてられたのは、戦前後の駆け引きだった。

 この戦で一番槍のはずの家康の動き出しの遅さは不審に思われ、戦後、信長の陣でその点を問われた家康は、敵を十分に引き付けてタイミングを計っていただけとしらばくれた。そこで・・・信長は家康の首をつかみ、締め上げ、さらに「これからは判断を間違えるなよ、白兎」と言って、家康の耳を思い切り吸ったか、噛んだように見えた。

 これがグロテスクなほどの執拗な耳攻撃で・・・家康が屈辱に顔をこわばらせていたのと同時に、見ていたこちらもようやく悟った。これは単なる嫌がらせではない、セクハラ、性的虐待の類だ。神君家康公が性的虐待の被害者だとの描き方など、初めて見る。

 武田信玄の高坂弾正との話が有名だが、当時は珍しくも無いと言われる男色。それだって要するに主君からの性的搾取だったろう。今作は、ハッキリ描かないまでも家康は幼いころに信長の寵童にされていた設定が隠れているのではないのか(それもBLなどと軽薄に捉えて良い関係ではなく、明らかに加害者と被害者)。

 だから、これまでも家康はあんなにも信長に対して感情的になり、恐怖を感じて震えていたか。初回でもそうだった。フラッシュバックしてたか。反対に信長は、過去の2人の関係を思い出させて心理的に屈服させようと、耳攻撃を繰り返すのだろう。ゾッとする。

「耳が弱い」と瀬名が言っていた

 そして、この性虐待を描くための第10回「側室をどうする!」だったのではないかとも、気がついた。実は「追記するかも」と書いたままで第10回はブログを休み、書いていなかったので、ここに10回のあらすじも引用して書いておく。

⑩ 岡崎城近くの築山に、民の声を聞くための庵を開いた瀬名(有村架純)。ある日、於大(松嶋菜々子)は2人に子が少ないことを心配し、側室を迎えるよう主張する。選ばれたのは、不愛想だが気の利く侍女・お葉(北香那)。家康はお葉と一夜を過ごすことになるが、お葉は思わぬ行動に出る!一方、京の都では政変が勃発。織田信長(岡田准一)や武田信玄(阿部寛)の動きも活発化し、家康は時代の荒波に巻き込まれていく…。(URLは同上)

 家康との間に娘をもうけたものの、お葉が同僚の侍女を好きになって側室の務めはこれ以上できないと家康に言い出した時は、これまた唐突にLGBT関係を持ち込んだなと思っていた。時代の流れを大河ドラマも反映しようということなのかなと。

 瀬名にとってはつらい側室選びを、コミカルに描いた笑える回にしたのだと思っていた。「鎌倉殿の13人」で「頼家の母」の中の人がお葉を演じると聞いていたので楽しみだったが、今考えると、10回が15回の伏線になっていたのではないのか。

 瀬名がお葉に夜伽を指南する場面で、家康の叔母である酒井忠次の妻に「なんぞ殿が喜びそうな技は?」と聞かれ、瀬名は答えていた。

そうね…殿はお耳がお弱い。こうしてお耳を触って差し上げるとヘナヘナ〜となって気持ちよさそうにしておる。そうすると大抵赤子のように甘えてくるから、ヨシヨシヨシとお腹を撫でてやれば、もう思いのままじゃ

 それを聞いた家康の母・於大は、息子の性癖を聞いて「オエ〜」と言い、口を押える。松嶋菜々子が大河ドラマでオエ~なんて言うんだ!と目を丸くしたが、わざわざ瀬名に言わせた家康の性的弱点が「耳」だったのだ。

 それを知っているのだ、信長は。いつ知ったのか?尾張での人質時代だろう。だから、性的に家康を弄ぶ意味で、耳に特徴のある「白兎」と呼び、いつも耳元で囁き、耳を指でいじり、口を付けようとする。それを避けようとする家康の態度を見て、笑っている。

 家康の家臣は、主君の過去の屈辱的な性虐待被害を知っているのだろうか。酒井忠次、石川数正は知っているのか。ふたりは知っていても心を殺して黙っていそうだし、家康も誰にも言わなかっただろう。本多忠勝と榊原康政あたりは知らないのかな。忠勝など、知っていたら激昂しそうだ。

岡田准一と松潤に見せられたものは

 この15回が4/23に放送される前日、朝刊で読んだのは、家康を演じると松本潤と、信長を演じる岡田准一が所属するジャニーズ事務所が現在大揺れになっている、既にこの世を去った創業者による性的加害疑惑の記事だった。大河ドラマが放送されているNHKでもニュースとして報道されていた。

ジャニーズ事務所 タレントら聞き取り “性的行為”会見などで

 以前、ジャニーズ事務所に所属していた男性が当時の社長で4年前に亡くなったジャニー喜多川さんに性的な行為を受けていたと会見で述べたことなどを受けて、ジャニーズ事務所が社員や所属タレントへの聞き取り調査を行ったことが分かりました。

 ジャニーズ事務所をめぐっては、以前、事務所に所属していた男性が当時の社長で2019年に亡くなったジャニー喜多川さんに15歳のころから性的な行為を受けていたと会見で述べました。

 関係者によりますとこうしたことなどを受けてジャニーズ事務所は、社員や所属するタレントへの聞き取り調査を行うとともに取引先の企業に対し、対応について説明する文書を送ったということです。

 文書では、こうした報道や告発について真摯(しんし)に受け止めているとした上で現時点では問題は確認されていないものの、社内でのヒアリングのため十分であるとは考えていないなどと説明しているということです。

 また、すでに退所したタレントについてはプライバシーに配慮した上で外部の相談窓口を設置するなどの準備を進めているということです。そして、所属するタレントなどについても専門性や中立性のある窓口に相談できる体制や制度の準備を進めているとしています。

 ジャニーズ事務所では、後日、こうした内容についての詳細を発表するということです。(ジャニーズ事務所 タレントら聞き取り “性的行為”会見などで | NHK

 この記事を読んでから第15回を見たせいで、岡田准一演じる信長が故・ジャニー氏に見えてしまった。耳を弄ばれて過去の性虐待への上塗りの屈辱に震えていた家康は、ジャニーズ事務所で被害に遭っていた所属タレントに重なった。何というタイミング。

 大河ドラマでのジャニーズの看板タレント2人によるこの演技。こういった設定をOKしたということは、もしかしたら事務所としても本気で疑惑と向き合って変わろうとしているのかもしれないね。そうじゃないと、もう時代的に許されないもんね。

この大河は、家康の壮大な復讐劇を描こうとしているのか

 ここまで信長に対してハッキリとした動かしがたい憎悪感情を抱いている家康は、過去の大河ドラマにも居なかったのでは?「麒麟がくる」で風間俊介(彼もジャニーズ)が演じた家康にそんな香りがしないでもなかったが、主人公は光秀だったし、家康の心の葛藤がメインになることはなかった。

 そして、今作では築山殿(瀬名)はあくまでも愛らしい人柄で、家康とはラブラブなのだ。岡崎城にまだ幼い息子夫婦と残るなんて言わないで、引間城に来ないかと家康が泣くほどなのだ・・・その妻を、そして妻が産んだ長男を、殺さざるを得ない方向に信長が持って行くのだろうから、どう考えても、家康にとって百万回殺しても飽き足りない存在に、今作の信長はなるのだろう。

 本能寺の変は、幼少期からの憎悪対象であり妻子の仇を陰で家康が討ち果たす、という話になったりしないだろうか。家康が妻子を失って以来復讐に燃えて綿密に計画を立て、明智光秀を嵌めて信長殺害を実行させる方向で。それが夏頃のクライマックスとなるとして。

 そして、もうひとり「クズ秀吉」にもその後徹底的に家康は苦しめられそうだから(例えば、光秀を嵌め信長を殺した家康の策を秀吉には知られ、それで脅されて数正を奪われるに至るとか?)、そのクズを跳ね返すのが後半戦の物語になっていくのだろうか。

 そうして、復讐を完璧に果たし掴んだ結果が天下人だったと。そういう物語になるのか。この大河は、か弱き少年が75年の人生を懸け壮大な復讐劇をコンプリートした、性虐待サバイバーの話になるような気がしている。

(敬称略)