とにかく落ち着け、伊周
NHK大河ドラマ「光る君へ」第20回「望みの先に」が5/19に放送された。ラストに定子が自ら髪を切って落飾してしまうなど、主人公のまひろの身の上もそうだが周りの話題が盛りだくさんで何から書けばいいのか迷う。
定子の悲劇の原因を作っている兄の伊周は、烏帽子のひん曲がったヘナチョコ貴公子で右往左往する姿がスーパーで駄々をこねる男児のようで、まさに「栄花物語」の「心幼き人」を表現。つい可愛いなーと笑ってしまった。それが悲劇の素なんだけど。ききょう&まひろコンビのドリフコントと言い、重すぎる展開から和らげるスパイスになったか。
まずは公式サイトからあらすじを引用する。
(20)望みの先に
初回放送日:2024年5月19日
為時(岸谷五朗)が淡路守に任命され、惟規(高杉真宙)、いと(信川清順)も大喜び。しかしまひろ(吉高由里子)は、宋の言葉を解する父は越前守の方が適任だと考え…。一方内裏では、花山院(本郷奏多)の牛車に矢を放った一件で、一条天皇(塩野瑛久)が伊周(三浦翔平)と隆家(竜星涼)に厳しい処分を命じた。さらに、定子(高畑充希)は兄弟の不祥事により、内裏を出ることを命じられる。絶望のふちに立った定子は…((20)望みの先に - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK)
中関白家の嫡男として、道隆の妻・高階貴子によって蝶よ花よ(?男だけど)と甘く大事に育てられたのがアダとなりか・・・伊周は、自分たちが引き起こした花山院襲撃事件に、完全に飲みこまれ対応できない。判断力は吹き飛び、ママ貴子と矢を射た隆家は自業自得かもしれないが、あわれ妹の中宮定子は道連れだ。
史実的にも、ここで伊周が判断を誤らずに踏ん張れていたら、定子はここから3人も一条帝の皇子皇女を産むことになるのだから、道長の世は来なかったかもしれないのに・・・彼の胆力の無さが、中関白家の運命を決定づけた。いや、あの兼家パパの血を色濃く引く女院詮子が相手だから、誰も敵わないか。強いな~。
高階貴子:(震えている伊周の背に手を当てて)まだ誰が射たか分かっていないのでしょう?
隆家:院の従者もおりましたゆえ、顔は見られています。
貴子:だとしても、牛車に当たっただけならば大したお咎めにはならないわ。
伊周:行かねば良かった・・・。
隆家:今更言うな。
貴子:今度こそ中宮様を頼りましょう。
伊周:中宮様は頼りになりませぬ!私を関白にすることさえできなかった!(烏帽子が曲がり、手を振って激高。隆家がやれやれと横を向く)
貴子:あの時は女院様がいらしたからですよ。帝とて中宮様の身内を裁いたりはなさるまい。(伊周、泣いている様子)さあ、安心して今日は休みなさい。
ああ、ママ貴子は判断を誤った。ここで事を待たずに速やかに息子たちを出頭させ、定子の口添えと共に帝と花山院に許しを乞わせていたら。言うべきは「今日は休みなさい」じゃなかったね。
しかし、伊周の様子が面白すぎる。上級貴族にふさわしい立派な身なりながらガタガタ震えたり、手を振り回したりしている様子、烏帽子が曲がっているのは、なりふり構っていられないくらい彼の心が折れているようで、三浦翔平の芸が細かい。
一方、隆家は落ち着いたものだ。やっちゃったことはやっちゃった、仕方ないねと腹を括っているようだ。自分が矢を射たんだけどねえ、歯を見せながらのキラッキラの笑顔で。
史実的には、この事件の前にも道長の従者と隆家の従者が一戦構えるぐらいまでいっているのだ。花山院だろうが構うこっちゃないぐらいに考えてそう。彼は上級貴族育ちながら根っからヤンチャというか、武士の心があるってことなんだろう。後に日本を救っちゃうし。
今回陰に日に活躍著しく、結果念願の参議へと出世することになる蔵人頭の斉信が、謹慎を伝えに勅使として二条第に来た時にも、伊周の方が目が泳いで狼狽え方が酷かった。結局、大宰権帥と出雲権守として兄弟の配流先がそれぞれ決まった時も「行くしかありませんよ、兄上」という隆家に対し、「死んでも行かない」と激高し見苦しく手を振り回していたのは伊周だった。
伊周は子どもだから、手を振り回す元気は無尽蔵。兄と弟が逆だったら、中関白家には良かったかもしれない。これで道長と鍔迫り合いをする資格も自ら失い、権力からの転落は決定的。安倍晴明が言ったように道長の世が来る。
仕掛ける策士、女院詮子vs.勘働きの倫子様
権力闘争を描くのに、このドラマでは道長が良い子ちゃんキャラなので、策士の女院詮子が動くしかない。兼家の血が濃い彼女は、権謀術策に長けている。その彼女が全く気に入らなかったんだな~何かやって来るな~と見えたやりとりが、これだった。
女院詮子:ねえ、伊周たちの処分はまだ決まらないの?
道長:除目の後で処分を決めると帝は仰せになりましたが、伊周は大した罪にはならないと思います。
詮子:なぜ?!
道長:帝は、中宮様のお身内に厳しいことはできないかと。
詮子:まあ、情けない!お前はそれで良いと思うの?
道長:ただただ厳しく罰すれば良いとは思いませぬ。
詮子:え?
道長:お情けをもって事に当たられる帝こそ、私は尊いと感じます。
詮子:(首をひねって)分からないわ。だって伊周や中宮は、お前の敵でしょう。
道長:敵であろうとも・・・です。失礼いたします。
詮子:(思案を巡らせる様子)
この直前、自分が除目で帝にゴリ推しした源国盛の無能さがわかり、ポカンとした詮子。国司の無能さは国交に関わるとして「とても越前守は務まりませんな」と道長に言われ、「怒ってる?ああ怒ってる。許して!」「何とか致します」との2人のやりとりがあって、その続きだ。
詮子は、仲の良い姉と弟らしく道長には割と正直に物を言う。表情もストレートだ。伊周らの処分を問うた詮子は、道長の答えに全く納得できなかった。「女兼家」が、そのままで許す訳がない。
次に詮子が登場した時、彼女は土御門殿の自室で伏せっていた。道長に「もう良うなった」と起き上がって見せたが、その後も、倫子の薬湯も断わり、胸苦しそうに横になる。前よりも明らかに弱っている。
勘の良い倫子が「悪しき気が漂っておる。調べよ」と女房どもに命じたことで探索が始まり、呪い札が見つかったのだが・・・「鎌倉殿の13人」で呪詛には慣れたこちらも、こんなに?と思う程の数が続々と出た。
そして、見つかった場所も変。呪詛と言えば、ありがちな縁の下に呪い札入りの壺が設置してあったのは分かる。ただ、女院の部屋の棚にある壺の中や、文箱や碁石入れ等、内側にいる人間しか置けないような、というかすぐにバレそうな、そこかしこから呪い札が見つかったのには首をかしげる。あれれ・・・?
倫子は、「これは呪詛にございます」と当初詮子に告げたものの、詮子が「中宮は私を嫌っておる。伊周は道長を恨んでおる。あやつらが私と道長を呪っておるのだ。恐ろしや恐ろしや。許すまじ!」と、伊周らの殺人罪を事実認定して宣言している時には、何か変だと顔を曇らせていた。
その後の道長夫婦のやり取り。
道長:まさかこの屋敷に伊周の息のかかった者がおるということか?
倫子:殿、このことは私にお任せいただけませんでしょうか。
道長:ん?
倫子:屋敷内で起きたことは私が責めを負うべきにございます。こたびのことも、私が収めとうございます。殿はどうぞ、内裏でのお役目にご専念くださいませ。
道長:されど女院を呪詛するは、帝を呪詛するに等しいのだぞ。
倫子:それゆえに間違いがあってはなりませぬ。私にお預けくださいませ。
道長:ん?(腕を組み、倫子を見て思案する。ニコニコと微笑む倫子)あ・・・(穏やかに頷く倫子)はあ・・・そうか・・・ではそなたに任せよう。このことは帝にも申さぬ。それで良いな。
倫子:はい。ありがとうございます。
道長:うん。
良い妻だなあ、倫子様。伊周らを厳しく処分する気のない道長の意に沿い、正義感に溢れて。曲がったことを受け付けない倫子様だ。
1度見ただけでは、ここの夫婦のやりとりが「ん?どういうこと?」と飲みこめなかったが、2度見て、先の詮子の道長とのやり取りでの不満顔を確認してから、なるほど呪詛は詮子の自作自演だったか・・・兼家が仮病を使ったのと同じ手で政敵に仕掛けたかと合点した。どんだけパパ似なの。
結果的に、策士・詮子は倫子よりも上手だった。倫子が収める前に、詮子が国母に対する殺人罪だと事実認定した内容は、検非違使別当の実資によって表立って帝に伝えられてしまった。
一条帝:伊周と隆家は、何ゆえ出頭せぬのだ。
実資:調べの途中で分かったことにございますが、伊周殿は祖父である高階成忠に命じて右大臣様と女院様を呪詛。さらに3月21日、法琳寺において、臣下の修してはならぬ大元帥法(たいげんのほう)を修して右大臣様を呪詛したことが明らかになっております。(報告を聞き、ただならぬ表情の帝、蔵人頭・藤原行成。道長、目を泳がせる)証言は得ておりますので、間違いはございません。
一条帝:女院と右大臣を呪詛するは、朕を呪詛すると同じ。身内とて罪は罪。厳罰に処せ。
道長:お待ちください!
一条帝:実資、速やかに執り行え!
実資:ははっ。(頭を下げる)
こうなったら、もう「女院の自作自演です」とは、道長は口が裂けても言えない。道長夫妻の完敗、詮子の大勝利だ。でも、詮子は高階貴子の父にまで偽の罪を擦り付けたか、それとも高階成忠が本当に呪詛まで手を染めたのだろうか。
どこまでが詮子の自作自演なのだろう。全部だったら彼女の力は怖いが・・・「彼ら(伊周、隆家)が、まこと女院様と私を呪詛したのであろうか」と安倍晴明にも道長は聞いたのを見ると、呪詛が詮子だけの振る舞いとは信じきれない部分もあるのだろうな。
密かに定子を手助けした道長
伊周は斉信を招き、調べの進展状況を聞いて「呪詛などしておらぬ!」と驚き、密かに道長を訪問して涙ながらに訴えた。
道長:(廊下から)謹慎中のはずだが。
伊周:(これまでの道長への態度とは打って変わって神妙に)謹慎中の身に、お目通りをお許しくださりありがとうございます。(座につく道長)院を脅し奉るために矢を放ったのは弟にございます。その責めは私が負いまする。されど、(力を込めて)呪詛はしておりませぬ。どうか、そのことをどうか帝にお伝えくださいませ。(深々と礼をする)なんとか内裏に戻れますよう、右大臣様の格別のお力を賜りたく、切に・・・切にお願い申し上げるばかりにございます。(再度、深々と礼)
道長:私も、苛酷なことは望んでおらぬ。されど・・・(気の毒そうに)お決めになるのは帝ゆえ。
伊周:帝に、私をお信じくださりますよう何卒・・・何卒(涙声で頭を下げる)、何卒、何卒お願い申し上げまする。
道長:(無言で伊周を見つめる)
事ここに及んでしまえば引っ込みはつかないが、道長は伊周の涙の訴えに心が痛かったはず。その後の道長の行動は、良心の呵責の形と考えると確かにわかりやすい。
道長は、内裏を出されていた中宮定子を密かに助け、登華殿に手引きした。そこで帝に直接定子から嘆願させた訳だね。道長なりに、一番帝の心を動かせるとするなら定子だと考え、伊周ら中関白家の甥姪の窮地を助けたかったのだろう。
この一条帝と定子のシーンが、悲しくも美しかった。一条帝の帝としての矜持と妻を愛する心の間で揺れ動く葛藤がよく表現されていた。定子も凛として、中の人たち、あっぱれ。
一条帝:(かつて定子がいた、灯りの無い登華殿の広間を一人踏みしめ、佇む)
定子:お上。(一条帝、声に振り向く)お上が恋しくて、来てしまいました。
一条帝:(定子に近づく。やや怒りを含んで)なぜ内裏に上がれたのだ。
定子:(帝の表情を見て取って)右大臣が手引きしてくれました。(帝の足元にひれ伏す)どうか、兄と弟の罰を軽くしてくださいませ。お情けを・・・。
(帝はまっすぐ立ち、無言でじっと前を見据える。表情は暗く見えない。顔を上げ、帝の意志を感じ取り、立ち上がる定子)
定子:下がります。お健やかに。(礼をし、月明かりの廊下を去っていく)
一条帝:(遠ざかる定子の背中を見つめる)・・・待て。(駆け寄り、抱きしめる。涙溢れる定子)
悲しい。昼の帝は、帝たらんとして精一杯我を張っている。でも、夜は定子を恋しく思いながら、彼女がかつて居た登華殿に来ていたんだね😢
そこに「来てしまいました」と現れた定子。前回まひろが登華殿に参上した時、アポなしで定子に会いに来た帝を思い出す。心の底では呼び合い愛し合っているのに。帝の立場、伊周の妹という中宮の立場が枷となる。
願いが聞き届けられないと理解して、定子は「お健やかに」と帝に言った。隆家も、流される時に母と姉に同じ言葉を笑って言った。土壇場に出る良家の子女らしい言葉。
次々と定子を追い詰める指令を出す、悲しき帝
田中重太郎著の「校注枕冊子」巻末の年表を見たら、一条帝は、ドラマの今回でカバーする長徳2年(996年)は17歳、中宮定子は21歳だという。たぶん数え年だろう、2人とも若い。1月16日夜に花山院は誤射された。そして定子が自ら落飾したのが5月1日だ。
ドラマの一条帝は、事件発生直後、傍らに中宮定子がいてもお構いなしに怒りを露わにし、指示を率先して出していた。昔、幼かった帝は「きれいなお姉さん」の定子にまとわりつき、若き帝として登場したばかりの頃も、伊周に頭が上がらずやりたい放題を許していた様子だったのに、こうも成長した。
検非違使別当・藤原実資:死人も出ておりますので、まことならば疑わしき者は直ちに捕縛し取り調べるのが常道にございますが、何分にも中宮様のお身内ゆえ帝のご裁可を仰ぎ奉りたく、奏上いたした次第にございます。
一条帝:官人の綱紀粛正、高貴な者の従者たちの乱暴を禁ずる旨、厳命したばかりだというのに。こともあろうに院に矢を放ち死者まで出すとは、許し難し。(傍らの定子を置き前に出て)何ゆえそのようなことが起きたのだ?
実資:内大臣藤原伊周殿は一条第の光子姫の下に通っており、院もその姫に懸想されたと勘違いしたと思われます。
一条帝:勘違いとは?
実資:院は、光子姫ではなく儼子姫のもとにお通いでしたので。
一条帝:そのようなことで院のお命を危うくし、更に2人の命が失われたのか。・・・右大臣、伊周と隆家の参内まかりならず、当面謹慎させよ。
右大臣道長:はっ。(頭を下げる)
一条帝:これより除目ゆえ、後ほど沙汰する。検非違使別当は、詳しい調べが付けば、逐一朕に注進せよ。
実資:はっ。
一条帝:(歩き出すが止まり)中宮は(振り返って)身内の者に一切会うべからず。
(控える清少納言が見上げると、定子は息も荒く、瞳が震えている)
この後も、帝は裁定に従わない伊周・隆家兄弟への仕置に容赦なく、結果的に愛する中宮定子を追い詰めていく。兄弟が駆け込んだ定子の二条宮は、検非違使に囲まれてしまう。
その宮への突入を許可したのは帝だ。邸を囲んでいた実資は「伊周と隆家を捕える。帝のお許しは出た。門を突き破れ!」と配下に声を掛けた。
どっと突入してくる検非違使の役人ら。隆家は出頭したが、伊周は逃げた。定子は中宮であるから、検非違使別当・実資としては定子を牛車に退避させてから邸を徹底的に調べる段取り。そんな中、とうとう定子は自失したか・・・役人の刀を奪い、発作的に髪を切った。
自らの手で社会的に自死したような落飾。あれだけ兄に面罵されても、ポーカーフェイスをほぼ貫いたほどの定子が・・・ガラガラと中関白家の足元が崩れ、家族が転落していく取り返しのつかない状況を目の当たりにしたからか。
まひろとのコント姿ながら、推しの落飾を目撃した清少納言の心は砕けたろう。予告の「春はあけぼの」で、こちらの心もズギューンと撃ち抜かれた。こんなに悲しい「春はあけぼの」であったのか・・・高校時代の私に言い聞かせてやりたい。
まひろに真実を問い質した為時
ようやっと、主人公まひろについて書く。今回はドラマ的フィクションとはいえ見逃せない展開があったのに、表の史実絡みの話題がドラマチック過ぎてこんなに後回しになってしまった。
前回の従五位下への昇進によって予想されていた通り、まひろパパ為時の国司任官が決まった。下国とはいえ特別な島・淡路の守だ。真面目なパパは素直に喜んでいる。
しかし、まひろは淡路では父の能力がもったいないと納得できなかった。詮子のように、頭をひねってこっそり手を回し、なんと、為時が書いたとされる漢詩をまひろが代筆、父にも知らせず朝廷に申文を提出したのだ。(ヒントをくれたのは宣孝。わちゃわちゃと仲良さげに2人が話す様子を、為時は寝たふりして見てなかった?宣孝のまひろへの悩まし気な熱い視線も既にヤバかった。)
苦手な漢文による申文が山ほど来て、うんざりしながらも行成に任せず自分で読み切ったことで、まひろの手蹟(「あさきゆめみし」ファン的には「て」と読みたい)だと気づいたのが右大臣道長。昔、まひろにもらった漢詩のラブレターがこんなところで役に立つとは・・・「為」の字がそのまま。照合した手紙を文箱に無造作にぶち込んだので、勘の良い探偵倫子様との間に一波乱生みそうだ。
それにしても、年月を経ても筆跡の変わらないまひろであることよ。今作のために、高校時代の古文の資料を引っ張り出して読んでいると、自分の幼い筆跡での書きこみが度々見つかる。それが懐かしい気にもなっていたが、十代にして手蹟が完成されていたまひろ、流石だ。
申文に示された漢籍の教養が、越前に多く来日した宋人への対処能力アリと右大臣も帝も判断して為時の淡路守から越前守への交代につながった訳だが、つまり、まひろー、あなたそれだけの傑出した能力があるってことなんだよ。当たり前か、紫式部なんだもの。
まひろの能力の凄さを視聴者にさりげなく刷り込んだところで、その時がとうとう来た。淡路守任官の時は神仏のご加護のお陰と言いながらまひろの顔色を窺っていた為時パパとしても、自分のホップステップジャンプの理由を確認したくなるだろう。その気持ちはよく分かる。
まひろ:(朝廷の使者が帰り、父為時に)おめでとうございます。惟規にも使いを出します。
為時:まひろ、そこに座れ。(ふたりとも使者を迎える正装のまま、部屋で向かい合う)
まひろ:何でございましょう。
為時:淡路守でももったいないお沙汰であったのに、何もしないうちになぜか突然越前守に国替えされた。これは、どういうことじゃ。
まひろ:博学である父上のことが帝のお耳に入ったのだと思います。
為時:誰が帝に伝えてくださったのだ。(まひろ、答えられない)右大臣道長様であろう。(まひろ、押し黙ったまま)従五位下の叙爵も、淡路守の任官も、越前守への国替えも全て、道長様のお計らいだ。そしてそれは、道長様のお前への・・・思い、としか考えられぬ。(まひろ、目を伏せ黙りこくっている)
父は、もうお前の生き方をとやかくは申さぬ。道長様とお前のことは、わしのような堅物には計り知れぬことなのであろう。そこに踏み込むこともせぬ。ただ・・・(まひろ、父を見る)何も知らずに越前に赴くことは出来ぬ。(穏やかにだが真剣に)まことのことを、聞かせてくれぬか。
まひろ:(檜扇を置き、居住まいを正す)道長様は、私がかつて恋い焦がれた殿御にございました。都にいては身分を超えられない、2人で遠くの国に逃げていこうと語り合ったこともございました。(目を伏せ、物思う為時)されど、全て遠い昔に終わったことにございます。越前は父上のお力を活かす最高の国。胸を張って赴かれませ。私もお供いたします。
為時:(涙をにじませ、うなずく。ほほ笑むまひろ)
まひろの辛い恋を、為時パパも知った。娘が20代半ばを超え、婿も取れず片付かないのは自分の官職が無いせいだと諦めていた節もあるだろう。その娘の七光りのお陰でとんとん拍子の出世の様相を呈していたら、確認したくもなるだろう。
おそらく、娘の恋は終わっていないだろうとも察したろう。恋人同士の内的要因で終わったならともかく、外的要因で終わらされた恋は、その実終わらないものだ。それを辿るつらい人生を娘が歩んでいることを理解しただろう。努めて明るく振る舞う娘に、涙も流したくなる。
あんなに反目していた父娘だったのに、いつからかこんなにも・・・為時が娘を信頼して口出しせず、じっと我慢を重ねたおかげだ。世のお父さんたちの鑑だ。
次回は、定子と清少納言の悲劇を思い、ハンカチを用意して臨もうと思う。予告で、まひろは道長と「いつの日も」と言い交わし、抱擁していた。終わらない恋を内包した2人、ということは?やっぱり彼女が産む娘は???それを受け止める宣孝か?
その前に、朝ドラ「スカーレット」で多くの視聴者を「八郎沼」に引きずり込んだ松下洸平が登場だ。吉高由里子とのドラマ「最愛」さえ数話しか見なかったのに何だけど、何もない訳がない。
(敬称略)