黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

「カムカム」欲張りな大団円、ひなたの道は続く

安子とるい、待望の再会は実現した

 先週金曜日でNHK朝ドラ「カムカムエヴリバディ」が第112回で最終回を迎え、今週は新たに「ちむどんどん」がスタートしている。主人公並みに小さい頃は食べもののことばかり考えていた私は沖縄の美味しそうな物の数々にさっそく目が奪われているが、前作「カムカム」を振り返っておこうと思う。

 いや~、最後の最後まで、引っ張られましたね・・・ラスト1日前の木曜日、111回でようやく、カムカム視聴者の全員が期待していただろう初代ヒロイン・安子(アニー)と2代目ヒロイン「るい」の再会が実現した。焦らされたけれど、ホッとした。

 その前の、火曜日の109回での深津絵里演じる「るい」の表情が殊に見事だった。

 ラジオで突然自らの過去を日本語で告白し始めたアニー。そこでアニーは母の安子だったと確定したわけだが、

  • ひなたが聞くラジオを、るいが何気なく聞き始めて➡
  • 「娘の顔に傷をつけるまでは」とのアニーの言葉に完全に耳をそばだて➡
  • 「るい」と、アニーに自分の名前を呼ばれた時の、一瞬ゾクッとしたような魂をつかまれたような顔。

 この一連の表現が素晴らしくて、「るい」の驚愕をこちらも息を飲んで見守った。

 並びに映る錠一郎(オダギリジョー)の無言の目の演技も、ラジオから流れる話とそれに伴って現れてくる「るい」の異変を悟っていく様子がありありと分かるもので出色だった。このふたりのワンシーンを見られただけで、あとはどうでもよくなるほど良かった。ラジオを聴くという設定ならばこその、素晴らしいシーンだったと思う。

 このシーンがあってから、111回の「るい」の熱唱中にコンサート会場に入ってきたアニー=安子との涙の抱擁。これで感動のダメ押し。みなさんハンカチのご用意はされてましたよね? 私もです。

 「るい」深津絵里の歌は、ボイトレの成果か、以前ジョーと口ずさんでいた頃よりも格段に深みが増していたし、「On the Sunny Side of the Street」の歌詞にぴったり合ったような彼女の心情を思うと泣けた。

 歌のタイミングもバッチリ。アニーが会場にきたと分かって一瞬途切れ、自分を取り戻して再び力強く歌い始めた部分の歌詞が、昔は憂鬱なことばっかりで日陰の道を歩いていた「るい」も、もう怖くないんだな・・・とシンクロして思わせた。彼女の心情を、安子もちゃんとキャッチしたはずだ。

 そうそう、そのシーンの直前に、トミーの仕込みで、ジョーの昔のトランペットの音源がサプライズで会場に流れ、そのトランペットの音とのセッションになったのも良かった。欲張りだなあ。

 ジョーのもう聞けなくなってしまった演奏は、とても感動的なプレゼント。もっとたっぷり描いてくれてもいいのに、すぐにアニーが入って来る場面が控えていたからか、つれないくらいに短く終わってしまったのは残念だった。

 ふたりの抱擁の後、過去のわだかまりや謎を解くさらなる親子の会話を期待していたので「クリスマスの夜に溶けていきました」とのナレーションは「えええ!ちょっと待って!」と、大いに肩透かしだったが・・・そこらへんのいきさつは、ここで語ってしまってはもったいない、スピンオフに取っておこう、今は想像してねということかなと理解した。

 ということで、安子のアメリカ生活、そしてアニーヒラカワ爆誕のスピンオフをお待ちしておりますよ、NHKさん。コロナが収束してからでいいので、何とか実現してくださいませ。

必要だったの?追っかけっこ

 本音を言えば・・・朝ドラなのに、終盤はただただ散りばめられた伏線回収を急ぐゲームのように見えた。もう少し早くに離れ離れになった親子2人を再会させてほしかった。

 それで、会えそうだと思ったら110回の、あんな不自然な追っかけっこ(80歳近い設定のアスリートでもない女性が、あんなに走ったら死んでしまう!と心配になる)が登場。そんなことで時間を費やさなくても!

 ドラマはとかく子どもやヒロインを走らせたがるけれど、「ちむどんどん」の子どもたちが走っていたのはともかく、安子では設定年齢を考えたら無理がある。制作側は気づかなかったのか。

 おんぶもそう。ひなたが安子を背負って商店街を歩くなんて、ウソでしょ・・・追っかけっこもおんぶも、そこだけが女性の体力を変に無視したコメディだったのだろうか。桃太郎がおんぶするなら分かるけど・・・ひなた、素直に桃太郎を呼びましょう! 

 こちらに便利な年表を見つけた。時代があちこち前後するので、年表(「カムカム」完結版ヒロイン3世代年表、ヒロインと同い年有名人リスト、100年家系図 - ドラマ写真ニュース : 日刊スポーツ (nikkansports.com))を確認しながらでないと迷子になってしまう。設定では、この再会は2003年のクリスマス。安子は78歳、るいは59歳、ちなみに3代目ヒロイン「ひなた」は38歳だった。

 アスリートでも無ければ、78歳と38歳の女のおっかけっこは秒で終わる。というか、まず走らないだろう。

 安子と「るい」は、年表によると半世紀以上もの別離があった。1951年に安子は渡米し、再会は2003年。一旦拗れ、長期間離れていた親子には相当な行き違いはあって当たり前。簡単に一夜で解けるとは、朝ドラならではのファンタジーだった。

伏線に次ぐ伏線、最大の伏線は

 「カムカム」が始まった当初のブログで「登場人物が記号のよう」「パズルのように見えてしまう」などと書いたのだったが、今作でパズルのネタとして取り上げていたのは、ラジオ英語講座、ジャズ、時代劇、朝ドラ、野球、桃太郎伝説@岡山と盛りだくさんだった。三題咄どころではない。

 それだけ詰め込みながらもやり切ったのは「すごーい」と思う。最終回での種明かしが駆け足になるのも、仕込みに仕込んだ証かな。私もあと数回見ないと、ちゃんと把握できない気がする。

 最終回を見て「そうだったのか」と気づいたのは、ナレーションが城田優だった理由だ。ナレーターは、ウィリアム・ロレンス=つまりビリーだったのだ。彼はずっと「ひなたのサニーサイドイングリッシュ」のパートナーとして、「ひなた」の書いたテキストを私たちに向けて読んでいたのだった。それが今作全体の仕掛けになっていた。

 途中で「ひなた」がナレーションを英語で入れていたことがあったのも、そういうことだったかと合点がいった。

 (ラジオの英語講座が消えてしまったけれど、どうなるんだろう)と気を揉んだ時期もあったけれど、ところがどっこい、物語自体が英語講座の中で進行していたのだから、これはやられた。最大の伏線と言っていいだろう。

 前回ブログで城田優の役割はジョージに取って代わられて、もう消えたのかもしれないと心配したのだったが、ジョージにはフェイントをかまされた。

 小学生だった「ひなた」が、あれだけビリーとのデートを妄想して練習したのにいざとなったら言えなかったフレーズ「Why don't you come over to my place?  Let's enjoy Kaitenyaki together!」をも当のビリーに言うことができ、「Why not!」と答えてもらうという逆転ホームランのような終わり方。店に着いたとき、ビリーは過去とのつながりに驚いただろうな。目に浮かぶようだ。

 ビリー、あのキーホルダーをまだ持っているなんて物持ちが良すぎる。「ひなた」は60歳のはず、年表では「ひなた」は11歳でビリーに出会っている。えええ! ビリー、半世紀も持っていたのか。壊れなかったのか。

 ビリーも「偶然」独身でいるのかな・・・なんかちょっと怖い。半世紀を超越した初恋への夢が、執念深過ぎる。

安子と勇ちゃんの再婚を心配した

 最終回の前日だったか、誰かと誰かが結婚するらしいとネットで見た。正解はモモケンとすみれさんだった訳だが、「勇ちゃんと安子だったらどうしよう、嫌だな」と秘かに考えていた。

 雪衣さんもロバートも、それぞれ亡くなっていれば2人とも独身。そのお膳立てがあると、ふたりの再婚への下準備完了かと身構えてしまう。以前、安子もロバートも若くして配偶者を失くしていて、再婚フラグはすぐに立ったから。

 ヒロイン安子の3度目の結婚は無いかとは思ったけれど、杞憂で良かった。

 それから、ひなたの弟・桃太郎は甲子園に出場し勇ちゃんの夢を叶えた形になったそうで、それもあれよという駆け足ナレーションで紹介されて終わった。一瞬で通り過ぎたので、咀嚼する間もなかった。やっぱり欲張りだ。

 後でNHK+を改めてチェックして理解したが、ドラマは岡山県が舞台なだけに、岡山名物桃太郎伝説の必須メンバーをきちんと揃えていた。犬・猿・雉のことだ。(黍団子の黍様もモモケンのヒット作として出てきていたのはもちろんのこと。)

 安子の無二の親友に豆腐屋のきぬちゃんがいたが、きぬちゃんの孫が桃太郎のひとめぼれでお嫁さんになり、できた息子が剣(ケン=犬)。確か、桃太郎はモモケンにあやかるなら「剣太郎が良かった」と自分の名前にクレームをつけていたっけ。

 桃太郎は母校の野球部で指導者になり、雉(キジ)真繊維のユニフォームを着て、京都に移住した野球好きのジョージ(Curious George=おさるのジョージ、NHKのEテレで放送されているアニメだとか)もコーチになり、甲子園出場を果たしたのだそうな。

 ちょっとこじつけが過ぎるが、おさるのジョージのぬいぐるみまで出演していたそうだ。細かすぎる。

消えたジョージはどこへ

 さて、人間の方のジョージだが・・・あの安子と「るい」の感動の再会の日、一体どこに消えてしまったのかがとても気になった。

 前日、ジョージは「ひなた」にもらったクリスマスコンサートのチケットを見せてアニーに「岡山に行こうよ」と誘っていたぐらいだから、岡山に同行する気持ちはあったはず。

 しかし、コンサート当日、ジョージはアニーと空港に姿を見せたのが最後。アニーを置いてひとりで帰国したのだろうか。

 アニーのアシスタントの役割を担うジョージが、なぜアニーに同行しなかったのだろう。アニーが「私、やっぱり岡山に行く」といえば、喜んできただろう。解せない。

 アニーを追いかける際、「ひなた」はジョージの携帯番号を調べてほしいと上司の榊原氏に頼んでいた。その後は描かれていなかったが、ひなたとジョージは連絡が取れなかったのだろうか。

 なぜ、アニーがジョージ抜きで突然岡山のコンサート会場前に姿を現すことになったのか、考えてみるとかなり不思議なのだ。

 直前のラジオでの涙の告白があっただけに、ジョージは空港に向かうアニーおばさんを心配していたはず。自分からは離れないはずだ。

 アニーは、コンサート会場に来た時にはスーツケースを持っていなかった。もし、スーツケースを預けられたジョージがどこかで待機していたのなら、夜になってもコンサート会場に姿を現さないのもおかしい気がする。

 そう考えると、アニーはジョージを撒いたのか? 彼にきちんと説明して空港を出たというよりも、出国前に消えちゃったのだろうか。

 「私ちょっとトイレに行ってくるから、先に行っていてちょうだい」「了解、先に行っているね」・・・待てども待てども来ないアニーおばさん、フライトの時間は迫るし、わー困った!となって、結局、空港でのすったもんだの挙句ひとり帰国したのか?

 もしそうだったら気の毒。ジョージがふたり分のスーツケースを持って空港で右往左往するスリリングな時間を、スピンオフにしたら面白いかも。

 スピンオフなら、いろんな切り口で作れそうだ。桃太郎の雉真家での岡山暮らしも見てみたかった。母が育った家での暮らしは、若かった頃の母の面影が折々に垣間見えることだろう。当然ながら勇ちゃんと雪衣さんが登場し、勇ちゃんの息子の昇一家との関わり合いも出てくる。

 また、ジョーの音楽への復帰も、もうちょっと描いてほしかった。ピアニストになるための特訓場面も無いのは寂しかった。いつの間にか売れっ子ジャズピアニストになってしまっていたので。

 ヒロインたちの描かれなかった期間も、もっと知りたいところだ。スピンオフにできる話はいくらでもありそう。「ひなた」は割とドラマで語られてきているように思うけれど、安子、「るい」は抜けている時間が相当ある。

 安子と別れてからの「るい」の、雉真家での暮らし、学校生活。バイトもしていたと言っていたし、幼少期でも、高校生になってからでも、どちらでも話は作れそうだ。

 また、前述のように、何と言っても安子=アニーのアメリカでのロバートとの暮らし、大学生活、ハリウッドでキャスティングディレクターの仕事を得るまでが見たい。

 人種差別を考えても苦労は絶対にあったはずなので関心がある。これは、コロナが収束しないとアメリカでの撮影がムリだろうけれど、数年後でもいいからスピンオフとして見たいものだ。

ドラマの2025年の世界は

 ドラマでは2025年までの世の中が描かれたが、2025年に第三次世界大戦は始まっておらず、核兵器が日本に落とされていることもなかった。

 初代ヒロイン安子は100歳になり、2代目ヒロイン「るい」は81歳、3代目「ひなた」でも60歳。3世代の揃う朝ドラでは、ホントに光陰矢の如しだ。

 100歳の安子は、シアトルにいるらしい。ロッキングチェアで背を見せて座り、表情は窺い知れなかった。「るい」はジョーと思い出のディッパーマウスブルースを切り盛りしている。穏やかな老後、といった体だ。初代と2代目ヒロインの人生は、明らかに終幕を迎えようとしている。

 ただひとり「ひなた」は、初恋のビリーと何かが始まるのか。60歳、何かを始めるには少々ためらいのある年齢ではあるが、輝き過ぎるくらいの「ひなた」の道が、これでもかとさらに欲張りに輝きそうな・・・現実離れした欲張り方に、ちょっと怖くなった。

(敬称略)