黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

【どうする家康】#35 母も弟も恐れる「欲望の怪物」秀吉、家康は太刀打ちできるのか

欲望底無しの秀吉

 NHK大河ドラマ「どうする家康」第35回「欲望の怪物」が9/17に放送された。前回までに家康は、秀吉を認めて自らの天下取りを諦めた。他の人が戦の無い世を実現してくれるのならそれでいい、それを支えようと方向転換した。

 しかし、秀吉の欲望は底無し。天下統一後も海外へ食指を伸ばそうとし、戦を止める考えはない。このドラマでは「海外進出が信長の夢だったから夢を継ぐ」ではなく、「まだあんなにあるじゃん」的な、食べ物は食い尽くさなければ満足しない、自分の欲にどこまでも正直な人物として秀吉を描くようだ。

 ムロツヨシの秀吉は表向きひょうきんでもあり裏には底知れぬ怖さもあり、それを声音でコントロールするアイデアがいいよね。「おんな城主直虎」で商人でありながらも直虎の家臣という難しい役柄を面白く演じていたが、秀吉にキャスティングした人、正に慧眼。偉いなー。ぴったりだ。

 裏表ない信長という、この上ない上司を見つけ尽くすことで己を伸ばした秀吉が、小泉孝太郎という人の善い権力者の息子を友人として世に頭角を現してきたご本人と印象が重なる・・・と言ったら失礼かな。それも才覚だと思う。

 別に小泉孝太郎が養分を吸い尽くされた訳でもない。綾瀬はるか主演の「八重の桜」だったと思うが、彼の徳川慶喜は良かったよね。人が善いからこそ、ああいうピリッとしたヒールもできるんじゃないか。念のために書いておくとね。

 「麒麟がくる」では、染谷信長が天真爛漫で無垢なサイコパスと描かれて、佐々木秀吉はただただ計算高い人物のようだった。今作の岡田信長は、天下一統してからが難しいんだと家康に悩みを打ち明けるぐらいで、もしかしたら、信長は海外進出になんぞ関心が無かったりして。今作では、信長が意外にも常識人で、欲望果てしないサイコパスは秀吉なんだぞと描くのかな。

 まわりにとって「怖い人物」って自分の欲に正直な御人だ。赤ちゃんには誰も勝てない。権力者が己の欲に従い自制を忘れ、まわりを食い物にするのを頓着しなくなると怖いんだよな。ジャニーみたいな怪物になる。

 勝手な期待を裏切られた家康の「豊臣大名」としての苦難の日々スタート・・・という訳だが、あのまま戦い続ければ徳川滅亡は不可避だったのだから、石川数正や家康の選択ミスでは全くない。

 前にも書いた気がするが、家康は、結局時機を待つしかなかったのだよね。モンスターにはやっと狸に成りかけの殿では太刀打ちできない。それは数正の言う通りだった。だから、秀吉の死を待つしかないのだ。

 さて、公式サイトから第35回のあらすじを引用しておく。

秀吉(ムロツヨシ)は母・仲(高畑淳子)を、家康(松本潤)の上洛と引き換えに人質として岡崎へ送る。秀吉は家康を歓待する中、妻の寧々(和久井映見)や弟の秀長(佐藤隆太)を紹介し、諸大名の前で一芝居打ってくれと頼み込む。大坂を発つ前夜、秀吉から北条・真田の手綱を握る役目を任された家康は、一人の男と出会い興味を持つ。それは豊臣一の切れ者と名高い石田三成(中村七之助)だった。(これまでのあらすじ | 大河ドラマ「どうする家康」 - NHK

秀吉の母・仲、そうきたか

 高畑淳子の無駄遣いではなかった。大河ドラマでは色々な「秀吉の母・なか」がこれまで描かれてきたが、そうきたか。振り回され、恐れおののく母。息子が欲望お化けじゃ、そりゃ怖い。(でも、今後それだけで終わるのかな、高畑淳子だし。)

 今回、井伊直政が本多作左衛門の有名エピソードである、仲と旭の寝所の周りに薪を積み上げ「殿に何かあったらいつでも火を点けてやる」との脅しを代わってやっていた。オープニングアニメも薪だったし。

 その直政の美貌を褒め、母・奥山ひよ(前年死亡)の話をするうちに、水を向けられた仲が、自分は幸せかと話し出した。

仲:わしは幸せなんかのう・・・。外を出歩くことも許されん。大きな城の隅っこにちいせえ畑あてがってまって、要らん菜っ葉や大根なんぞこさえて、こんな時だけ人質に差し出される。これが幸せなんかのう・・・。

 また、帰国するにあたっての仲の言葉。息子の本質をぼんやりとはつかんでいて、かなり恐れている。ただならぬ感じがする。

大久保忠世:では、参りましょうか。

仲:きゃありたないのう・・・。

忠世:何を仰せです。関白様がお帰りをお待ちでございますぞ。

仲:関白って誰じゃ。

忠世:アハハハ・・・大政所様ご自慢の御子息、秀吉様でございます。

仲:ありゃ、わしの息子なんかのう?わしゃ、あれのことをな~んも知らん。わしゃただの貧しい百姓でず~ッと働きづめで、あれにゃあ躾のひとつもしとらん。十やそこらで家を出てってまってな、何年かしてひょ~っこりきゃあってきたら、織田様の足軽大将になっとった。それからは、あ~っちゅう間に出世して、今は天下人。関白じゃと。ありゃあ何もんじゃ?わしゃ、何を生んだんじゃ?とんでもねえバケモンを生んでまったみたいで、おっかねえ・・・誰かが力づくで首根っこを押さえたらんと、えれえことになるんだないかのう。そう徳川殿にお伝えしてちょう!

 ある意味、凄い置き土産を残していったものだ。これを聞かされた家康家臣団は何を思うか。そして家康は。背筋が寒くなる。

 秀吉の母は、私の中ではイコール「秀吉」の市原悦子演じる「なか」だ。息子のためなら一肌脱いで、どこまでも尽くすタイプ。それで言ったら、最近の再放送「篤姫」で大久保利通の母フク(演・真野響子)が、鬼になると言う息子に対して「私も鬼の母になるだけのこと」と静かに受け止めたのと共通する。

 そんな市原悦子の「なか」も傲慢になる秀吉を非難するようになるが、頭の良い、肝の座った百姓女だった。その点では、最初から最後まで愁眉を開くことなく、嫁のねねと共に苦悩し、息子秀吉に説教しつづけた「おんな太閤記」の赤木春恵も賢い母だった。母の立場から逃げなかった。

 今作の、家康の母・於大の方も逃げていない。前34回「豊臣の花嫁」で、豊臣から送り付けられた女人ふたりを慮る於愛の方を援護する形で家康と言い合った。

於大:人を思いやれるところがそなたの取り柄と思うておったがのう。

家康:思いやりなんぞで国を守れるものか。これは、わしと秀吉の駆け引きじゃ。

於大:おなごは男の駆け引きの道具ではない!

家康:母上らしくない物言いですな。ご自身こそ、散々そのような目に。

於大:だからこそ、せめて、蔑ろにされる者を思いやれる心だけは失うなと申しておる。

 このように、殿である息子に対しても毅然と言ったのが於大だった。

 人が人に対して物を言うのは、まだ期待があるから。期待しない人には何も言わず、離れるだけだ。なら離れればいいじゃないかと簡単に言えないのが天下人の家族だ。

 今の仲の場合、息子が天下人になって、逃げようもなく支配下に置かれ、恐れるしかできないのかな。悲惨。いつか、母として逃げずに立ち向かうのかもしれないが。

秀長も逃げられず

 仲は、秀吉を恐れて秀長の大和郡山にもよく行っていたとの話も聞くけれど、秀吉の首根っこを押さえようとまさに苦労したのが秀長。有名な話だが、その苦労が彼の命を縮めたのだろう。

 今作でも、「良い身内をお持ちで」と、寝たふりをする秀吉に家康が言及したのが寧々と秀長だった。

 秀長は、近くでつぶさに兄を見ている。今作の寧々にはまだ秀吉との視点の近さが見られ、オッと思ったが(例えば、震災後の「もはや戦どころではないわ。民を救うのが先でごぜえますじょ。速やかに立て直さねば我らの足元が崩れてまう」「わかっとるわ」の夫婦の会話)、秀長は今のところ常識人らしき振舞いをしており、微妙に狂った兄に仕えることに苦労しているように見える。

 そして、兄はどんどん狂っていくのだ。

秀吉:戦無き世か・・・家康。戦が無くなったら武士どもをどうやって食わしていく。民もじゃ。民もまっとまっと豊かにしてやらにゃいかん。日の本を一統したとてこの世から戦が無くなることは・・・ねえ。切り取る国は日の本の外にまだまだあるがや。(世界地図を見る目が獣化)

秀長:(怯みつつも)まあまあ兄様。今は天下一統でござる。先々のことはおいおい。(無言でにらみつける秀吉、身動きできない秀長)

 怖いだろうな。仲同様、こちらも逃げられない秀長は、心配を沢山抱えて死んでいったのだろう(ドラマではまだだけど)。歴代大河の秀長は、中村雅俊・高嶋政伸あたりの印象が強いが、今作の佐藤隆太も加えて、根が真面目そうな俳優陣が演じてきた。それで尚更悲劇的に見えるのだろう。

家康、狸の力試しはどう転ぶ

 方向転換をして、秀吉を操縦することで「戦の無い世」を作る夢を胸に上洛した家康だが、気づけば数え45歳。昔の人は年齢を3割増しで考えると今の人の感覚でぴったりだと聞いたことがあるので計算してみると、58.5歳だった。なるほど。

 定番だった「どうしたらええんじゃ~」も封印されて久しい気がする。が、これぐらいの落ち着きをもう少し前に出してくれていたら、とは思う。正直、神君家康公だというのに、感情的過ぎて見づらかった。こんなに子どもっぽい人が、狸などと呼ばれる訳がない。

 前回など、織田信雄とのやりとりでは信雄の方がよほど狸だった(ビジュアル的にも)。自分が家康に何をしたかはすっかり棚の上で「そなたにとっては天の助けじゃ、関白は正に兵を差し向ける寸前であった。そなたは命拾いしたんじゃ、今しかない、上洛なされ」と家康にこんこんと諭す感じ。狸よの~。対する家康は感情も露わ、忠次に止められる有様で全く狸じゃなかった。

 今回、狸の力試しにはちょうど良かった真田昌幸と対峙する場面。佐藤浩市の怒りの目力が威圧的で、いやもう凄かった。対する家康は、その怒りの挑発を「言葉は人並みに分かる」と、いなしながらも、結局、沼田の替え地プラス養女を信幸の嫁に与える方向に持って行かれた。

 真田の思う壺の展開であり、家康もイライラしたか。でもそのイライラを先に表に出していたのは重臣の方で(たぶん大久保忠世がダンっと足を強めに踏んで合図を送り、刀を構えた家臣たちが陰から出現して真田親子を威嚇)、敵地でのこのプレッシャーに耐える真田親子の胆力をとにかく褒めるしかないだろう。

 そうそう、浜松城を離れるにあたり、城下に餅を配りに行った時、昔の三方ヶ原合戦における誹謗中傷を広めた柴田理恵の婆さんらに「あの頃のわしが無様だったのは確かだから、もっと言っちゃって~」的に笑って許したのは、なぜそこまでと考えさせられた。「許してあげるから、もう言わないでね。訂正してね」じゃないのだ。

 これは現代に引っ張ってきて参考にしてはいけない部分なんだろうな。誹謗中傷はいけない事だ、なぜなら言われた方の傷つきは大きい。

 あの頃はデジタルタトゥーの心配もいらないし(とはいえ、現代までこんなに残っているがw)、殿様にそんなことをしたとバレたら即打ち首なんだろう。だから思い切り許してあげなければいけなかったのではないかな。良かった、狸の階段を1つ上れて。

 そして、この餅配りも於愛との楽しかった思い出の1つになるんだろう😢今回もスカーンと殿のお尻を叩き「近見が進んで」と平謝りしていた於愛。これって伏線になりそうで怖いな・・・。 

今週の正信

 もはや、いてくれるとホッとするのが本多正信。イカサマ師というかこちらこそ正真正銘の狸、何をしてくれるのかとワクワクする。

 まず、しっかり台本が書かれた陣羽織の大芝居を家康が秀吉のために演じた後、家臣控室(?)での鳥居(彦右衛門)元忠・榊原康政・本多正信が揃った場面が面白かった。なぜ直政と自分がお供を交代になったのかと元忠が問う場面だ。

 どうして正信は、食べ物のありかを瞬時に嗅ぎつけることができるのだろう。ここでのミッションは2つ。怪しまれずに彦右衛門から食べ物を奪い取ること、そして彦右衛門の疑問に対して彼を傷つけないように快い嘘をついてあげることだ。これを並行してやり遂げる正信の能力の高さ。康政が横で黙って見届けているのも面白い。

 次に、星談義を楽しむ家康と石田三成の横で、アレコレ話す家臣たち。「(星は)みんな並んでおる」と投げやりなのが正信だろう。腹の足しにならないものには興味が無いのか。

 そして、真田昌幸・信幸親子との緊張の対面場面。「さ~な~だ~ど~の」と間延びした呼びかけで、徳川の与力の立場だから徳川の言うことを聞かなきゃならんことは知っているかと問い、秀吉の命令であることも指摘する。が、昌幸が「で~き~ま~せ~ぬ」と、あれこれ言い逃れた。

 正信の問いかけは真田昌幸相手に不発に終わったが善戦。何といっても表裏比興の者だもの。のんびりした徳川家中の人たちを相手にしていたら、正信も腕がなまるというもの。今後に期待したい。

「真田丸」の気分でいると・・・

 ところで、真田昌幸が家康よりも4歳下であるという事実に気づき、世の中がざわついている。本多正信よりも9歳下なんだとか。あらら・・・やっぱり佐藤浩市が大御所過ぎて、あの場で一番偉く見えちゃうから、はっきり言ってそぐわない。

 高校生でも凄く老けている子はいるけどね。そういったタイプと思えばいいのか・・・無理でしょ、舞台じゃないのだから。映像作品だと難しいよね。あの山田裕貴(33歳になったばかり)が演じる本多忠勝のキラキラした若さと並んで、息子と娘の親同士ですと佐藤浩市が言えるのだろうか・・・。次回はその信幸の嫁取りの話になるのだろう。

 前述の真田親子と対決では、家康が「沼田の件ではこちらにも落ち度があった」と替え地を与えると言うものの、「ありていに言えば、徳川を信用できない」と頑張る昌幸が、信幸に家康の娘(重臣の娘の養女でも可)を嫁に欲しいと望む流れだった。

 えええ~信幸にはれっきとした妻がいるのに!しかも、真田本家の娘(昌幸の兄・信綱の娘・清音院殿)を妻にしている。そうじゃ無かったら、庶子で他家を継いでいた昌幸が、真田家の家督を継ぐ理が薄れてしまう。真田からあんな話を持ち出したのは大いに疑問だ。

 むしろ徳川側から言い出した懐柔策だったのではないのか。人質として嫡男信幸を駿府に置かせ、その間に、徳川の娘を娶せて嫡男を取り込む。これこそ狸にふさわしい策だと思うが。

 「真田丸」の大ファンなので、この信幸の最初の正妻(「真田丸」では「こう」)の話になると、病弱でしゃもじを取り落していた彼女(長野里美)が浮かぶ。宴会では、ピンチで夫に頼まれ、場持たせのために「雁金踊り」を突然ヨロヨロと舞い、その場にいた全員、視聴者をも心配させたのだった。秀逸だった。

 その彼女は、正妻の座から降りて稲姫に仕える立場になったら俄然元気に。面白かったなー。

 「どうする家康」では「こう」の立場の最初の妻は出てくるのだろうか。出てきたら面白い。

(敬称略)