黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

【どうする家康】#39 徳川の大番頭・酒井忠次にお別れ、秀吉最期はホラー

秀頼誕生から秀吉の死へ、話が一気に進んだ

 NHK大河ドラマ「どうする家康」第39回「太閤、くたばる」が先週10/15に放送された。早速あらすじを公式サイトから引用しておこう。

茶々(北川景子)に拾(ひろい、後の秀頼)が生まれた。家康(松本潤)の説得により、明との和睦を決めた秀吉(ムロツヨシ)。しかし、石田三成(中村七之助)たちが結んだ和議が嘘とわかると、朝鮮へ兵を差し向けると宣言、秀吉の暴走が再び始まった。都が重い空気に包まれる中、家康は息子の秀忠(森崎ウィン)を連れて、京に隠居していた忠次(大森南朋)を訪ねた。忠次から最後の願いを託され悩む家康に、秀吉が倒れたとの知らせが届く。(これまでのあらすじ | 大河ドラマ「どうする家康」 - NHK

 今回を入れて残り10回。道理で進行にものすごく巻きが入った。前回終わりで懐妊を告げられた将来の秀頼は、今回頭でご誕生。終わりで秀吉が死んだので、今回だけで1593年から1598年まで突っ走ったことになる。

 主人公家康は、ようやく50歳超えかとうかうかしていたら一気に数え57歳へ。急に老けた神君だ。

 このドラマでは、そういえば千利休も出てこなかったし(たぶん)、秀次事件も家康のセリフ以外では取り上げない。茶々の妹である江が家康の嫡子秀忠に嫁いでいるのだし、あれやこれやが茶々3姉妹絡みであったのではないかと妄想が膨らむポイントだったが、それも無い。成長した初はどこだ?大坂の陣の講和交渉まで出てこないのか。

 色々あったはずなのにね、すごく大胆な割愛だ。

 そして秀忠と江夫妻にはいきなり千姫が生まれ、家康は、死に目の秀吉に、幼い彼女を秀頼と娶せるように言われ、承諾した。

 物語はホップステップジャンプ、バッタバッタとドラマの主要人物たちもこの世を去っていった。今回花道を飾った酒井忠次と双璧を成した石川数正、そして大久保忠世、服部半蔵。この3人はそれなりに見せ場の回があったが、死んだことなどは触れないのだね。天下を語る殿にとっては枝葉末節か。

 数正は名護屋で家康家中に会っていたのではないのか、死ぬ前に殿との邂逅の場面でも、と期待したがそれも無かった。井伊直政が「裏切り者」数正との同席を嫌がったという逸話は、いつの話なのか。それも無かったが。

 半蔵はまだ50代。どう死を迎えたのか、「どう家」なりの解釈で描いてほしかった気もするが、山田孝之を欲しがり過ぎかな。

 ちょうど良い記事があった。(「どうする家康」秀吉&忠次W退場だけじゃない…他に一気6人も没年 ついに関ヶ原2年後に迫る (msn.com)

 前回第38話「唐入り」(10月8日)のラストは、文禄2年(1593年)5月。史実上、第39話ラストの慶長3年(1598年)までに没年を迎えている今作の主な登場人物は、

 石川数正(松重豊)=文禄2年(1593年)10月(諸説有):劇中最後の登場は第34話「豊臣の花嫁」(9月3日)

 大久保忠世(小手伸也)=文禄3年(1594年):劇中最後の登場は第37話「さらば三河家臣団」(10月1日)

 豊臣秀次(山下真人)=文禄4年(1595年)劇中最後の登場は第38話「唐入り」(10月8日)

 茶屋四郎次郎(中村勘九郎)=慶長元年(1596年):劇中最後の登場は第29話「伊賀を越えろ!」(7月30日)

 酒井忠次(左衛門尉)(大森南朋)=慶長元年(1596年)(劇中と相違)

 服部半蔵(山田孝之)=慶長元年(1596年):劇中最後の登場は第38話「唐入り」(10月8日)

 足利義昭(古田新太)=慶長2年(1597年):劇中最後の登場は第38話「唐入り」(10月8日)

 豊臣秀吉(ムロツヨシ)=慶長3年(1598年)

 ということで、こちらの記事によると、茶屋四郎次郎も足利義昭もこの世を去っていた。義昭は前回のブログでも書いたようにご活躍があったから良いとしても、茶屋四郎次郎(中村勘九郎)はあのまま?ちょっと扱いが冷たい・・・と思ったら、中の人のリアル弟(中村七之助)が交代で石田三成として活躍し始めていた。そういうことかな。

希有な存在、家康のダブル叔母・碓井姫(登与)

 今回の見せ場は、酒井忠次の最期だった。初回を見返したくなるような「頼朝公の生まれ変わり」との同じセリフ。家康が岡崎に帰って久しぶりに対面した時に忠次の口から出た称賛の言葉が、また若き秀忠に対して出てきた。

 於愛に似て顔の彫りが深く明るい秀忠(森崎ウィン。「パリピ孔明」も良かったよ~)は、忠次による「本家」海老すくいを見たくてしょうがない。「願わくば一目だけでも本家本元のアレをと」と所望された忠次も、体調も構わずよっしゃとばかりに立ち上がるのだが、その時に、同時に気合を入れて立ち上がった妻の登与がとても微笑ましかった。

 「恐らくこれが酒井忠次、最後の海老すくいとなりましょう。とくとご覧あれ」と言った忠次は、縁側で登与の拍子で舞い始める。目を患っているのに落ちないか心配したが登与がいるから大丈夫。その後、秀忠に家康、井伊直政も交え、みんなで楽しく海老すくいと相成った。

 初回でも、登与は忠次と喜々として海老すくいを踊っていた。初回を懐かしく思い出させる仕掛けだろう。

 登与(碓井姫)は、家康の叔母。前も書いたが、珍しいことに彼女は家康にとって二重の叔母という希有な存在だ。確か家康の祖父清康が、於大を産んだ後の絶世の美女・華陽院(家康祖母)を妻に迎えて娘をもうけたのが彼女であり、父・広忠の妹であり、母・於大の妹でもある唯一無二の人だ。

 碓井姫は初婚ではないらしいが、それでも彼女を妻としてもらい受けている酒井忠次が、いかに松平の家で掛け替えのない重要人物であったかがわかる。駿府で人質生活を送る幼い主君に代わり、家中をまとめていけたのは、碓井姫を妻にし殿の義理の叔父の立場にあった忠次の他にいないだろう。

 しかも、その知力と武勇と、欠けることのない武将である忠次。正に完璧。彼が下剋上もせずに大番頭として存在してくれたのは奇跡だ。そうか、忠次に万が一にも下剋上をさせないための松平からの重しが、碓井姫だったのかな。

 家康も、忠次のありがたみは十分に身に染みていたようだ。「お主がおらねばとっくに滅びていた」と言っていたぐらいだから。

酒井忠次:唐入りはどうなりましょう?これで片付くとお思いですかな?

家康:(薬を煎じている)かつて信長様が言っておった。

忠次:信長様が?

家康:安寧な世を治めるは、乱世を鎮めるよりはるかに難しいと。

忠次:あ~、まさに。(家康に向かってにじり寄ってくる)

家康:うん?(右肩に両手を掛けられ)何じゃ?(両腕で抱きしめられる)ちょ、おいおい(笑)、やめよ。

忠次:ここまで、よう耐え忍ばれましたな。つらいこと、苦しいこと、よくぞ乗り越えて参られた。

家康:何を申すか。お主がおらねばとっくに滅んでおるわ

忠次:それは違いますぞ。殿が数多の困難を辛抱強くこらえたから、我ら徳川は生き延びられたのです。殿、ひとつだけ願いを言い残してようございますか。

家康:何じゃ。

忠次:天下をお取りなされ。秀吉を見限って、殿がおやりなされ

家康:天下人など、嫌われるばかりじゃ。

 ここで時は3カ月後に飛んでしまう。まだふたりの会話は続いていたのに・・・この脚本家の得意な手法だ。こんな大事な場面でお預けを食らうのは、やっぱりイラつく。もったいつけるのも大概にしてもらいたいなあ。

 ここで忠次に何を言われたかで、後の家康の心証は確実に変わる。どんな心持ちでその後を行動したのか、改めて録画を見直してみてね、ということなのか。

 そして3カ月後、雪のちらつく中、縁側で甲冑を身に着けるヨボヨボの忠次は「殿から出陣の陣振れがあったんじゃ(気のせいだろう)、参らねば」と登与に言い、立ち上がるが庭先で崩れ落ちた。登与は手伝い、ほどけた甲冑をひもで結ぶが、忠次は事切れていた。

 登与はそれと察し、亡くなった夫に向かって両手をつき「ご苦労様でございました」と頭を下げた。後述する秀吉と茶々との姿とは対照的な、徳川の屋台骨を支え合ってきた老夫婦の麗しい姿。書いているだけで涙がこぼれてくる、ベテランふたりによる名場面だった。忠次も数正も、理想的な良い妻を持っていたね。

 先ほどの忠次との会話の続きは、ドラマの最後にワープ、家康の脳内での回想という形でようやく見せてもらえた。

家康:天下人など、嫌われるばかりじゃ。信長にも、秀吉にもできなかったことが、このわしにできようか?

忠次:ハッ(笑う)・・・殿だから、できるのでござる。戦の嫌いな殿だからこそ。嫌われなされ。・・・天下を取りなされ!

家康:(忠次を見つめたまま、一筋の涙をはらはらとこぼす)

 家中の筆頭、大番頭として徳川をずっと見守ってきた忠次は、家康が弱虫泣き虫鼻水垂れであったことを十分承知だ。どう見ても頼りない殿であった。視聴者のこちらもずっこけるくらい。その忠次が「天下を取りなされ」と言ったから、家康の心に響く「天下取り記念日」になったはず。

 思えば、家康に期待される役割は表向きはナンバー2ばかりだったのに、本当は彼こそがトップに立つべきと考えていたのはEU的ユートピアを提唱していた瀬名だった。そこに、実子・信忠の存在をものともせず、愛ゆえに(?)国譲りを持ち掛けた信長もいた。後で書くが、秀吉もその列につながるか。

 徳川の家老双璧だったひとり、石川数正も家康に期待するからこそ、徳川を救うために我が身を捨てて去った。そして残る忠次が、死に際にしっかりと殿に覚悟を促した。

 こうやって、みんなが家康にトップに立て立てと優しく優しく誘導してくれての天下人家康誕生となるのだなあ。ガツガツ家康じゃなく、嫌だけど仕方ないなあ、の家康。神君だから生まれが違うのだな。

 家康が思い描いていた天下人の姿は、多分にそれは前任者らに影響を受けていたようだけれど、それを忠次は違うと笑った。「戦が嫌いだからこそ、出来る」という、忠次に見えていた有りよう。ここぞというところで勝ってきた彼が、出来ると言うのだから出来る、そう家康も信じられただろう。秀吉が死んだ今、瀬名の木彫りの兎を箱から取り出すのも、そろそろだ。

秀吉➡家康の国譲りは完了

 さて。サブタイトルが「太閤、くたばる」だから、それを書かない訳にいかない。今作の秀吉は、ゲスでも頭の切れるサイコパスだと巷間言われている。自分が死んだら豊臣も終わりだと理解していて、次は家康だともわかっている(というか、自分が家康から奪ったと思っている?)という点で、これまであまり見ないタイプの秀吉に思う。

家康:家康にございます。

寧々:おふたりだけに。

秀吉:秀頼を頼む。

家康:弱気になってはいけません。

秀吉:秀頼を・・・。

家康:無論、秀頼さまはお守りいたします。

秀吉:そなたの孫・・・千姫とくっつけてくれ。

家康:仰せの通りに。しかしその前に、殿下にはまだまだやっていただかねばならぬことが。

秀吉:秀頼をな・・・。

家康:殿下。(立ち上がり、近くへ)殿下。この戦をどうなさるおつもりで?世の安寧・・・民の幸せを願うならば最後まで天下人の役目を全うされよ。

秀吉:そんなもん。嘘じゃ。世の安寧など、知ったことか。天下なんぞ、どうでもええ。秀頼が幸せなら、無事に暮らしていけるなら、それでええ。(立ち上がり、家康の方向へ歩いてくる)どんな形でもええ。ひでえことだけは、のう?しねえでやってくれ。のう?頼む。あ・・・(家康に抱きとめられる)

家康:情けない・・・これではただの老人ではないか。

秀吉:ああ・・・天下はどうせ、おめえに取られるんだろう

家康:フフ・・・そんなことはせん。(秀吉を下ろし、背中をトントン)わしは、治部殿らの政を支える。

秀吉:白兎が、狸になったか。知恵出し合って話し合いで進める?そんなもん・・・うまくいくはずがねえ。おめえもよう分かっとろう。(家康を小づく)今の世は、今のこの世は、そんなに甘くねえと。豊臣の天下はわし一代で終わりだわ

家康:だから放り出すのか。唐、朝鮮の怒りを買い、秀次様を死に追いやり、諸国大名の心は離れ、民も怒っておる!こんな滅茶苦茶にして放り出すのか!

秀吉:ああ、そうじゃ。な~んもかんも放り投げて、わしはくたばる。あとはおめえがどうにかせえ。ハハハハハハハハハハハ!(咳き込む)

家康:死なさんぞ、まだ死なさんぞ。秀吉!(秀吉、息を止めているが堪えられなくなり、ハッと息をする。家康、様子を見ていたが)猿芝居が!(バン!と畳を叩く)大嫌いじゃ!

秀吉:・・・わしは、おめえさんが好きだったに。信長様は、ご自身の後を引き継ぐのはおめえさんだったと、そう思ってたと思われるわ。悔しいがな

家康:天下を引き継いだのは、そなたである。(座り直して)まことに見事であった。

秀吉:う~ん・・・すまんのう(頭を下げる)うまくやりなされや

家康:二度と、戦乱の世には戻さぬ。あとは、任せよ。

秀吉:(鈴を鳴らし)お帰りだ。(家康が去り、控えていた寧々が顔を出し、ほほ笑んだ)

 秀吉は、「後は任せよ」と家康が言って安心したようだった。力だけを信じる秀吉には、(三成へのカッコつけの二枚舌が、トラブルの種になるが)実は合議制は限りなく甘く見える策だし、自分が織田家にした仕打ちを考えれば、秀頼が天下人になることは考えられもしなかっただろう。秀頼が今後無事であれと願うのが関の山だった。

 しかし、家康はまさに人たらしのお株を奪う狸に!あれだけ「滅茶苦茶にして放り出すのか」とモンクを言い募っていた舌の根も乾かぬうちに、「見事」と褒めてやるのだから。そして、秀吉➡家康の国譲りは完了した。

この時を待っていた茶々

 物語的に盛り上げようとしているのは分かるのだけれど・・・割って入る役回りなのが茶々。母に誓った「天下を取る」の言葉を実現しようと、ここまで全身全霊で彼女なりに戦ってきたのだ。

 秀吉が倒れた時、茶々以外の全員が慌てて秀吉に駆け寄っているのに、彼女は庭の隅でゆっくりと立ち上がり、青白い炎が立ち上ったような表情からもこの時を待っていた感が溢れ出ていた。そしていよいよ秀吉の臨終の場面でも、苦しむ彼の手から呼び鈴を遠ざけ、一言。

茶々:秀頼はあなたの子だとお思い?(かぶりを振って)秀頼はこの私の子。天下は渡さぬ。後は私に任せよ。猿。

秀吉:(ニヤリと笑って事切れる)

茶々:(顔を見て死を確認、秀吉の亡骸を抱きしめ、泣く)

 秀吉が笑ったのも、おめーさんにはできねえよ、徳川殿も大変なこって、後の顛末は地獄から見せてもらうよ、といったところか。やっぱり女狐の茶番だったか、わかってたよ、という気持ちもあったかな。

 秀吉が死んでいく顔は、あまりにリアルに見えて、血のりも相まってほぼホラーだった。NHK大河でここまでやるのか。昨年の「鎌倉殿の13人」でもワダッチこと和田義盛の死に顔がリアル過ぎて、しばらく夢にも出てきて困ったが、秀吉の死に顔が出てきたらやだなあ。

 その後、和田義盛を演じた横田栄司は体調を崩したとのニュースを見たが、茶々の北川景子は大丈夫か。(本人の考えはともかく)役の滅びに魅入られてしまったかのような竹内結子の気の毒な例もあるし、つくづくメンタル的にタフじゃないとできない禍々しい役が茶々だと思う。

 茶々は、血を吐く秀吉の顔を両手でつかみ、死んだと分かって抱きしめて泣いた。秀吉への愛憎など諸説あると思うが、その時の茶々の主な感情は「母上、とうとう茶々は復讐をやり遂げました」の方だろう。とても素直な泣き顔に見えた。信じられないくらい精神的負担の大きい生き方をしてきて、耐えて耐えて耐え忍んできて得た結果だから、達成感は大きかったと思う。

 今後は茶々が三成らを翻弄して家康と戦っていく路線。茶々の戦いは続く。北川景子には頼りになる夫・DAIGOもいて美味しいご飯を作ってもらえると思うが、心身の健康にはどうぞケアを怠りなく、茶々を演じ切ってほしい。

秀吉の言葉と茶々に翻弄される三成

 秀吉の良い面だけを見せられ、言い残された三成も気の毒な。「天下人は無用と存じまする。豊臣家への忠義と知恵ある者たちが、話し合いを以て政を進めるのが最も良き事かと」と具申したら、秀吉は「わしも同じ考えよ。望みはひとえに世の安寧。民の幸せよ。治部。よい、やってみい」と認められた。

 三成は嬉しかっただろうが、そこは二枚舌、三枚舌の秀吉だ。既に引用したように、家康には異なることを言った。そちらが本心だろう。 

 「天下人を支えつつも、合議によって政を成す」という三成の理想は・・・その試みはこれまでも先人がやり続けて、合議体が形骸化して戦乱に陥るの繰り返しだったのだと思うが、三成亡き後260年も続く完成形が徳川の世で叶うことになる。皮肉だ。

(敬称略)